行きつけの喫茶店の珈琲が美味   作:夕凪楓

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忘れるなと声がする。刻まれたそれは呪いのように──。



Ep.6 I need you like a heart needs a beat.

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、私らこっちだから」

「え……あ、そうなのか」

 

 幼稚園から離れた後、千束が誉にそう告げる。片方の手でたきなの制服の裾を摘んで、もう片方の手を彼に向かって振っていた。視線を誉へと向けると、彼は少しだけ考えたように顔を顰めた後、

 

「……仕事?」

「え?あー、うん。そんなとこ」

「それ、俺も手伝ったりできるやつ?」

「っ……」

 

 仕事───と、彼は言った。ただ千束の言葉が確かなら、彼はリコリスとしての我々を知らないはずだ。恐らく十中八九、喫茶店の仕事の範疇だと思っているだろう。

 しかし実際はリコリスとしての裏の仕事……一般人に務まるものでは無い、というより一般人に話すわけにはいかないものだ。

 先程チラリと見るだけだったが、隣りにいる千束は隠し事がそれ程上手く無いように思える。どう答えるのか、それとも此方がフォローした方が良いのかとたきなが思考を巡らせていると、錦木は意外にも笑顔で受け答えた。

 

「だいじょーぶ!たきなにも色々教えないとだし、仕事って程のものでもないから」

「……そっか、分かった。じゃあまた職場で」

「うんっ!……あ、ねぇ、次シフトいつ?」

「え?や、明日開店からだけど……何かあった?」

「んーん、“また明日”って言いたかっただけー」

「……そうですか」

 

 ────私は一体何を見せられてるんだろうか。

 重ねて言うが、我々リコリスという存在は出自と機密性もあって個人の時間が限られている。他の同年代と同じ生活や時間を過ごせてるわけではない。

 何が言いたいかというと、つまるところDAに在籍するリコリスの殆どが恋愛経験の無い女の子であるという事。常に危険と隣り合わせであるが故にそんな感情に振り回されたり、うつつを抜かしている場合では無いのだ。

 

 そんなエージェントのトップとも呼べる存在である錦木千束が、およそ優秀なのかと疑いたくなる程に緩み切った表情を見せているのだ。恋愛感情や経験に乏しいたきなでさえ、明らかにデレデレしているのが分かる。こんなの、他のリコリスに見せられない。

 彼女をそうさせてしまう目の前の彼が、気にならないはずがない。トップエージェントが惚れ込んでしまうのだ、よっぽどの技術か、もしくは何か素質素養、とにかくそういった部分で惹かれるものがあったはず。

 その秘密が分からないかと視線を巡らせていると、再び誉と目が合ってしまった。

 

「……あの、何か付いてます?」

「っ……いえ、何でもありません。すみませんでした」

 

 ペタペタと自身の顔を触り始める誉を見て、たきなは慌てて目を逸らした。一般人に悟られる程、食い入るように見てしまっていたのかと反省しつつ、小さく頭を下げた。

 

「それと、特に敬語は必要ありません。あの店では私の方が後輩ですし、年齢も変わらないでしょう」

「……わ、かった。よろしくね、井ノ上さん。そんな固くならなくても、気軽に話してくれれば大丈夫なんで」

「固いかどうかに関しては朔月くんは人の事言えないよねぇ」

「なんだとぅ」

 

 再びたきなの目の前でじゃれ合う二人。というか、ちょっかいを出しているのは錦木ではあるが、誉も特に嫌そうな感じではない。

 しかし、見れば見るほど一般人という感じだ。千束が惹かれるような才能や特技、素質があるかもしれないという推理は、間違っていたかもしれない。

 そう思っていると、『じゃあ行くね』と千束が告げた。誉もそれに頷いて、手を振りながら此方に背中を向け……ようとして、クルリと振り返った。

 

「じゃあ二人とも、“また明日”」

「────! うん、また明日!」

 

 誉の挨拶に、千束が本当に嬉しそうに答える。それを横目に、再び誉と目が合う。今度は私の番だと、言わんばかりに。

 おずおずと覚束無い右腕がソワソワと上がり、錦木と同じように手を軽く振って。

 

「……また、明日」

 

 絞り出すような声でそう言った。彼は満足したのか、踵を返して真っ直ぐと歩いていく。その背を、錦木は愛おしそうに眺めていて。たきなは、ゆっくりとその腕を下ろした。

 正直、彼からはエージェントとしての素養みたいなものを感じない。話を聞く限り、DAやリコリスに関しても何も知らない様だった。

 

