モーゼスさんとデビットさんの助けによって、ようやく俺の冒険者生活がスタートしようとしていた。
改めて壁を見る。いやあ、しかしデカイ、凄くデカイ。
近づけば町全体を囲っているであろう巨大な外壁が威圧感を放っている。
まあ、怯んでもいられないな!
おれは意気揚々と町の入り口へと近づいていった。
町の入り口である門には通行窓口が併設されており、窓口の中では男女種族様々な人達が同じ制服を着てなにやら作業をしていた。
う。町がデカければ門番さんの質も違うのかな。窓口を担当していた狼の獣人であろう彼は座っているだけなのに威圧感を放っていた。
「こんにちは!アレンと申します。この町へは始めてきました、よろしくお願いします!」
「ん?ああ。よろしくアレン。プレートは持っているか?」
「プレートですか?」
プレート?なんの事だろう。そういえば宿屋に泊まる時にデビットさんが受付で何か見せていたが、アレか?
プレートとやらを持っていない俺は、プレートを所持していない事、この国に初めて来た事、この町で冒険者に成りたいという事を説明した。
プレートがなければ入れないのだろうか…
俺がドギマギしていると、そうか、と門番さん。彼が詳しく話をしてくれた。
門番さんいわく。このアラドエル王国の住人は生まれたばかりの者以外は国から発行されるプレートを所持するのが決まりとなってるのだとか。
なんでも、先の大戦以降活発化した多数の種族との交流化の関係で以前よりも人の流れが多くなってきたミカエリス大陸では、それにともない種族間のトラブル等も増加傾向にあったらしい。
それを抑制、解消するために近年生まれたのがプレートシステム。
住人同士でトラブルがあった際にこの人はどこの誰なのか。どこに住んでいるのか。
それを分かりやすくするために国から発行される証明書なのだと。
シュラール国が先頭に立って始めた取り組みで、今ではミカエリスの国々で採用されているらしい。
また、冒険者達はこのプレートを用いて自分のランクや、所属しているクラン?の証明をするのだとか。
「あのぅ…持ってないと入れないのでしょうか…?」
「そんなことはない。そんなことをしたら旅行者など立ち寄れないからな。この国の住人となるならば、所持していろ。というだけさ。この書類を書いたら入れるよ」
なるほど、と納得して門番さんが差し出してきた書類を受け取る。プレートを所持していない旅行者等に記入して貰う簡易的な確認書類らしい。
うっ!しまった…。
「どうした?」
「その、字が……。」
「ああ、なるほど。流暢に話すから気が付かなかったよ。上から名前とこの町へ来た目的を書いてくれ。自分の国の文字で良い。だが嘘を書くんじゃないぞ、そのペンは嘘を探知して電流が流れる仕組みになっている」
忘れていた。俺はミカエリスの字が読めないし書けない…ウィン姉から読み書きまでは教わってなかったぁ…。
えっ電流……?ま、まあ良いか。
俺はサタナキア文字で書類を書いていく
書き終えた書類を門番さんに渡す。彼は書類を見たあとに近くにいた女性の門番さんに書類を手渡した。
書類を受け取った女性の門番さんがあら、サタナキアなのね!なんてこちらに手を振ってくれた。彼女は同郷かな?魔人と人間は細かい違いはあれど、パッと見よく似てるからなぁ。
書類を読んでいた女性の門番さんが指でOKマークを作る。
「よし。シュライグへようこそ、アレン。冒険者になるんだったな。君の活躍を期待しているよ。さっそくギルドに向かうと良い。この通りのから見える大きな建物、見えるか?あの四階建ての建物、あれがギルドだ。冒険者用の窓口に行くと良い。プレートがすぐに発行できる。次からはソレを見せてくれるだけで良いからな。」
「なにからなにまでご丁寧に。どうもありがとうございました」
この町はシュライグというのか!
つまり、ここで冒険者となれば
ミカエリス大陸・アラドエル王国・シュライグ町の冒険者・アレンって事!?
フゥー!カックイー!テンション上がるぅー!!
門番さんの頑張れよ、なんて声を背に俺はギルドへ向かってワクワクしながら歩きだした。
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さて、道行く人の多さにドキドキしている田舎っぺ丸出しの俺がたどり着いたギルド正面。
ここから私の伝説が始まるのね!
なんておかしなテンションのまま、期待に胸を膨らませて大きな扉を潜った。
ギルド内は老若男女問わず、多くの種族の人々で賑わっていた。
広い。凄く広い。門番さんの言葉通りならこのギルドは国の役所としての役割もあるのだろう。
俺がキョロキョロしていると、それらしき一角があった。
酒場でもあるのだろうか?沢山のテーブルやイスが並ぶ一角。
そこでは冒険者らしき人達がクエストを吟味していたり、酒を飲みながらクエストでの活躍を語る人達で賑わっていた。
あの辺りが冒険者用の窓口かな?
