雨衣、佳風流、貴之の3人が自動車の合宿免許に行くお話です。
時系列はA面から1年後の夏休みを想定しています。
■8月2日(月)
★場所:某県周防町 貴之家
●SE:玄関のドアが開く音
【貴之】
「……あぁー……あっつい……」
【和事】
「ふぅ……汗びっしょりですね……」
【佳風流】
「おぉー帰ってきたかいアツアツなお二人さん。こんな炎天下の中スーパーまで買い物とはご苦労なこったね」
【貴之】
「ほれ、チョコミントアイス買ってきたぞ」
【佳風流】
「いいねぇ気が利くねぇ支倉くん。ご褒美にぼくのおっぱいを揉める名誉を与えて進ぜよう。嬉しいだろう?」
【貴之】
「暑すぎてお前の冗談に付き合ってる余裕はない。自分で好きなだけ揉んどけ」
【佳風流】
「なんだとぉー!? ぼくのおっぱいというのはそこらのおっぱいとは一線を画す価値のある貴重なおっぱいなんだぞ! これだからナメクジには困ったもんだよ」
【貴之】
「いいからさっさとアイス食え。溶けるぞ」
【和事】
「灰谷さん、お留守番ありがとうございました」
【佳風流】
「なぁに、気にしなくていいよ。勝手に遊びに来たのはこっちなんだから。留守番の一つくらい、支倉くんの愛の
【貴之】
「俺にとっての愛の僕は和事だけなんだぞ」
【和事】
「たっ、貴之さん……! 今夜も、なんなりとご命令を……!」
【佳風流】
「おいコラただでさえ暑いってのにこれ以上熱いもん見せつけんじゃねーぞこのナメクジ夫婦がそのまま溶けちまえ」
【貴之】
「俺たち汗すごいからこれからシャワー浴びてくるな」
【和事】
「すみません、またお一人にしてしまいますが……」
【佳風流】
「あぁはいはいお気にな……え? 二人で入るの?」
【貴之】
「まぁそりゃあ……なぁ……?」
【和事】
「うふふっ……」
【佳風流】
「……ぼく帰ったほうがいい? というか帰りたいんだけど」
【貴之】
「いえいえどうぞお気になさらず」
【和事】
「アイスたくさん買ってきたので、お待ちになっている間に食べててもらってかまいませんよ?」
【佳風流】
「なんだぁこのバカップル、無性に腹が立ってきたぞ?」
【貴之】
「それじゃあちょっと待っててな。すぐ済ませるから」
●SE:浴室のドアが閉まる音
●SE:シャワーの音
【佳風流】
「…………」
【貴之】
「……和事、ほら流してやるから」
【和事】
「は、はい……きゃっ! くすぐったいですよぉ貴之さん……!」
【貴之】
「ほら胸の下とか蒸れてるから、流すぞ」
【和事】
「あっ……! んっ……! ち、乳首に当たって……あんっ……!」
【佳風流】
「…………」
【貴之】
「あっ……和事、勃ってきてるじゃん。俺もだけど」
【和事】
「だ、だめですよ……! 灰谷さんいるんですから……バレちゃ……あっ…ちょっ……!」
【佳風流】
「なんでバレねぇと思ってんだ? この1年でとんだお間抜け夫婦になったもんだなぁおい?」
●20分後
●SE:浴室のドアが開く音
【貴之】
「……ふうっ。悪かったな佳風流。だいぶ待たせたな」
【佳風流】
「あぁ本当に悪いと思えよ! このおぽんち! 全部丸聞こえなんだよ! 居心地悪いわまったく!」
【和事】
「あっ……灰谷さん。けっこうアイスお食べになりましたね」
【佳風流】
「えぇそりゃそうとも。君たちのアツアツな熱気で溶けるかもしれないと思ってね、何本かいかせていきましたよ。文句あるまい?」
【貴之】
「まあ風呂上がりだから確かに熱気すごいかもな」
【佳風流】
「どこまで君はグズなんだこのクソナメクジが! 何倍意趣返してやろうか!」
【和事】
「アイスは食べてもらってかまいませんが、夕飯は大丈夫ですか? ざるそばでも大量に作ろうと思ってたんですけど……」
【貴之】
「余ったら和事が食べてくれるから問題ないだろ」
【和事】
「えへへっ……それもそうですね……!」
【佳風流】
「ツッコむのも疲れちまったよまったく……でも、確かにそばいっぱい買ってきたよね。安かったの?」
【和事】
「広告の品でしたので、買えるうちに買っておこうと。何度もスーパーに行けるような環境でもないので」
【貴之】
「今日はかなり暑かったからな……。バイクで行くにしてもしんどかったぞ」
【佳風流】
