さて、そんなこんなで翌日。
相も変わらず不機嫌そうな神崎君におどおどしながらも授業を進める女教師の言葉を右から左に流しつつ、俺はあくびを一つ。
昨日ゲームをやりすぎたのかもしれない。
涙目になりながらも前を向くのだが、ふと視線を感じて隣を見る。
「あっ……」
見ると、いつからこちらを見ていたのか隣の席の女子と目が合った。
目が合うと思っていなかったのか、気まずそうに視線を彷徨わせ始めた女子。
確か名前は……佐倉さんだったかな?
「何か用?」
「あっ、その……! 勝手に見ちゃってごめんなさい!!」
授業の妨げにならないよう、小さな声で謝れるのはちゃんと気を遣えて偉いと思う。これが周りを顧みないアホであれば、「そんなことより私と(問題がある発言であるため削除されました)しましょー! てか私がするから動かないでねぇー!」とかになりかねない。てかなる。断言する。
「うんうん、気分がいいもんじゃないから気をつけろよー。俺もうざいって思っちゃうしね」
「あっ……ほ、ほんと、ごめんなさい……」
周りからこそこそと女子の話声が聞こえてくる。
「あーあ」とか「あの娘終わったわ」とか。ほかにも「ライバル減ったラッキー」だったり。まぁそんな声だ。
もちろん、中には彼女を憐れむ心優しい女子もいるけど、大半がこれの時点でお察しというかなんというか。まぁ世界が世界だから仕方ないともいえるか。
なにせ、男子と関わることすら希少なこの世界において、男の相手がいる女性というのはとんでもないステータスとなる。
そういう意味では、この世界は女性にとって競争相手ばかりともいえるのだろう。
もっとも、俺ら男子だって選ぶ権利はある。誰とも結ばれない、というのは法律上できないためいつかは誰かを選ぶ必要があるがね。
「はてさて、それはいつになるのかねぇ」
誰にも聞こえないようにこっそりと呟いた。
教壇では、昨日と同じく機嫌を悪くした神崎君に対して媚びへつらっている担任教師の姿が見える。
でも少なくとも、性格が悪い子は嫌だねぇ。
◇
どうやら、自分が思っている以上に俺の睡魔は強かったようだった。
何度も授業で寝落ちしかけてしまったことには反省反省。何してもいい男子であるとはいえ、最低限のマナーやルールってのは前世含めて数十歳だ。流石にね。
とはいえ、それでも眠いものは眠い。だが、いくら何でも女子が集まる教室の中で居眠りとか無理だし、中庭などの人が集まるところなんてなおさら。
というわけで、やってきたのは屋上である。
え、そこも人が集まるのでは? とお思いのそこのあなた! 安心してください。
俺がいるのは屋上のさらに上、給水タンクの陰である。
物好きが昇ってこない限り、見えることはないだろう。
春ということもあって、寝るには気温もちょうどいい。今後ここは俺にとってのベストプレイスとなるだろう。いいね、昼食もここで食べてもいいかもしれない。
「あ~あ……ねっむ……」
ギィッ、という音で目が覚める。
どうやらいつの間にか眠りについていたようで、目覚めてしまえば睡魔はもうどこかへ行ってしまったらしい。
ゆっくりと体を起こして時間を確認してみると、どうやら昼休みが終わるまでもうそこまで時間がないらしかった。
……まあ、遅れて行っても問題はないから焦らず行こうか。
ルールやマナーが云々というのはどこへやら。
そういえば、さっき誰か屋上へ来たか? と給水タンクの陰からそっと顔をのぞかせてみれば、視線の先には一人の女子がいた。
女子にしては背が高い……だいたい170くらいだろうか? 俺より少しばかり低いくらいの背丈である。
そして染めているのか金髪だ。それも、女子にしてはえらく短い。
説明とか一切皆無だったが、この世界において女性は背が低ければ低いほど、髪が長ければ長いほど女性らしいと言われている。
その逆が男性らしい、ということになる。そのため、ああいった女子って言うのはあんまり見かけないしそもそもそういう風にしようという女子もいない。
身長については生まれ持ったものであるため仕方ないものではあるが、それでも背の高い女性は皆髪を伸ばすものだ。
「……ああ、昨日の王子様か」
なんか見たことあるなぁ……と考えていると、昨日の女子を侍らせていた王子様系の女子のことを思い出した。
道理で見覚えがあるわけだなぁ、と思考を巡らせていると、件の人物は何やら物憂げな様子で溜息を吐いていた。
「はぁ……疲れた……いつまでこんなことしてるんだろう、私……」
誰にも聞かれていないと思っているのか、思いのほか大きな声の独り言を垂れ流す王子様系。
どうやら上にいる俺の存在には気づいてないようだが……こんなギリギリの時間に一人で愚痴をこぼしに来るとは、なかなかストレスをためているらしい。
「でももう一年……男の子みたいに振舞っていた私も悪かったと思ってるけど……いつまでもこのまま……ってわけにはいかないよねぇ。せっかく死ぬ気で勉強して共学校に受かったんだもん……わ、私だって男の子と青春を送りたいんだから……!」
両手で拳を作って意気込む少女は、だんだんと声が大きくなっていることに気付いていないらしい。
面白い子だなぁ、とみていたのだが、今後は先程とは一転して急に落ち込み始めた。
「でも一年だもんなぁ……ここにきて。そりゃ、男の子みたいって言われて調子づいたところもあるけど……一年もそのまま続くなんて思わないじゃない……! おまけに男の子たちからは気味悪がられて近づかれないし、二日目にして一年生の子に群がられるしで……ほ、本当にどうしたらいいのよぉ……」
なっがい独り言を垂れ流す王子様系女子は、どうやら一つ上の先輩らしい。
なるほど、昨日みたいな様子を見る限り、誰にも言えない愚痴をここで吐き出しているのか。
とはいえ、いつまでもあんなところにいられると俺も教室に帰れない。早いところ降りて帰りたいのだが、今降りるとあの王子様系(笑)女子に俺がいることを気付かれてしまう。
「よっと」
「……へ?」
まあ関係ないけど。
上から飛び降りてきれいに着地を決めると、背後の音に気付いたのか王子様系(笑)女子が呆けた顔で振り返った。
まあ普段あんなキャラの人が誰にも聞かれないよう黒歴史を垂れ流していたのだ。何かされるようなことがあったとしても今回のことが脅しになるかもしれん。
そんな理由であっさりと飛び降りたのだが……
「あっ……あ、あああああのああのののののののの!?!? い、いいいまのき、ききききててて!?!?」
……予想以上に効果てきめんだったみたいだった。
「まあ、うん……そうですね。学校で独り言は向いてないと思いますよ? 先輩」
ちょっぴり悪いことをしたなぁと思いつつ、それだけ告げた俺は、王子様系(笑)先輩女子の反応を聞くことなく教室へと戻るのだった。
拙者、男女比が狂った世界に転移もしくは転生する男主人公の話が大好き侍