The HENTAI of Tennis   作:黒桐饅頭

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Game1. ソフりんvs姫瑠

★場所:LALEオフィス

 

【妙花】

「……どうだ柊一郎。終わったか」

 

【柊一郎】

「あぁ。納品完了だ」

 

【伊栖未】

「お、お疲れさん」

 

【ノア】

「ふぅー……。やっと終わりましたね」

 

【柊一郎】

「思ったより時間かかっちゃった」

 

【ソフりん】

「悪いな。こんな忙しいときに邪魔してしまって」

 

【ノア】

「いえ。遊びに来てほしいとお呼びしたのは私の方ですから気にしないでください」

 

【柊一郎】

「まさかデバッグ漏れがあるとは思わなくて。ロクなおもてなしできなくて誠にごめん」

 

【ソフりん】

「仕方のないことなんだろ? 謝らなくていい」

 

【ソフりん】

「それに……お前たちが相変わらず元気そうでなによりだよ」

 

【妙花】

「くっくっ、元気ぐらいしか取り柄のねぇ集団だからなぁ」

 

【伊栖未】

「く、空腹のときはみんな、死にかけてるけどな」

 

【ノア】

「そんなときのお姉ちゃんからの送金と支給物資がどれだけありがたいことか……」

 

【柊一郎】

「あのときは誠にありがとう」

 

【ソフりん】

「いつの話だったか忘れたがそんなこともあったな。……だってノアから『た゛す゛け゛て゛お゛ね゛え゛ち゛ゃ゛ん゛!!』なんて電話来たら心配にもなるだろ。いろんな意味で」

 

【妙花】

「あー……あん時アタシら何食ってたかおぼえてるか?」

 

【柊一郎】

「塩と水」

 

【伊栖未】

「その辺の草」

 

【ノア】

「草も揚げると美味しいですよね」

 

【ソフりん】

「頼むからそういうときはもっと早く連絡を寄越せ。本当に死ぬぞお前たち」

 

【柊一郎】

「おかげでかなり瘦せた」

 

【妙花】

「だが仕事ばかりで運動してねぇから完全に不摂生な生活と化してる。こりゃちとまずいねぇ……」

 

【ノア】

「今度からみんなで毎朝走ります? その辺」

 

【伊栖未】

「えぇー……」

 

【妙花】

「伊栖未は体が弱いから熱中症とかで倒れるかもしんねぇだろ。もっと気軽にできるやつにしろ」

 

【柊一郎】

「ヨガでもやる?」

 

【ソフりん】

「悪くはないが運動不足にそれはちょっと地味じゃないか……?」

 

【ノア】

「やらないよりはマシでしょうけど解消とまではいかないでしょうね」

 

【妙花】

「一応グラブとボールがあるからキャッチボールならできるぞ」

 

【ノア】

「まあ走り込むよりは気が楽かもしれませんね」

 

【柊一郎】

「…………」

 

【伊栖未】

「あ。柊一郎が苦虫を嚙み潰したような顔してる」

 

【ソフりん】

「そういや湊は球技が苦手なんだったな」

 

【妙花】

「プリズンでも野球大会やっただろうが」

 

●SE:玄関が勢いよく開く音

 

【姫瑠】

「お前たち! 元気にしてるか!? 遊びに来たぞ!」

 

【柊一郎】

「山岸看守長」

 

【伊栖未】

「ん、んほぉ!」

 

【ノア】

「……その大荷物どうしたんです?」

 

【姫瑠】

「ん? あぁこれはな──」

 

【ソフりん】

「……山岸刑務官? こんなところで再会できるとは」

 

【姫瑠】

「!! シコレンコ看守長! ご無沙汰しております! お元気でしたか!?」

 

【ソフりん】

「あ、あぁ……。相変わらず声大きいな……」

 

【姫瑠】

「プリズンをお辞めになってからどうしたものかと気になっていたのですが、今は何をされてるのですか?」

 

