教誨師は逍遥する   作:黒桐饅頭

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※時系列はEP1の続きです。


EP2. 女三人寄れば姦しい

■時刻:夜

★場所:本島 都内某所 街路

 

【ソフりん】

「――……はぁ~、今日も疲れたぁー……」

 

【柊菜子】

「あはは、相変わらず忙しそうですねソフィーヤさん」

 

【ソフりん】

「えぇ。演劇の稽古にバイトを複数かけ持ちしているので、どうも体力の消耗が……」

 

【柊菜子】

「大丈夫ですか? バイト減らしたりとか……」

 

【ソフりん】

「いや、現状でギリギリなので減らすのはちょっと……。むしろ増やそうかなと思ってたところで」

 

【柊菜子】

「……あの、倒れますよ?」

 

【ソフりん】

「なに、刑務官時代と比べたら楽なほうですよ。あの頃は夜勤の引継ぎがいなくて32時間勤務、とかざらだったので」

 

【柊菜子】

「あー……シューちゃんもたしかそんなこと言ってたような……」

 

【ソフりん】

「みな……彼が何か?」

 

【柊菜子】

「あの子、私と電話する時たまにソフィーヤさんのことを話すんですけど、『ソフりんは……不幸体質』ってむかし言ってたんですよ。刑務官として働いているところを見ててそう思ったとか」

 

【ソフりん】

「否定できないのが悔しい」

 

【柊菜子】

「でも刑務官の中では一番話しやすくてまとも、みたいなことも言ってましたよ? 信頼されてたんですねぇ」

 

【ソフりん】

「へぇ……」

 

【柊菜子】

「あ、まともじゃなくて”普通”だったかな? どっちだったっけ……」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【柊菜子】

「それより、本当にお酒はこれだけでいいんですか? さっき買ったお惣菜の量にしては少なくありません?」

 

【ソフりん】

「今晩はそこまで飲むつもりはないので。どちらかと言うと柊菜子さんの手料理が目当てでお家にお邪魔するつもりです」

 

【柊菜子】

「それはいいんですけど……ソフィーヤさん、食べますねぇ」

 

【ソフりん】

「ふふっ、まだまだ育ち盛りなのかもしれません」

 

【柊菜子】

「え……まだ育ちたいですか? 私はもう嫌なんですけど……」

 

【ソフりん】

「むしろ柊菜子さんのほうこそもっと食べるべきで――」

 

【???】

「――おやぁ? もしかして……ソフりんちゃんですかぁ?」

 

【ソフりん】

「…………え? その声はもしかして――」

 

【樹里亜】

「――お久しぶりですねぇ。あなたの元同僚、我妻樹里亜です。こんなところで再会するとは思いませんでしたよぉ」

 

【ソフりん】

「……そのこんなところで、一体何を?」

 

【樹里亜】

「とくに何も。ただぶらぶらとしていただけです。ソフりんちゃんのほうは?」

 

【ソフりん】

「わ、私は仕事帰りで……その……」

 

【柊菜子】

「――……あのー」

 

【樹里亜】

「……おや、これは失礼いたしました。ソフりんちゃんのご友人の方ですかぁ?」

 

【柊菜子】

「は、はい。それより、こんな夜道で立ち話もなんですし……よろしければ私の家でお話の続きとしませんか? ソフィーヤさんのお知り合いのようですし」

 

【ソフりん】

「えっ」

 

【樹里亜】

「……よろしいのでしょうか? 初対面の人間であるにもかかわらず」

 

【柊菜子】

「私は構いませんよ? ねぇ、ソフィーヤさん」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【柊菜子】

「……ソフィーヤさん?」

 

【ソフりん】

「え、あ、あぁ。柊菜子さんがいいのであれば、私も……大丈夫です」

 

【樹里亜】

「なんだかすみませんねぇお邪魔虫みたいになっちゃって♪」

 

【ソフりん】

「……いえ。数年ぶりの再会ですし、いろいろとお話を聞かせていただければと思います」

 

【樹里亜】

「それはこちらも同じですよぉ! プリズンを辞めて……いえ、クビになってからどうなったのかと気が気でなりませんでしたのでぇ! あっははははははっ!」

 

【ソフりん】

「…………」

 

 

 

★場所:柊菜子宅

 

 

 