「この暑さだからねぇ……。マフラーなんて触った日には火傷100%だろうさ」
【貴之】
「それにバイクだから、あまり荷物を大量にも持てないんだよな」
【和事】
「そうですね……もう少し買い込んでおきたかったんですけど、持つのが限界だったので3袋分しか買えませんでした」
【佳風流】
「ふうん……なんだか由々しき問題だねぇ。これからも二人で生活してくには、ちっとばかしあれなんじゃないの? バイクだけだと不便じゃない?」
【和事】
「確かに……掃除用品等を買いに行くときも困りますし、冬の買い物も大変だったんですよね……」
【貴之】
「佳風流の言う通り、移動手段がバイクだけというのはやっぱ厳しいかもしれないな。なんとかしたいものだけど……」
【佳風流】
「…………」
【佳風流】
「……そこでちょっと提案。自動車の免許を取りに行かない? 3人で」
【和事】
「く、車……ですか」
【貴之】
「あー……俺らももうそういう歳だから取ろうと思えば取れるが……」
【佳風流】
「お? なんだぁ不満か? 君らのためを思っての提案だったんだが?」
【貴之】
「そうじゃない。たしかにここから3時間くらいのところに教習所あるけど、毎日そこに通って取るのはしんどくないか?」
【和事】
「……それに、灰谷さんもずっとここに居られるわけでもないので、スケジュールにけっこう無理があると思いますよ?」
【佳風流】
「そこは心配いらないさ。毎日通うんでなく、合宿免許として行けばいいじゃないの」
【貴之】
「……合宿?」
【佳風流】
「うん。普通に通うんじゃなく、教習所の近くにある合宿所に泊まって、短期間で教習を一気に受けて免許を取っちまうってことだよ。いいだろぉ?」
【和事】
「へぇー……そんな制度があったんですね」
【佳風流】
「たしか合宿期間は16日間だったかな。今すぐ申し込めば明後日からスタートできるはずだから、この夏休み中に免許とれちゃうよ?」
【和事】
「……いいですね! みんなでお泊りしながら、というのも、いい思い出になりそうです!」
【貴之】
「でも佳風流、料金はどうなんだ? けっこうするんじゃないか? それに……免許をとったとしても俺たち用の車をどうするかって問題もあるし」
【佳風流】
「あぁ。合宿の金ならぼくがもつよ。君たちの分。あとで返してくれればいいから」
【和事】
「そんな……! わたしたちの分までなんて、悪いですよ!」
【佳風流】
「いいのいいの、二人分くらいどうってことないさ」
【貴之】
「……本当にいいのか? 申し訳なさすぎるぞ」
【佳風流】
「こんのナメクジが! 気にしなくていいっての! 何度も言わせるんじゃないよ!」
【佳風流】
「……あと、車は灰谷家に使ってない車があったから、それ譲るよ。親も多分了承してくれるだろうし」
【貴之】
「……何から何までありがとな、佳風流」
【佳風流】
「……君らが付き合って約1年続いたお祝いってことで。そのくらいさせてくれてもいいだろ?」
【和事】
「灰谷さん……本当にありがとうございます!」
【佳風流】
「……それじゃ、早速申し込んでくるよ。さっきも言ったけど合宿期間は16日間だからね。明後日からスタートだから……19日におわる予定になるのかな。ちゃんと支度しといてよ」
【貴之】
「わかった。恩に着る」
【和事】
「お菓子とかいっぱい持って行きますね!」
【佳風流】
「おぉ? ピクニックじゃねぇんだぞ? おとぼけがすぎるぞ雨衣ちゃん?」
■8月4日(水)
★場所:隣接合宿所 3人の部屋
【佳風流】
「……へぇ。思ったより広いじゃないの」
【貴之】
「しかしよかったな。俺たち3人だけの部屋が取れて」
【佳風流】
「この時期は大学生がいっぱいいるはずだから、正直取れないと思ってたんだけど……運が良かったよ」
【和事】
「でも……すごく嬉しいです! これで堂々と毎晩お菓子パーティーできますね!」
【貴之】
「若干一名が主旨を勘違いしてるようだけど」
【佳風流】
「おいおい雨衣ちゃん、ぼくらは遊びに来たんじゃないんだぜ? ちゃんと勉強しないと試験落ちちゃうぞ?」
【和事】
「えへへ……冗談ですよ。そんな、人を食いしん坊みたいに──」
【佳風流】
「食いしん坊でしょ。雨衣ちゃんは」