「おい、邪魔だぜ」
「あ、すみません」
はえー、スッゴい。
なんて入り口で圧倒されていると、冒険者であろう一団に声をかけられた。
頭を下げて脇によけながら、失礼にならない程度に彼らを観察してみた。
歳は全員俺とそう変わらないであろうか?新品の防具に、それぞれ剣と槍を携えた男性2人に、杖を抱えた女性と軽装の女性の4人組だった。
俺に声をかけた人物が俺の姿をみてフン、と笑い、通り抜ける。
その笑みに若干の侮蔑が含まれているのを感じとった俺であったが、まあ、気にすることでもない。
「よお、ジーク!初クエストはどうだったよ!」
「ハンッ、余裕過ぎてあくびが出たぜ。この分じゃあ、あっという間にアンタに追い付けそうだ」
ジークと呼ばれた剣を装備した人物がリーダーなのだろうか、酒を飲んで上機嫌なオッサン冒険者…彼はオーガ族かな。見事な体格の赤い肌に頭に2本の角がある。に声をかけられて、不敵な笑みで応えていた。
「生意気言いやがって、油断しておっ死ぬんじゃあねーぞ!」
そんな彼の言葉に気を悪くするでもなくガハハハと笑っているオッサン冒険者。
そんな一幕を見ながら、俺はこれ以上邪魔にならないように受付っぽいカウンターへ向かって歩きだした。
「すみません、冒険者へ登録したいのですが、こちらでよろしいでしょうか?」
3つある受付のうち、若干ガラの悪そうな金髪の女性が座っているカウンターの前に立ち、声をかける。
隣ではまだ列を作って待っている人も居るのだが、この人の前はガラガラだったからだ。
ガラガラ過ぎて金髪の人は机に足を投げ出して雑誌を読んでいたくらいだ。
声をかけてみたのだが、無反応だったのでもう一度声をかけてみた。
「あ?…アタシに言ってんのかよ」
2度目でようやく反応してくれた彼女は、自分に声をかけてきた俺が意外だったのか、キョロキョロと周りを見渡して、ようやく俺の目当てが本当に自分だと理解したようだ。
「で、なんだよ。なんか用か?」
「あの、冒険者登録をしたくて…」
「チッ…ンどくせーな…」
「えぇ~……」
隣の受付の人が丁寧に対応しているのを横目に、この人の対応は多分きっと間違っているんだろうと確信しつつ、彼女の前がガラガラだった理由を俺は理解した。
さて、ガラの悪い女性から受けた案内はというと。
チッ、何でアタシのトコに来んだよ…
いいか?一度しか説明しねーから良く聞いとけよ!
まずアンタはこの紙に自分の名前と種族、年齢、出身地を書いておけ。この国に定住してるのなら、家族構成と住所もな!
ねぇなら無しって書いとけ!
嘘書くんじゃねーぞ、そのペンで嘘書いたら電流が流れるからな
……なにボサッとしてんだよ?
……ああ!?ミカエリス文字が書けねぇだぁ!?テメーどこ出身よ!……まあ良い。テメーの分かる字で書いとけ。
ンで、次だ…あーっと、ドコやったかな……おう。マリカ、計測器貸してくれや。…サンキュー。
……書けたか?チッ…どこの文字だよコレ……ま、反応が無かったんだ。嘘は書いてねーようだな。
でだ、次はこの計測器に気合い入れて手ェかざせ、魔力を測定してやる……えっと……だぁっ!相変わらず設定がめんどくせーな!コレで良いか。
おら手ぇ出せ……5か。まあ、普通だな。
んで、次は実技だな。コレが終わったらアンタの初期ランクが決まるんだが…
あ?上からABCDEFって分かれてて…めんどくせーな。後で資料やるから読んでろ。
字が読めない?んなもん気合いで読めェ!
