カイさんの操る馬車に乗ってテロー平原へと向かう。
こうして2人で馬車に乗っていると、デビットさんとの2人旅を思い出す。
デビットさんはスケベではあったが、デビットさんの家族に対する想いや、今の時代に対する願いはとても共感できた。
俺は生まれる前の、この大陸の事を知らない。
歴史は学んだが、それはドライグ国の歴史だけだ。
他の国や大陸の事はほとんど知らない。
カーチャンがこの大陸で魔王ギリアムと戦ったことなど知りもしなかった。あのウィン姉が教え忘れるなんて考え難いから、意図的に隠していたのかな。
何故?なにか理由があるのだろうが、今の俺には知る由もない。
まあ、考えても仕方がない。姉達やカーチャンが俺に教えなかったのならば、知る必要がなかったのか、知るべき時がいずれくるのか。それだけの話だ。
突き抜けるような青空の下、俺がそんな事を考えているとカイさんが今日のクエストについて説明してくれた。
「今日はテロー平原でポーション用の薬草集めだかんな。この籠がある程度埋まれば達成だ。アレン、ソナーは使えるか?」
荷台に積み込んだ籠を親指で示すカイさん。
結構大きい籠が2つ。俺の分とカイさんの分だ。
これを一杯にするのは苦労しそうだが、テロー平原にはポーション用の薬草が沢山生えているのかな?
「ソナー?探知魔術の事だよね。うん、使えるよ!範囲はどれくらいかな…結構広いと思うけど」
「お!なら頼りにしてるぜ!」
アリア姉との訓練で否が応でも鍛えられたソナーと、索敵魔術…この国ではサーチか。
比較対象がアリア姉しか居なかったから自分のソナー能力がどれ程のものかは分からないが、まあ魔の森の半分くらいは探知出来たから、足手まといにはならないと思う。
「そういや、お前生まれはサタナキアなのか?」
「うん。ドライグ国だよ、ずっと」
「ふーん?サタナキアからここまで来たのか?」
う。カイさんが世間話で俺の事を聞いてくる。
デビットさんとの旅ではあの人が一方的に喋っていたから、自分の事を話す機会があまり無かった。
どうしようか。素直に言っても信じて貰えないだろうし、この大陸に来てまでカーチャンの名前を出したくない。
それが嫌で、サタナキア大陸以外を目指したのに。
「…ま!そういうこともあらぁな!」
「え」
俺がうんうん唸っていると、カラカラと笑うカイさん。
「俺もジンも、他所から来たんだよ。お前と違って最初は言葉分かんねーし読み書きも出来なかった。苦労したぜ…この国の仕組みもよくわかんねーしよ。ただまあ、住んでみると良い国だって事は分かった」
「そうなのかい?」
「おうよ。なんか来る前にデカい戦いがあったんで最初は大陸中がゴタゴタしてたみてーだが、今じゃご覧の通り平和なもんさ…全員で前向いて歩いていこうって時だ。誰が何処から来て、何の目的で~なんて、気にするだけ無駄だぁね」
「……」
「ありのままで居りゃ良いのさ。中にはサタナキアの連中を恨んでる奴だって居るが、気にすんな。見当違いだよ。そもそもこの大陸の危機を救ったきっかけもサタナキアの魔王らしいしな」
「カイさん…」
知り合う人全員が良くしてくれたこの国で、考えないようにしていたこと。
この大陸に突然戦いをしかけた魔王ギリアム。
デビットさんがいうには、沢山の人が犠牲になってしまった大きな戦い。被害にあった人達でサタナキアの人を恨んでいる人は居るだろう。
そんな話は俺には知ったことではないのだと、笑い飛ばせる事は出来なかった。
話を聞いてからなんとなく、自分の出身地を書くときに緊張していたことを思い出す。
「お前みたいなハーフも今は珍しくない。それこそサタナキアとのハーフだって居る。全員で前に進んだ証が、お前達ハーフなのさ」
「この町に来る時にお世話になった人も同じ事を言ってくれたよ。こんな感じで2人で馬車に乗ってさ」
「ほーう?そりゃ良い。どんな奴だったんだよ」
「あー………エロ学者」
「なにそれ詳しく」
デビットさんの話をするなら、彼の過去に触れなければならない。
本人の許可なく他人にペラペラと話すのは失礼だし、そんな事を俺から人に伝えるなんてやってはいけないことだと思う。
というか、道中娘さんの話とスケベな話しかしてなかったし、あの人。最後の最後でとても真面目な人だと分かったが、それまでは紛れもなく親バカエロ学者であった。
「そうか…風圧がおっぱいの感触に……盲点だった」
「そういやさ、俺みたいな半人前ってまだ会ったこと無いけどこの国にも居るのかい?」
「あん?半人前?おいおい、そりゃ昔の蔑称だぜ。自分で言うなよ自分で」
「え!?そうなの!?…知らなかった…てっきり良い意味かと…」
昔、実は一度だけシェリス姉に連れられて城下町に行ったことがある。
まだほんの小さな時の話だ。シェリス姉に手を引かれて城下町を歩いている俺に近所の子供達が俺を指差してやーい!半人前!半人前!と笑っていた。
俺は初めて出会う同世代の子供達が俺を指差して何故笑っているのか分からなくて、でもとても楽しそうにしていたから
いえーい!半人前だー!
