行きつけの喫茶店の珈琲が美味   作:夕凪楓

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SAOの息抜き程度に書いたやつです。本当はちさたきが好き。



序章 行きつけの喫茶店の珈琲が美味
Ep.1 Absence makes the heart grow fonder.


 

 

 

 

 

 ────行きつけの喫茶店の美少女が無茶苦茶構ってくる。

 

 最近、何気無くぶらりと歩いてたら良さげの喫茶店が目に留まった。錦糸町駅北口から少し歩いた墨田区内の下町にそれはあった。

 こんなところに喫茶店なんてあったんだなぁとかフワッと考えつつ、勉強するのに良いかもしれないと入ってみれば、なんとも和の雰囲気が良さげの内装で落ち着くのなんのって。

 

 カウンターの向こうで、ガタイの良い色黒でダンディーな男性が柔らかい笑みでメニュー表を渡してくれる。

 目を通してみれば、甘味はパフェなどもあるが和菓子が中心の癖に、ドリンクは基本的に珈琲。勿論茶もあるらしいが、売りは珈琲らしく、和洋折衷というかしっちゃかめっちゃかで、なんぞこれと初めて来た当初は思った。

 

 しかしながら、店長が淹れてくれた珈琲はまたなんとも美味で。苦いけど。

 そんな空気に完全に酔いしれてしまった俺は、一週間に二、三度の頻度でこの喫茶「リコリコ」に顔を出すようになった。もう完全に虜。

 

 リコリコに出入りするお客さんの大半はリピーター、言わば常連客だ。地域の人達に愛された喫茶店で、お客さんは社会人から学生、老若男女に渡ってそれはそれは多く賑わっている。店員とお客さんだけでなく、お客さん同士も仲睦まじく、勉強しながら横目でそんな雰囲気を眺めつつ、微笑ましくなったのを覚えてる。

 かくいう俺も最近はその常連の仲間になれたらしく、最近は閉店後に開かれるボードゲーム大会に誘われる程には顔を知って貰えていた。なんかむず痒く、けど嬉しい。

 

「気に入って貰えて良かったよ、朔月(さかつき)くん」

 

 鈴の音と共に扉を開ければ、眼鏡で色黒で和服でダンディーで渋くてめちゃくちゃカッコイイ男性───ミカさんが俺を出迎えてくれた。

 

「いつもありがとうございます、ミカさん」

「フッ……そう毎度畏まらなくてもいいんだぞ」

「すみません、性格で……あ、練り羊羹ってありますか?」

「はいよ」

 

 ミカさんはそう言って準備をし始める。俺はいつも通りカウンターに腰掛けつつ、リュックから本を一冊取り出して栞を挟んだところから開く。それを片手に珈琲を一口、砂糖無しのブラック。

 ……うん、苦い。てゆかぶっちゃけ甘いのが好き。ただ、こうして珈琲を片手に時間を潰すこの感じがなんとも“それらしい”ではないか。ただそれだけの為に飲んでる珈琲……うん、後で砂糖入れよ。

 

「マセてるわねぇ……子どもの癖にブラックなんて」

 

 カウンター一つ席を空けて隣りに座る茶髪で眼鏡の女性が、苦い顔で珈琲を飲む俺を嘲笑うかのように見ている。ミカさん同様に和服に身を包む彼女は、リコリコの店員であるミズキさん、27歳独身。結婚願望が凄まじく現在彼氏募集中だとか。

 

「あ、ミズキさん。この前言ってた婚活?パーティー?はどうなったんですか?」

「……予定が合わなくて中止んなった」

「ええ……ただでさえリコリコでしか出会いの場が無い中で漸く漕ぎ着けたチャンスだったのに可哀想……」

「るっさいわね!!」

 

 涙を瞳に溜めながらの、魂の叫びだった。泣くなよ。

 しかしミズキさんの言う通り、17歳でブラックの珈琲を嗜むのは流石にマセてるかもしれない。けどまあ、この在り方がなんとも格好良くて、なんだか大人の仲間入りをしてるみたいで。

 そんな自分に酔ってしまってるだけなのだが、俺はそんな雰囲気にさせてくれるこの店が、店員もお客さんも合わせて好きだった。

 

「そーゆーアンタこそ、ちょいちょい店に顔出してるけど彼女とかいない訳?」

「生憎、中々出会いがなくてですね。いた試しがないんですよ」

「へぇ、意外。顔面の偏差値はやたら高いのに」

「……あ、口説いてますかもしかして。すみません、酒癖の改善が見られない内はちょっと……」

「違うわっ!!」

 

