行きつけの喫茶店の珈琲が美味   作:夕凪楓

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初めから誰もが救われたのなら。
初めから誰もが幸せなのだとしたら。
────これは、そんなあったかもしれない、あるかもしれない、叶わないかもしれない未来の“もしも”。




IF.1 If the Valentine

 

 

 

 

「あ、あの……、これっ……!」

「え……」

 

 ────甲高い少女の裏声が、店内に響き渡る。

 何事かと、店内一同が視線を声の主へと集約させた。常連客だけでなく、ミカやミズキ、駆り出されたクルミ。

 そして、たきなと千束さえ。

 

 そこには、長い茶髪の女子高生が顔を真っ赤にして、何かを持ったその両手を前へと突き出す姿があった。

 その突き出した両手の先に立っていたのは、この店の男性店員である朔月誉の姿が。

 

「な……!?」

「……っ」

 

 千束とたきなのその視線は、少女が手に持つ包装された長方形の物体へと吸い込まれていた。可愛らしい桃色の包装紙に、赤いリボンを基調としたラッピングの物体。

 そのプレゼント仕様の飾り付けと今日の日付を再確認してしまえば、それが何かは乙女でなくても一目瞭然。

 

 ────二月十四日。

 

 そう、今日はバレンタインデーなのである。

 最近はイベント自体が廃れてきているような気がしないでもないが、それでも乙女にとって、錦木千束にとっては一世一代の気合いの入れどころだった。

 仕事終わりにムードやらシチュエーションやらが良い感じになったタイミングで、誉に渡そうかなとふわふわ考えていた千束の脳を直接ぶん殴るかの様な衝撃が、目の前の光景を見た瞬間に襲ってきた。

 

「……えと、これは……?」

「ち、チョコです!バレンタインチョコ!受け取って下さいっ……!」

 

 レジ前に立つ誉は、ジッと女子高生が腕をピンと伸ばして突き出してきた長方形の包み───バレンタインチョコを見下ろす。

 突然の事で誉も驚いているらしく、女子高生とそのチョコをと視線が行き交っている。女子高生は友達連れで、その娘の後ろで友人二人が『キャー!』と声を小さくしつつも、はしゃぎながらその光景を見つめていた。

 

 千束としては想い人である誉がどんな反応を示すのかヒヤヒヤもので、接客も止めて、固唾を呑んで見つめる。

 たきなも同様で、表情は大きく変えずとも気になってるらしく、注文を取るメモの手を止めてジッとその光景を見つめていた。

 

 当人である誉はお会計モードだっただけに状況が理解出来ていないのか、暫くそのチョコを見下ろしているだけで、中々返事を貰えない女子高生はその腕を小さく震わせていた。

 受け取っても貰えないのかと、誉の返答を待つ時間は恐怖そのものだろうと、千束が同情しそうになった瞬間、誉は遂にその口を開いた。

 

「えっと……これ、頂けるんですか?」

「は、はい!手作りなので、口に合うか分からないんですけど……」

「手作り?へぇ凄い……態々カカオから……」

「い、いえ、そこまでは……」

「冗談ですよ。ありがとうございます。大事に食べますね」

「っ……は、はい……!」

 

 その女子高生は泣くんじゃないかと思う程に破顔して喜び、顔を赤くして席へと戻って行った。友人二名からは『やったじゃん!』『渡せて良かったね!』などと賞賛を受けており、その少女も嬉しそうに微笑んでいた。

 

「……あんの女ったらしぃ……!」

 

 千束はこれでもかと誉に睨みを利かせながらわなわなと口元を震わせるも、誉は知らぬ存ぜぬ、帰路に立つ先程の女子高生達三人に『またのお越しをー』なんて呑気に挨拶までしていて、何だか凄くムカつく。

 

「いやー、朔月くんも隅に置けないねぇ」

「モッテモテじゃん!」

 

 すると、山寺と米岡がそれぞれの席でこれでもかと誉を冷やかし始めるではないか。北村も『青春だなぁ……』と頬を染めてうっとりと誉を眺めていて、伊藤は漫画のネタを思い付いたのかメモを開いて何か書き出している始末。

 誉は山寺と米岡の反応の意味が分からないと言った表情で、眉を寄せて混乱していた。

 

「……もってもて?」

「何その初めて聞いた単語みたいな反応」

「ああ、そう言えばこの子鈍感系主人公だったわ……」

「あの、どういう……?」

 

 北村と伊藤が顔を見合せて頭を抱える。誉が首を傾げていると、二人は揃って説明を始めた。

 

「さっきの娘、この近くの高校なんだけど、男子から凄い人気らしいのよ」

「告白とかも凄いされるんだって、この店でよく話聞くんだよねぇ〜……そんな娘からチョコなんて、羨ましいなぁ」

「……そう、なんですか」

「……何、反応悪いじゃない」

 

 伊藤が訝しげに誉を見つめる。確かに、誉はチョコを見下ろしてるだけで、その表情も浮かない。というより、今の状況が理解出来てないような、そんな顔をしていた。

 千束やたきなだけでなく、常連客達もそれぞれ顔を見合せて首を傾げる。すると、誉が伊藤さんへと視線を向けてポツリと告げた。

 

