行きつけの喫茶店の珈琲が美味   作:夕凪楓

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限りがある時間だからこそ、後悔無いようにって欲張れたらな。



Ep.13 A rendezvous

 

 

 

 

 

 ────周りの視線が痛い。

 

 気付かない振りと、気にしないようにする為の本も、内容が頭に入らず集中できてない。手元でパラパラと捲っては、今のページの内容何だっけ、と勿忘草を押し花とした栞を挟んだページに戻るのを繰り返している。

 駅前の柱に寄りかかって錦木を待つ事十分程。時刻は既に約束の十一時を過ぎていて、錦木に待ちぼうけを食らっている状況だった。その間、何故かチラチラジロジロと視線が誉の方に向かってくるのを感じて、中々に居心地の悪い時間を過ごしていた。

 

(早く来てくれ錦木……)

 

 周りの視線────特に女性の視線が多いのは誉も感じていた。女子高生、中学生、大学生とも思しき人達と何度も視線を交わしてしまっている。

 最近、リコリコのメンバーや常連のお客さんの態度や反応、そして言葉によって段々と形成され始めていた自覚として、どうやら自分は人に好まれやすい容姿をしている様だと、最近誉は漸く納得した。

 この視線はそういうものなのだという得心もついた。店で女性に声を掛けられる理由もこれなのかもと理解した。今までそんな風に言われたり思われたりといった経験が無いだけに、受け入れるのには時間がかかってしまったが、どうしたらいいのか反応に困る部分においては今までと変わりなかった。

 

 一目惚れ、とは俗に聞くが、顔だけで判断されてしまっても、とも思う。まあ、第一印象が良くなければ中身を知ろうとは思わないと言われてしまえばそれはそれで正論ではあるのかもしれないが、そういった容姿を自分が持っている自覚を持ってしまった事もあって他人事ではいられない。

 

(……錦木も、そう思ってたりするのかな)

 

 錦木千束が今回遊びに誘ってくれた“意味”を、邪推してしまう。

 何せたきなとの待ち合わせよりも一時間前にと指定されたのだ。つまり二人きり。その意味が分からない程には鈍くないと思いたい。自惚れかもしれないけれど、容姿をあれ程までに周りから褒め散らかされてしまっては、勘違いもしてしまうというもの。

 

(っ……いやいやいやいや、なんで錦木が出てくる)

 

 そこまで考えて我に返る。完全に馬鹿丸出しで阿呆の思考だった。誉は頭を振り払う。そんな訳あるかと。

 彼女も言っていたではないか。一緒に遊んだ事がなかったからと。だから遊びに行かないかと。その理由は理屈に合っているし、確かにそれなら納得もいく。それに一時間だけだし、その後はたきなもやって来る。昨日は夜のテンションで浮かれ過ぎてはいたが、これは別にデートじゃない。自惚れるな馬鹿野郎。

 彼女にとってそれ程この一時間は重要ではない。だから彼女は絶賛遅刻中なのだ。

 

(いや……楽しみ過ぎて眠れなくて、寝坊での遅刻だったりとか……)

 

 もしそうだったら、いけない。今から会うの緊張する。

 女性経験が無い誉は、色々と考えてしまう。彼女は誰にでも明るく、好かれやすい少女だ。だから勘違いしてしまう男子高校生の客は少なくない。けれど、これは勘違いしてしまいそうにな……いや待て。

 

(────……あ、いや、彼女が遅刻してくるのはいつもの事だったわ)

 

 そこまで考えて急に緊張感が抜けた。スンッと自惚れや浮かれ具合が抜けて真顔になった。うん、普通に遊び誘われただけだな。他意はきっと無いだろう、うん。錦木千束の普段の行いのお陰で自惚れずに済んだ。

 因みに錦木が遅刻してる事に関しては特に驚きも心配もしていない。いつもの事である。リコリコに遅刻するのと一緒。浮かれる事無かった。

 

(っ……や、そもそも浮かれてなんかない……)

 