チッ、実技か…誰か居っかな……
ガラの悪い女性の説明を時折ビビりながら聞いていると、実技とやらの段になって彼女が困った顔をした。
どうかしたのかと聞けば、どうやら俺は今から誰かを相手に模擬戦を行い、それによって初期冒険者ランクが決まるらしい。
ガラの悪い女性いわく誰がやってもせいぜいEランクスタートが関の山らしいので、やるだけ無駄なんじゃないかとのこと。
「あ!ジンさん!ちょうど良かった!ちょっと頼まれてくんねーかなぁ!」
しっかしこの人口悪いなぁなんて思っていると、ガラの悪い女性が今しがた入ってきたであろう人に声をかけた。
その人物は銀髪に眼帯、刀…だったかな?と呼ばれる武器を携えた鋭い目つきの男性だった。
「どうしたレベッカ。めずらしいな」
ガラの悪い女性…レベッカさんからジンさんと呼ばれた人物は彼女からの頼み事が珍しいのか、はたまた仕事をしている姿が珍しいのか。そんな事を言いながら近づいてきた。
「なるほど、実技の相手か…良いだろう、俺がやろうか」
レベッカさんから説明を受けたジンさんは快く引き受けてくれた
チラリと俺を一瞥したときに目が合って、なんとなく冷たそうな印象を受けたが、どうやらいい人そうだ。
「すまねぇジンさん、他に受けたいクエスト有ったろうに…助かる」
「なに、問題ないさ。暇だったしな」
出会って数分しか経っていないが、なんとなくレベッカさんの性格を分かってきた俺であったが、ジンさんの前でハニカミながら笑う彼女は少し印象が違って見えた。多分あれだ、ジンさんと仲良しさんなんだろうな。
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「さて、アレンだったな…俺はジンだ。ランクはD」
と、ジンさんから非常に簡潔な自己紹介を終えた俺は、ギルド内の中庭に位置する広場に来ていた。これから模擬戦が行われ、コレが終われば俺は正式にこの街で冒険者として活動できるのだ。
「アンタ、武器はそれで良いのか?」
どうせ暇だし、アタシも見ていくわ。との事で堂々とサボり宣言をして付いてきたレベッカさんに木刀を見ながら聞かれた。
広場の周りには模擬戦用では有るのだろうが、鉄製キチンとした武器も一通り揃えられていた。
この木刀は、なんとなーくフレイ姉との訓練でよく使っていて手に馴染んでいる木刀をそのまま選んだのだった。
「これで大丈夫です。ジンさん、よろしくお願いします!」
「ん」
俺とジンさんは広場で向かい合う。
俺は木刀を構え、ジンさんは無手だった。
ジンさんの刀はレベッカさんが大事そうに抱えており、他の武器も使う気が無いようだ。
俺が新人だからなのだろうか。
たしかに俺は新人さ、だからって、素人なんかじゃあないんだぜ?ふふふ。
流石に舐めすぎじゃあないですかねぇ!
さて、静かに闘志を燃やしている俺であるが、模擬戦とはいえ、俺としては家族以外で初めての相手であるし、新天地での初陣だ。
何より対人戦では今まで一度も勝てた経験の無い俺だ。自分の実力がどれほどのものなのかさっぱりわからない。
フレイ姉というバケモノに毎日鍛えられてきたので、クソザコナメクジって事は無いと思うが…はたして。
しかし、ここからだ。ここから俺の物語がスタートするのだと武者震いしながら俺は自然と笑みを浮かべていた。
「いきます!」
と、同時に俺はジンさんに向かって突っ込んだ。
フレイ姉直伝の戦闘術をとくと味わえと言わんばかりに、地面を蹴ってジンさんへと突っ込む。
地面を蹴った衝撃で土煙が上がる程の勢いでジンさんとの距離を詰めた俺は、そのままジンさんの脇腹から肩にかけて、下から木刀を振り抜いた。
が、ジンさんは俺の攻撃を半身を反らす形で簡単に避けた。
しかもそのまま木刀を振り抜いた俺の隙だらけの脇腹に向かって回し蹴りを放ってきた。
「くっ!」
初手を軽く避けられて体が流れてしまっていた俺は、蹴りを避けれないと判断し、勢い良く飛び退くことで、蹴りのダメージを減らすことに成功。再び空いた距離を詰めるべく再度突進を敢行した。
「まだまだぁ!」
今度は肩からのタックルで先にジンさんの体勢を崩そうと木刀を下に構えたまま突っ込んだ。体ごと突っ込めば先程のように避けることは難しいだろうと考えたのだ。
再び土煙を上げながら猛スピードで突進してくる俺に対してジンさんは、それでも冷静に俺の突進を、難なく腕一本で止めて見せたのだ。
二人のぶつかった衝撃により、ドゴン、と轟音とともに土煙が舞い上がる。
それだけの勢いをもってしても、ジンさんの体勢を崩すことはおろか、その余りのビクともし無さに俺が驚愕していると、肩を受け止めていたジンさんに物凄い力で俺は空中へと投げ飛ばされた。
「うおっ!?」
なんとか空中で体勢を整え、着地したと同時に前を向けば、すでに目前にジンさんが距離を詰めてきていた。
恐ろしいスピードかつ静かに距離を詰めてきたジンさんは、再度驚愕する俺をよそに恐ろしい精度と速度の打撃を放ってきた。
一手一手に凄まじい威力を持った打撃を捌き、受け、避け、時には喰らい、負けじと反撃したりもした。
此方の反撃はことごとく避けるくせに、ジンさんの攻撃はことごとく俺を捉えていた。
(ふ…フレイ姉と戦っているようだ…!!)