と笑っておどけて見せた。
俺と子供達が笑っていると、シェリス姉の握っていた手の力が強まった。
痛いよ、シェリス姉
とシェリス姉を見上げれば。
なにかを必死で堪えるように唇を噛み締めるシェリス姉。
ごめんね、ごめんね。と俺に何度も謝るシェリス姉に訳が分からなくて。
結局すぐに城へ帰ることになったから、城下町へのお出掛けはすぐに終わってしまった。
あんな顔のシェリス姉を見たことなくて、半人前という言葉の意味を聞くことはなかった。
ああ、そういえば…それからか。城と魔の森の往復の毎日が始まったのは。結局その日以降、俺が城下町へ出かける事は無かった。
「アレン…お前…」
城に住んでいた事とかを濁してカイさんに昔あった出来事を話すと、なんとも言えない表情のカイさんが俺を見ていた。
それはそれとして。
「なるほど、アイツ等俺をバカにしてたのか…くっそー!アイツ等めぇー!危うく恥をかくところだったじゃないか!はー…気を付けよ」
「……フッ」
「?どうしたんだい?」
「なんでもねーよ!そら!テロー平原が見えてきたぞ!薬草を採って採って採りまくろうぜ!」
「オー!!」
「よーし!行けぇシュナイダー!駆け抜けろぉ!」
勢いよくポポに声をかけるカイさん。
ポポはヒヒーン!と1つ嘶いて、目的地へとゆっくり俺達を運んでいった。
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テロー平原はその名の通り広々とした場所だった。
町の外というだけあって小型のモンスター達が居たが、襲ってくる様子も無いし近づけば逃げていく位の下級モンスターだらけだ。
奥の方に目を向ければ、キラーウルフの目撃例のあった森林が見える。
まあ、ここから離れているし、向こうから来てもこれだけ見晴らしの良い場所だ。すぐに気付けるだろう。
しばらく馬車に乗っていたので、凝り固まった体をカイさんと2人して伸ばした。
目的地について籠を下ろしたり準備をしていると、カチャカチャとカイさんがシュナ…ポポを解き放っていた。
「大丈夫なの?キラーウルフが居るって言ってたけど」
「心配するな。俺のシュナイダーはそんじょそこらのモンスターに後れを取る事はねー。な!シュナイダー!」
多分カイさんのではないし、名前を正す気は無いようだ。
ポンポンとポポの体を叩いて問いかけるカイさんに応えるようにヒヒンと嘶いてポポは平原を元気よく駆け出した。
ポポを見送ると、籠を背負ったカイさんが歩き出す。
「よーし、早速採取していくか。アレンはヨギって薬草知ってるか?」
「ヨギ?うーん。聞いたこと無いなぁ」
「よっしゃ、じゃあまず一本見つけてから、ソナー頼むな」
「はーい」
カイさんはソナー使えないのかな?
