気軽にトークしましょう(ヘンプリ編)   作:黒桐饅頭

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EP4. 夕顔×姫瑠

【柊一郎】

「今回は夕顔所長と山岸看守長です。よろしくお願いします」

 

【葉月】

「…………」

 

【姫瑠】

「なあ、湊。急に連れてこられたと思ったら……なんだこれは?」

 

【柊一郎】

「おふたりにトークをしてもらおうかと」

 

【葉月】

「ちょっといいかしら」

 

【柊一郎】

「はい」

 

【葉月】

「なにやら、特定のふたりに対談させる企画をやっているという話は耳にしているわ」

 

【葉月】

「一応坊やには借りがあるから、百歩譲って乗ってあげなくもないけど」

 

【葉月】

「……でも、なぜ姫瑠なのかしら」

 

【柊一郎】

「今までは身近な知人ばかりだったんですけど、せっかくなのでプリズンでお世話になった人もお呼びしたいなと思いまして」

 

【葉月】

「私、仕事で忙しいのだけれど」

 

【柊一郎】

「だからこそ、今のプリズンの話とかどうかなって」

 

【葉月】

「坊やが聞きたいだけでしょう。……で、なぜ姫瑠が相手なの? その答えをまだ聞いていないわ」

 

【姫瑠】

「そうだぞ。嫌というわけではないのだが……なぜ私なんだ?」

 

【柊一郎】

「今となっては山岸看守長もプリズンでは古株じゃないですか。だったら現プリズンのナンバー1と2同士のトークとかいいんじゃないかなって」

 

【姫瑠】

「なるほど! そういうことなら!」

 

【葉月】

「姫瑠がナンバー2というのは疑問なのだけれど……」

 

【柊一郎】

「え、違うんですか?」

 

【葉月】

「…………」

 

【葉月】

「……でも、そうね。現時点でソフィーヤと樹里亜の穴を埋められてるのは姫瑠ぐらいだから、あながち外れではないかもしれないわね」

 

【柊一郎】

「えっ……山岸看守長があのふたりの穴を埋められてる……?」

 

【姫瑠】

「むっ! どういう意味だ!」

 

【葉月】

「ところで坊や、ソフィーヤとあの女もこの企画に参加したとのことだけど、あのふたりはいまなにをしているのかしら」

 

【柊一郎】

「ソフりんは本島で劇団に入って演劇、シスターはそのへんをぶらぶらと」

 

【葉月】

「……ソフィーヤはともかく、樹里亜は、なんですって? もう少しはっきり言いなさい」

 

【姫瑠】

「お姉さまはどうやら世界中を放浪されているようです。まだ貯蓄があるからしばらくはいろんなところへ行ってみるとか」

 

【柊一郎】

「つまりただの根無し草」

 

【葉月】

「……ちっ。これだから金持ちというのは……」

 

【柊一郎】

「最後に会ったときはマニラにでも行こうかとか言ってましたけど」

 

【葉月】

「……へぇ、そう」

 

【姫瑠】

「……夕顔所長?」

 

【葉月】

「別に、なんでもないわ。……それより、さっさと始めなさい。坊や」

 

【柊一郎】

「それもそうですね」

 

【姫瑠】

「……それで、私たちはどうすればいいんだ? フリートークでもすればいいのか?」

 

【柊一郎】

「いえ、テーマはこっちで用意しているので、それに沿って話してもらいます。テーマは3つ。その都度発表します」

 

【葉月】

「そう、わかったわ」

 

【姫瑠】

「ところで、この企画の過去はどうだったんだ? いったいどういう話を?」

 

【柊一郎】

「簡単に言うと、ソフりんは妙花に結婚のなんたるかを説かれ、シスターは姉さんに取り入ろうとしてた」

 

【葉月】

「なんなのこの企画……」

 

【姫瑠】

「なるほど。波多江はシコレンコ看守長と、お姉さまは湊の姉君と……か。そういや、お姉さまと姉君は歳が近いんだったな」

 

【柊一郎】

「そのせいもあってか、けっこう楽しそうに話してた」

 

【姫瑠】

「くっ……羨ましい……! 私も混ざりたかった……! もう少し早く生まれてくれれば……!」

 

【柊一郎】

「別に年齢で選んでるわけじゃないけど」

 

【葉月】

「だいたいお前も樹里亜とそこまで離れてるわけではないでしょう。たかが3つくらい」

 

【姫瑠】

「なにをおっしゃいます! 元先輩後輩の仲ゆえ、3つはなかなかの差です! まあ、夕顔所長ぐらいのお歳でしたらそういう感覚かもしれ――」

 

