夢見た者、夢を捨てた者   作:鞍馬エル

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目指す未来は同じであっても、そこに至る道のり(手段)が異なる事はよくある事

聖石を守らんとするエイリーク達。だが、決して彼女達は一枚岩ではなかったのだ




 対峙

グラド六将が1人『虎目石』のケセルダの実質的な副将であるアイアスは見慣れた光景に目眩と共にある種の懐かしさすら感じていた

 

 

敵はルネス王女エイリークとその協力者達。フレリアの王子と王女などが加わっているとしても、戦力においても物量においても明らかにこちら側が優勢

しかも自分率いる本隊は可能な限り損耗を控える戦い方をしている

 

となれば、苦戦すらする事なく敵を捩じ伏せられる

そう考えていた

 

 

だが

 

 

…まさか、闇刃を味方につけていたとはっ!

アイアスは内心驚愕し、そして焦る。これはアイアスからすれば想定していた中でも最悪の事態だ

グラドの正規軍相手に互角以上に渡り合える亡霊戦士を使役するサマナーなどクレムト以外にアイアスは知らない

 

元々闇魔法を操る者は然程に多くない上に、その殆どの者が何かしら人格面に問題を抱えている。精神を喰らいつつ、敵をも喰らう魔法

それが闇魔法とされているのだから

余程の才覚に恵まれた者や優れた指導者に育てられたならば話は別であろうが、アイアスの知る限りでは、その様な傑物は見た事がない

 

 

そして何よりも小隊規模で敵に当たらせていると言うのに、的確に小隊長(指揮能力を持つ者)を優先して殺して回るそのやり方は闇刃クレムトのそれ

 

となれば、どれだけ数がいたとしても厳しい戦いとなる

そうなれば最悪の場合、動揺するグラド正規兵達はそのまま討ち倒されているだろうから

 

 

ケセルダめ、キチンと声をかけておけば良いものを!

アイアスは自身の上司となった男の不手際を内心罵倒する

 

 

ケセルダは野心溢れる人物であるが、そのケセルダと良好な関係にあるクレムトは寧ろ野心家とは真逆の人物

暇を好み、書を愛し、血生臭い生活を良しとしない

無論やるべき時は自分やケセルダすら顔を引き攣らせる様に徹底的にやる

 

 

後から文句をつけられるのは面倒だ

皆殺しにする他ねぇだろうが

 

 

そう笑って実行出来るのが闇刃と畏怖されるクレムトなのだ

賊であろうが、貴族の反乱だろうが、民衆の反乱だろうが同じ傭兵だろうが

その全てに平等に死を届ける

 

それが奴なのだから

 

 

 

クレムトの奴には声をかける

アイツが味方になりゃあ、負ける事はねぇだろうよ

 

 

 

 

馬鹿野郎が!ならテメェでしっかり味方に付けやがれ!

アイアスとしてはあまりの手際の悪さに内心ダース単位でケセルダを罵倒するが、そんな事をしたところで何かが変わる訳でもない。それ位は理解している

 

 

…全軍攻撃準備を整えろ

ならば、クレムトを無視してエイリークの確保を最優先とする

 

クレムトは王族嫌いで有名だ

ましてや自国民を見向きもしない連中なら特に

 

敵軍の撃破が目的ではなく、エイリークの確保のみが目的なのだ

故にアイアスは物量による飽和を狙う事とした

 

 

 

 

 

 

----

 

 

…竜騎士か

私怨の為に槍を向けておいて、また私怨の為に祖国にすら槍を向けるつもりの様だな

『日長石』グレンの弟とは思えぬ程愚劣なものだ

 

…何?

 

クレムトはクーガーを見てせせら笑う

 

 

曲がりなりにもグラドの騎士であったのだろう?ならばグラドの人間として此方に挑むならともかく、自身の兄が殺されたからと怨恨を胸に挑んでくるなど…いやはや、グラド騎士も落ちぶれたものだ

 

…貴様

 

騎士が己が感情一つ御せぬというのなら、それはもう(俺達)と同じよ

殺し殺され、それが騎士の生き方の一つだろう。守る事を理解も意識もせぬからあっさり感情で流される

…なぁ、クーガーとやら

クレムトは嬲る様な口調で問いかける

 

そのザマで何が守れるのだ?