【柊菜子】

「改めてご挨拶させてください。湊柊菜子といいます。声優をやってます。ソフィーヤさんとは縁あって友人付き合いを。どうぞよろしくお願いします」

 

【樹里亜】

「私(わたくし)は我妻樹里亜と申します。ソフりんちゃんとは前職にて同僚の関係でして。以後、お見知りおきを」

 

【柊菜子】

「同僚……我妻さんも元刑務官だったんですねぇ。じゃあシューちゃ……弟がお世話になっていたかもしれませんね」

 

【樹里亜】

「……弟?」

 

【ソフりん】

「覚えてませんか。あの0720番……湊柊一郎、のお姉さんです」

 

【樹里亜】

「…………あぁ、なるほど! 言われてみれば似ていらっしゃいますねぇ! とくに目の辺りとか! あっははははははっ!」

 

【柊菜子】

「あはは……昔よく言われてたかもしれませんね」

 

【ソフりん】

「それで、一体あんなところで……というより、どうして日本にいるんですか? ノアたちからあなたは世界中を放浪してると聞いていたのですが」

 

【樹里亜】

「たいしたことじゃありませんよぉ。実家絡みの事情で一時的に帰国していただけで、またすぐ発つつもりですので」

 

【柊菜子】

「世界中を……も、もしかして、旅されているんですか!? すごぉい……憧れるなぁ……!」

 

【樹里亜】

「それほどでもぉ♪」

 

【ソフりん】

「あー……いや、この人は実家を勘当されて根無し草なだけだったかと」

 

【樹里亜】

「あのぉ……なんでソフりんちゃんがそこまで知ってるんですかぁ?」

 

【ソフりん】

「湊から聞きました」

 

【樹里亜】

「あの子全部話しますねぇ」

 

【柊菜子】

「……えっと……」

 

【樹里亜】

「正確に申し上げますと、私もソフりんちゃんと同じくプリズンをクビになりまして、いろいろあって実家と絶縁状態なんです」

 

【樹里亜】

「そのため家はないんですけどお金はあるので、世界のいろんな所に足を運んで生活しているんです」

 

【柊菜子】

「へぇー……壮絶ですね――と言うのは気安いかもしれませんけど……でも、お金はどうされているんですか? その場その時で稼いでいるとか?」

 

【樹里亜】

「いえ、お金なら一生遊んで暮らせるだけ持っているので。ご心配には及びませんよぉ」

 

【ソフりん】

「この人実家がお金持ちなんです」

 

【柊菜子】

「あ、そうなんですね……ということは、どこかのご令嬢?」

 

【樹里亜】

「はい。薬袋製薬という会社の息女です」

 

【柊菜子】

「き、聞いたことある……! じゃあ正真正銘のお嬢様なんですね!」

 

【樹里亜】

「そういうことですねぇ!」

 

【ソフりん】

「お金がある理由はそれだけでなく、おそらく宗教で稼いだ分も――」

 

【樹里亜】

「ソフりんちゃん」

 

【ソフりん】

「……なんでしょう」

 

【樹里亜】

「あなた、全部しゃべりますねぇ? プリズン時代の意趣返しかなにかですかぁ?」

 

【ソフりん】

「いいえ、滅相もありません。ただ会話をつないでいるだけです」

 

【樹里亜】

「……ふぅん。そうでしたか。でも、余計なことはあまり話さないでいただけると助かります」

 

【ソフりん】

「……わかりました」

 

【柊菜子】

「……?」

 

【樹里亜】

「……とまぁ、私のお話はこんなところで。それで、ソフりんちゃんと柊一郎ちゃんのお姉さんは一体どんな経緯でお会いになったのですかぁ?」

 

【ソフりん】

「……私はプリズンをクビになってから青藍島でしばらく過ごしていたんですけど」

 

【ソフりん】

「ある日、柊菜子さんが湊の会社に来て、そこで初めてお会いしたんです」

 

【柊菜子】

「私のところにシューちゃんの存命を伝えに来てくれた人がいまして、聞いてからすぐシューちゃんに会いに行ったんです。……懐かしいですねぇ」

 

【樹里亜】

「ソフりんちゃんはいま都内にいますけど、住まいを青藍島からこちらに移したのですか?」

 

【ソフりん】

「はい。仕事がなくてくすぶっていた頃、柊菜子さんに地方の劇団を紹介してもらって。それで今はこっちで演劇の仕事とバイトをいくつか」

 