【貴之】
「割と食べる方だもんな」
【和事】
「ううぅ……お恥ずかしい」
【佳風流】
「一応この合宿所は朝・昼・夕ってご飯出るんだよね。しかもバイキング方式」
【和事】
「おぉ……! 本当ですか……! 楽しみですね……!」
【佳風流】
「さっき恥ずかしいって言ったよね? 支倉くん、ぼかぁ君の彼女おとぼけ通り越してちょっと心配になってきたぞ」
【貴之】
「最近少し質素な食事ばっかだったからあんま言わないでやってくれ」
【佳風流】
「……まぁご飯はともかく、食べたらすぐ隣の教習所に行けるから、こりゃ楽ちんだね」
【貴之】
「あぁ。教習終わったらすぐ部屋戻って来れるから便利だな」
【和事】
「えっと、今日は……学科の教習だけで終わりですね……」
【貴之】
「学科教習は話聞くだけだから正直楽勝だし、技能の方もやってれば慣れるだろうから、目下の問題はひとまずこれじゃないか?」
【佳風流】
「過去問ねぇ。受付の後にあった入校説明でもらったけど、時間あるときはこれやり込んどいた方がいいね」
【和事】
「ですね……数年分ありますから、コツコツやっておかないと」
【佳風流】
「ま、今はそれは置いといて。そろそろ学科教習行こうかねぇ。……支倉くぅん、教室で可愛い子見つけて浮気すんじゃないぞぉ?」
【貴之】
「誰がするかっ」
【和事】
「た、貴之さん……! わたしは……何番目の女でもかまいませんので……!」
【佳風流】
「雨衣ちゃんって彼女としてのプライドなさすぎない?」
■8月6日(金)
★場所:教習所 運転コース
【教官の人】
「……それでは本日の技能教習を終わります。お疲れ様でした」
【貴之】
「はい。ありがとうございました」
【貴之】
「…………」
【貴之】
「……佳風流?」
【佳風流】
「おぉ、支倉くんか? どうだい、運転の方は?」
【貴之】
「クランクが思ったより難しかった。あれハンドル切り返すのきつくないか?」
【佳風流】
「なんでぇその程度。ぼくにかかればそんなの楽勝だったよ。教官からも『お上手ですね!』『可愛いですね!』『メロメロです!』ってべた褒めだったさ」
【貴之】
「半分以上おかしいだろ。……ところで、和事は?」
【佳風流】
「あぁ……ちょうど今彼女の運転を見てたんだけどね…………あ、降りたから終わったかな」
【貴之】
「どうした? なんかあったのか?」
【佳風流】
「……雨衣ちゃんって確か運動神経良かったよね?」
【貴之】
「そのはずだけど」
【佳風流】
「……ひどいぞ」
【貴之】
「え?」
【佳風流】
「エンスト何度もやらかすわ、コースから何度も外れるわ、挙句の果てに壁少しかすってた。こりゃ検定やべぇと思うぞ」
【貴之】
「……まさか。こういうのなら何でもあっさりこなせる和事だぞ。そんなわけないだろ」
【佳風流】
「いいや支倉くん。この目でしっかりと見たんだ。あれはさすがに──」
【和事】
「あ、貴之さんに灰谷さん……! わたしもたった今教習終わりました……!」
【貴之】
「お疲れ。どうだった運転は。佳風流がなんかお前の運転についてどうこう言ってたが」
【和事】
「あはは……見ていらしたんですね」
【佳風流】
「……まぁね。雨衣ちゃん、さすがにあれはどう考えても荒っぽ──」
【和事】
「はい。今日はちょっとだけドジ踏んじゃいましたけど、次からは大丈夫ですので……!」
【佳風流】
「…………」
【佳風流】
「……ちょっとだけ? ……あれが?」
【貴之】
「ほら、大げさなんだよお前は。別の人の運転でも見てたんじゃないのか?」
【和事】
「それより、お部屋に戻って夕食済ませたら仮免の過去問でもやりませんか? まだ一度も手をつけていないでしょう……?」
【貴之】
「そうだな。一回試しでやってみるか。でも常識問題が多めだろうから案外あっさり合格点いけるかもな。…………佳風流? ほら行くぞ?」
【佳風流】
「……あぁ、うん。そうだね」
【佳風流】
「…………」
【佳風流】
「…………気のせいだったのかなぁ」
■8月12日(木)
★場所:隣接合宿所 3人の部屋
【貴之】
「…………」
【和事】
「…………」
【佳風流】
「…………」
【貴之】
「……よし。終わった」
【和事】
