教誨師は逍遥する   作:黒桐饅頭

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※時系列はラーレに釘谷さんを迎えて数年経ち、柊一郎がようやく酒を飲める歳になった頃を想定しています。



EP1. LALEとシスターと宴

【柊一郎】

「…………よし、リリース完了だ」

 

【ノア】

「――――っ! やっと終わりましたね!」

 

【伊栖未】

「デバック作業、た、大変だったぞ……」

 

【釘谷】

「お疲れさん。俺の方は一通り仕事を終えてたから、飲み物を買ってきた。ほら、水を飲め」

 

【妙花】

「あぁ、すまねぇな。アンタもお疲れさん」

 

【ノア】

「ありがとうございます。釘谷のおじさん」

 

【伊栖未】

「な、なんかバグ多くなかったか…? 今回……」

 

【ノア】

「それは私がスクリプト組みながら柊一郎と『お姉ちゃんはパイ〇ンと剛毛、どちらが魅力的か』について熱い議論を交わしていたせいで注意散漫になり、所々ミスが発生してしまったんです。すみませんでした」

 

【妙花】

「手前らはこの大事な時期になにやってんだ……!」

 

【柊一郎】

「剛毛は……絶対に譲れない」

 

【ノア】

「だから毛が無いからこそ美を保てるのであって、剛毛だったら邪気が介入したかの如く地獄の様相を呈するわけですよ。大体、プリズンにいた頃は髪なんかなかったくせに剛毛を主張するなど滑稽といっても過言じゃありません。身の程を弁えろこの元ハゲが」

 

【柊一郎】

「今はふさふさだから関係ないぞ。この信念は……決して揺るがない」

 

【伊栖未】

「頑固一徹」

 

【釘谷】

「相変わらずだなお前さんたちは……仕事は真面目に頼むよ」

 

【元ハゲと未だシスコン】

「「誠にごめんなさい」」

 

【妙花】

「そういや、ソフりんはいま何してんだ? なんか聞いてるか?」

 

【柊一郎】

「いつも通り演劇。でも姉さんの力添えがあって、今度アニメに声優として出るんだとか」

 

【伊栖未】

「さ、さすがはソフりんだな……」

 

【ノア】

「まあ、お姉ちゃんなら当然でしょう。あの超絶技巧派演技と超絶美声の持ち主なんですから」

 

【釘谷】

「そのあたりは俺も聞いてたが、才能ってのはわからんものだな」

 

【妙花】

「へぇ……で、そのアニメのタイトルは?」

 

【柊一郎】

「『セ〇レ、お〇りします』第2期」

 

【妙花】

「…………」

 

【柊一郎】

「…………」

 

【妙花】

「……大丈夫か?」

 

【柊一郎】

「大丈夫じゃないかな」

 

【伊栖未】

「どう考えても僧〇枠」

 

【釘谷】

「クレームが入らないか心配だな……」

 

【ノア】

「そこはお姉ちゃんの演技力でなんとかなるでしょう」

 

【妙花】

「そういうことじゃねぇだろうが。知らねぇぞ」

 

【柊一郎】

「日も暮れてきたしそろそろ夕食にしない」

 

【伊栖未】

「賛成……! 早く、何か食いたい……!」

 

【釘谷】

「まぁそう慌てなさんな。今夜は特別な食事を用――」

 

●SE:ドアが勢いよく開く音

 

【樹里亜】

「ラーレのみなさん、ベッチェー! ご無沙汰ですねぇ!!」

 

【ラーレ社員一同】

「………………」

 

【伊栖未】

「久方にヤバいのが来た」

 

【柊一郎】

「な」

 

【ノア】

「以前に、”んほぉ”が来たとき以来ですかね」

 

【妙花】

「…………」

 

【樹里亜】

「お久しぶりです。おやぁ、チンピラちゃんもいたんですねぇ。いえ、もうすっかり大人の女性に成長しているので、チンピラ改め、マンピラちゃんでしょうかぁ! あははは!!」

 