【葉月】

「…………は?」

 

【姫瑠】

「ご、ごめんなさい……。なんでもありません……」

 

【柊一郎】

「大丈夫かなこのふたり」

 

■テーマ1:『今のプリズンについてどう思う?』

 

【葉月】

「現所長の私に対してそのテーマはどうなのかしら」

 

【姫瑠】

「えっと……なんだ、今の体制について、とか、そういうのか?」

 

【柊一郎】

「それだけに限らないけど、だいたいそんな感じ」

 

【姫瑠】

「ずいぶんアバウトなんだな」

 

【葉月】

「でもいい機会ね。部下の声に耳を傾けるのも所長の務めだもの」

 

【柊一郎】

「さすが現プリズントップ」

 

【姫瑠】

「……と言ってもなあ……規律が厳しくなって少々息苦しくなった、とかですかね」

 

【葉月】

「それについては、どこかのだれかが脱獄なんて真似をしたせいね。私のせいではないわ」

 

【柊一郎】

「…………」

 

【葉月】

「でも姫瑠の言うことには同感。監視カメラが新設されてからは仕事が少し面倒になったわね」

 

【柊一郎】

「そういえばセキュリティが全面的に見直されたんでしたっけ」

 

【葉月】

「ええ。今の私たちは信用されていないから、法務省の連中に干渉されているのよ。……いえ、あれは過干渉ね。正直辟易しているわ」

 

【姫瑠】

「ほかの看守たちも不満を募らせているようです。囚人と一定の距離を保ちながら接触するのはやりにくく、ストレスだとか」

 

【葉月】

「でしょうね。私もそうだもの。高無や干潟も不満そうだったわ」

 

【姫瑠】

「ええ、あのおふたりも言ってましたけど……いくら囚人とはいえ、わずかの雑談も許されないのはちょっとどうかと」

 

【葉月】

「やつらの干渉が収まるまでは堪(た)えるしかないわね。……それより、もっと悩ましいのはアレね」

 

【姫瑠】

「ああ……アレもそうですね」

 

【柊一郎】

「アレ?」

 

【葉月】

「樹里亜の管轄だったドスケベ性教があったでしょう? その残徒がまだいるのよ」

 

【姫瑠】

「問題なのはそいつらが性教の復活を望んでいて、やたらと抗議してくるんだ。正直どうしたものか困っている」

 

【柊一郎】

「そっか。もうシスターいないから。……教会は?」

 

【姫瑠】

「もちろん閉鎖している。金輪際、使わせるわけにはいかないからな」

 

【葉月】

「洗脳を解こうにも手段がないから、今のところは暴れ出したら取り押さえるぐらいしかないのよ。……ったく、あの女は。面倒なものを残していったものね」

 

【柊一郎】

「……大変そう」

 

【姫瑠】

「ほら、一等者、二等者集会とか菓子が与えられたりしてただろ? そういったア(・)メ(・)をいまだに忘れられない囚人が多いってことだ」

 

【葉月】

「その対処が非常に面倒なのよ。……他の看守たちも苦労しているようね」

 

【姫瑠】

「まあ、あれから何人か辞めましたし……シコレンコ元看守長やお姉さまもいませんからね」

 

【葉月】

「いない人間のことを言っても仕方ないでしょう。……でも、人手に問題があるのは確かね」

 

【柊一郎】

「そういえば働き方改革に着手したとか」

 

【葉月】

「……なぜ坊やが知っているのかしら」

 

【姫瑠】

「私が教えました! 成り行きで!」

 

【葉月】

「…………」

 

【姫瑠】

「……え、駄目でしたか……?」

 

【葉月】

「……はぁ、まあいいわ。坊やの言うとおり、それで看守たちの管理を徹底するようにしたわ」

 

【葉月】

「あのババアが所長だった頃はどう考えても有給が少なかった。だからまずは全看守に対し一律で日数を増やしたわね」

 

【姫瑠】

「それはみんなも喜んでましたね」

 

【葉月】

「とは言え、いろいろ調整が必要だから、かえって検討事項が増えたという側面もあるのよ。……プリズンを維持するには必要なことだから仕方ないのだけれど」

 

【姫瑠】

「私も看守長になってからはなにかと苦労が増えましたね。お姉さまたちはいつもこんなことをしていたんだなと」

 

【葉月】

「ええ、せいぜい身に染みてほしいものね。はたしてお前に務まるのかしらねぇ……」

 

【姫瑠】

「湊が脱獄してからは今の囚人たちは比較的大人しくなりましたからね。案外なんとかなるでしょう!」

 

【葉月】

「その楽観思考はどうにかならないのかしら」

 

