アレンの冒険[世界は広いなぁ~]編   作:チョモランマ斉藤

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「あれはなんだい?」「…馬糞だよ」

 

 

 

 

アレン・ニンバスと名乗る不思議な少年は自分の髪を指先で弄り、あーだのうーだのと唸っている。

 

 

儂がもう廃墟となってしまったあの村で独りモンスター避けの護符を埋め込んでいると、突然現れた少年。

 

 

はじめは近所の子供かと思ったが、この辺りの子供は皆学校へ行っている時間帯であるし、何よりも魔人と人間の混血を伺わせるあの髪色。この辺りでは見たことがない。

家出かと問いかければ、道に迷ったと抜かしよる。

 

 

儂が少年に構わずに作業を続けていると、モンスター共が性懲りもなく現れよった。

あと少しで全ての作業が終わるというのに。迷惑な奴らだ。

 

 

側に置いておいた杖を取り、一応少年にも声をかける。少年とてこの辺りをうろついていたのだ。多少心得はあるのだろうが。

 

たしかに奴等は下級モンスターである。

だが、爪や牙を持ち、人や家畜を襲う危険な存在である事に変わりはないのだ。

 

 

すると少年が儂とモンスターの間に割って入るではないか。

手にしたのは…木の枝か?バカな、あのような物でモンスターを撃退しようというのか?

 

 

すると、次の瞬間

意気揚々と戦おうとしていた少年の背中が数倍に大きくなって見えた。今思えば幻覚…だったのだろうな。

少年はこちらを向いていないのに、大昔に遭遇したドラゴンのような…圧倒的な捕食者の気配。

 

 

儂は思わず手にした杖を振るう。

半ば本能的に魔法を放ってしまった。

永年共に戦ってきた相棒とも言える杖が、その時は酷く頼りない木の枝かのように思えてしまった。

 

 

儂は…あの時。モンスターにではなく…彼に魔法を放ってしまった。

彼に恐怖してしまった。

 

 

儂は自分のとってしまった行動に驚きつつも、このままでは彼に魔法が当たってしまうと放ってしまった炎魔法の軌道を無理矢理変えることに成功した。

 

あの時とっさに叫んだ言葉は、果たしてどちらに向かって言った言葉だったのか……。

少年か…己か。

 

 

 

結果、魔法の軌道を変えるために多くの魔力を消費した儂は魔力切れを起こしてしまい、うずくまる。

 

 

目が覚めれば、儂を心配そうに見下ろす少年。

儂が魔力切れを起こして倒れたのを少年は介抱してくれたのだと言う。

マナポーションを作るのに酷く苦労したと笑っておった。

 

 

儂は、なんてことをしてしまったのだ…このような気持ちの良い少年に対し、儂を庇い、モンスターへ立ち向かおうとしてくれた彼に対し。

恐怖し、背後から攻撃してしまうとは……。

老いなど、言い訳にもならんな……。

 

 

 

今日はもう、とても作業を続ける気にはならず、片付けを始める。

助けてくれた感謝と、罪悪感から我が家へと招くことにした。

 

 

 

少年の引く荷車に揺られながら帰路に着く。

少年は…アレンは、とても不思議な少年だった。

 

話してみれば

冒険者を目指してこの大陸にやって来たと言う。

ここから徒歩で行くのかと問いかければ、そうだと答える。

この国で冒険者ギルドがある場所まで歩いて何日かかると思っているのか。

 

自分が今何処に居るのか、分かっていないように感じた。

 

 

 

家族はと聞けば、元気にしてると。

歳はと聞けば、17と。

あの廃墟は?と聞かれれば、答えたりもした。

 

 

町に帰るまで、会話が途絶える事はなかった。

あれはなんだい?これはなんだい?と。

その度に儂が答えて、1人なるほどと納得していた。

少年は、ずっと笑顔だった。

 

 

町に着いた時など特に顕著だった。

大きい町ではない。この国の中でも、小さい方だ。

それでも少年は初めて見たかのように、この町をとても楽しそうに眺めていた。

 

 

まるで幼子のような純真さを思わせながらも、的確にマナポーションを作る技量に、強者がもつ独特の雰囲気を放つ、何処からともなく現れた不思議な少年。

 

それが、儂の感じたアレン・ニンバスという少年だった。

 

 

家に着き、再び話をする。

今思えば、少年はあの木の枝でモンスター共を撃退することなど容易かったのだろう。

儂は少年をたしなめるような口をきいてしまった。随分と失礼な事をしてしまったものだ。

…なにか儂に力になれることはあるだろうか。

そうだ、冒険者になりたいと言っていたな。丁度良い。

 

 

 

少年と話をすればなる程、サタナキア大陸の。

ミカエリスとサタナキアはとても離れている。

混血の証である黒と赤の混じりあった独特の髪色。

両親のどちらかがサタナキア出身なのだろう。

 

