橘家と佳風流   作:黒桐饅頭

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EP2. 佳風流が橘家に来訪するお話

★場所:橘家

 

【文乃】

「…………良い天気に、ございますね」

 

【淳之介】

「あぁ、こりゃ洗濯物もすぐ乾きそうだな」

 

【文乃】

「……本日、いらっしゃるのですよね」

 

【淳之介】

「そろそろだと思うけど。緊張してる?」

 

【文乃】

「えぇ、少々。おふたりの親族の方とお会いするとなると、身が引き締まる思いに駆られます故……」

 

【淳之介】

「そんな固くならなくていいんだぞ。実際会って見たら、穏やかで和む感じの人だったから」

 

【文乃】

「……そうでございますか。さすがは『会ったことないけどなんかどちゃくそ良い人』の名に恥じぬお方ですね……!」

 

【淳之介】

「それ俺たちが勝手に言ってただけだからね?」

 

●SE:家の中から爆発音

 

【淳之介】

「!? な、なんだ!?」

 

【文乃】

「っ! 新たな敵でしょうか…………麻沙音さん?」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【淳之介】

「アサちゃんここで何があった!? 無事か!? 敵襲なら迎撃態勢を……ってなんか変な臭いがするな」

 

【文乃】

「……なにやら、金属らしきものの破片が散らばっております、これは……?」

 

【麻沙音】

「…………あ」

 

【淳之介】

「?」

 

【麻沙音】

「兄ぃ~! やかんを火にかけてから沸騰するまで部屋でネトゲしてたらチャットでまた外人に煽られてこんちくしょうと不貞寝して起きたらなんかやかんが爆発したよぉ~!」

 

【淳之介】

「この大事な日に何をしているんだい君は」

 

【文乃】

「麻沙音さん……料理中は火から目を逸らしてはいけないと、いつも申し上げておりますでしょう。くどくど、むべむべ……」

 

【麻沙音】

「はい……すみませんでした……」

 

【淳之介】

「どこかで見たことある光景」

 

【文乃】

「……して、麻沙音さんはいったい何を?」

 

【麻沙音】

「うん……料理とかじゃなくてね、お茶を沸かそうとして」

 

【淳之介】

「お茶?」

 

【麻沙音】

「だ、だって今日は灰谷さんが家に来るから。もてなしのためにと思って、お茶の用意した方がいいかなって……」

 

【文乃】

「…………」

 

【淳之介】

「アサちゃん……成長したな」

 

【麻沙音】

「……本当?」

 

【淳之介】

「もちろん! お客様を丁重にお出迎えしようなんて、一般常識的なマナーのことなんざ身についてもいなければ概念すら認知してなさそうな今までのアサちゃんじゃ考えられないことじゃないか! 他人への配慮など微塵もなかったあの頃とはまるで違う! 未だにたいして自分のことは何もできない口達者のクソ生意気な妹だけど、兄はとても嬉しいぞ!」

 

【麻沙音】

「ほとんど暴言のような悪口な気するけど大人になってもあの頃と変わらず妹をよしよしして褒めてくれる兄、好き! 抱いて!」

 

【橘兄妹】

「「(抱擁)」」

 

【文乃】

「…………」

 

【淳之介】

「お、どうした文乃? なに、もう俺とお前は夫婦だが、橘家の末っ子ポジションは健在だからな! 気にしなくてもいいからお前もいっしょに」

 

【文乃】

「そうではなく、あの…………麻沙音さん。言いにくいことなのですが……」

 

【麻沙音】

「なぁに言ってるんですかい義姉さん。私たちは家族ですぜ。遠慮など不要。なんでもお申し付けくだせぇ」

 

【淳之介】

「ヤクザに憧れる中学生みたいな言い回しはやめろ」

 

【文乃】

「…………電気ポットをお使いになればよかったのでは?」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【淳之介】

「…………」

 

【文乃】

「それとケトルもあ――」

 

【淳之介】

「てめぇこのバカ妹が! 大変便利であらせられる文明の利器様が目の前におられるじゃねぇか! ネトゲのやりすぎで視界がボヤけたかこのいい歳しておぼこ娘が!!」

 

