ノア、ソフりん、シスターが声真似の上手さで勝負するお話です。
※声や演劇などの「お芝居」について多少語っている部分がありますが、あくまで素人一個人の見解として捉えていただければと思います。
★場所:LALEオフィス
【柊一郎】
「…………」
【伊栖未】
「…………」
【ノア】
「…………」
【妙花】
「…………」
【柊一郎】
「……この主人公、可愛い」
【ノア】
「女装姿がこんなに様になってるのすごいですね」
【妙花】
「ヒロインよりも別嬪じゃねぇかこりゃ」
【伊栖未】
「声も綺麗で、せ、清楚だ。男なのに」
【ノア】
「柊一郎も女装するときこれくらい可愛かったらいいんですけどね」
【柊一郎】
「すごい無茶言うじゃん」
【妙花】
「見た目だけ可愛くできても声が無理だろ。柊一郎はもうとっくに"男"の声になってんだからよ」
【伊栖未】
「さわさり」
【柊一郎】
「そもそも女装って外出のときだけなんだけど」
【ノア】
「別にオフィスの中でもしてくれていいんですよ? むしろ女装姿で仕事してる柊一郎を見てみたいです」
【伊栖未】
「私もちょっと興味ある、かも」
【妙花】
「ぜってぇ気が散るだろうが。却下だ」
●SE:ドアが開く音
【ソフりん】
「…………ふぅ、お前たち帰ったぞ。やっぱここは冷房が効いてて涼しいな」
【柊一郎】
「あ、ソフりん帰ってきた」
【ノア】
「っ、お姉ちゃん! ありがとうございます!」
【妙花】
「すまねぇなソフりん。こんな暑い中飲みもん買い出しに行ってくれてよ」
【ソフりん】
「あぁ、構わないさ。ただ、今日は日照りが強くてな。常夏の島とは言えこんなに暑いもんなのか」
【柊一郎】
「ソフりんお疲れ様。扇風機もつける?」
【ソフりん】
「いやいいよ……冷房で十分だ。それに、電気代もかかるだろ。あまり無駄遣いはするな」
【柊一郎】
「失業保険で食い繋いでた人が言うことは説得力が違う」
【ソフりん】
「お前……冗談抜きで一回ぶん殴ってやろうか」
【妙花】
「こいつには人の心ってもんがねぇのか」
【伊栖未】
「無法千万」
【ソフりん】
「……それでお前たちは何をしていたんだ?」
【ノア】
「エロゲです。他社メーカーのゲームをプレイしていたんです。制作の参考にしようと。勉強のためです」
【妙花】
「そろそろクオリティ上げていかねぇとユーザーに飽きられちまうからなぁ。アタシらの今のレベルじゃ大手らのメーカーにはとても敵わねぇ。競合相手がそもそも多いからな。だから、ここらで一度勉強も兼ねてゲームをやってたってことだよ」
【ソフりん】
「……そうか」
【伊栖未】
「他のゲームやってると、こんなシナリオもあるんだなって、感服。わたしも、こ、こういうの書けるように、なりたい」
【妙花】
「アタシも経理の仕事や出張があってあまり絵の鍛錬に時間を費やせてねぇんだよな……。エロゲは絵が大事って聞くからな。この業界は神絵師で溢れかえってるわけだし、もっと本腰入れねぇとアタシの絵なんざとっくに埋もれちまうよ」
【ノア】
「私もユーザーが見て使いやすいと思えるUIをもう少し考えて、利便性を向上させないといけませんからね。他のエロゲではどういう設計をしているのか見てみたいと思ったところなんです」
【柊一郎】
「仕事しててわかったけど、面白い企画をポンポンと出すのって……すごく難しい。みんなでもっと勉強しないと、ついていけないと思ったんだ」
【ソフりん】
「……そうか、あまり無理はするなよ。ところで、どういうゲームをやってたんだ?タイトルは?」
【柊一郎】
「『ア〇メ*ド〇イン』」
【ソフりん】
「…………」
【柊一郎】
「…………」
【ソフりん】
「……怒られないか?」
【妙花】
「いや思いの外おもしれぇんだ、これが」
【伊栖未】
「主人公がひょんなことから女装させられ、女学園生活。ヒロインは学園の理事長、必殺料理人の清楚美人、中二病のお嬢様。ワクワク要素しか、ない」
【ノア】
「主人公の名前も少し柊一郎に似ているんですよね」
【ソフりん】
「…………」
【柊一郎】
「一番驚いたのがこの主人公の声。声優の人女性なのに、男の声を演じるのが上手い。男の娘だからっていうこともあるかもしれないけど」
【伊栖未】
「な。すごいよな、この声優さん……!」
