★場所:水乃月学園 生徒会室
【郁子】
「……うぅ~……!」
【礼】
「? さっきから何を唸っているんだ郁子、トイレか?」
【郁子】
「違うよ! ほんっと、ダーリン並にデリカシーがないんだからレイちゃんは!」
【桐香】
「人の心が――」
【礼】
「桐香様よりはあります」
【桐香】
「…………むぅ」
【礼】
「で、本当にどうしたんだお前は」
【郁子】
「聞いてよ~……イクの中の人がね、イクの誕生日を忘れてた……」
【桐香・礼】
「「………………」」
【桐香】
「え、そんなことで拗ねてたの? 郁子もまだまだ子どもね」
【郁子】
「来月のトーカちゃんの誕生日祝ってあげないからね」
【桐香】
「ひどい……」
【礼】
「そういえばちょうど一ヶ月後だったな……それはともかく、そんなこと言ってても仕方ないだろう。だいたいこの前SSとNLNSのみんなでお祝いパーティーやったじゃないか」
【桐香】
「そうよ郁子。わけのわからない理由で機嫌を悪くされても困るわ」
【郁子】
「…………」
【郁子】
「ま、それもそうだね。みんなが祝ってくれたし別にいっか。ごめんね、ふたりとも」
【桐香】
「気にしなくていいわ。それより来月ちゃんと私の誕生日祝ってね? じゃないと泣いちゃう♡」
【郁子】
「もちろん! でもせっかくだから余興で面白いマジック披露してね♪」
【礼】
「主賓に余興を求めることあるか?」
●SE:ドアノック+ドアが開く音
【スス子】
「さーっす! 失礼しま……って先輩ら、何を言い合ってんすか?」
【郁子】
「ううん、たいしたことじゃないよ。トーカちゃんが来月誕生日だから祝えってうるさくて」
【礼】
「嘘だろお前」
【桐香】
「それよりどうなされたのですかスス子さん。報告か何か?」
【スス子】
「あ、はいそうだった。えっとその……ビッグスリーのお三方にちょっと相談したいことがありまして」
【礼】
「なんだ、何かあったか?」
【スス子】
「実は……来週おこなう模擬戦闘訓練にて、少々問題が発生しましたっす」
【郁子】
「それって後進育成のためにイクたち3人とA等部2・3年生を除いた、SSの大規模な戦闘訓練のこと?」
【スス子】
「はい、それでさっき5番隊のみなさんと話してたんすけど、どうやらスス以外の5番隊は全員欠席するらしいんすよ」
【礼】
「何――!? 伊波以外の5番隊全員が当日欠席だと!?」
【スス子】
「えぇ、なにやらいろいろ事情があるようで……」
【桐香】
「それは困りましたね……。そうなるとオペレーターが足りなくなってしまいます」
【礼】
「元々は敵との本格的な戦闘を想定したもので紅白に分かれてやるつもりだったからな……伊波ひとりじゃどうにもならないぞ」
【郁子】
「うん、だから最低でもあともうひとりはオペレーターがいないと訓練にならないね」
【桐香】
「ちなみに訓練を別日程に変更するのは不可能よ。スケジュールの問題があるもの」
【礼】
「ですが桐香様。中止というわけにも……」
【スス子】
「あーえっと、一応対策はあるにはあるんすよ。実現可能性は置いといて……」
【郁子】
「対策?」
【礼】
「気になる言い方だが……とりあえず、聞かせてくれるか」
【スス子】
「ほら、いるじゃないすか。ススたちの元怨敵――NLNSに凄腕のオペレーターが」
【礼】
「えっ……まさか――!」
【桐香】
「――……麻沙音さん、ですか」
【スス子】
「そっす。アーサーちゃんに不足してるオペレーターの代役として訓練に参加してもらうのはどうかなー……と思いまして」
【礼】
「いやいや、まずいだろ! 部外者を関わらせるのはさすがに……!」
【郁子】
「それにアサネちゃんがOKしてくれるとも思わないしね。イクもちょっとどうかと思うよ?」
【桐香】
「しかし麻沙音さんに代わる程の人材を今から確保するのが困難であることも確かよ、ふたりとも。私はアリと思うわ」
【礼】
「まぁ、それは……たしかにそうですね」
【郁子】
「あのくせ者揃いのNLNSをひとりで見事に指揮できてるわけだからね。たしかに腕前で言えば唯一無二といってもいいくらいかも」
【スス子】
「なので、アーサーちゃんを一日だけお借りしたいなー……とは思ってるんすけど」
【礼】
「何か懸念事項でもあるのか?」
【スス子】
「いや、ほらアーサーちゃんって……かなりのコミュ障じゃないっすか。そう考えると首を縦に振ってくれる気がしないんすよねぇ……」
【郁子】
「ネックはそこだよね。お願いして来てくれる可能性……相当低いんじゃないかな?」
【スス子】
「というわけなので、アーサーちゃんを説得する方法をパイセン方といっしょに考えたく参上仕った次第でごぜぇやす」
