カイさんからご飯をご馳走になって、自分の部屋に帰って来た俺はソファーに座って今日の事を振り返る。
森林でサーチに一瞬だけ引っかかった反応。あれはなんだったんだろう?
この大陸のモンスターについて直接出会った訳ではないので、サーチに反応があったとしても具体的な正体を見破る事が今の俺にはまだ出来ない。
シーフベアはもう覚えたから、次に出会っても大丈夫なんだけどね。
仮に、あの反応をキラーウルフだったと仮定してみよう。
もしかしたらこの大陸のモンスターは、サーチを察する能力を持っているのか?
キラーウルフは狡猾なハンターだとロウガさんが言っていたし、俺のサーチを察知して射程外に逃げたのかもしれない。だとすれば、一瞬だけ反応を感じて、消えたのも、まあ納得できる。
カイさんはあの森にキラーウルフが居る目処が立っていたみたいだから、俺の言葉に納得顔だったのも頷ける。
そして、そのキラーウルフの技を盗んだシーフベア。
奴がキラーウルフの特性まで盗んだのだとしたら、気配を消して潜んでいた所に俺のサーチが飛んできたモンだから警戒を強めたのかな。
うーん。わからん。
相手は野生に生きるモンスターだ。俺は学者では無いし、仮定する事しか出来ない。
なんにせよ、今日は死傷者が出なくて良かったと考えるか。明日にでもカイさんかジンさんに聞いてみようかな!
「そういえば……」
俺はチラリとバケモノが住む隣の部屋に意識を向ける。
コイツはどんな奴なんだ?
気になった俺は、バケモノの住む部屋に向かってサーチをしてみた。
途端に、隣の部屋からバッタンバッタンとナニかが跳ね回るような音が。
うーわ。怖ぁ……えっ。怖いんだけど……。
いきなり動き出したバケモノに怯えてサーチを解除すると、暫くしてから、跳ね回っていたであろう音も止んだ。
うーん?隣のコイツも俺のサーチを察知したのか?
今まで大人しかったのに、俺がサーチをした瞬間に動き出した。
疑問は尽きない。ちなみに、ジンさんが言うように大した奴では無かったので、これからは安眠できるだろう。初日にしておけよって話だけどね。
さて、モンスターの考察はここまでにして寝ようかな。
心地良い満腹感と疲労感に、俺は直ぐに眠りに落ちた。
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朝、俺はギルドではなく東門へとやってきていた。今日も良い天気だ
リリィさんからこの国の読み書きを覚えるために勉強した本を借りる為だ。
昨日の今日でリリィさんも用意はしてないかもだけど、約束くらいは取り付けて良いかもしれない。字が読めないのは死活問題だ。
「おはようございます。リリィさんはいらっしゃいますか?」
「ん?ああ、リリィなら向こうに居るよ」
門番の制服に身を包んだ人間の男性が厩舎の方を指差す。
昨日もポポを準備していてくれた所を見れば、彼女はギルドが管理する移動用モンスター達の飼育員でもあるのかな?
厩舎の前を歩いていると、ポポの世話をするリリィさんが居た。
「おはようリリィさん!」
「アレン。おはよう。本か?」
話が早い!
俺が頷くと、リリィさんは少し待っててと、作業を続ける。
いきなり現れた俺を邪険にすることなく対応してくれる所を見れば、本当に良い人だなぁ。
邪魔にならないようにリリィさんとポポを眺めていると、作業が終わったのかリリィさんが俺に手招きをして、東門の事務所の方へと歩き出した。
「ここでまってて」
「すみません。ありがとう!」
にっこりと笑って事務所に入っていくリリィさん。
俺が事務所の外で待っていると、事務所で書類を書いていたロウガさんがこちらに気付いて出てきた。
「やあ、アレン。今日はどうしたんだ?」
「ロウガさん!おはよう!今日はリリィさんから読み書きの本を借りようと思って」
「そうか、まだ読み書き出来ないんだったな……そうだ、昨日は大活躍みたいだったな、カイから聞いたよ」
え?いつの間に?俺と別れた時にここに来たのかな。
「キラーウルフだけでなく、シーフベアまで居たとはな。助かったよ、近隣の村に被害が出る前で良かった」
「いやぁ。へっへっへ」
ロウガさんの言葉に後頭部を掻いて照れる。人から誉められるのはいつだって嬉しいものだね!
