夢見た者、夢を捨てた者   作:鞍馬エル

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出来たなら 投下しようぞ 恐れずに


 はじまりはじまり

 マギ・ヴァル大陸

 

 

(いにしえ)には魔物達が跋扈し、それを統べる魔王がいたとされている

 

だが、当時の人間達は『聖石』と呼ばれる力のある石を持ちて、魔王『フォデス』を封じ、魔物達もまた魔王が封じられた事により何処へと去った

 

その後、『聖石』は各地にて厳重に保管され、いつしか『聖石』が国の象徴となっていった

 

 

 

 

 

そんなマギ・ヴァル大陸のとある国

 

 

 

 

 

 

 

 

けっ

 

どうしたよ?相変わらず不満そうな(ツラ)しやがって

 

・・・うるせぇよ

 

 

此処は砂漠の国とも呼ばれているジャハナ王国

その王都にある酒場だった

 

 

不機嫌さを隠そうともしない精悍な顔つきの男とどちらかと言えば書庫で本を漁っていそうな線の細い男が同じテーブルで酒を片手に話をしていた

 

 

 

お前は、どう思ってやがんだよ?

 

どう、とは?

 

 

精悍な男は問いを投げかけるも、話し相手の男は些か要領を得なかった

 

というよりも、突拍子もない問いかけであったとも言える

 

 

 

俺はこんな所で一生を終えるつもりはねぇ!

もっと大きくなれるはずだ!

 

あのなぁ

 

 

男の話の内容が理解できたのか、相手をしている男はため息をつく

 

 

 

だったら、王国付きの剣士隊にでも志願すりゃあ良いだろうよ

お前の腕なら、カーライルほどじゃないにせよそれなりの立場になれるだろうに

 

 

彼は傭兵でありながら、こと力比べにおいては目の前の男はおろか、大陸全土の傭兵(同業者)と比しても明らかに劣る事を自覚している。だが、目の前の男はそうではない。寧ろ大陸全土を見渡しても比肩しうる者は『砂漠の虎』の異名を持つジストくらいだと彼は思っていた

 

であればこそ、ジャハナ王国の精鋭揃いの剣士隊に入隊したとしても、男の出世は間違いないとも確信している

とはいえ、女王に心酔している近衛長カーライルに勝てるとは毛ほどにも思っていなかったりもするのだが

 

 

 

 

はっ、こんな砂漠のど真ん中にある国の剣士隊で出世したところでたかが知れてるだろ?

俺はもっと大きくなりたいんだよ!

 

ってもなぁ。ならジストみたく傭兵団でも作ろうってか?

あんまり勧める気にはならねぇけど

 

 

傭兵団と言えば聞こえは良いかも知れないが、大陸にいる傭兵団の殆どはならず者の集まりであり、ただの無法者集団でしかない

そもそも、傭兵というのは明日も知れぬ身であり、そうであるからこそ刹那的な生き方を選ぶ者が非常に多い

 

 

先程から名前のあがっている『ジスト傭兵団』はそんなならず者が多い中において、異質といえる存在である

 

 

団長であるジストは『砂漠の虎』との異名を持つジャハナ出身の傭兵であり、高い実力と見識を持つ稀有な人物である

 

団員であるマリカ

彼女は傭兵としては珍しい事に女性でありながら、『緋閃』の異名を持つ剣士だ。団長であるジストに従っており、実力の高い傭兵に見られる傍若無人な振る舞いとは縁の無い女傑といえよう

 

その2人を支えるのは踊り子であるテティス。彼女は戦闘能力こそ低いが高い交渉能力と踊り子としての力量を持つ

ジスト傭兵団が崩壊しない要因の一つに間違いなく彼女の力量があると言って過言ではない

 

以前はもう少し団員がいたそうだが、現在確認しているところテティスの弟とやらを含めての4人体制

 

それでありながら、有名である事からも彼等の実力が本物である事がうかがえよう

 

 

 

 

 

はっ!俺が傭兵団なんてモンに拘ると思ってやがんのかよ?