「……はい、わたしも……全て解き終わりました」
【佳風流】
「いやぁけっこうボリュームあったねぇ。んで、点数の方はどうなんだいお二人さん?」
【貴之】
「問題ない。安定して9割オーバー。これなら学科は余裕でパスだろ」
【和事】
「わたしも……おそらく問題ないかと……」
【佳風流】
「へぇ、どれどれ…………おぉ雨衣ちゃんすごいな。どの年度の問題もほとんど満点じゃないの。やるねぇ、さっすが支倉くんの彼女だぁ」
【和事】
「これでも貴之さんの……二番目の女ですので……!」
【佳風流】
「もう愛人でいいんじゃねぇの? 彼女じゃなくて」
【貴之】
「冗談じゃない。というか一番目誰だよ」
【和事】
「それはもちろん灰谷さんです……。こんな可愛らしい方の前では、わたしなどとてもとても……」
【佳風流】
「ほぅら君の彼女公認のナンバーワンだぞぉ! これで如何にぼくがいい女か身に染みてわかっただろう?」
【貴之】
「一番目が男ってのはちょっとなぁ……」
【佳風流】
「ぼくは乙女なんだいっ! あんまり愚弄するようだと本妻の前でエッチなちゅーしてやるぞぉ!」
【和事】
「おぉ……ごくり……!」
【貴之】
「なんで止めないの?」
【佳風流】
「……まぁ、雨衣ちゃんの特殊な性癖はさて置いといてさ、君の中ではぼくの方が上なんだ?」
【和事】
「もちろん、わたしが貴之さんの一番でありたいとは思っていますが…………でも、一緒に過ごしてきた時間が、わたしの倍はあるじゃないですか……」
【佳風流】
「あぁそれはそうだねぇ。なんたって雨衣ちゃんはまだ1年、ぼくは2年以上の付き合いだから。積み重ねてきた歴史が違うんだよぉ歴史が」
【貴之】
「言うほど歴史ないだろ」
【佳風流】
「なんだとコラ。一緒にバイクの免許取りに行ったりしただろうがこのナメクジ」
【和事】
「そう言えば……貴之さんが周防町に来られる1年程前に、免許を取られたんですよね……?」
【貴之】
「そうそう。こいつと一緒に通って取ったんだ。そのときはこういう合宿形式でなく普通に家から通ってな」
【佳風流】
「懐かしいねぇ。と言ってもぼくの場合、持ってるのは免許だけで自分のバイクはないから、ほとんどペーパーみたいなもんなんだけどね」
【和事】
「え、でも以前、東京から貴之さんのバイクに乗ってこられましたよね? とてもペーパーとは……」
【佳風流】
「大したほどじゃないさ。ちょっとスピード出せば高速で10時間ぐらいだし。普通の道走るより安全だから、むしろ楽しかったよ? 暑かったけど」
【貴之】
「それでも10時間って割と速いほうだと思うが……ちゃんと休憩はとったのか?」
【佳風流】
「あったり前だろうがこのお間抜けぽんち。10時間ぶっ続けで走るなんて無理に決まってんだろぉ。何回かサービスエリアで休憩とったさ」
【佳風流】
「……あー……でも、そういや一回強面のお兄さんにナンパされかけたことあったなぁ……」
【和事】
「えっ……! その、大丈夫だったんですか……!」
【佳風流】
「へーきへーき。ぼくにはそんな連中を追い払う術を持っているからね。どーってことないさ」
【和事】
「……術?」
【貴之】
「あー、もしかして声帯模写か」
【佳風流】
「お、支倉くん正解。珍しく冴えてんねぇ。ヤーさん特有のドスの効いた声で脅したらビビッて逃げてったよ。あのときのあいつらの顔といったら、まさに傑作だったよ! 二人にも見せたかったなぁ……!」
【和事】
「おー! なんかすごいですね! 声一つで怖い男の人たちを追い払うなんて!」
【貴之】
「気味が悪くて避けていっただけな気もするけど」
【佳風流】
「お? やるかコラ? いてこましたろか?」
【貴之】
「なんで関西弁?」
【和事】
「……貴之さん、灰谷さん。もう遅い時間ですし、そろそろ寝ませんか……? 明日は仮免試験ですので……」
【貴之】
「……そうだな。こんな似非ヤクザに付き合ってる場合じゃなかった」
【佳風流】
「んだとコラァ。支倉くんの"あそこ"切り落としたろかぁ?」
【和事】
「そ、それは……つまり……! ……ち、ち……チ〇コ詰め……ですね……!」
【佳風流】
「あはは、雨衣ちゃんうまいうまい」
【貴之】
「いいからさっさと寝ろやコラ」