【柊菜子】

「その縁で今でもソフィーヤさんとは付き合いがあるって感じです」

 

【樹里亜】

「そういうことでしたかぁ、なるほど……ソフりんちゃん、仕事がなかったと言いましたが」

 

【ソフりん】

「えぇ……それがなにか?」

 

【樹里亜】

「……柊一郎ちゃんたちの会社に入ってしまう、という手もあったのでは?」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【柊菜子】

「なるほど! たしかに!」

 

【ソフりん】

「どうして柊菜子さんが納得するんだ?」

 

【樹里亜】

「なにか不都合でも?」

 

【ソフりん】

「……湊たち四(・)人(・)は人生を共にする運命共同体、と聞いています。会社自体もみんなで建てたものだと」

 

【ソフりん】

「つまり、あの会社は彼らのものなんです。ひとりだけ大人の私が介入する余地なんてありません」

 

【柊菜子】

「…………」

 

【樹里亜】

「四人……なるほど。そうでしたかぁ」

 

【ソフりん】

「……なにか?」

 

【樹里亜】

「ご存じないのでしょうか。柊一郎ちゃんたちの会社、ラーレはいま……五(・)人(・)ですよ?」

 

【ソフりん】

「……え、五人!? もうひとりいたので……というより、なぜご存知なのですか?」

 

【樹里亜】

「実はこの前ラーレに遊びに行きましてねぇ、そこでもうひとりの方にお会いしたんですよぉ」

 

【樹里亜】

「――……ソフりんちゃん。あなたもご存知の方ですよぉ?」

 

【ソフりん】

「えっ……」

 

【樹里亜】

「覚えてますかぁ? プリズンにいた、あの――調(・)達(・)屋(・)の」

 

【ソフりん】

「――――! た、たしか……”釘谷”という重大犯罪房の……!」

 

【樹里亜】

「えぇ、ラーレの五人目として働いておられましたよぉ?」

 

【ソフりん】

「し、知らなかった……。ノアのやつ、教えてくれてもいいものを……」

 

【ソフりん】

「……で、でもいったいどういう経緯で?」

 

【樹里亜】

「その点については聞いていないのでわかりませんねぇ。気になるのでしたら柊一郎ちゃんに聞いてみるとよろしいかと」

 

【柊菜子】

「…………」

 

【ソフりん】

「あ、ごめん柊菜子さん。わからない話でしたよね。惣菜冷めちゃいますし、そろそろ何か食べますか」

 

【柊菜子】

「あ、そうですね。私もなにか作ろっかな」

 

【ソフりん】

「やっぱり大丈夫ですよ。話し込んで遅くなってしまいましたし」

 

【柊菜子】

「え、でも……」

 

【樹里亜】

「でしたら、食事に関してはこの私にお任せを。遅くなった責任は私にありますので」

 

【ソフりん】

「え……お料理作れるんでしたっけ」

 

【樹里亜】

「? いえ、作りませんよ?」

 

【ソフりん】

「……? じゃあ一体――」

 

【樹里亜】

「Uber 〇atsです♪」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【ソフりん】

「……そういうの利用する人でしたっけ」

 

【柊菜子】

「あの、そうしたら支払いが――」

 

【樹里亜】

「構いませんよぉ。夜分遅くにお家に上げていただいたお礼です」

 

【柊菜子】

「そ、そんな。悪いですよぉ」

 

【樹里亜】

「柊一郎ちゃんには私も何かとお世話になりましたので。お気になさらないでくださいな」

 

【柊菜子】

「……そうですか。では、お言葉に甘えて、ご馳走になります」

 

【ソフりん】

「この時間って寿司はありますか?」

 

【樹里亜】

「ソフりんちゃんはいつからそんなに厚かましくなったんですかぁ」

 

 

 

   ◆

 

 

 

【樹里亜】

「――……へぇ、ではソフりんちゃんも声優業を」

 

【ソフりん】

「たまにですけどね。柊菜子さんを介してオファーが来ることがあるんです」

 

【柊菜子】

「私の知り合いに声の綺麗な人がいるって事務所に紹介したら気に入ったらしく。それでちょくちょくソフィーヤさんに役をお願いすることがあるんです」

 

【ソフりん】

「と言ってもほとんどモブですけどね」

 

【柊菜子】

「我妻さんはアニメとかご覧になりますか?」

 