【ソフりん】

「本島の方で役者をやってる。劇団に入ったんだ」

 

【姫瑠】

「おぉ! そうでしたか! では今度舞台観に行かせていただきますね! 夕顔所長や他の看守たちも連れて!」

 

【ソフりん】

「……できれば一人で来てくれるとありがたいんだが」

 

【妙花】

「しっかし馬鹿デカい荷物だねぇ。なにを持ってきたんだ?」

 

【姫瑠】

「あぁ。これはな、テニス道具だ」

 

【伊栖未】

「テ、テニス……?」

 

【柊一郎】

「また球技……」

 

【妙花】

「本当に苦手なんだなぁ……」

 

【ソフりん】

「そういえば山岸刑務官はテニスをやっていたんだったな」

 

【姫瑠】

「えぇ。学生時代にテニス部で副主将を務めていたので」

 

【ノア】

「でもなぜテニス?」

 

【姫瑠】

「お前たちは普段デスクワークばかりで全く運動をしないだろう。せっかくだからみんなでテニスでもどうかと思ってな。私が教えながらって感じで」

 

【妙花】

「へぇ、そりゃいいねぇ。ちょうど体が鈍ってたところだからな」

 

【姫瑠】

「シコレンコ看守長もご一緒にどうです?」

 

【ソフりん】

「……いいのか? 誘ってくれるのはありがたいが……あまりルールを知らなくてな」

 

【柊一郎】

「オレも。テニスよくわかんない」

 

【伊栖未】

「わ、わたしも……ルールわからぬ」

 

【ノア】

「私もやったことないですね」

 

【妙花】

「なんだ、手前ら揃いも揃って素人だったのか。張り合いがねぇなぁ」

 

【柊一郎】

「妙花分かるの」

 

【妙花】

「組にいた頃に少しな。野球だけでなくいろんなスポーツをやってたよ」

 

【姫瑠】

「もちろん初心者もいると思ってな。参考本としてテニス漫画を持ってきたからこれを読むといい」

 

【ソフりん】

「ルールブックとかじゃないんだな」

 

【ノア】

「で、その漫画とは?」

 

【姫瑠】

「『ペ〇スの王女様』」

 

【ノア】

「…………」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【ノア】

「…………テニスは?」

 

【姫瑠】

「ちゃんと全巻持ってきたからな! これを読めばあっという間にテニスができるようになる魔法の漫画なんだぞ!」

 

【妙花】

「どんな漫画だよ」

 

【伊栖未】

「う、胡散臭……」

 

【柊一郎】

「王女様なのにペ〇スって矛盾してない」

 

【姫瑠】

「ほら、今プロで活躍されてる某テニス選手がいるだろ? その人も幼少期にこの漫画を読んでプロになったとのことだ」

 

【ノア】

「本人の努力によるものでしょう。それとはまた別だと思いますけど」

 

【柊一郎】

「それにしても数多いですね」

 

【姫瑠】

「そうだな。"新"の方もあるから全部で70冊以上あるぞ」

 

【ソフりん】

「それを今からみんなで読めと言っているのか? 時間的に無理があるだろ」

 

【姫瑠】

「ところがそうでもなく。本当に面白いので冊数など気にならないぐらいサクサク読めるんですよ。面白い漫画とはそういうものでしょう?」

 

【伊栖未】

「そうかな……そうかも……」

 

【柊一郎】

「じゃあちょっと読ませてもらいます」

 

【妙花】

「おい。手前が1巻を読んだらアタシらは──」

 

【姫瑠】

「心配はいらないぞ! 布教用、鑑賞用、保存用、予備用も持ってきてるから問題ない!」

 

【ノア】

「だからそんな大荷物だったんですね」

 

【ソフりん】

「よく肩凝らないな……」

 

【妙花】

「予備用ってなんだ?」

 

●2時間後

 

【姫瑠】

「……どうだ? 面白かっただろう?」

 

【柊一郎】

「すごく面白かった。早く続き読みたい」

 