 

だよなぁ

 

 

 

 

 

 

なぁ、クレムト

俺は王になりたいんだ

 

王か。それまたとんでもないところを目指してやがるな、ケセルダよ

 

 

精悍な男ケセルダの思いを聞いた優男クレムトは心底呆れたような声を出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その僅か数年後、大陸南部の国家である『グラド帝国』は大陸中央部に存在する『ルネス王国』に軍事侵攻。突然の侵攻により、高い練度と連携を有していたルネス側は各地で敗退を重ね、遂には王都をグラド軍に占拠される

 

しかしながら、勇王として知られるルネス国王ファードこそ討ち取ったもののファードの子供である双子の兄エフラムと妹エイリークにその護衛達の捕捉に失敗する事になった

 

 

 

 

だが、このグラドによるルネス攻略によりグラド帝国はグラド軍の編成を改める

グラド三騎、『黒曜石のデュッセル』『蛍石のセレイナ』『日長石のグレン』から新たに『月長石のヴァルター』『血碧石のアーヴ』『虎目石のケセルダ』を加えたグラド六将としたのである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その報は大陸全土を駆け巡る事となり

 

 

 

 

 

 

グラドの将軍って、ケセルダの奴マジかよ

 

ととある傭兵を驚かせる事になる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラド帝国はさらに兵を北へと進め、ルネス王国と友好関係にあり『聖石』を保有している大陸北西部にあるフレリア王国へと攻め寄せる事となる

 

無論、友邦であるルネスを滅ぼされた事を知ったフレリアの国王ヘイデンは速やかに国境の守りを固め、グラド侵攻に備えた

 

 

騎兵と竜騎兵を主力とするグラドに対し、天馬騎兵と弓兵に重装歩兵を基幹とするフレリア

 

機動力においては、グラドが優位であったが防衛戦という一点において守勢となったフレリアの守りは堅牢と言ってよかった

だが、この時フレリアは知らなかった

 

 

グラド軍主力がグラド三騎より、グラド六将へと変化した事の重要性を

 

 

 

 

フレリア側はルネス王女エイリークと近衛騎士ゼトと騎士フランツを迎え、グラド本国に侵攻する事でグラド軍の足を鈍らせようと奮闘していたエフラム王子とその騎士達を救援した

 

 

それは薄氷の上の勝利であったが、それでもフレリアそしてエイリークはそれを掴み取った

 

 

 

ところが、その戦果を労っている最中にフレリアの『聖石』を守護していた『ヴェルニの塔』がグラド軍将『虎目石のケセルダ』配下の軍勢により陥落、聖石を破壊されてしまう

元より防御に意識を割いていたフレリアであったが、グラドの主力はグラド三騎である『黒曜石のデュッセル』『蛍石のセライナ』が騎兵を中核とした部隊編成であり、残りの『日長石のグレン』が束ねるは竜騎兵団であった事が塔の防衛を担当していたフレリア側の意識を其方に向けてしまうことにつながった

 

天を駆ける竜騎兵団は遠方からより視認出来る。騎兵団であれば、速度こそ出るがある程度整っている所で無ければその機動力を大きく損ねてしまう

今回塔の襲撃にあたり、グラド軍はグラド六将のうち『蛍石のセライナ』と『虎目石のケセルダ』の二将を動員しており、セライナ麾下の騎兵団はフレリア側の注意を引きつける為の囮として機能していた

 

ケセルダ麾下の傭兵を中核とした歩兵団は騎兵が踏破しづらい所を敢えて選ぶ事により、奇襲となる

 

フレリアの主力は天馬騎士団と重装兵に弓兵団であり、天馬騎士団はセライナ麾下の魔道兵と交戦。重装兵と弓兵団もまた『グラド三騎』率いる軍勢に注意を払わねばならなかった

