★場所:SS寮
【郁子】
「おふたりに相談があります」
【桐香】
「なになに? 超絶オモロギャグの話? 私ちょうど車椅子だからそれを使った芸でもしようかしら?」
【郁子】
「そんな危ないことしちゃめーでしょ。あと古い」
【礼】
「どうしたんだ郁子、何かあったのか?」
【郁子】
「うん。SS――というか、一番隊のことでね」
【礼】
「一番隊?」
【郁子】
「ほら、トーカちゃん今ケガで仕事できないから、あたしが会長代理を務めてるでしょ? おまけにふたりの寮生活の面倒も見ないとだし、結構多忙なんだよね」
【桐香】
「迷惑かけるわね」
【礼】
「じゃあ郁子はいま一番隊を離れている状態なんだな」
【郁子】
「そ。だから現状、一番隊には指揮をとる人間がいないの。このままあの子たちを放置するのはちょっとまずいから、なんらかの策を三人で話し合いたいなーって」
【礼】
「そっか。郁子がいないから一番隊隊長は実質空席なのか……それはよくないな」
【郁子】
「会長代理業務、ふたりの子守り、これらに加えて一番隊の訓練はさすがのあたしでも厳しいからね。時間的な意味で」
【桐香】
「きゃっきゃ」
【礼】
「私の面倒まで子守り扱いするな」
【郁子】
「この前一番隊の子に廊下で会ってね、いまどんな訓練してるのか軽く聞いたんだけど、なんかゴリちゃんが先導してるらしいんだよね」
【礼】
「森松か……不安しかないな」
【桐香】
「それでなんの訓練をしているのかしら」
【郁子】
「全員で丸太の素振りだって。19時間ノンストップでやってたとか」
【礼】
「それはなんの訓練なんだ……? というかよく死人出ないな」
【桐香】
「彼〇島みたいね」
【郁子】
「あ、死人といえば」
【礼】
「『死人といえば』なんて振りあるのか」
【郁子】
「たしかノロマンちゃんが死にかけてるんだったかな。現在療養中だって」
【礼】
「太田部は体細いからなぁ……」
【郁子】
「その一方でクールフールちゃんは『振れば振るほど頭が良くなるのを感じます』って言いながら今も現在進行形で素振りしてるとか」
【桐香】
「枢木さんのことは私でもいまだによく分からないのよね」
【礼】
「とにかく、隊長不在だと問題があるということはわかった。と言っても郁子以外で指揮をとれる人間がいるとも思えないんだよな……」
【郁子】
「そこであたしから提案なんだけど……レイちゃんに面倒見てもらえないかなって」
【礼】
「……は!? 私か!?」
【桐香】
「たしかに礼なら安心ね。大隊長だからきっと礼の言うことなら聞くだろうし」
【郁子】
「そうそう。レイちゃんのカリスマならその点大丈夫かなと思って」
【礼】
「いやいやいやいや! ちょっと待て! 私ケガ人だし、そもそも受験勉強で忙しいんだぞ! そんなことしてる暇あるわけないだろ!」
【郁子】
「よく言うよ。受験生のくせによくゲームしてるじゃん。今日だってそうでしょ」
【礼】
「あ、あれは勉強の息抜きというか……休憩も大事だから必要なことだし……」
【郁子】
「ちなみに今日は何時間ゲームやってたの?」
【礼】
「えっと……まだ6時間しかやってないぞ」
【郁子】
「しか?」
【桐香】
「感覚が麻痺してるのかしら」
【郁子】
「ヒナミちゃんが勉強教えてくれてるんでしょ? 報いるためにもちゃんと勉強しなさい」
【礼】
「はぁい……」
【桐香】
「やる気のない浪人生みたいね」
【郁子】
「で、そのゲームしてる時間をこっちに回してくれない? って話。ゲームよりよっぽど息抜きになると思うんですケド」
【礼】
「そう言われてもな……。一番隊のことはよくわからないぞ、私」
【郁子】
「別に難しくないよ。やることはあの子たちが変なことしないか注意するくらいだし」
【桐香】
「訓練メニューは郁子のほうで大方決めているのよね?」
【郁子】
「うん。それに従うよう声をかけてくれればいいの。別に体張る必要はないし。受験勉強の合間、たまにでいいからさ」
【礼】
「うーん……そうだなぁ……」
【郁子】
「…………」
【桐香】
「…………」
【礼】
「…………」
【郁子】
「…………」
【郁子】
「まさかと思うけどゲームと天秤にかけてるわけじゃないよね?」
【礼】
「…………」
【礼】
「ははっまさか」
【郁子】
「今の間は何?」
【桐香】
「あまりにもゲームに比重を置いているようならヒナミさんに注意してもらったほうがいいかもしれないわね」
【礼】
「うわああああぁぁ~~ん!! ごめんなさいいいぃぃ~~!! ちゃんと勉強しますからああああぁぁ~~……!!」
【郁子】
「完全に小学生のそれ」
【桐香】
「ところで現時点で志望校の判定はどうなの? この前模試あったわよね?」
【礼】
「…………」