■8月13日(金)
★場所:教習所内
【貴之】
「ふぅー……全員無事、仮免は合格だな」
【佳風流】
「なぁんか思ったより余裕だったねぇ」
【貴之】
「お前学科ちょっと危なかっただろ」
【佳風流】
「うるさいやい! あんなどうとでも受け取れるような書き方してる問題が悪いんだい! 作問者は何を考えてんだって話なんだよ!」
【貴之】
「ここでそんな大声で言うな。目をつけられるぞ」
【和事】
「い、一応みなさん……同じ条件ですので……」
【貴之】
「和事は全然問題なさそうだったな」
【和事】
「え、えぇ……まぁ……」
【貴之】
「……どうした? そんな苦い顔して」
【和事】
「えっと、その……技能試験が少し危なかったので」
【佳風流】
「…………」
【貴之】
「減点くらったのか。安全確認を忘れたとか何かか?」
【和事】
「いえ、その……スピードを少し出しすぎてしまって……」
【貴之】
「速度超過か。それだけなら点数はギリギリってとこかな」
【和事】
「はい……試験官の先生にもお小言をいただいたので、今度からの路上教習では気を付けるようにと……」
【貴之】
「まあコースより路上走る方が楽しいって聞くし、そう身構えなくてもいいと思うぞ。あまり固くなるな」
【和事】
「そうですね……もっとりらっくすして運転できるよう頑張ります……!」
【佳風流】
「……なぁ、支倉くん」
【貴之】
「……どうした? さっきから微妙に黙ってたようだが」
【佳風流】
「この前、ぼくが雨衣ちゃんの運転について言及したの、おぼえてるか?」
【貴之】
「あー……でも結局あれは勘違いだったんだろ? 現に仮免も合格したんだから」
【佳風流】
「たしかに以前のようなエンスト連発だったり脱輪はなかったけど……やっぱ、彼女の運転にはぼかぁちっとばかし不安をおぼえるね」
【貴之】
「そりゃあ減点くらったとはいえ、そのくらい誰だってあるだろ? 路上教習で経験積めば慣れてくると思うぞ」
【佳風流】
「まぁそうかもしんないけど……こう、何て言うんだろ……そういうのとは違う何かを雨衣ちゃんから感じたというか……」
【貴之】
「……? 珍しく歯切れが悪いな。いったい和事に何をそこまで──」
【和事】
「あのー……さっきからお二人で何をお話しされてるんですか? そろそろ部屋に戻りませんか?」
【佳風流】
「……まぁでも、支倉くんの言うとおりかもね。路上走れば変わるかもしれないし、ぼくの杞憂ってことにしといてあげるよ」
【貴之】
「そういう言い方されると逆に不安になるんだが…………あぁ、戻ろっか和事。仮免終わりだし今日はもうゆっくりするか」
【佳風流】
「だねぇ。ふかふかベッドでゴロゴロと洒落込みますかぁ。あ、もちろんエッチないたずらは好きなだけしてくれていいぞ? ぼくのおっぱい揉み揉みするかい?」
【貴之】
「和事のを揉み揉みするからいらない」
【佳風流】
「なんだぁこいつ人の厚意を無下にするどころかまぁたイチャコラ見せつけようとしやがる。…………おーい、雨衣ちゃん! この男がね、君のおっぱいを──」
【和事】
「今日の夕飯は焼肉バイキングだそうです……! 取られて無くなる前にわたしたちも急ぎましょう……! 上ロース♪ 上カルビ♪」
【佳風流】
「聞いちゃいねぇぞあの子」
【貴之】
「和事が順調に食いしん坊キャラになっていってるなぁ……」
■8月17日(火)
★場所:教習所 敷地内
【教官の人】
「……高速教習はこれで終了です。長時間の運転、お疲れ様でした」
【佳風流】
「はぁい。どうもありがとうございました」
【佳風流】
「…………」
【佳風流】
「……しっかし、わざわざ高速道路を走る教習なんてあったんだ」
【佳風流】
「たしか……学科教習で、今から10年前くらい前に教習の項目に加わったとかなんとか言ってたような……。時代の流れを感じるねぇ」
【佳風流】
「…………」
【佳風流】
「……あの二人、大丈夫かなぁ。教習生が二人でペアになって代わりばんこで運転する形式だったけど…………あっ」
【和事】
「あっ! 灰谷さん! ……そちらも終わったところでしょうか?」
【貴之】
「…………」
【佳風流】
「……あ、うんまぁね。そっちはどうだった?」
【和事】