「俺、あの娘に好かれてるって事ですか?」

「今更何言ってんのよ。あの娘来る度アンタにアプローチしてたじゃない」

「アプローチ……いや、偶に話してただけですよ。良い天気ですねー、とか、今日雨凄いですねー、とか」

「……天気の話ばっかりですね」

「あ、確かに……まあ、最近寒暖差激しいもんね」

「……そういう事じゃないです」

 

 何も分かってない誉にげんなりするたきな。

 誉の反応を見るに特に慌てた様子も無い。女子高生から告白同然の行動を受けたというのに落ち着いてるその態度に、千束はほんの少しだけ安堵した。

 

 彼女の事は千束も知っており、この近くの高校で大和なでしこで目の保養だと男子高校生がこの店でよく話していたし、この店に来てくれれば千束自身も彼女と話す機会は多い。

 男性に耐性が無いだろうなとは思っていたが、誉相手に中々アプローチが弱いと見える。まあ、言わずがもがな誉の顔面の偏差値が高いのは要因ではあるだろうが……。

 

「兎も角、あの娘が俺を好きなのは考え過ぎじゃ……?」

「いやいや、チョコ貰っておいてそれは鈍感とかそういう話じゃないから」

「ちゃんと返事してあげないと〜♪」

「え……い、いや、別に告白された訳じゃ無いのに返事なんてしたらとんだ勘違い野郎じゃないですか」

「何言ってんの、明らかに本命だったじゃない。直接『好き』って言われてなくてもその気持ちくらい汲み取りなさい」

 

 北村と伊藤に言われても、納得せず困惑する誉。

 しかし流石に千束にも、誉がさっきの女子高生からの好意を素直に受け取らず、逃げる様に言い訳をしている様にしか聞こえない。自分がいざ誉に想いを伝えた時に、目の前の彼の様な煮え切らない態度を取られれば腹が立つ。

 

 ────千束が眉を寄せてツカツカと誉に近付いたその時だった。

 誉が、目を丸くさせて手元のチョコを見下ろした。

 

「……あの、チョコを渡すと好きって事なんですか?」

 

「────は?」

 

 誰が声を漏らしたのか分からない。ただ、誰もがその声の主と同様の言葉を脳内で発していた事だろう。

 千束でさえ誉が何を言っているのか分からず、暫く固まって動けずにいたが、どうにか思考を巡らせて、誉に向かって口を開く。

 

「……いや、そりゃバレンタインチョコだし、あの娘の反応見ればそんなの……」

「?……このチョコに何か意味があるって事?」

 

 ……なんだろう、話が噛み合わない。

 まるで、この話の根本をそもそも理解してない様な、そんな反応。誰もがその違和感を感じ取っていた事だろう。

 口をポカンと開ける伊藤の向かいに座っていた北村が、恐る恐るといった様子で誉に問い掛けた。

 

「……朔月くん、バレンタインって知ってる?」

 

「え?……このチョコのブランド……というかメーカーさんの名前じゃないんですか?」

 

『『『…………』』』

 

 ────その可能性がある事を、千束とたきな、引いてはリコリコの従業員は知っていたはずなのに、気付きもしなかった。

 

 ま、まさかこの男。

 

 ────バレンタインを知らない?

 

 

 

 

IF Story.1『 If the Valentine(たとえば、こんなバレンタイン)

 

 

 

 

 ▼

 

 

「え……バレンタイン、知らないの……?」

「そんな人この世にいんの……?」

 

 常連客が困惑でザワつく中、それを眺めていた千束とたきなは彼のこれまで平然とした態度と、今首を傾げている姿を見て、少しだけ納得した。

 

「……あー、なるほどなぁ……そっかそっかぁ……」

「誉さんなら……まあ、有り得ますね」

 

『『『有り得るの……?』』』

 

 誉は生まれてからリコリコで働く少し前まで、病気によって入院しており、人生のほぼ全てを病院で過ごしてきた。故に交友関係も希薄だし、相手の感情に疎い部分も多く、彼が時々病院の事を“箱庭”と表現していた事もあり、外部の接触や干渉はほぼ不可能に近かった。その為、知識の偏り方も常人とかなりズレがある。

 

 普通に過ごしていたら触れないような知識もあれば、普通に過ごしていたら常識と思われるような知識の欠落もある。

 彼がバレンタインデーというのを知らない、という事は考えられたはずなのだが、流石に気付けなかった。

 

「朔月くん、節分も知らなかったしなぁ……」

「マジか」

「朔月くんって異国の人なの?」

「……まあ、普通の育て方はされてないですね」

 

 あっけらかんと誉は答えるが、正直十七歳でバレンタインどころか節分すら知らないというのはハッキリ言って異常である。如何に彼が稀有な人生を送ってきたかが知れる。

 皆が訝しげな視線を向けながら、誉という存在の再認識を始める中、彼は我関せずといった様子で柔らかな笑みを浮かべた。

 

