LALEメンバー5人が今度みんなでやる野球の試合について色々話し合うお話です。
誰が何番を打ってどこを守るか程度の内容です。
★場所:LALEオフィス
【妙花】
「――手前ら、全員ちょっとこっち来い」
【柊一郎】
「?」
【釘谷】
「……どうした。なんかあったのか」
【ノア】
「なんですか妙花。いま鐘さんと将棋してて手が離せないんですけど」
【伊栖未】
「チェ、チェック、メイトだぞ……ノア……!」
【ノア】
「それはチェスです」
【妙花】
「あとにしろ。いいから来い」
【ノア】
「仕方ないですね。…………もしかして、あの件ですか?」
【妙花】
「あぁ。それについて今から話し合いをする」
【釘谷】
「話し合い?」
【柊一郎】
「なんのこと」
【妙花】
「実はな、今度の休日に草野球で試合をやることになった」
【伊栖未】
「や、野球……?」
【釘谷】
「俺たちでか。ずいぶん急だな」
【柊一郎】
「なんでまた」
【妙花】
「柊一郎。昔プリズンを脱獄したときに救助に来てくだすった方々をおぼえてるか?」
【柊一郎】
「もちろん。命の恩人だから」
【妙花】
「そんな我らが社長の恩人の皆様とアタシたちで野球の試合をする」
【ノア】
「えぇ。私は個人的に面識があるので、そのことは知ってました」
【釘谷】
「なんだ。だったら早く言ってくれればよかったじゃないか」
【伊栖未】
「そ、そうだぞ……! な、なんで黙ってた……!」
【妙花】
「んなこたぁどうだっていい。経営が少し行き詰った時によくノア経由で仕事をもらってるだろ? その繋がりもあって、みんなで親睦を深めようってことでご提案なすったんだ」
【ノア】
「無下にもできないので、とうぜん快諾したわけです」
【柊一郎】
「……ちょっとまって」
【妙花】
「あぁ? なんだ」
【柊一郎】
「オレの記憶だとあの人たち6人だけだったと思うけど」
【妙花】
「それについては、ノア」
【ノア】
「この島にはSHOという公益社団法人の組織があるでしょう。あの人たち、そこのお偉方ととても仲が良いらしいです。なので、そこから3人補充されて9人のようです」
【柊一郎】
「何者なの」
【伊栖未】
「せ、先生って、もしかして、かなりすごい人だった、のか……?」
【釘谷】
「お前さんが通ってる学校のか」
【伊栖未】
「う、うん。し、知らなかった……」
【ノア】
「ちなみにチーム名は『ドスケベナインズ』。めちゃダサいと言っても過言じゃないですね」
【柊一郎】
「はっきり言うじゃん。ダサいけど」
【伊栖未】
「し、失礼だぞ、ノア。ダサいけど」
【元ヤクザと現役おじさん】
「「…………」」
【ノア】
「それはともかく。噂ではかなり強い化け物集団らしいですよ。普通に戦ったら負けますね」
【妙花】
「だが柊一郎の恩人の方々だ。こっちが弱すぎて試合が冷めるなんてことはあっちゃならねぇ」
【釘谷】
「そうだな。失礼なことでもして今後仕事をもらえなくなったら大問題だ」
【妙花】
「そこで今からきちんと対策を練ろうってこった。いいな?」
【釘谷】
「話はわかった。だが、そもそもこっちの人数が足りてないんじゃないか? 5人しかいないだろう」
【妙花】
「まずはそこだな。アタシの方で小沢は呼んどいたが」
【ノア】
「私もお姉ちゃんに聞いてみましたが来てくれるみたいです!」
【伊栖未】
「ソ、ソフりんか……! 久々に会えるな……!」
【柊一郎】
「ソフりんって暇なの」
【ノア】
「〇すぞお前」
【柊一郎】
「誠にごめん」
【妙花】
「てなわけで、あと2人だ。どうするかねぇ……」
【柊一郎】
「それならオレに任せてほしい。心当たりあるから。ちょっと電話してくる」
【妙花】
「電話?」
【ノア】
「いったい誰を呼ぶ気なんでしょうね」
【伊栖未】
「さ、さぁ……」
◆
【柊一郎】
「よし。これで9人そろうぞ」
【妙花】