【妙花】
「あぁ、ほんと大したもんだよ」
【ノア】
「たしかに上手なのは認めます。でもお姉ちゃんはもっと"最高"の演技ができますからね」
【ソフりん】
「持ち上げるな。それに、この場合は"声"を使った演技だろ。今の私は舞台演劇が本業だから、それはまた別の話だ」
【ノア】
「そんなことないですよ! プリズンでゲームを作ったときも良かったじゃないですか! 声を使った演技もお芝居なんですから、本気出せばできるはずです!」
【ソフりん】
「そうかな……」
【伊栖未】
「ノアも、元々やってたんでしょ、演劇」
【ノア】
「えぇ。と言っても昔のことですし、今は誰かの声真似を少しできるくらいが関の山ですよ」
【ソフりん】
「よく言うよ。お前なら今でも全然私より上手いできるだろ」
【ノア】
「今はもうただのプログラマーですよ。いくらなんでも本業のお姉ちゃんに敵うわけ」
【柊一郎】
「じゃあどっちが声真似上手いか勝負してみたら」
【金の姉と赤の妹】
「「!?」」
【妙花】
「おい柊一郎。たきつけるような真似を……」
【ソフりん】
「いや」
【妙花】
「?」
【ソフりん】
「面白い、と思う。私は今までずっとノアに負けっぱなしだったからな。せっかくの機会だ。声真似で構わない。腕比べをしないか。ノア」
【ノア】
「お姉ちゃん……」
【ノア】
「…………」
【ノア】
「……っ、分かりました。受けて立ちます。お姉ちゃん」
【妙花】
「やれやれ、また面倒なことになっちまったな」
【伊栖未】
「で、でも面白そう」
【柊一郎】
「じゃあ勝負の方法を」
●SE:ドアが勢いよく開く音
【樹里亜】
「どうもこんにちはぁ! みんなのシスターこと我妻樹里亜です。遊びに来ちゃいましたぁ♪」
【柊一郎】
「え、シスター」
【伊栖未】
「ま、また……」
【樹里亜】
「まあそう怪訝なお顔しないでください。オラピーフが逃げてしまいますよ?」
【ソフりん】
「あ、我妻元看守長!? な、なんでこんなところに……」
【樹里亜】
「あらソフりんちゃん! お久しぶりですねぇ! あのババアに辞めさせられてからどうしたものかと気が気でなりませんでしたよぉ! あっははははははっ!」
【柊一郎】
「思ってないのにな」
【伊栖未】
「な」
【ソフりん】
「……えぇ。風の噂で我妻看守長が釈放されたとは聞いていたものですので。こうして再会できて、よかったと思っています」
【樹里亜】
「もうソフりんちゃんお堅いですよぉ。元同僚とはいえ、もう昔のことなんですから。互いに楽にいきましょう、ねぇ?」
【ソフりん】
「……わかりました」
【妙花】
「…………」
【伊栖未】
「あ、妙花がヤバい顔してる」
【ノア】
「これはまずいですね」
【妙花】
「……なにしに来やがった。ここはアタシらの聖域だ。手前が来ていい場所じゃねぇ。だいたいどのツラ下げて来てんだ、アァ!?」
【樹里亜】
「おや、組長ちゃん――いえ、元組長ちゃんもいたんですねぇ。ご無沙汰です。もう何もする気ありませんから、怒気を収めてもらえますかぁ?」
【伊栖未】
「……ま、まぁ妙花。落ち着いて」
【柊一郎】
「一応この人もう無害だから。たぶん」
【妙花】
「…………」
【妙花】
「……で、本当になにしに来たんだ手前は」
【樹里亜】
「実はこの島に、飲んだ相手を強制的にア〇メ顔にする媚薬の入ったかき氷が売っていると聞きましてねぇ。探していたところ、近くにソフりんちゃんが通ったのを見かけましたので、気になってこっそり後をつけていました♪」
【ソフりん】
「こ、こわ……」
【柊一郎】
「ストーカー」
【伊栖未】
「な」
【ノア】
「お姉ちゃんをつけ回すなんていい度胸してますね。お姉ちゃんを公式でストーカーしていいのは妹である私だけなんです。これ以上お姉ちゃんに恐怖を覚えさせるようなことをしたら、ただじゃおきませんからね」
【ソフりん】
「お前が言えることじゃないだろ」
【柊一郎】
「散々恐怖を覚えさせてきた人がなんか言ってる」
【伊栖未】
「棚上げとはまさしくこのこと」
【妙花】
「公式のストーカーって何だ?」
【樹里亜】
「ふふっごめんなさいねぇ。決してそういうつもりはありませんでしたので。みなさんのところに行っていたのであれば納得です」
【樹里亜】