【桐香】
「なるほど、そういう話だったんですね」
【礼】
「わかった。どうにかして引き受けてもらわないと訓練が中止になりそうだからな。橘妹の承諾を得るため――今から作戦会議をしよう」
【郁子】
「だったらいっそのことSSに入隊してもらうよう交渉する? ドスケベ免除とか、それなりに優遇する形にしてさ」
【礼】
「それは無理だ。そんなんでSSに入るようだったら、そもそもNLNSと事を構えることもなかっただろう」
【桐香】
「いずれにしろ、先輩たちを差し置いて裏切るような真似はしないでしょうね」
【礼】
「えぇ、なので報酬のバイト代をかなり高額にするとか……手っ取り早いのはそれぐらいかと」
【桐香】
「もちろんいらしてくれるのであれば、それなりにはずむつもりではあるけど……」
【郁子】
「交渉の材料にするのは厳しそうかなぁ。アサネちゃんってお金に釣られそうな感じじゃないし」
【桐香】
「聞いた話では、亡くなったご両親の遺産でエロゲーを買い漁るぐらいにはお金に無頓着なそうよ。郁子の言うとおり、お金を引き合いに出すのは厳しいと思うわ」
【礼】
「なんですかそのトンデモエピソードは」
【スス子】
「そこまで拗らせてたのかあの引きこもりは……」
【桐香】
「となると、麻沙音さんのなにか好きなもので釣……交渉するしかないわね」
【スス子】
「いま『釣る』って言いかけたぞこの会長」
【礼】
「橘妹が好きなものと言ったら……まぁ、その、なんだ。”ギャルビッチ”か」
【郁子】
「じゃあナナセちゃんだね。彼女のほうからアサネちゃんにお願いするよう頼んでみよっか?」
【桐香】
「いいえ、身内の力を借りるというのはあまり筋が通らないわ。こちらから何かを差し出さないと」
【スス子】
「あ、だったらクー子先輩がアーサーちゃんにお願いするってのはどうすか? 色仕掛けかなんかして!」
【郁子】
「あたしギャルビッチじゃないんですケド」
【礼】
「でも橘妹の中では片桐の次に郁子がお気に入りらしい。悪くないと思うぞ」
【郁子】
「2番目の女」
【スス子】
「そっすよ! 思いっきりハグしてほっぺにチューでもしたあと耳元で『お願い……SSの訓練、参加して……? してくれたら……お兄ちゃんと3Pしてア・ゲ・ル……♡』とか!」
【郁子】
「淳之介くん巻き込んでるじゃん」
【桐香】
「いい作戦だとは思うけれど……果たして上手くいくかしら」
【礼】
「え、いけると思いますけど。『郁子ビッチ化計画』」
【郁子】
「計画名とやること乖離してない?」
【スス子】
「そっすよ、クー子パイセンってある意味元々ビッチみたいなものじゃないっすか」
【郁子】
「なにもフォローになってないんだよ?」
【桐香】
「だってほら、麻沙音さんって童貞のような性格でしょう? 郁子が篭絡しようとしても、そもそも会話にならないんじゃないかしら」
【礼】
「あー……たしかに、口説きにかかっても興奮してあたふたするだけ……かもしれませんね」
【スス子】
「情景が目に浮かぶっすね……」
【郁子】
「そーいうこと。アサネちゃんにイクはちょっと刺激が強いだろうからね。そこそこ水を空けてトーカちゃんも”良い”って言ってたから、トーカちゃんがやったら?」
【礼】
「それは駄目だ。あくまで”水を空けて”であって、本来は桐香様を怖がっている。逆効果にしかならないだろう」
【郁子】
「そっか。じゃあトーカちゃんには無理だね」
【桐香】
「私だって麻沙音さんとはもっと仲良くなりたいのよ? でもなぜか避けられてるのよね……どうしてかしら」
【礼】
「そういえば伊波に関してもなんか言ってたらしいぞ。なんだっけ……ノリノリでコスプレしてくれそうな感じはアリ、みたいな」
【スス子】
「え、ススも対象に入ってるんすか……?」
【礼】
「ちなみに私についてはとくに何も……なんか寂しいな」
【郁子】
「言っとくけどこれ別に誰がアサネちゃんを誘惑するかって話じゃないからね?」
【礼】
「おっと、そうだった。……とにかく、別の方法を考えないと」
【桐香】
「ねぇ、麻沙音さんの好きなものでもうひとつ思い出したのだけれど……たしか礼と同じ、ゲームと特撮好きだったわよね」
【スス子】
「あ、それ聞いたことあるっす。ゲームは知らないっすけど、特撮についてはなんか戦隊モノに出てくる女キャラがどちゃくそシコいとか言ってたので」
【礼】
「さすがは橘妹って感じだな……」
【郁子】
「へぇー、だったらレイちゃんのお気に入りのDVDとか貸してあげたら? 『訓練に来てくれたら私のおすすめを一式、すべて貸してやろう』って!」
【礼】
「えー……いま一話から全部観直してるからやだぁー……」
【郁子】
「おい受験生」