「……誰を呼んだんだ? まさか、似非修道女とかじゃねぇだろうなぁ?」
【柊一郎】
「それはない。プリズンにいた特別警備隊のふたり。太田部筆頭と逆茂木隊員」
【釘谷】
「本当か。よく承諾してくれたな」
【ノア】
「そもそもなんで連絡先知ってるんですか」
【柊一郎】
「昔オフィスに来てくれた時に教えてくれた」
【伊栖未】
「そ、そんな仲、良かったっけ……?」
【柊一郎】
「プリズンで鍛えてくれた元師弟関係だから。それなりに親睦がある」
【妙花】
「…………」
【柊一郎】
「こんな感じで妙花が渋い顔をするからこの話はあまり口にしないようにしてる」
【伊栖未】
「言ってるのにな」
【ノア】
「な」
【釘谷】
「なんにしてもこれで人数はそろったか。あとはどうするかだな」
【妙花】
「アタシら以外の4人とはあとで情報を共有するとして、まずはこの5人でどうしていくか考えるぞ」
【柊一郎】
「わかった」
【伊栖未】
「りょ、了解……」
【ノア】
「どうしましょうね。あの人たち相当強いので、ちゃんと打順やポジションを考えないとあっさり負けますよ」
【釘谷】
「あぁ。各個人の実力をしっかり踏まえてバランスの取れたオーダーを組まないとな」
【妙花】
「その通りだ。プリズンの野球大会ん時みてぇに適当に組むのはダメだ」
【柊一郎】
「じゃあどうするの」
【妙花】
「最優先の検討事項は『投手と捕手』『内野と外野』『打順』。この三つだ」
【ノア】
「えぇ。今日はこの3点を重点的に話し合いましょう。あの人たちの情報は私が持ってるので、その都度提供します」
【妙花】
「本当はもっと詰めねぇと駄目なんだが、ここに全員がいるわけじゃねぇ。細部については追々検討ってことにする」
【柊一郎】
「うん。野球詳しくないから細かいこと言われてもすぐにはわかんないし」
【伊栖未】
「わ、わたしも……こまいのは、ようわからん」
【釘谷】
「で、野球に詳しいお前さんが指揮をとってくれるってことだな?」
【妙花】
「あぁ。アタシ以上に野球できるやつなんざいねぇだろ?」
【柊一郎】
「釘谷サンは上手だったと思うけど」
【釘谷】
「もちろん知識はあるし経験もある。だが、もう歳だ。プリズンでの野球大会の時と違って、もうそこまで満足に動けんだろう」
【妙花】
「そういうとこも含めて会議ってこった。わかったな?」
【素人リオ】
「「「はーい」」」
■議題1:『ピッチャーとキャッチャーを誰が務めるか』
【妙花】
「さて、投手と捕手と言えば野球の花形だ。ここはきっちり押えるぞ」
【柊一郎】
「プリズンの時は太田部筆頭がピッチャーやってた。なんかおぼえてる」
【ノア】
「あの時は私がキャッチャーとして彼女の球を受けていましたが、かなり良いストレートを放ってましたよ」
【釘谷】
「特別警備隊だからな。鍛えてるからそれなりに良いボールを投げれるんだろう」
【伊栖未】
「じゃ、じゃあそのふたりで、決定か……」
【妙花】
「いや、それはできねぇ」
【柊一郎】
「どこかで聞いたセリフ」
【ノア】
「言うほどそうか?」
【釘谷】
「聞く限りでは悪くなさそうだが……なぜだ?」
【妙花】
「あの時ノアがキャッチャーをやってたのはソフりんの脚の骨を折るという目的のためであって、本来は素人だ。そのまま採用ってわけにはいかねぇ」
【ノア】
「そんなこともありましたね……。あのときは本当に…………ありがとうございました」
【柊一郎】
「気にしないで。オレたち仲間じゃないか」
【ノア】
「柊一郎……」
【伊栖未】
「そ、そうだぞ……! 一蓮托生……!」
【妙花】
「手前ひとりだけの問題じゃなかったろ? アタシら全員の問題だった。だからよ……そう気に病むんじゃねぇぞ?」
【ノア】
「みんな……!」
【柊一郎】
「…………」
【伊栖未】
「…………」
【妙花】
「…………」
【釘谷】
「…………」
【釘谷】
「…………よくそんな青春感出せるな」