そうだ。ロウガさんはモンスターに詳しそうだし、昨日の疑問を聞いてみよう
「ねえロウガさん、こっちのサーチを察知するモンスターってこの大陸に多い?」
「ん?そうだな……モンスターの中にはこちらのサーチを感じる事が出来る個体も居る。キラーウルフもその個体の1つだ。モンスターに限らず、一部の実力者達にも相手のサーチを感じることが出来る奴も居る。そういった魔法はまだ開発されては居ないが、そうだな、感覚で分かるんだ、なんとなくな」
「それってさ、ロウガさんも分かるの?」
俺の問いかけに
ふふふ、どうかな?と不敵に笑うロウガさん。
うわぁ、この人も感知出来る側の人だ……!
しかし、良いことを聞いた。
この大陸で生きていくと決めた以上は、手強いモンスター達とこれから戦っていく事になる。
戦略的にも生存率を上げる為にも、相手のサーチを察知出来るようになるのは悪い事ではないな。
「ちょっとロウガ、なにサボってるのさぁ……あら?君はこの間の新人君じゃない!」
俺とロウガさんが雑談をしていると、事務所の方からこの町に来たときに事務所の中から俺に手を振ってくれた魔人の女性がロウガさんに文句を言いながら現れた。
胸元まで伸びる金髪の、妖艶な雰囲気漂う女性だ。
う。なんというか、制服に身を包んでいる筈なのに昨日すれ違った派手な女性よりも色気がある。
エリィさんとも違う妖しさというか、なんというか。
「おい、胸元を閉めろティアーナ。青少年に悪影響だ」
「あら?ごめんごめんキツくって」
てへへと舌を出して笑って、ティアーナさんは制服のボタンを閉める。ぱっつんぱっつんやんけ。
なるほど、だからか……いかん!何故悲しむんだ俺は!!
「アレン君だよね?私はティアーナ。数少ない魔人同士仲良くしましょ?」
「は…はい、どうも、よろしく、ええ、まあ、おっす!」
おっす!ではないが。
挙動不審になってしまった俺にきょとんとした後に、ニマ~、と笑うティアーナさん。
なっ!なんだ!?どうして俺の頬をつっつくんだ!?やめっ…やめておくれよ!?
ツンツンと楽しそうに俺にちょっかいをかけるティアーナさんと、その様子をため息混じりに見守っているロウガさん。
「遅くなった。………?」
ティアーナさんのちょっかいは、リリィさんが本を持って現れるまで続いた。
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「はい。これ」
「ありがとう!」
リリィさんから差し出された数札の本を受け取ってお礼を言えば、ニコリと笑うリリィさん。
あれ?そういえばリリィさんはこの大陸の出身ではないのかな?
ミカエリス大陸は共通言語だった気がするけど。
オーガ族は独自の言語でもあったのかな?
「あら、私がリリィにあげた本じゃない」
俺の手にした本を見てティアーナさんが懐かしんでいる。
ほうほう、この本の元々の持ち主はティアーナさんの本だったのか。
数人の持ち主に使用された本は、多少の擦れはあるものの、とても丁寧に扱われてきた事がうかがえる。
「懐かしいなぁ。まだ持っててくれたの?リリィったら」
「感謝している。ティアーナ」
穏やかに笑い合う2人にとてもほっこりする。
ティアーナさんもサタナキア出身だろうから、2人で一緒に勉強したのだろうか?
「アレン。魔人用の辞書もある。使って欲しい」
「それは私のね!分からないことがあったらいつでも聞きに来て良いからね!」
「勤務中に来ちゃった俺が言うのもなんだけど、いつもはダメじゃないの?」
と、ロウガさんを見れば苦笑して肩を竦めていた。ダメっぽいなこれ。
まさか今日借りられるとは思ってなかったけど、リュックを持ってきてて良かった。
俺がリュックに本を仕舞っていると、ロウガさんが女性2人に声をかける。
「さあ、そろそろ仕事に戻ろう。アレン、勉強頑張れよ」
「なによ偉そうにー。私はロウガを迎えに来たのにさー。またね、アレン君!」
ティアーナさんがロウガさんに絡んでいるが、ロウガさんは慣れているのか完全に無視している。
ロウガさんとティアーナさんが事務所へと戻っていくのを見送っていると
「じゃあね。アレン。分からないことあったら。頼ってね。」
「ありがとう!リリィさん!またね!」
ニコリと笑って手を振るリリィさんに、俺も手を振って別れる。
うーん。リリィさんはオーガ族だけあってとても背が高いのだが、とても可愛らしいというか、なんというか。親しみやすい人だし、良い人だし。
少し重くなったリュックを背負って、俺は町を歩く
さて、今日はどうしようかな?