「あ、でも節分はもう覚えたから来年は大丈夫。2月3日はミズキさんに向かって大豆を投げれば良いんでしょ?」

「もう何処から突っ込めば良いの……」

「大豆って言ってる人初めて見た」

 

 ────普通は“豆”だろ、と各々から突っ込み。

 そして“鬼”でなくミズキ。既に色々とおかしい誉の節分の知識。常連はこぞって千束とたきなへと視線を向けた。

 

「なんでミズキさん?」

「あー、丁度節分の日にクルミがミズキのお酒落として割っちゃってさー、ミズキがそりゃーもう鬼のようにキレ出したから、皆で豆投げたんだったわ」

「クルミちゃん……」

「ボクは謝ったろ」

 

 それまで黙っていたクルミはそれだけ告げてパソコンへと戻っていく。既に常連以外は店を出ており、そろそろ閉店の時間だった。いつの間にか和服から普段着に着替えており、不貞腐れた顔で息を吐く。

 

「……それで、ばれんたいんって言うのは?」

「え?あ、やー……それは……」

 

 誉は、ふと気になった事をポツリと呟く。それを耳にした途端、千束の表情が固まった。

 ────……これ、説明の仕様に寄ってはこの後のチョコを渡す難易度が跳ね上がるのではなかろうか。

 

 想い人にチョコを渡す日なのだと説明してしまえば、これから千束が誉に渡そうとしているチョコに意味が生まれてしまうのだ。

 いや、そのチョコに込められた意味としては間違ってはいないのだが、義理チョコのつもりで渡すつもりだっただけに此処での説明を間違えると色々と面倒な事に……。

 

「……たきな、お願い」

「っ、ええ……?」

 

 上手く説明できる気がしない。千束は嘘を吐くのがド下手なのだ。千束は近くにいたたきなへと襷を渡し、突然の事でたきなはビクリと肩を震わせる。

 視線を戻せば何ともまあつぶらな瞳を向ける誉に当てられ、たきなの頬が赤くなる。

 

「……バ、レンタイン、とは……えと、世間では女性が男性にチョコを贈る日、ですかね」

「……何故?」

 

 ご最もである。何故?何の意味が?と言わんとしてる。嫌味でなく純粋な眼差しから繰り出された疑問だった。最近、好奇心の権化と化している誉は、外の世界を知らないからこそ色んな事に興味持ちがちだった。

 たきなはどう答える?どう返す?と、千束がハラハラしていた時だった。たきなは真っ直ぐに彼を見つめて。

 

「私も歴史とかに詳しい訳じゃ無いですけど……ただ、好きな人や大切な人に贈り物としてチョコを渡す日なんですよ」

「なっ……」

「……そう、なんだ……へぇ」

 

 千束はたきなのその説明に瞳を丸くする。

 ────誤魔化すどころか、誉に全部正直に話してしまっているではないか。

 誉は驚いた様子で手元のチョコを再び見直していて、その間、千束はたきなを引き寄せて耳打ちした。

 

「ちょ、何ですか千束……」

「こっちのセリフ!なんでそんなバカ正直にバレンタインの説明しちゃうの……!」

「何か問題が?」

「この後チョコ渡しづらいでしょーがぁ……!」

「……千束まだ渡してなかったんですね」

 

 しまった。墓穴を掘ってしまった。

 ジトッと細い目で此方を見るたきなから逃れる様に視線を逸らし、手元で両の手の指先をしどろもどろに遊ばせながら言い訳を漏らす。

 

「え……あ、やー……それは、その……ムードというか、良い雰囲気になった時に渡そうと思ってたから……」

「そんなだから、いつまでも告白できないんですよ」

「っ……い、言ったなぁ……!?大体、そんなんたきなも一緒じゃ────」

 

 

「────私はもう、誉さんには伝えてるので」

 

「……ぇ」

 

 

 ────再び、何か重たい物で後頭部を殴られたかのような衝撃。初耳過ぎるその情報に、千束は固まって動けない。

 たきなは気恥しそうに目線を提げ、二つ縛りの髪の一房を指先でクルクルと弄り出した。

 

「え……え、ええ……?告ったの?い、いつ……?」

「去年、この店でクリスマス会やった日ですね」

「い、いつの間に……へ、返事は……?」

「……秘密です」

「────っ」

 

 たきなは、悪戯っ子の様な不敵な笑みを浮かべて此方を見ていて。千束は、一瞬でその心臓の鼓動を走らせる。不安と焦燥が綯い交ぜになりながら、わなわなと口元が震えた。

 

 告白の返事を聞いた瞬間のたきなからは、想いが報われなかった時の様な悲痛さを感じなかった。故に彼女の想いが誉に伝わり、それを彼が受け入れてしまっているのか────既に、二人は付き合ってしまっているのか、不安で不安で仕方がないのに、それを怖くて聞けなかった。

 

「……たきな、は。もう、チョコ渡した?」

「いえ、まだですけど。でも、渡しづらいとかは無いですね。私はもう、知られてしまっているので」

 

 達観した様に瞳を細め、視線を傾ける。そんなたきなの視線を追っかければ、未だに常連客とバレンタインの定義の話をしている誉の姿があった。

 