【麻沙音】

「おめぇも気づいてなかっただろうがよぉ! ここぞとばかりに畳みかけやがってこのイ〇ポ亭主が! ちっとばかし前髪が後退してきたからって気ぃ立ってんのか!? 気ぃ立たせるより嫁のためにチ〇ポおっ勃たせてみろや!」

 

【淳之介】

「元イ〇ポだこの野郎! 昔のことを掘り返すんじゃねぇ戦争だ!」

 

【麻沙音】

「ぐえぇぇぇ…………この亭主関白め!」

 

【文乃】

「もうじき灰谷様がいらっしゃる頃なので、戯れはその辺でお止めください」

 

【大人になってもバカな兄妹】

「「ごめんなさい」」

 

【淳之介】

「あ、でもこのままじゃまずいぞ! 床に散らばった破片を片づけないと!」

 

【麻沙音】

「そうだよ! こんなことしてる場合じゃなかった! 急いでやら――」

 

【文乃】

「おふたりが楽しそうに喧しくされている間に、わたしの方で清掃は済ませておきましたのでご安心ください」

 

【麻沙音】

「……ちょっと怒ってる?」

 

【淳之介】

「本当に、本当にごめんな……」

 

●SE:チャイムが鳴る音

 

【橘家】

「――――!!!!」

 

【文乃】

「……わたくしがお出迎えを」

 

【淳之介】

「いや、俺が出るから」

 

【佳風流】

「…………ごめんください、灰谷です」

 

【淳之介】

「――ご無沙汰しています、灰谷さん。遠方からお越しくださりありがとうございます」

 

【佳風流】

「淳之介くん、久しぶり。約束どおり、来させてもらったよ」

 

【淳之介】

「……ようこそ、橘家へ。どうぞ、お上がりください」

 

【佳風流】

「うん、お邪魔します」

 

【麻沙音】

「は、灰谷さん。お久しぶりです」

 

【佳風流】

「麻沙音ちゃん。久しぶりだね。見ない間にまた綺麗になったんじゃない? ぼくに引けを取らないぐらいだよ」

 

【麻沙音】

「~~~っ!」

 

【淳之介】

「珍しくガチで照れてるじゃん」

 

【麻沙音】

「う、うるさいバカ兄! 黙ってろ!」

 

【淳之介】

「いつものキレがないぞぉ。ほ~れほれ、よしよし」

 

【麻沙音】

「お客さんの前で妹の頭撫で回すとか正気か?」

 

【佳風流】

「……そちらの方が、もしかして」

 

【文乃】

「お初にお目にかかります、灰谷様。橘文乃と申します。旧姓は『琴寄』。淳之介の妻です。何卒お見知りいただけますよう、どうぞ宜しくお願い致します」

 

【佳風流】

「…………『琴寄』?」

 

【文乃】

「えっと……何か?」

 

【佳風流】

「……え? あぁ、これは失礼を。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

【麻沙音】

「文乃。ちょっと堅すぎるんじゃないの」

 

【文乃】

「淳之介さんと麻沙音さんのご親族の方におられます。つまり、わたしにとっても親族となります故、無礼などあってはなりませぬ……」

 

【佳風流】

「しっかし、思った以上に物腰が丁重な奥さんなんだね。こりゃいい嫁さんゲットで幸せ者だね、淳之介くん」

 

【淳之介】

「いやぁ、やっぱそう見えますぅ~~~!!??」

 

【麻沙音】

「こいつが一番無礼だろ」

 

【文乃】

「淳之介さん、はしたのうございます」

 

【佳風流】

「――――そうだ。橘家に来たらいの一番にやらなくちゃいけないことがあったんだ」

 

【文乃】

「と、申しますと?」

 

【佳風流】

「お線香、上げさせてもらえないかな。愛衣梨――――と、旦那さんに」

 

【橘兄妹】

「「…………」」

 

【淳之介】

「……はい、是非お願いします」

 

【麻沙音】

「き、きっと喜ぶと思いますので。仏壇はこっちです」

 

【佳風流】

「うん、ありがとう」

 

●SE:お鈴を叩いた音

 

【佳風流】

「…………」

 