 元々はたきなの下着選びだ。そう思うと波立っていた緊張感が損なわれていく。初めての異性からの誘いの大元の目的がバイト先の後輩の下着選びだなんて、情けなくて笑えてくるというか、逆に落ち込みすらする。というよりも、そうだ、別の女性の下着選びに付き合わされてるのだ、そんな感情持たれてる訳がない。慌てて損した。

 改めて、どうして二つ返事で了承してしまったのだろうか。

 

「……やっぱ断れば良かったかもな……」

「朔月くんっ!」

「……っ」

 

 聞き慣れた、透き通った声。

 走って来たのか、吐息混じりの音。焦ったような声色。誰が来たのかすぐに分かって、誉はそのまま本を閉じて振り返った。

 いつもの様に、イメージカラーである赤を基調とした服装。彼女らしい明るい印象。いつものコートワンピース型の制服とはまた違った姿に、思わず目を細めた。頬を紅潮させ、焦ったような表情を目に、荒い呼吸音を耳にして誉は思わず。

 

「お、お待たせ!ちょっと支度に手間取って……」

「────……」

「……あの、朔月くん?」

「っ、え、あ……ああ、うん。おはよう」

 

 いけない。見惚れてしまっていたかもしれない。

 誉は慌てて口元を抑えてそっぽを向いた。穴が空くほど見つめてしまった、セクハラだこれは。そんな事を考えていると、手前で小さな咳払いが聞こえて、思わず視線を戻す。

 

「朔月くん、遅刻です」

「え……………………ああ、うん、君がね?」

「ゴメン……ホントに、自分で言っといて……」

 

 申し訳なさそうに俯く千束を見てから、誉も改めて目線を上に向ける。予定よりも二十分近く過ぎていた。これだと近くの喫茶店とかで時間を潰すにしても三十分居られるかどうか。

 これはとてもデートとは言い難い。ただ早めに待ち合わせ場所に着いたから集合時間まで別のところで時間を潰す構図である。実際そうなのだが。

 誉は、肩を上下させて息を切らす彼女を見て、小さく微笑んだ。

 

「……なんだ、走って来たんだ」

「え……そりゃ、まあ……私が遅れたのが悪いんだし」

「そんな慌てなくても良かったのに。髪乱れてるぞ、全力疾走かよ」

「う、うっさいな……ちょっ、直すから見ないで」

 

 千束は誉に背を向けて髪を両手で弄り出した。

 照れた様に顔を赤くしながら、此方の目を気にしながら慌てて髪を整える彼女を見て、心がまた波打ち始める。彼女のそれは、周りの視線を気にしての行動なのか、それとも自分の目が気になっての事なのだろうか、と。

 

「これでよーし!というか本当にゴメン、遅刻して……」

「なんでそんな謝んの。店とかしょっちゅう遅刻してるじゃん。いつもの事だし気にしてないよ」

「うっ……そう、だけど……そうなんだけどぉ……二人の時間減っちゃうじゃん……」

「……っ」

 

 ────彼女の今の言葉は、聞き逃す訳もなく。

 もう、そういう意味なのではないだろうかと、考えずにはいられない。チラリと此方を見上げる千束から逃れるように、逸らした瞳を空を仰いで。

 

「……別に本命はたきなの下着選びなんだし、そっちには遅れなくて良かったじゃんか」

「っ〜……このニブチンめぇ……!」

「……」

 

 ───流石に、今のを聞いて鈍くいられる訳がない。

 直接的な言葉や伝え方ではないけれど、まさか思うには充分な一言。何故とは変わらず思うけれど、それを受けて誉は、今まで感じた事の無い感情の波が押し寄せて。

 どうにも、考えられないような言葉を吐いてしまう。

 

「その……実は俺も今さっき来たばっかでさ。あんまり気にしてないから」

「おっ、デートで定番の台詞じゃん。もうちょっと早くフォローしてくれれば……」

「……いや、その……本当に」

「え?」

 