「でも、どこか面白い場所に行かないかなとワクワクしてたんですよぉ? ……と思ったのですが、ソフりんちゃんは普通ですから期待するだけ無駄でしたねぇ! あっははははははっ!」
【ソフりん】
「…………」
【ノア】
「き、気にしなくていいですよ! お姉ちゃんだって個性豊かですから! ほら、あれ…その……ええっと…」
【妙花】
「手前は黙ってろ」
【伊栖未】
「追討ち」
【柊一郎】
「な」
【樹里亜】
「ところでみなさん、一体何をされてたんですか?」
【柊一郎】
「ノアとソフりんで声真似の腕比べをしようってところ」
【樹里亜】
「あら! それは面白そうですねぇ! ここに来た甲斐がありましたよぉ! あっはははは――――」
【柊一郎】
「せっかくだからシスターも参加したら」
【樹里亜】
「は…………」
【柊一郎】
「…………」
【樹里亜】
「…………は?」
【ノア】
「そういえば以前”んほぉ”が来たとき声真似を披露していましたね」
【伊栖未】
「す、すっごく上手かった」
【妙花】
「……へぇ、こりゃ是非とも見てみたいもんだねぇ」
【柊一郎】
「妙花の真似もしてた」
【ノア】
「そういやそうですね。電話越しの通訳で」
【ソフりん】
「我妻元看守長、意外な特技をお持ちだったんですね」
【樹里亜】
「……なんか恥ずかしいですねぇ。たいしたほどじゃありませんよ?」
【ソフりん】
「……私も聞いてみたいです。よかったらご一緒にどうですか」
【柊一郎】
「そうだそうだ」
【樹里亜】
「…………」
【樹里亜】
「……いいですよ。少しだけですからねぇ」
【伊栖未】
「こ、これで三人……! 熱い展開になってきたな……!」
【ノア】
「本気の腕前がどれほどなのか知りませんが、私は負けませんよ」
【ソフりん】
「これで我妻元看守長に負けたら本業の私としては立つ瀬がないな」
【妙花】
「その実力、とくと見させてもらおうじゃねぇか……」
【柊一郎】
「よし、さっそく準備といこう」
【樹里亜】
「…………」
【樹里亜】
「…………面倒なことに巻き込まれちゃいましたねぇ」
◆
【伊栖未】
「……さ、さて。ノア、ソフりん、シスターのプレイヤー三人に、声真似の技量を競ってもらいます」
【樹里亜】
「伊栖未ちゃんが司会やるんですねぇ。意外です」
【ソフりん】
「それで、ルールは?」
【伊栖未】
「各自順番に一回ずつ誰かの声真似を、披露して、もらいます。その誰かは自分で好きに決めてOK、です。その人を上手く声で真似られてるか、その人っぽい演技ができているのか。そのあたり諸々を総合的に見て、"上手さ"を点数化して評価します。合計点数が一番高い人が勝者、です。審査員はわたし、柊一郎、妙花の三人」
【ノア】
「点数の仕組みは?」
【伊栖未】
「ひと通り披露し終わったら、私たち審査員三人で協議し、プレイヤー三人それぞれに、3点、2点、1点を割り振ります。これを、三周して、終わり、です」
【樹里亜】
「つまり最終的なプレイヤーの持ち点は、最高で9点、最低でも3点になる、ということで合ってます?」
【柊一郎】
「そういうことですねぇ」
【樹里亜】
「私の真似しないでもらえますかぁ?」
【妙花】
「質問があれば受け付けるが」
【樹里亜】
「特にありませんねぇ」
【ソフりん】
「私もない」
【ノア】
「……ひとつ。いいですか」
【柊一郎】
「はい紅林さん」
【ノア】
「プレイヤーが声真似する対象の人です。プレイヤーが真似する人を好きに決めてやるのではなく、その周ごとにお題のようにして統一した方がいいんじゃないですか? たとえば、一周目は『鐘さん』の真似、二周目は『んほぉ』の真似、みたいに。その方が公平に実力を測れると思ったんですけど」
【妙花】
「そこはアタシたちも当然考えた」
【伊栖未】
「で、でも。それはちょっと」
【ノア】
「? なんでですか?」
【審査員トリオ】
「「「いろんな人の声真似を聞きたいからその辺はどうでもいい」」」
【ノア】
「…………」
【ソフりん】
「……声優の人たちって、こうやって酷使されてるのかもしれないな」
【樹里亜】
「どうでもいいですけど姫瑠ちゃんのこと”んほぉ”と呼んでるのちょっとウケますね」
【伊栖未】
「そ、そういうことなので。ほんじゃ、始めよ」