 

 

 

----

 

 

エイリーク、北方からカルチノの軍団が接近中よ!

 

ありがとうございます、ターナ。…でもカルチノがどうして?

 

カルチノでの居場所が無くなったからじゃないでしょうか?

クリムト氏が長老衆をまとめたなら、グラドに近しい者達の居場所が無くなっても不思議じゃないですからね

 

周囲の警戒を上空で行なっていたターナの知らせを受け、エイリークはその端正な顔を曇らせる。彼女の補佐を任されているフォルデは自分なりの推測を口にした

 

 

グラド正規軍との戦闘だけでもエイリーク達にとって厳しいものであり、その上彼女達は一刻も早くジャハナへと赴かねばならない

 

 

 

聖石の破壊を防ぐ為に

 

だが、その上の増援となれば厳しいと言わざるを得ないだろう

 

 

 

度重なる戦闘により、各々の実力は合流した頃に比べれば向上しただろうが、カルチノ以来満足な休息を取れたとは言い難いのが実情

傭兵であるジスト、テティス、マリカ、ユアン、クレムト。クレムトから徹底的に体力面を鍛えられているアメリアあたりは問題ないのだが、他の者達は疲労が隠せなくなりつつある

 

どうしてもポカラの里へと道中やこの渓谷に来るまでの間も険しい山道を行軍する他になかった為だ

サレフはドズラも問題なさそうだが、逆にそれ以外の者達、フォルデとフランツのルネス騎士やギリアム達フレリアの人物も慣れない長距離行軍となる為多少なりとも疲弊している

 

 

相手は大陸最強とも目されるグラド帝国軍と後のないであろうカルチノの親グラド派

そう簡単に勝てると思える筈もなかったのだ

 

 

 

 

更にエイリークとしては、別働隊を経験豊富な傭兵であり指揮能力も高いとの話を聞くクレムトに任せる事で事態の打開を図ろうとしたのだが、フォルデから反対されてしまい別働隊の指揮はヒーニアスに任せる事となった

 

これにより、本隊の前線指揮を誰に任せるべきか?

という話となってしまいエイリークは内心頭を痛めている

 

 

指揮権を預けるとなると、それなりの実績なり立場が必要となってしまう

はっきり言えば、エイリークの補佐をしているフォルデとてルネス王国軍の中で取り分け高い地位にある訳でも高い能力を持っている訳でもない

ゼトがどの様な意味で「クレムトを信用するな」と言ったのかは知らないが、正直なところエイリークとしてはそれが無駄な(しがらみ)を生んでいる様にしか思えないのだ

 

 

出来ない事を素直に認めて、出来る者に任せる

それが最善であるとエイリークは思っているのだから

 

 

 

 

----

 

 

 

ク、クレムトォ

 

…相変わらず喧しいガキだな。戦場で戦うと決めたのはお前だろうが

 

 

エイリークが苦悩している頃、クレムトは知人であるテティス達の頼みでテティスの弟で見習い魔道士であるユアンと共に戦場にいた

 

 

 

 

エイリークに関わらせたくないとの事情から、ヒーニアス率いる別働隊に組み込まれていたクレムトであったが、別働隊指揮官であるヒーニアスはクレムトに対して指示を出す事はなかった

 

 

私がとやかく言うまでもなく、適時すべき事をやってくれると思っている。…ならば大まかな方針だけ示しておけば事足りる話だろう

 

とクレムトに対しては自由に行動して良いとしていた

ヒーニアスとしても強力なサマナー(召喚士)であるクレムトをどう戦術に組み込むべきなのか、些か迷っている部分があったのも事実。加えて現在のクレムトはあくまでの善意の協力者の域を出る訳でも、エイリークや自身が雇い入れた傭兵でもない

 

クレムトの依頼主はアメリアなのだから

 

 