【柊一郎】
「釘谷サン知ってたっけ」
【釘谷】
「そりゃ一大事だったから知ってるよ。あの時のお前さんらの魂胆を聞いて呆れてるだけだ」
【伊栖未】
「そ、それより本題」
【妙花】
「だな。で、ノアをそのままキャッチャーとして採用はダメって話だ」
【ノア】
「ですね。また上手くできるかは保証できませんので」
【柊一郎】
「キャッチャーもそうだけど最初はピッチャーじゃないの」
【妙花】
「それもそうか。まずはそこを考えるか」
【ノア】
「『ドスケベナインズ』の打撃は3・4・5番がとくに厄介です。真っ直ぐだけじゃ抑えられませんよ」
【釘谷】
「だったら変化球もあった方が良いな」
【柊一郎】
「じゃあ太田部筆頭は別のポジションをやってもらおう。控え投手も兼ねてってことで」
【伊栖未】
「ノ、ノア、その3・4・5番の人って」
【ノア】
「3番の人は茶髪の綺麗な人なんですけど、運動性能が高すぎて長打はもちろん驚異の出塁率を誇るようです。たしか7割ぐらいだったような」
【伊栖未】
「プ、プロ……?」
【柊一郎】
「えっ、あの泣きぼくろのすごい美人の人?」
【ノア】
「4番の人は髪がクルクルしてる人なんですけど、打球でバックスクリーンを何度も破壊してるようです。なのでここ最近はほとんど敬遠されてます」
【釘谷】
「本当の意味で化け物だな」
【ノア】
「5番の人は見た目が女児の人なんですけど、バットの代わりにパイプ椅子で打ってるようです。それが不思議とすべてホームランになるんだとか」
【妙花】
「異世界の話でもしてんのか?」
【ノア】
「すべて事実です。なので優秀なピッチャーを添えないとボロ負け確ですよ」
【柊一郎】
「オレ不参加でいい? こわいし」
【伊栖未】
「だ、駄目に決まってんだろぉ……!」
【妙花】
「…………」
【釘谷】
「……? どうした?」
【妙花】
「――……アタシがやる」
【柊一郎】
「妙花?」
【ノア】
「アタシがやるって、ピッチャーを妙花がですか!? いや、妙花も野球上手いですけど」
【妙花】
「ノア、話は本当なんだろ? だったらこのアタシが先陣切るしかねぇだろうが」
【伊栖未】
「た、妙花……」
【釘谷】
「たしかに俺たちの中だったらお前さんが妥当かもしれない。だが、いいのか? 4番の選手にライナーでも喰らったら一瞬であの世行きだぞ」
【妙花】
「このアタシを誰だと思ってる。元とは言えヤクザだぞ? 命なんざとっくに捨てた身だ。腹はとうに
【柊一郎】
「妙花……」
【妙花】
「アタシはこれでも鍛えてるからな。球速はもちろん、スタミナだって手前らの何倍もある」
【ノア】
「た、たしかに……」
【妙花】
「それに実際のピッチャー経験もある」
【伊栖未】
「え、そうなのか」
【妙花】
「まだ組にいた頃にちっとな。とうぜん変化球も持ってるよ。カーブ、スライダー、カットボール、シュート、シンカー、フォーク、チェンジアップ、ツーシーム、パーム、ナックル、SFF――――」
【ノア】
「メジャーリーガーかな?」
【妙花】
「ジャイロボールも投げれる」
【ノア】
「なんでメジャー行ってないんですか?」
【柊一郎】
「めっちゃすごいじゃん妙花」
【釘谷】
「あぁ。本当ならこれで十分戦えるぞ」
【妙花】
「いや、まだだ。足りねぇもんがある」
【伊栖未】
「な、なんだ?」
【妙花】
「アタシの球を捕れるキャッチャーだよ」
【釘谷】
「そ、そうか! ピッチャーが優秀ならキャッチャーも優秀でないとバッテリーは成立しない! だからプリズンでは真の実力を封印していたということか!」
【柊一郎】
「釘谷サンのテンションが高い」
【ノア】
「でも釘谷のおじさんの言う通りです。誰が捕るんですか?」
【伊栖未】
「わ、わたしは、パス……。当たり前だけど」
【釘谷】
「俺も遠慮させてもらう。そこまでの技術はさすがにない」
【柊一郎】
「…………」