【柊一郎】

「大人しくなった?」

 

【姫瑠】

「ほら、むかし叔母さ……水城元所長の手によって、全囚人が一斉に更生不能房に収監されたことがあっただろ? その恐怖が忘れられないせいか、悪さをしようという輩がずいぶんと減ったのだ」

 

【葉月】

「新しく入った囚人に更生不能房のことを話す者が絶えないのよ。だからどの囚人も更生不能房のことは知っているし、絶対収監されたくないから品行な態度を取る囚人が増えた、といったところかしら」

 

【柊一郎】

「なるほど」

 

【姫瑠】

「だからか、最近は看守の言うことを素直に聞く囚人が多いですね」

 

【葉月】

「ええ、どこかのだれかと違ってね」

 

【柊一郎】

「あの頃は誠にごめんなさい」

 

【姫瑠】

「……だが、湊も社会人にってからは立派になったじゃないか! 真面目に仕事に取り組んでいるようだし、刑務官冥利に尽きる!」

 

【柊一郎】

「ありがとうございます」

 

【葉月】

「でもいい加減正しい言葉遣いを覚えなさい。そんなんじゃどこかで必ず笑われるわよ」

 

【柊一郎】

「気をつけます」

 

【姫瑠】

「そうだぞ、私もむかしは話し方でよく夕顔所長に怒られたものだからな! 徐々に直していけばいい! はっはっはっ!!」

 

【葉月】

「お前もよ」

 

■テーマ2:『シスターについてどう思ってた?』

 

【葉月】

「…………なぜ樹里亜? 不快なのだけれど」

 

【姫瑠】

「お姉さまの話といえば私の専売特許みたいなものだが……たしかになんでだ?」

 

【柊一郎】

「ふたりの大きな共通点はシスターかなと思って。山岸看守長は旧知の仲だし、夕顔さんはクソほど仲悪いし」

 

【葉月】

「それを分かってる上でトークさせるというの……?」

 

【姫瑠】

「別にいいじゃありませんか! かつておふたりが対立していたのは私も存じ上げております! いまはお姉さまもいませんし、当時の思いを洗いざらい吐いてみてはいかがですか!」

 

【葉月】

「お前はどういうスタンスなの?」

 

【姫瑠】

「それで、やはり嫌っていたのですか?」

 

【葉月】

「当然でしょう。あんな頭のイカれた女、気に食わないに決まっているじゃない」

 

【姫瑠】

「まあ、お姉さまは独特の感性をお持ちですからね」

 

【葉月】

「マイルドに表現するんじゃないの」

 

【姫瑠】

「でもなぜそこまで?」

 

【葉月】

「当時所長の座を狙っていた身としては目の上のたんこぶだったからよ。よくわからない宗教の力で囚人の態度が改善し、それが成果として認められたのをいいことに好き勝手に振舞っていた」

 

【葉月】

「……うっとおしい以外の何物でもないでしょう?」

 

【姫瑠】

「たしかに、いったい何をなさっているんだろうとは思ってましたけど……まさか、電子ドラッグなんてものに手を染めていたとは。知った時はショックでしたね……」

 

【葉月】

「当然の報いでしょう。……いい気味ねぇ、と思ったわ」

 

【柊一郎】

「フ」

 

【葉月】

「なにかしら」

 

【柊一郎】

「なんでもありません」

 

【葉月】

「……それと、ああいう貧富の差を見せつけてくるような態度が気に入らなかったわね」

 

【姫瑠】

「あの、一応私もお金持ちなので……耳が痛いんですけど」

 

【葉月】

「お前はどうでもいいわ。富豪特有の雰囲気が感じられないもの」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【姫瑠】

「…………え」

 

【柊一郎】

「要は金持ちっぽくないってことか」

 

【姫瑠】

「…………えぇ?」

 

【葉月】

「樹里亜はとにかく聞いてもいない自慢をしてくるのよ。服がどうとかワインがどうとか」

 

【柊一郎】

「それは……うざい」

 

【葉月】

「坊やもそう思うでしょう?」

 

【柊一郎】

「というか金持ちが嫌い」

 

【葉月】

「へぇ……気が合いそうね」

 

【姫瑠】

「肩身が狭くなってきた……」

 

【葉月】

「特に腹が立ったのは……そうね、かなり昔のことだけど、プリズンで一度忘年会をしたことがあったでしょう?」

 

【姫瑠】

「ああ……! ありましたね、そんなことも! 懐かしい……!」

 

【柊一郎】

「あんな職場でも忘年会とかあったんだ」

 

【葉月】

「その時、樹里亜が自前のワインを持ってきて、私に見せつけ……たしかこう言ったわ」

 