 

そこにケセルダ麾下の歩兵団がヴェルニの塔防衛の為に最低限残していた部隊に襲いかかる

重装兵は機動性に欠け、弓兵団は練度が高くない為に乱戦となると誤射を恐れて無力化。天馬騎士達はセライナ麾下の魔道兵に牽制され、更に軍団長であるセライナの魔法攻撃の前に手一杯という有様

 

 

そもそも、ヴェルニの塔はフレリア領内でも中心部に位置しており、グラド軍との交戦まで想定されていなかった

練度の高い部隊は、フレリア王子ヒーニアスに率いられ国境付近でのグラド軍対応に回されるか、王都守備に配置されている

 

無論、グラドの狙いが『聖石』である事が最初から分かっていたならばヴェルニの塔の守備もそれ相応に堅められていただろうが、その時点でのグラドの目的は判明しておらず、あくまでも『ルネス王国への攻撃』

と『生き残りのエフラム王子、エイリーク王女に注意を向けている』といったことしか分かっていなかった

その為、ヴェルニの塔守備隊は言い方は悪くなるが『準主力』レベルの兵しか配していなかったのである

 

 

 

ルネス王女エイリークの軍に加わったグラドのシスターナターシャとグラド軍にいた傭兵ヨシュアの話と今回のヴェルニの塔におけるグラド軍の動きなどから、グラドの目的は聖石の破壊であると判断

 

ルネス王女エイリークは大陸東部にある『ロストン聖教国』、『ジャハナ王国』にグラドの危険性を知らせるべく行動する事を決定

ルネス王子エフラムはグラド軍の攻勢に対して守勢に回っているだけでは危険と判断し、一軍を率いフレリアより南下。グラド皇帝ヴィガルドを討ち果たすべくグラド本国への逆侵攻を企図した

 

フレリア国王ヘイデンは友邦のエフラムとエイリークの判断に賛意を見せ、フレリア軍の動員を決定

此処にルネス・フレリア連合軍とグラド帝国軍という形がなったのである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちっ!

 

 

グラド軍将『虎目石のケセルダ』は自軍の本陣にて舌打ちをする

新参であるケセルダとアーヴにヴァルター

 

しかし、ヴァルターは元々グラドの将であり、『日長石グレン』と確執があるとはいえその配下は多い

 

アーヴは魔道の使い手であり、『蛍石』と同じ様に見えなくもないが策略を好んでおり、残忍とも言える方法を嬉々として行える

その為か、配下にもかなりの危険思想を持つ人物が集まっていた

 

 

対してケセルダは傭兵上がりの人物であり、そうでありながらグラド軍将にまで出世した

当然彼の元にはケセルダの様に立身出世をしようとする傭兵達が集う事になり、それがケセルダの軍団の中核を成していると言っても良いだろう

グラド正規兵もいるが、やはりと言うべきか『傭兵上がり』のケセルダに従う事を良しとしていない事は明白

 

故に傭兵を主力として運用しているのだが、どいつもこいつも野心があり過ぎて油断も隙もない連中ばかりときた

 

ケセルダと既知の間柄の傭兵も何人かいるにはいるが、ケセルダはグラド六将が一人

現在はジャハナ王国攻略を命じられている以上、彼の軍団もそれ相応の規模となっており軍団の掌握出来るほどの数には到底足りていなかった

 

 

現在は破竹の快進撃を続けているグラド軍である。それ故に勝ち馬に乗ろうとする傭兵は多い

だが、ひとたび旗色が悪くなれば、あっさりと裏切るのもまた傭兵

 

 

ケセルダが力量と人柄に信を置いている傭兵はごく僅かであり、グラド軍に参陣している者は傭兵時代からの付き合いであるアイアスのみ

 

 