 キョトンと彼女は首を傾げる。誉が何を弁明したいのかが分からないようで眉を寄せて此方を見つめている。

 もどかしい事この上ない。くそ、言いたくない、今ので察しろ。と、自分の鈍さを棚に上げて心の中で千束にそう呟きながら頬をかく。

 伝われ、と。届け、と。そう心の中で。

 

「俺も、その……少し寝坊したんだよ。楽しみで……」

「────……っ!!!!」

 

 そう、始めから誉が彼女が遅刻した事を責める資格など無い。結果的に彼女の方が後に来たのだが、集合時間に間に合ってないという意味では誉も一緒だった。私服を悩みに悩み、近くの店を取り敢えずネットで確認し、電車やバスなどの交通手段や時間帯なんかも確認して……要は、浮かれに浮かれていた。

 外で遊ぶような経験が、今まで無かっただけに。

 千束はそう告げた誉を見て、顔を赤くして此方を見つめていた。

 

「た、たきなのパンツ選ぶのが?」

「────は?」

「っ……」

「……………………あー、もうそれでいいや」

「えっ!?ちょ、下着選ぶ気!?ちょ、流石にそれはダメだから!」

「うるさいな。そういえば、たきなに好み聞かれたんだった。会ったら伝えるか」

「ちょっ……!」

 

 慌てる千束を知らぬ存ぜぬとそっぽを向きながら、目的の喫茶店へと早歩く。彼女の声が横から聞こえるが、煩わしい事この上ない。

 

 ────なんでだよ、伝われよ。

 ────この一時間が楽しみだったんだよ気付けよ。

 

 何がニブチンだ、人の事言えないじゃないか。

 この鈍感野郎……と、他人事の様に顔を顰める。

 というか、何で自分はこんなに焦ったり、熱くなったりしてるんだ。多分、目の前の彼女のせいではあるけれど。

 けれど、それをちゃんと伝えるのがどうにも気恥ずかしくて。心臓が脈を強く打ち始める不快感に、なんだか吐きそうになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

「何飲もうかな〜……偶には他の店の珈琲も良いかもなー♪」

「……」

 

 ……何故か、無駄に緊張する。

 プライベートで錦木と二人で同じ時間を共有するのって、思えば初めてではないだろうか。当の本人はメニュー表を開いてニッコニコしてるけど、緊張とか無いのかな。

 

「朔月くん何飲む?私ホットにする」

「え……あ、じゃあ、アイスで」

「りょーかい。すいませーん!」

 

 片手を挙げて店員を呼ぶ錦木。既に楽しそうなその顔を直視できなくて、思わず目を逸らした。

 冷静になろうと窓の景色を眺める。この位置からでも傾いた旧電波塔の姿が視認でき、その周りに立ち並ぶ建物やビル、その下を歩く人々をぼぉっと見つめていると『ねーねー』と呼び声が掛かった。

 

「折角だし、なんか食べない?」

「ええ……昼も近いし、たきなが来た時で良いんじゃない?時間もそんな無いし」

「え〜、けどこのケーキ凄く美味しそー……」

「……太っても知らない」

「あー!言ってはいけない事を」

 

 軽く腕が伸びてパンチを噛ましてくる。頬を膨らませてむくれる彼女が可愛らしくて、思わず小さく微笑んでしまう。それにつられたのか、太陽のように笑う彼女に、自然と心臓が高鳴った気がした。

 ……慣れない。何だこれ。

 

「お待たせ致しました。珈琲お二つですね。ホットとアイス一つずつ、砂糖とミルクはお好みでお入れ下さい」

「あ、すみませんありがとうございます。ほい、錦木」

「ありがと。お、いい香り……」

 

 店員から渡されたコーヒーカップを錦木の方へと寄せると、彼女は嬉しそうにそれを受け取って珈琲を啜る。それを確認して、俺も珈琲を口に含んだ。

 最近珈琲を淹れては飲んでを繰り返していたからか、ブラックにも大分耐性が付いてきた。や、耐性と言ったら失礼だな……味の分かる男になってきた。これだ。というより、普通に美味しいなアイスコーヒー。

 