【柊一郎】
「…………」
【柊一郎】
「…………オレが捕る」
【ノア】
「……! 柊一郎、正気ですか!?」
【釘谷】
「お前さん捕れるのか?」
【伊栖未】
「お、お前ど素人、だろうが……!」
【妙花】
「やかましい!!!! 黙ってろ!!!!」
【妙花】
「…………」
【妙花】
「…………柊一郎、本気なんだな」
【柊一郎】
「本気だ。まだ時間はあるからふたりで特訓しよう。当日までに捕れるようになってみせる」
【ノア】
「…………」
【伊栖未】
「…………」
【釘谷】
「…………」
【妙花】
「…………あいわかった。怪我だけはすんなよ?」
【柊一郎】
「うん。認めてくれて誠にありがとう。気を付ける」
【ノア】
「でも、柊一郎がずぶの素人なのは事実ですよ? どうするつもりですか」
【妙花】
「アタシが捕手のイロハってもんをイチから叩き込む」
【伊栖未】
「だ、大丈夫か……?」
【妙花】
「アタシらの社長はこれまでどんな困難も乗り越えてきた。この程度なんとかなるだろ」
【釘谷】
「…………」
【釘谷】
「そうだな。じゃあバッテリーはお前さんたちに託す。頼んだよ」
【妙一郎】
「「おう!」」
【伊栖未】
「よ、よかったな……決まって……」
【ノア】
「少し希望が見えてきましたね。ほんのわずかに光が差し込んだ程度ですけど」
【妙花】
「じゃあ次は残りの守備について話し合うぞ」
■議題2:『守備をどう配置するか』
【妙花】
「話し合うとは言ったが、一部の奴らはプリズンのときのポジションをそのまま担当してもらおうと思ってる」
【柊一郎】
「と言うと」
【妙花】
「たとえばソフりんだ。運動性能は高いが野球に精通してるわけじゃねぇ。それに野球自体が久しいだろうからな。だからソフりんはプリズンのときと同じセンターを務めてもらおうと考えてる」
【ノア】
「ですね。いまは演劇で忙しく野球なんてあまりおぼえてないでしょうから。それがいいと思います」
【伊栖未】
「だ、だな。あ、足も速かったし、そのままで……いいかも」
【妙花】
「小沢もそうだ。あいつはもう一端の料理人だ。変に無理をさせるわけにもいかねぇ。小沢はたしかライトだったな」
【柊一郎】
「うん。小沢もそれで」
【釘谷】
「これで合計4人決まったか。あと5人だな」
【柊一郎】
「あと逆茂木隊員がサードやってた。けっこう上手かったから彼女もそのまま採用でいいんじゃないかな」
【妙花】
「わかった。あとは4人か。空いてるポジションはファースト、セカンド、ショート、レフトだな」
【伊栖未】
「わ、わたしは、どうしよ……」
【ノア】
「釘谷のおじさんは背が高いのでファーストいけると思ったんですけど。どうです?」
【釘谷】
「なるほど。ファーストか……」
【柊一郎】
「釘谷サン?」
【妙花】
「なんかまずかったか?」
【釘谷】
「いや。とくに支障があるわけじゃない」
【伊栖未】
「じゃ、じゃあ、なんだ……?」
【釘谷】
「ファーストと言えばキャッチャーの次にボールを捕球する機会が多いだろう。責任重大なポジションだ。いいのか? こんな老人に任せてしまって」
【柊一郎】
「なんだそういうことか」
【釘谷】
「そういうことって、お前さんな……」
【ノア】
「信頼してるってことですよ」
【釘谷】
「……え?」
【伊栖未】
「う、うちに来てくれてから、売り上げ、良くなった……! どんなことでも、あ、安心して、任せられる……!」
【釘谷】
「…………」
【妙花】
「てなわけだ。誰もアンタの腕を疑っちゃいねぇ。どうか引き受けてくれねぇか。頼むよ」
【柊一郎】
「あと経験者だから。オレたちの中でもかなり上手い方。不安要素ないと思うけど」
【釘谷】
「…………」
【釘谷】
「分かった。快く引き受けさせてもらうよ」
【柊一郎】
「それにライト小沢だし。多少エラーしても瞬時にバックアップしに行くと思う。小沢も釘谷サン大好きだから」