【佳風流】

「愛衣梨、こうして顔を合わせたのはいつ以来だろうね」

 

【佳風流】

「愛衣梨と旦那さんが事故で亡くなったって聞いたときはね、驚きというよりも、仄かな怒りがあったんだ。不思議なことにね」

 

【佳風流】

「――……残された子供たちはどうするんだ、って」

 

【佳風流】

「兄と妹、決してひとりではないかもしれないけど。身寄りがいないってのは、寂しいはずだよ」

 

【佳風流】

「なのに、お前ってやつは…………」

 

【淳之介】

「…………」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【文乃】

「…………」

 

【佳風流】

「……ぼくはぼくなりに、彼らのためにできることはやったつもり。でも、そんな中ね、予想外の出来事が起きたんだ」

 

【佳風流】

「その子供たちが大きくなって、自分たちの方からぼくに会いに来てくれたんだよ」

 

【佳風流】

「…………愛衣梨、見てるかい。君の子供たちは逞しく育ってるよ。もうすっかり大人。生計を立てる身だ」

 

【佳風流】

「もうぼくにできることはないかもしれない。けど、君の代わりにこれからも彼らを見守ることぐらいはしてもいいだろ?」

 

【佳風流】

「……それじゃあね、愛衣梨。旦那さんにもよろしく伝えておいてくれよ」

 

【佳風流】

「…………」

 

【佳風流】

「…………ごめん、ちょっと長かったかな。湿っぽくしちゃってごめんね」

 

【淳之介】

「…………いえ、そんなことは」

 

【麻沙音】

「……灰谷さん、本当に、その……」

 

【文乃】

「う゛う゛っ゛!! ぐ゛す゛っ゛!! ひ゛く゛っ゛!! え゛く゛っ゛!!」

 

【麻沙音】

「いやお前が泣くのかよ」

 

【淳之介】

「逆にこっちが涙引っ込んだよ……」

 

【文乃】

「ずびばぜん、ばびだびざばをおぼいびづいばんぼうびでびばいばじで」

 

【麻沙音】

「青藍島民ぐらい何言ってっか分かんねぇからちゃんと言えって」

 

【淳之介】

「ほら、ハンカチとティッシュ。チーンして、チーン」

 

【文乃】

「…………大変お見苦しいところを。失礼致しました」

 

【佳風流】

「……いや。悪いのはこっちだから」

 

【麻沙音】

「で、なんて言ったの」

 

【文乃】

「『すみません、灰谷様の思いについ感動してしまいまして』と申し上げました」

 

【淳之介】

「後半の解読厳しくない?」

 

【佳風流】

「ごめんね。こっちもこっちでちょっと感極まってね」

 

【文乃】

「と、とんでもございません! 無礼を働いたのはこちらの方ですので……どうかお気になさらず」

 

【佳風流】

「……文乃さん」

 

【文乃】

「改めまして、淳之介さんと麻沙音さんを長年見守っていただき、心から感謝申し上げます。橘家の人間として、大変、大変嬉しゅうございます……」

 

【佳風流】

「…………改めて、今後ともよろしくね。文乃さん」

 

【文乃】

「…………はいっ!」

 

【麻沙音】

「あぁそうだ! まだ何もお茶とか出してないじゃん! すみません灰谷さん! 少々お待ちを……!」

 

【佳風流】

「気を遣わせちゃったね。ごめん、麻沙音ちゃん」

 

【淳之介】

「…………来てもらって本当によかったなぁ」

 

 

 

   ◆

 

 

 

【文乃】

「……それで、先程から気になっていたのですが」

 

【麻沙音】

「ん?」

 

【文乃】

「灰谷様と麻沙音さんの声が非常に似ておられまして……」

 

【似た声のふたり】

「「あぁ……」」

 

【文乃】

「し、失礼とは思いながらも、どちらがしゃべっておられるのか、時折わからぬときがございまして……」

 

【淳之介】

「実は俺もたまにある」

 

【麻沙音】

「私の声、母に似てると小さいときよく言われたんですけど」

 

【佳風流】

「ぼくもだよ。愛衣梨とそっくりでどっちがしゃべってんだってよく言われたものだよ」

 