「……この豆何だろう。飲みやすいな」

「……朔月くんも大分リコリコ来て染まったよねぇ。味だけじゃなくて豆の種類とかも気にするようになったし、このまま先生みたいになっちゃいそう」

「それは……どうかな。あんまり味は成長してないし」

「そんな事ないよ。毎回ちゃんと美味しいよ?」

「けど……ミカさんや錦木が淹れたヤツと比べるとそんなになんだよな」

「え……わ、私のも?」

 

 意外そうな反応をする錦木に、頷いて答える。

 それもそのはず、彼女に淹れて貰った珈琲は、彼女が俺に淹れ方を教えたあの一度限りだ。その味を数ヶ月も経った今もなお覚えてる俺の方が、執着してるというか変態というか。錦木が驚くのも当然だった。

 

「錦木に最初に淹れて貰ったやつの方が、全然美味しかった気がして……俺が勝手に対抗心燃やしてるだけと言われればそうなんだけどさ」

「そ、そっか。そっかそっか、うん……あ、あれじゃない?隠し味が足んないんじゃない?」

「……え、は?か、隠し味?珈琲に何か入れてんの?」

 

 いやそれは流石に聞き捨てならない。ただ珈琲の淹れ方次第で味の深みを生み出すミカさん流石だなぁとかって思ってたのに裏で何か入れてたと思うと話変わってくる。なんなら俺の数ヶ月何だったんだと逆ギレするまである。

 錦木は得意気にドヤ顔を決めていて……そういうのいいから早く教えて。

 

「ふふん────ズバリ、愛情どぅえっす!」

「…………なんだ、何か入ってるわけじゃないんだ」

「い、今鼻で……鼻で笑ったなこの野郎……」

 

 錦木のドヤ顔でカッコつけたボイスに吹き出しそうになりつつ、一先ず安心して胸を撫で下ろした。

 あービックリした。賭博やる店だもん、何か危ないもの入ってたらどうしようとか焦りに焦ったわ。というか特に何も入れてないみたいで、それが一番良かった。

 やっぱり淹れ方だよね。流石ミカさん、一ミリも疑ってなかったよ俺は。

 

「言っとくけど、意外と馬鹿んならないよ?誰かの為に淹れたらそれだけ美味しいってもんよ」

「あ、いや、笑ったのはそこじゃなくて……キメ顔で愛情とか言ってる錦木がツボで……」

「こ、こんのぉ……!」

 

 今になって自分の痛さに気が付いたのか、顔を真っ赤に拳を震わす錦木を見て思わず肩が震えたが、それが何だか素の彼女っぽくて、途端に嬉しくて。また少しだけ吹き出してしまう。

 

「そんな笑う事ないじゃんかぁ!」

「ゴメンゴメン……なんか嬉しくってさ」

「な、何がよ」

「あーいや……錦木、さ。俺とみんなとで態度というか、何か違うような気がしてたから。けど今は、みんなといる時と変わんない感じ」

「っ……それ、は」

 

 そう言うと、錦木は言葉に詰まる。

 どうやら無意識でなく、自覚あってのものだったらしい。

 それもそうだろう、“やりたいこと最優先”の彼女が、俺に対してはそのモットーを抑えて遠慮がちに距離を保とうとしている。お客さんや店のみんなには素の自分をさらけ出して自由に遊び回っているというのに……というより、まだ俺が客だった時は錦木もそんな感じだったというのに、最近では彼女の破天荒さが鳴りを潜めていて。

 

「……よかった。錦木最近、俺には色々遠慮がちだし。避けられてんのかと思ってた」

「っ……」

 

 昨日の誘いなんて、たきなには有無を言わせず集合時間の指示までしてたのに、俺に対しては予め、一緒に行かないかと誘う行程を踏んでいる。それがたきな達と俺との違い。差とも言っていい。

 それがマイナスな理由から来てるものだったらどうしようかと思っていたけれど、楽しそうな彼女を見ていたら、それは杞憂なのだと安堵した。

 けれどそれを伝えた途端に、錦木がそっぽを向いてブツブツと呟き始める。

 