「……本当に、一般人なんですね」

「そう言ったじゃん。疑ってたのー?」

「別に。尚更関わるべきではないと思っただけです」

「何よ急に、朔月くんなんか気に触るような事した?」

「……いえ」

 

 一般人。そう割り切ってみてしまえば、彼は普通に善人に思えた。正直、たきなも同年代の異性と交流があった訳ではない。だから男性がどういうものなのかを理解し切れていない部分もある。けれど、誉は初めて会った時から丁寧な対応をし続けてくれている。

 だからこそ、思ってしまうのだ。

 

「……良い人、なんだと思いました。だからです。今からでも、巻き込まないように距離を置いた方がいいんじゃないですか」

「たきなぁ……」

「そのうち────」

 

 渋る千束を遮るように、これだけは伝えなければと口にする。

 DAにとって。リコリスにとっては、隣りにいたその人が次の日には死ぬなんて事が、当たり前に起こるのだから。

 

「……そのうち、“また明日”が言えなくなるかもしれませんよ」

 

 あれだけ楽しそうに、幸せそうに話しているからこそ、言わなければならない。その日常が続くのが一番だと思うからこその助言であり通告。

 それでも、それを聞いた千束の表情はさほど変わらなかった。

 

「────分かってるよ」

 

 その笑った顔は、どこか今までのと違って見えて。

 

「分かってるから、大丈夫」

「……そう、ですか」

 

 達観したような、満足したような、そんな笑み。

 決して道楽などではないんだと千束の瞳が告げていた。まるで短い間だけでもと、縋るような瞳にも感じてしまって。

 まるでそれが、いずれ終わりが来ると分かっているみたいだったから。

 

「さて!朔月くんも行ったし、お仕事再開しよっか、たきな!」

「……はい」

 

 ────それ以上、千束のその表情の意味を探る事はできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 当たり前ではあるのだが、図書館では常に静寂が漂っている。煩くしてしまえば周りにとって異分子ではあるが、この中に身を置くだけで集中力や感覚が研ぎ澄まされるような気がして、何か覚えたい事がある時は決まって此処に足を運んでしまう。

 

「“珈琲は北回帰線と南回帰線の間(コーヒーベルト)の約70カ国で生産されており、そのコーヒー農園でコーヒーノキの栽培と果実の収穫が行われる”……」

 

 珈琲の歴史をスマホで調べつつ、必要な部分を探しながら読み進めていく。いつか、珈琲に興味を持ってくれた人が現れた時に、歴史からでも教えてあげられるように。

 

「“珈琲は、植物学的には『アカネ科コフィア属』に分類される樹木の種子が原料。商業的に使われるものは『アラビカ種』『カネフォラ種』の2種に限られる”……」

 

 珈琲の商業的価値や種子の種類と特徴を復唱しながら、珈琲の歴史を紐解いていく。珈琲の種類を尋ねられた時に、説明ができるように。

 

「ブルーマウンテン、キリマンジャロ、グアテマラ、コスタリカ……」

 

 コーヒー豆の種類を口ずさみながら、それぞれの味の特徴をメモ帳に書き記していく。珈琲が苦手な人でも、その人にあった味を考えて、提供する事ができるように。

 

(────楽しい)

 

 その青年───朔月誉は、昔から凝り性というか、一度始めると納得するまでどうにも止められないのだ。誉自身でも困ってる部分ではあるけれど、時間を忘れるくらいに没頭できるというのは、暇を潰せて自分の為にもなるし、一石二鳥の性格だなと少し得してるくらいだとも思っていた。

 

 元々インドアというか、外に出ずに本を読んだり勉強したりする日々が主ではあったので、こういった勉学も別に苦ではなく、寧ろ興味があったものを突き詰める事ができる楽しさを感じていた。

 現在目線を落としている本も、たった今読み終わってしまった。

 

(次、は……あー、英語か……いや、そのまま読むか)

 

 本を換えようか迷ったが、そのまま読み解いていく。日本だけではなく外国目線でのコーヒー観がどんなものなのかを感じながら、その場で和訳しメモに記していく。

 他にもロシア語、イタリア語、フランス語……etc、それぞれの言語での教材で机に本の山を作りながら、一つ一つを読み進めていく。

 

 調べれば調べる程に、色んな種類のコーヒー豆があって、それぞれで味や深みが違う事、それによって焙煎の仕方や珈琲の入れ方なども変わる奥深い嗜好品である事に気付かされる。

 これを意図も容易く操るリコリコの店長ミカさんには、最早尊敬の念しか無い。流石ですマスター、と心の中で独り言ちる。

 きっと、あのレベルに達するまでに相当の努力を重ねたに違いない。素人かつ苦いのが苦手な俺でさえ、珈琲を美味しいと感動させてしまうのだから。

 