【ノア】

「ただのファンじゃん」

 

【伊栖未】

「ド、ドイツ戦……最高だった……! えへっ、えへっ」

 

【ソフりん】

「ストーリーも面白いしテニスの知識も身に付いたし。たしかにいい漫画だったな」

 

【妙花】

「あぁ。早く技を試したくて仕方ねぇ。本当に魔法にかかったみてぇだよ」

 

【姫瑠】

「だろう! もっと読み込んでみんなでプロを目指さないか!」

 

【ノア】

「目的変わってませんか?」

 

【柊一郎】

「テニスやりたくなってきた。早くコート行こう」

 

【伊栖未】

「え、で、でも誰と誰が、やるんだ?」

 

【妙花】

「そうだな。対戦相手を決めておかねぇとだな」

 

【柊一郎】

「まず山岸看守長に試合やってみてほしい。お手本として」

 

【姫瑠】

「わかった。じゃああとは…………そうだ、シコレンコ看守長。私と1ゲームどうですか?」

 

【ソフりん】

「……え? 私でいいのか?」

 

【姫瑠】

「今はもう同僚じゃありませんので今後なかなか会えないでしょう。せっかくの機会ですので、本島に帰られる前に1度だけでもどうかと思いまして」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「……それもそうだな。胸を借りるつもりで手合わせ願うよ」

 

【姫瑠】

「えぇ。よろしくお願いします。道具とウェアは私が持ってきてますのですべてお貸ししますね」

 

【ノア】

「!!」

 

【ソフりん】

「あぁ。ありがとう」

 

【ノア】

「……お、お姉ちゃんのテニスウェア!! 早く着替えてもらっていいですか!!」

 

【ソフりん】

「う、うるさ……」

 

【姫瑠】

「おぉ、テンション高いな紅林! だがそんなんじゃまだまだ熱量が足りないぞ! もっと熱くなれよおおおおおおお!!!」

 

【ノア】

「うっひょおおおおおおおおお!!! お姉ちゃんのテニスウェアアアアアアアア!!!」

 

【ソフりん】

「なんなんだこいつら……」

 

【妙花】

「うるせぇし熱いし勘弁してくれねぇか」

 

【伊栖未】

「弊社での騒音と発熱はご遠慮願います」

 

【柊一郎】

「PCが壊れる前に移動しよっか」

 

★場所:島内 テニスコート

 

【ソフりん】

「…………」

 

【姫瑠】

「シコレンコ看守長! さすがスタイルが良いだけあって似合いますね!」

 

【ソフりん】

「そ、そうか……?」

 

【ノア】

「…………」

 

【妙花】

「おーい大丈夫かノア」

 

【伊栖未】

「め、眩暈か……?」

 

【柊一郎】

「熱中症じゃないの」

 

【妙花】

「どっちでもねぇと思うけどなぁ……」

 

【姫瑠】

「それじゃあ黒鐘。審判頼むぞ」

 

【伊栖未】

「う、うい」

 

【妙花】

「できんのか?」

 

【伊栖未】

「ルールはお、おぼえたから。ばっちし」

 

【柊一郎】

「ほらノア。試合始まるから起きて」

 

【ノア】

「は、はい……すみません……」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【伊栖未】

「わ、1セットマッチ。ソフりんサービスプレイ」

 

【ソフりん】

「……いくぞ、山岸刑務官。…………はぁっ!」

 

【姫瑠】

「ナイスサーブです! ……ふっ!」

 

【ソフりん】

「……はっ!」

 

【姫瑠】

「……よっ!」

 

【ノア】

「すごいですね。普通にラリーできてます」

 

【柊一郎】

「あの漫画の力か」

 

【妙花】

「メカニズムはよくわからねぇが熱い展開になるなら大歓迎だ」

 

【姫瑠】

「……はっ!」

 

【ソフりん】

「くそっ! しまっ──」

 

