アレンの冒険[世界は広いなぁ~]編   作:チョモランマ斉藤

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10話

 

フレイ姉から受け取った回復薬は、どうやらシェリス姉の手で改良を施されていたらしい。

めっちゃ回復した。魔力全快の上、フレイ姉との戦いで出来た傷すら治ってしまった。

シェリス姉は凄い。俺は改めて思った。

 

全快した魔力と、フレイ姉との戦いの経験を生かし、毒の森を駆け抜ける。

なるほどなぁ、周りの毒素が効かないくらい魔力で身体を強化すれば良かったのかぁ。また一つ賢くなった。ガッハッハ!

 

序盤の苦戦が嘘のようにスイスイと毒の森を進めば、強化していてもなお感じる、今までで以上の毒素に立ち止まる。

目的地についたようだ。

 

「ここか…」

 

鬱蒼とした森の一部にぽっかりと拓けた空間が出てきた。

少し離れた場所から観察してみれば、この森のすべての毒が溶け合い混ざりあって出来たであろう毒の沼が見える。

 

こりゃあ、俺に解毒薬を作るのは無理だな。混じりあった毒の種類が多過ぎて抗体が作れそうにない。そもそも沼の周りに草一本生えていない。

この沼は、毒の森すら殺している。

予想はしていたが、まさかこれ程とは…。

 

さて、どうしたものか。

沼はドーナツ状になっており、沼の中心部分の地面に台座が見えた。

 

べーやんが言うには、アレに触りさえすれば良いというが。解毒方法がわからない以上、無闇に近づく事すら出来ない。

 

と、いうのは昨日までの話。

フレイ姉との戦いを経た俺にはあんな台座に触るくらいなんてことはなかった。

 

作戦は至ってシンプル

①滅茶苦茶魔力で身体を強化する。

②転移魔術で台座に移動し触る。

③完 全 勝 利 !!

らくしょー!

 

よっしゃ行きましょうかね!

と、身体に魔力を纏わせようとした瞬間

強烈な寒気と共に沼ごと周囲が凍りついた。

 

……ラスボスのお出ましってヤツかな。

まあ、流石に誰が来たかなんて確認するまでもない。

 

「……カーチャンまで来たのかぁ」

 

「当たり前でしょう」

 

あまりの寒さに凍えそうになる。

振り返れば。月明かりに照らされた真っ白な魔王。

フレイ姉との戦いが正念場だと思っていたが、そうか。

 

無理矢理考えないようにしていた。カーチャンと戦うことなんて。

穴だらけの作戦はここまで成功してるのだが、最後の大穴が向こうからやってきた。

 

 

(くっそ!最後の最後に…!やるしかない、か!)

 

 

俺が必死にカーチャンとの戦い方を考えていると、ゆっくりとした足取りで俺の側までやってきたカーチャンは慌ててファイティングポーズを取る俺を無視して通りすぎた。

 

戦闘は避けられないと思っていたが、違うのだろうか?

呆けてしまっている俺を振り返って少し呆れたようにカーチャンが言う。

 

 

「なにをしているの。行くよ」

 

「え?」

 

「この先に用があるんでしょ。ほら、早く」

 

凍った沼の上をスタスタと歩いていくカーチャンの背中をしばらく唖然として見つめ

俺は慌てて追いかけた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「この台座に手をかざせば、扉が開く」

 

「う…うん」

 

カーチャンの真意を測りかねている俺はなんとも曖昧な返事をしてしまう。

言われるままに手をかざせば、ゴゴゴという地響きと共に台座が奥に移動し、下へ向かう階段が現れた。

 

「はえー……」

 

「いくよ」

 

あっ!ちょ!

台座の仕掛けに驚いている俺を余所にさっさと下へ降りていくカーチャン。

また慌てて付いていく。

 

「ほえー…」

 

階段を下り終えると、広い空間に出た。壁につけられていた光石が俺達と部屋を明るく照らす。

何度目かの感嘆の声を洩らしながら俺がキョロキョロと周りを観察してみれば

誰だろう、お偉いさんかな?豪華な装飾の銅像が複数建っている

なにか絵と文字が刻まれた壁。読めそうだ。ええと…?

 

「なにしてるの。早くおいで」

 

と、カーチャンが急かす。

呼ばれて慌てて付いていく。目的地に着くまでその繰り返しだった。

 

「ここだ」

 

「ここは…?」

 

「転移部屋。そこに石があるでしょ。それにアンタの魔力を流せば大陸間の転移が可能になる」

 

「ひえっ」

カーチャンが普段どおりの淡々とした様子でとんでもないことを言う。

大陸と大陸とを転移だって?何をバカな。

 

カーチャン以外からこんな話を聞いても俺は信じなかっただろう。

 

べーやんが最後まで教えてくれなかった最後の行程。沼の台座に触れば良いとしか教えてくれなかったが…。

 

「フレイを倒したようだね」

 

「え?ああ…どうだろう。アレを倒したって言えるのかなぁ」

 

この部屋のとんでもない装置に俺が驚いていると、カーチャンが話しかけてくる。返答はするものの、俺はカーチャンの方を見ずに部屋を観察していた。

 

「見事だったと褒めていたよ」

 

「そう?へっへっへ」

うわ、なんかびっしり書いてある。

 

「アリアも。アンタを早く見つけられなかったことを凄く悔しがっていたよ」

 

「マジで?」

なんだろう、呪文が彫り込まれているのかな?