 ……ただ、チェーン店ってコストとか手際とかも考えて普通はドリップマシンとかコーヒーメーカーとかの機械での抽出が主だと思っていただけに、人が手ずから抽出するというのは珍しいのではないのだろうかと思ってしまう。その人の力量や技術で味の全てが変わると言っていい。DAってまさか優秀な人材が豊富なのでは。

 もしも自分がこれらの知識を持って、経験を重ねて、そうして珈琲を淹れる事ができたら、ミカさんの淹れる珈琲みたいに、飲んだ人が笑ってくれるようになるだろうか。

 

「……」

 

 

 錦木も、また笑って飲んで────

 

 

(っ……いや、何考えた今)

 

 一瞬、初めて自分の淹れた珈琲を楽しそうに飲んでくれた錦木の表情を思い出した。あんな付け焼き刃で、それも生まれて初めて淹れた珈琲を、あんなに楽しそうに、嬉しそうに飲んでいた彼女の顔を、実は今でもふと思い起こす事がある。

 

「……錦木はついでだ、ついで」

 

 あくまでも二の次だ。まずはミカさんとミズキさんに飲んでもらおう。そう心に決めた瞬間に、錦木の『なんでー!!』という声が脳内で響いたような気がして、誉は小さく微笑んだ。

 近くに居ない時でさえ此方を振り回し始めてきている事実に、彼女の破天荒さが見えた気がした。いてもいなくても、喧しい奴。先程別れたばかりだというのに、まだ近くにいるような気がする。

 

(あ……あと、井ノ上さんにも)

 

 あの後、幼稚園で別れて錦木と井ノ上はそのままどこかへと向かってしまった。恐らく外回りの営業───と誉は思っているのだが。

 何はともあれ、新しい仕事仲間が増えた事に関しては、誉としても嬉しく思う。ましてや同年代だ、仲良くやれればいいなぁなどとフワフワ考えていると。

 

 物音しない静寂の中で、パラパラと紙をめくる音だけが耳に心地好く残り────

 

「……っぶね、寝るとこだった」

 

 いつの間にか目蓋が重くなっていて、ページが一向に進んでなかった。ふと時計を見ればこれから夕飯の準備を始めてもおかしくない時間帯だった。辺りを見渡せば、残っている人は殆どいない。

 

「……帰るか」

 

 随分と長い事此処に居たらしい。毎度の事だが、集中し過ぎるとついつい時間を忘れてしまうのだ。筆記用具とメモ帳をリュックに仕舞い込み、慌てて図書館の入口へと向かう。

 すると、カウンターに腰掛けていた女性職員と視線が交わる。その人は、此処に来るようになってから何度か顔を合わせている人だった。

 

「いつもご利用ありがとうございます」

「あ、はい。今日もお邪魔しました」

「今日は珈琲の教材を読んでましたよね。それも色んな言語……凄いですね」

「へ……ああ、ありがとう、ございます……?」

 

 最近、顔といい色んな場面で褒められるな……そんなに煽ててみんな何が狙いなんだろうか。そのうち何が要求されるのではと震えてるまである。

 ただ昔に勉強する機会があっただけなのだが、そんなに褒められると自信が付いてきてしまう。なんとなく嬉しくなり、つい職員に感謝の気持ちを伝えるべく頭を下げた。

 

「珈琲の事調べてるの初めて見ましたけど、好きなんですか?貸出も全然できますけど……」

「あ、大丈夫です。もう覚えたんで(・・・・・・・)

「覚えたって……あの量の本、全部……?」

「はい。ありがとうございました。また来ます」

 

 誉は、ただ踵を返して図書館を後にする。

 司書は、なんとなく彼の言動に違和感を残しつつも、滞っていた作業に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 外に出れば、もう既に日が傾いており、寧ろ夜を迎え始めていた。まだ外は冷える時期であり、両腕を擦りながら歩道を歩く。普段なら電車か自転車なのだが、今日は午前中の天気が良かった為歩きを選択していた。

 本来なら、お店に顔を出して勉強する予定ではあったのだが、偶にはこういう休日も存外悪くない。リコリコに出会う前は、毎日こんな過ごし方をしていたような気がする。

 

「……今からならリコリコ戻っても平気かな」

 

 時間も時間だし、錦木達の外回りも流石に終わっているだろう。集客目的でリコリコの広告塔として歩き回る錦木と井ノ上には頭が上がらない。

 リコリコってそんなに経営状態悪いのだろうか、とか無粋な事を考えてしまったりもするが、朝会った時に錦木が楽しそうだったので、まあいいかと軽く流していた。

 