【妙花】

「あぁ……そう言ってくれると女としては嬉しいねぇ。ところで、聞いたところによると、元似非シスターは無職で随分暇してるそうじゃねぇか。アタシら忙しい身としちゃあ、羨ましい限りだよ」

 

【樹里亜】

「お金持ちですからねぇ、私。食い扶持の確保で必死なあなたたちと違って♪」

 

【妙花】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【伊栖未】

「一触即発の雰囲気」

 

【ノア】

「どうどう……」

 

【釘谷】

「我妻看守長……いや、シスターと呼ばせてもらおうか。プリズン以来だな……」

 

【樹里亜】

「あら? あなたは調達屋と言われてた……。なるほど、こちらに来てたんですねぇ」

 

【釘谷】

「今は内呂社長の下で世話になっている身だよ」

 

【樹里亜】

「あははは! そうなんですねぇ! とても不思議な感覚ですが、これもまた一興、ですね」

 

【妙花】

「手前は何しに来た。アタシらの仕事の邪魔でもしに来たのか?」

 

【樹里亜】

「違いますよ。だいたい、今はもう仕事終わりの時間でしょう? 何を言ってるんですかねぇこのマンピラちゃん」

 

【妙花】

「なぁ、柊一郎。後生の頼みだ。もう一度だけでいい。この女を殴らせてくれ」

 

【伊栖未】

「や、やめろ妙花……!」

 

【ノア】

「今が大事な時期と言ったのは妙花でしょう……! 堪えてください……!」

 

【樹里亜】

「喧嘩しに来たわけではないので、その拳、引っ込めてくださいねぇ」

 

【妙花】

「ちっ……それもそうだな。ついカッとなって、悪かったよ」

 

【柊一郎】

「それで、用件は」

 

【樹里亜】

「特にありませんよ? ただ、遊びに来ただけです。手ぶらも失礼と思い、お土産を持ってきましたよぉ」

 

【柊一郎】

「いっぱいあるけど」

 

【樹里亜】

「お酒です」

 

【柊一郎】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【柊一郎】

「お酒」

 

【樹里亜】

「はい。安物から高級品まで色々持ってきました。あ、こちらのワインは別格なので、取り扱いに気をつけてくださいねぇ」

 

【伊栖未】

「そういや柊一郎、さ、最近になってようやく酒飲める歳になったよな……」

 

【ノア】

「思い返してみれば、ラーレ全員でちゃんとした飲み会したことありませんでしたね」

 

【釘谷】

「俺がここに初めて来たときに一度……いや、あのときは食事がメインで、あまり飲まなかったか」

 

【妙花】

「まだ柊一郎が正式に飲める歳じゃなかったからなぁ……アタシはがっつり飲んでたけど」

 

【樹里亜】

「なら、ちょうど良いのでは? せっかくなので、ここでパーティーといきません? 柊一郎ちゃんの初酒記念として♪」

 

【伊栖未】

「それ、い、いいかもな……」

 

【ノア】

「仕事もちょうど終えたところですしね。いい機会なのでそうしましょう。ありがたくお酒いただきますね」

 

【釘谷】

「しかし、すごい量だな……。……ん? おいおい、『ロマネ・コンティ』があるじゃないか! しかも45年の! 10億は超えるぞ!? ……一体どうやって手に入れたんだ……?」

 

【樹里亜】

「私にかかればどうってことありませんよ?」

 

【釘谷】

「………プリズンのときからそうだったが、やはりお前さんは得体が知れないな……」

 

【樹里亜】

「褒め言葉として受け取っておきましょう。ところで、ワインも飲んで構いませんが、最初はそちらの酎ハイの方がいいですよ。舌も胃もびっくりしちゃいますから」

 

【柊一郎】

「わかった。ありがたくいただきます」

 

【妙花】

「じゃあアタシも何本かもらうぞ。別にいいんだろ?」

 

【樹里亜】

「構いませんよ。日本酒や焼酎も揃えておりますので。今夜は無礼講といきましょう」

 

【ノア】

「お酒もいいですけど、食べ物はどうするんですか? いまここお酒しかありませんよ」

 

【釘谷】

「あぁ、それなんだが――」

 