【郁子】
「…………」
【桐香】
「…………」
【礼】
「…………(本人のプライバシー保護のため非表示)判定です」
【郁子】
「…………」
【桐香】
「…………」
【桐香】
「…………この時期にそれは危ないわね」
【郁子】
「冗談抜きでヒナミちゃんがかわいそうになってきた」
【桐香】
「こうなると礼に一番隊を任せるのはやめておいた方がいいわ。すべての時間を勉強に回さないといけないぐらい深刻よ」
【郁子】
「うん、やっぱそうする。あとレイちゃん、ゲームは没収ね」
【礼】
「…………」
【郁子】
「そんな恨みがましい顔してもダメなものはダメです」
【桐香】
「ヒナミさんの家に置いてもらうようお願いしてみましょう」
◆
【郁子】
「んーー……それにしても困ったねぇ。他に誰かいないかな」
【桐香】
「3年生はもう引退の時期だし……2年生の中に適任はいないかしら」
【郁子】
「正直いないんだよねー。強いて挙げるならランちゃんぐらいかな? ぜんぜん頼りないけど」
【礼】
「そんなこと言ってやるな……たしかに頼りないが」
【桐香】
「蘭さんは礼に代わって大隊長と風紀委員長を務めているのでしょう? 忙しいようだから、いずれにしても無理だと思うわ」
【郁子】
「やっぱりそうだよねぇ……」
【礼】
「1年生だが伊波はどうだ? 少し荷が重いかもしれないが、面倒見もいいし人望もある。あくまで指揮をとるだけなら悪くないんじゃないか?」
【郁子】
「それはあたしも思ったけど、イナミちゃんにはちょっと厳しいかなーと思ってる」
【礼】
「? なんでだ?」
【郁子】
「イナミちゃんって常識人でしょ? あのおバカちゃんたちに振り回される未来しか見えないんだよね」
【礼】
「あー……」
【桐香】
「スス子さんはコミュニケーションが上手だけれど、一番隊の皆さんが相手となるとそもそもコミュニケーションが難しいのよね」
【礼】
「そういう意味では郁子はよくまとめあげたなと思うよ」
【郁子】
「でしょ? 最初の頃は本当に大変だったんだからね? だからもっと褒めて褒めて♪」
【礼】
「調子に乗るな!」
【郁子】
「あだっ! ……いた~い! レイちゃんが豚~!」
【桐香】
「郁子、礼は美岬さんじゃないのよ。人の心ないの?」
【郁子】
「トーカちゃんに言われたくないんですケド。……ごめんね、レイちゃん?」
【礼】
「謝る相手を見直せ」
【桐香】
「しかしスス子さんでも不可となると……SSから人材を出すのは厳しいかもしれないわね」
【礼】
「……と言いますと?」
【桐香】
「奈々瀬さんとかどうかしら♪」
【郁子】
「なるほど! 強いし、頭良いし、会話上手だし、なにより水乃月きっての人望の持ち主! あたしの次に適任なくらいだね!」
【礼】
「桐香様、SSでない人間にSSの仕事をさせるわけにはいかないでしょう。交流があるからといって公私混同しないでください」
【桐香】
「ふふっ、冗談よ。さすがにそんなことしたら大問題になっちゃうわ」
【礼】
「それに片桐は母親適性が強すぎるので隊員全員の精神が幼児化する危険性があります」
【桐香】
「それはヒナミさんじゃないかしら」
【礼】
「よ、幼児じゃありませんけどぉ!」
【桐香】
「そっちじゃないわ」
【郁子】
「ま、どっちにしてもナナセちゃんにあの子たちの面倒を見させるのはかわいそうだから普通に却下だね」
【桐香】
「それで、あまり気は進まないのだけれど……たとえばSHOに依頼するというのはどうかしら」
【郁子】
「あーそっか。特殊戦闘部の人に訓練の指揮をお願いするって手もあるね」
【郁子】
「……でも、ちょっとなぁ……」
【礼】
「私は反対です。元々あそこの上層部に対しては懐疑的でしたし、正直に言って信用できません」
【郁子】
「うん……あの人たち、仕事に精力的じゃないというか……そもそも依頼しても拒否しそうだし」
【桐香】
「……そうね。B世界のこともあったものね」
【礼】
「まぁ、仙波さんはまだマシだと思いますけど」
【郁子】
「コーキちゃんはダメ、絶対。訓練がただのサバゲーになっちゃうから」
【桐香】
「そもそもこの前の件で名誉理事長になって二度と拳銃にさわらせてもらえなくなったんじゃなかったかしら」
【郁子】
「というか銃や性慰物でオナニーするようなクソバカだよ? あんな頭がま〇こみたいなマヌケに一番隊の子たちを合わせたらロクなことないでしょ。あたしは断固反対だからね」
【桐香】
「嫌悪感がすごいわね」
【礼】
「郁子……一応上司なんだからそういうことは言うんじゃない。気持ちは分かるが」
【郁子】
「……はぁ~、思いついたのいろいろ挙げたけど誰もいないねー……」
【礼】