【文乃】

「不思議なものでございますね……。しかしなぜ故、お三方が同系統の声をお持ちなのでしょう……」

 

【淳之介】

「なんか怖いからあまりその辺ぐいぐい踏み込むな文乃」

 

【文乃】

「も、申し訳ございませぬ……つい、気になりまして……」

 

【麻沙音】

「ま、世の中そういうこともあるってことで」

 

【佳風流】

「ねぇ、ところでさ。さっき青藍島民がどうこう言ってたけど……」

 

【淳之介】

「麻沙音が言ってましたが……それが何か?」

 

【佳風流】

「…………この島の人たち、淫らすぎない?」

 

【淳之介】

「…………」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【橘兄妹】

「「???」」

 

【佳風流】

「いやいや! どう考えてもおかしいでしょこの島! なんでそんじょそこらでエッチしてるのさ! こんな光景、世界のどこに行っても見れるもんじゃないよ!?」

 

【淳之介】

「あぁ……そうか……な」

 

【麻沙音】

「まあ、言われてみれば、そうかも……」

 

【佳風流】

「反応薄くない!? みんながみんな決まって『孕めオラァ!』とか言ってるんだよ!? 最初聞いた時、ぼくの頭どうかしちゃったのかと思ったよ!!」

 

【文乃】

「お気持ちは理解できます……しかしこれが、青藍島なのでございます」

 

【佳風流】

「文乃さんもそういう感じ……? え、なに、ずっとこの島にいると適応できるってことなの……?」

 

【淳之介】

「灰谷さん。この島来る前に青藍島の説明や検査がありませんでしたか?」

 

【佳風流】

「あったね。この島ならどこでもドスケベセッ〇ス(?)がOKってことと、あと島に入る前に診てもらったよ」

 

【麻沙音】

「そこら中で盛った猿のようにセッ〇スできるわけですから、病気や妊娠の懸念があるわけです。なので、この島では病気の検査が徹底されていて、無料でピルが配布されたりしているんですよ」

 

【佳風流】

「へ、へぇ……。無法地帯ってわけじゃなく、エッチのための徹底した管理が行き届いてるってことなんだね」

 

【淳之介】

「あ、でも小さい子とのセッ〇スは厳禁なんですよ。ロリのことですね。それだけはこの島でも厳しく注意されてるんです。もし破ったら相当な厳罰に処されるって話です」

 

【佳風流】

「この島限定みたいな言い方してるけど本島でも普通にアウトだからね」

 

【文乃】

「……ですが、然るべき規則さえ守れば、"自由"なのです」

 

【佳風流】

「? どういうこと?」

 

【麻沙音】

「昔は、ドスケベセッ〇スをしない者にはドスケベ条例の違反者として罰を喰らう決まりがあったんですけど…」

 

【淳之介】

「今は違う。セッ〇スをしたくない人はしなくてもいいし、セッ〇スをしたい場合は合意を得た上で。ドスケベセッ〇スに励むにしても、相手のことを尊重することが大事、という価値観が浸透するようになったんです」

 

【文乃】

「それを広めたのが……わたくしたちにございます」

 

【佳風流】

「………そうなの?」

 

【淳之介】

「はい。俺を含めたここにいる三人と、あともう三人いるんですが、計六人で徒党を組み、仲間たちと共に、この島を………変えてみせたんです」

 

【佳風流】

「…………そうなんだ」

 

【佳風流】

「…………」

 

【佳風流】

「あ、あのさ。君たちがいろいろ頑張ってきたのはわかるし、すごくいい話なのは分かるんだけど……」

 

【淳之介】

「…………」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【文乃】

「…………」

 

【佳風流】

「…………ぼくはまだこの島に馴染んでないから、『ドスケベ』とか『セッ〇ス』なんて単語が当たり前のように出てくると、正直話の内容が頭に入ってこないんだよね……」

 

【橘家】

「「「…………」」」

 

【淳之介】

「…………俺たち」

 

【麻沙音】

「この島にだいぶ毒されてたんだね……」

 

【文乃】

「むべ……」

 

 

 

★場所:島内 街路

 

 

 