カルチノからエイリーク達に同行しているヒーニアスだったが、山奥での砦跡付近での戦闘やポカラの里近郊での戦闘を見るに、明らかにエイリーク

…いや、港町で離脱したゼトからの指示を受けたであろうフォルデは意図的にエイリークとクレムトの接触をさせぬ様に動いている

経験が乏しく、あくまでもエフラムやグラドに寝返ったオルソンの指揮下で戦う事に慣れてしまっているフォルデ。彼のやり方はヒーニアスやギリアムからすれば目を覆わんばかりの露骨なものでしかない

 

仮にも傭兵という実力がものを言う世界の中にあって、二つ名を持っているクレムト。その意味を余りにも軽く考えているとしかヒーニアスには思えなかった

戦術では自身を上回るものがあるエフラムだが、統治者としての思考においてエフラムは妹ターナと同じ程度…いや下手をするとそれ以下のものしか持ち合わせていないとすら思える

ならばエイリークにそれをさせているかと言えば、その様には見えない

 

人心掌握において、エイリークは確かなものがあるとギリアムやヴァネッサ、モルダから報告を受けている

が、事クレムトに関してはエイリークの周囲が足を引っ張るどころか邪魔をしている様にしか思えないのだ

 

 

クレムトも港町である程度エイリーク達に言ったらしいが、それ以降何かを言う事はない

…恐らく傭兵としての責務は果たすが、それ以上の事は一切するつもりがないのだろう

 

本人はジャハナに着くまでの依頼

そう言っていたが、裏を返せばジャハナに着いたら抜けると言っているに等しい

今回の戦闘では敵の指揮権を引き裂く役割を担ってくれるそうだが、本人はテティスの弟ユアンの教導に専念すると言う

 

依頼主であり、弟子であるアメリアについては

 

 

アメリアは既にそれなりの実力をつけている。これ以上手を掛ける必要はないだろうよ

 

 

とジスト達に話している事から、彼女は既に独り立ち出来る者として考えているのだろう

 

 

 

それはつまり

 

 

敵対するなら一切の容赦をしないという意味でもあるのだ

 

 

----

 

 

ヒーニアスの本音としては、クレムト個人を敵に回すだけでも今の自分達にとっては余りにも困難な話だと思っている

加えて、亡霊戦士というクレムトの手足どころか目にすらなり得る戦力まで動かせる。その上、撃破したとしても少しでも時間を与えれば再召喚されてしまう

 

敵に出来よう筈もない

 

これだけでも頭が痛いと言うのに、彼の武器であるリザイアの効果とサマナーとしては高い技量から繰り出される絶死の一撃(クリティカル)すら無造作に叩き込まれる

 

ヒーニアスからすればゼト達が不信を抱こうが勝手にすれば良いと思うが、仮にクレムトと敵対する事になればターナとギリアム達とジスト達は自身の判断で離脱するべきだと半ば本気で考えている程

 

 

…本当に面倒な事だな

 

ヒーニアスはグラドとカルチノ両軍を相手に作戦を練り直しながら、深い溜息をついたのだった

 

 

----

 

 

ほれ、お前でも倒せる程度に弱らせてやったんだ。さっさと()

 

で、でも

 

クレムトの言葉にユアンは動揺するが

 

 

甘えんな。テティスもジストもマリカも。…恐らくお前の師であるサレフもお前が戦う事を良しとしなかった筈だ

……だが、それらを振り切ってでもお前はこの道を選んだんだ。今のお前程度の実力で選り好みが許される訳ないんだよ

 

…うう

 

クレムトの言葉にユアンは呻き声を上げる

 

 

お前がもし武器を振り下ろして敵を殺す事を選んだなら、ジストやテティスにマリカはお前が嫌がったとしても絶対認めなかっただろうよ

だが、あいつらにとって魔法は専門外だ。魔物だけを殺すなんて我儘は俺が許さん。選んだ以上、手を血で汚す覚悟はあるものとしてお前に接する

…もうお前は戻れない選択をしたんだ。理解しろ、ユアン

 

っっ!