●SE:チャイムが鳴る音

 

【小沢】

「どうもォ! 食事処小沢ッス! 小沢特製超豪華フルコースをお届けに参りましたァ!」

 

【釘谷】

「おぉ! やっと来たか!」

 

【小沢】

「どうも釘谷サン。なんか盛り上がってるようで……ン!? シ、シスター!?」

 

【樹里亜】

「あら、懐かしいお顔で。お元気でしたかぁ?」

 

【小沢】

「え、えェ、お久しぶりで……。あのォ、なんでここに?」

 

【樹里亜】

「遊びに来ただけなので、どうぞお気になさらず♪」

 

【小沢】

「へぇ、そ、そうっスか……」

 

【柊一郎】

「小沢は今や自分の店を持つオーナーシェフだ」

 

【妙花】

「食〇ログでもかなり評価高ぇからな。大したもんだよ、まったく」

 

【樹里亜】

「あらぁ? そうなんですねぇ。大変出世されたようで、なによりです」

 

【柊一郎】

「せっかくだから、小沢もどう?」

 

【小沢】

「え?」

 

【妙花】

「そこのシスターさんが大量に酒を持ってきてくれてな。柊一郎もようやく酒が飲める歳になったことだし、一丁宴でもしようかと思ってたんだよ」

 

【釘谷】

「せっかくだ。お前さんも参加しないか」

 

【小沢】

「い、いいンすか?」

 

【柊一郎】

「小沢も参加してくれると……オレは、嬉しい」

 

【小沢】

「………おめェがそういうならよ! 喜んで相伴に預からせてもらうぜ!」

 

【釘谷】

「それじゃあ、料理も揃ったことだし、乾杯といこうか」

 

【ノア】

「そうですね、私はレモンサワーで」

 

【妙花】

「ビールもらうぞ」

 

【伊栖未】

「私も……ビールで」

 

【赤いシスコンと緑の元ヤクザ】

「「意外ですね(だな)」」

 

【伊栖未】

「お姉さんだから……! ふすぅ……!」

 

【妙花】

「まぁ、無理すんなよ……?」

 

【釘谷】

「俺は……」

 

【樹里亜】

「貴方はロマコン(ロマネコンティの略)をどうぞ」

 

【釘谷】

「……いいのか?」

 

【樹里亜】

「構いませんよ? 長年お勤めしてたんですから、これくらい飲まないと」

 

【釘谷】

「………そうかい。ありがとう」

 

【小沢】

「俺ァ、ビールいただきますね。仕事終わりはやっぱこれっしょ! ……そんでもって、柊一郎は酎ハイなんだな」

 

【柊一郎】

「最初は。慣れたら他のも飲むことにする」

 

【釘谷】

「そろったな。じゃあ社長、乾杯の音頭を」

 

【柊一郎】

「オレ?」

 

【釘谷】

「ここは社長が乾杯を言うべきだろう。何も不思議じゃない」

 

【ブラックレッドグリーン】

「「「ほら早く」」」

 

【樹里亜】

「ほら、柊一郎ちゃん。焦らさなくていいんですよぉ」

 

【柊一郎】

「…………今日は楽しく飲もう。乾杯!」

 

【ラーレとシェフと無職】

「乾杯!」

 

【柊一郎】

「………うまい!」

 

【ノア】

「ほら、こっちのレモンサワーもいけますよ。飲んでみてください」

 

【伊栖未】

「………やっぱビールは大人の味でうまグェホッ! グェホッ!」

 

【妙花】

「あぁほら言わんこっちゃねぇ。無理せず柊一郎と同じ酎ハイ飲みなよ」

 

【伊栖未】

「ううぅ……!」

 

【妙花】

「……しっかしよ、最初に飲むビールってのはやっぱいいもんだなぁ、小沢?」

 

【小沢】

「そうッスねぇ! …………クゥゥ! このために仕事してるって感じッスよぉ!」

 

【妙花】

「今の仕事仲間ともこういう飲み付き合いはあんのか?」

 