【佳風流】

「今日の夕食はぼくが奢るから。気にせず食べてね」

 

【文乃】

「度々厚く御礼申し上げます……。ご馳走になります」

 

【麻沙音】

「ゴチになります」

 

【淳之介】

「なんで気安いの?」

 

【佳風流】

「それにしても、こんな島でもいろいろ飲食店あるんだね。あれは……ん? ヌキ屋? の姉妹、丼………………なに、それ」

 

【淳之介】

「この時間は混みますからね」

 

【麻沙音】

「別のお店を探した方がいいですよ」

 

【佳風流】

「な、慣れてる……。よ、よく見たらこの辺の店の名前、もう全部そんな感じじゃん…………まともなとこないのかな」

 

【文乃】

「……こちらの店、少々席が空いているように見えます」

 

【佳風流】

「うん、ここ良さそうだね。……ん? これ、店名何?」

 

【橘兄妹】

「「ビッグ〇ーイ」」

 

【佳風流】

「…………」

 

【文乃】

「……風の噂では、本島にも何店か存在しているとか」

 

【佳風流】

「ぼくはツッコまないからね」

 

【麻沙音】

「ビッグ〇ーイだけに、ですか」

 

【淳之介】

「次それ言ったらお前だけ店の外に締め出すからな」

 

●SE:ドアが開く音+鈴が鳴る音

 

【淳之介】

「……思ったより混んでるな。さて、席を…………ん?」

 

【やたらと食い意地が張ってる人】

「店員さん! スープバーのスープがもうないじゃないですか! 早く補充してくれないとこっちのサラダバーが消え失せることになりますが、かまいませんね!!!」

 

【店員】

「お客様! 店内での迷惑行為は困ります! 席にお戻りください!」

 

【やたらと食い意地が張ってる人】

「……はぁ、メニューが来るまでの腹ごしらえとしてはちょっと不満ですねぇ。量が」

 

【淳之介】

「あ」

 

【麻沙音】

「げっ」

 

【文乃】

「…………美岬さん? でしょうか」

 

【美岬】

「おや、橘夫婦と橘兄妹さんじゃないですか! 皆さんちょうど今来たところですか?」

 

【淳之介】

「俺二人いることにならない?」

 

【麻沙音】

「ちょうど今帰ろうと思ったとこだよ」

 

【文乃】

「こちらでお食事を……と思ったのですが、想像以上に混んでおりまして」

 

【美岬】

「でしたらわたしのテーブルで相席しませんか? 六人用の広めのテーブルを取っておりますので!」

 

【麻沙音】

「そんだけ料理並べて食おうとしてたってことか? ひとりで何十人前食う気なんだよいい歳なんだからちっとは健康のために控えようって考えはねぇのかよこのピッグボーイが」

 

【美岬】

「おいおい麻沙音ちゃん……そこは"ピッグレディ"やろがーい! んっFO♡♡♡」

 

【麻沙音】

「ねぇ兄この豚と相席するの本当に嫌なんだけど」

 

【淳之介】

「贅沢言っちゃめーでしょ。美岬、すまんが四人座らせてもらうな」

 

【美岬】

「はいはいどうぞどう……ん? 四人って、…………あ、そちらの方は?」

 

【佳風流】

「淳之介くんたちのお友達かな? 突然で申し訳ないけど、相席失礼するね」

 

【美岬】

「あ、はい……どうぞ、お座りください……? あの、淳之介くん?」

 

【淳之介】

「とりあえずメニュー来てから改めて話すよ」

 

 

 

   ◆

 

 

 

【佳風流】

「改めまして、ぼくは灰谷佳風流といいます。何者かというと……簡単にいえば、淳之介くんたちの親戚かな。よろしくね。」

 

【美岬】

「畔美岬です。こちらこそよろしくお願いします」

 

【麻沙音】

「なんでもいいけどこの女のとなりに座るの嫌なんだよね」

 

【淳之介】

「もうメニュー来てるんだから文句言わないの」

 

【文乃】

「美岬さんはどうしておひとりでここに?」

 

【美岬】

「たまに来るんですよ。ここはサラダバーにスープバーが付いてるので、気が済むまで爆食いしたいときによく利用させてもらってます」

 