「けど、たきながさっき言ってた『大切な人に贈り物として』って事は、別に好きな人であれば恋愛的な意味じゃなくても良いんですよね?だったら彼女が俺の事を好きで渡してきたかなんて分からないんじゃ……」

「アンタさっきそんなに話した事ないって言ってたじゃない。なら、恋愛的な意味以外での好きって可能性は薄いんじゃないの?」

「……あ、それで言ったら、さっき休憩中にクルミからポッキー貰ったんですけど、じゃあクルミは俺の事好きって事になるんですか?」

「朔月くん凄い事聞くじゃん」

「顔面が良いとこういう質問するのにハードルが低そうで羨ましいわね」

「しかもクルミちゃんが渡したのって絶対自分がつまむ用でしょ……」

 

 ────ああ、やだな。

 彼が人気なのは、喜ばしい事なのに。嬉しい事のはずなのに。見れば見るほどに、不安になってしまう。

 

「……恋って面倒だなぁ……」

「まったくです」

 

 

 ●○●○

 

 

「……よし」

 

 和服から黒のパーカーに着替えを終えて、そこから黒ジャンパーとネックウォーマーという防寒着に身を包み、ショルダーバッグを肩に引っ提げる。

 

(二人、はもう帰ったかな……戸締まりはクルミにお願いするか)

 

 今日の閉店準備は俺と千束とたきなのみ。クルミはいつもの押入れでパソコン弄ってるので実質三人のみである。ミズキさんのシフトは閉店前までだし、ミカさんは今日用事があるとの事だった。

 それでも三人だけというのはかなり珍しい。早々に清掃と戸締り、皿洗いとレジ締めを終えて、千束とたきなの着替えが終わってから更衣室にて着替えを済ませ、その足でフロアへと向かう。

 

「……っと、あれ、たきな」

「お疲れ様です、誉さん」

 

 すると、フロアの座敷にたきなが腰掛けていた。

 いつもの学生服に身を包み、足を床に、膝に手を置いて何とも姿勢が良い。リコリコの制服に限らず、学生の制服って冬寒そうだよな……なんてまったく関係の無い事をフワフワと考えてながら、彼女がそこに居る事の違和感が自然と口に出た。

 

「……帰らないの?」

「……っ」

 

 いつもは直帰じゃん、と追加で伝えると、たきなの肩が小さく震えた。

 え、何かマズイ事言った?……言ったな、これは。たきな何か顔赤いし。

 

「……ゴメン、余計な事言った。俺はもう帰るから」

「誉、さんを……待ってました」

「……ぇ」

 

 背を向けた瞬間、たきなが立ち上がる。振り返ると、心做しかソワソワしながらも此方にゆっくり近付いてくる。

 ……え、ちょ、何何怖い怖い怖い……と少しずつ後退りすると、すぐ背後に店の扉が。狼狽える俺を見てたきなは不満そうに顔を顰めた。

 

「何で逃げるんですか」

「や、だって近付いて来るから」

「私が近付くのは嫌ですか。嫌いですか」

「情緒がもう……な、何か用事?シフト変更なら……」

「違います」

 

 たきなは一度深呼吸をすると、意を決した様な顔つきで、その右手を俺に突き出してきた。その既視感ある光景に、思わず彼女の右手へと視線が落ちる。

 そこには、青のラッピング包装の施された、長方形の物体────……あ、これって……。

 

「……私からのバレンタインチョコです」

「っ、ああ、うん……ありがとう……」

 

 やはり、バレンタインチョコか。その手から受け取り、ジッと見つめる。

 さっき話したばかりの代物だ。中々に関係の薄いクルミや女子高生や、あの後常連の伊藤さんや北村さんにも頂いたので、もしかしたらと思わなかった訳じゃ無いけれど、いざ渡されるとどんな反応したら良いか分かんないな。

 

 ……あ、そういえば。

 さっきバレンタインチョコには“本命”と“義理”と呼ばれる、それぞれで意味の違うチョコがあると聞いたっけ。義理チョコは主に家族や友人、近しい人に贈るチョコで、本命はその名の通り、想い人に贈るチョコ────

 

 これ、聞くのってデリカシーに欠ける、よな。

 ……でも、目の前のたきなの、物欲しそうな表情を見ると、まだ何か言いたい事があるように見えて、思わず。

 

「……あー、えと、ちなみにこれ……」

「っ……私の気持ちは、その……既に伝えてると、思いますが……」

「あ、ああ……じゃあ、うん……そっか……」

 

 ───ああ、聞かなきゃよかった。ただただ恥ずかしい。

 つまるところ受け取ったこのチョコは、たきなにとっての“本命”であるという事だ。俺が改めて聞いてしまったばっかりに見た事ないくらいに顔赤くしていて、つられて俺も────

 

「……っ」

「何で誉さんが照れるんですか」

「や、そりゃ、だって……ねえ?」

「いい加減慣れて下さい。私まで恥ずかしいです」

「そっちがいい加減にしてよ!?俺君に告られるのこれで何回目だと思ってんの!?」

 