【釘谷】
「……ははっ。たしかにそうかもな。彼なら心強い。少し安心したよ」
【妙花】
「これで合計6人決まりだな。あとはセカンド、ショート、レフトか」
【ノア】
「どうしましょうね。外野は自信ありませんよ。外野ってやってみると意外と難しいと聞きます」
【柊一郎】
「レフトは太田部筆頭がいいと思う。ピッチャーのときも肩強かったし、特別警備隊だから俊敏な動きもできると思うから」
【妙花】
「体力も相当あるからな。そう考えると適任かもしれねぇ。アタシが疲れたらそこで交代できるってことか」
【釘谷】
「これで決まりだな。あとはお前さんたちふたりだけだ」
【伊栖未】
「わ、わたしとノア、か……」
【ノア】
「残ってるのはセカンドとショートですね」
【伊栖未】
「ノ、ノアは、どっちやる……?」
【ノア】
「私はどっちでもいけると思うので、鐘さんが好きな方選んでいいですよ」
【妙花】
「ずいぶんと自信あるじゃねぇか。手前も素人だろうが」
【ノア】
「運動もやろうと思えばできるので。鐘さんよりは断然マシってだけです」
【柊一郎】
「はっきり言うじゃん」
【釘谷】
「経験があるのか?」
【ノア】
「いえまったく。でもセカンドもショートも両方、どう動けばいいかは動画を観て勉強したので理解してます」
【妙花】
「へぇ、さすがじゃねぇか」
【伊栖未】
「や、やるな、ノア……」
【ノア】
「それに鐘さんは体が弱い方なんですから私より……――っ」
【柊一郎】
「どうしたの」
【ノア】
「――……私、ショートやります」
【伊栖未】
「な、なんで……?」
【妙花】
「急だな。なんかあったのか?」
【ノア】
「『ドスケベナインズ』は右打者に左打者と半々なんですがレフト方向へ打つことが多いのを思い出しました」
【釘谷】
「それがどうかしたのか?」
【ノア】
「そうなるとショートにも打球が来やすいでしょう。言い換えればセカンドには打球があまり来ないということです」
【伊栖未】
「……ノア」
【ノア】
「鐘さんは肩も弱いですし。でもセカンドであればファーストに放る分にはあまり関係ありません」
【柊一郎】
「なるほど。運動できるノアが打球の来やすいショートを担当して、比較的に送球が楽なセカンドを伊栖未に任せるってことか」
【妙花】
「納得のいく話じゃねぇか。それに、二遊間に打球がいくときだってある。そうなるとセカンドとショートで息の合った連携が必要になってくる」
【ノア】
「はい。私と鐘さんなら、いや私と鐘さんだからこそできるんじゃないかと思うんです」
【釘谷】
「いいじゃないか。どうだ、やれそうか?」
【伊栖未】
「う……うん! 俄然、やる気、わ、湧いてきたぞ……!!」
【ノア】
「鐘さんも動画や本読んで勉強してくださいね。理解できたら私と認識合わせしましょう。これなら当日でも対応できるんじゃないですか」
【妙花】
「あぁ。完璧の布陣だ。今にして思えば手前らふたりはそれが一番良いかもな」
【伊栖未】
「が、頑張ろうな……ノア……!」
【ノア】
「えぇ。よろしくお願いしますね」
【柊一郎】
「これで守備問題もクリアか」
【妙花】
「それじゃあ最後に打順について話し合うぞ」
◆ポジションまとめ
・ピッチャー(投) :妙花
・キャッチャー(捕):柊一郎
・ファースト(一) :釘谷
・セカンド(二) :伊栖未
・サード(三) :逆茂木隊員
・ショート(遊) :ノア
・レフト(左) :太田部筆頭
・センター(中) :ソフりん
・ライト(右) :小沢
■議題3:『打順をどうするか』
【妙花】
「さて、ここが肝心要だ。どう攻めるかで戦局が変わるからな」
【伊栖未】
「わ、わたしは全然、打てないから、下位の方で……お願いします」
【柊一郎】
「その前に相手ピッチャーの情報教えて」
【ノア】
「たしか……あの淡い色をした髪の人ですね」
【伊栖未】