【麻沙音】

「よく潰れねぇなこの店。この女が本気出したら秒で在庫なくなるってのに」

 

【淳之介】

「わかる」

 

【佳風流】

「……畔さんはよく食べるんだね。ぼくは小食なほうだから、すごいと思うよ。あ、でもぼくの友人にもわりと食べる子いたな。思えば文乃さんに少し雰囲気が似てる」

 

【文乃】

「?」

 

【美岬】

「よく食べるといっても、ここでの食事はおやつみたいなものですよ? 食べ放題があるから来ているだけですね」

 

【佳風流】

「へ、へぇ……」

 

【麻沙音】

「すみません……うちの家畜がすみません……」

 

【淳之介】

「……まぁ、こんなやつですが、さっきお話しした仲間の一人です。どんな乗り物でも運転できる化け物じみた技能を持っているやつです」

 

【佳風流】

「へぇ、それはすごいな」

 

【美岬】

「最近、本島の方にとても美味しいラーメン屋さんができたとの噂を聞きつけましてね。今すぐにでも行きたいところなのですが、島のフェリーじゃ遅すぎるので、もういっそのこと自力で小型船舶を運転できるようになろうと考えていたところです」

 

【佳風流】

「行動力がすごいね」

 

【美岬】

「……ところで、少し気になっていたんですけど」

 

【文乃】

「? どうされましたか?」

 

【美岬】

「麻沙音ちゃんと灰谷さんのお声、とっても似てません?」

 

【麻沙音】

「またこの話題かよ」

 

【淳之介】

「やっぱみんな思うんだな」

 

【佳風流】

「お友達にも言われるってことは、ぼくたち本当に似てるってことなんだね。自分ではよくわからないんだけどねぇ……」

 

【美岬】

「なので、さっき麻沙音ちゃんに家畜がどうのと言われた時、一瞬灰谷さんに言われたのかと思ってびっくりしちゃいましたよ~! あはははは!!」

 

【佳風流】

「さすがに初対面の人に家畜とは言わないよ……」

 

【美岬】

「え……麻沙音ちゃん? 初対面だなんて……そんな冷たいこと言わないでくださいよ~! …………なんつって!! あはははは!!」

 

【麻沙音】

「お前マジでふざけんなよ……!」

 

【淳之介】

「灰谷さんに失礼でもあるんだぞ」

 

【文乃】

「わたくしたちが来る前にお酒でも飲まれてたのかしら……」

 

【佳風流】

「…………ふふっ」

 

【麻沙音】

「……え?」

 

【佳風流】

「あっははははは!! 面白いお友達だね! 久々に本域で笑っちゃったよ! あははは!!」

 

【麻沙音】

「あぁ……灰谷さんに有害物質ミサキウムが……」

 

【淳之介】

「……えぇ、愉快なやつで一緒にいて飽きませんよ。ブレーキが効かないときがほとんどですが」

 

【美岬】

「おやぁ? 淳之介くんもしかして今、わたしの本業である運転にかけてそう言ったんですかぁ!? うまい! トンカツ一枚!」

 

【淳之介】

「今真面目なお話してるから黙っててね」

 

【佳風流】

「…………」

 

【文乃】

「……灰谷様?」

 

【佳風流】

「……ううん、なんでも。畔さんのようにこんな明るいお友達に囲まれてる君たちを想像したら、ぼくの方もなんだか嬉しくなってね。少しホッとしただけ」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【淳之介】

「……灰谷さん」

 

【美岬】

「そう言われるとなんか少し照れますね……。でもわたし、本当は根暗な方なんです。わたしたちの仲間には私なんかよりもっと明るい人がいるんですよ?」

 

【美岬】

「声がロリのように明るい女児だったり、金髪ギャルビッチのようで根が明るい人がいます。もう眩しくて目がチカチカするくらいですよ」

 

【佳風流】

「……じゃあ、君たちの毎日は輝いてるんだね。ホッとするどころか羨ましいぐらいだ。畔さん、これからも淳之介くんたちを……よろしくお願いします」

 

【美岬】

「はい、このわたしにドンとお任せください!」

 

