「自分より遅いものを武器にするって馬鹿げてませんか?」   作:もっと苦しめたい

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二人目の先輩

季節は春を過ぎ、南風が吹き込んで夏となった。あちらこちらでは暑い日差しを浴びながら若者が夏を満喫しており、その賑やかさはこの国の治安の良さをよく表している。

 

そしてそんな真っ昼間のショッピングモール近くの広場で僕が何をしているかと言うと。

 

「あちゃ~お金尽きちゃった。どうしようかなぁ」

 

 ホームレス突入の危機に陥っていた。

 

 別に初めからお金がなかったわけじゃない。事前にしばらくの間は住む場所には困らない程度には持ってきていた。ただ、問題があったとすれば、久しぶりの故郷の味が予想以上においしかったことだ。特に和菓子がまずかった。味がまずかったのではない。むしろ美味しかった。美味しすぎたのだ。後先考えずに高級和菓子を一気買いし続けたのが本当にまずかった。なんだかややこしいな。

 

「昨日で全財産使い切ったし、このままじゃ今晩は公園で寝ることになるなぁ」

 

 日本に帰って来て一週間経つが、中々もう一人の先輩が見つからないでいる。早く見つけて衣食住を提供してもらわないといけないというのに。

 

「本当にこんなところにいるのかなぁ、先輩」

 

 もらった情報が確かなら、今日何かおもしろいことをやるそうだが。出来ることなら、実行前に合流しておきたかった。先輩がそう簡単に死ぬとは思えないが、この国は何かきな臭い。

 

 ここ数年続いている平和。他の国ではテロの一つや二つは起きているというのに、この国ではそれが一回も起きていない。その清潔さ。気持ち悪さ。

 

「あれ?」

 

 そんな時だった。ふと動かした視界に見慣れた赤と白の少女がいた。

 

「あ、千束先輩だ。何やってるんだろ?」

 

 この前見た和服姿じゃない。イメージカラーの赤を主体とした服装だ。何やら待ち合わせをしている様子。少しそのまま見ていると、そこにたきなさんがやって来た。中々に着心地が楽そうなシャツとズボンだ。結構いいセンスだな、と思った。

 

 そのまま見ていると、千束先輩はたきなさんに何やらいい笑顔をし始めた。ここからでは流石に何を話しているかよく聞こえない。『衣装じゃねえ』とか言っているがどういうことだろう。しかし、たきなさんが背中に背負っている鞄、見てくれは普通そうだが、何か違和感を覚える。

 

「あ、行っちゃった」

 

 千束先輩がたきなさんの手を引く形で二人はどこかに行ってしまった。

 

「よし、ついてこ」

 

どうせ、このままここに居ても先輩と合流できるかは怪しい。それならあっちの方をもうちょっと知っておこう。

 

 

――――

 

 

 

「へえ、やっぱり持ってるんだ」

 

 あれから数時間、先輩たちを尾行し終え、もとの広場に戻ってきた。そして、確認できた。

 

 千束先輩はやっぱり例のチャームを持っていた。

 

 アラン・チルドレン。才能ある天才を無償で支援するアラン機関によってその才能を認められた証。

 

「でも、やっぱり変だよなぁ」

 

 水族館で会話をしていた二人の様子を観察してみて分かったこと。

 

「内容までは分からなかったけど、たきなさんにチャームを見せた時のあの感じ……」

 

 背負っているギターケースを後ろに手をまわして撫でる。

 

「もしかしたら僕とは前提が違うのかな?」

 

 例えば自分の才能に未だに気付いていないとか。いや、でもそんなことがあるだろうか。僕も渡された情報はあまり多くはないため、先輩たちについては詳しくない。もしかしたら、千束先輩にはただならぬ事情があって自分の才能を理解する機会に恵まれていないのかもしれない。

 

 しかし、それは考えづらい。そもそも才能とはそれを発揮できる場所に居なければ誰にも分からないものだ。陸上選手としての才能も、科学者としての才能も、『殺しの才能』でもだ。どの才能もその片鱗を見せるには、その才能を利用する瞬間がなければいけない。