【伊栖未】

「0(ソフりん)-15(姫瑠)」

 

【柊一郎】

「山岸看守長の先取か」

 

【ノア】

「お姉ちゃん惜しかったですね」

 

【妙花】

「…………」

 

【ソフりん】

「はっ!」

 

【姫瑠】

「ふっ!」

 

【ソフりん】

「くっ!」

 

【姫瑠】

「ほっ!」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「(…………どういうことだ? 狙ったところにボールがいかない……?)」

 

【妙花】

「……妙だな」

 

【柊一郎】

「え?」

 

【ノア】

「なにがですか?」

 

【妙花】

「あのやっこさんの足下を見ろ」

 

【姫瑠】

「…………はぁっ!」

 

【柊一郎】

「……そういえば」

 

【ノア】

「あの場所から一歩も動いてない?」

 

【???】

「それがあの子の必殺技なんですよぉ」

 

【ノア】

「…………あなたは」

 

【妙花】

「……手前。何しに来やがった」

 

【柊一郎】

「シスター」

 

【樹里亜】

「お久しぶりですねぇ。近くに寄ったのでつい。なにやら面白そうな匂いを嗅ぎつけたので」

 

【柊一郎】

「すごい嗅覚」

 

【ノア】

「見ての通りただのテニスですよ」

 

【妙花】

「邪魔しに来たんならとっとと帰れ似非修道女」

 

【樹里亜】

「あらつれない。せっかく解説して差し上げようと思ったのに」

 

【妙花】

「あぁ?」

 

【ソフりん】

「…………ぐぅっ!」

 

【姫瑠】

「ほっ!」

 

【伊栖未】

「ゲームんほぉ。0(ソフりん)-1(姫瑠)」

 

【妙花】

「…………」

 

【ノア】

「お姉ちゃんの打球がすべて……んほぉに吸い寄せられてるような……」

 

【樹里亜】

「そう。それが『姫瑠ゾーン』」

 

【妙花】

「…………」

 

【ノア】

「…………」

 

【柊一郎】

「姫瑠ゾーン」

 

【樹里亜】

「あの子、片足を軸にして動いているでしょう? 回転をかけて球を打ち返すことで、相手が打ち返しても自分のところに自動で帰ってくるようにしているんです」

 

【ノア】

「……なるほど」

 

【樹里亜】

「さすがは元テニス部副主将ですねぇ。余程の熟練者でなければ不可能な高等テクニックをいとも簡単にやってのけますねぇ」

 

【柊一郎】

「すごい」

 

【ノア】

「あの人プロでも目指してたんですか?」

 

【樹里亜】

「いいえ? インターハイにはよく出場してましたけど」

 

【妙花】

「だからってなぁ……」

 

【樹里亜】

「ソフりんちゃんも運動神経は良いと思いますけど、経験の差が如実に出てしまってますねぇ」

 

【ソフりん】

「…………っ!」

 

【伊栖未】

「ゲームんほぉ。0(ソフりん)-3(姫瑠)」

 

【柊一郎】

「いつの間に」

 

【ノア】

「お姉ちゃん……」

 

【樹里亜】

「どうやらワンサイドゲームのようですねぇ。ちょっと期待外れでしたかねぇ」

 

【妙花】

「……それはどうかな」

 

【樹里亜】

「……なんか言いましたかぁ? チンピラちゃん」

 

【妙花】

「いやなに。何年も同じ職場にいた癖にソフりんのこと何も分かってねぇんだなと思ってよ。アタシらのほうがよっぽど理解してるよ」

 

【樹里亜】

「……ふぅん?」

 

【ノア】

「……妙花?」

 

【妙花】

「まぁ見てなよ。ソフりんは……こっからだろ」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「(……こうなったら、"あれ"をやるしかない!)」

 

【姫瑠】

「…………はっ!」

 

【ソフりん】

「ふっ!」

 

【姫瑠】

「よっ!」

 