「……その、あんまりやると……嫌がられるかなぁ、とか……思ったりしまして……」

「……今更じゃない?」

「うぐっ」

「俺が客の時は帰るって言っても引き止めて来たし」

「うっ……」

「嫌だって言ってんのにツーショット撮らされるし」

「ぐっ……」

「珈琲淹れるのなんて、前まではしょっちゅう邪魔しに来てたじゃんか」

「がっ……」

 

 毎回苦しそうな声出すのやめろ笑うから。

 これまでの行動を反省したのか、やけにしおらしく縮こまる彼女を見ながら、ポツリと思った事を口にする。

 

「俺は……らしくなく気ぃ遣ってる錦木よりも、こっちを振り回してくれる錦木の方が良いんだけど」

「……振り回される方が好きって事?」

「そう聞くとドMの変態野郎に聞こえるの何でだろう」

「そ、そっちの私の方が……好き?」

「俺今結構真剣に話してるよ?」

「私も真剣に聞いてるんですけど……」

 

 彼女のその言動が、俺を冷やかしてるのか、照れ隠しなのかは分からないけれど。そんな彼女に、追い討ちをかける行為かもしれないけれど。

 この数ヶ月間で感じた事を、あの店で過ごして思った事を、ただつらつらと言葉にして、音に乗せて。

 

「俺、さ。つい最近まで、こういう店に入った事すら無かったんだよね。外食なんて、リコリコが生まれて初めてでさぁ」

「え……」

「知らない事、人より沢山あるんだ。珈琲の苦さも、和菓子の甘さも、人との交流も、働くやり甲斐も……けどこれ、全部錦木から教えて貰ったんだよ」

 

 ────あの日あの時あの場所で、錦木に出会ったから。

 リコリコに足を運んだのは本当に偶然で、飲食店なんて生まれて十七年間一度として入った事が無かった。何故店に入るだけの勇気があの時にあったかは分からないけれど、あの店で錦木達に会えたのは、俺にとっては幸運だった。

 

「気が付けば世界は箱庭で……遊園地とか、動物園とか、そんなのはテレビの中での物語みたいで。沖縄とか京都とか、修学旅行なんてものも。外国なんて以ての外で……だからかな。こういう外出に、ずっと憧れてた」

「……」

 

 恥ずかしくて言いたくないけれど、つまるところ俺の世界が今もなお広がっているのも、知りたい事が更に増えていくのも、生きていたいと思えるのも、全部全部。

 

「────錦木が、俺を振り回してくれたおかげ」

「……っ」

 

 錦木が我儘なんてのは出会った頃から知ってるし、今更嫌がったり嫌ったりなんて有り得ない。それに、やりたい事最優先の彼女だから、俺は良いなと思ったし、憧れた。

 

「だから、取り繕わなくていいし、遠慮しなくていい。錦木らしい錦木のままで、これからも色々教えてくれると嬉しいな」

「よっ……くもまあ、そんな恥ずかしい台詞を……」

「何がよ。そもそも、アンタが俺を避けてるみたいな素振りをするのが悪いんだろ。大体、嫌がられるかもって思うならたきな達にもそうすればいいのに。何で俺だけ気にするのさ」

「それ、は……もう、分かってて聞いてるでしょぉ!」

「いや分からないから聞いてるんですけど……」

 

 たきな達と俺の違いなんてDA関係者かそうでないかの違いしかない。そこの配慮を錦木が気にするタイプだとは思わないので、ガチで何で俺に嫌がられないようにって気にしていたのかが分からない……やっぱり、何か俺に対して何かあるのかな。

 

「……決めた。やっぱりケーキ食べる」

「え……え?や、もう待ち合わせまで十分無いけど……たきな来ちゃうよ?」

「大丈夫だってソッコーで食べるから」

「せめて味わえよ……太っても知らんぞ」

「その分任務で動くからだいじょーぶ!」

 