【淳之介】

「…………」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【文乃】

「…………」

 

【淳之介】

「こいつ今サラッとヒナミのこと女児って言ったよな」

 

【麻沙音】

「何年前の奈々瀬さんのこと言ってんだこいつは……」

 

【文乃】

「根暗……」

 

 

 

★場所:島内 街路

 

 

 

【佳風流】

「ふぅ……美味しかった。満足したよ」

 

【文乃】

「そう言っていただけるとわたくしどもも嬉しゅう存じます」

 

【淳之介】

「美岬のやつ、店出たらすぐ飛んでいったな。家で夕食を取るからとか」

 

【麻沙音】

「本当にさっきのはおやつ感覚だったのか…」

 

【佳風流】

「面白い子だったね。畔さん」

 

【淳之介】

「そういえば美岬の分まで支払っていただいて本当にありがとうございます」

 

【麻沙音】

「あの……本当に大丈夫ですか」

 

【佳風流】

「へーきへーき。畔さんの分も、別に……全然……だ、大丈夫……だよ。うん」

 

【麻沙音】

「(ねぇ兄、私たちも本当にいくらか出した方いいんじゃないの)」

 

【淳之介】

「(だが、灰谷さんに恥をかかせるのも気が引けるからそれはちょっとな……。くそっ、あのブラックホールめ)」

 

【文乃】

「せめて、帰りのフェリー代だけでも。わたしたちに支払わせていただけませんか、灰谷様」

 

【佳風流】

「だーいじょぶだって! これでも灰谷家はお金あるからさ! そう心配しなくても本当に大丈夫!」

 

【橘家】

「…………」

 

【佳風流】

「さてと、もうちょっとでフェリーの時間だから、そろそろ港の方に行こっか」

 

【淳之介】

「お見送りします」

 

【麻沙音】

「食後に少し歩きたいと思っていたので、私たちも一緒に」

 

【佳風流】

「うん、ありがとね」

 

【???】

「――……ん? おや……? もしかして、先輩ですか?」

 

【淳之介】

「……え? その声はもしかして……桐香か?」

 

【桐香】

「はい、こんばんは先輩♡ そして麻沙音さんに、真の正妻である文乃さんも」

 

【麻沙音】

「れ、冷泉院しゃん!? ど、どうしてこんなところに!?」

 

【文乃】

「…………」

 

【佳風流】

「(……『冷泉院』? どこかで……)」

 

【桐香】

「ちょうど仕事終わりでここに。SHOの代表ともなると、接待やら付き合いが多いものですから」

 

【淳之介】

「SHOのトップだからな。大変そうだよ」

 

【桐香】

「ふふっ……でも、こうして先輩と文乃さんが夫婦仲睦まじく愛し合っている様子を見せていただけるだけで……元気になっちゃう♡」

 

【淳之介】

「灰谷さんがいる状況でいつもの感じ出されるの困るなぁ……」

 

【文乃】

「桐香さんは本当に……まったく、変わらないのですね」

 

【桐香】

「灰谷……? ……もしかして、そちらの方が?」

 

【佳風流】

「初めまして。灰谷佳風流といいます。さっき、なんとかの代表とか……」

 

【桐香】

「自己紹介が遅れました。SHO代表の冷泉院桐香と申します。せんぱ……橘家の皆さんとはどのようなご関係で?」

 

【佳風流】

「……えっと、お偉いさんのようだけど、淳之介くんたちのお友達なのかな? ぼくはただの親戚の者ですよ」

 

【桐香】

「親戚…………そうですか。それで、青藍島へお越しになった、といったところでしょうか。遠いところからお越しいただきありがとうございます。島のトップとしては、大変嬉しいことです」

 

【淳之介】

「桐香、すまんが灰谷さんはそろそろフェリーで本島に帰られるんだ。再会したばかりで悪いが」

 

【桐香】

「あら、そうでしたか。お急ぎの中、足を止めてしまい申し訳ありませんでした。道中お気をつけて」

 

【佳風流】

「いえいえ、お気になさらず。そちらも、夜道にお気をつけて」

 

【桐香】

「はい、ではこの辺で失礼します…………あ」

 