【ソフりん】

「ほっ!」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【姫瑠】

「(気のせいか? シコレンコ看守長から変なオーラが……)」

 

【ノア】

「……お姉ちゃん?」

 

【妙花】

「ノア。お前にも見えるか」

 

【樹里亜】

「……あれは一体」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【妙花】

「間違いねぇ。ソフりんのやつ、なにか仕掛ける気だ」

 

【柊一郎】

「なにかって」

 

【妙花】

「いいから見てろ」

 

【姫瑠】

「……はっ!」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「……はぁぁぁっ!!!」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【姫瑠】

「…………今のは」

 

【伊栖未】

「15(ソフりん)-0(姫瑠)」

 

【ノア】

「……ラケットを再度振ったら」

 

【樹里亜】

「……打球が曲がりましたねぇ」

 

【妙花】

「あのオーラによるものだよ。おそらくな」

 

【柊一郎】

「どういうこと」

 

【妙花】

「ソフりんは長年プリズンでずっと悲惨な目に合ってきた。囚人からはもちろん、同僚の看守長たちからも無理やり仕事を押し付けられるなんて理不尽な目によ」

 

【樹里亜】

「なんのことですかねぇ」

 

【妙花】

「そんなストレスが人一倍溜まる環境にずっと身を置いていたソフりんだからこそ起こせる……『酷蝕のオーラ』」

 

【柊一郎】

「酷蝕の……オーラ」

 

【妙花】

「あの技に名前を付けるなら……『酷涙一重の惨』ってとこだな」

 

【樹里亜】

「なるほど。プリズンで虐げられてきたことでより強い怨念をまとったソフりんちゃんだからこそできる技、ってことですかぁ」

 

【柊一郎】

「自覚してるじゃん」

 

【ノア】

「そもそもその解釈合ってんのか?」

 

【姫瑠】

「…………くっ!」

 

【ソフりん】

「はああああぁぁぁ!!!」

 

【姫瑠】

「ま、また……!」

 

【伊栖未】

「30(ソフりん)-0(姫瑠)」

 

【ノア】

「すごい! すごいですお姉ちゃん!」

 

【ソフりん】

「なかなかやりますねぇソフりんちゃん」

 

【姫瑠】

「こりゃやっこさんも攻めあぐねるだろうなぁ」

 

【柊一郎】

「これならまだ……勝負がわからない」

 

●約10分後

 

【伊栖未】

「ゲームソフりん。4(ソフりん)-3(姫瑠)」

 

【樹里亜】

「あらまぁ。逆転しちゃいましたねぇ」

 

【柊一郎】

「ソフりんすごい。漫画読んだだけなのに」

 

【樹里亜】

「(漫画? …………あぁ)」

 

【ノア】

「これいけるんじゃないですか? あのんほぉが手も足も出てないですよ」

 

【妙花】

「そう焦んじゃねぇ。やっこさんの顔を見ろ。なにやら神妙な面持ちだぞ。このままじゃ終わらねぇって雰囲気だ」

 

【柊一郎】

「まだ他に技持ってるのかな」

 

【ノア】

「あのゾーン技に加えて他にも持ってたらさすがに化け物ですよ」

 

【柊一郎】

「あの人化け物だよ」

 

【ノア】

「それもそうでしたね」

 

【妙花】

「意味がちげぇだろ」

 

【樹里亜】

「…………姫瑠ちゃん?」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【ソフりん】

「……山岸刑務官? さっきからどうしたんだ」

 

【姫瑠】

「…………シコレンコ看守長」

 

【ソフりん】

「……なんだ?」

 

【姫瑠】

「……すみません。あなたにだけは……"この技"を使いたくありませんでした」

 

【ソフりん】

「……は? なに言って──」

 

【姫瑠】

「本気を出させてもらいます」

 

【ソフりん】

「…………?」

 

【伊栖未】

「んほぉtoサーブ」

 

【姫瑠】

「……はっ!」

 

【ソフりん】

「っ!」

 