サタナキア大陸は殆どが魔人達…彼らの言葉では魔族か。の、国だったな。

儂の若い頃はサタナキア大陸の国々は他のどの大陸とも交流などなかったが、今は違う。

 

 

 

昔は殆ど居なかったが、サタナキアとのハーフはこのミカエリスでも、今ではさほど珍しくはない。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「無理に話すことはない。人には話したくないことの1つや2つあるものだ。」

 

 

俺がなんて説明しようか悩んでいるとモーゼスさんがお酒を飲みながら言う。

お。そうかい?いやぁ助かる。カーチャンが魔王で、そのお陰でミカエリスまで来れただなんて、信じて貰えそうにない。

それに、折角親元を離れて来たんだ。できればここからは親の名前は使いたくない。……転移はノーカンね!

 

 

 

モーゼスさんが懐から木製の筒を取り出す。

ははぁん?知ってるぜ、パイプってんだろ?

モーゼスさんが指先に灯した火でパイプに火をつける。

フー…と白い煙。なるほど、煙い。

 

 

「明日、娘の婿が王都へ向かう。馬車で向かうはずだ。それに乗せて貰うと良い。」

 

 

「えっ!良いのかい?とてもたすかるよ!」

 

 

おっ!やったね!

ミカエリス大陸に居るという事は分かったが、詳しい場所が分からなかった。流石に王都まで行けばここがどの国なのか分かる。

 

 

 

「泊まる場所も…決まってないだろう。今日はここに泊まっていくと良い。」

 

 

「なにからなにまで…良いのかい?」

 

 

「命を救われた。それに、個人的に謝らねばならないこともあるからな。泊まっていってくれ」

 

「?…そうかい?じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 

 

おいおい泊まる場所まで提供してくれるなんてとても良い人じゃないかモーゼスさん!

いやあ、前途洋洋ってヤツですな!ガッハッハ!

 

その晩、モーゼスさんに食事までご馳走になって、風呂まで入らせてもらってまったりしていたら急激に眠気が襲ってきた。

今日は色々ありすぎた。激動の1日だったなぁ……明日は…王都だ……結局…ここ…ど……こ……すやぁ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「やあ!君がアレン君だね?僕はデビット!王都まで護衛をよろしくね!」

 

 

新天地で2日目の朝を迎えた俺は、少し寝過ごした。

寝ぼけ眼で起きてくると、先に起きていたモーゼスさんに顔を洗ってこいと笑われた。

外の井戸に案内して貰い、顔を洗っていると

真っ青な空の下で真っ白な歯を見せて笑う丸メガネの男性に声をかけられた。

 

 

「デビット、早いな。」

 

 

「やあ!お義父さん。おはようございます!」

 

 

モーゼスさんと親しげに話しているデビットと名乗る人物が、モーゼスさんが昨日話していた婿さんなんだろう。

……護衛?

 

 

「もう出るのか?」

 

 

「ええ、今日は天気も良いし、2人旅ですので」

 

 

モーゼスさんとデビットさんが話している。

俺が寝たあとに話をつけたのだろうか?

あれよあれよと会話が進む。

 

 

 

「さ、準備が出来たら王都へ出発だよ!アレン君!」

 

 

太陽の日差しに負けないくらい元気な人だった。

 

 

 

 

 

「では気をつけてな、アレン」

 

 

「お世話になりました、モーゼスさん」

 

 

 

沢山の野菜や果物が積まれた荷馬車にデビットさんが乗り込み、俺はモーゼスさんと少し話をしていた。

本当に、とてもよくして貰った。

最初に出会えたのがモーゼスさんでなかったら、こんなに早く王都へは向かえなかっただろう。

ごはんも美味しかったし。

 

 

「冒険者を目指すのだったな。ならば丁度いい。向かう先はアラドエルの王都だ。あそこは冒険者達の聖地とも呼ばれる場所だ。」

 

 

「アラドエル!」

 

 

ミカエリス大陸の中でも大国として有名なアラドエル王国。

なるほど、ここはアラドエル王国領だったのか。

ようやく自分の居場所が分かった。

しかも、冒険者達の聖地として名高いアラドエルで冒険者が始められるだなんて。最高ですねぇ!フッフゥー!

 

 

「アレン、お主の名前がこの小さな町にも聞こえてくるのを楽しみにしている。世話になった。ありがとう」

 

 

「こちらこそ、本当にありがとう。モーゼスさんと出会わなかったらどうなっていたか…改めて、お世話になりました。身体に気をつけてね、ムチャしちゃダメだぜ?」

 

 

 

モーゼスさんと笑い合う。

俺はデビットさんの待つ荷馬車へと乗り込みモーゼスさんに手を振る。

モーゼスさんは俺達が見えなくなるまで見送ってくれていた。

 

 

 

さあ!待っていろよアラドエル!アレンが行くぜぇ!!ガッハッハ!!

 

 

 

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