 ミズキさんのこのキレッキレのツッコミが意外にツボで、いつも揶揄ってしまう。本で口元を抑えてクスクス笑っていると、カウンター越しにミカさんが軽く顔を近付け、

 

「しかし、ミズキが言っていた事もあながち嘘ではないんだぞ」

「え?」

「アンタここのお客さんにモテるのよ。最近この店女子校生多いでしょ?」

「や、あんまり周りを気にしてなかったんで分からないですけど……」

 

 そう言ってチラリと振り返って見ると、畳で正座していた三人組の女学生達がこぞって此方を伺うように見つめていた。目線が合った瞬間、慌てるように三人同時に顔を逸らし、メニュー表を食い入るように見始めた。その頬は皆やや赤く見える。

 

「……なる、ほど?」

「自覚無かったんかい。罪な男ねぇ、こんなガキンチョのどこが良いのか」

「確かに……どこが良んだろ」

「……自分で言うのか」

 

 ミカさんが呆れてるのを尻目に顔をペタペタと触る。

 確かに彼処の女子校生達とは会話もした事無いしなぁ。好かれる理由としてはやっぱり顔面か?顔面が良いのか?自分じゃ容姿の善し悪しなんて分からんしなぁ……ただ二人がそういうなら俺って実はかなりイケメンなのでは……あ、そう思うとなんか自信ついてきた。

 つまり客観的には、今の自分は喫茶リコリコに定期的に訪れる、名前も知らない美少年という事……?

 mysterious boy(ミステリアスボーイ)。そんな魅力があったか俺。

 

「二人ともありがとうございます。なんか自信つきました」

「相変わらずわけ分かんない思考回路してるわね」

 

 ミズキさんが呆れたような溜め息を吐く。同時に、カウンター向こうでは、カチャカチャと食器が重なる音が聞こえた。そろそろ目的の羊羹がお出ましかもしれない。

 用意してくれていたミカさんと目が合うと、フッと小さく目を細めて笑う。

 

「今日こそボードゲーム参加していくか?」

「いえ、羊羹食べたら失礼します。またの機会に」

「うーむ、毎度フラれてしまうな……何か急用かい?」

「急って事は……ただ、ちょっとバイトを探そうかと思いまして」

「そうか。それならもう少しゆっくりしてきなさい。そろそろ千束が来る頃だ」

 

 ────千束。

 その名を耳にした瞬間、俺は慌てたように口を開いた。同時に本を閉じリュックにしまい込み、すぐ帰れるよう準備して、羊羹を今か今かと待ち構える。

 

「あ、いえ。錦木が来る前には退散────」

「グッモニーン!!千束が来ましたーーーー!!」

「……したかったんですが」

 

 来てしまった。最近やたらと俺に構ってくる超絶美少女の甲高い声が鼓膜を通過する。

 鈴の音と共に扉を開く音、振り返って最初に目に留まるのは黄色がかった白髪のボブカット。そして左の赤いリボン。赤みがかった制服に身を包み、太陽にも似た笑顔を振り撒いて登場する彼女。

 

 ────錦木千束(にしきぎちさと)。この店のスタッフであり、俺と同い歳の17歳。誕生日は9月23日で血液型はAB型。聞いても無いのに教えてくるからいらん事まで知っている。話すようになったのは少し前なのだが、最近何故かやたらと構い倒してくるのだ。

 

「カナちゃんおはよー!あ、後藤さん久しぶりー!」

 

 店内にいる常連客に挨拶しつつ此方に向かってくる。年齢も様々だ。セーラー服の中学生、そろそろ年金支給が見えてきているご高齢まで多種多様。しかし、その誰にも同じように錦木は軽く、明るく、大音声で挨拶していく。

 相手がどんな人で、何歳であろうと、錦木にとってはみんな最高のお客さん達なのだ。

 その在り方はとても素晴らしい───あ、やべ、目が合った。

 

「お?っ、ああああ!?朔月くん!いらっしゃーい!」

「……さて、と。ミカさん、お会計お願いします」

「まだ羊羹出してないが」

 

 はよ出してくれ。立ち上がった俺のその両肩を背後から錦木が抑え、再び座らせてくる。ちょ、近い近い。

 

「ちょーちょいちょいちょおい!今来たばっかでしょ?もちっとゆっくりしてきなってー!」

「あーすみません錦木さん。実は友人と約束がありまして。それまでの時間潰しだったんですよ」

「アンタさっきバイト探しって言ってたじゃない」

「何故予定を知ってる者の前ですぐバレる嘘を……」

 