 イベントの度に言われてる気がする……最近のたきな魔性過ぎて怖いんだけど。たきなってお堅いイメージというか、恋愛とかオシャレとかに無頓着だし、疎いと思っていたから、こんなにグイグイ来られるとは思ってもなかった。

 

「……」

「……っ」

 

 チラリと視線を合わせれば、露骨に逸らす彼女。

 何でそっちから押して来てる癖に、毎度度初々しい態度なの恥ずかしいんだけど……。

 しかもその対象が自分とか……好意的な感情をダイレクトに伝えてもらった経験が無いだけに耐性なんて皆無に等しい。毎度たきなに翻弄されている。

 

「……誉さんの答えは知ってます。だから、返事を改めて聞くつもりは無いです。ただ『こういうのは気持ちだ』と、店長が……なので、受け取って貰えたら、と……」

「……わ、かった。大事に食べる。ありがとう」

 

 ……そんな風な言い方は、ズルいのではないだろうか。

 こういう時どう言えば良いのかが分からなくて、ズルズルとこんな関係を続けるのは、たきなにも良くないんじゃないか。

 返事は、とっくにしているけれど。

 

「……気持ちは、負けてないつもりです」

「え……ああ、うん……あ?うん?」

「私、こう見えて結構執拗いですよ」

「……あの、見たまんまそういうタイプだよ君」

「……そうですかね」

 

 自覚が無いのか、身に覚えがありませんと言わんばかりに腕を組む。が、少ししてすぐ「ああ、でもそうかもしれません」と納得しながら、小さく笑って。

 

「────私、“一番(ファースト)”を目指してるんで」

「っ……それはリコリスの話でしょ……」

 

 何の一番なのか、誰にとっての一番なのか。聞かずとも彼女の言動が、彼女の態度が、彼女の表情が伝えてくる。

 それを言及する様な度胸も勇気も、今の俺には残ってなくて。たきなはそんな俺を見て可笑しそうに微笑むと、踵を返して鞄を手に取ると、裏に続く扉へと手を掛けた。

 

「え……帰らないの……?」

「私は裏から帰ります。誉さんは表から出てください」

「……?」

 

 意図が読めず、自然と首を傾げてしまう。

 たきなはフワリと軽く微笑むと、俺が手に持つチョコを見つめて。

 

「……それ、千束と一緒に作ったんですよ」

「っ、ぁ」

 

 ────千束。

 その名を聞いて、心臓が一際跳ねた。

 時間をかけて、絆を結んで、紡いでいく内に彼女に対して生まれてしまった感情が、自覚出来るほどに頬に熱を生み出して。

 

「……私を諦めさせる気があるのなら、ちゃんと勝負してください」

「……頑張ります」

「よろしい」

 

「では、失礼しますね」と軽く手を振りながら、たきなは扉の奥へと消えていった。彼女の初めて会った時の印象と比べても、かなり彼女は取っ付きやすくなったと言える。

 よく笑う様になったし、千束と一緒に遊ぶようにもなったし、DA本部に戻りたい意志はまだあるんだろうけど、それだけを見つめ続けるような日々からは抜け出せている様に思える。

 

 そして、────人並みに“恋”もできるようになって。

 

『────私、誉さんが欲しいです』

『……は?』

 

 そんな事を突然聞いてきた時はガチで驚いたし、申し訳ないけど普通に『何言ってんだコイツ』って感じだったなぁ。

 欲しいって……物じゃないんだから、と説教みたいな事をして、告白だなんて露にも思わなかったっけ。照れるとか恥ずかしいとかそんな感情より前に混乱とか困惑が出てきたから驚くよね。

 

 そんなたきなが、錦木と一緒にチョコを作ったなんてエピソードがもう感動ものだったんだけど……たきなが千束(・・)と、という部分を強調していた事から察するに、この店の入口の先で……。

 

 ────……錦木、まさか表口で待って……。

 

 こんな寒い中、一人で?

 そう思った途端に、バッグを背負い直して取っ手を引っ掴み、半ば勢いで扉を開けば。

 赤い制服にマフラーを身に付けて、入口付近のベンチに座って星空を眺めている黄色がかった白髪の少女の儚い姿が。

 

「っ……錦木」

「よっ……お、お疲れ……」

 

 突然声を掛けたからか、肩がビクリと震えた。その後ろ姿が恐る恐ると此方を振り返る。此方を目視した途端にその瞳が煌めき、頬が赤く染まるのを見て────ああ、見なければよかったと後悔した。

 

「……お、つかれ」

「何で吃ってんの」

「お互い様でしょ」

「ふひひっ、だね」

 

 ……顔が熱い、気がする。

 いつからだろう。錦木を見て、こんな感情が芽生え始めていたのは。彼女の在り方に痺れ、彼女の言葉を胸に刻み込んで、彼女の動きを目で追っていたのは。

 

 ────この感情に名前が付いたのは、一体いつだったろうか。

 

「……こんな寒い中、何してんの」

「え、あ、やー……そのー……なんていうか、さ……」

「……風邪、引くよ」

「……っ」

 

