アレンの冒険[世界は広いなぁ~]編   作:チョモランマ斉藤

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突然オラァ!(迫真)

 

 

 

アレンとカイも帰り、客が一人も居なくなった店内は、片付けを行う店員と、カチャカチャと食器を洗う音だけが響く。

 

レティシアは1人、カイの連れてきたアレンという少年について考える。

 

(あのカイが誰かと一緒にここに来るなんてね…どういう風の吹き回しかな)

 

少し汚れてしまった店内をモップで拭く。

店内はとても綺麗に清掃が行き届いているが、食事の後など往々にして食べカスなどが落ちているものだ。

しばらく拭き掃除を行っていると、新たな来客だろうか、再び店の扉が開く。

買い物袋を抱えて入ってくる背の高い女性と、小柄だが活発な印象を与えるオーガ族の少女。

 

 

「ただいまー!」

 

「お帰り。サリィ」

 

「あら、団長ったらまた拭き掃除?私たちに任せてくれて良いのに」

 

静かになった店内に新たな来訪者…否、住人が2人帰って来た。

サリィと、カリン。

カリンは店内の拭き掃除をしている自分達のクランの団長であるレティシアに微笑みながら声をかける。

 

「ふふふ、好きなんだよ。お帰りカリン。それに、今日はまだ来客の予定があるからね」

 

「ああ、そういえば今日だったわね」

 

レティシアの言葉に思い出したかのように頷くカリンは、抱えていた荷物をテーブルに置いた。

カリンの買い物袋を厨房へと運ぶサリィ。

厨房へ消えたサリィのとても元気な挨拶がこちらにも聞こえてくる。

一般の客は皆帰った。しかし、昨晩はもう一組まだ来客の予定がある。

 

 

別の部屋を掃除していたのか、1人の少女が階段から降りてきた。のほほんとした表情の少女だ。

 

 

「あー。副団長おかえりー。そういえばカイさん来てたよー。水くさいよねー。私達にも声かけてくれればいいのにねー。」

 

「あら、そうなの?ミニレ」

 

「うんー。もう一人友達と来てたよー」

 

「ジン?」

 

「違う人ー。赤い髪と黒い髪の男の子ー」

 

カリンからミニレと呼ばれた間延びした物言いが特徴的なウサギの耳を生やした獣人の少女。

彼女の言葉にああ、と納得するカリン。

先日カイを探している時に居た少年だろう、特徴がピッタリだ。

 

「知ってるの?」

 

「ええ、先日カイやジンと共に行動してたもの。とても良い子だったわ。そういえば、名前を聞いてなかった」

 

 

カリンの言葉に少し考えるレティシア。

ジンとも知り合いなのか。あの2人が気に掛けているとは珍しい。基本的に自由奔放な2人だ。以前にこのクランに誘ったときもあえなく断られている。

 

「アレンという少年だよ。面白い子だった」

 

「そっか。それにしても、カイがここに来るなんてね」

 

「ねー。副団長達がしつこく誘うからぱったり来なくなってたのにねー」

 

「酷い言い方。自分だって誘ってたじゃない」

 

 

やいのやいの言い合う2人を横目に、再び思案するレティシア。

カイはクランという組織にあまり興味を持っていないのだ。ジンも然り。

たまにフラリと現れて食事を楽しんでいくが、それは純粋にここの料理が美味しいからだと以前言っていた。嬉しい。

 

そんなカイがこのクランにアレンという少年を連れてきたのは、純粋に食事を食べる為だったのか。

はたまた、コイツにちょっかいをかけるなよと暗に我々に釘を刺しに来たのか。

もしくは、何も考えていないのか。

 

まあ、彼に関しては深く考えない方が良いというのもある。なにぶんとても刹那的に生きている人物だ。考えるだけ無駄である。

 

 

「団長。火は落とさない方がいいか?」

 