「なぁ、やっぱり郁子が指揮をとるのが一番なんじゃないか? 一番隊は郁子が育てたようなものなんだから、親のお前が面倒を見るのがベストだろ」
【郁子】
「それができたら苦労しないの。会長業務がもっと楽だったらいいんだけどねぇ……。空いた時間で一番隊の訓練にいけるし」
【桐香】
「…………」
【桐香】
「…………ひとつ、考えがあるのだけれど」
【郁子】
「なに? 考えって」
【桐香】
「……会長代理を、別の人に任せるのはどうかしら」
【郁子】
「…………」
【礼】
「…………」
【郁子】
「……え、なに言ってるのトーカちゃん? あたしクビなの?」
【礼】
「たしかにそれなら郁子は本来の一番隊業務に戻れますけど……今度は会長代理が問題になるでしょう」
【郁子】
「そうだよ。トーカちゃんたちが入院した後その辺り諸々話し合って、会長代理はイクしか適任がいないって結論になったんでしょ。振り出しに戻るだけじゃん」
【桐香】
「いいえ。よく考えたらもうひとりいたのよ。――――会長代理を任せられる人が」
【礼】
「え……他に誰かいましたか? 郁子以外でそんな人材が……」
【郁子】
「……もしかして」
【桐香】
「ええ――――
【郁子】
「……やっぱりね。たしかに、イクにしては珍しく見落としてたよ」
【礼】
「……? 桐香様、なぜ伊波が」
【桐香】
「礼も気づいているでしょう。スス子さんにもあるのよ――人を先導する才能が」
【礼】
「…………」
【郁子】
「B世界でさ、SHOに奪われたSSのみんなを糾合して、あたしたちの元に連れて来てくれたでしょ。そう簡単にできることじゃないよ」
【桐香】
「仕事も大変優秀で、いろんな方のお話を聞いて回ったりと、人の上に立つ人間がすべきことを自然とこなしている。本人は自覚がないようだけれど」
【桐香】
「……生徒会長に最も必要なのは”信頼”。彼女にはそれが十分ある」
【桐香】
「つまり……とても適正があるってことよ」
【礼】
「……そういえば淳之介も『大衆を引っ張っていくのはスス子みたいなタイプかもしれません』って言ってたのを覚えています」
【礼】
「たしかに……伊波なら会長代理を任せられるかもしれません」
【郁子】
「そーいうこと。ま、イクほど仕事ができるとは思えないケド」
【礼】
「そりゃお前は中隊長だからな……比べるのはどうなんだ」
【桐香】
「あとで私のほうからスス子さん本人に聞いてみるわ。……おそらく彼女なら快諾してくれると思うけど」
【郁子】
「だね。……じゃあ、あたしは一番隊に戻っていいってことだよね?」
【桐香】
「ええ。もちろんよ」
【礼】
「だが伊波も会長業務は不慣れだろうからな。空いた時間に仕事のこと教えてやれよ」
【郁子】
「おっけー。会長補佐みたいなものでしょ? それなら任せて♪」
【桐香】
「私たちの生活補佐も引き続きお願いね♡」
【郁子】
「トーカちゃんの場合は介護でしょ。元からだけど」
【礼】
「すまないな。……しかし、いずれにしても郁子の仕事量は変わらなさそうだな」
【郁子】
「全然平気。イクちゃん最強だから」
【桐香】
「一時はどうなるかと思ったけれど、これでなんとかなりそうね」
【郁子】
「うん! ふたりとも……ありがとね!」
【礼】
「気にするな。私はもうほとんど引退の身だからな。相談事ならいつでも構わないさ」
【桐香】
「ええ。私も車椅子で何もできないのだから、このくらいはお安い御用よ」
【郁子】
「……とにかくこれで問題解決だね。よかったぁ……」
【桐香】
「懸念事項は私が完治したとき会長の席があるかどうかね」
【礼】
「桐香様が戻っても伊波を続行でいいだろうと言い出す輩がもしかしたらいるかもしれませんからね」
【桐香】
「先輩だけでなく会長職までスス子さんに奪られるなんて……濡れちゃう♡」
【郁子】
「その時は一番隊で面倒見てあげるから心配しないで♪」
【桐香】
「じゃあそのまま郁子から隊長の座を奪ってしまおうかしら♡」
【郁子】
「へぇ……だったらここで――――
【礼】
「車椅子相手に刀を抜くな」
【桐香】
「礼……その松葉杖、借りるわね」
【礼】
「どうして桐香様もノリノリなんですか」
【郁子】
「…………」
【桐香】
「…………」
【礼】
「…………ふっ」
【SSビッグスリー】
「「「あはははははは!!!」」」
◆◆◆
【淳之介】
「いちゃこらいちゃこら」
【スス子】
「いちゃこらちゅっちゅ」
【SS隊員A】
「あの人……那賀さんが会長代理になってから生徒会室に頻繁に出入りしているんですよ……」
【SS隊員B】
「たしか中隊長はあの男と仲良いんですよね? このままだと仕事に支障をきたすので……なんとかしていただけませんか?」
【郁子】
「別の問題が発生しちゃったよこれ」