■1周目
◆現在の点数
ノア :0
ソフりん:0
シスター:0
【ノア】
「じゃあまずは私からいきます」
【妙花】
「誰の真似いくんだ?」
【ノア】
「そうですね……手始めに、柊一郎のお姉さんでいきます」
【柊一郎】
「姉さんか」
【ソフりん】
「いきなりで柊菜子さんって……お前すごいな」
【ノア】
「それじゃあ、いきます…………んっ」
【ノア柊菜子】
「『シューちゃーん!! 会いたかったよ~! ずっと会えなくて寂しかったんだからねぇ! おーいおいおいおいぃ……っ!』」
【妙花】
「うめぇな」
【柊一郎】
「めっちゃ似てる」
【ソフりん】
「すごいな……柊菜子さんそっくりだ……。さすがだな、ノア」
【ノア】
「そ、そうですか……? お姉ちゃんに褒められると嬉しいですね」
【樹里亜】
「…………」
【樹里亜】
「…………あのー、ちょっといいですかぁ」
【柊一郎】
「どうしたの」
【樹里亜】
「……私、柊一郎ちゃんのお姉さんの声、聞いたことないんですよねぇ」
【審査員トリオ】
「「「…………」」」
【伊栖未】
「そういえば面識なかったな」
【妙花】
「な」
【柊一郎】
「声優やってる。最近いろいろアニメに出るようになった」
【樹里亜】
「へぇ、そうなんですねぇ。一度お会いしてみたいです。興味ありますので」
【柊一郎】
「姉さんになんかしてみろ。その目玉ぶっ潰すからな。死にたくなければ大人しくしろ」
【妙花】
「キャラ変わってんぞ手前。落ち着け」
【ソフりん】
「……次、私なんだが。いいか」
【伊栖未】
「どうぞ」
【ソフりん】
「私は、その……太田部筆頭で。特別警備隊の」
【柊一郎】
「意外」
【樹里亜】
「仕事上一緒になること多かったですからねぇ。でもソフりんちゃん、あの子と声質全然違いますよ? いけます?」
【ソフりん】
「おそらく大丈夫です。では……ごほんっ」
【ソフりん夏海】
「『葉月さん、お疲れ様です。荷物お持ちします。肩、揉みましょうか』」
【柊一郎】
「似てる」
【樹里亜】
「なかなかやりますねぇ。ソフりんちゃん」
【妙花】
「やっぱさすがだな」
【柊一郎】
「ちょっと間抜けっぽいところをうまく再現してていいと思う」
【伊栖未】
「失礼の極み」
【樹里亜】
「次は私ですねぇ。せっかくですし、ご本人が目の前にいるので、組長ちゃんでいきます」
【伊栖未】
「お。また聞けるのか」
【柊一郎】
「楽しみ」
【妙花】
「…………」
【樹里亜】
「ではいきますね……んんっ」
【シスター妙花】
「『波多江組だ!! 開けろゴラァ!! 舐めた真似してんじゃねぇぞこのドチンピラァ!!!!』」
【姉妹】
「「!!!!」」
【伊栖未】
「おぉ……さすが」
【柊一郎】
「そんなドスの効いた声も出せたんだ」
【ノア】
「お、思った以上に似てますね……」
【ソフりん】
「あぁ……まさか我妻看守長にこんな特技があったとは……」
【樹里亜】
「おや。このくらいたいしたことありませんよぉ。普通です」
【妙花】
「…………」
【妙花】
「…………アタシってそういう感じだったのか」
【柊一郎】
「そんなもんだよ」
【ノア】
「言い方」
【伊栖未】
「じゃ、1周目終わったので。協議します」
◆
【伊栖未】
「それじゃ、点数を発表します」
【ノア】
「…………」
【ソフりん】
「…………」
【シスター】
「…………」
【柊一郎】
「ノア+1点。ソフりん+2点。シスター+3点」
【樹里亜】
「どうやら1周目は私の勝利ですねぇ。好調な滑り出しでよかったです」
【ノア】
「悔しいですけど、かなり似てました。以前とは違ってヤクザ特有の本域の声でしたからね」
【伊栖未】
「イ、インパクトもあったし。すごく、よかったと思います」
【妙花】
「アタシはノーコメントで」
【ソフりん】
「でも、ノアが1点なんだな。悪くないと思ったんだが、どうして?」
【柊一郎】
「姉さんの声は、もっと違う。こう、明るく張りがありながらも、か弱さとしおらしさがあって、その中に人を惹きつけるような艶やかさがあって、聞く者すべてに癒しを与えるような……魅力的な声なんだ」
【妙花】
「なんだこいつ」
【ノア】
「柊一郎も相当シスコンですよね」
【樹里亜】