【桐香】
「いっそのことプレゼントのほうがいいかもしれないわね。そうすれば礼も勉強に専念するし、麻沙音さんも喜んでくれるでしょうから。一石二鳥ね」
【礼】
「人の心どうこうでなくただの鬼です」
【スス子】
「そういや教官殿ってアーサーちゃんと同じゲーム持ってるんすよね? それを使った駆け引き――もとい、交渉はできないんすか?」
【礼】
「…………」
【スス子】
「……あれ? なんすかその険しい顔は……」
【礼】
「詳しくは言えないが……ひとつ言えるのは――その件に関して私は一切関知しない、ということだ。以降その話は二度と口にするな、いいな?」
【スス子】
「え、怖っ……あたしの知らんところでなにかあったのか……?」
【郁子】
「となると、アサネちゃんと共通の趣味を持つレイちゃんでもどうにもできないってことか。思ったより難しいねぇ、この問題……」
【桐香】
「…………ひとつ、思ったのですが」
【桐香】
「――……
【礼】
「……は?」
【スス子】
「あの……すんません、どういうことっすか?」
【郁子】
「オペレーターの代役としてアサネちゃんに来てほしいって話でしょ? なんのことを言ってるの?」
【桐香】
「……この問題の本質を、私たちは見誤っていた――ということよ」
【礼】
「……と言いますと?」
【桐香】
「肝要なのは、”オペレーターの代役をどうするのか”ではなく、
【郁子】
「まぁそれはそうかもしれないけど、だから何……――あっ! そういうことか!」
【礼】
「え、なんだ? 私は何も分かってないんだが」
【スス子】
「恥ずかしながらススもまったく……」
【郁子】
「いい? 元々SSを2分割した紅白戦で模擬戦闘をするって話だったでしょ? で、そうするとオペレーターが足りなくなる」
【郁子】
「だったら――分割しなければいいんだよ。だよね、トーカちゃん?」
【桐香】
「えぇ。その代わりに、”敵の代役”を用意すればいいんです」
【スス子】
「……それって、まさか――」
【桐香】
「はい。
【礼】
「――――! そうか! それなら橘妹も仲間といっしょだから、尻込みすることなく訓練に参加してくれる! それにNLNSのみんなならこの申し出をきっと断らないはず!」
【礼】
「なにより……我々はNLNSに何度も辛酸を舐めさせられてきた――! だから、訓練そのもののモチベーションにも直結する! さすがは桐香様、ナイスアイディアです!」
【スス子】
「……あのー……」
【郁子】
「それだけじゃないよ。訓練のついでにリベンジを果たせる――”最高”の機会になるんだよ。……まぁ、イクたちは不参加だから口惜しいけど」
【桐香】
「だったらもうSSビッグスリー以外のSS全員を参加させましょう。つまり、ほとんど総員で迎え撃つ……これならNLNSにだって勝てるかもしれないわ」
【スス子】
「話が変わってきてない……?」
【礼】
「いいですね! これなら……奴らの泣きっ面を拝めるかもしれない! 後輩たちだってNLNSを倒せれば、より自信がつく――! 完璧な体制ですよ!」
【桐香】
「さっそくNLNSの皆さんに交渉してくるわ。とても大掛かりになるので、報酬のバイト代もふんだんに用意しておきましょう」
【郁子】
「六人分だからちょっと経費がキツいけど……でも、ダーリンたちをボコれるなら断然安い! いやぁテンション上がってきたぁーー!」
【スス子】
「あのー、パイセン方? これはリベンジとかでなく、あくまで訓練であって、それだと主旨が――」
【SSビッグスリー】
「打倒、NLNS!! 悲願成就の刻、来たれり――――!!」
【スス子】
「…………あたしはもう、知らねっすよー……」
◆◆◆
【淳之介】
「行くぞ――……エンゲージ!」
【麻沙音】
「――敵性器を捕捉。4時の方向より数61、11時の方向より数87。武器はすべてハンドガン。このまま迎撃可能」
【奈々瀬】
「これでも喰らいなさい! ――――はっ!」
【ヒナミ】
「チェアー……シールドォ――!」
【文乃】
「勝負の分水嶺、我が一撃にあり――――乾坤一擲、いざ!」
【美岬】
「はっはっはーー! 無免許運転マンだぁあああああああ!」
【SS隊員A】
「こ、こいつら……とんでもなく強い――――!」
【SS隊員B】
「誰か助けて!」
【スス子】
「ちょ、ちょっと落ち着くっすよ皆さぁーーん!!」
【桐香】
「…………」
【礼】
「…………」
【郁子】
「…………」
【桐香】
「……全然訓練になってないわね」
【礼】
「よく考えたら
【郁子】
「もうあの六人がおかしいだけだと思う」
【スス子】
「もぉーー!! だから言ったじゃないっすかぁああああーー!!」