【小沢】

「たまにですけどねェ。そン時は俺がまかない作ってみんなに振るうンすよ。そしたらどいつもこいつも嬉しそうな顔で食って酒飲んで……こういうのが、いいンすよねぇ」

 

【妙花】

「くっくっ……、プリズンで柊一郎にメシ食わせてた時と同じ顔してんぞ?」

 

【小沢】

「ま、まじスか?……でも、あン時柊一郎が俺の飯を美味そうに食ってくれたから、今の俺がありますからねェ。気づかねェうちにそうなってンのかも」

 

【柊一郎】

「呼んだ?」

 

【小沢】

「呼んでねェよ!………おめェはずっとそのままでいろって言ったの!」

 

【ノア】

「そうですね。お前はそのままでいてください。"萌え"のために」

 

【伊栖未】

「そ、そうだな。"萌え"のために」

 

【柊一郎】

「……??」

 

【小沢】

「いや、そういうんじゃねェけど……。まあいいや」

 

【釘谷】

「…………!」

 

【樹里亜】

「どうですかぁ? そこらのワインとは訳が違うでしょう?」

 

【釘谷】

「……あぁ、こりゃ驚きだ。なんというか……耽美な余韻が、今も舌の上でずっと続いてるよ」

 

【樹里亜】

「さすがですねぇ。的確な感想です。ピノ・ノワール100%の自然派ワインですから、軽やかで繊細な口当たりが特徴的なんです。それがとても美味なんですよ」

 

【釘谷】

「ワインはあまり詳しくなかったが、こんなのを飲んでしまったら、他のワインなんて飲めないぞ……!」

 

【樹里亜】

「であれば、今晩だけでもグイグイいっちゃってくださいねぇ」

 

【釘谷】

「………こっちは年寄りなんだ。手心は加えてくれよ」

 

【小沢】

「釘谷サンは何飲んでるんすかぁ? ……ん? ワイン?」

 

【釘谷】

「あぁ、世界最高級のな。お前さんもどうだ?」

 

【小沢】

「……あの、そのラベル、ロマネコンティって書いてあンすけど……」

 

【樹里亜】

「本物ですよ? あなたもどうぞ」

 

【小沢】

「………う、美味ェ……。なんだこれ、俺の知ってるワインじゃねェ……」

 

【樹里亜】

「そりゃあなたの知らない味のワインですからねぇ」

 

【妙花】

「おい、小沢。そんなんあまり飲むんじゃねぇ。他のワインが飲めなくなるぞ」

 

【小沢】

「姐さんは、その、飲んでみようとはしないンすか?」

 

【妙花】

「飲まねぇ。足るを知る。身の程に合った酒で満足なんだよ。……まぁ、それでもかなり良い酒だけどな」

 

【柊一郎】

「……オレも、そろそろワインを飲んでみたい」

 

【ノア】

「私もいいですか?」

 

【伊栖未】

「わ、私も……!」

 

【妙花】

「手前らなぁ……。おい、シスターさんよ。こいつらにちょうどいい適当なワインを勧めてくれよ」

 

【樹里亜】

「じゃあこの『スクリーミング・イーグル』はどうですか?」

 

【妙花】

「十分高級じゃねぇか」

 

【ノア】

「………これは、すごいですね。安物のワインに比べて圧倒的に味が濃厚ですよ」

 

【伊栖未】

「………果実の風味が、ず、ずっと口の中に残る。とっても美味……!」

 

【柊一郎】

「…………」

 

【妙花】

「どうした、柊一郎? お前には合わなかったか?」

 

【柊一郎】

「…………やっべぇぞ」

 

【妙花】

「は?」

 

【ノア】

「語彙力」

 

【伊栖未】

「言語野が仮死状態」

 

【妙花】

「感想ぐらいちゃんと言え。もうガキじゃねぇんだからよ」

 

【柊一郎】

「美味い。果実の甘み? がとても主張してきて……とても美味しい」

 

【釘谷】

「初めてのワインだ。しかもかなり高級なやつをな。戸惑うのも無理はない」

 

【ノア】

「しかし、このレベルのお酒を飲み続けていたら、あっという間に酔いが回りますね」

 

