しゅわしゅわポンチな恋模様が書きたいという欲望と両片思いと独占欲をこじらせるの可愛いよねという性癖で煎じたノスロナです。
当初はロナル子ちゃんもノースディンも殊勝というか健気だったけど推敲してる内にどっちもふてぶてしくなったというか愛憎みたいなのが溢れてきました。割れ鍋に綴じ蓋っていいですよね。
※能力の仕組みというかあれもこれも全て幻覚です。
楽しんでいただければ幸いです。
あの夜にノースディンが犯した致命的な失敗とはボンデージに着替えさせられたこと――ではない。もちろん、屈辱を感じなかったわけではないが、自身のアイデンティティであるナンパ師としての矜持が傷つけられたことに比べれば些事だ。
――まさか、ロナルドが「女」だったとは。
親友からの伝聞と自叙伝における描写に加え、ドラルクの隣に並ぶ姿はいずれも男のそれだった。そこへお粗末な女装が重ねられたものだから、すっかりロナルドという人間は「男」だと誤認させられてしまったという訳だ。そのせいで、街全体に魅了をかける際もロナルドを対象から外してしまった。
それでも、たわわが露わになったタイミグはチャンスだったし、実際に狙いを定めろうとしたのだが口説くよりも先に咲いたり散ったりと忙しい弟子の局部によって台無しにされたのだ。
師匠としての役目こそ果たせたが、ナンパ師としては痛恨のミスである。
故に、ノースディンは再び新横浜に舞い戻ってきた。そう――
「というわけで、今宵は君を口説きに来たよ。レディ・ロナルド」
「帰れ!!」
「私にもナンパ師としての矜持がある以上そうはいかない。さぁ、大人しく口説かれてくれたまえ」
「あんたの道楽に俺を巻き込むんじゃねぇ!!!」
見つめ合うには最適のはずだった二人きりの路地裏に、ロナルドの怒号が木霊する。
「……ほぉ」
余人なら出鼻を挫かれるのだろうが、ノースディンはむしろ感心していた。
昨日の今日でこの
新年会で竜公が作ったすごろくを人間だてらに踏破したという話も、あながち心労で記憶が混濁したドラウスの与太話ではないのかもしれない。
「……ふむ」
先制がてら視線にこめた魅了を弾いたのは、この気骨といったところか。それならば、
憤慨するロナルドの姿を余すところなく視界に捉えながら、ノースディンは微笑んでみせる。
「そう釣れないことを言わないでおくれ、レディ。あの享楽主義(わがまま)な弟子をも相棒として受け入れた温情を、どうか私にもわけてくれないだろうか」
「……んな、大袈裟な」
「そんなことはない! 君の美徳だよ」
心からの感嘆で紡いだ言葉の一つ一つに、情動をこめた身振り手振りも添える。まさに全身全霊をかけて、ノースディンはロナルドに迫った。
「美しい人には、美しい心が宿るのものさ」
「うっ、ぅうっ、美しいっ!? 俺がっ!?」
「……?」
照れている――にしても、ロナルドのたじろぎっぷりはそれこそ大袈裟だった。自分を含めて大勢の男がいる場で堂々とビキニ姿をさらけ出していたからには男慣れしているに違いないと踏んでいただけに、面食らってしまう。
だが、チャンスはチャンス。今度こそ逃すわけにはいかない。
「そうとも」
深々と頷いてみせながら、ノースディンは目を細める。
「君は実に美しい存在だ。月の光を紡いだ髪も、雪よりも無垢な白磁の肌も、私には慕わしくてたまらないのに……吸血鬼の身でありながらその双眸で我が身を蒼穹に映す奇跡さえ与えてくれる」
「き、奇跡って……そんなにかなぁ!?」
「むしろ奇跡という言葉が君のためにあるのだろうね。そんなありとあゆる美しさが、どれだけ腕のいい人形師でも再現できない愛らしさを象った顔に宿っているんだ。誇るといい」
「……そっか。ふっ……へへっ……あんたは俺のこと、そう見てくれるのか」
――堕ちた。
ノースディンが勝利の手応えを確信した矢先、ロナルドはにわかに見開いた瞳をぐっと強く閉じた。そして
「いや……でも、そういや言ってたもんな。女の子なら誰でも口説くって」
ノースディンが褒め称えたばかりの全てを、くすませるようにはにかんだ。
「ありがとうな。クズ野郎」