「そうだね。一応そのままにしておいて貰えるかな、エーゼ」

 

「ん」

 

 

調理場から顔を出したドワーフの男性の問いかけに応えるレティシアは、時計を確認してそろそろ最後の来客が来る筈だと準備を進める。

レティシアの指示を聞いたエーゼもまた、厨房へと戻って行く。

 

「カリンとエーゼとサリィ以外は帰っても良いからね。今日もお疲れ様。また明日も頑張りましょう」

 

 

はーい!と厨房からの数人分の返事を聞き、手にしたモップを用具入れに片付けようとして、止まる。出していた方が良いかもしれない。また汚れる気がする。

普通の客の来店予定ならば勿論片付けるのだが、これから来る客は普通ではないのだから。

 

 

 

時刻が明日を迎えようとしている頃に、最後の来客が店を訪れた。

 

 

「おう、失礼するぜレティシア」

 

「いらっしゃい、デミトリ」

 

黒のスーツをきっちりと着こなし、金髪をオールバックにした壮年の男性が、背後に部下を数人引き連れてやってきた。

レティシアからデミトリと呼ばれた男性。彼は北区を代表するクランの団長であった。

 

穏やかな笑みでデミトリを迎えたレティシアが用意したテーブルへと招く。

すまんな、と一声掛けて、デミトリは部下であるモヒカンが引いたイスに腰かける。

その背後に控えるように体格の良いモヒカンとスキンヘッドの男性2人が立ち、さらにその後ろにオーガ族の青年と、猫の耳を生やした少女が控える。

 

 

「今日は俺だけか。西も南も集まりが悪いな」

 

「南は仕方ないよ、学生だもの」

 

用意されたテーブルにはイスが4つ用意されていたが、今夜は2つしか埋まる予定はなさそうだ。

レティシアが席に着き、カリンとサリィがレティシアの背後に控える。エーゼは厨房で待機している。

 

お互いが向かい合う形になった空間で、サリィがムッとした表情でデミトリの背後、オーガ族の青年を見ている。

オーガ族の青年はサリィの視線に気付いたのか、ニヤニヤと笑って手を振っていた。

 

 

「そこの君。ここは禁煙だよ。消してくれないかな?」

 

「あー?」

 

レティシアから穏やかに注意されたオーガ族の青年は咥えタバコをしていた。

カリンも表情は変えなかったが、良くは思っていない。サリィは言わずもがな。

 

しかし、レティシアから注意されたオーガ族の青年はタバコを消すこと無く、むしろ煽るかのようにレティシアに半笑いで聞き返す。

 

「このっ!」

 

サリィがその行動に腹を立てて青年に飛びかかろうとする前に動いた人物がいた。

 

 

「テメェなにやってんだゴラァ!!」

 

デミトリの背後に控えていた2人の男性の内、モヒカンの方が、スキンヘッドの方へ殴りかかった。

 

ゴシャ!

 

と、およそ人から出ては良くない音がスキンヘッドの男性。ジョニーの頬から聞こえる。

ジョニーを強く殴り付けたモヒカン。ジョーイはさらに呻き声を上げるジョニーの脇腹をおもいっきり蹴りつけた。その衝撃で吹き飛び、うずくまるジョニー。

 

「えっ?」

 

突然のジョーイのジョニーに対する暴力に唖然とするオーガ族の青年。

オーガ族の青年は自分の横でうずくまるジョニーを呆然と見て、横にいるジョーイを見る。

 

 

「テメェ若ェのになんて教育してんだ!アア!?」

 

ゴスッゴスッ!とうずくまるジョニーの背中を蹴りつけるジョーイ。

目の前で行われる暴力をなすすべなく見ることしか出来ないオーガ族の青年。

 

口の中を切ったのか、綺麗に清掃されている床をジョニーの血が汚す。

 

「テメェなに床汚してんだオラァ!!」

 

