アレンの冒険[世界は広いなぁ~]編   作:チョモランマ斉藤

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2話

 

 

「…………………」

 

うっそうとした木々の生い茂る森のなかで、俺は息を殺して隠れていた。

周りには強力な毒をもつ魔蟲や危険な魔物達も居るが、ソイツ等から隠れている訳じゃあ無い。

もっと危険な相手から逃げているのだ。

 

魔王城から10㎞程離れた場所にある広大な魔の森。ろくに訓練をしていない人が迷い混もうものなら、ものの数分であの世行きな恐ろしい森。

 

そんな森で俺は索敵魔術を全開に展開し、かつ魔力をその辺をうろつく魔物クラスまで下げて魔の森から出ようとしていた。

今の俺ならば、魔力を下げた所でこの辺りに生息する魔物達に遅れをとることは無い。

 

(……行けるか…?)

 

索敵魔術とは自分を中心としたレーダーを展開する基礎的な魔術だ。

自分にとって害のある物、そうでない物を振り分ける便利な魔術。これの精度によって自分の生き死にが掛かっているのだから、真っ先に叩き込まれた。カーチャン直々に。

 

察しの良い皆さまならお分かりだろう。そう、俺は今、隠密部隊長のアリア姉と訓練中である。

勝利条件はこの魔の森からアリア姉の索敵を潜り抜けて脱出すること。

 

(……よし!)

 

焦らず、されど急いで静かに俺は駆け出した。

なんとか森の出口まで索敵範囲が届く距離まで近づく事が出来た。アリア姉程の魔力が索敵に引っ掛かれば一瞬で気付くし、何よりこの距離だ。フレイ姉に鍛え上げられたこの俺の脚力をもってして抜き去ってくれる!

 

「!!!」

 

森の出口まで残り2㎞といったところで、俺の索敵範囲に危険を感知する反応があった。

俺の後方数㎞離れた所だ。この反応は間違いなくアリア姉であり、恐ろしいスピードで迫ってきた。

 

だが!しかし!ふはは!甘いぞアリア姉!!シュラール産の蜂蜜がごとき甘さよ!!森の出口まで俺は残り500m!反応はまだ3㎞後方!勝った!ついに!俺は!幹部が一人を打ち破る程に成長したのだ!うはははは!

 

全速力で走り出した俺は笑みを浮かべて勝ちを確信した。今の俺のスピードの方がアリア姉より僅かに早い。たとえヨーイドンで駆け出しても俺の勝ちは揺るぎ無いのだ!!ゴールは目前だァ!

 

「ふはは!遂に勝ったぞ!やれば出来る子なんだよぉ!!」

 

 

 

 

「ふーん、誰が?」

 

 

 

隣 か ら 声 が し た 。

 

 

「ん?誰が、誰に勝ったって?アレンちゃん?」

 

楽 し げ な 声 が 、 隣 か ら し て い る 。

 

うわぁぁぁあ!!?アリア姉!?なんで!?隣からなんでぇ!?

 

俺は心底驚いた顔で声のする方を見た。そこにはニコニコと笑いながら汗1つ流さずにピッタリと俺に並走する黄色い髪を三つ編みにした、可愛い少女の姿が!!

 

「はい!ざんねーん!今日もアレンちゃんの負けだねぇー!」

 

「 」

 

出口目前にして俺は捕まった。捕獲された。

 

なんで!?反応めっちゃ後ろだったじゃん!!隣に反応なんて無かったじゃん!??分身!?分身したの!??飛んできたの!??

 

「へっへー!アリアさんお得意の転移魔術だよー!」

 

ピース!ピース!と、天真爛漫に言い放つアリア姉に俺は驚きを隠せない。

 

転移魔術。この世界で貴重な魔術の1つであり、取得者は殆ど居ないとされている。

自身を狙った場所に文字通り転移させる魔術で、使用者は膨大な魔力と引き換えに空間転移を可能とする。

転移範囲は使用者によって様々との事だが(ウィン姉談)、少なくともアリア姉は数㎞先から飛んでくる事が出来る。てか出来た。

 

無論、アリア姉が転移魔術を得意としている事など分かっていた事なのだが、俺が驚いているのはソコじゃあない。

 

彼女が魔力を抑えた状態で、かつ、猛スピードで移動しながらこの魔術を行使したことに俺は戦慄を覚えたのだ。

 