ギルドに行くも良し、部屋で勉強するも良し。
冒険者になってまだ日は浅いけど、自由気ままな生活がとても楽しいと思う俺であった。
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「はぁ……。」
豪華な部屋の一室にて、美しい銀髪の女性が頬杖をついてため息を溢す。
憂鬱なため息というよりは、どちらかといえば退屈をもて余した為に出たため息。
「なにか面白いことはないでしょうか……暇、暇、暇……あまりにも暇過ぎて溶けてしまいそう」
「だらしないですよ、フロリアーナ様」
彼女専属の騎士だろう女性がだらしなく机に身体を投げ出すフロリアーナに注意をする。
厳しい物言いでなく、穏やかなものだ。いつもの事なのだろう。
「そうはいいますけどね、貴女だって似たようなものじゃないですかエメリア」
フロリアーナは注意されたからといって姿勢を正すでもなく、だらけた姿勢のまま、騎士に咎めるような視線を向ける。
視線の先には、金髪を後ろで縛った女性騎士エメリアが居た。
フロリアーナの指摘通りにエメリアもまた、椅子に浅く腰掛け、背もたれに身体を預けてだらしなく両足を投げ出して天井を眺めていた。その横には銀色の甲冑が脱いで置いてある。
2人は主従関係であることは伺えるが、とても気安い関係のようだ。
「まだ私の方が気品があるというものですわ、見てくださいよ、このようにだらけていても私の美しさを全く損なう事などないのですから」
「えー?自分で言ってて恥ずかしくないですかー?」
「とても恥ずかしいです」
だらけた2人が何も生産性の無い会話を続ける。
フロリアーナは自身の言った言葉を直ぐに取り消し、エメリアもまた、ニヘラと笑うだけだった。
「私だってね、気品はありますよ?なんかファンクラブだってあるみたいですから。凄くないですか?」
「自分で言ってて恥ずかしくないですか?」
「恥ずかしいです。解散して欲しいですそんなクラブ」
エメリアも、直ぐに自身の言葉を取り消す。
その様子を微笑を浮かべて聞くフロリアーナ。
名案が浮かんだのか、フロリアーナがだらけた姿勢のまま言葉を紡ぐ。
「どちらが気品があるかジョシュアに聞いてみましょうか?」
「騎士団長に、ですか?あの人ゼノ様一筋じゃないですか。答えが分かりきってますよ」
「当たり前です。ゼノ様の前では私達など石ころ同然じゃないですか、ぶん殴りますよ?」
「姫様、下品ですよ」
「失礼しました。この拳を貴女の頬に強かに打ち付けて差し上げましょうか?」
「あら、お上品ですわ」
「うふふふ」
2人の美女が依然だらけた姿勢で、会話を続ける。
「はー。騎士団長好きぃ……結婚してくれないかなぁ……」
「あら、フられたのではなかったでしたっけ?」
「そうですよ?フられましたよ?それがなにか?相手はゼノ様ですよ。ノーカンですよノーカン」
「百理あります。ゼノ様を慕うだなんて流石ジョシュア。エメリアをフるだなんてダメなジョシュア」
「諦めませんよ私は。あの人押せばいけそうな気がします。優しいし」
「その意気ですよエメリア!早速行きましょう!ジョシュアの元へ!」
「いいですね!姫様がいると心強い!」
テンションの上がった2人が立ち上がり、衣服を整えて部屋を出る。
ここは神聖シュラール王国。第2王女フロリアーナ・シュラールの自室であった。
騎士団長であるジョシュアの執務室に突撃して、あえなく撃沈してこの部屋に再び帰ってくるまで、10分とかからなかった。
そんな、シュラール王国の一幕である。