【姫瑠】

「ふっ!」

 

【ソフりん】

「……!」

 

【ノア】

「んほぉ、なんか言ってましたね」

 

【柊一郎】

「本気……とか言ってなかった」

 

【樹里亜】

「……まさか」

 

【妙花】

「……あぁ? なんなんだ。さっさと教えろ」

 

【樹里亜】

「姫瑠ちゃんはおそらく──」

 

【ソフりん】

「はぁっ!」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【姫瑠】

「(……シコレンコ看守長! ごめんあそばせ!)」

 

【姫瑠】

「はああっ!!!」

 

【ソフりん】

「(……? 普通の打球?)」

 

【ソフりん】

「……はっ!」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【ソフりん】

「………え? ……だ、打球が……アウトに…」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【伊栖未】

「15(姫瑠)-0(ソフりん)」

 

【柊一郎】

「…………」

 

【ノア】

「…………なっ」

 

【妙花】

「……なんなんだ今のは。打球が、まるで……アウトコースに引き寄せられたかのような──」

 

【樹里亜】

「『姫瑠ファントム』」

 

【妙花】

「……は?」

 

【柊一郎】

「ファントム?」

 

【樹里亜】

「『姫瑠ゾーン』の応用技ですねぇ。打球を引き寄せる要領を用いて、逆に打球をコート外に弾き出す技です。インターハイでも披露していましたねぇ」

 

【ノア】

「だったら最初からそれで────いえ。そういうことですか」

 

【妙花】

「どういうことだ?」

 

【ノア】

「あの技はゾーンと違って腕にかかる負担がかなり大きいはずです。……ですよね?」

 

【樹里亜】

「そういうことですねぇ」

 

【柊一郎】

「よくわからない。説明してほしい」

 

【樹里亜】

「姫瑠ちゃんはコートのセンターマーク上にずっと立っています。ゾーンの場合、カバーできるのは半径約1.5メートル。相手がコーナーギリギリに打っても、左右2.6メートル分の引き寄せる回転をかければ、『姫瑠ゾーン』は完成します」

 

【妙花】

「言ってることは分かるがあくまでそれはゾーンの話で……いや。そういうことか」

 

【樹里亜】

「チンピラちゃんも気づきましたかぁ」

 

【柊一郎】

「分かってないのオレだけ?」

 

【樹里亜】

「柊一郎ちゃん、コートをよく見てくださいな。ゾーンと同じ条件で考えると、ファントムの場合は半径4.2メートル分弾き出す回転をかけないといけないんです。そうしないとアウトになりませんからねぇ」

 

【柊一郎】

「つまりかけなきゃいけない回転量は……『姫瑠ゾーン』の約6割増か」

 

【樹里亜】

「そういうことですねぇ♡ 姫瑠ちゃん、このまま続けたら腕痛めちゃいますよぉ」

 

【伊栖未】

「ゲームんほぉ。4(姫瑠)-4(ソフりん)」

 

【ノア】

「……ちょっと。それまずいんじゃないですか」

 

【妙花】

「あぁ。大惨事になる前に止めるぞ」

 

【樹里亜】

「別にいいじゃないですかぁ。放っておきましょう」

 

【妙花】

「…………手前って奴は……どこまで──」

 

【樹里亜】

「意地悪で言ってるわけじゃありませんよぉ? あの子はあれでも元テニス部副主将。インターハイでも数々の実績を上げています。素人のソフりんちゃんにこのまま負けるというのは、テニスプレーヤーとしての矜持に関わるのでしょう」

 

【妙花】

「…………」

 

【柊一郎】

「プライドか」

 

【樹里亜】

「はい。ヤクザで言うところの面子ですねぇ。チンピラちゃんなら分かる話でしょう?」

 

【妙花】

「……手前に言われるのは癪だが、そういうことかい。だったらアタシらが出しゃばるってのは筋が通らねぇな」

 