ケセルダとしては、クレムトが自身の補佐をしてくれるならば心強かったのだが、グラド六将となってからクレムトに誘いの話を持っていこうとしてもクレムトの行方は全く知れなかった

 

一人の傭兵としての実力で言えば、クレムトはケセルダやヨシュア、ジスト達に到底及ばない

だが、『戦場を観る』という一点においてならば、傭兵クレムトは破格の能力を有する事を友人であるケセルダは良く知っている

であればこそ、今のケセルダにとってさらに飛躍する為にもクレムトの力は欲しかった

 

 

 

 

傭兵クレムトは『闇刃のクレムト』と呼ばれている

 

この者の真髄は部隊を率いさせる事や前線で武を振るう事ではない

戦場を観せる事により、的確な判断が出来、それを躊躇なく進言することこそが彼の強さ

 

ともすれば、策略や暗殺などと言った謀略も提示出来、実際彼が参加した戦いにおいて劣勢を覆した事は一度や二度ではない

更に調略なども積極的に進言する事から使うべき者が使えばとんでもない切れ味を誇る魔剣となりえた

 

ケセルダはそんな友人の実力を嫌と言うほどに理解しているからこそ、味方に引き入れるべきだと思っているし、アイアスも同意している

 

更に言えば、育成能力も高く多くの傭兵を育てた実績もある

 

 

 

加えない理由はなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなクレムトであったが、彼は今とある港町にいた

 

 

 

というのも、依頼を受けたからだ

 

 

 

 

依頼者は「知り合いの娘がグラド軍に志願するから鍛えてほしい」

と言っていたが、依頼料は大した額ではなかった

 

 

だが、クレムトとしては暇であった事と態々グラドに志願する物好き(・・・)に興味があったので受ける事にした

 

 

 

 

 

はあっ、はあっ

 

どうした?戦場で息を切らすとか死にたいのか?

 

い、いえっ!

 

 

 

クレムトの指導を受けるアメリアは疲労困憊ながらに声を出した

 

 

(ううっ、どう言う事なの?)

 

アメリアは確かにグラド軍に志願する事を話した

それに周りがいい顔をしなかった事も

 

だが、まさか僅かな期間で『アメリアの教官役』を用意するなんて想像出来るはずもない

 

 

しかも、見た目では傭兵と分からない人物ともなれば戦場に出た事も見たことすら無いアメリアには想像すら出来なかった

 

 

 

 

傭兵クレムト

彼は魔道を操る傭兵であり、彼の友人であるケセルダや知人であるジスト達とは全くタイプの異なる傭兵だった

 

 

元は暗黒魔道士(シャーマン)であり、現在は亡霊戦士を召喚できるサマナーに昇格している

 

当然ながら高位の魔道職である為、魔力は高く並の傭兵であれば一撃で致命傷を与える事が出来るほど

更に囮として自身の召喚する亡霊戦士を利用する為、戦場においてかなりの脅威となる

かと言って、剣などの扱いが全く出来ないわけではなく実戦で使わないだけで新人の指導程度ならば十分な能力を持つ。というか、斬りかかるより魔法で戦った方が彼は強いので必要性がない

 

亡霊戦士は召喚者の能力が多少反映され、能力の高いサマナーの召喚する亡霊戦士はかなりの能力を持つ

 

 

 

亡霊戦士は術者のコントロールの影響をかなり受ける為に近接職の動きなどについて学んでいる

 

 

 

闇刃に戦場で会ったら逃げろ

と彼を良く知る傭兵達は口を揃えて言う

 

 

彼は斬首戦術を好み、敵の指揮官クラスを自分の亡霊戦士で仕留めたり寝返りの噂を流して敵軍を混乱させたりと自由にさせると大体ロクな事にならないからだ

 

特に傭兵というものは基本的に『前払い』は手付金であり、『成功報酬』という形で報酬を得ることが多い

従って契約者は殆どが組織の長や要職の人物である以上、闇刃の斬首戦術の標的(ターゲット)となる事が多くなる

 

