アレンの冒険[世界は広いなぁ~]編   作:チョモランマ斉藤

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先にトイレ行っててよかった…

 

 

 

「さて、お前がアレンだな?ジンから面白い奴が居ると聞いていたが、なるほどな。一目見て分かったぜ。俺はカイだ、よろしくな!」

 

 

「は…はい」

 

 

本当に最初からやり直したよこの人。

流石にレベッカさんの頭を触るのは止めたみたいだけど、なんかしれっと一言増えてるし。

完全にさっきまでの件が無かったかのように振る舞っている。

 

 

カイさんが他のテーブルから余ってたイスを勝手に持ってきてドカッと座る。

 

 

「はー疲れた疲れた…流石に王都は遠いぜ…あ、お姉さん!オレンジジュースをくださいな!」

 

 

えっ!オレンジジュースあんの!?俺も欲しい!

くぅー!メニューが読めないのが辛すぎる!明日は図書館に行って読み書きの本を借りて勉強せねば!確か図書館の前を通った気がする!

 

 

「カイさん、オレンジジュースってどれだい?」

 

 

「おん?なんだよ、字ィ読めねーのか?コレだよコレ」

 

 

「ありがとう!お姉さん俺もオレンジジュースお願いします!」

 

 

わあい!久々のオレンジジュースだ!

俺がオレンジジュースを堪能していると、ルナさんとカイさんが楽しく会話していた。

ウマが合うのだろうか、初めて会った2人なのにもう仲良くなっている。

 

 

「ねえねえカイさん!王都に行ってたって事はカイさんってCランク以上なの?」

 

 

「おー。一応なぁ。ルナちゃんも冒険者なのか?」

 

 

「うん!まだEランクだけど、星は2つ溜まってるんだ!」

 

 

「お!後少しじゃんか!」

 

 

「そうなの!えへへ!」

 

 

「なぁなぁカイさんよ」

 

 

「あん?どしたよレベッカ」

 

 

「マリカがさっきならすっげぇ顔でこっち見てるけど、アンタまたなんかやったな?」

 

 

 

さっきまでルナさんと楽しそうに話していたカイさんの動きが止まる。

あのレベッカさんが少し青ざめた表情でカイさんにヒソヒソと話している。

レベッカさんをあんな表情にさせるマリカさんとは果たして?

 

 

「ひえっ」

 

 

マリカさんって昨日のエルフの女性だよな?

あの人が瞬きもせずにカイさんをじっと見つめている。え。怖い。なんだろう凄く怖い。

綺麗な顔の人がジーッとこちらを見ているだけなのに。

 

 

「バッカ!アレンそっち見んなって!レベッカ、1から10で言うとどのくらい?」

 

 

「9」

 

 

「9かぁ…どれだろう…クエストがめんどくさくなって行かなかった件かな…それともギルドから借りた馬車壊した事かな…依頼人と喧嘩した件かな…」

 

 

この人は…。

 

「あはは!カイさんロクでもないね!」

 

 

「な、この人ロクでもないんだよ……あ、マリカ来た」

 

 

レベッカさんの声にチラリと伏せていた顔を上げて見る。

コツコツと靴をならしてマリカさんがこちらにやってきた。

緑色の髪の、とても美しいエルフの女性。

瞬きせずに、カイさんから目を反らす事なく、とても美しい姿勢でこちらにやってくる。

なぜだろう。本当に怖いんだけど。前向けないんですけど。

 

レベッカさんは俯いている。

ルナさんですら黙っている。

ジンさんは……えっ?寝てるの!?なんで!?

 

 

 

「カイさん」

 

 

「………や、やあマリカ、おつかれ」

 

 

「ええ、お疲れ様ですカイさん。ねえ、カイさん。カイさんは王都からはいつお戻りになったのですか?」

 

 

「えと……3時間くらい前…です」

 

 

「3時間。そうですか。3時間。とてもこちらにいらっしゃるまでに時間が掛かりましたね?」

 

 

「えと……その……」

 

 

