弁当を食すその隣で、ボーッと空を見上げている先輩は、時折何他を言いたげな様子でこちらを見つつも、結局何も言わずにまた溜息を吐く。
という何とも面倒でうざったるい行動を繰り返していらっしゃる。正直うまい飯に集中できなくなるからやめていただきたい。
「先輩、視線がうざいです。何か言いたいなら早く言ってください」
「ウッ……ふ、不快にさせてごめんね……?」
「そうですね。それで? ずっとそうされるのも面倒なんで、言いたいことあるんだったらさっさと話してください。特に興味とかわかない限りは聞き流すだけですので」
「……そっか、じゃあお言葉に甘えようかな」
一見俺の反応は冷たいように思うかもしれないが、それは前世基準の話で合ってこの世界においては優しすぎる反応と言えるだろう。
というのも、おそらく神崎君であれば「(過激な言葉であるためこの台詞は削除されました)」くらいは言うだろうし、他の男子だって似たようなことを言うだろう。てか、それが当たり前くらいの感覚だ。
わかっていることだが、俺の感覚が異例と言える。
それに、俺がこの対応をしているのはこの先輩だからこそというところもある。相手の弱みを知っており、かつ一対一である上に、相手も俺に対する執着が(ほんとうに珍しいことに)あまり感じられない。
もしこんなことを大量の女共がいる中で言ってみろ。たちまち俺の印象に残ろうとする奴らが周りを取り囲み、猿山も控えめに見えるような大騒動が巻き起こることになる。
自意識過剰? ふっ……甘いな。小学校で学んだぞ(家の者に助けられた)。
「前にも聞いてたと思うけど、私って今その、なんていうか……お、男の子、みたいに振舞ってるのよね。それも、女の子にやさしい絵本の中の王子様、みたいに……」
思い起こすのは先程女ども相手に気障っぽく振舞っていた先輩の姿。確かに、言われてみればああいう女の子にやさしい男の王子様みたいな存在は絵本の中くらいだろう。
もしくは、この世界に転生してかつ女の怖さを知らずに育った俺という世界戦くらいなものだろう。
「私だってこの学校に来たときは普通に女の子として学校生活を送ってたんだよ? でもさ、私って背が高いし髪も遺伝のせいか金髪だしで、あんまり男の子受けが良くなくてさ……しまいには、背が高いだけで男の子みたいで気持ち悪いって言われたんだよね……」
ふーん、と聞き流しながら最後の卵焼きを口に放り込む。うん、うまい。
「だったら、いっそのこと男の子みたいになって女の子にやさしい男の子みたいにって思ってたら、いつの間にかこんなことに……」
「ごちそうさまでした。では、先輩。俺はこの辺で」
手早く弁当箱を片して立ち上がる。
ふぅ……今日も今日とておいしかった。帰ったらちゃんと感謝の手紙でも出しておくことにしよう。
「え、えぇ……そこでやめる?」
「興味が湧かなければ聞き流す、とちゃんと言ってましたからね。先輩の話を聞いても、可愛そうとか思ったり共感したりとか全くなかったんで」
「……わかってはいたけど、まあ男の子からしたら面白い話じゃないわよね」
はぁ~、と溜息を吐く先輩は不貞腐れたように再び空を仰いでいた。
「まあでも、そうですね。これは俺の友達の神崎君曰くなんですが……先輩みたいな人がいると、女子の目線が減って助かる、だそうですよ」
「あはは……つまるところ、私は人身御供ってわけか……」
苦笑いを浮かべている先輩ではあるが、どうやら勘違いしているらしい。
あの神崎君が、わざわざ女である先輩を褒めているのだ。理由はどうあれ、そこらの女子に比べても評価は高いとみていいだろう。
もっとも、「変人」との評価だが……まあそこはわざわざいうことではないな。
「それに、俺個人としては先輩はそこらの女よりも評価は高いですよ?」
「……そうなの?」
「はい。まあ俺が弱みを握っているということもありますが、それでも理性的に話ができますから。そこらお猿さんみたいなのと比べるまでもないですよ?」
「あ……アハハハ……お、お猿さん……」
いや、あの理性なく個人の欲望で男を襲う奴らをそう表現する以外ないだろうに。先輩を女子と判断するなら、そのほかは獣以下の何かだ。
勘違いしているならあれだが、この学園に所属する女子って一般的に見ればかなり教養とか常識とかましな方だからな?
街の裏路地の無法地帯とかもはや動物園を通り越して野生だぞ。
むろん、昔行ったからこその知識だな!
「まあとにかく、先輩は何も心配せず、そのままでいてくれた方が男の俺たちとしても嬉しいんです。自信持っておいてください」
「それは……でも、私だって……その、恋……とかしたいから頑張ってこの学校に入ったんだけど。続けてたらそれどころじゃないのよ?」
「大丈夫大丈夫。先輩なら(他の女子に比べても高い確率できっとおそらくたぶんmaybe)恋人なんてできますよ。(神崎君がきっと)保証します」
「そ……そう?」
よし、乗った。
「はい。なので、頑張ってください。男の俺が言うんです。(確定的に明らかではないが)安心してください」
ではこの辺で、とそれだけ言い残して屋上を去る。
相談乗った挙句、先輩が俺の言葉で男装やめたっとかなったら、その被害は尋常ではないだろう。
なので、いう必要のないところは言わずに先輩をその気にさせておかなければならない。
先輩には悪いけど、これって(男子と女子の)戦争なのよね。主に貞操的な意味で。
なお、俺たち男子は奪われるだけでメリットなんて糞のほどもない。まさしくクソゲーと言えよう。
「お、神崎君。よーすよーす」
「なんだ、如月か。……屋上で食べていたのか?」
気を聞かせてくれたのか、周りには聞こえない声でこっそりと聞いてくる神崎君。
本当にこの人、男子が相手であればめちゃくちゃいいやつなのだ。女に対する性格がひがんでなければ、前の世界じゃ勝ち組人生だっただろうに。
「そうそう。天気がいいとね」
「そうか。お前がいいならそれでいい。だが、あそこは逃げ場がない。気をつけろよ?」
「ご心配どーも。まあでも安心しなよ。屋上からの管伝って校庭まで下りるのはよゆーだからさ」
「……冗談か?」
「ハハッ、ご想像に任せるけど、あえて言えば問題ないとだけ。心配ありがとうね」
そう伝えると、神崎君はフッと笑って教室へ入っていった。
さてはて、今のを冗談ととらえるかそうでないか、神崎君はいったいどっちでとらえるのか。まあでもそれくらいならやろうと思えばできる人も多いし、きっとできるという解釈なんだろう。
まあなんだ。
昔のことがあったからか家の者たちに鍛えられたこともあって、こと「逃げる」ということに関しては得意以上と言えるだろう。
そんなわけで、大丈夫という話なのだ。
そんなお話
気付いたけど、めぼしいキャラ主人公と先輩と神崎君だけだな。準で先生?
そして主人公よりも名が出る回数が多い神崎君