 ミズキさんとミカさんが即行でバラした。クソ恥ずかしいなやめてよ。てか羊羹早くして。錦木は早く裏に行け近いからマジで。

 

「てかさー、いい加減にその『錦木さん』ってやめてってばー。ほらぁ、ゆってみー?ち・さ・と♡」

「ミカさん、ご馳走様でした。また来ますね」

「ほら、羊羹だ。食べてからにしなさい」

「いただきます」

「無視すんなこらぁ!」

 

 錦木を無視してやっと来た練り羊羹の乗った小皿を即行で受け取り、テーブルにそっと置く。木製の菓子用ナイフで1口サイズに切り分け、口元に持っていく。

 ……ああ、餡子メッチャ美味い。此処の和菓子はホントに美味しい。何故か珈琲とのペアリングも合う。そんな中でも錦木は此方の肩を揺らしてくる。ちょ、ちょおい触んな触んな心臓に悪い。

 

「私即行着替えてくるから!まだそこに居てよねー!」

「ミカさんすみません、今小銭の持ち合わせが無くて……一万円でも大丈夫ですか?」

「ま、待ってって!すぐ着替えてくるからぁ!」

「……はぁ」

 

 バタバタと慌てて店奥に駆けていく錦木の背中を見送って溜め息を吐く。再び羊羹を口元に運んでいると、クスクスとミズキさんがニヤけていた。

 

「大分千束に気に入られてるわね」

「困ります。女の子に耐性無いんで……心臓に悪い」

「迷惑か?」

「っ……いえ、構ってもらえてるのは嬉しいですよ」

 

 ただ───メッチャドキドキするんです。女耐性無いんだからマジで。勘違いしそうになるし情けない部分見られないようにと、頑張ってスルーするので精一杯なんです。

 こんな可愛い子が構ってくれるのだ、嬉しくないわけがない。ただ、特に理由も無く構い倒して来られるとうっかりコロっていっちゃうからマジでやめて欲しい好きになっちゃう。

 

「朔月くんお待たせぃっ!」

「……いや早いな」

 

 赤い和服に身を包む看板娘。心做しか呼吸が荒く、息切れしてるようにも見える。

 いつも余裕の錦木らしからぬその様子を見て、また心臓が跳ねる。自分の為に急いで着替えてきたのかと思うと、何ともいえぬ感情が押し寄せてくる。いや落ち着け、余裕のある男を演じろ。

 

「ね、ね、今日はボードゲーム大会やってく?」

「や、帰るってば。バイト探す準備しなきゃ。あと近い」

「あー、さっき言ってたね。え、何で急に?」

「……えーと、普通にお小遣い稼ぎ、だけど」

 

 ふーん、と此方をジッと見つめる錦木。……ちょ、そんな見ないで照れる。彼女から顔を逸らし最後の一口を頬張る。含んだ状態で珈琲を飲み、甘みと苦みの調和を感じれば、自然と頬が緩んだ。思いの外、この店の味にハマってしまっている。

 

「っ……」

「……え、何。そんな見ないで」

「え、あ、やー……美味しそうに飲むなぁと思って」

「実際美味かった。ミカさん、ご馳走様でした」

「はいよ。いつもありがとさん」

「ええー、もう帰っちゃうのかよー!」

 

 錦木の野次を無視してレジでお会計を済ませて入口の扉へと向かう。常連のお客さんに会釈をすれば、手を振ってくれたり、同様にお辞儀をしてくれたりと、ここのお客さんは本当にアットホームである。

 最初こそ洒落た隠れ家的な喫茶店だと思ってたのに、入ってみれば気さくで賑やかで……良い意味でも裏切られた。

 扉を開けて外へ出たタイミングで肩をつつかれて振り返ると、そこには錦木が立っていた。追いかけてきたのか。相変わらず可愛い顔である。くそ、見つめんなこっちを。

 

「ねね、次いつ来るの?」

「……時間が空いたら、また」

「明日?明後日?」

「や、分からんけど……んー、明明後日かな」

「何時頃?」

「なんじ……正確な時間までは……何か用事?」

 

 めちゃくちゃ聞いてくるやん……え、なんか用事か?