【葉月シスター】

『おやぁ、どうしたんです葉月ちゃん? そんな安物なんて飲んで。せっかくの宴なんですから、ほら、こちらのワインはどうです? 滅多にお目に書かれない上物ですよ?』

 

【葉月シスター】

『……おっと失礼。お口に合うはずありませんでしたねぇ。だって……そんな安物に慣れた舌でこんなの飲んでも味なんてわかりませんものねぇ! あっはははははは!!』

 

【柊一郎】

「…………」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【葉月】

「……〇してやろうかと思ったわ」

 

【姫瑠】

「そ、そんなことが……」

 

【柊一郎】

「物真似上手ですね」

 

【葉月】

「そんなことはどうでもいいのよ。……で、今のどう思うかしら」

 

【柊一郎】

「だる絡み」

 

【葉月】

「いい言葉ね」

 

【姫瑠】

「くっ……いったいどう擁護すれば……っ!」

 

【柊一郎】

「する必要ある?」

 

【葉月】

「とにかく、あれが決定打になったわね。この女とは絶対相容れないと」

 

【柊一郎】

「それだけ聞くとシスターが完全に悪いみたい」

 

【葉月】

「現に私はプリズンの所長、あの女は犯罪者で根無し草。どちらが善でどちらが悪か、一目瞭然でしょう?」

 

【柊一郎】

「…………」

 

【柊一郎】

「たしかに」

 

【姫瑠】

「あの、お気持ちはお察ししますが……これ以上お姉さまを虐めるのはどうかご勘弁を……!」

 

【葉月】

「虐められたのは私のほうなのだけれど、理解してるの?」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【姫瑠】

「……湊、これ以上は私のメンタルが耐えられん……! 頼む、次のテーマに……!」

 

【葉月】

「そうね。もう樹里亜のことなんてどうでもいいわ。吐き出して少し清々したもの」

 

【柊一郎】

「…………」

 

【柊一郎】

「なんかシスターの悪口大会みたいになっちゃった」

 

■テーマ3:『今後のプリズンについてどう考えてる?』

 

【姫瑠】

「ずいぶんと真面目なテーマだな」

 

【葉月】

「なぜそれをここで話さなきゃいけないのかしら」

 

【柊一郎】

「まあ、こういう機会でもないと話せないでしょうし、話し合ってみては」

 

【姫瑠】

「私もいいと思います! プリズンのトップ2による陰嚢猥……首脳会談といきましょう!」

 

【葉月】

「何を言っているのかしら」

 

【柊一郎】

「自分でトップ2とか言っちゃうあたり」

 

【葉月】

「そこじゃないわ」

 

【姫瑠】

「しかし今後の、か。……私は今の体制を維持できれば、と思うのですが」

 

【葉月】

「ひとまずとしてはそのとおりで良いと思うわ。でも今後というのは将来の展望のことでしょう? 現状維持だけでは組織は維持できないものよ」

 

【姫瑠】

「それはそうですけど……」

 

【葉月】

「まずは働き方改革を徹底することね。一部の看守に業務が集中し負担がかかるようなことが起こらないよう業務内容を見直す必要がある」

 

【姫瑠】

「シコレンコ看守長も当時は大変だったそうですからね。引き継ぎがいなくて32時間勤務のときがあったとか」

 

【柊一郎】

「それって夕顔さんとシスターが主な原因なんじゃ」

 

【葉月】

「……は? なんのことかしら」

 

【柊一郎】

「ノアも言ってました。あのふたりがお姉ちゃんを虐めてるとか」

 

【葉月】

「樹里亜はともかく、私は何もしてないわよ?」

 

【柊一郎】

「…………」

 

【柊一郎】

「えっ、自覚がない?」

 

【姫瑠】

「でも夕顔所長の仰るとおり、まずはそこの改善が必要かもしれませんね」

 

【葉月】

「あと、意思決定のスタイル変更も検討しているわ」

 

【姫瑠】

「……と、言いますと?」

 

【葉月】

「あのババアが所長だった頃は、彼女の絶大な権力の下で業務が割り振られていたでしょう? 完全なトップダウン型で、一方的に従うしかない図式だったと思うわ」

 

【葉月】

「だから……徐々にだけれど、ボトムアップ型に切り替えようと考えているの」

 

【姫瑠】

「ボトム……」

 

【柊一郎】

「アップ……」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【柊一郎】

「…………」

 

【学があるはずなのに知らない人と学のない人】

「「ってなんですか?」」

 

【葉月】

「……馬鹿なの?」

 

【姫瑠】

「よく言われます!」

 