【樹里亜】

「そうですねぇ……まったくというわけではありませんが、最近のは疎いですねぇ」

 

【ソフりん】

「そういえば柊菜子さん、今度の秋アニメ、なんかの作品に出演するんですよね?」

 

【樹里亜】

「もしかしてメインヒロインですかぁ?」

 

【柊菜子】

「まぁ……メインと言えばメイン、かもしれません」

 

【樹里亜】

「差し支えなければ作品名を教えていただいてもよろしいでしょうか」

 

【柊菜子】

「『ポプテ絶頂(イ)絶頂(イ)ックゥ♡』第二シリーズです」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【柊菜子】

「…………」

 

【樹里亜】

「例のクソアニメですね」

 

【ソフりん】

「知ってるんだ……」

 

【樹里亜】

「しかし大抜擢ですねぇ。あのアニメは有名声優ばかり起用していたはずですけどぉ」

 

【柊菜子】

「はい……なので、ここで一気に売れるチャンスなんですよ! クソ演技頑張らなきゃなぁ……!」

 

【ソフりん】

「クソ演技……」

 

【柊菜子】

「でも我妻さんも声綺麗なので、オーディション受ければ何かの役ゲットできるかもしれませんよ?」

 

【樹里亜】

「どうでしょう。まぁ、自信がないわけでもありませんが」

 

【ソフりん】

「なにか策でも?」

 

【樹里亜】

「実は私、声帯がふたつあるんですよぉ。その気になればちょっと変わった声を出すことも可能なんです」

 

【柊菜子】

「声帯が……ふたつ……! す、すごい……!」

 

【樹里亜】

「なので声真似も少々得意でして…………ごほんっ」

 

【シスターソフりん】

『囚人共!! 余暇時間はとっくに過ぎている!! 速やかに房に戻れ!!』

 

【柊菜子】

「おお! すごいですね! ソフィーヤさんに声そっくりです!」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【樹里亜】

「いかがでしたか、ソフりんちゃん? 私もなかなかのものでしょう?」

 

【ソフりん】

「え、えぇ。……複雑な気分ですが」

 

【柊菜子】

「ソフィーヤさんもなんかの声真似やってみたらどうですか?」

 

【ソフりん】

「わ、私も!? なんで――」

 

【樹里亜】

「まあまあいいじゃないですか。せっかくですし、何か披露してみてくださいな♪」

 

【ソフりん】

「…………わかりました」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん柊一郎】

『ゲーム制作は……いいぞ』

 

【柊菜子】

「あはははは! 似てます似てます! シューちゃんの感じ、出てました!」

 

【ソフりん】

「そ、そうですか……?」

 

【樹里亜】

「へぇ、そんな少年声も出せたんですねぇ。さすが本職は一味違いますねぇ」

 

【ソフりん】

「まぁ、湊とはなにかと付き合いが長かったので、そのおかげもあるかと……」

 

【???】

「ふにゃーん」

 

【樹里亜】

「? いま、猫の鳴き声が……」

 

【柊菜子】

「あ、そうだ。紹介するのをすっかり忘れていました。実は猫飼ってるんです私。それも二匹」

 

【樹里亜】

「猫を二匹……ふふっ、”いかにも声優”――ですねぇ」

 

【ソフりん】

「そうなのか……?」

 

【柊菜子】

「この子がチマちゃん、こっちがルーちゃんです」

 

【チマちゃんとルーちゃん】

「にゃー」

 

【ソフりん】

「うおぉ……急に私の脚に乗ってきた……」

 

【柊菜子】

「けっこう人懐っこいですからね。よかったら頭なでて上げてください」

 

【ソフりん】

「いいんですか? ……じゃあ」

 

【喜ぶチマルー】

「うにゃ~」

 

【ソフりん】

「…………ふふっ」

 

【樹里亜】

「ソフりんちゃん、猫好きなんですかぁ?」

 

【ソフりん】

「まぁ、人並みには……」

 

【柊菜子】

「よかったら我妻さんも頭なでてみてください」

 

【樹里亜】

「あらぁ♪ じゃあお言葉に甘えて――」

 

【異常者を見る目のチマルー】

「きしゃぁーー!!」

「ぐるるるる…………しゃうっ!!」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【柊菜子】

「ちょ、ちょっとチマルー! なんて声出すの! ……ご、ごめんなさい我妻さん。お客さん相手にこんなこと滅多にないんですけど……」

 