どれ程打ち合っただろうか。再びジンさんの蹴りを貰い、吹き飛ばされた俺は覚悟を決めた。このままでは勝てぬ。ならば次の一撃を、最強の一撃をもってあの男に勝つと。
木刀に自身のありったけの魔力を込める。
ドライグ国最高戦力であるフレイ姉が最も得意とする技を、ジンさんにぶつけてやるァ!
初陣での思わぬ苦戦に思わず熱くなる。
度肝抜かしたる!!
「ハァァァ!!」
「…む」
平然としていたジンさんが初めて反応を返した。俺の繰り出そうとする技に対して、初めて構えらしい構えを取ったのだ。
何となくだが、その姿を見れただけで嬉しく感じてしまった俺がいるのは気のせいでは無いだろう。
「行くぜぇ!俺の最大火力の技だ!」
「いや、まて、アレン」
「ハァァァ!超!必殺ぅ!………う?」
ありったけの魔力を今!解き放とうとしたところでジンさんから待ったをかけられた。
「お前の力はわかった。もう十分だ」
「へ?」
「ギルドを壊す気か?そんな技をここで撃ったらただでは済まんだろう」
「あ」
なるほど、確かにそうだった。
この技は軽く地形を変える破壊力を持っているのだった。
ジンさんとの戦闘でその事を完全に失念していた俺は、照れを隠すようにポリポリと頭を掻いて武器に込めていた魔力を消した。
が、1つ疑問が残る。
「あれ?ジンさんこの技知ってるんですか?」
そう、この技はフレイ姉が最も得意とする技なのだが、かつて初めて見せてもらったときに姉が自慢気に語っていたことを思い出す。
フレイ姉いわく。この技は喰らったものは必ず死んでるから、お前や他の幹部達、ゼノ様以外で知ってるものは居ないのだよ!フゥーハーハー!
と、ドヤ顔で言っていた筈だ、そう思って聞いてみたのだが。
「どのような技なのかは見れば何となく分かる」
と、非常に簡潔な答えが返って来た。
「お前の力は大体わかった。これからは俺と共に冒険者としてやっていくことを勧めるが…どうだ?」
「えっいいんすか!?」
こちらとしては願ってもない提案だ。依然として余裕綽々なジンさんに対して、最初は度肝抜いたろうと勇んでいたものの、結果はご覧の通りの惨敗。
ジンさんは確かDランクと言っていたから、彼に手も足もでなかった俺はもっと下のランクだろうし
こんなに強い人のそばで一緒に行動できるなんて初日からツイていると言う他無い。
「レベッカ、どうだろうか?」
「…………はえっ?えっ!?……終わった…のか?」
レベッカさんが唖然とした表情で俺とジンさんを交互に見ていた。
?…どうしたのかな。
ジンさんに声を掛けられても、暫くは反応はなく、戦いの余波でボサボサになった髪をそのままに、ポカーンとした表情で聞いてくる。
「うぃっす、完敗です。手も足もでなかったっす」
「謙遜するな。とても良く鍛えられている」
「そっすか!?ヘヘッ」
お互い全てを出していないとはいえ、手も足も出なかった事実に悔しくはあるものの、どうしてだろうか、この人に誉められると凄く嬉しい気分になる。
ベーやんや姉達と話している時のようだ。
俺とジンさんがそんな会話をしていると、レベッカさんが
「あー…えっと、じゃあ……ボロ負けって事だから、一番下のFランクからスタートって事で良いよな……え、良いんだよな?」
「良いっす!あざっす!」
まあ、あれだけボコボコにされたのだ、Fランクが妥当だろうなぁ
しっかし世界は広いなぁ!俺も随分と鍛えられてきたつもりだったが、フレイ姉クラスの人がまだDランクだなんて…旅にでて良かった。この世界はもっと楽しいことが待っているはずだ!!
「……????」
これからの生活にさらに胸を膨らませる俺と、未だに腕を組んで首をかしげているレベッカさん。涼しい顔して傷ついた地面を整え終えたジンさんと共に、ギルドへと戻っていくのであった。