【柊一郎】

「強い」

 

【葉月】

「特に坊や。社長なのでしょう? このくらい知っておきなさい」

 

【柊一郎】

「誠にごめんなさい」

 

【姫瑠】

「も、申し訳ありません……」

 

【葉月】

「……下意上達。現場の看守たちに裁量を与えて、そこから生まれる意見を私たちに集約させるようにするの。で、それを検討し、承認したものを実行してもらうという形」

 

【姫瑠】

「あ、なるほど……」

 

【葉月】

「たとえば更生プログラムの内容。もし効果が薄いと思う点があれば具体的な改善策を提案してもらうことができるでしょう」

 

【葉月】

「そうやって、現場だからこそわかる一次情報を正確に取り入れ、組織を最適化していく。……ババアの時はそこまでやっていなかったらしいわ」

 

【姫瑠】

「さすがは夕顔所長! そこまで考えていたとは!」

 

【姫瑠】

「……しかし、そうなると看守たちの能力に左右される恐れがありますね」

 

【葉月】

「ええ。そのためにも看守たちに向けた教育プログラムも考えているわ。いい加減な仕事をされると困るもの」

 

【葉月】

「……それに、これは姫瑠――お前のためでもあるのよ」

 

【姫瑠】

「……私、ですか? それはどういう――」

 

【葉月】

「――だって、次の所長はお前しかいないのだから」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【姫瑠】

「…………わ、私が……所長!? え、もしかして辞職されるのですか!?」

 

【葉月】

「そんなわけないでしょう。遠い未来の、後任の話よ」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【葉月】

「たしかにお前は馬鹿よ。所長どころか看守長の器とは思えないほどの知能の持ち主と思ってるわ」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【柊一郎】

「ボロクソ言ってない?」

 

【葉月】

「……でも、お前のように真(・)に(・)中(・)立(・)的(・)な(・)姿(・)勢(・)を貫ける者が多くないのも確かね」

 

【姫瑠】

「……中立?」

 

【葉月】

「お前は囚人に贔屓したり、違反行為を見て見ぬふりなどしないでしょう?」

 

【姫瑠】

「と、当然です! 刑務官たるもの、そのようなことは――!」

 

【葉月】

「とは言え、看守といえど人間。つい囚人の肩を持つような真似をする看守だっているわ」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【葉月】

「その点、お前は芯がブレない。囚人の言に決して流されず、どこまでも刑(・)務(・)官(・)であろうとする」

 

【葉月】

「それはプリズンのトップに必要な素質。……姫瑠しかいないのよ」

 

【柊一郎】

「たしかに、そこはどの看守よりもしっかりしてたと思う」

 

【姫瑠】

「……湊?」

 

【柊一郎】

「オレがまだ囚人だった頃は……正直、単に厄介な存在だと思ってたけど、社会人になってからわかった。山岸看守長は、刑務官としての務めをしっかりはたしてるんだなって」

 

【柊一郎】

「所長云々はわからないけど、刑務官としては……とても立派だと思います」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【姫瑠】

「ふふっ、湊に仕事を褒められるとはな」

 

【姫瑠】

「……夕顔所長、本当によろしいのですか?」

 

【葉月】

「そう言ってるでしょう。だから……さっさと有能になって、私を楽させてちょうだい?」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【姫瑠】

「……はい! 不肖ながら、今後も精進致します!」

 

【葉月】

「……まったく、こんな話になるとは思ってもいなかったわ」

 

【柊一郎】

「でもこういう機会も悪くなかったのでは」

 

【葉月】

「……夏海といい、坊やといい、どうしてこうも私の周りは生意気な人間が多いのかしら」

 

【柊一郎】

「――……あっ、すみません。ちょっと電話が…………もしもし、内呂です。はい、えっ、こっちに…………」

 

【姫瑠】

「……電話? だれでしょう?」

 

【葉月】

「さあ、興味ないわ」

 

【柊一郎】

「……すみません。終わりました」

 

【姫瑠】

「別にかまわんが……どうしたんだ?」

 

【柊一郎】

「なんかシスターがうちの会社に遊びに来てるから早く帰って来いって」

 

【姫瑠】

「えっ、お姉さまが!? じゃあ私も行くぞ!!」

 

【葉月】

「そう、じゃあここで解散ね。姫瑠、私は先に帰って――」

 

【姫瑠】

「いえいえ! せっかくですし、夕顔所長もご一緒にどうです? もう同僚じゃありませんし、この機会に仲直りを是非!!」

 

【葉月】

「有給減らすわよ」

 

【柊一郎】

「ひどいパワハラ」

 

 

 

 

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