 ────……まあ、いいか。今はまだ聞かなくて。

 メニュー表を見てニコニコする錦木を見て、俺は目の前のアイスコーヒーを口に含む。すると、視線を感じて再び彼女を見やると、ニヤついた表情でビッと指を差してきた。

 

「……ホントに、遠慮しないかんね?」

「うん?」

「全力で行くから、覚悟しとけよ〜?」

「……何が?」

 

 嬉しそうに笑う錦木を見て、俺は何も分からずにただ首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

「……」

「……よっ」

「…………来ないんじゃ、なかったんですか」

「あー……錦木に誘われたから」

 

 千束がお手洗いに行ってる間に待ち合わせの駅前に赴くと、普段使ってる学生鞄を背負い込んだ私服のたきなが突っ立っていた。

 年頃の女の子だというのに特に着飾る事無く、適当なTシャツと下がジャージて……逆に目立つぞ都会でそれは……あ、やべ目が合った。凄い目を細めてこっち見て……あれ睨まれてる?

『コイツ私と下着を買いに付いてくるとか変態か?』とか思われてたらどうしよう普通に死ねる。

 

「……私が誘っても断ったのに、千束の誘いなら来るんですね」

「い、いやそういうんじゃなくて……や、女の子の下着選びが目的なのに男の俺が来たら変態だろ」

「……つまり、今日は私の下着を選びに来たんですか?」

「やべぇ逃げ場が無い」

 

 此処にいるって事はそういう事になっちゃうよな。やっぱりたきなからすれば俺は変態に見え……や、そもそもどんな下着が好みか聞いてくるような女の子にそんな風に思われたら逆に心外まである。

 

「今日はたきなの買い物だけじゃなくて、色々見て回るんだと。だから俺も一緒にどうかって誘われたの。下着選んでる時だけ俺は適当に時間潰してるから」

「そうですか、分かりました。……千束遅いですね」

「あ、錦木なら今お手洗いだよ。多分もう来る」

「……千束と一緒だったんですか?」

「え?……ああ、うん」

「……そうですか。……そう、ですか」

 

 そう伝えると、俯いて何か考えるように地面を見つめ始めるたきな。何か癇に障る様な事を言ったか……な……や、待て。

『コイツら私をハブって二人で遊んでたな?』とか変に疑われてたらどうしよう。い、いや違うんですよ、ホントに三十分前に着いたので近場の喫茶店で時間潰してただけで別にたきなを仲間外れにしようとかそんなんじゃー、とかって頭の中で慌てていると、後ろから聞き覚えのある声が響いた。

 

「お待たせ二人ともー……お、おお、新鮮だな」

「私服に問題は無いですか」

 

 背後から駆けて来た錦木は、そのままたきなの姿を下から上まで凝視する。たきなはたきなで問題は無いかと錦木に査定してもらってる様な言い草だ。

 ここは『似合ってますか?』とか『どうですか?』とかじゃないのだろうか。『問題無いですか』って何。機能性の話?任務の延長だと思ってるのかなこれ。昨日をミカさんに『指定の私服はありますか?』とか聞いてたしな……リコリスってみんなこうなんかな……。

 すると、錦木はニコリと微笑みながら……や、目は笑ってないんだけど、その表情のままたきなに向かって口を開いた。

 

「……銃持って来たな貴様ぁ」

「え」

「駄目ですか」

「いや駄目だろ」

 

 リコリスって制服じゃないと銃使っちゃ駄目なんでしょ?何故持ってきてるの……もしかして後ろの学生鞄に畳まれた制服とか入ってる?たきなそろそろ怖いんだけど。当然のように聞いてくるの普通に戦慄ものなんだけど。

 

「抜くんじゃねぇぞ?」

「……千束、その衣装は自分で?」

「……衣装じゃねぇ」

 

 錦木の私服を衣装とか言っちゃう辺り完全に仕事人だなたきな。ちょっとキレそうな錦木を見て思わず苦笑する。

 取り敢えず近場の大きいショッピングモールへと移動する事になり、三人纏まって歩き始めた。錦木とたきなが二人並んで歩くその背を、俺が後から続く様な配置。二人が何やら服の事で話しているのを、特に突っ込む事もせずに聞き流す。