 

 もし、千束先輩が自身の才能に気付く機会がないとすれば、それはその才能を利用する瞬間がなかったことを意味する。でも、それでは矛盾が生じる。

 

 まず、いくらアラン機関といえど、本人が一度も利用していない才能を発見するのは不可能ということ。

 

「千束先輩、あと、たきなさんもだけど、どう見ても銃器扱ってるんだよなぁ」

 

 二つ目がそれだ。

 

 歩き方や手の動き、そして何よりあの鞄。あれは銃を殺しで使っている人のそれだ。

 

 初めは千束先輩だけかと思っていたが、たきなさんもそうだとは思わなかった。若い殺し屋というのは見慣れていないわけではないが、日本で女子高校生ほどの年齢の殺し屋がいるとは想像もできなかった。

 

「う~ん、普通に銃器使うような状況に居たら気付くと思うけどなぁ」

 

 結局、千束先輩が具体的にどんな才能を持っているかも分からなかった。とても残念だ。体の動きをずっと観察していて分かったが、何か特定の武器に特化した才能ではない。もしそうなら、それにあった動きを無意識にしているものだ。唯一、使っていることが分かった銃器に関しても、どちらかと言うと、たきなさんのほうが上手そうだ。

 

 身体能力は非常に高そうではあるが、それもわざわざアランが注目するほどではなかった。せいぜい、その身軽さもあって素早く三次元的な身のこなしができる程度だ。

 

「ダメだなぁ。分かんないや」

 

 肝心のもう一人の先輩も見つからないため、これでは収穫なしだ。

 

「はあ」

 

 ため息をつきながら肩を落とす。

 

「仕方ない。ホームレスの炊き出しの場所、確認しよ」

 

 そう言いながら、広場を後にしようと歩き出したその時だった。

 

「あれ?」

 

  少し離れたところにある地下鉄の出入り口。駅のホームへと続く階段へと向かう黒のコートと緑のアフロヘアの男がいた。

 

「あはは、見つけた」

 

 とりあえず、今晩は公園で寝る必要はなさそうだ。

 

 

――――

 

 

 

「やっべ」

 

 完全に嵌められた。銃を千丁用意し、この地下鉄で初めの一手を打とうとした。そこまでは良かった。けれど、ここに来て致命的なずれが起きた。

 

 今、目の前には俺と部下が機関銃の一斉掃射をしたことで窓が割れてズタボロとなった車両とその中からこちらに拳銃を撃ってくる謎の女子高校生のガキどもがいた。

 

 部下の一人が額に弾丸を撃ち込まれ倒れたのを皮切りに、今度はガキどもがこちらを一斉に撃ってくる。

 

「っははッ、痛っつ」

 

 慌ててホームの柱の裏に逃げ込むが、その間に部下は次々と撃たれていき、俺も腕に一発もらった。

 

 これで理解できた。このガキどもがこの国のアンバランスの正体、嘘のかたまりだと。それが分かっただけでも今回は十分だ。

 

 急いで懐からスイッチを取り出す。やるべきことと敵の存在がつかめた以上、ここで死ぬわけにはいかない。まだ生かせる可能性のある部下を見捨てるのは心苦しいが、何事も生きてこそのものだ。

 

 鳴り響く銃声ととともに左側からこちらに近づいてくる足音を聞き、俺は腕を大きく上げてその手の中にあるスイッチを押そうとした。

 

 

「あ、すみません。ちょっといいですか?」

 

 

 瞬間、まるで銃声が何十にも重なったような地面が粉砕される音が聞こえた。

 

「あ?」

 

 先ほどまで鳴っていた銃声が今度は一斉に止まった。粉砕された音が聞こえた方向を見ると、そこには先程までこちらに回り込もうとしていた足音の主であろうガキ二人と青みがかかった黒髪のガキがいた。

 

「おいおい………」

 

 その光景に目を疑った。何故なら、黒髪のガキはその両手に柄も刀身もすべてが黒一色で塗りつぶされた日本刀を握り、振り下ろした状態でいたからだ。その下には拳銃の銃口にあたる部分が斜めに斬られた状態で二つ落ちており、斬られた拳銃を持って唖然としているガキ二人がいた。ったく、いったい、どこの時代劇かっつーの。俺はタイムスリップでもしたのか?