 錦木の頼み事なんてきっとろくなもんじゃない。いつも自己中というか「やりたい事最優先」の彼女だ、今日みたいにシフト前に喫茶店に来てるだけでも珍しいくらいだ。そんな破天荒な彼女のお願いなんて、そもそも俺が叶えてあげられるかどうか────

 

「んーん、なんにも。ただ、待ってるよーって言いたかっただけ」

「……そっか」

 

 だからやめろってガチで。

 まずい叫び出しそう。この女俺を殺しにきてる。

 どうにか表情が変わるのを抑えて軽く微笑む。錦木は嬉しそうにブンブンと手を振って見送ってくれる。

 その可愛らしい仕草を横目に、最近SNSでリコリコの看板娘が可愛いって口コミがあったのを思い出す。なるほど、確かに可愛いな。これをどのお客さんにもやってるんならそりゃモテるわ。

 

「凄いよなぁ……」

 

 お客さんファーストというか、他人の為に頑張れる錦木を素直に尊敬する。自分も誰かの為になれたらと思って生きているけれど、彼女みたいな地域の人に愛される程に献身的になれているかと言われればそんな事はないと言える。

 自分に無いものを持っている彼女は憧れであり、尊敬の対象でもある。

 

「バイト探し頑張るかぁ……」

 

 あの喫茶店に行くのはきっと────そんな彼女が見たいからでもあり、見たくないからでもある。

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 カラン、と鈴の音が鳴り扉が開く。

 ミカが振り返ってみれば、朔月を見送り終えた千束が立っていた。来客かと思った常連のお客さんもこぞって千束に一度視線を集め、そして二度見する。

 

「っ……ふぅ」

 

 ────千束の顔が、心做しか赤い。

 火照っているのか、右手を顔の前まで持っていきパタパタと団扇のようにしてその熱を冷まし始める。

 

「……ね、ねぇ、先生」

「ん?どうした千束」

「私、ヘンじゃなかったかな……?いつも通りできてた……?」

 

 困惑、焦燥、羞恥。綯い交ぜになったような、そんな笑み。千束にしては珍しい、何とも言えないその表情にミカは目を見開いた。

 その表情を作ったのが、他ならぬ先程の来客だと思うと更に。千束と過ごして十年近くだが、こんな彼女の状態をミカは最近まで見た事が無かった。

 

「ああ、いつも通りだったぞ」

「だ、だよね。やー、良かったぁ……」

 

 分かりやすく安堵の息を吐く千束。

 その様子を、玩具を見付けたかのようなニヤケ顔で見るミズキは、もう揶揄わずにはいられなかったようで。

 

「まっさか、アンタみたいなお子ちゃまが恋愛なんてね〜?」

「っ……!?」

 

 瞬間、千束の顔が一瞬でブワッと赤くなった。態とらしく大声で張り上げたミズキの声は、勿論常連客にも聞こえてしまい────

 

「えー!千束ちゃん、さっきの男の子のこと好きなのー!?」

「良いねぇ、青春だねぇ!」

「千束ちゃん、そーゆー浮いた話なかったものねぇ!」

「なっ、えっ、ちょっ、ちがっ……!」

 

 畳み掛けるような常連客のハイテンション振りに千束も訂正する暇もなく。しかしそれはそうだ。今まで千束の口から恋愛や好きな人の話など聞いた事がない。勿論、憧れは少なからずあったのだろうが。

 ミズキの揶揄いは続き、終いには千束がその感情に自覚を持ち出した際のモノマネまでし始めた。

 

「自覚してからは凄かったものねぇ?『先生、あの人の名前なんて言うのか知ってる?歳は?誕生日は?お願い!私の代わりに聞いてきて〜?(泣)』って」

「ちょっ、ちょおいもう喋んなあああああああ!?」

「千束ちゃん、恋愛は意外に奥手なのね……!」

「やだ、やっぱりこの店ネタの宝庫だわ……!」

 

 そんなお客さんの冷やかし振りにミカは苦笑いするしかない。

 ただ、千束にとってそう思える人ができたというのは、彼女の残り少ない時間の中で良い事なのか悪い事なのか、ミカにはよく分からない。

 けれど────

 

 

「そんなアンタに朗報で〜す」

「?」

「朔月くん、彼女いないって〜」

「っ……へー、ふーん……そう、なんだぁ……ひひっ」

 

 

 ────彼を想って、あんな風に笑える彼女を。ミカはただ嬉しく感じたのだった。

 

 

「あー今嬉しいって思った!やっぱ好きなんじゃない!」

「っ、あ、いや!違うから!そんなんじゃないからぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶえっくしょい!!……風邪かな」

 








続くかどうかは感想と評価とモチベ次第です。


誰が好き?誰を推す?ルートは?

  • 錦木千束
  • 井上たきな
  • まさかの両手に花
  • ちさたきを見て『てぇてぇ』とか言い出す誉
  • ダークホースクルミ
  • み、ミカさん……!?
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