【樹里亜】

「そもそもワインは酔いやすいお酒ですからねぇ。私は酔いませんが」

 

【伊栖未】

「わ、わらひはぁ、まら酔ってないんぞぉ~……」

 

【小沢】

「既にひとりできあがってねェ?」

 

【妙花】

「おい、伊栖未……水飲め水」

 

【樹里亜】

「あははは! やはりまだあなた達にワインは早かったですかねぇ!?」

 

【柊一郎】

「オレは……そう簡単には酔わない」

 

【ノア】

「そうですよ! 私たちは鐘さんのようにはいきませんからね!」

 

【妙花】

「なんでそうフラグ立てるんだ手前らは」

 

【樹里亜】

「いいえ、あなたも含め、プリズンで窮地を何度も凌いだ彼らのことですから。きっと堪えられるんじゃないですか」

 

【妙花】

「そうかなぁ……」

 

 

 

   ◆

 

 

 

【柊一郎】

「ノア……オレはまだ10本はいける!」

 

【ノア】

「へぇ、私は20本はいけますけど? ここにいるお姉ちゃんと一緒に飲め……ば……あれ? お姉ちゃん? お姉ちゃんがいない! なんで? ねぇ、なんで? お姉ちゃんがいない!! どこに隠したぁ!! ううぅぅ……ああああああああああ!!!」

 

【妙花】

「ほらな」

 

【樹里亜】

「期待返してくれませんかねぇ」

 

【小沢】

「ソフりんいても20本は狂気なんだよ?」

 

【釘谷】

「ははっ……まだまだだね、とでも言えばいいのかな」

 

【小沢】

「読んでるンすか?」

 

【釘谷】

「本棚にあるんだ。暇な時に」

 

【小沢】

「わ、若いッスね……」

 

【樹里亜】

「あと100本いきます?」

 

【小沢】

「シスターはシャレにならないんでやめてくれませン……?」

 

【妙花】

「はぁ、やれやれ……。この辺でちと景気付けといこうじゃねぇか」

 

【釘谷】

「ほぅ、”あれ”か。ちょうどいいな」

 

【樹里亜】

「あれ、とは?」

 

【〇が如く】

「「カラオケセット」」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【〇が如く2】

「「…………」」

 

【樹里亜】

「…………え?」

 

【小沢】

「たまーにここでやるンすよ。仕事終わりに、ストレス発散も兼ねて。俺も時間空いてるときに混ぜてもらってます」

 

【樹里亜】

「みなさん普通の娯楽も嗜むんですねぇ。意外でした」

 

【小沢】

「それで、何歌うんすか?」

 

【妙花】

「もちろん演歌……と、いきてぇところだが。おい、柊一郎! こっちこい!」

 

【柊一郎】

「うたいます!」

 

【小沢】

「はえェよ。姐さん、もしかしてデュエットですか?」

 

【妙花】

「あぁ、最近の歌も覚えてきたしな。一丁披露してやろうと思ってな」

 

【樹里亜】

「で、その歌とは?」

 

【妙花】

「WIND〇NG R〇AD」

 

【小沢】

「…………姐さん、酔ってます?」

 

【妙花】

「……このアタシが酔ってるように見えるってぇのかぁ!? ア゛ア゛ァァァ!!」

 

【樹里亜】

「酔ってますねぇ」

 

【釘谷】

「言うほど最近でもないんだがな……」

 

【ノア】

「あ! 妙花ずるいずるい! 私もそれ柊一郎と歌いたいです~!」

 

【小沢】

「えェ……」

 

【柊一郎】

「曲がりくねった~♪」

 

【小沢】

「なんでおめェはさっきからフライング気味なんだよ! まだ始まってねェだろ! 落ち着け!」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【釘谷】

「……ん? どうしたお前さん」

 

【樹里亜】

「いいえ、なんでもありませんよ?」

 

【釘谷】

「………? そうか……」

 

 

 

   ◆

 

 

 

【柊一郎】

「…………疲れた」

 