【樹里亜】

「いえ、私は大丈夫ですのでお気になさらず。変なところでも触っちゃいましたかねぇ」

 

【ソフりん】

「普通に私と同じところをなでただけでしたよね。たしか、こう……」

 

【恍惚とした表情のチマルー】

「ごろにゃ~ん」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【ソフりん】

「…………もしかして昔、動物虐待でもしてましたか? なんて……」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【ソフりん】

「あ、あれ? ……その、冗談ですので……」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【柊菜子】

「ほらチマルー! こっちこっち! ご飯あるから食べちゃって!」

 

【ご飯に駆け寄るチマルー】

「にゃーん」「うにゃー」

 

【柊菜子】

「……ごめんなさい我妻さん。後で りつけておきますので」

 

【樹里亜】

「いいえ、大丈夫ですよぉ。香水の匂いが嫌だったとか、きっとそういうものでしょう。猫の嗅覚は敏感ですから」

 

【柊菜子】

「な、なるほど……」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「(香水なら私もしてるんだが……それより猫たちの眼つきが明らかにおかしかったような……?)」

 

 

 

   ◆

 

 

 

【柊菜子】

「へぇー……シューちゃんがお酒を……。そういえばもうそういう歳でしたね」

 

【柊菜子】

「最初はチューハイかなにかを飲んでましたけど、その後ワインを飲んだらあっという間にできあがってましたねぇ。まだまだ飲み方を知らない子供でしたよぉ」

 

【ソフりん】

「柊菜子さんはあまり飲まないほうなんですよね?」

 

【樹里亜】

「おや、もしかして下戸でしたかぁ?」

 

【柊菜子】

「それもそうなんですけど……私、心臓を患っているので。負担がかかるので、そういう意味であまり飲めないんです」

 

【樹里亜】

「…………なるほど。大変ですねぇ」

 

【柊菜子】

「あ、でもたまーにちびちび飲むんですよ? やっぱこのご時世、飲まないとやってられませんからね!」

 

【樹里亜】

「同感です。酒! 飲まずにはいられませんからねぇ! あっははははははっ!」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【柊菜子】

「我妻さんはお酒はどうなんですか? 強そうなイメージですけど」

 

【樹里亜】

「そうですねぇ。私は基本酔わない体質ですので、いくらでもいけますよ?」

 

【ソフりん】

「よくイン〇タに高級ワインの写真上げてますよね」

 

【柊菜子】

「こ、高級ワイン……! さすがはお金持ち……!」

 

【樹里亜】

「と言っても主(おも)に上げていたのは数十万程度の安物ですからねぇ。数百万~数千万になってからが本当の高級ワインですよぉ?」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【柊菜子】

「す、住む世界が違う……」

 

【樹里亜】

「個人的なおすすめは59年のムートンですねぇ。果実とミントの味わいが深くて美味しいんですよぉ? 今度おふたりに送りますねぇ」

 

【柊菜子】

「え――――!!?? あ、いやお気持ちはありがたいんですけど……結構です。私にはおっかなびっくりですので……」

 

【ソフりん】

「わ、私も同じく……。そもそも私もそこまで強いというわけではありませんので」

 

【樹里亜】

「おや? プリズンにいた頃は飲んでませんでしたかぁ?」

 

【ソフりん】

「あれは人付き合いもあったので……。絵里子さん相手ぐらいでしたよ。適度な量で飲めていたのは」

 

【柊菜子】

「あぁ、たまに話すエナドリの人ですね」

 

【樹里亜】

「その呼び方ちょっとウケますねぇ」

 

【ソフりん】

「そういえば絵里子さん、今頃なにしてるんだろうなぁ……」

 

【樹里亜】

「婚活でもされてるんじゃないですかぁ? たしか独身でしたよねぇ。もういい歳ですし、焦ってお見合いでもしてるんじゃないですかねぇ」

 

【ソフりん】

「本人が聞いたら烈火の如く怒りそうだな……」

 

【柊菜子】

「私もアラサーだから他人事じゃないんですよねぇ……」

 

【ソフりん】

「それを言ったらここにいる全員そうなるんですが……」

 

【樹里亜】

「世間一般からしたら私たちもおばさんの部類なんですかね?」

 

【柊菜子】

「諸説ありますけど、おばさんと言える年齢は35歳からって聞いたことあります」

 

【樹里亜】

「じゃあはづ――」

 