何度もこのクエストを受けているなら使えても良いと思うけど…いや、この人の事だからしらみ潰しに探していても不思議ではないか。
「お、あった。こいつがヨギだぜアレン」
しばらく2人で薬草を探していると、カイさんが目的のヨギを見つけたのか俺に見せてくれた。
ギザギザの葉っぱが特徴的な薬草ヨギ。
ふぅん、これがヨギか。
俺は持ってきていた手帳にヨギをスケッチする。
「ねえカイさん。これはポーション以外になにか使い道はある?料理に使ったりだとか、お茶にしたりだとか」
「おん?いや、ヨギはどこにでも生えてて採取が簡単な分ポーション以外の使い道は無いな。出来るポーションも回復量の少ない初級ポーションだし」
「ふぅん」
スケッチをする俺の手帳を覗き込んで上手いもんだと誉めてくれるカイさん。
へっへっへ。よし!スケッチも終わったしヨギの放つ微量な魔力も覚えた。これでソナーが使える。
「よーし!カイさん、この辺りをソナーすればいいかい?」
「おう。ソナッてソナッて」
目を閉じて、自分の周りを囲む円を想像する。
その円を自分を中心として広げていくのがソナーだ。
索敵魔術…サーチの方も同様で、自分を中心とした円を広げていく魔法だが、込める魔力と目的が違う。
ソナーは植物や鉱物等のモノを。
サーチはモンスターや人物を探すのに用いるのが一般的な使い方だ。
この魔法も練度によって精度が変わる。
練度が高ければ円の範囲も広くなりピンポイントで目的のモノを絞り混む事だって出来る。
サーチの方は相手の魔力量まで分かる、便利な魔法だ。
俺がソナーを展開すると、この平原にちらほらとヨギの反応があった。
うーん…少し少ないような気がする。
その事をカイさんに伝えると
「そっか。まあまだ育ってないのかもな。とりあえずヨギを採取しながら森林の方へ行ってみようぜ」
「え?でもキラーウルフが…」
あ、カイさんがとても悪い顔をしている。
この人は…。
「さ!やるぞーアレン!日が暮れちまう」
ニヤリと笑って歩き出すカイさんを呆れて追う。
て言うか俺が場所教えないと分からないんだからさっさと行かないでよ!
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「さっきのハーフの話の続きだけどよ」
2人でヨギを採取しているとカイさんが話し始める。
そういえば話の途中だった。
「ハーフもここ数年当たり前になったから、この国のハーフはまだ皆学園に通ってるんだよ。アレンは17歳だったよな。お前が第一世代みたいなもんだ」
なるほど。あの戦いの後に他種族との交流が始まったらしいのでまだ皆若いのか。
むしろ俺が一番年上まであるのか。
「よし。この辺は大体採り終わったな。ようしアレン。もう一回ソナー頼むわ。あとついでにサーチも。使えるだろ?」
籠の中身は…半分くらいといったところか
この平原全てを採り終えたわけではないが、ずいぶんと森林の近くに来ていた。
もー。この人最初からこの森林に来る予定だったでしょ!しれっとサーチまで要求してくるし!
カイさんに言われるままにソナーを使う。
お!反応が凄くあるな。この分だとこの籠も直ぐに一杯になりそうだ。
次はサーチか………?ん?
「あれ?」
「どしたー?」
「サーチの端っこに一瞬反応があったんだけど、すぐに消えちゃった…」
「ふぅん?なる程ね」
俺の説明に納得顔のカイさん。いやいや1人で納得してないで俺にも教えてほしい。
ここからは手分けして採取しようぜ、とカイさんはさっさとヨギ採取へと向かっていってしまった。
さっきの反応はなんだったんだろうか。
俺の勘違いという事はないだろう。サーチは一番自信のある魔法だし。
まあ、遠い所での反応だったし、それ以外に危険な反応も無い。
ポポも元気に走り回っていたし。
籠の中身が程よく埋まった頃、カイさんが俺の様子を見に現れた。
「調子はどうだ?…お!予定よりも沢山採れたな、そろそろ帰っか」
「うん」
カイさんと2人して森林を抜けて馬車の元へと向かう。
平原を駆け回っていたポポの姿は見えない。
森林に入ったのかな?
「おーい!シュナイダー!」
カイさんがポポを呼べば、しばらくしてから俺達とは別方向の森林からポポが姿を表す。
おお、凄い。名前はずっと間違えてるけど。
?ポポが背中に誰かを乗せている?
あれは……男性かな?
カイさんと2人で顔を見合わせて、ポポの元へと向かう。
!…これは!