【ノア】

「久々に歌いましたが……もう、無理です」

 

【小沢】

「なんか普通にカラオケ大会だったッスね」

 

【樹里亜】

「私も久々に歌わせてもらいましたが、気分が高揚しますねぇ。歌は」

 

【小沢】

「もう賛美歌はやめてくださいよ……。シスターの場合、様になりすぎて……ちっと怖えェンすよ……」

 

【釘谷】

「続けて歌うのは年寄りにはちときつかったが……結構すっきりしたな」

 

【小沢】

「練習してたンすか? めっちゃ上手かったッスよ」

 

【釘谷】

「若い子たちの中におっさんひとりだ。ついていけるようにならなきゃな」

 

【妙花】

「よく言うよ。仕事っぷり見ても一番若ぇと思うぞ」

 

【小沢】

「俺も見習わなきゃいけねぇなァ……」

 

【樹里亜】

「まだみなさん若いですからねぇ。貴方のような本当の意味での"大人"がいるからこそ、あの子たちも安心してお仕事できるのでしょう」

 

【妙花】

「あぁ、むず痒いがその通りだ。頼りにしてるよ」

 

【釘谷】

「なんなんだ、急に。照れ臭いな」

 

【小沢】

「…………あ、すんませン姐さん! そろそろ戻らねェと、嫁にドヤされちまうんで……」

 

【妙花】

「いい時間帯だしな。そろそろお開きにしようか……って、伊栖未はともかく、ノアもギブ寸前か」

 

【ノア】

「わ、わたしは、まだ……大丈夫で……」

 

【伊栖未】

「……んあ? おいれるんらあぞ。へ、へーきだぁ……」

 

【妙花】

「無理すんじゃねぇってのに。じゃあ、小沢。今晩はありがとな」

 

【釘谷】

「また遊びに来てくれよ」

 

【小沢】

「ウッス! では、俺はこの辺で!」

 

【柊一郎】

「…………小沢」

 

【小沢】

「ん? おい柊一郎。無理すんなよ」

 

【柊一郎】

「また来てくれよ」

 

【小沢】

「…………あぁ、おめェのためならいつでも来てやるよ! じゃあな!」

 

【妙花】

「…………で、手前は何してんだ」

 

【樹里亜】

「はい?」

 

【妙花】

「はい?じゃねぇよ。帰らねぇのかって話だ」

 

【釘谷】

「宿はあるのか?」

 

【樹里亜】

「ここに泊まりますよ?」

 

【〇が如く極】

「「…………は?」」

 

【樹里亜】

「元からそのつもりでしたけど?」

 

【妙花】

「ふざけんな! んなことさせるわけ」

 

【柊一郎】

「いいんじゃない」

 

【妙花】

「……!? 柊一郎、手前正気か!?」

 

【柊一郎】

「前、妙花いなかったとき、普通に泊めてた」

 

【妙花】

「えぇ……」

 

【柊一郎】

「な。ノア、伊栖未」

 

【ノア】

「…………え、えぇ、そうでしたね」

 

【伊栖未】

「あんときはぁ、たひかぁ、んほぉぉぉも一緒だったぁ……」

 

【妙花】

「…………よくわからねぇが、まぁ、そういうことなら、仕方ねぇ……のか?」

 

【樹里亜】

「そういうことですねぇ。諦めてもらう他ありませんよぉ」

 

【釘谷】

「ま、まぁいいじゃないか。余ってる部屋がある。そこを使うといい」

 

【樹里亜】

「ありがとうございます♪ じゃあシャワーお借りしますねぇ」

 

【妙花】

「なんか解せねぇ……」

 

【ノア】

「すみません、私は……もう寝ます……お休みなさい……」

 

【伊栖未】

「zzz……」

 

【柊一郎】

「伊栖未は……オレが運んでおくから」

 

【妙花】

「あぁ、よろしく頼むよ」

 

 

 

   ◆

 

 

 

【樹里亜】

「いただきましたぁ。次どうぞぉ」

 

【妙花】

「手前の後ってのはどうも癪だが……いいや、次入るぞ」

 