「とっても楽しかったです……! ずっと真っ直ぐ走るのはとっても気持ちいいですね……! ガンガンスピード出してもほとんど怒られませんでしたので……!」
【貴之】
「…………」
【佳風流】
「……そ、そうなんだ。……ところで……その、君の旦那がさっきから死にそうな顔してるけど……大丈夫?」
【和事】
「それが……帰りはわたしが運転したんですけど、そのときにどうやら酔ってしまったようで……。そういえば、教官の先生も少し顔が青かったですね……」
【佳風流】
「…………」
【佳風流】
「…………えぇ」
【和事】
「たしか近くに薬局があったと思うので、酔い止めのお薬とお飲み物買ってきますね。灰谷さん、貴之さんを少し見ててもらってもいいですか……?」
【佳風流】
「あ、うん。支倉くんはぼくに任せて、行ってきていいよ」
【和事】
「すみません、よろしくお願いします……!」
●SE:遠ざかる足音
【佳風流】
「…………」
【佳風流】
「……おーい。生きてるか?」
【貴之】
「……かろうじて」
【佳風流】
「…………何があったのさ。彼女、暴走でもしたのか?」
【貴之】
「…………」
【貴之】
「…………あのとき」
【佳風流】
「……ん?」
【貴之】
「あのとき、お前が言ってたことの意味がわかった気がする」
【佳風流】
「……と言うと?」
【貴之】
「運転技能自体はそこまで問題ない。……でも、スピード出すとき、まるで目の色が変わったかのように変貌するんだ。まるで二重人格みたいな。教官もかなり焦ってた」
【佳風流】
「……よくハンコもらえたよなぁ、それで」
【貴之】
「別に事故につながるような真似をしたわけじゃないからな。……いや、確かにそれを差し引いてもよく押してくれたなとは思う」
【佳風流】
「なんか……こう、あれだよねぇ。オーラが違うというか……事故への躊躇いが無くなるというか……なんて言えばいいんだろな」
【貴之】
「峠を走り慣れてるかのような雰囲気だった」
【佳風流】
「それそれ。走り屋のそれ」
【貴之】
「…………」
【佳風流】
「……支倉くん」
【貴之】
「あぁ」
【佳風流】
「今後ずっと運転は君がやったほうがいい。彼女に運転させたら命がいくつあっても足りないぞ」
【貴之】
「そのつもりだ。下手したら田舎のご老人たちが衝撃の余りぽっくり逝ってしまいかねん」
【佳風流】
「不謹慎な気もするけど普通にあり得そうなんだよな。いや、ほんとマジでぼく雨衣ちゃんとペアにならなくてよかったと安堵してるぞ」
【貴之】
「一応聞くけど、灰谷家にある使ってない車ってト〇ノやR〇-7とかじゃないだろうな」
【佳風流】
「そこは安心したまえ支倉くん。至ってごく普通の軽自動車だよ。てか、持ってても譲るわけねぇだろ。いろんな意味で」
【貴之】
「ならいいんだが。……和事、卒検受かるかなぁ。たしか明後日だよな?」
【佳風流】
「そうだねぇ。まぁ、その辺の路上の決まった経路を走るだけだから、さすがに大丈夫だろ。……正直、それでも怖いものは怖いけど」
●SE:駆け足で近づいてくる音
【和事】
「……すみません、遅くなりましたぁー……!」
【佳風流】
「おい、走り屋がご帰還だぞ」
【貴之】
「そのあだ名はやめてやれ」
【和事】
「……? 何のお話で……あ、貴之さん。もう体調の方は大丈夫ですか?」
【貴之】
「あぁもう平気。でもせっかくだから飲み物だけもらおうかな」
【和事】
「はい、どうぞどうぞ」
【佳風流】
「……さてと。君たち、あと2日だよ。卒検、無事三人揃って合格できるといいね。マジで」
【貴之】
「そうだな。一人だけ落ちる、なんてことにならないといいな。マジで」
【和事】
「貴之さんが若者言葉を……!」
■8月19日(木)
★場所:教習所内
【貴之】
「…………」
【佳風流】
「…………」
【和事】
「…………」
【貴之】
「……全員、無事卒検受かったな」
【佳風流】
「……うん。本当によかった。……本当に」
【貴之】
「……多分、奇跡が3つくらい重なった結果だな」
【佳風流】
「……そうだね、ぼかぁ色々と感動してるよ。……ま、とにかくみんなお疲れ様ってことで」
【和事】
「はい……! これでみなさんで遠くに旅行とか行けますね……!」