 

 

クレムトはユアンがサレフに師事する以前、ユアンから教えを請われている。…だが、クレムトはユアンの言葉を戯言としてマトモに取り合う事は一度とてなかった

 

 

人を殺す。その重みも意味も理解しない様な奴に教える事なぞない

 

 

ジスト達にクレムトは当時そう溢していた

その後、ジスト達と共にカルチノへ赴いた際出会ったサレフに師事する事となったのだ

別にその選択を責めるつもりはクレムトにはない

 

 

 

魔道士と言っても、道を究めんとする為

つまり手段として魔道を修めた魔道士と、戦う為の武力として魔道を修めた魔道士の2つのタイプがある

 

前者はノールやルーテ、後者はクレムトとなるだろう

 

 

 

が、どちらにせよ魔道を修めた以上いざとなれば戦う事から逃げる事は許されない

ジスト傭兵団は名の知られている傭兵団だ。それは良い事もあるが、災いを招く事でもある。ジスト達を引き入れる為にテティスの弟であるユアンを狙う輩もいるだろう

…今までは、自衛能力が無かったが故にジャハナの傭兵達もさり気なくユアンを気にしていた。クレムトもその手の話を耳にするたび、手が空いていたならば動いていた

 

が、それはユアンが戦う力を持たぬが故の事

 

力を持てば例え女子供であろうとも容赦も慈悲もない

それが傭兵という生き物なのだ

 

 

 

歯を食いしばり、前を向けユアン

それが戦うと言う事だ

 

…う、うん

 

 

クレムトのゾッとする様な視線を受けてユアンは敵を倒すべく魔法を放った

 

 

 

----

 

 

 

…おかしい

何故クレムトが居るにも関わらず、まだ此方に刃が届いていない?

 

グラド軍を指揮しながら、アイアスは自身の中の疑問を思わず口にする。あれだけ馬鹿げた能力のある亡霊戦士を使役するとなれば、術者の能力は少なく見積もってもクレムト位にはあるだろう

…仮に

…もし仮に術者がクレムトでない可能性をアイアスは考慮する必要を認めなかった

 

何せ亡霊戦士の動き方。それは間違いなくケセルダの動きを参考にしたものであり、僅かながらにクレムト(へっぽこ)の動きが今なお残っているのを遠目ながらにアイアスは見て取ったのだから

力押しの乱暴なケセルダ()の戦い方と我が身第一(チキン)の戦い方が混在する傭兵なぞ、この大陸広しと言えどもそういる訳がないだろう

 

ましてや、それが召喚された亡霊戦士の動きともなれば、尚更

 

 

そもそもアイアスを始めとした殆どの者達は亡霊戦士を使い捨ての駒と認識している

そこに様々な用途を見出し、それを実際に実行する物好きがクレムト

 

 

 

傭兵でありながら、その考え方や在り方は寧ろジャハナの衛士や文官に近く、何よりも無駄を嫌う

 

 

 

クレムトならば、間違いなく指揮を混乱させた後間髪入れず斬首戦術に移行する

 

非情なる黒き刄

それこそがクレムトの異名の一つ『闇刃』の由来なのだから

 

 

 

----

 

 

 

…まさか、本気で戦うつもりがないのか?

そう思考を巡らせていたアイアスは無意識に排除していた可能性を思わず口にしてしまう

 

現在、亡霊戦士はカルチノから逃れてきた親グラドのパブロ率いる部隊へと攻撃している

 

 

…ならば、押し込めるか?

 

アイアスはエイリーク達の情報を徹底的に集めなかった事に今更ながら後悔し、迷う事になる

グラド軍にもたらされた情報はルネスのエイリーク等がカルチノのパブロに対して攻撃をかけている、というものだった

元々勝ち馬に乗ろうとしているパブロに対するグラド側の心象は決して良いものではなく、追加で派兵したグラド軍が壊滅した事により、フレリアの王子ヒーニアスの軍略と智謀は脅威である

との認識を得るに留まっていた

 

或いはパブロ率いる傭兵隊と最後まで同道していれば、アイアスとケセルダもクレムトの存在を確認できたのかも知れない

 

 