と、それを見て更に激昂したジョーイは、今度はうずくまるジョニーの腹を蹴り上げる。

凄まじい力で蹴り上げられたジョニーは、その衝撃で浮き上がる。

 

ジョーイからの暴力が止み、フラフラと立ち上がるジョニーは、これ以上床を汚すことが無いように口の中に溜めていた血をゴクリと飲み込む。

意識が朦朧としているのか、ゆっくりとした動作でレティシアの背後に控えるカリンに訊ねるジョニー。

 

「すみません…モップを…貸して…いただけやすか…」

 

「なに人様の道具使おうとしてるんだお前ゴラァ!!」

 

ジョニーの台詞に更に更に激昂したジョーイは、三度ジョニーに殴りかかろうとするが、カリンが待ったをかける。

 

 

「そこのを使って、ジョニー」

 

「かたじけねぇ…です…」

 

ノロノロとした動きでモップを取りに行くジョニー。

その間、オーガ族の青年は勿論、その場にいる全員が声を出すことはなかった。

 

モップを持ってきたジョニーがフラフラと自分の血で汚してしまった床を拭く。

その姿を見てハッとしたオーガ族の青年が慌ててジョニーに声をかける。

 

「すみませんジョニーさん!俺がやりますんで!!!すみません!!」

 

床を拭くジョニーに駆け寄る青年がモップを取ろうとした時。

 

「テメェがノロノロしてるから若ェのが気にしちまったじゃねぇかオラァ!!」

 

 

と、再びジョーイがオーガ族の青年の横から飛び出し、ジョニーを蹴りつける。

再び吹き飛び、うずくまるジョニー。

 

 

「すみません!!ジョーイさんすみません!!タバコ消します!!勘弁してください!!」

 

「あ?…おう、寄越せ」

 

「えっ」

 

「タバコ寄越せ、カドゥ」

 

感情のこもっていない目でオーガ族の青年。カドゥに手を差し出すジョーイ。

青ざめた表情でジョーイに咥えていたタバコを渡すカドゥは、ガタガタと震えていた。

 

 

「おいジョニー、手ェ出せや」

 

「…うす…」

 

「やめっ!」

 

カドゥの悲鳴にも似た制止も空しく、差し出されたジョニーの掌でタバコを揉み消すジョーイ。

ジョニーの掌からジュウ、と嫌な音が聞こえる。

青白い顔でその様子を見ていたカドゥは、もはや声も出せずにジョーイとジョニーをただただ眺めていた。

 

なにも言わずにジョーイは歩きだし、カドゥを一瞥もせずに通りすぎ、デミトリの背後に控える。

ジョニーもタバコを握りしめ、フラフラと立ち上がり、綺麗になった床をチラリと確認し、重たい足取りでデミトリの背後へと控える。その顔は赤黒く腫れ上がっていた。

 

再び静粛の戻った空間に

 

 

「おい、オメーら」

 

と、デミトリの声が響く。

ビクリとするカドゥ。目の前で行われた暴力に完全に萎縮していた。

 

 

「なげーよ。毎回毎回なにやってんだ。すまねぇなレティシア。カリンに…サリィちゃん。おう、ソマリ。ジョニーにポーション渡してやれ」

 

「はい。どうぞジョニーさん」

 

「……む」

 

ソマリと呼ばれた猫の獣人からポーションを受け取り、一気に飲み干すジョニー。

その顔から腫れがひき、切った口も治ったようだ。

 

 

「おうカドゥ。2度とこの店でタバコ吸うなよ……お前はもう外に出ていろ」

 

「……は…はい!すみませんでした!!」

 

 

デミトリの言葉に深いお辞儀と共にレティシアに謝罪をするカドゥ。

カドゥの謝罪を受けたレティシアはヒラヒラと手を振って応えた。

デミトリの指示に従い外へ行くカドゥを見送るものは誰も居なかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さて……と。大丈夫?ジョニー君」

 