「…………へぇ。やはり柊一郎ちゃんのお姉さん、気になりますね。機会があれば」
【柊一郎】
「分かってるな。手を出したら」
【伊栖未】
「い、いいから突っかかるな……柊一郎」
■2周目
◆現在の点数
ノア :1
ソフりん:2
シスター:3
【伊栖未】
「さて2周目に、入ります」
【ノア】
「……そろそろカードを切らせてもらいます」
【柊一郎】
「誰やるの」
【ノア】
「おそらくここにいる全員がご存知であろう、花丸凛です」
【妙花】
「すげぇ懐かしい名前だな」
【ソフりん】
「いたな……そんな囚人も」
【樹里亜】
「誰でしたっけ?」
【伊栖未】
「う、嘘……」
【柊一郎】
「巫女だった人」
【樹里亜】
「…………あぁ! あの子ですかぁ! もうすっかり忘れてましたよぉ! あっははははははっ!」
【柊一郎】
「もう忘れられてかわいそう」
【伊栖未】
「そうかな……そうかも……」
【ノア】
「ではいきます。……んっ」
【ノア凛ちゃそ】
「『はあぁ~!? この私がそんな畜生じみたことするわけないでしょう! 24時間365日善人で通ってるんですからねぇ! 変な言いがかりつけないでもらえますかぁ!』」
【審査員と姉と無職】
「……………」
【ノア】
「……どうでしたか?」
【柊一郎】
「尋常じゃないぐらい似てた。畜生そのものだった」
【伊栖未】
「畜生じみててよかったぞ、ノア……!」
【妙花】
「性根がほんのちっとばかし似てるからかもしれねぇなぁ。まるで演技とは思えねぇ畜生さだったぞ?ノア」
【ノア】
「演技を褒めてるのか喧嘩を売ってるのかはっきりしてもらえますか」
【樹里亜】
「一緒にいたことがあるのでわかりますけど、相当似てましたよぉ? さすが、名門七ヶ浜出身ですねぇ」
【ソフりん】
「…………」
【ソフりん】
「……じゃあ、次。私なので」
【樹里亜】
「誰いきます?」
【ソフりん】
「山岸看守で」
【ノア】
「ここでまさかの”んほぉ”」
【樹里亜】
「フ」
【伊栖未】
「ソフりんが”んほぉ”の真似、か。楽しみ」
【樹里亜】
「ちょっ……あの、やめてもらえますかぁ?」
【柊一郎】
「どしたの」
【樹里亜】
「その……っ! ”んほぉ”って……呼ぶの……笑ってしまうので……っ!」
【ノア】
「”んほぉ”は”んほぉ”ですもんね」
【伊栖未】
「…………んほぉ」
【樹里亜】
「~~~っ! あぁもうっ! お腹痛い! 笑っちゃいますよこれぇ!!」
【妙花】
「……ソフりんの番だ。いい加減堪えろ」
【ソフりん】
「……あの、いいですか」
【樹里亜】
「――……これは失礼しました。もう大丈夫です」
【柊一郎】
「では、はりきってどうぞ」
【ソフりん】
「…………ごほんっ」
【ソフりんほぉ】
「『樹里亜お姉様!! 今夜もワインを飲むつもりですか!? お酒もいいですけど飲みすぎには気を付けてくださいね!! 嘔吐してしまっては大変ですので! あっ今のは決してお姉様のであれば飲めるという意味ではなく!!!』」
【樹里亜】
「…………」
【伊栖未】
「似てる」
【ノア】
「さすがですお姉ちゃん。見事な”んほぉ”でした」
【ソフりん】
「そ、そうか……? お前がそういうなら」
【樹里亜】
「ソフりんちゃん」
【ソフりん】
「……はい? なんでしょうか」
【樹里亜】
「……いままでの当てつけか何かですかぁ?」
【ソフりん】
「え? いえ、そういうわけではなく。山岸刑務官が我妻看守長とふたりでお話しするときはこんな感じだったかと」
【樹里亜】
「…………」
【樹里亜】
「…………ソフりんちゃんですからねぇ。悪意はないのでしょう」
【ソフりん】
「?? えっと……」
【樹里亜】
「いいえ、なんでもありません。次は私ですね」
【伊栖未】
「け、けっこういろんな人でてきたけど。次は誰を?」
【樹里亜】
「ババ……水城元所長でいきます」
【ラーレと複雑な表情のソフりん】
「……………」
【伊栖未】
「……えぇ」
【柊一郎】
「あまりいい気分ではないけど」
【ソフりん】
「……あの、やはりさっきのなにか気に障ることでも」
【樹里亜】
「他意はありませんよぉ。適当なチョイスですから」
【妙花】
「やっぱこの女とはどうも相容れねぇな……」
【柊一郎】
「まぁいいや。ではどうぞ」
【樹里亜】