【ソフりん】

「この話やめませんか?」

 

【柊菜子】

「あはは、そうですね。結婚どころか恋愛の話すら苦手ですし……」

 

【樹里亜】

「……失礼ですが、男性とのお付き合いは」

 

【柊菜子】

「いえ、一度も……」

 

【ソフりん】

「同じく……」

 

【樹里亜】

「ソフりんちゃんには聞いてませんけど……ちょっと意外ですねぇ。そのような美しい容姿で男性経験がないとは」

 

【柊菜子】

「お恥ずかしい話、あまり得意ではなくて……。そういう我妻さんはどうなんですか?」

 

【樹里亜】

「内緒です♡」

 

【柊菜子】

「あっ……! さては経験豊富ですね……!」

 

【樹里亜】

「さて、どうでしょう」

 

【柊菜子】

「ううぅぅ……。ソフィーヤさん、もしかして私たちだけなんですかね……男性経験ないの……」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【柊菜子】

「…………ソフィーヤさん?」

 

【ソフりん】

「!! そ、そうですね! たしかに私たち遅れてるのかもしれませんね、ははっ……」

 

【ソフりん】

「(『実は弟さんとヤラせていただいてましたー!』なんて口が裂けても言えるわけないからな……)」

 

【樹里亜】

「実はむかし柊一郎ちゃんとセッ〇スしたことあるんですよねぇ」

 

【ソフりん】

「(っ!? そ、そうなのか……!? というか、お姉さんの前でよく言えるな……)」

 

【柊菜子】

「ええっ!!?? シュ、シューちゃん……会社の子たちがいるのに……!」

 

【樹里亜】

「しかも後ろの穴で♡」

 

【柊菜子】

「あ、アナ……!!」

 

【樹里亜】

「とても満足そうにしてましたよ? 私の尻ま〇こにうっとりとしていた様子で♡」

 

【柊菜子】

「え、えぇ……」

 

【樹里亜】

「誤解のないよう申し上げますと、あくまでセッ〇スの練習として相手してあげただけです。寝取ろうなんで気概はありませんのでご安心を! あっははははははっ!」

 

【ソフりん】

「お姉さん相手によくこんな堂々と暴露できるな……」

 

【樹里亜】

「そういえばソフりんちゃんも柊一郎ちゃんとしたんですよね? セッ〇ス。本人から聞いたんですけど」

 

【ソフりん】

「本当に全部言うなあいつ!!!」

 

【柊菜子】

「――――っ!!?? そ、ソフィーヤさん……本当なの……?」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「…………はい」

 

【柊菜子】

「…………弟が、目の前のふたりに食べられていたとは……」

 

【ソフりん】

「あ、その! わ、私もそういう……下心とかではなく、協力……のつもりで一度、しただけでして」

 

【柊菜子】

「協力って」

 

【樹里亜】

「あの時の柊一郎ちゃん、たしか性癖探しの最中だったんですよねぇ。もしかしてそのことですかぁ?」

 

【ソフりん】

「えぇ……彼は、その……私と妹の仲を取り持ってくれた恩人なので、私にできることがあればしてあげたいと思って……そしたら、なんか……妹と3Pすることになりまして」

 

【柊菜子】

「なんで?」

 

【樹里亜】

「……もしかしてソフりんちゃん、柊一郎ちゃんで処女卒業したんですかぁ?」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「(※↑目線を一切合わせずゆっくり頷いている)」

 

【樹里亜】

「おやまぁ♪」

 

【柊菜子】

「今度からソフィーヤさんとどう顔を合わせればいいのかまったくわからない……」

 

【ソフりん】

「柊菜子さん……その、黙っていてすみませんでした……」

 

【柊菜子】

「い、いえ?? お、弟がお世話になりました……??」

 

【ソフりん】

「あ、いえむしろお世話になったのは私のほうで……はは……」

 

【柊菜子】

「あはは……」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【柊菜子】

「…………」

 

【樹里亜】

「変な空気になってしまいましたねぇ」

 

【ソフりん】

「(あんたのせいだろうが……!)」

 

【樹里亜】

「そもそもなんのお話でしたっけこれ?」

 

【柊菜子】

「男性との付き合いがどうとかって……」

 

【樹里亜】

「おっと、そうでしたねぇ。で、結婚願望はどうなのかなと思いまして」

 