奴は雇用関係に私情を挟む事はない

…となると、クレムトの雇用主はエイリークらルネスの者達とは考え難い。が、フレリアならばヒーニアス王子が粗末に扱うとも考えにくいだろう。ジスト達がヒーニアス王子の元にいると聞く以上、ジスト達からある程度の情報を受けていて然るべきだろうからな

 

 

 

ケセルダと俺のミス、か

そうアイアスは小さく呟いた

自分やケセルダは基本的に情報などについてクレムト程に精査する事は無かった。それはグラドの将となった今でも変わらない

 

自分達の動きを封じられる形となってしまったアイアスは無力感に苛まれながらも、兵を動かす事が叶わなかった

 

 

 

 

 

----

 

 

 

渓谷における戦闘は終始攻めきれなかったアイアス率いるグラド軍が撤退した事。更に北部から進軍していたパブロ率いる部隊は更に北部から南下してきたロストン騎士団とそれに呼応したヒーニアス指揮下の別働隊により敗北する事となった

敵将パブロは乱戦の中で討ち取られる事となり、結果としてカルチノの不穏分子は除かれた

 

 

 

 

…クレムトさん、少し時間あるでしょうか?

 

そしてエイリークはターナ達フレリアの者達とフランツの協力で漸くクレムトと話をする機会を作る事が出来た

 

 

 

----

 

 

 

おや、これはこれはエイリーク()ではありませんか

ロストン騎士団との話はよろしいので?

 

…はい。それについてはフォルデに任せていますし、ラーチェルからも気にしなくて良い。そう言われましたので

エイリークの言葉に

 

 

…失礼ながら宜しいですかな?エイリーク様

 

なんでしょうか?

 

アメリアと共にこの軍に加わって少し経ちますが、少々貴女方ルネス王国の関係者は事態を甘くみておられませんか?

そう軽い調子でクレムトは口にした

 

 

 

 

 

 

----

 

 

…その様なつもりはないのですが

もし良かったらどうしてそう思われるのか聞いても構いませんか?

 

勿論。少なくとも教えを求められたなら教えるのはやぶさかではありませんよ

あの港町で申し上げましたが、本来守るべきルネス王国がグラドに支配されている状況下で他国の事を気にかける理由は私には理解しかねますな

聞けばエフラム王子はフレリア軍を率いてリグバルド要塞方面から逆侵攻しているとか

無礼を承知で申し上げますが、宜しいですかな?

 

……はい

クレムトさんは先に私に警告したのだ

 

 

これから話す事は私にとってキツい事なのだ

それでも聞かなければならない

 

 

仮にグラドを降したとしても、ジャハナの聖石が守れたとしてもルネスの民の多くは貴女方を恨みましょうな。エイリーク様やエフラム王子は父上であるファード様を喪ったのでしょう?

…辛くはありませんでしたかな?無念ではなかったと?

 

そんな事はありません!

 

その貴女方がルネスの民に同じ事を押し付けているのがご理解出来ない。それこそ私には理解しかねますが

 

っ!

 

更に申し上げるならば、エフラム王子の選択は論外でしょう

フレリアの聖石が破壊された。その事実をエフラム王子は軽く捉えている様に思えてなりません

 

…それは

 

フレリアの聖石を砕かれたのですよ?

となればグラドはやろうと思えばフレリアに軍を派遣して第二のルネスの様にする事も可能。そう考えるべきでしょうな、フレリアからすれば

 

エフラム王子が主張したグラドへの逆侵攻

であるならば、せめて自分に従う騎士は手元から離すべきではなかったのです。王子のしている事は

 

自分の立てた戦略の為にフレリア軍を使い潰す

と同じなのですから

 

 

仮にグラドを倒したとして、ルネスを解放したとしましょうか

…エイリーク様。どうやってルネスを復興なさるおつもりなのでしょうか?

 

…どう、とは?

クレムトさんの言葉の意味が分からず困惑します

 

ファード様に従いルネス王国の者達の殆どは亡き者となったのです

つまりルネスを再興するとしても、人が足りませんな。特に国を動かすだけの見地や経験のある人物が

…仮にゼト将軍がそれをしたとしても、到底成し得るものではありますまい

 

…何故、ですか?