「……」

 

 ────なんとなく、胸を掴む。

 心臓は変わりなく、安定的に脈を打ってくれている。視界も良好で、頭も痛くない。呼吸が苦しいなんてことも無い。至って健康そのものだ。

 軽く息を吐いた。安堵の息か、肩の荷が降りたような気分。峠を一つ超えたかのような達成感。力が入らなかった身体の細部までもが、今は回復し切っている。

 手のひらを広げたり、閉じたりを繰り返し、

 

「……ん。なんともない。普通に健康体」

 

 そう自分に言い聞かせるように呟いた。

 実際、今は普通に元気である。ただ、最近運動をまったくしてこなかっただけに、少し歩いただけでも疲労が溜まるというだけ。

 やはり、常日頃から運動はしないと身体に良くないな。これからは歩いてリコリコまで向かう頻度を少しずつ増やしていこう。そう心に決めつつ、住宅街に入った時だった。

 

「こんばんは」

「あ、こんばんは」

 

 ふと視界端に、年上っぽい眼鏡の女性が歩いてきているのが映った。知り合いでもなんでもないのだが、すれ違ったら会釈をするのは誉の信条みたいなものだった。彼女も此方に反応してくれて、同じように小さく頭を下げてくれる。

 お互いにすれ違い、特に何も無くそこを後にした。

 スマホを取り出して、帰路へのルートをなんとなくマップで調べながら、近付いてきたワゴン車が通りやすいように道を開ける。こういう狭い路地だとああいう大きめの車は通りにくいよなぁ、なんてフワッと考えた時だった。

 

「っ、きゃあああっ!」

 

「……“きゃあ”?」

 

 すぐ背後から聞こえる、車の扉の開閉音。

 そして、つい先程聞いた気がする、甲高い女性の声に、誉は思わず振り返った。

 そこには、

 

「動くんじゃねぇ!ジッとしてろ!」

「ンンッ、ン────!」

 

 ────たった今すれ違った女性を麻袋に入れ、ワゴン車の中に押し込もうとする、ツナギでグラサンで金髪のヤベー男が居た。

 生まれてこの方見た事の無い光景に、誉が一瞬固まってしまったのは仕方が無い事だった。

 

(────っ、えっ、は、なにやって)

 

 誉は身体の向きを反転させ、ワゴン車に向かって駆け出す。彼が何をしようとしてるかなんて、一目瞭然だった。女性一人を拉致、誘拐。何が目的かなんて言うまでもない。

 一対一なら、勝機はあるか────?いや、考えてる場合じゃない。連れ去られる前に何とかしなければ。くそ、間に合え。

 その男が暴れる女性を無理矢理車に押し込んだのを視認しつつ、車に乗ろうとしたその男の腕をなんとか掴む。

 

「おい、何してんだっ!」

「な、なんだお前!」

「おい、ガキに見られたぞ!」

「えっ……うわ、めっちゃ人いる」

 

 男性の声が車の中から複数。恐る恐る、男から車へと視線を傾けると、同じくツナギでグラサンと男が一、二、三、四……おいおいなんだよこの数は……。

 思わず、気の抜けたセリフを零してしまった。そんな場合じゃないんだけど。

 というか、この人数は流石に想定外────

 

「くそっ!おい、そのガキも入れろ!」

「は、えっ」

「おらっ、こっち来い!」

「やっ、ちょ」

 

 ヤバい、此方も対象らしい。

 くそ、コイツら男でも女でもイける口か。マズイ捕まる、貞操の危機だ。説得して分かってもらうしかない。

 

「早くしろ!」

「無理です!LGBTに理解ある方ですけど俺自身はノーマルなんで!」

「何勘違いしてんだテメェ!良いから来い!」

 

 あれよあれよと車に押し込められ、扉を締められる。車の中の一人に両腕を後ろで抑えられ、その痛みで表情を歪めた。

 目の前には、麻袋に詰められ上半身が隠れた女性の姿。位置は良く分からないが、恐らく頭部であろう箇所にはもう一人の男が拳銃を突き付けつつ、もう一人が女性のバッグを漁り始めている。

 

「……それって銃刀法違反じゃ」

「うるせぇ!黙ってろ!」

 

 ……や、スルーしてたけど何故コイツ拳銃持ってんだ。日本では銃なんてそもそも手に入らないぞ。というより、男が女性を拉致する理由なんて一つしかないと思っていたが、もしかして別の目的か?でなければ銃なんか使う理由がない。

 バッグ漁ってるし、金目のものが目当てなのか?なんとか聞き出すか?それとも、説得してみるか?