ポポの背中に気絶してうつ伏せで乗っていたのは、背中を大きく切り裂かれた男性だった。
男性は鎧を着ていたが、その上からでも分かるくらいに深く爪かなにかで切り裂かれていた。
「アレン、ポーション作れるか?」
「任せて」
カイさんの問いかけに答えてすぐさま行動に移す。
幸い俺達の背中にはヨギがたんまりある。回復量の少ない初級ポーションしか作れなくても、これだけあればこの人を回復できる量のポーションは作れる。
籠のヨギを複数使って中級相当の回復量のポーションを数本作成。この傷だと飲ませるよりも直接傷口にぶっかけた方が効率が良いかな。
作成したポーションを傷口に流すと、呻き声を上げる男性。
様子を見ながらポーションを使用していけば、1本と半分ほど使った所で男性が意識を取り戻した。
その間カイさんは森林の方を見ていた。
「……う…ん」
「目が覚めたかい?」
「ジニー!……うぐっ」
「いきなり動いちゃダメだよ!傷は塞がったけど血が流れすぎている、安静にしないと!」
「す…すまない……しかし…まだ、あの森にジニーが…」
男性は、オニールという名の人間の男性だった。
オニールさんの話によれば、彼は森林を抜けた先の村に住む男性のようで、最近目撃されたキラーウルフの調査で森林を捜索していた所、何者かに背後から襲われたらしい。
ジニーというのは同じ村に住むハンターの女性で、彼女と手分けして調査していた時に襲われたみたいだ。
襲われたオニールさんは突然の事で、相手の姿は見ておらず、死を覚悟したところに突然現れたポポに助けられたらしい。
風のように現れたポポに背中に乗せられてこちらに向かっている途中に気を失ってしまったようだ。
「あんた達、見たところ冒険者のようだが……ランクは…?」
「俺は新人で、F。あっちのカイさんはCランクだよ」
「そうか……そうか……」
俺達のランクを聞いて項垂れるオニールさん。
聞けば、オニールさんもジニーさんも冒険者登録をしており、ランクはCらしい。
森林に居るのは自分を一方的に殺しかけた相手だ、もしかしたら俺達が上級冒険者かと期待しての質問だったんだろう。
俺達のランクを聞いて悔しさを滲ませるオニールさん。
「クソッ!!…いや、すまん…あんた達には感謝してるよ……早くジニーを探さないと…くっ!」
ヨロヨロと立ち上がろうとするオニールさんだけど、貧血で直ぐに倒れてしまう。
俺が慌てて体を支えても、オニールさんは立ち上がろうとしてしまう。
「寝とけ寝とけ、そんな状態で森に行ってもたどり着く前に死んじまうぜ」
「カイさん…」
その様子を見ていたカイさんが呆れたようにオニールさんに言う。
話を聞いた限りでは、カイさんと同格のCランク冒険者を一撃で瀕死の重症を負わせる程の相手があの森に居るのだ。
俺達が行っても……。
「あーあー。薬草が随分減っちまったな…アレン、あの森に行ってまた集めてきてくれねーかな」
「え?」
「あんた…なにを…!?」
この状況にはとても不釣り合いな声色でカイさんが俺に声をかける。
きょとんとする俺と、驚くオニールさん。オニールさんがカイさんにどう言うことか説明を求めていた。
「なにをって…俺達ゃこの籠一杯のヨギを集めるクエストを受けてるんだよ。この量じゃクエスト失敗で報酬金が貰えないからよ」
「違う!新人冒険者にあの森に向かえだなんて…くっ」
「おいおい、あんま無理すんなってアレンに言われたばかりだろ?」
カイさんの言葉に理解が追い付かないのか、非難の目を向けるオニールさん。
俺に突然薬草を拾ってこいだなんてなにを…?
カイさんはオニールさんを気にした様子もなく俺に顔を向ける。
「おいアレン」
「なんだい?カイさん」
「頼めるか?」
不敵に笑って俺に聞くカイさん。
その顔はとても。とても……。
「もー!しょうがないなぁ!行ってくるよ!2回目でクエスト失敗なんて俺も嫌だしね!」
「お…おい!無茶だ…!」
「よーし、アレン、あの辺りだ。あの辺りからヨギの波動を感じたようなそんな気がする」
「あの辺だね?」
カイさんがポポの現れた森林を指差す。
ヨギの波動ってなんだよ。適当な人だなぁと思わず苦笑い。
「このオッサンは俺が先に村に連れていっとくから、後で合流しようぜ」
「わかった」
「お…おい!」
尚も引き留めようとするオニールさんを脇に置いて、話を進める俺とカイさん。
カイさんがポポを馬車に繋いで、オニールさんを抱き抱えて馬車に乗せる。持ってきた道具もだ。
オニールさんが荷台でまだなにやら言っているが、まあ、気にしない。
「あの付近でソナーかサーチを使えば見つかる筈だ、まだ有るが、急いでいった方がいいな。分かりやすいのが2つある」
「了解」
随分と回りくどい言い方をする。まだ薬草を探しに行くテイで話を進めているのが少し面白い。
籠は2つとも荷台に積み込んだと言うのに。
カイさんのアドバイス通りなら、急いだ方が良いな。
誰か別の人に摘み取られてしまうかもしれない。
「じゃあ、行ってくるよ」
「おーう」
「お…おい!」
カイさんは手を振って、オニールさんは俺を止めようと手を伸ばして。
2人に見送られながら俺は走り出した。
魔力で体を強化して、猛スピードで。
あっという間にたどり着いた森林に、勢いそのままに俺は突っ込んだ。