 

 そんなことを呑気に考えていると、刀を持ってるガキは優しくもこの場には似合わない薄気味悪い笑みを浮かべたまま、列車の車両のほうと傍にいるガキ二人を交互に見ながら、口を開いた。

 

「取り込み中のところでいきなり失礼なんですが、実は僕、この人に用がありまして。申し訳ないんですが、ここはいったん止めにしてくれませんか?お互いのために」

 

 いや、そんなこと言って止めてくれるような連中じゃねえだろ。んなの俺でも分かるぞ。

 

 だが、俺がそんなことを思ってるのなんて知らないまま、刀を持ったガキは笑顔を浮かべたまま。というか、こいつ、どこから現れた?さっきまでこんなガキの音はまるで聞こえなかった。

 

「二人とも離れて!」

 

 車両の方から別のガキの声が聞こえたかと思えば、傍にいたガキ二人はすぐに慌てた様子で刀を持ったガキから離れる。するとすぐに車両の方から拳銃を構える音が聞こえてきた。また、あの一斉掃射が始める。

 

 おいおい、勘弁してくれよ。

 

 俺も慌てて、すぐにスイッチを握りしめ、今度はすぐに目の前のホームの外側の線路に逃げ込めるように体勢を立て直した。

 

「はあ、仕方ないなぁ」

 

 周りの慌てようとは打って変わって、落ち着いた、もっと言うと呑気な様子の刀を持ったガキがそう呟くと同時に、また地面を粉砕する重音が響き渡り、ガキの姿()()()()()

 

「は?どこいったあのガ」

 

 ガキ、言い切ろうとした時、先ほど叫んだ仲間から言われてその場を離れようとホーム上を走っていたガキ二人の頭部が宙を舞った。

 

「ヒッ………」

「ハハ、マジか!」

 

 それを見て血の気が引き青い顔色になったガキの一人の悲鳴を皮切りに、今度はガキどもに対する蹂躙が始まった。

 

「い、いや…!」

 

 車両にいたガキどもが次々とその体から血を噴き出して倒れていく。車両の中からは時節、先ほどの重音が響き、それとともに黒い刀の残像が見える。

 

 右から左へと動いていく重音と悲鳴の数々。

 

 ガキどもの何人かはもはや動揺を抑えきれずに、仲間に当たる可能性があるにも拘らず迫ってくる重音に向けてがむしゃらに銃弾を撃ち込む。

 

 しかし、それが重音の主に当たることはなく、数回ほど空間にキインと金属音と共に火花を散らすだけで終わった。

 

「オイオイ!あのガキ銃弾叩き切ったのか!?ハハ、そういうのは映画だけじゃねえか!?」

 

 しばらくすると、銃声も悲鳴も重音も火花を伴う金属音も、その全てが鳴り止んだ。

 

 

 

「いや〜、しっかし驚いたなぁ。女子高校生の殺し屋集団なんて。多分、先輩たちが銃器の扱いに慣れてたのはそういうことだよなぁ」

 

 さながら地獄絵図と化した車両の中からは、刀を持ったガキが一人、傷を負うことなく、初めと変わらず気味の悪い優しげで穏やかな笑顔を浮かべたまま出てきた。その刀には中にいたガキどもを全員斬ってきた証に血がべっとりと付着していた。

 

「あ、先輩、怪我はありませんか?」

 

 起きていた虐殺を柱の方から顔だけ出して見ていた俺に、ガキはそう声を掛けた。

 

「あ、ああ。わざわざありがとな。普通に助かったわ」

 