つまり、彼の斬首戦術を許した場合高確率で報酬を支払うべき依頼者が始末されるのだ

丸損(タダ働き)確定である

 

 

戦場に出る以上、剣などの武器の損耗は勿論として傷薬などの治療薬の消耗も避けては通れない

傭兵となる者の殆どは戦士や剣士などであり、杖を扱える神職や高位の魔道士など居ないに等しい。いたとしても流石に新品の杖が買えるほどの依頼料を出す依頼人というのは稀

 

それら消耗品の補填などについても大体依頼料に含まれるのだが、そうであるが故に『戦闘後』の支払いとなる

 

下手をすれば、武器や傷薬などを使い切ったのに支払うべき依頼者が始末されている事もあるという事

 

 

洒落にもならない

 

 

ジストなどは闇刃と対峙する可能性を限りなく少なくする事でそう言った事態を未然に防いでいる

 

 

 

 

 

なお、同業者達にとって頭が痛いのはクレムトの依頼料があまり高く無い事だ

クレムトは闇魔法を扱う為に生命力吸収魔法であるリザイアが扱える

これは相手の生命力を自身のそれに加えるという外法であり、攻防一体の魔法とも言える

 

その為、下手をすればリザイアの魔導書と少しばかりの報酬で彼は依頼を受ける事もしばしばある

 

確かに剣や斧などに比べると魔導書は高価であり、リザイア程の魔導書となれば高額ともいえよう

だが、傷薬や特効薬に武器まで揃える事に比べるとかなり安いと言える為に『比較的安価で雇える傭兵』なのだ

 

リザイア自体の購入出来る場所は限られているが、使い手であるクレムトがそこを理解していないはずもなく現物支給しなくとも、購入費用を支払う事でどうにかなる。なってしまう

更に彼の使役する亡霊戦士は武器も一緒に召喚する為に実質無料

 

コストパフォーマンス的にも非常に優れているといえるのだ

 

 

 

 

だが、彼はそこまで贅沢をしない為か依頼を全て受ける事はなく、事実グラドによるルネス侵攻の際にはグラド側からの依頼を断っている

 

かと言ってルネスやフレリアに協力するでも、母国ジャハナに貢献する訳でもない

 

 

気分が乗らない

そんな理由で依頼を断る気分屋でもあるのが傭兵クレムトであった

 

 

 

 

 

今回のアメリアへの指導についても依頼料は僅か500ゴールドにも満たない額

 

それでも気分が乗ったから受けた

 

それだけなのだ

 

 

 

まぁ、アメリアからすれば災難という他ないのだが

 

 

 

 

 

 

 

彼はとりあえずアメリアの体力の底上げを徹底して行なった

足を止めた者から消えていく

 

それは戦場の掟だったから

 

 

その後、槍の扱い方についても一通り指導し、槍が不利となるあの相手の立ち回り方を文字通り『身体に叩き込んだ』

 

亡霊戦士は基本的に殺傷力の高い斧装備で喚び出す為に、斧での戦い方についてもクレムトは詳しい

 

 

確かにクレムトの腕力は低い

低いがそれは『上級職』基準であり、下級職にすら至っていないアメリアにとっては寧ろオーバーキルである(なお、クレムトの腕力は19であり、普通に戦えるレベルであったりする)

 

 

 

なお、本職は魔道士であるので遠距離攻撃に対する対策についてもしっかり叩き込んでいた

 

 

 

元々は物理に対して貧弱極まるクレムトであったので当然弓に対する警戒は人一倍

見習い騎士とでもいうレベルにすら至っていないアメリアにとっても弓や魔法は致命傷である為、その辺の回避技術については骨の髄まで(・・・・・)叩き込まねばならなかった

 

 

そして

 

 

 

て、てめぇら!しっかりしやがれ!