 パチリと目が合い気不味そうに、気恥ずかしそうに視線が俯く。

 そんな錦木の思わせ振りな行動の一つ一つが、此方の心臓を強く脈打たせる。

 

「…………待ってた」

「っ……そか……待たせてゴメン」

 

 ──── 勘弁してくれ。そんなに心臓強くないんだよ、こちとら。アンタの人工心臓とは違うんだ。慣れない感情を前に煩くなる心臓を、鷲掴みにしてでも鎮めたい衝動が、君に分かるか。

 

 他にも言ってやりたい事があったけれど、錦木の照れた様な笑みから逃れる様に顔を逸らして、彼女の座るベンチの空いたスペースに腰掛けた。

 何を言ったら良いのか、何を言えば正解なのかも分からず、口を噤んだまま暫くの時間が過ぎる。隣りの錦木をチラリと見れば、彼女も此方を見ていたようでバッチリ目が合って。

 

「「……っ!」」

 

 バッと顔を背けられる。けれど、僅かに見える耳が視認出来る程に赤い。そこから動けずに固まっている錦木を見て、焦燥が生まれつつあった。

 用があるから待ってた、という割に中々切り出して来ない錦木。たきなの言動から察するに、恐らく錦木も俺にチョコをくれる、という事なのだろうが……って、口にすると中々に自惚れが過ぎててキモイんだけど俺。

 

「……」

 

 ……けど、そんな風にされたら。そんな態度を取られたら。

 

(……勘違い、するだろ)

 

 渡すだけなら、こんなに時間かからないだろうに。何をそんな、緊張した様な顔で俯いてんのさ。さっさと渡して、それで解散って……いつもの調子で言ってくれないと、さ。

 どうしたらいいのか、分からなくなる。

 

「……よしっ。さ、朔月くん」

「っ……ぇ、ぁ、うん」

 

 突如、何かを決めたかのように小さく頷くと、千束が此方に向き直る。突然の事で間抜けな声を漏らした俺を前にして、彼女は見慣れた学生鞄の中から赤い包装の長方形の物体を取り出して、此方に差し出してきた。

 

「……ん」

「っ……ああ、うん。あり、がと」

 

 ────言わずかもがな、千束からのバレンタインチョコ。

 たきなから匂わされていたとはいえ、いざ実物を渡されると反応に困ってしまう。思わず出した声は、言葉にならない情けない音で。

 

「えっ、何、その反応」

「や、その……ビックリして」

「……何それ。みんなからも貰ってたじゃん」

「いや、そうだけど。バレンタインを知らない段階で貰うのと、知ってから貰うのじゃ、気の持ちようが違うから……っ」

 

 ────失言だった。思わず言葉を途切れさせる。

 俺は、なんてデリカシーのない話を……と、慌てて千束を見る。すると彼女は、「あー……」と困った様に声を漏らし、誤魔化す様に笑って。

 

「……うん。だと思って、渡しづらかったんだけどさぁ……でも、渡せてよかった」

「……っ」

 

 ……これの為だけに、態々寒い中で。

 室内で待ってなかったのは、たきなが居たからだろうか。だとしても、悴んだ手と鼻の頭が赤くなってまで此処で自分を待っていたかと思うと、堪らなくなる。

 両手を口元に近付けて息を吐きかける錦木を見て、思わず俺は自身の手を伸ばして────

 

 気が付けば、錦木のその左手を握り締めていた。

 

「っ……!?な、うえぇっ……!?」

「……ぁ」

 

 すぐに我に返った。何やってんだ、俺。

 これ完全にセクハラだろやべぇやらかした。すぐに手を離し、目をそらす。

 

「な、え……な、さ、朔月くん……?」

「っ、やー、俺さっきまで皿洗いにお湯使ってたからさ。少しは温かかったでしょ?」

「え、や、あ、の……うん……え、うん……?」

 

 自分の行動に自分自身が一番驚く。いきなりの事で言葉にならない混乱の声を錦木は、顔を真っ赤にして呟き続けていて。

 マジで何やってんだ……何今の気障っぽいムーヴ。恥ずかしくて死にたい。

 

「……錦木、寒そうだったから、反射的に……ゴメン、これは痴漢やセクハラで訴えられても文句言えない。慰謝料は貯金切り崩してなんとかするから……」

「スケールが壮大過ぎる……や、全然気にしてないから。けど、そういう誰にでも優しくするの、よくない。私我儘だし、味占めたら付け上がるよ」

「自己評価辛辣過ぎるな……別に、錦木の我儘ってそんな大した事無いし、特に迷惑に感じた事無いけど」

「────……」

 

 ……ん?何だ?錦木、急に真顔でこっち見てるけど。

 何かおかしい事、言っただろうか。錦木の我儘なんて彼処に行きたい、アレしたい、アレ食べたいって子どもの延長だし、俺も楽しいし、ぶっちゃけ我儘に付き合ってる感覚は無い。

 

「……錦木?」

「……じゃあさ」

 

 錦木は、変わらず無表情のまま視線を下に向ける。

 その視線の先を追い掛けると、俺の右の掌────そこまで自覚した途端、その掌に錦木の左手が再び重なった。

 