「私は貴方が来るのをずっと待っていたのです。ずっと。ずーっと。貴方が来なければ私の業務は終わらないのです。貴方からの報告を副ギルド長に私も報告しなければならないのです。貴方がこちらに来るまでの間私はずっと待ってました。同僚が楽しそうに食事をしているのを見ながら私はずっと待っていました。ねえ。カイさん。私は言った筈ですよね。王都から帰ったら報告してくださいねと。言いましたよね?言ったんですよ私。帰れないから。本日の業務が終わらないから。王都へ向かわれた他の皆様は既に報告されましたよ。そうですね、3時間も前の話です。なのに貴方はジュースなどを飲みながらとても楽しそうにお話していらっしゃいますね?羨ましいですよカイさん。とても羨ましいです。何度目でしょうカイさん。貴方にこうしてお願いするのは。何故でしょうか。教えて欲しいですカイさん。貴方へのクレームを何度処理したことでしょうか。何度依頼人の元へ伺って謝った事でしょうか。おやカイさん。どうされました?土下座などして。寒そうですね。震えてるじゃ無いですか。ギルド内はとても暖かかったですよ。外は寒かったですか?」

 

 

「ご…」

 

 

「ご?なんでしょうか?よもや。よもやゴメンナサイでしょうか?まさか。まさかですよねカイさん。そのような一言で私の溜飲を下げようとでも?違いますよね。違う筈です。ええ。そのようなことがあってよい筈がないのです。おや?どうなさいました?とても。とても震えているじゃあないですか……………ねえ?カイさん」

 

 

 

いつの間にかギルドが静まっている。

皆マリカさんの迫力に圧されて一言も喋れないでいた。

いつの間に移動したのだろうか。ルナさんとレベッカさんが肩を抱き合って震えている。

全員が、カイさんの次の一言に注目していた

 

 

 

「ごめんなさい、もうしません。2度としません。次から必ずいの一番に報告に向かいます。今度こそ本当です。嘘ついたら腹切ります」

 

 

土下座したままカイさんが震えた声で言う。

 

 

「カイさん。顔を上げてください」

 

 

「ハイ」

 

 

ゆっくりとカイさんが顔を上げる。涙目になっていた。

無表情のマリカさんがカイさんに顔を寄せる。

瞬きは、してない。目のハイライトも消えている。その状態でゆっくりと、ゆっくりと時間をかけてカイさんに顔を寄せていくマリカさん。

鼻と鼻とがくっつきそうなほど顔を近付けたマリカさんが一言

 

 

「ヤ ク ソ ク デ ス ヨ ツ ギ ハ ナ イ デ ス カ ラ ネ 」

 

 

「………………………ハイ」

 

 

カイさんが喉の奥から絞り出したような返事を聞いてしばらく無言のマリカさん

ゴクリと誰かが息を飲む音が聴こえた。ギルドの誰かだったかもしれない。カイさんかもしれない。俺だったかもしれない。

 

 

 

「ふぅ。分かりました、カイさんも忙しいのでしょうし…次からはよろしくお願いしますね?さ、報告お願いします」

 

 

「はい!すぐ行きます!」

 

 

カイさんから顔を離し、とてもにこやかに笑ったマリカさんが俺には女神に見えた。

カイさんが立ち上がってマリカさんと共に窓口へと向かっていく。

暫くしてから、再びギルドに喧騒が戻った。

 

 

「こ…怖かったぁ…!」

 

 

「マジで怖かったなマリカの奴…ありゃ目がマジだったぜ……」

 

 

「ひえぇ…おっかねぇ…」

 

 

「む……ん?カイが来ていなかったか?どうしたんだお前達、肩など寄せあって」

 

 

 

俺達3人があまりの恐怖に震えていると、ジンさんがようやく起きてきたのか、とても惚けたことを言う。

やはりこの人は只者ではないと痛感した。

 

そしてカイさんは本当にどうしようもない人だな、とも。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

レベッカさんとルナさんが南区への最終バスが出るからと、その日の食事会はお開きになった。

真っ白なカイさんとジンさんとで、2人を見送る。

彼女達がこちらに来るのは次は来週だ。

 

 

「はー!……怖かった」

 

 

「いや、なにやってんのさカイさん。あんなのカイさんが100悪いよ!」

 

 

彼女たちの乗ったバスを見送り、ようやく一息ついたのか改めて先程の感想を漏らすカイさん。

俺のツッコミにバツの悪そうな顔をしている。

 

 

「いやぁ、ちょっと色々あったんだよ」

 

 

「どうせロクでもない事だろう」

 

 

「うるせー!寝てたクセに!何であの状況で寝れんだよお前は!」

 

 

ジンさんの一言にカイさんが噛みつく。

いや、本当にロクでもない事なんじゃないかと勘ぐってしまう。

夜の町を男3人で歩く。遅くまでやっている飲食店以外の明かりのない町はとても静かだ。

 

 

 

「それで?その色々とはなんだ」

 

 