カドゥが退出し、一息つくレティシア。

微動だにせずデミトリの背後に控えているジョニーに声をかける。

 

「兄ぃの攻撃なんて全然平気っす」

 

「えっ。それはそれでお兄ちゃん傷つくんだけど?て言うか、お前太った?蹴ったときお兄ちゃん足痛めたかもしれないんだけど?」

 

ジョニーの言葉に反応するジョーイ。

2人は北区でも有名な仲良し兄弟であった。

先程の殺伐とした空気は何処へやら、とても和やかなものへと変わる。

 

 

「毎回毎回迫真すぎて演技だって分かってても怖いんだけど!」

 

「ねー!やりすぎだよ!」

 

ソマリとサリィが兄弟を責める。

2人は頭に手をやって申し訳なさそうにしている。

とても先程の人物と同一人物とは思えない光景だ。

 

「さっきの彼は?」

 

「ジョニーの奴が北区で暴れているのを見つけて拾ったんだけど…言うこと聞きやしねぇ。今回ので静かになってくれればいいんだけどなぁ」

 

カリンの問いかけにジョーイがモヒカンを撫でながら答える。

無礼な彼に随分と手を焼いているようだ。

しかし、ジョニーには悪いがあのカドゥの狼狽えようは笑いを堪えるのに大変だったとカリン。

 

「まあ、なぁ…ありゃいずれ問題を起こすかもしれん。そんときゃ容赦なくやってくれや」

 

「そっちで面倒見ないの?」

 

カリンの問いかけにも、デミトリはなんて事無いように答える。

 

「ウチのクランは託児所じゃねぇんだ。居場所はくれてやるが、尻は拭かねぇ」

 

「ウチとは大違いだね」

 

「ハハハ、まあな…まあ、あんな奴でも飼っときゃ役にたつかもしれん…何かのな」

 

「怖い話?」

 

「怖い話」

 

「ひえー…」

 

デミトリの笑顔に怯えるサリィ。

団長が違えばこうもクランとは違うものかと改めて思うサリィであった。

 

実際、デミトリのクランに在籍するメンバーは血の気が多い。数々の問題も起こしている。

だが、彼がこうして未だに町での権力を確保出来ているのは、それを揉み消すだけの力を持っているからだ。

 

あまり問題を起こしすぎるメンバーは、帰れない討伐クエストに出てもらうようだが。

彼が心から信頼しているのは、金と兄弟と猫の獣人だけであった。

 

 

「そうだ。西も南も居ないからサラッとだけだが、近々シュラールの姫様がアラドエルの王都に来るという情報をつかんだ」

 

「へえ?それは面倒だね」

 

「ああ、詳細が分かったら全員集める。詳しくはその時に」

 

「わかった」

 

デミトリはそれを伝えると、席を立つ。

もう帰るようだ。

 

「見送りは?」

 

「いつも無いだろう。帰るぞ」

 

1人減った部下を引き連れて店を出ていくデミトリ。

本当にそれだけ言いに来たようだ。

兄弟とソマリが頭を下げて出ていく。

 

外で待機していたであろうカドゥの謝罪の言葉が静かになった店内にも聞こえてきた。

効果はてきめんのようだが、はたして。

 

 

 

「はー。団長にあんな態度とるなんて。オーガ族の面汚しだよあいつ!」

 

「あれで反省しなければ、いつか痛い目にあうよ。怒ってくれてありがとね、サリィ」

 

「えへへへー」

 

改めて怒りを露にするサリィに、優しく微笑んでお礼を言うレティシアは本当に気にしていないようだ。

レティシアに感謝されてはにかむサリィはとても誇らしげだ。

 

その様子を穏やかな笑顔で見ていたカリンが店の扉の鍵を閉める。

様々な人びとで賑わう人気の飲食店、兼、東区でも名のあるクラン、フォルトゥナは、ようやく本日の営業を終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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