本来、この魔術を使用する際には大量の魔力を使用する。発動時はもちろん、転移先でも、だ。

それにめちゃくちゃな集中力を必要とし、何か別の行動をしながら転移を行う等もってのほか。狙った場所に飛べずに、転移先が地面の中でしたーなんて、笑えない事態になる。

 

突然隣に現れた程度であれば感知出来るし、すぐさま迎撃に移ることだって今の俺ならば可能だ。

それだけの訓練をフレイ姉としてきたのだ。余裕よ余裕。

 

今まではアリア姉の転移魔術を感知し、接近された瞬間に戦闘態勢を取り、迎撃→ボコられる

この流れだったのだが、今回は俺に感知などさせずに捕獲してみせたのだ。

いったいどれ程の魔力コントロールが必要なのか。

全く検討がつかない。

 

「え、なに、そんなん出来たの…?今までのは遊びだったの…?」

 

「うん!」

 

にっこーっと笑う彼女に俺はこの勝負に勝つことは不可能なのではないかと思うのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ずるくね!?あんなん勝てないじゃんよ!」

 

「あらあら、うふふ」

 

薬品の匂いがツンと鼻を刺激する、そんな部屋で俺は、アリア姉の力のあまりの理不尽さに、憤慨しながら魔の森で採取してきた薬草達を選り分けていた。

 

怒れる俺の目の前で穏やかに笑う緑色の髪の乙女は我らが魔王国の癒し手、俺の最後のユートピア

シェリス姉。この国の医療長である。

 

今俺は、アリア姉との訓練の愚痴をブツブツ言いながら薬草を治療用、毒物用とに分けている。

魔の森は入るものを選ぶ怖い森だが、薬草の宝庫でもある。

薬草も多種多様あり、医療用に使用される物から、無味無臭の劇毒の材料まで、かなりの種類の植物が生息している。

 

俺はシェリス姉にそんな薬草達の知識と精製方法を教わっていた。

ちなみに、俺はこの訓練?授業?が一番好きである。

ウィン姉の座学も面白いっちゃ面白いのだが、たまに実技があるものの、大体が座りっぱなしで話を聞くだけの授業が眠くて眠くて……まあ、寝たらめちゃくちゃ怒られるが。

 

だが、この授業は実際に作業しながらな事が多いので、俺は気に入っていた。

シェリス姉は優しいしね!

 

しかし、そんなシェリス姉だが怒らせると一番怖い。

かつて、まだ俺が9歳かそこらの頃かな、採取した薬草で勝手に薬品を精製してしまった時には烈火の如く怒られた。

どうやら回復薬を作るつもりが、どうやってか劇毒を作ってしまったらしい。

 

らしい、というのは当時の俺があまりの恐怖に失神してしまい、その時の記憶を完全に忘れてしまっていたからだ。

あれ?なんかシェリス姉機嫌悪くね?なんて思っているとアリア姉が教えてくれた、真顔で。

 

後日、二人にも怒られるのを覚悟でフレイ姉とウィン姉に事情を話して、なんとか着いてきて貰ってシェリス姉の元に謝りにいったのだが、シェリス姉の余りの剣幕に2人が俺を庇うというなんともカオスな展開となっていた。

 

「皆アレンの事を可愛がっているから、格好いい所をみせたいのよ」

 

昔のトラウマを思い返しながら作業をしていると、シェリス姉が微笑みながらそんな事を言っている。

 

「俺としては、早く一人前と認めて貰いたいんだけどなぁ」

 

勿論、カーチャンを含め、幹部の全員から愛されているという自覚はある、認めるのは非常に恥ずかしいけど。

訓練は厳しいが、厳しさの中に愛情も感じている。

それぞれ多忙な業務の合間に俺を鍛えてくれているのだ、その事に気付かない程子供じゃあないと思いたい。

しかし、俺だって男だし、もう17歳なのだ、物語の英雄達は俺くらいの歳にはもう偉業を達成している。

 

「ふふふ、どうだろう、アレンってまだ少しおっちょこちょいなところがあるからなぁ」

 

シェリス姉が微笑みながら言う。

俺は少しバカにされたような気がしてムッとしてしまった。

それがきっかけとなって手元が狂ってしまい、回復薬の精製を失敗してしまった。

 

「あっ」

 

「ほら、ね?」

 

………ぐぬぬ。

 

 

 

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