 

「ウィンも。全く無駄の無い魔力コントロールだったと褒めていた」

 

「おいおいべた褒めじゃーん!」

この石はなんなんだろう…えと、台座にも仕掛けがあるのかな

 

「シェリスも。アンタなら毒の森を攻略できると最初から確信していたみたい」

 

「やだもー!みんなして褒めてからにー!」

うーん。よく分からないなぁ

 

 

 

「愚かな母ですまん。アレン」

 

「えっ」

 

 

俺はカーチャンの言葉に思わず振り返る。

そこには俯いて顔の見えないカーチャンがポツンと立っていた。

 

 

「アンタはこんなにも力を付けていたのに。それに気付かないフリをしてしまった」

 

「ずっとこんな日々が続けば良いと。アンタを窮屈な場所に閉じ込めてしまった。すまない」

 

「私は……とても愚かだったよ、アレン」

 

 

「カーチャン!」

 

 

俺の怒鳴り声に、俯いていたカーチャンが顔を上げる、珍しいな、驚いてら

だが!しかし!これはゆるせん言わねばならん!

 

 

「カーチャン!いくらカーチャンでもカーチャンをバカにすることは俺がゆるさん!!」

 

「???」

 

 

プンプンと怒る俺に首をかしげるカーチャン。

 

 

「ふふ、そうか…そうだね。アレン」

 

「おう!」

 

 

珍しいな、今度は笑ってるじゃん!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「アンタの旅立ちを認めるよ。アレン」

 

「!!」

 

「力を示した。認めるしかないよ」

 

「カーチャン……」

 

「広い世界を見ておいで。アンタにはそれだけの力が備わっていると私達に証明したんだ」

 

「……うん」

 

「ああそうだ。ご褒美と言う訳では無いけど、なにか聞きたいことがある?一つだけ答えてあげる」

 

うっ…相変わらずサラッととんでもない事を言う。

聞きたいことか…そうだなぁ。

 

今さら両親の事はどうでも良いと言えば聞こえは悪いかもしれないけど、顔も知らないし。俺にはここまで育ててくれた家族が居るし。

 

ああ、そうだ。アレがあった。

 

「なぁカーチャン。なんで子供の頃の俺はあんな回復薬を作れてしまったんだろう?」

 

そう、魔王クラスすら完全回復してしまう程の魔力を秘めた回復薬。

子供の頃の俺が作れて良い代物ではない。

 

今だって、作るとしても物凄く時間はかかるし、素材だってそれなりのものを用意しなければならない。

 

「血、と言えば良いのかな。アンタの父親の方のね」

 

「俺の父親………」

 

うーむ、意図せず両親の話となってしまった。

しかし、そうか、血かぁ。

 

「それはどういう事?」

 

「答えるのは1つだけだよ。もうおしまい」

 

「ええ!?ウッソだろ!?」

 

いや確かに1つって言ってたけども!そんなのってアリなの!?

無表情だが、どこかおどけて見えるカーチャンはとても楽しそうだった。

 

「答えは、きっと見つかる。」

 

だから、気をつけて行っておいで

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

俺の質問には1つしか答えてくれなかったのに、この場所については、カーチャンから教えてくれた。

 

ここは試練の祠と呼ばれているらしく、魔王や幹部達にしか場所は知られていないらしい。

もし、カーチャンが一緒に来てなかったら魔王ではない俺は何処からともなく現れる魔物や魔獣達を倒しながらこの部屋を目指さなければならなかったらしい。

 

それが試練なの?と聞けば、他にも部屋があっただろう?とはぐらかされた。

 

ここ以外にも他にも部屋があって、そのうちの1つがこの部屋。転移部屋。

 

この部屋の用途は魔王達が10年に1度、会議に出かける際に使用されるらしい。

 

会議?……あ、はい、知るべきではないですね、うっす。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ちゃんと手紙を出してね、待ってる」

 

「あー……半年に1度で良い「ダメ」か…月に「ダメ」……1週間に1度ね…」

 

「よし。あのクマの面倒はまかせて」

 

「あんまり苛めないでおくれよ。俺の大事なアニキで、親友なんだからさ」

 

「ふん。あんなヤツのどこがいいんだか」

 

「ははは」

 

 

それじゃあ、いってきます。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「お、戻ってきたな。アレンは行ったのか?」

 

「ああ」

 

「なんだよー。私にもアレンの時みたいな話し方してくれよー」

 

「嫌だ」

 

「冷たいヤツだなぁ」

 

「うるさい」

 

「アレンが居なくなって寂しくなるなぁ」

 

「そうだな」

 

「手紙、私にも見せろよな」

 

「何の話だ」

 

「とぼけるなよー」

 

「うるさい」

 

「ははは……さぁて、あのクマをどうしてくれようか」

 

「そうだな。流石にあの知識。捨て置けん」

 

 

 

肩を組んでくるフレイに、鬱陶しそうにしているゼノ。

2人は城を目指して歩き出す。

今まであったアレンとの楽しい思い出を語り合いながら。

これからの事を語りながら。楽しそうに。

そんな2人を、月だけが照らしていた。

 

 

 

 

こうして、アレンの冒険が始まった。

 

 

 

 

アレンの冒険 第1部 旅立ち編

 

 

 

 

アレンの冒険 第2部 冒険者は辛いよ編

 

 

スタート

 


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