「……まだ手、冷たいから……このまま握っててって言ったら、握っててくれる?」

「……っ」

 

 繋がれた彼女の左の掌から辿って、再び視線は錦木へと向けられる。今までになく真剣な表情と、揺れ動く瞳に見つめられて、何も言えず言葉に詰まる。

 普段の明るく、巫山戯た態度の錦木千束はそこにはいない。どこか不安を孕んだ様な声音を耳に、俺はただ錦木を見つめ返す。

 

「……どうなの?」

「え……や、別に、良いけど」

 

 彼女の質問に、ぶっきらぼうに答える。それよりも意識が自身の右手に集約してしまって、彼女の質問への回答どころじゃなかった。

 雑な返事になってしまったけれど、千束はそれに満足したのか小さく頷いて。その瞳を細め、伏せ、下を向いて、目を瞑り。

 

「こうして繋いでてって言ったら、そうしてくれる?」

「そりゃあ、まあ、できるかな」

「私が脚を挫いたりしたら、手を引いてくれる?」

「手を引くくらいなら余裕でしょ」

 

 まるで彼女の不安を少しずつ解消していくように、不思議な問答が始まる。彼女の質問の一つ一つを、特に深い意味も考えずに答えていく。

 

「私が風邪で寝込んだら、家まで来て看病してくれる?」

「急に要求高いな……俺錦木の家知らないけど」

「……じゃあ、教えたら?」

「なら、まあ、できる……けど。何なのこの質問」

「……黙って聞け」

「はいはい」

 

 口答え厳禁。厳しい看板娘である。

 何が楽しくてこんなの聞いてるんだと、ムスッとむくれる錦木を見て小さく微笑みながら、彼女の次の問いを待つ。

 そんな俺を見て僅かに頬を赤くすると、錦木は一度咳払いをしてから再び口を開いた。

 

「私が、さ……買い物行きたいって言ったら、一緒に行ってくれる?」

「……まあ、暇なら」

「私が水族館で魚見たいって言ったら、付いて来てくれる?」

「年パス作らされたしな。全然行くよ」

 

 

「私が、ずっと傍に居て欲しいって言ったら……居てくれる?」

 

「……ぇ」

 

 

 ────自然と、視線が彼女の方へ。

 向けば彼女は変わらず俯いていて、その前髪に隠れて表情が読み取れない。何を考えているのか、今の質問の意図は何なのか、錦木の表情から意味を見出す事が、現時点では難しかった。

 

「……ねぇ。それって、そういう意味で言ってんの?」

「……うん」

 

 小さく、消え入るような声。

 紡がれた指先が、僅かに震えているのが分かる。いつも感情のままに行動し、発言するはずの錦木が、俺に質問する度に震えて、怯えて、怖がっている。

 ……何だよそれ。全然、らしくないじゃんか。

 

「……まあ、居られるかな」

「────……っ」

 

 その俺の答えを聞いて、僅かに吐息が漏れるのを耳にする。呼吸さえもが震えているように聞こえて。

 か細い声が、再び質問を紡いでいく。

 

「私が家で一緒に映画を見たいって言ったら、一緒に見てくれる?」

「見れると思う」

「私が朔月くんと……その、一緒に生きていきたいって言ったら、叶えてくれる?」

「……うん」

 

 ……なあ、錦木。

 良いの?こんな質問して。これ、もう、隠せてないぞ。

 

「私、自分の事ばっかで、迷惑かけるかもしんないけど……それでも、良いの?」

「またそれか。“やりたい事最優先”、だろ?今に始まった話じゃない。余裕だよ」

 

 その在り方に憧れて、魅入られて、惚れてしまったんだから。

 そこを変えられてしまったら、困るんだ。だから、そのままで良いんだ。

 

「もしかしたら、結構重めかもしんないし……」

「体重の話?痩せれば良いだろ」

「天然要らないから……気持ちの話」

「あー……別に良いんじゃない?それだけ大切に思ってくれるって事でしょ。それに応えられるように、頑張るよ」

 

 自分で聞いといて、何で涙声なんだよ。

 自信無い癖に、自分卑下するような事言うなよ。

 何をそんな必死になって、何かを繋ぎ止めようと頑張ってるんだよ。そんな必要、最初から無いんだよ。

 

「私……えと、私、ね、他にもね……えっと……」

 

 肩が、唇が、繋がった指先が震えている。

 下を向いてなお表情が見えない彼女の感情が、なんとなく読み取れた気がして、小さく息を吐いた。

 

 ────ああ、そうだ。全部大丈夫だよ、錦木。

 

「錦木」

「……!」

「もういいよ」

 

 繋いだその手を、強く握る。

 決して離れぬように。零さぬように。

 

「……悪かった、全部言わせて」

「……」

 

 鼻をすする音。涙を含んだ呼吸。

 白くなる吐息に、肌を刺すような冷たさ。今にも潰れてしまいそうな錦木を見て、ポツリと呟く。

 