 

かの人物は確かに騎士としては優秀なのかも知れません

…が、誤った主君を諌める事も出来ない人物がどうして他国から信用されましょうか?

ルネス復興において、原資が必要となるでしょうし、各地の再建に人手も要ります。加えて魔物退治や賊討伐の為の人員も

…何処からそれを調達なさるおつもりなのですかな?

 

…それは、フレリアしか

………あ

クレムトさんの言葉に私は恐ろしい未来を予想してしまいました

 

 

お気付きになられましたな

そう、フレリアにとって不利益となる事を主導したエフラム王子。当然ヘイデン王は協力を惜しまなかったでしょうが、結果フレリア国内でルネスに対する反発が生まれた事でしょう

賢王と呼ばれているヘイデン王とて、民や文武両官の支持は必要

…仮に私がフレリアの文官ならば、間違いなくヘイデン王に対して不満を持つでしょうな

 

……

言葉が出なかった

 

 

 

『民と共にこの国の明日を歩む』

そうかつて私に言った人物が居ましてな。あの方だからこそ、私は生粋のジャハナの民ではないにも関わらずジャハナに忠を尽くすのです

クレムトは自身の心の内をエイリークに話す

戦の狂気に浸っている王子と違い、まだ間に合うのだと

 

ジャハナは砂漠に囲まれた国であり、常に民は貧困に喘いでいました。その中でも民を纏め上げる王家というものは存在しております

 

クレムトの口調には熱と誰かに対する想いがある様にエイリークには思えた

 

その方はいったい?

 

『白砂の女王』イシュメア。現在のジャハナを治める女王陛下であり、ギャンブル狂いの傭兵の母親でもありますな

 

クレムトはそうエイリークに答えた

 

 

 

 

----

 

 

 

ヨシュアさんがジャハナの王子、なんですか?

 

御冗談を。我等が女王陛下の子息である事は認めますが、国や女王陛下を放って傭兵稼業を選んだ者をジャハナの次代を統べる者等とは認めませぬよ

国民の視座に立って考えるのと、責任から逃げて市勢の生活を送るのは全く別の話ですからな

 

…それは

エイリークはクレムトの言葉に納得する所も多いが、頷く事は出来ない。ヨシュアを否定するクレムトを認めるという事は兄エフラムのやり方を否定する事にも繋がるのではないか?そう思ったから

 

国の上層部(うえ)にいる者と民が同じ見地に立つ事は難しい。貴女方は降りる事が出来るが、民が王族などの視座に立つのは不可能に近いのですよ

…故にこそ、話をして納得させる調整能力が必要となるのです

私の様な一介の傭兵ですら、調整能力は必要とします。国を失った貴女方にそれが必要で無い訳がありますまい

 

…そう、ですね

 

現在のルネスは既に名ばかりの存在であり、フレリアにとって有益な存在とはなり得ておりません

更にルネスを奪還したとしても再建に協力を求められる公算は高い。…その場合、ルネスは何をもってフレリアの大恩に報いるのでしょうかな?

 

………分かりません

 

そうでしょうな。仮にルネスが再建されて国力を取り戻したとしてもルネスは当分の間フレリアに対して配慮するしかなくなりましょう

それをしなかった場合、フレリア国内のみならず他国からも『ルネスは忘恩の国』として蔑まれる

自国を、領民を第一にすべきなのはどの様な国も当たり前の事なのです。それを意識すらしていないエフラム王子のやり方ははっきり申しますが、戦いに酔っている狂人にしか見えぬのですよ、私からすれば

 

……

反論したいが、エイリークは反論出来なかった

 

ジャハナで聖石の事を伝えられたならば速やかにルネスへ戻るべきでしょうな

手遅れだとは思いますが、やらねばなりませんよ

 

…はい

エイリークはクレムトの言葉に弱々しく応えるだけであった

 

 

 

 

 

 

----

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、グラド帝国領内において処刑されそうになっていた恩師でありグラド三将の1人である黒曜石のデュッセルを救出。軍に加えたエフラム率いるフレリア軍はグラド帝都を守るべく帝都付近に布陣した蛍石のセライナとの戦闘を終え、グラド帝都攻略に取り掛かろうとしていた

 

 

 

 

 

 

将軍。いつまでルネスの王子の我儘に付き合わねばならんのですか?