「…………んんっ」
【シスター水城】
「『刑務官の皆さん、この度はお集まり頂きありがとうございます。それでは、ただいまよりチ〇ポジウムを始めたいと思います』」
【柊一郎】
「悔しいけどなんか似てる」
【ノア】
「この人ほんとなんでもいけんな」
【伊栖未】
「チ、チ〇ポジウムって、なんだ?」
【妙花】
「あのバアさんは宿敵みてぇなもんだったからどうもやるせねぇ気分だが……。まぁ、手前の技量は確かだよ。認めるしかねぇ」
【樹里亜】
「組長ちゃんにまで褒められるとは。これは私の勝利濃厚ですかねぇ」
【妙花】
「図に乗るな。これから協議だ。黙って待ってろ」
【樹里亜】
「はーい」
◆
【伊栖未】
「それじゃ、点数を発表します」
【柊一郎】
「ノア+3点。ソフりん+1点。シスター+2点」
【妙花】
「トータルで言えばノアが4点。ソフりんが3点。エセ修道女が5点だ」
【ソフりん】
「私が最下位か……」
【ノア】
「なんでお姉ちゃんの点数が一番低いんですか。事と次第によっては〇しますよ」
【柊一郎】
「すごい殺意」
【妙花】
「平然と物騒なこと言うんじゃねぇよ。手前が一番加点良かったじゃねぇか」
【伊栖未】
「い、一応理由はある」
【ノア】
「ほう、聞かせてもらいましょうか」
【柊一郎】
「声量」
【ノア】
「……声量?」
【伊栖未】
「”んほぉ”は、あの10倍は声が大きい」
【妙花】
「真似自体は上手かった。だが、あのやっこさんと言えば声の張りだ。ばかでけぇ声量があってこその特徴的な声、ってこった。ソフりんもなかなか声を張っていたが、本物にはぜんぜん届いてねぇ。そういう意味で一歩劣る――アタシらはそう判断した」
【柊一郎】
「そういうこと。チョイスが悪かったと思う」
【ノア】
「ぐっ……! 声量も合わせてこその演技、ということですか……! 悔しいけど、何も反論できないっ……!」
【樹里亜】
「あの子そういう風に思われてたんですねぇ。否定はしませんけど」
【ソフりん】
「…………」
【樹里亜】
「それにしても、やはり私がトップですか。七ヶ浜も大したことありませんねぇ」
【ノア】
「喧嘩売られてますよお姉ちゃん。ここは意地を……お姉ちゃん?」
【ソフりん】
「…………」
【ノア】
「あの……お姉ちゃん? どうかしましたか?」
【ソフりん】
「! あぁいやなんでもない。次でラストか。挽回しなきゃな」
【ノア】
「え、えぇそうですね。頑張りましょう、お姉ちゃん」
【ソフりん】
「…………」
【ソフりん】
「(……百歩譲ってノアに負けるのはわかる。でも我妻元看守長に負けるのは避けたいな……!)」
【ソフりん】
「(だが、誰の真似ならいける!? ……くそっ! 候補が思い浮かばない! ここにいるメンバーが全員分かる人物と言えば、あとは……)」
【ノア】
「さすがにちょっと疲れてきましたね」
【伊栖未】
「そうだ、な。なんか腹減ってきたかも……」
【樹里亜】
「出前でも取ります? お寿司とかどうですか? 私が奢りますよ」
【柊一郎】
「えっいいの!?」
【妙花】
「がっつくな柊一郎。……いや、ありがてぇが結構だ。手前に借りを作りたくねぇ」
【樹里亜】
「もうヤクザでもなんでもないのでしょう? 後ろめたく感じる必要はないと思いますけど」
【妙花】
「矜持の問題だ。アタシらにはアタシらで通すべきモンってのがあんだよ」
【樹里亜】
「あら、そうですか。では仕方ありませんね。今のはなしということで」
【特上寿司を期待していた赤黒ハゲ】
「えぇー……なんでぇー……」
【樹里亜】
「矜持はどこにいったんですかぁ?」
【妙花】
「手前らは分相応ってもんを知らねぇのか。アタシらはな、スーパーの海苔巻きとかで十分なんだよ」
【ソフりん】
「(…………寿司?)」
【ノア】
「えー、たまにはいいじゃないですか。ねぇ、鐘さん」
【伊栖未】
「大トロ……中トロ……ネギトロ……」
【妙花】
「トロばっかじゃねぇか」
【柊一郎】
「赤身でも十分美味しいと思うけど」
【ソフりん】
「(……寿司……海苔巻き……――っ! そうだ! これなら……!)」
【樹里亜】
「それで、勝負の方はどうします? 一度中断して食事でも構いませんけど」
【ソフりん】