【柊菜子】

「結婚……恋愛自体ができていないのでそれ以前の問題ですねぇ。体のこともありますので」

 

【ソフりん】

「まぁ、柊菜子さんは事情が特殊なところあるからな」

 

【柊菜子】

「我妻さんは?」

 

【樹里亜】

「私に見合う方がいらっしゃるのであれば……あ、そう言えば……」

 

【ソフィ菜子】

「「?」」

 

【樹里亜】

「実はむかし柊一郎ちゃんに求婚したことあるんですよねぇ」

 

【柊菜子】

「ええっ!!?? シュ、シューちゃん……会社の子たちがいるのに……!」

 

【ソフりん】

「既視感がすごい」

 

【樹里亜】

「まあ、あっさり断られたんですけど♪ なのでもしかしたら私、柊菜子さんの義妹になっていた未来もあったかもしれないんですよねぇ」

 

【柊菜子】

「な、なんとも返答に困る話……」

 

【ソフりん】

「しかしなぜ湊に求婚を?」

 

【樹里亜】

「先程お話した通り、現在私は勘当中の身なんですけれど、婿を連れてきたら家に戻ってきていいって言われてまして」

 

【ソフりん】

「それで当時子供の湊に求婚、というのはさすがにどうかと……」

 

【樹里亜】

「もちろん承知の上ですよぉ? でもどうせなら柊一郎ちゃんがよかったんですよねぇ」

 

【柊菜子】

「あの、なぜ弟にそこまで……? 姉の私が言うのもなんですけど、さすがにあの子では我妻さんとは釣り合わないんじゃ……」

 

【樹里亜】

「そんなことはありません。柊一郎ちゃんは……私(・)と(・)似(・)て(・)い(・)る(・)ん(・)で(・)す(・)」

 

【樹里亜】

「もしパートナーにするなら……そういった人のほうが楽しい。そう思ったんですねぇ」

 

【柊菜子】

「…………」

 

【樹里亜】

「と言っても、過ぎたお話ですので。そうお気になさらず」

 

【樹里亜】

「まぁ、逆玉の輿を逃したなぁ……とは思いますけどねぇ?」

 

【柊菜子】

「たしかに! くっ……シューちゃんったら、なんてもったいないことを……!」

 

【樹里亜・柊菜子】

「「あっははははははっ!」」

 

【ソフりん】

「めちゃ仲良しじゃん……」

 

【柊菜子】

「なんだか親近感がわいてきました。我妻さん、思ったより話しやすい方なんですね」

 

【樹里亜】

「それは当然のことかと。私と柊一郎ちゃんは似ている。つまり、姉の柊菜子さんともウマが合うのは必然。そのように、”主”によって導かれているのです!」

 

【柊菜子】

「なるほど!」

 

【ソフりん】

「柊菜子さん、無理に合わせなくても……あ、もうこんな時間か」

 

【柊菜子】

「終電は大丈夫ですか?」

 

【ソフりん】

「はい、まだぜんぜん間に合うので」

 

【樹里亜】

「では私もこの辺りでお暇させていただきます。今夜は大変お世話になりました」

 

【柊菜子】

「いえいえ、こちらこそ。お外だいぶ暗いので気をつけてくださいね」

 

【樹里亜】

「大丈夫ですよぉ。ソフりんちゃんの金(・)髪(・)が道を照らしてくれますので♪」

 

【ソフりん】

「…………?」

 

【柊菜子】

「…………えっと」

 

【樹里亜】

「……ボケをスルーされると気恥ずかしいですねぇ。『金髪ってライト代わりになるんだ……』って乗ってくれても――」

 

【ソフりん】

「いえ、そういうことではなく――――私いま、茶(・)髪(・)なんですけど」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………え?」

 

【ソフりん】

「ぜんぜん触れられなかったので黙っていたんですけど、実は演劇の役作りのために髪を染めているんです」

 

【ソフりん】

「もしかして気づかなかった……? ……いや、そんなはずはありませんよね? ずっと面と向かって話していたんですから」

 

【柊菜子】

「今の我妻さんのお話からして、本当に金髪だと思っていたような……そんな話し方でしたけど」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【ソフりん】

「…………なにか、我々に隠していませんか?」

 

【柊菜子】

「…………我妻さん?」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………っ」

 

【樹里亜】

「――今からお話すること、決して誰にも話さないと約束していただけますかぁ?」

 

 

 

 

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