 

え、えーっと

 

ぼうっとするな、アメリア

とりあえず援護してやるから弓兵の間合いを潰してしまえ

 

 

グラド帝国によるルネス滅亡。それに続くフレリア侵攻などによりルネスやフレリアの正規軍により押さえつけられていた賊徒がその活動を活性化

グラド帝国の居ない時を狙って村々を襲う事態が常態化していた

 

 

そこで、クレムトはそいつらを利用して、アメリアの経験を積ませる事を考えたのである

所詮は目の前の小銭に目の眩んだ賊。戦術も何もあったものではない

 

とはいえ、流石に山賊複数人を一度に相手取らせるにはアメリアの力はまだ頼りない。なので、クレムトの名前で何人か傭兵を雇い入れ、山賊を分断。弓兵のみアメリアに相手をさせる事にした

 

幸いというか、山賊達にもそれなりに蓄えがあるらしくそれを依頼料とする事で傭兵達との交渉は終わっている

 

 

 

その結果、アメリアは未熟ながらに多少戦える様になった

 

 

 

 

 

 

 

という訳で、だ。アメリア、お前さんには戦場とかで使える手軽な調理法などを覚えてもらう

 

えっと、どういう事ですか?

 

お前さんが別にグラド帝国軍に入る入らないはどうでもいい

だが、末端の兵にまで食料が十全に行き渡るなんて事はないと言っていいだろう

となれば、お前さん自身がどうにかする他ない。末端の兵である以上、給金は少ないだろうし、ともすればマトモな寝床があるのかすらも怪しいもんだ

その辺の自衛も含めてしっかりしなきゃならん。そういう事だ

 

 

クレムトとてそれなりに経験豊富な傭兵

依頼によっては、母国ジャハナ以外の軍勢にも協力した事もある

そこで知ったのは、末端の兵の扱いの酷さ。傭兵であるクレムト達は戦闘時以外は拘束される謂れはないので、陣の近くにある宿屋などを利用する事も出来る

しかし、軍に所属する兵士はそうはいかない

給金とて決まった時期に給付されるし、戦闘ごとの支給金などありはしない

国によっては傷薬などの補給も給金の時に合わせて行なう所もあるくらいだ

 

使い過ぎた場合、傷薬などは自腹だし、食事についてもお粗末なものばかりで足らなければ自腹

それを知っているからこそ、アメリアにはしっかりと色々教えておかねばならないとクレムトは考えた

 

 

別に入れ込んでいるわけでは無いが、依頼として受けた以上はキチンと果たすべきだとクレムトは考える

 

 

 

わ、分かりました!頑張ります!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして少し時間が流れ

 

 

まぁ、色々と足りないとは思うがとりあえずマシにはなっただろうよ

 

あ、ありがとうございますっ!

 

 

クレムトはアメリアの実力もそれなりになったと判断、これ以上はアメリア自身の判断に委ねるべきだと依頼を終わらせる事とした

 

別にクレムトの蓄え的には何の問題もない。だが、一応クレムトは男であり、アメリアは年頃の娘である

これが傭兵のマリカやテティスであれば何の躊躇いもない

 

しかし、アメリアは村娘の様なものであり、加えて依頼対象である

余計な事をする訳にもいかないし、それ相応の扱いをせねばならなかった

 

軽鎧についてはクレムトが用意した

何せ右も左も分からないアメリアでは質の悪い粗悪品を無駄に高値で売りつけられかねない

戦場において生死を分けるのは武器や防具の質なのはいうまでも無い

ましてやまだアメリアは新兵レベルなのだ。多少なりともマシな防具を用意せねば早死にしかねないと見ている

 

とはいえ、グラド帝国は現在ルネスを制圧し、聞くところによるとフレリアの聖石を砕いたとかなんとか

となれば、残りの聖石保有国であるジャハナ、ロストンにも遠からず兵を向ける事は間違いなく、そこまで戦線を拡げるのであれば自然と商業自治集団であるカルチノも巻き込まれるだろう