「うっ……」

 

 

「カイさん?なんでそこで言葉に詰まるの?」

 

 

「いや、それが…」

 

 

カイさんが俺達に事情を説明しようとしたところで

 

 

「あー!居たぁー!副団長!カイさんが居たよー!」

 

 

と、静かな町に女性の声が響く。

その声を聞いて、カイさんが顔をしかめる。

そんなカイさんを見て俺とジンさんが顔を見合わせる。

またロクでもない事をやったなこの人は。

 

 

「ここに居たのね、カイ」

 

 

「やっと見つけた!」

 

 

「カリンにサリィか」

 

 

「あら、ジン。お久しぶり」

 

 

「こんばんはジンさん!」

 

 

 

カイさんを探していたであろう、ジンさんにカリンとサリィと呼ばれた人物。

背の高い女性がカリンさんかな?緩くウェーブがかかった短い髪の、茶髪の女性

そしてサリィと呼ばれたオーガ族の女性。エリィさんと違って肌が赤い。背の高いオーガ族にしては、随分と小柄だ。

 

 

「カイを探していたようだが、また何かやったのか?」

 

 

「そうなの!聞いてよジンさん!カイさんったらまた私達のクランの馬車に勝手に乗ったんだから!無賃乗車だよ無賃乗車!」

 

 

「お前………」

 

「カイさん………」

 

 

俺達がカイさんを見ると、カイさんは隅っこで小さくなっていた。

ほんとどうしようもないなこの人は。

 

 

「いや、俺だって王都に行くときゃ自分で行ったさ、でもよ、知ってるか?アレン。王都にゃ色んな世界の食材が集まるんだぜ?最初は王都なんて行きたくねーと思っていたけど、あの市場は良い、とても良い。んでな?いっぱい買う。珍しい食材をいっぱい買っちゃうんだよ。したらお前、荷物が重いなーって。でも馬車は高いなーって。そしたら丁度フォルトゥナの連中が帰るところだったから、乗せて貰った訳ですよ」

 

 

「カイさん……アンタって人は…この2人の様子だと許可貰ってないじゃないか!乗せて貰った訳ですよじゃないよ!この国に初めて来た俺でもやっちゃダメだってこと位分かるよ!」

 

 

「そーだそーだ!」

 

 

「うん。良いことを言う少年ね」

 

 

 

すみません。と再び謝るカイさん。

その姿はとてもしょんぼりしていた。

 

 

「大方、彼女達から逃げ回っていてギルドへの報告が遅れたのだろう」

 

 

「まあ…ハイ」

 

 

やべーよこの人。とてもダメな人だ。

フォルトゥナ?というクラン?の人達に謝って、なんとか許して貰えたみたいだけど、たぶんこの人はもう一回やる。何度でもやる。

 

出会って数時間しか経っていないけど、この人はダメな人だ、ダメな大人だ。

 

 

「次は無いからね、カイ。次やったら…そうね、私達のクランをピカピカに磨いて貰おうかしら」

 

 

「あ!それいいね副団長!わかった?カイさん!」

 

 

「え?そんなんでゆ……なんでもないです、気を付けます」

 

 

しっかりと90度に腰を曲げて2人を見送るカイさん。

まるで反省していないその様子を俺とジンさんが呆れて見ているのであった。

 

 

帰り道、3人で再び静かな道を行く。

気になっていたことをジンさんに聞いてみる。

 

 

 

「さっきの人達は?ジンさん」

 

 

「ああ、彼女達はこの東区の代表的なクラン…冒険者の集まりでな、名をフォルトゥナという。先程のカリンという茶髪の人間の女性、彼女は副団長でBランクの猛者だ。オーガ族のサリィはCランクだ」

 

 

「ほへー。クランか…」

 

 

「因みに団長はAランクだぜ。この町でも数えるくらいしか居ない」

 

 

「ふぅん…あれ?カイさんは?」

 

 

「俺はCだ、間違って上がっちまった。定期的に王都に行かにゃならんて知ってたら上がってなかったのに…ジンが羨ましいよ」

 

 

「えぇー……上がっちゃったって…」

 

 

「まあ、良いんじゃないか?Dランクも討伐系は少ない。カイに連れていって貰うと良い」

 

 

「えぇー…」

 

 

「なんだその反応はコラー!連れてかねーぞコラー!アレンのクセに生意気だぞコラー!」

 

 

 

なんて、カイさんとじゃれながら帰る。

この人はどうしようもない人だけど、どこか憎めない。そんな人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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