あどけない笑い方も、頬どころか耳さえ染める朱も、彼女が自分の言葉を正しく理解していることの証左だ。それにも関わらず、ロナルドはノースディンと対峙し続けていた。
「っ!?」
視覚と聴覚とで食い違う情報が、驚愕と困惑となって脳を揺さぶる。
咄嗟に動揺を悟られぬよう表情を笑みで律するノースディンだが、皮肉にも、それ故に加減を間違えた。力を入れすぎた唇が、声をこわばらせる。
「どういう意味かね?」
「そのまんまの意味だよ。俺ってちっとも女の子らしい格好してないし……ってか、そもそも退治人(ハンター)やるのに夢中すぎて、さっきまで自分が女の子だってこと自体忘れてた。褒められそうな部分探すの大変だっただろ?」
謙遜するでも、卑下するでも――ましてや皮肉るでもなく
「それなのにあんな風に口説いてくるだなんて、ほんとすげぇよ」
ロナルドはただただ感心していた。相も変わらず魅了されているようには見えない無邪気さで。
「……っ」
ぎり、と。
噛み締めた奥歯で悔しさごと前言の全てを磨り潰す。
もはやロナルドに対して、可愛さ余って憎さ百倍としか形容しようがなかった。
それでも、ここでロナルドを切り捨てるわけにはいかない。例え罵られようと拒絶されようと、ノースディンにはこの世に存在する女のすべてをナンパしなければならない理由があるのだから。
「さすがは歴戦のハンター、素晴らしい精神力だ。だが、君が女の子である事実は変わらない」
「……だったら何だよ」
ロナルドは怪訝そうに眉を顰める。ひしひしと鋭い警戒心が肌を突き刺してくるが、ノースディンとて無闇に仕切り直したわけではない。
「改めて宣言しよう。私は誠意をつくして君をナンパする」
魅了が効かなかった理由は意思の強さではなく、ロナルドの自意識が「女」よりも「退治人」に傾いていたせいなのは先程の返答からわかっている。
「……」
想定外といえば、婚前交渉どころか同棲にすら目くじらを立てそうな親友と女の扱い方も教え込んだはずの弟子の対応もそうだが――それぞれ享楽主義と生真面目がすぎるせいか一周回って似た者同士な親子のことだ、ロナルドを「ロナルド」として受け入れたに違いない。もっとも、彼女の天秤の振れ幅は彼らの影響も含んでのものであるとも考えられるので、男だと誤認する元凶になった件はチャラにしてもいいだろう。
そんなことよりも
「……なにが誠意だよ」
確かに聞き逃さなかったそれと同じ、心の一番柔い部分から絞り出す声の方が重要だ。
「女の子なら誰でもナンパするくせに」
ノースディンの所業を非難しながらも、贈った口説き文句までは否定しないいじらしさが、彼の確信を証明した。やはり彼女は男慣れしていない――どころか女として扱われる経験自体が乏しかったに違いないのだ。
そうとわかってしまえば、後は容易い。
なにせナンパ――即ち魅了の真髄とは、口説き文句ではなく対象の分析にあるのだから。魅力は長所に、長所は自負に、自負は自尊心(望み)に繋がっているからこそ、魅了は叶う。
相手の自尊心(のぞみ)に沿うことこそが、ノースディンが謳う「誠意」だった。
全てを叶えるために磨いた審美眼でロナルドだけを見つめながら、ノースディンは誘う。
「ならば、こうしよう」
「あん?」
「君が魅了されるまで、他の女の子はナンパしない」
「! それ、は」
「悪い話じゃないだろう?」
「……っ、ぅ」
退治人であり女の子であるならば、双方の願望を叶えてやればいいだけのこと。事実、ロナルドは馬鹿馬鹿しいと一蹴するどころか悩ましげに眉を寄せながら呻いている。
つくづくいじらしい女だ。これで魅了されないのだから、憎たらしくてたまらない。
「本当に、俺だけにするんだろうな」
「もちろん」
「……言質は取ったからな」
果たして、ロナルドは頷くどころか顎を反らした。そして、居丈高に言い放つ。
「お前はこの先、俺だけを口説いてろ。いいな?」
約束を違えたら灼き尽くさんとばかりに睨みつけてくる眼差しに、ノースディンは恭しく一礼してみせる。
「勿論だとも」
魅了した暁にはこの屈辱の分だけ愛でてやろう――そんな野心を、隠しながら。