 

「……あのさあ、女性一人を四人でって悲しくならない?それもグラサンにツナギって何そのカッコ、ウケんだけど。仕事帰りに犯行に及んでるの?」

「黙ってろって言ってんだろぉ!?」

「痛い痛い痛い!腕!変な方向に決まってるから」

 

 くそ、コイツら取り付く島もないな。女性一人に対しては四人体制の癖に俺を捻るのは一人で十分とか心外過ぎる。と、舌打ちしていると目の前の男が女性のバッグからスマホを取り出してホーム画面を開いた。

 ちょ、コイツらプライベートってかプライバシーの侵害だぞそれ。もしかしてそのスマホの中身が目的?……女性一人のスマホ見る為に四人がかりってなんか……うん。

 

「写真あったか!?」

「ありました!」

「さっさと消せ!写真は他には拡散してないか!?他には撮ってないか!?」

「っ、どうなんだっ!?」

「────!?────!!」

 

 “写真”……?それが奴らの目的なのか。いや、それどころではない。

 女性に再び銃が突き付けられるのを見て、誉は勢い良く後ろに向かって飛ぶ。自身の腕を固めていた男性の背を思い切り背後の扉に打ち付けてやる。

 流石に黙ってられない。拳銃突きつけて脅すような奴らに、屈する訳にはいかない。

 

「ぐぁっ……!テメェ……!」

「なんだよ、女性一人拉致すんのに四人もいないとできないような腰抜け共怖がりゅと思ったのか?」

「噛んでんじゃねぇか」

「言うなよ恥ずかしい。ゴメン、もっかい言い直して良い?女性一人拉致すんのに」

「うるせぇよマジで」

 

 ダメか。時間稼ぎにもならないっぽいです。

 しかし車は止まったまま進んでないから、このままこの停車に違和感を抱いてくれる人が近くを通ってくれれば、警察に連絡をしてくれるかもしれない、今自分にできる事は、彼らが逆上し女性を殺さないよう、ヘイトをこちらに向けさせられればと思ったのだが────と、その瞬間。

 目の前で、銃口を突き付けられていた。女性に突き付けていたその銃を、今はこちらに向けている。

 

「テメェに用はねぇんだ、暴れんじゃねぇよ。殺すぞ!」

「……それ、脅してるつもり?悪いけど、死ぬのなんて怖くないよ」

 

 ────殺す。

 嫌に生々しいその言葉に、ドクリと心臓が音を立てる。その一言を耳にした瞬間、死のイメージが脳裏に焼き付く。自分の中で思い描いていた、死という概念が脳を支配していく。

 そのトリガーに、指がかかる。その指先と筋肉の動き、サングラス越しの視線がよく見える。どのタイミングで撃つのか、あと何秒後か、どこを狙おうとしているのか、研ぎ澄まされる集中力の中で奴の一挙手一投足を見逃さない。

 殺せるもんなら、やってみろ────そう、瞳で訴えたその時だった。

 

 ────パリン!

 

 前方から、何かガラスが割れるような音。左を向けば、車のフロントガラスが波状のようにヒビが入っていた。

 続いてもう一箇所、砕け散るような音と共に再びフロントガラスに穴が空く。蜘蛛の巣のような形で広がっていく。

 

「ぐわぁ……!」

「なっ……!?」

 

 犯人のうちの一人、運転手が急に肩を抑え出す。思わず視線を向ければ、肩から夥しい程の血が吹き出していた。

 突然の出来事にわけも分からずに固まる誉。しかし、外から僅かに聞こえる音と窓ガラスの割れ方、そして目の前の男が肩を貫かれている事実に、一つの結論が導き出せる。

 

「……発砲?」

 

 ────この感じ、音はしないけど銃撃か?

 

 

『取引した銃の所在を言いなさい!』

 

 

 ……外からなんか聞き覚えのある声したんだけど。

 

 

 

 

 










誉 「大体、何の目的でやってるのこれ、女性目当てじゃないならお金?君たちお金の為にこんなことやってるの?なんか可哀想だなぁ。俺なんてこの前宝くじ当たっちゃってさ、良ければあげようか?ほらこれ、三千円当たったの」

グラサン1 「要らねぇよ!」

グラサン2 「バカにしてんのか!?」

沙保里 (な、なんか犯人と仲良さげじゃない……!?共犯!?共犯なの……!?)







誰が好き?誰を推す?ルートは?

  • 錦木千束
  • 井上たきな
  • まさかの両手に花
  • ちさたきを見て『てぇてぇ』とか言い出す誉
  • ダークホースクルミ
  • み、ミカさん……!?

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