つまり、大陸全土を焼き尽くす業火となる事は最早避けられない。国の象徴である聖石を破壊されたフレリア、国土を踏み荒らされ国王を討たれたルネス。この両者は元々友好関係にあった事と噂ではルネスの王女がフレリアに保護されているとも聞く

間違いなくグラド帝国に断固として抵抗するだろう

 

ジャハナは現在の女王である『白砂の女王』イシュメアは積極的な軍事行動について否定的であるが、さりとて自国であるジャハナに戦火を持ち込む事を許容するとは到底思えない

 

ロストンは教義的にも『魔王フォデス』や魔物達の跳梁跋扈を認めないだろうから、混乱の元であるグラド帝国に恐らくは警告を発しているだろう

グラド帝国はそれを受け入れるとは思えない以上、両国の関係は拗れるだろう事は明白

 

 

 

ただ気になるのは、大陸の護り石ともいわれているはずの聖石を躊躇いなく砕いた事

グラド帝国皇帝ウィガルドは暗君でも暴君でもなかったとクレムトは記憶している

それが何故突然豹変したかの様に此度の蛮行に至ったのか?

 

一介の傭兵なれど、この大陸に住まう者として多少なりとも興味がないとはいえなかったりする

 

 

 

アメリアが仮にグラド軍に加わったとなれば、まず間違いなく命はないだろう事は疑いの余地もない

 

 

 

 

 

・・・一応確認するが、本当にグラド軍に参加するつもりか?

 

え・・・

 

 

 

確かに現在グラド軍は破竹の勢いで侵攻している。だが明らかに大陸の他の国家全てを敵に回す所業だ。勝てるとしても容易ではない

しかも勝ったとしてもルネスでの例もある以上、マトモな統治など期待も出来まい

 

 

グラド軍に占領された旧ルネス王国領の荒廃は傭兵であるクレムトでも顔を顰める程のものらしい

山賊が跋扈し、民は困窮し、占領軍であるグラドの人間は好き勝手している、と

たとえグラド帝国が大陸全ての国家を滅ぼしたとしても、その統治能力には疑問が残る。下手をすれば民の怨嗟の声は今以上となり、反乱が勃発する可能性とてある

 

グラド六将のうち、グラド三騎と呼ばれていた者達は理性的であり、統治にも気をつかう者だ

だが、新たに加わった三名つまりヴァルター、アーヴ、ケセルダにその能力はない

いや、アーヴとケセルダはその気がなく、ヴァルターに至っては元々グラド軍に所属しておきながら住民虐殺の罪でグラド軍から放逐された過去があった

 

 

そして、この事態を引き起こした者は民衆などどうでも良かった

 

 

 

 

 

 

 

アカネイアで、ユグドラルで、エレブで

 

様々な想いが交差した事があり、それは時として数々の悲劇を生んだ

 

 

 

だが、超越者と云われる者達は踏みつけられる民衆など意にも介さない。そうであるからこそ、彼等は常に破れ去ってきたというのに

 

 

 

竜族の為の世の中を創ろうとした邪竜(モノ)がいた

逃げ出した大陸で闇の支配する世界を求めた邪竜(モノ)もいた

喪ったモノを取り戻そうとして、全てを歪めてしまった男がいた

ヒトに絶望し、竜族に世界を明け渡そうとした孤独な男がいた

孤独の中でヒカリ(明日)を望んだ孤独な()がいた

 

 

 

だが、彼等の瞳には民草は映っていなかった

 

 

 

 

 

群体である国家とて、個人という最小単位の集まりに過ぎず個人があって始めて集団が成り立つ

 

確かに一人一人の力など小さなモノであり、超越者からすれば取るに足らないモノ

超越者が腕を振るえば抵抗なくその命を散らすだろう

 

 

 

しかし、誰もが明日を望んでいる

 