 

既に我等の中にも犠牲者は出ております。…加えて兵站の問題も

 

…エフラム王子には何度か話をしているのだがな

 

フレリア軍を纏める将軍は部下達からの不満を聞き、溜息をついた

フレリア軍としては、先ずルネス王国からグラド軍を叩き出し、その後ルネス王国軍の再建を待ってからグラド領内に攻め入る予定であった。此処で仮に皇帝ウィガルドを討ち取った場合、強大なグラド帝国軍がどうなるかわかったものではない

 

皇帝の敵討ちに出るか?

それとも軍としての纏まりを失い、各地で賊徒となるか?

予想が出来ないのだから

 

 

正直、フレリアとしては受ける被害はさしたるものになるとは思っていない

何なら国境付近に展開する部隊を増やせば事足りる

…が、ルネスはそうはいかないだろう

 

ルネス王国領にはグラド帝国軍がそれなりの数入っており、王国内で乱暴狼藉を働いている者もいると聞く

穏健帝と呼ばれているウィガルドがそれを認めたとは思えない以上、現場の暴走だろう。…その様な人間がグラド帝都が落ち、皇帝が討ち取られたからと素直に引き下がると思えない

となればルネスの混乱は長引く事になろう。かの黒曜石を助けて助力して貰っているという事実は間違いなくグラド残党の反感や憎悪を買うだろう事は容易に想像出来る

 

 

…まさか、何も考えておらぬとでも言うのか?

 

あり得なくはないやも知れません。目の前の敵を討ち倒し続ければ戦いは終わる

…レンバールにおける無謀とも言える作戦を行なった事を考えますにそう考えていたとしても不思議ではありません

 

 

つい口にした最悪の考えであったが、副官はそれを否定するどころかあり得るものであると肯定する

 

 

…馬鹿な、一兵卒でも傭兵でもあるまいに

仮にも王子だぞ?そうだとしたら何と頼りない

 

彼等の中の王子像とは策略に秀で、常に向上心のあるヒーニアスだ。それ故に王女であるターナは政治などに無関心であっても許されている

 

 

アレがルネスの次代とは

…正直碌な未来が見えんぞ

 

崩れ落ちているルネスを我等が支える理由など有りはすまい

エイリークをヒーニアス王子の伴侶として迎えたとしても

 

よせよせ。そんな悍ましい未来など

ルネスの併合?我々フレリア軍の規模でどうにか出来る話ではない。内務卿らも良しとする訳がなかろうよ

 

口々に不満の声をあげるフレリア騎士達

 

 

…我々がエフラム王子に協力するのは帝都攻略までだ

仮にウィガルドを討ち損ねたとしても構わん。全軍を退かせる

 

そうでもしなければ、グラドが混乱しましょうな

リオン皇子も人が変わった様なものと聞きます

 

 

将軍はそう決断し、副官もその決定を支持する

 

 

 

 

…大陸の未来に思いを馳せる前に足元を見ぬ者に力を貸せぬよ

……生き延びた甲斐はなかったな、ゼト将軍

 

ルネスの若くして将軍となった未熟者(・・・)に届く筈もない言葉を呟くとフレリア軍を動かすべく将軍は動き始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳でエイリークはクレムトとの話が出来た為に最悪は回避出来ました


何も持たぬ者が掲げる理想は妄想と同じ
誰かの力に頼り切らねばならないから

ある程度の力があって、協力者を募るのと、ほぼ全てを誰かに依存するのでは目指す未来図は変わってしまうと思うのです


本作ではルネス王国軍やエフラムに対して常に辛口となっております。ヨシュアには更にそれが顕著となるでしょう(今更)

それでも宜しければまたお付き合い頂きたく思います

エイリークはクレムトと話をするか?

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