【貴之】
「……あぁ、うん。そうだな……」
【佳風流】
「そのときは支倉くんが必死こいて運転してくれるだろうねぇ。ぼくにはそんな未来が見えるぞ」
【貴之】
「奇遇だな。俺と佳風流が代わりばんこで運転する、きっとそうなると強く確信してるぞ」
【和事】
「うふふっ。気が早すぎますよ。それに、お二人だけに運転させるのも悪いですし、わたしも──」
【佳風流】
「あはは雨衣ちゃんの言うとおりさ旅行なんていつになるってんだよ気が早すぎるだろそれにまだ本試験があんだからまだまだ気を緩められないぞぉわかってんのかい色ボケ夫婦さんたちよぉ」
【貴之】
「おぉ良いこと言うじゃないか帰ったらまた過去問やらないとだからなまだまだ油断はできないなぁ!」
【和事】
「おぉ……! お二人が早口で喋ってます……! 卒検が終わったばかりだというのに、まだまだ元気なんですね……!」
【佳風流】
「…………」
【貴之】
「…………」
【佳風流】
「……で、一応言っとくけど、ぼくは一旦ここで東京に戻るからね」
【和事】
「え? そうなんですか?」
【佳風流】
「ほら、本試験って住民票のある都道府県の試験場じゃないと受けられないだろ? 君らはいいけど、ぼくは東京に籍を置いてるからね」
【貴之】
「じゃあ試験終わって無事免許取ったらこっちに戻ってくるんだな?」
【佳風流】
「そういうこと。数日間お別れになるから、寂しくならないよう今のうちにぼくとラブラブなエッチしとく? よかったら雨衣ちゃんもご一緒に」
【和事】
「……さ、……さんぴぃ……!」
【貴之】
「帰れ」
【佳風流】
「んだよぉ! もう合宿も終わったんだからちょっとくらいいだろぉ! インスタントに済ませたいって言うならちゅーだけでもぼくはいいぞ?」
【貴之】
「和事とするから結構です」
【和事】
「~~~っ! もうっ、貴之さん……!」
【佳風流】
「この16日間で何回見せつけてきてんだコラ嫌がらせにも程があんだろうが。車持ってきてやんないぞ」
【和事】
「あっ……そうでした。そういうお約束でしたね……」
【貴之】
「そっか。どっちにしても東京帰らないといけないのか。……また高速走ってこっち来てくれるんだろ?」
【佳風流】
「……まぁね。まさか記念すべき最初の運転が、高速走行10時間コースになるとは思わなかったよ」
【貴之】
「……本当にありがとな、佳風流」
【和事】
「冷たい麦茶とお菓子を揃えてお待ちしてますね……」
【佳風流】
「おぉう、そいつはありがたいねぇ。間違っても熱いお茶は勘弁だぞぉ雨衣ちゃん?」
【和事】
「あ、あのときは……大変申し訳ありませんでした……」
【貴之】
「アイスも用意して待ってるぞ。チョコミントアイスとか」
【佳風流】
「やっぱ気が利くねぇ支倉くんは。やっぱお別れの前にちゅーくらいしとくかい?」
【貴之】
「なんでそんなにキスしたいんだお前は。溜まってんのか」
【佳風流】
「おいコラ乙女相手に溜まってるとか言うんじゃないよ! 溜まってんのは雨衣ちゃんの方だろうが、わかってんのかおい!」
【和事】
「そうですよ貴之さん……! その、ちゃ、ちゃんと……解消させて、ください……!」
【佳風流】
「肯定されるとは思ってなかったぞ」
【貴之】
「……帰ったらな」
【和事】
「やったぁ……!」
【佳風流】
「……もういいや。こいつらキリがねぇわ。…………それじゃ、ぼくはこっちのバスだから。また来週ね」
【貴之】
「……あぁ。じゃあな」
【和事】
「……道中お気をつけてお帰りください」
●SE:バスが遠ざかる音
【貴之】
「……俺たちも帰るか」
【和事】
「そうですね。…………貴之さん」
【貴之】
「……どうした?」
【和事】
「……わたし、とっても楽しかったです……! とてもいい思い出になりました……!」
【貴之】
「……そうだな。発案者の佳風流には感謝だな」
【和事】
「えぇ……。でも、帰ったらまた過去問漬けの日々ですね……」
【貴之】
「日曜ぐらいまで勉強して月曜に本試験、って感じのスケジュールでいけるだろ。多分」
【和事】
「あと……その間……エ、エッチなお勉強も、並行してやりませんか……?」
【貴之】
「本当に溜まってるなぁ……」
