「二人はペンネームとか名乗るつもりはない?」
トレーニングの無い休日にドーベル、フラッシュ、マックイーンの三人で集まって作業していると、突然ドーベルがそんな事を言い出した。
「何を突然」
二人が口を揃えてそういうと、ドーベルは少し寂しそうな顔を見せる。
「こうやって手伝ってもらっているのに、一人だけで描いてるって思われるのも……」
確かに。アシスタント代もいくらか貰っているが、漫画家としての功名はドーベルが『どぼめじろう』として独り占めしているような状態である。
ドーベルとしても後ろめたい気持ちがあろう。二人もアシスタントとしてメガドボに籍を置いていれば、それも晴れるというものか。
「……そういう事なら、私はそのまま『エイシンフラッシュ』で公表してもらって構いませんが」
「それだとどぼめじろう先生ともう一人のアシスタントがトレセン学園の生徒とバラしているようなものよ」
三人は顔を見合わせた。ドーベルとしては他人にはドーベルが少女漫画を描いている事を公にしたくない。マックイーンとしても、トレーナーやメジロの家族に足がつかないお金をこんなところで調達しているなんて知られるわけにはいかない。買い食いが出来なくなる。
「……ドーベルに倣うなら、わたくしのペンネームは『まくめじろう』?」
「それだと“めじろう”の部分がメジロをもじったものだって分かるから無し」
ドーベルが速攻で却下した。フラッシュもそれに頷く。
マックイーンは創作活動のペンネームなど今まで考えた事も無かった。どこぞのラジオにお葉書を投稿したこそあれど……。
「ドーベルと同じように、メジロから離れたペンネーム……出来れば、男性的な……あぁ、それなら」
マックイーンは一つ思いついたようにして冗談めかしながらぽつりと呟く。それがドーベルやフラッシュに採用されて、微妙な顔をしたのは言うまでもないが。
「……ウマ娘ですらない」
「完全に男性の名前ですね」
しかしマックイーンとドーベルにとってそれは好都合だ。マックイーンのペンネームは決まったのである。
次にエイシンフラッシュだ。彼女は二人の事情を理解したからか、特に深く考える事もなくペンネームを決めたようだ。
「
「ろんじん?」
「『花溢れ小川流れる野原』の意です。少女漫画のアシスタントとしては、相応しい名前でしょう?」
…………どぼめじろうと遠藤はお互いに顔を見合わせた。なんだ、なんだこの差は……。
かくして、三人のペンネームが決まったわけである。
メガドボのサイトに彼女達のペンネームを書き込み、アシスタントとして協力してもらっている事を付け加えた……。
ちょっとした事態が起きたのは、表記してしばらくの事である。
どぼめじろう先生のファンの一部が、男性同士が一つの部屋でアナログ原稿を描いていると解釈して、言動から彼らの容姿をイメージし、キャラクター付けも設定し、その上で恋愛状態で絡ませる漫画がごく少数ながら流行り始めた。いわゆる『薔薇』というヤツである。
そして、抗争が起きた。『カップリング論争』だ。
『時代は「どぼ×遠藤」だ』
『いや、「LON×どぼ」でしょう』
『「遠藤×LON」!!!!』
ネット上の事で困った事があったら、いつも親切にしてくれるアリスデジタルは今回ばかりは耳を塞いでいる様子である。その手の話題が苦手らしい。
三人とも耳も目も、塞ぎたくなった。普段使いのアカウントでも、その手の絵がたまに流れてくる程度には流行ってるのがいかんとも……。
「……ドーベル。ペンネーム変えたら?」
「考えとく…………」
ドーベルが『トルポめぐろ』としてひっそり活動するようになったのは、ここだけの話。
おまけ:この前の遊園地の……
フラッシュ「ちなみにこの前の遊園地でメジロマックイーンとメジロドーベルの逢瀬もネット上にあがってます。カップルストローを頼んでる場面、一緒に絶叫マシーンに乗っている場面。ドーベルさんがマックイーンさんを背負ってる場面。二人っきりで観覧車に乗ってる場面」
マックイーン「……め、メジロの家族だからある程度は親密なのも致し方なしという事には……」
フラッシュ「はたからは“百合”というジャンルらしいです。世間では」
ドーベル「………………」
二人は二正面攻撃に頭を抱えるしかなかった。
七話の依頼者
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テイエムオペラオー
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スイープトウショウ