「いえ、まだ時間も早いですし、ラストもう一周して決着をつけてからにしましょう」
【樹里亜】
「……ソフりんちゃん、気合入ってますねぇ。ではそうしましょうか」
【伊栖未】
「そ、そうだな。やろ」
【柊一郎】
「あと一周だし、やるか」
【妙花】
「だな。健闘を祈らせてもらうよ」
【ノア】
「…………」
【ノア】
「…………お姉ちゃん、私負けませんからね!」
【ソフりん】
「あぁ、今度こそお前には負けないからな!」
■3周目
◆現在の点数
ノア :4
ソフりん:3
シスター:5
【伊栖未】
「それじゃあラスト、いきます」
【ノア】
「私ですね。クソ森でいきます」
【柊一郎】
「また意外な」
【樹里亜】
「あの子、独特のイントネーションがあるので難しそうですけどねぇ」
【ノア】
「ではいきます。……んっ」
【ノア森】
「『わ、私ぃ……何も悪くないのでぇ…や、優しくしてくださぃねぇ……!』」
【伊栖未】
「クソ森だ」
【妙花】
「でも少し引っかかるな」
【柊一郎】
「たぶん抑揚。方言からきてるんだと思うけど、わずかに再現できてないような」
【ノア】
「そうですか…一。あの人、たしか香川出身なんですよね。方言込みとなるともう少し練習がいるのかもしれません」
【樹里亜】
「お次はソフりんちゃんですけど、一体誰を?」
【ソフりん】
「……夕顔看守長でいきます」
【樹里亜】
「…………」
【樹里亜】
「……は、葉月ちゃん!? あっははははははっ! これはまた面白いチョイスですねぇ! 本当にいけますかぁ!?」
【ソフりん】
「…………」
【妙花】
「へぇ、夕顔先生か。たしかにソフりんの声からしたらあまり結び付かねぇが」
【柊一郎】
「トーンが落ち着いてるのは共通してるかもしれないけど、どうだろ」
【伊栖未】
「だ、大丈夫か。ソフりん」
【ノア】
「…………」
【ソフりん】
「じゃあいくぞ。……ごほんっ」
【ソフりん夕顔】
「『ソフィーヤ、お前まだ仕事が終わっていないの? 自らの評価を下げる気でもいるのかしら。でもそのままで構わないわ。相対的に私の評価を上げてくれるのだから。……いい気味ねぇ』」
【ラーレと尼】
「!!!!!」
【ソフりん】
「……ど、どうだった?」
【柊一郎】
「……すごかった」
【妙花】
「すげぇぞソフりん! 完璧な再現具合じゃねぇか! 本物かと思ったぞ!」
【伊栖未】
「ま、紛うことなき、かんぴょうだった……! 思わずちょっと……ビクッと、したけど」
【ノア】
「…………お姉ちゃん、最高でした!」
【ソフりん】
「そ、そうか?」
【ノア】
「えぇ。本気のお姉ちゃんはもう私とは違うんだなって……聞いてて思いました」
【ソフりん】
「……分かるのか?」
【ノア】
「私も七ヶ浜で厳しい訓練を受けてましたから。お姉ちゃんの腕があの頃に比べて著しく向上しているのはすぐにわかります。……それに」
【ソフりん】
「……?」
【ノア】
「…………本職だからこそのプライド、意地、というものを肌で感じましたから」
【ソフりん】
「……さすがだな。お前は私のことならなんでもわかってしまうんだな」
【ノア】
「お姉ちゃんの妹ですから」
【ソフりん】
「……そうか」
【樹里亜】
「…………」
【樹里亜】
「…………ツッコんだ方がいいんですかね? これ」
【柊一郎】
「ふたりはいつもこんな感じ」
【伊栖未】
「仲良きことは美しきかな」
【妙花】
「それより手前が次で最後だろ。どうすんだ」
【樹里亜】
「そうですねぇ。あのソフりんちゃんの後となると気が引けますねぇ。少し悩みます」
【柊一郎】
「素直に声真似してみたいと思った人でいいんじゃない」
【樹里亜】
「…………」
【樹里亜】
「…………決めました」
【伊栖未】
「だ、誰だ?」
【樹里亜】
「――――柊一郎ちゃんで♪」
【柊一郎】
「…………」
【妙花】
「…………」
【伊栖未】
「…………」
【ノア】
「…………」
【ソフりん】
「…………」
【樹里亜】
「おやぁ、みなさんどうしました?」
【妙花】
「どうしましたじゃねぇだろ。本気で言ってんのか手前」
【樹里亜】
「本気も本気ですよぉ。声真似だけじゃなくてですねぇ。柊一郎ちゃんのあのセリフを言ってみたい、と思ったので」
【ノア】
「あのセリフ?」
【ソフりん】
「なんかあったか?」