「え……せ、先生が、ピッチャー……!? な、投げれる、のか……?」
【ノア】
「球速は平均的ですが、コントロールが非常に優れてるようです。それもかなり器用で、変化球も妙花並に多彩らしいです」
【釘谷】
「なるほど。技巧派か」
【ノア】
「それに昔、森の中をずっと走り回ってたとかなんとかで、体力もかなりあるようです」
【柊一郎】
「あの赤子抱かせてくれた人ってそんなにすごい人だったんだ」
【ノア】
「少年漫画みたいな剛速球で抑えるタイプでなく、大人の熟練したピッチングをするタイプ、といったイメージですね」
【妙花】
「こりゃ骨が折れそうだねぇ……」
【柊一郎】
「ソフりんのこと言ってるの」
【ノア】
「こいつバカだな」
【伊栖未】
「な」
【釘谷】
「ピッチャーはわかったが、守備の方はどうなんだ?」
【ノア】
「要注意人物はSHO代表の方ですね。見た目でいうと顔立ちが整った緑髪の人です」
【妙花】
「この島のトップじゃねぇか」
【釘谷】
「すごい人脈だな……」
【柊一郎】
「なにが注意なの」
【ノア】
「どんなにいい当たりの打球でも……たしか、糸か何かでせき止めて、そのままキャッチするそうです」
【妙花】
「それは厄介だな。そうなると低めの弾道を意識した確実なヒットで点を取るしかねぇぞ」
【伊栖未】
「む、難しい…………」
【釘谷】
「反則じゃないのか?」
【柊一郎】
「確実な安打を狙うなら1番は逆茂木隊員でいいんじゃない。プリズンでもそうだったし足も速いし」
【妙花】
「あぁ。ソフりんも野球大会のときと同じ3番だな。筋は悪くなかったはずだ」
【ノア】
「4番はどうします?」
【柊一郎】
「小沢でいこう。野球大会の時よく打ってたから」
【妙花】
「その次の5番はアタシがいく。打率は小沢とほとんど変わらねぇからな」
【釘谷】
「あっさり3・4・5番が決まったが、大丈夫か?」
【伊栖未】
「だ、大丈夫、じゃないか……? そのさ、3人なら、おそらく」
【妙花】
「アンタも3・4・5番の候補だったが、年齢もあるだろ。そうなるとアタシを含めたこの3人が妥当じゃねぇか?」
【柊一郎】
「太田部筆頭もまあまあ打ってたと思うけど」
【妙花】
「相手のピッチャーは変化球を複数持ってる。プリズンでの野球大会を見てた限り、選球眼はソフりんの方が良いとアタシは判断した」
【柊一郎】
「たしかに。あの人じゃ変化球とか対応できなさそう」
【ノア】
「こいついつも失礼かましてんな」
【伊栖未】
「な」
【釘谷】
「じゃあ彼女は次の6番が妥当か。たしかパワーはあるからな」
【柊一郎】
「その次の7番は釘谷サンが良いと思う。残りで考えたら釘谷サンが一番打てる」
【釘谷】
「あぁ。わかった」
【ノア】
「とんとん拍子で決まっていきますね」
【伊栖未】
「で、でも、それ以外か、考えられない……かも」
【妙花】
「残りは2・8・9番だが…………ノア、手前が2番ってのはどうだ?」
【ノア】
「……私ですか?」
【柊一郎】
「え? オレじゃないの?」
【釘谷】
「お前さんは9番だ」
【妙花】
「手前に上位打線は無理だ。すっこんでろ」
【伊栖未】
「さわさり」
【柊一郎】
「…………」
【ノア】
「あの……なんで私が2番を? 柊一郎ほど下手ではありませんが、上位打線を務められるほどでも」
【妙花】
「手前は器用だからな。バントとかできんじゃねぇかと思ったんだよ」
【釘谷】
「あぁ。野球をやってても送りバントやスクイズが苦手な選手が多い。その点、お前さんは多才だ。俺も適任だと思うよ」
【ノア】
「…………」
【伊栖未】
「そ、そうだな。どっちにしてもわ、わたしに2番は、無理。8番は、わたし……やるから」
【ノア】
「……わかりました。引き受けます……………………あっ!」
【釘谷】
「どうした。やはりダメか?」
【ノア】