●SE:風呂のドアが閉まる音

 

【釘谷】

「…………」

 

【樹里亜】

「………ふたりだけになっちゃいましたねぇ」

 

【釘谷】

「あぁ、そうだな……」

 

【樹里亜】

「………何か、話してくれないんですかぁ?」

 

【釘谷】

「今更お前さんと何を話すっていうんだ」

 

【樹里亜】

「それはそうですけどぉ。プリズンにいた頃は話す機会なんてそうそうなかったじゃないですか」

 

【釘谷】

「それはそうだ。俺は『重大犯罪房』の囚人。お前さんは『性犯罪房』の看守長。余程のことがない限り、交流する機会なんてない」

 

【樹里亜】

「ですねぇ。そっちは葉月ちゃんの管轄でしたから。それでも、調達屋の噂は知っていたんですよぉ?」

 

【釘谷】

「まぁ、看守長だからな。耳に入るのは当然か」

 

【樹里亜】

「私の場合は、多くの囚人を通して情報を入手することができましたから。電子ドラッグでねぇ」

 

【釘谷】

「………それに引っかかった身からしたら、なんとも言えない気分になるな」

 

【樹里亜】

「あら♪ それはごめんなさいねぇ。もう過去のことですし、いいじゃないですか」

 

【釘谷】

「……もう、やらないのか。そういう、聖職者業みたいなものは」

 

【樹里亜】

「今は世界を見て回るのが面白いですから。気が向いたらまた始めるかもしれません。いつ気が向くか分かりませんが」

 

【釘谷】

「……差し出がましいことを言うようで、すまんが」

 

【樹里亜】

「?」

 

【釘谷】

「お前さんは……そ(・)れ(・)で(・)い(・)い(・)のか」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【釘谷】

「説教臭いことを言うつもりはないんだがな。だが、そのままずっと、というのも気になるんでな」

 

【樹里亜】

「…………一度、柊一郎ちゃんに求婚したことあるんですよ?」

 

【釘谷】

「………そうなのか」

 

【樹里亜】

「えぇ、あっさり断られましたけど」

 

【釘谷】

「だろうね。今はゲーム制作にお熱だ。そんな彼を、俺はこれからも必死に支えたいと思っている。だから……求婚しても、首を縦には振らないだろうさ」

 

【柊一郎】

「…………」

 

【樹里亜】

「!」

 

【釘谷】

「お前さん、起きてたのか」

 

【柊一郎】

「…………ついさっき。トイレ行きたくて」

 

【釘谷】

「……そうか」

 

【柊一郎】

「珍しい組み合わせ」

 

【樹里亜】

「柊一郎ちゃんも混ざります?」

 

【柊一郎】

「……いや、いい」

 

【樹里亜】

「あら、つれない♪」

 

【柊一郎】

「じゃあ、お休みなさい」

 

【樹里亜】

「はい、風邪ひかないようにしてくださいねぇ」

 

●SE:トイレのドアが閉まる音

 

【釘谷】

「…………あれがお前さんの、もしかしたらの旦那の姿か」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【釘谷】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………私は、今後も今のような生き方を続けるでしょう。どこまでいっても、それが私なのかもしれません。でも、もし柊一郎ちゃんたちのような子に、もっと早く出会えたら……と思うことはありますよ」

 

【釘谷】

「…………」

 

【樹里亜】

「でも、人生は多種多様です。私、我妻樹里亜の答(・)え(・)は、私自身がいつか見つけるでしょう」

 

【釘谷】

「………そうか」

 

【樹里亜】

「あなたは、もう見つけているのでしょう?」

 

【釘谷】

「あぁ。ブレることはない、と確信しているよ」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【釘谷】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………宴の後というのは、不思議と、耽美な余韻が続きますねぇ。まるでワインのように」

 

【釘谷】

「そうだな……だが、お前さんの場合は飲みすぎて、余韻どころか味も風味も、色(・)も(・)わ(・)か(・)っ(・)て(・)な(・)い(・)んじゃないか」

 

【樹里亜】

「…………そういうことですねぇ」

 

 

 

 

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