【柊一郎】
「さぁ」
【樹里亜】
「それではいきますね。……んんっ」
【柊一郎のつもりのシスター】
「『物故ろしてやるぜ、ベイビー!!!』」
【ラーレと姉】
「「「「「…………」」」」」
【樹里亜】
「一度これ言ってみたかったんですよねぇ。みなさんの前で言えましたし、別の意味でここに来た甲斐がありましたよぉ」
【柊一郎】
「…………」
【伊栖未】
「あ、柊一郎が難しい顔してる」
【ノア】
「たしかに柊一郎と言えばこれ、みたいなとこありますけど」
【妙花】
「手前がそれを口にするとどうも釈然としねぇ……」
【ソフりん】
「ま、まあいいんじゃないか。それぐらい印象に残ってたってことだし……」
【樹里亜】
「自己満足のためですので。多少は目をつぶってくださいねぇ。それより、最終結果といきましょう」
【妙花】
「……そうだな。といっても、もうほとんど協議の必要もねぇと思うが」
【伊栖未】
「うん、今回は明白」
【柊一郎】
「一応確認しよう」
◆
【伊栖未】
「――――と、いうわけで……結果発表ぉぉー!」
【柊一郎】
「全然声量足りてないぞ、伊栖未。そんなんじゃ勝てないぞ」
【ノア】
「あの芸人に声量で勝てる人います?」
【ソフりん】
「お前たちもお笑いとか見るんだな」
【樹里亜】
「それで、結果は?」
【柊一郎】
「3周目の結果。ノア+2点。ソフりん+3点。シスター+1点」
【妙花】
「そういうわけで、最終的にはこうなる」
◆現在の点数(最終結果)
ノア :6
ソフりん:6
シスター:6
【ノア】
「…………」
【ソフりん】
「…………」
【樹里亜】
「…………つまり」
【伊栖未】
「ど、同点。勝者も敗者もなし」
【柊一郎】
「ここまでやってまさかの引き分けです」
【妙花】
「しゃあねぇ。勝負事ってのはそういうこともある」
【ノア】
「…………やれやれ。引き分けですか」
【樹里亜】
「私は楽しかったので満足です♪ またやりたいですねぇ、こういうの」
【ソフりん】
「……そうですね。我妻看守長の意外な一面も見せてもらったので、私も面白かったです。それと……」
【ノア】
「?」
【ソフりん】
「……私はこのまま自分の信じた道を進んでもいいんだな、って確信できましたので」
【樹里亜】
「…………」
【ノア】
「お姉ちゃん……!」
【柊一郎】
「声真似でそんな大げさな」
【妙花】
「手前はどうしてそう空気が読めねぇんだ」
【伊栖未】
「恥晒し」
【ノア】
「これで終了ですね。でも三人はやらなくても良かったんですか? 特に鐘さん」
【伊栖未】
「わ、わたし? ……なんで?」
【ノア】
「だって鐘さん淫スタの投稿読み上げたときすごく綺麗な声出てたじゃないですか」
【柊一郎】
「カブトムシ作戦のときのあれか」
【樹里亜】
「……カブトムシ?」
【柊一郎】
「オレたちがまだプリズンにいた頃、シスターが電子ドラッグをプリズン中に蔓延させようとしてたでしょ」
【樹里亜】
「そんなこともありましたねぇ」
【柊一郎】
「そこでカブトムシを使ってシスターの居場所を探ろうとしてて。シスターの情報を得るためにソフりんにタブレット借りてシスターの淫スタを見てた」
【妙花】
「で、そん時に伊栖未が手前の投稿文を読み上げたんだが、思いの外透き通った声が出ててな。驚いたよ」
【柊一郎】
「ソフりんの淫スタもついでに見てたんだけどシスターに比べて普通で味気なかった」
【ソフりん】
「お前そのうち本当に殴るからな……!!」
【ノア】
「筋も良いので鐘さんも声真似とかできるんじゃないかと思うんですよ」
【ソフりん】
「ノア、声真似ができるのと声がいいのはまた別だろう。だがアドバンテージになるのは確かだな」
【柊一郎】
「朗読とかいいんじゃない? 朗読系ASMRとか流行ってるし」
【伊栖未】
「そうだな……。シナリオ書く意外にも、いろいろやってみたいかも……」
【樹里亜】
「よくわかりませんが、普通に歌とかいいんじゃないですかぁ? 美声と言うのならそっちのほうが――――」
【なにかを知ってる三人】
「「「それはダメだ(です)!!」」」
【ソフりん】
「そんなに強く否定しなくてもいいだろ」
【樹里亜】
「なにかあったんですかねぇ」
【伊栖未】
「かんぴょう生える」