「俺、さ。言ってなかったけど、余命宣告されてたんだ」

「……ぇ」

「入院、としか皆に言ってなかったけど。何度か生死を彷徨った事もあるんだぜ」

 

 自慢になんないけどな、と自虐的に笑って、ふと目を細める。懐かしむ様に過去を振り返り、想いを馳せる。

 

「その死の間際に思ったんだ。何にでもなれるって言ってくれた人がいたけど、自分の在り方や生き方次第で、何者にもなれず死ぬのかもしれない」

 

 誰かの為になる知識を脳に叩き込み、時間と情熱を注ぎ込み、何者にもなれて、万人の救いになれるような、そんな存在になれたはずだった。

 けれど、何も成し遂げずに死ぬ事もあるんだと、誰の記憶にも残らず死ぬ可能性もあるんだと、それを認識した時、何故かそれは、とても恐ろしく感じた。

 

「退院して、これからどう生きるのが正しいかって悩んでた時に、偶然錦木を見かけたんだよ」

「……私?」

「そう。何度かね」

 

 幼稚園で子どもと戯れている錦木、老人の荷物を運んであげる錦木、ヤクザや外国人とも、すぐに仲良くなれる、太陽のように笑う彼女に憧れた。

 その在り方と生き方に、正しさと、理想を見出していた。

 

「誰かの為に、その想いを傾ける事ができる。こんな人が外には居るんだって……病院出て初めて感動させてくれたのが君だった」

「……」

「だから、これまで君の行動に一喜一憂して、君の言葉を胸に刻み込んで、君の事を目で追っていたのも……全部、俺が錦木に憧れているからだって……“羨望”なんだって……ずっと、自分に言い聞かせてた」

 

 多分、そういう“一目惚れ”だった。

 恋を知らない俺が、それを実感するのにはかなりの時間を有したけれど。

 

「けど、錦木を見てきて思った。別に錦木は、正しく在ろうとしてた訳じゃない。自分を必要としてくれる人にできる事をしてるだけの、普通の女の子だって。それを知ってるから……きっともう、“憧れ”だけじゃない」

 

 彼女に正しさや理想を、無責任に押し付ける事を止めてなお、彼女は自分の瞳には輝いて見える。それは、羨望や理想とはまた違うのだと、今はもう自覚出来る。

 

「────千束(・・)。君が好きだよ」

 

「……っ、ぁ」

 

 漸く形になった、感情の名前。

 これが正しく“恋”なのかは、まだ不明瞭で不確定だけど。

 ────けど俺は、錦木に抱いているこの感情を、“恋“にするのだと決めているから。

 

 錦木は、ただ顔を紅潮させながら此方を見つめて。

 嘘だと言わんばかりに、信じられないと言わんばかりに、驚愕を含んだその顔があまりにも間抜けで。

 

「……くくっ、なんて顔してんだ」

「えっ、うえっ」

「アンコウみたいな顔してたぞ」

「ちょっ、見んなっ!」

 

 右手で自身の顔を隠そうとする錦木を妨害する様に、繋がった左手を引いて立ち上がらせる。驚いて顔を上げる錦木を見て、可笑しく笑いながら、その手を引いて。

 

「帰ろっか。風邪引いちゃうし」

「え……あ、うん……や、ちょ、待って!」

「待たない。寒いし帰りたい」

「ま、待ってって!ね、ねぇ、ホント?ホントに、私の事好きなの!?」

「凄い恥ずかしい事聞くじゃん。俺錦木に嘘吐いた事あった?」

「割とあるじゃん!」

「やっぱり日頃の行いって大事だよね」

「誤魔化すなってぇ!」

「言わなきゃ分かんないの?」

「言って欲しい時だってあるでしょ」

「それなら俺はさっき言ったし。寧ろ錦木から聞いてないな」

 

 そう言うと、錦木の足が止まる。

 思わず振り返れば、錦木は此方を見上げていて。

 

「────好きだよ、()

「……おおん」

「ぷっ、くく……何その返事……!」

「……にゃろう」

 

 仕返しか、いい度胸だ。

 俺はその手を強く握る。決して離れないように。千束はそれを認識してその頬を赤らめて、フワリと微笑んだ。

 太陽のような朗らかさを残したまま、此方の指先に指先を絡めて、小さな声でつぶやいた。

 

 

「ホントだからね」

「……ああ」

「本命だかんね」

「分かってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 千束「……ていう夢を見たの!」

 

 クルミ 「かなりの重症だな」

 

 たきな 「私を巻き込まないでください」

 

 ミズキ「夢の中でくらい私に良い男出しなさいよ!」

 

 誉 (凄い気不味いんだけど、聞かなかったフリとかできないかな)

 

 

 








今日がバレンタインと知って、21時からの3時間で適当に書いた話なので、キャラ崩壊とかクサイ台詞とか文の推敲とか何もしてなくて笑える。
原作とも本作品とも無関係な遊びのストーリーなので、あくまで二次創作として楽しんで下さい。


ほまたき√が見たい方……いる?
アンケートではたきな√希望まさかの最下位だったけど……ミカさんよりも下だったけど……もしかして人気無い?(白目)


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