「よく考えたら私が繋いだその後にお姉ちゃんが打つ構図になるから"最高"の展開ですね! むしろ私が2番以外考えられない! そこまで見越して考えてくれたんですよね、妙花!」
【妙花】
「違う」
【伊栖未】
「意味不明」
【柊一郎】
「な」
【釘谷】
「とにかくこれで決まったな。なんとか形になったじゃないか」
【妙花】
「だな。まとめるとこうなる」
◆決定したオーダー
1(三)逆茂木隊員
2(遊)ノア
3(中)ソフりん
4(右)小沢
5(投)妙花
6(左)太田部筆頭
7(一)釘谷
8(二)伊栖未
9(捕)柊一郎
【柊一郎】
「ギプス野球で鍛えたのに……上位打線じゃない」
【釘谷】
「その名前、久々に聞いたな」
【妙花】
「そん時だけだったろうが……。それに、今から鍛え直しても間に合わねぇ。諦めろ」
【伊栖未】
「こ、これで、な、なんとかなりそうだな……」
【ノア】
「あくまで形を整えたというだけです。ここから野球のルールや用語もおぼえなくてはなりません」
【妙花】
「それだけじゃねぇ。相手は化け物揃いなのを忘れんな。これで"最低限"試合ができそうってだけだ」
【伊栖未】
「そ、そっかぁ……」
【釘谷】
「そうだな……容易く攻略できる相手じゃないのはたしかだ。考えるべきことは山積みだな」
【全員】
「…………………」
【柊一郎】
「…………」
【柊一郎】
「――……いいこと思いついた」
【妙花】
「あぁ?」
【ノア】
「いいこと?」
【柊一郎】
「電話するから。……………………もしもし、内呂です。はい。今度の――」
【釘谷】
「誰に電話してるんだ?」
【伊栖未】
「さ、さぁ……」
【柊一郎】
「――……これでよし」
【妙花】
「誰と電話してたんだ?」
【柊一郎】
「山岸看守長。今度の休日来てくれるって」
【ノア】
「”んほぉ”!」
【伊栖未】
「ぶほぉっ!!」
【妙花】
「あー……もしかして、昔アタシが出張で留守にしてたときに連絡先を交換したってか?」
【柊一郎】
「正解」
【釘谷】
「そんなことがあったのか。お前さん人脈あるな」
【ノア】
「あれは偶然出会っただけですけどね」
【伊栖未】
「で、でもな、なんで、”んほぉ”……?」
【柊一郎】
「審判役を頼んだ」
【妙花】
「……忘れてた。よく考えたらお互い人数ギリギリだから審判の用意ができねぇ。気が効くじゃねぇか」
【柊一郎】
「というのが表向きの理由」
【ノア】
「……別の意図があると?」
【柊一郎】
「これ」
【釘谷】
「……メガホンだな」
【伊栖未】
「な、なにに使うんだ……?」
【柊一郎】
「山岸看守長にはメガホンを当てて審判をしてもらう」
【妙花】
「……まさか」
【柊一郎】
「あの人の声は常人の何十倍もデカい。しかもメガホンを使う。こんなの化け物とて耐えられるわけがない」
【柊一郎】
「つまり、山岸看守長の大声で…………相手チームを、弱体化させる」
【釘谷】
「…………」
【ノア】
「…………」
【伊栖未】
「…………」
【妙花】
「…………おい柊――」
【ノア】
「お前天才ですか! 化け物には化け物をぶつけるってことですね! ナイスアイディアですよ!」
【伊栖未】
「こ、これなら……しょ、勝機がある……!」
【釘谷】
「そういえば、プリズンで大声大会を開いたときも2位に圧倒的な差をつけて優勝していたな…………ずいぶんと懐かしいじゃないか」
【柊一郎】
「しかも殿堂入りしたから次回からは出場禁止扱い」
【ノア】
「一回目の大会で殿堂入りですからね」
【伊栖未】
「プ、プリズンも、崩壊し、しかけたし、な……!」
【妙花】
「…………」
【柊一郎】
「呼んだのはこっち側だけど、あくまで事故だから誰も悪くないはず。オレたちはあの人の大声に慣れてるから多少のダメージで済む。完璧な作戦だ。これでいこう」
【赤黒おじさん】
「「「これはもらったな……!」」」
【妙花】
「…………」
【妙花】
「…………」
【妙花】
「仕事減っても知らねぇぞ?」