【ノア】

「いいんですか? これでもしんほぉが怪我してしまったらお姉ちゃんだって気に病むんじゃ──」

 

【柊一郎】

「信じよう」

 

【妙花】

「あぁ。黙って見守ってやろうじゃねぇか。もうこの試合は誰にも止められねぇんだからよ」

 

【ノア】

「…………」

 

【ノア】

「…………」

 

【ノア】

「言うほどそうか?」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「……山岸刑務官。その打球には弱点がある」

 

【姫瑠】

「……ほぉ。弱点ですか」

 

【ソフりん】

「アウトになる回転をかけるなら……」

 

【ソフりん】

「──打ち消すほどの逆回転をかければいい!!」

 

【ノア】

「そっか! それなら多少威力は落ちても狙った通りのコースに打球が行く!」

 

【樹里亜】

「なるほど。考えましたねぇソフりんちゃん。私も驚きました」

 

【妙花】

「…………いや、待て!!」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【ソフりん】

「…………なっ!! ……だ、打球が…山岸刑務官のところへ……!!」

 

【姫瑠】

「……はっ!!」

 

【伊栖未】

「15(姫瑠)-0(ソフりん)」

 

【樹里亜】

「!! あ、あれは……ファントムじゃない……!?」

 

【妙花】

「……どういうことだ? 来た打球に逆回転をかけて返したら『姫瑠ゾーン』と同じ軌跡に──」

 

【姫瑠】

「シコレンコ看守長。あなたにこれを破れますか」

 

【ソフりん】

「……え?」

 

【姫瑠】

「普通に返せば"ファントム"になり、逆回転をかければ"ゾーン"になる。────そんな複合回転をかけた打球なんです」

 

【樹里亜】

「……ふ、複合回転!?」

 

【妙花】

「……どうやら、とんでもねぇ大技を隠し持っていたようだな」

 

【柊一郎】

「もうついていけないんだけど」

 

【ソフりん】

「……バ、バカな!! そんなことできるわけ──」

 

【姫瑠】

「この技はインターハイでも使わなかった究極奥義『シコの(アルティメット)ゾーン』です────"あの人"を倒すために」

 

【ソフりん】

「もっとマシなネーミングあるだろ…………ん? あの人? 誰のことだ?」

 

【姫瑠】

「一応言うとおね……我妻元看守長のことではありませんよ」

 

【ソフりん】

「……そ、そうか」

 

【ソフりん】

「(そもそもテニスできるのか?)」

 

【姫瑠】

「それより……シコレンコ看守長。この打球を返してみせてください」

 

【姫瑠】

「──おそらく無理だと思いますが」

 

【ソフりん】

「!! ……いいだろう絶対破ってやる!! 覚悟しろ!!」

 

【ノア】

「あぁ……またお姉ちゃんの悪い癖が……」

 

【妙花】

「だからあのオーラ消えねぇんだろうなぁ」

 

【樹里亜】

「…………では。私はこのあたりで失礼します」

 

【柊一郎】

「帰るの」

 

【樹里亜】

「あらぁ、引き留めてくれるんですかぁ?」

 

【柊一郎】

「別に。帰りたければ止めないけど」

 

【樹里亜】

「つれませんねぇ。……面白いものは十分見させてもらいましたので」

 

【柊一郎】

「そう。道中お気をつけて」

 

【妙花】

「もう二度と来るんじゃねぇぞ」

 

【樹里亜】

「ふふっ……それはどうですかねぇ」

 

【妙花】

「あぁ?」

 

【樹里亜】

「それではみなさん。ごきげんよう」

 

●SE:遠ざかる足音

 

【妙花】

「……ちっ。なんだったんだあの似非伴天連女は」

 

【柊一郎】

「なんか意味深だった」

 

●約5分後

 

【伊栖未】

「ゲームアンドマッチ。6(姫瑠)-4(ソフりん)。勝者んほぉ」

 

【妙花】

「……ソフりん負けちまったか」

 