【淳之介】

「ん? どうした?」

 

【桐香】

「…………最後に、1つだけお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

【佳風流】

「……なにかな」

 

【桐香】

「灰谷さんの声、なぜ麻沙音さんと」

 

【橘兄妹】

「「またその話か!!!!」」

 

【桐香】

「え? ……あの、先輩?」

 

【淳之介】

「てめぇいい加減にしろよ!! 触れたくない話題に何度も触れやがって!! もしなんかあったらどう責任とるんだこのひとりじゃ何もできない5歳児ちゃんが!」

 

【文乃】

「桐香さん、あなたという人はこれだから……くどくど……むべむべ……」

 

【5歳児ちゃん】

「はい、はい……ごめんなさい……で、でもなんで……? 今回私何もしてないと思うんですけど……?」

 

【麻沙音】

「冷泉院さん、おいたわしや……」

 

【佳風流】

「…………偉い人なんだよね?」

 

 

 

★場所:青藍島 港

 

 

 

【佳風流】

「――……それじゃあ、見送りありがとう」

 

【淳之介】

「今日はお越しいただいて本当にありがとうございました」

 

【麻沙音】

「また遊びにきてください」

 

【文乃】

「いつの日かまたお会いできることを心より願ってやみません……」

 

【佳風流】

「こちらこそ。今日は会えてよかったよ」

 

【淳之介】

「……手に持ってるのは、お土産ですか?」

 

【佳風流】

「うん。仲のいい友人がいてね、彼らに渡そうかなと」

 

【麻沙音】

「して、そのお土産とは?」

 

【佳風流】

「裸胸」

 

【文乃】

「らむね……」

 

【佳風流】

「いろいろ気にはなるけど。しゅわしゅわで爽やかなお菓子のようだから、なんか美味しそうだなと思って」

 

【麻沙音】

「個人的にもおすすめのやつです」

 

【淳之介】

「本島の人はこれ見たらどんな反応するんだろうな」

 

【佳風流】

「……あっ、時間だ。それじゃあ、またね」

 

【淳之介】

「はい。またいつか」

 

●SE:フェリーの汽笛音

 

【文乃】

「…………行ってしまわれましたね」

 

【麻沙音】

「なーに、そのうちまた会えるって」

 

【淳之介】

「俺たちの結婚式に顔出すって言ってたから、また会えるよ」

 

【文乃】

「し、式……!!」

 

【淳之介】

「日取りも何も決めてないのにな」

 

【文乃】

「~~~! い、今ここでお話にならずともよろしいのではありませんか――!?」

 

【淳之介】

「ははっ、俺の嫁さんはかわいいなぁ」

 

【文乃】

「………もうっ! 淳之介さん!」

 

【麻沙音】

「おーい私の存在忘れるなよ色ボケ夫婦」

 

 

 

■翌日

★場所:橘家

 

 

 

【麻沙音】

「兄ぃ~! 数年ぶりにペットボトルに出そうとしたら大惨事になっちゃったよ~!」

 

【淳之介】

「お前そろそろ外に捨てていい?」

 

【麻沙音】

「や~だ~! 捨~て~な~い~で~!!」

 

【文乃】

「……淳之介さん」

 

【淳之介】

「どうした文乃」

 

【文乃】

「こちらが……床に落ちておりました」

 

【淳之介】

「……シール?」

 

【麻沙音】

「これって……」

 

【文乃】

「おそらく……灰谷様の持ち物かと」

 

【淳之介】

「……ああ」

 

【麻沙音】

「灰谷さんからのいつもの手紙に……あったね」

 

【淳之介】

「それにしてもこのシール、一体なんのプリントなんだろうな」

 

【文乃】

「さて……」

 

【麻沙音】

「……兄。このシールを見てるとね、ひとつ思い浮かべるものがあるんだよね」

 

【淳之介】

「? なにそれ」

 

【麻沙音】

「――……私たちにとっての()()といえば?」

 

【淳之介】

「……同時に言ってみよう。せーのっ」

 

【橘兄妹】

「「『畔美岬』」」

 

【文乃】

「――……本日も、橘家は平和にございますね」

 

 

 

 

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