 どう考えても、戦っても勝ち目はないうえ、逃げれそうにない。相手に殺意も感じられず、こっちに友好的なので立ち上がってホームの中央に行き、会話に応じる。

 

「ふう、良かった良かった。せっかく先輩に会うためにここまで頑張ってきたのに、死なれちゃ無駄骨ですから」

 

 そう言って、ガキはずっとヘラヘラと笑いっぱなしだ。俺が言えることではないが、大量に人斬った後にこんな平常運転でいられるあたり、コイツ頭のネジ飛んでるな。

 

 だが、そんな事よりも気になることがある。このガキは俺に会うためにここに来たと言った。そして、先ほどから言う先輩というワード。

 

「あー………、さっきから気になるんだが、その先輩ってなんだ?」

「あれ、そっか、先輩とは初対面だったか」

 

 そう言うと、刀を持ったガキは空いている手を懐に突っ込み、そこから見覚えのあるチャームを取り出した。それは梟を模した黄金のチャーム、才能の証。

 

「おいおい、そんなのありかよ」

 

 口元が吊り上がって、笑いが腹に収まらない。

 

「それで?何が望みだ?」

「強いて言うなら、衣食住を提供してくれれば。もしよかったら先輩のお手伝いもいくらかタダでしますよ?」

「いいぜ。お前みたいなのがいないと、あいつらとはバランスが取れそうにないしな」

 

 目の前のガキと一緒に車両のない線路に降りて、トンネルの闇の中へと歩き出す。

 

「そういや、お前、名前はなんて言うんだ?俺は真島だ。よろしくな」

「梓愛です。梓が名字で、愛が名前です。殺し屋をやってるので殺してほしい相手がいたら、先輩ボーナスで割引してあげますよ」

「ハハッ、そりゃ嬉しい」

「依頼があれば、大統領でも総理大臣でも天皇でも即日斬るので」

「おう………マジか………」

 

 

 テロリストが言えたことじゃないが、サラッとその発言が出るのはちょっと引くわ。 

 

 

「そういえば今更聞くが、お前、どうして俺なんかに会いに来た?」

「色々あって、先輩のことを知りましてね。興味が湧いたので来ちゃいました」

「そりゃまた随分なこった」

「あはは、ここに来るまでのお土産に和菓子たくさん買ってきたんで、後で食べません?」

「お、サンキュ」

「珈琲豆もあるので、一緒にどうぞ」

「ワリ、苦いの無理なんだわ」

「あらら、それは残念」

 

 何故だろうな、不思議と会話が弾む。波長が合うとでもいうのか。

 

「そんじゃ、最後はきれいにお片付けだ」

 

 地下鉄のトンネルをしばらく歩いた後、持っていたスイッチを押す。すると、後ろから瓦礫が落ちる轟音がトンネル内を反響する。

 

「あれ?気になったんですけど、部下はいいんですか?()()()()()終わりですけど、置いてったうえに、今確実に死にましたけど」

「ああ、いい。全員もう心音が()()()()()()()。死体を運ぶのもキツいしな」

 

そう言うと、初めて()()の表情に変化が起きた。僅かに目を細めていた。

 

「ああ、なるほど、それが先輩の『才能』ですか」

「そういうお前のは、さっきのあれか?」

「ええ、まあ、丈夫な体とほんの小手先の技です。気にしなくていいですよ」

「いや、気にするわ。お前あれか?マッハ20で動くタコの親戚か?それともアメコミヒーロー映画の速い男の」

「?」

「ああ、分かんねえか。んじゃ、いいわ。今度見せる」

「すみません。あんまりそういうの見ないので」

「へえ、じゃあ、普段何やってんだよ?」

「刀をずっと振ってます。あと、走ったり。最近はやってませんが、結構前は、山の麓から頂上まで一気に走って登ったりしてました」

「お前ホントに人間か?」

「失礼だなぁ。先輩も今度一緒にどうです?ヒマラヤの頂上は絶景ですよ」

「いや普通に死ぬわ」

 

 今日二度目のドン引きだわ。

 

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