【ノア】

「さすがのお姉ちゃんもあの『シコの(アルティメット)ゾーン』は崩せなかったようです。残念ですが仕方ありません」

 

【柊一郎】

「その名前どうも違和感あるんだけど」

 

【ソフりん】

「…………はぁっ……はぁっ……!」

 

【姫瑠】

「…………ふぅっ……シコレンコ看守長。お疲れ様でした」

 

【ソフりん】

「え? あ、あぁ……お疲れ様。さすがだった。ちょっと悔しいけど楽しかったよ」

 

【姫瑠】

「ご満足いただけてなによりです! シコレンコ看守長の、あの打球の進路を変える技も見事でした!」

 

【ソフりん】

「……そうか。ありがとう」

 

【姫瑠】

「今度また試合するときには3回は曲げられるようになっておいてくださいね!」

 

【ソフりん】

「そのときはもう劇団辞めてプロになってると思うんだが……」

 

【ノア】

「二人共、お疲れ様でした」

 

【妙花】

「ナイスゲームだったぞ。伊栖未も審判お疲れさん」

 

【伊栖未】

「う、うん……。思ったよりつ、疲れた……」

 

【柊一郎】

「シスターも絶賛してましたよ」

 

【ソフりん】

「えっ!? 我妻元看守長、来てたのか!?」

 

【姫瑠】

「お、お姉様!? おいお前たち! なんで言ってくれなかったんだ! ていうか、もういないのか!?」

 

【柊一郎】

「もう帰っちゃった」

 

【ノア】

「私たちもよくわかりませんがふらっと来てふらっと帰ってしまったので」

 

【ソフりん】

「……そういえば山岸刑務官。我妻元看守長はテニスできるのか? 試合中に少し触れてただろ」

 

【姫瑠】

「はい。できますよ」

 

【柊一郎】

「え。マジで」

 

【ソフりん】

「そうなのか。意外だな……」

 

【妙花】

「あの似非修道女にテニスだと……? そもそも運動自体できんのか?」

 

【姫瑠】

「実はこの前お会いしたときに、あの漫画を読んでもらってな。それで一度だけ対戦してもらったんだ。……あのときのお姉様、とても強かったなぁ」

 

【柊一郎】

「シスターそんなすごいんだ。山岸看守長が強いって言うほどだしちょっと気になる」

 

【妙花】

「……それで、結果は? さすがにアンタが勝ったんだろ?」

 

【姫瑠】

「いや。『シコの(アルティメット)ゾーン』は使わなかったが6-6で引き分け。タイブレーク前に途中雨天で中止になった」

 

【ソフりん】

「ひ、引き分け!?」

 

【ノア】

「あの運動できなさそうなシスターが……んほぉと、引き分け……?」

 

【伊栖未】

「し、信じられん……」

 

【柊一郎】

「山岸看守長のあのゾーンやファントムがあっても……引き分けか」

 

【妙花】

「どうなってんだ? いくら漫画の力があるとはいえあの女にテニス、というより動けんのか?」

 

【姫瑠】

「完璧な佇まいだった。正直自信を失いかけたぞ」

 

【ソフりん】

「へぇ……あの人なんでもできるな」

 

【姫瑠】

「おそらくまた青藍島にいらっしゃるだろうから、今度はお前たちの誰かがお姉様と試合してみたらどうだ?」

 

【伊栖未】

「拒否」

 

【ノア】

「嫌です」

 

【妙花】

「気が乗らねぇ」

 

【柊一郎】

「オレは戦ってみたい……かも。どれくらい強いのか気になるし」

 

【姫瑠】

「本当か! さすがだな!」

 

【ソフりん】

「お前すごいな」

 

【姫瑠】

「湊……お前はラーレの柱になれ!」

 

【柊一郎】

「大黒柱だけど」

 

【妙花】

「言いてぇだけだろうが」

 

【ノア】

「そういやこの人オタクでしたね」

 

【伊栖未】

「さわさり」

 

 

 

 

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