より良い皆が生きていられる明日を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうであるからこそ、何れ超越者達はヒトによって倒される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリアはグラドの辺境の街に生まれた

 

決して裕福な暮らしとはいえないが、それでもアメリアは幸せだった

だが、グラド軍がルネスに侵攻した事でアメリアの周りも少なからぬ変化が起きる

 

近所に住む気の良いお兄さんやおじさん達が兵士として動員され、少しずつしかし確実に活気は失われていった

 

 

アメリアは知らない事であるが、ルネス滅亡後フレリアに侵攻するグラド軍に対してルネス王子エフラムは要所である水城レンバールを攻略する事によりグラド軍の侵攻を遅らせようとした

 

レンバールはグラド六将が一人、『月長石のヴァルター』の副官であるティラードが守護しており『内通者』によりルネスの王族の生き残りであるエフラムとエフラム救援に向かっていたルネス王女エイリークを仕留めようとしていたのである

 

 

当然ながら、レンバール城付近や城内の護りの為にかなりの兵をつぎこんでおり、レンバールが落城した事によりグラド軍はレンバール方面へと新しく兵を差し向けなくてはならなくなっていた

 

だが、如何に軍事力の高いグラド軍であっても、広大な面積を持つ旧ルネス領全域とフレリアとの国境、更にフレリア侵攻軍まで編成するとなると兵士数が足りなかった

そこで兵士としての従軍経験のある者や、身体能力に優れる者を兵士としての徴用する事にした訳である

 

結果、グラド国内の男衆が動員される事となる。それはグラド国内に暗い影を落とす事になるのだが、為政者として実績のあるグラド帝国皇帝ウィガルドは何故かそれを止めようとしなかった

 

 

 

アメリアは戦地に向かう彼等を見て、祖国のために戦おうとしたのだった

 

 

 

 

ところが、自身の指導をしてくれているあの人はグラド軍への参加を好ましく思っていない様である

聞けば経験豊富な傭兵であり、傭兵の中でも名前を知られているそうだ

 

アメリアの訓練の際、稀にあの人は傭兵を呼ぶ事があった

そこでアメリアはその傭兵に聞いてみたのだ

 

 

嬢ちゃんは運がいい。クレムトの奴が言うことを聞いてれば悪い事にはならねぇよ

 

どうも話によると、あの人は『時勢を読む事』に長けているらしく負けるとしても最小限の被害で終わらせられるそうだ

 

多分だけど私みたいに色々と準備してから軍に入る人は少ないんだと思う

近所のおじさん達にしても、以前軍にいたと聞いたことがある人達が徴兵?されたみたい

 

 

 

経験もなく、実力も未知数な小娘をたとえ志願兵だとしても平気で運用しようとする組織なぞロクな所じゃないだろう

 

とはあの人の言葉

 

 

確かに私は別に他の人より動けるとか、知識があるとかではない

 

 

 

どうしたらいいんだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、あのお嬢ちゃんはそれでもグラド軍に志願した

 

あのバカ(ケセルダ)にせよ、嬢ちゃんにせよ物好きだと俺は思う

 

 

別にグラドが滅ぼうとも大きくなろうとも、生き死にには関係ないだろうに

依頼はこなした

 

なら、後はあの嬢ちゃんのしたい様にすれば良いだろう

 

 

 

死も生も平等に訪れるのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレムトの教えを受けたアメリアはその後グラド軍に志願し、フレリアの支援を受けたルネス王女エイリークの軍勢と対峙する

 

しかし、エイリークによる説得と師ともいえるクレムトの警告からエイリーク王女に降伏、王女の軍に加わる

 

 

 

それが後に彼女にとっての悲劇となるのだが、この時アメリアには予想出来るはずもなかった




多分読者はいないと思うし、割と2次創作ではシリーズとしてはマイナーだと思わなくもないけど短編だから許してほしい
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