 

「一枚も持ってないの?スカート」

「制服だけですね。普通そうでしょ」

「んーまあ、リコリスはそうだね。ねー買おうよ〜、たきな絶対似合う!」

「よく分かりませんし、千束が選んでくれたら───」

「え!?良いの!?おっほぉー!やったー!テンション上がるわ〜!」

 

 たきなの服を選べる事になり、今日一歓喜の声を上げる錦木。そのまま両手を広げて駆け出していくのを、たきなと俺は呆然と眺める。

 たきな、自主性が無さ過ぎる……服も下着も他人に任せるって……それ『貴方の好みの女になります』みたいな病んだ意味を孕んでそうで将来が怖い。

 

「……千束は何故あんなに嬉しそうなんでしょう」

「そりゃあ、たきなに好きな服着せられるからでしょ」

「それで千束が喜ぶ意味がよく分からないんですけど」

「……そういや、錦木がこの前『たきなは素材が良いからオシャレしたら絶対化ける!』みたいな事言ってたな。それを試せるチャンスだからじゃない?」

「……素材がいい、とは?」

「可愛いとか美人とかって事」

 

 確かに、たきなは控えめに言っても可愛らしい容姿をしていると思うし、着飾れば目を引く様になるだろう事は俺にも分かった。錦木は多分、昨日の内から下着のついでに服も買わせようと画策してただろう。

 まあ、トランクス事件から今の服に対する意識とかも聞いてて、割と察してはいたけれど、たきなオシャレとか興味無さそうだもんな。

 そんなに自分の容姿とか気にしてなさそうだし───

 

「……私、可愛いですか?」

「……え?」

 

 たきなが、此方を見上げてそう尋ねてきた。

 視線が交わる。目と目が合う。ジッと、足を止めて答えを今かと待ち望んでいる。その視線の先にいる俺に聞いている事は明白だった。

 え……たきな、そういうの気にするタイプじゃ────

 

「……」

「……っ」

「……」

「……あ、うん。可愛いと思うよ」

「……そうですか。どうも」

 

 たきなは、それだけ告げると視線を前に戻して錦木の背を追い始めた。髪が揺れ、目元が隠れ、彼女が前を向く事で表情が隠れてしまう、その一瞬に。

 彼女の口元が弧を描いたのを、この目で見た気がした。

 ……何今のやり取り。恥ずかしいんだけど。

 

「ほらー朔月くん!早くしないと置いてっちゃうぞ〜!にひひっ、置いてかないけどぉ〜!」

「っ……ああ、ゴメン。今行く」

 

 思えば錦木とたきな、二人の同世代の子と、それもこんなに可愛らしい二人と遊びに行くのって、かなり贅沢というか、罪深いのではないだろうかと今になって思う。

 両手に花というやつか……毒とかトゲとか無いよね?

 

 小さく息を吐きながら、目の前に立って此方を振り返る錦木とたきなの元へと、その歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

「さかなー!」

「チンアナゴ〜!」

 

「……いや、何が?」

 

 

 ────知らない人のフリしよう。

 

 












千束 「どんなのが良いかなぁ……たきな、何か希望ある?着たい服の」

たきな 「……誉さんは、どんな服が好みですか?」

誉 「え、俺?急に来たな……や、特に気にした事ないけど。似合ってれば何でも良いんじゃない?」

千束 「……じ、じゃあ下は?スカートの他に着てみたいのとかある?柄とかでも良いよ!」

たきな 「誉さんは何がいいと思います?」

誉 「いや女の子の服なんて分からないよ。取り敢えず色々着てみたら?」

千束 「なんで毎回朔月くんに聞くの……?」(震え声)

誰が好き?誰を推す?ルートは?

  • 錦木千束
  • 井上たきな
  • まさかの両手に花
  • ちさたきを見て『てぇてぇ』とか言い出す誉
  • ダークホースクルミ
  • み、ミカさん……!?
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