■8月25日(水)
★場所:貴之家
【貴之】
「…………」
【和事】
「…………」
【貴之】
「…………そろそろだと思うんだけどなあ」
【和事】
「……あっ貴之さん! おそらくあれでは……?」
【貴之】
「…………おっ」
●SE:自動車が近づいてくる音
【佳風流】
「……おーい!! みんなのかふるんがやってきたぞぉ~!!」
【貴之】
「……佳風流! やっと来たか!」
【和事】
「長旅、大変お疲れ様でした……。こちら、お茶でもどうぞ」
【佳風流】
「お。今回はちゃんとした冷たいやつだねぇ。安心安心。…………で、どうよ。この車」
【貴之】
「かなり立派じゃないか。ごく普通って言ってた割には」
【和事】
「これは……かなり荷物が入りそうですね……」
【佳風流】
「いいだろぉ。タ〇トだけどね、この大きさなら日用品はもちろん、自転車一台だって載せられるぞ」
【貴之】
「すごいな。年季はどれくらいだ?」
【佳風流】
「詳しくはぼくもわかんないけど……たしかほとんど乗ってないって言ってたから、実質新車だね」
【和事】
「さ、さすがは灰谷家……ですね……」
【佳風流】
「オートエアコンも完備してるから、これで夏でも冬でも買い物は楽ちんだろ?」
【貴之】
「……本当にありがとう、佳風流。助かるよ」
【佳風流】
「なぁに、君とぼくの仲じゃないか。これくらい気にしなくていいよ。……それに、雨衣ちゃんのためでもあるからね。友達のためならなんでもするさ」
【和事】
「灰谷さん……」
【佳風流】
「ま、どうしてお礼がしたいってなら、ハグの一つくらいしてほしいもんだねぇ」
【貴之】
「それならいいぞ。ほら」
【佳風流】
「!!! おぉっ!! い、いきなりやるんじゃないよこのおぽんち!! ……びっくりしただろうが。まったく」
【和事】
「……わ、わたしにも抱きしめさせてくださいっ」
【佳風流】
「おぉうっ!! ……まったくなんなんだこのカップルは。…………ほら、もういいから! 暑苦しいし離れろぃ!」
【貴之】
「なんだこいつツンデレだな」
【佳風流】
「君に言われたくないっつーの! ……それより、つい玄関前に車停めちゃったけど……この家駐車できるところあんの?」
【貴之】
「一応裏の方に一台分だけ停められるスペースあるから、今後はそこに駐車することになるぞ」
【佳風流】
「ふーん、そっか。じゃあせっかくだし、支倉くん乗って停めてきたら?」
【貴之】
「そうだな。駐車の練習も兼ねて早速──」
【和事】
「あ、貴之さん。その前にスーパーへお買い物に行きませんか? ちょうどお野菜切らしていたので……」
【貴之】
「そういやそうだったな。ニンジンと玉ねぎ切らしてたな。ナスもなかったか」
【和事】
「ネギもたしかなかったので…………どちらにしても今日は大荷物になりそうです」
【佳風流】
「ちょうどいいじゃないの。二人で行ってきたら? ぼくはまた留守番を──」
【和事】
「せっかくなので灰谷さんも一緒に行きませんか?
【貴之】
「…………えっ」
【佳風流】
「…………その……一緒に行くのはいいけど、雨衣ちゃんが……運転?」
【貴之】
「そ、そうだぞ。ここは俺に任せて──」
【和事】
「いいえ。わたしはともかく、灰谷さんは貴之さんと頻繁に会えるわけではないのですから、こちらに遊びにいらしてる間くらいお二人で歓談でもしていてください」
【佳風流】
「……そ、それはそうかもしんないけどさぁ……」
【和事】
「その間、運転はすべてわたしがしますので。そうご心配なさらず……大船に乗ったつもりでいてください……!」
【貴之】
「…………」
【佳風流】
「…………泥船じゃないの?」
【和事】
「ほらお二人共、早く乗って乗って……!」
【佳風流】
「えっちょっ……いや、ぼくには君たちの家を警備するという重大な任務が──」
【貴之】
「佳風流……俺たちの仲だろ? いついかなる時も運命は一緒ってことだぞ。お前を一人にはしないさ」
【佳風流】
「おいコラ引っ張るな! 普段はそんなこと言ってくれないくせにぃ!」
【貴之】
「…………お前だけ逃げられると思うなよ」
【佳風流】
「やめろぉこの最低ナメクジがぁ!! …………うわぁ~ん!! 誰か助けてぇ~!!」