アレンの冒険[世界は広いなぁ~]編   作:チョモランマ斉藤

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これは……俺が飲まねばならんのか……

 

 

 

俺がシュライグで冒険者として生活を始めて早一週間が経とうとしていた。

ジンさんと猫を探したり犬を探したり、町の清掃をしたり。

カイさんと薬草を採取したり、ギルドに黙ってモンスターを討伐したり。

 

シーフベアクラスのモンスターとはあの日以来出会うことはなかったが、Fランク冒険者にしてはそれなりのモンスターを討伐したことになる。

実績にはなってはなっていないけどね。

 

2回目の家族への手紙をポストに入れて、俺は今日も今日とてギルドへと向かう。

今日は週末だから、レベッカさんがギルドに出勤しているかもしれない。

 

 

ギルドにたどり着けば、相変わらずの人の多さだ。

しかしまあ、俺だって流石に一週間も経てば賑わう人の多さにも慣れたもので、すいすいとクエストボードの元へ向かう。

 

 

南区の生徒達だろう普段見かけない自分と同世代くらいの冒険者達に混じってクエストを探しているが……うーん。今日は良さそうなクエストが無いなぁ。

 

ソロでも出来そうな清掃クエストや採取クエストはあらかたジンさんやカイさんとやってしまったし、残っているのは人数指定のクエストばかりだ。

 

すると、4人でパーティーを組んだであろう冒険者達が、1人でクエストを吟味する俺の横からクエストを取って、窓口へ向かう。

和気あいあいとしていてとても楽しそうだ。

 

うーん。俺もパーティーとか組んだ方が良いのかなぁ?

ジンさんやカイさんにいつまでも着いてきて貰う訳にもいかないし……。

 

なんにせよ、今日はカイさんもジンさんもギルドに姿を見せていない。

俺は今はクエストを受けるのを諦めて、2階にある図書館へと向かう。

子供向けの絵本コーナーで適当な絵本を選び、プレートを司書さんに提示して、絵本を借りる。

 

再び1階に戻ってきた俺は、ギルド内に用意された沢山の机の一番隅っこに腰を下ろして、リュックサックから辞書を取り出す。

 

リリィさんから借りた本は自分の部屋でじっくり勉強する用で、出先では魔人用の辞書を片手に絵本を読むところから始めた。これで2冊目だ。

 

絵本の表紙には、とても子供向けとは思えないニヒルな笑みを浮かべるオーガ族の主人公が剣を肩に担いで、狼型と鷹型と猿型のモンスター達と共に描かれている。

 

 

辞書とにらめっこしながらタイトルを読み取る。

えと……ハクトゥー…タロゥ……かな?

表紙をめくると、腕を組んだ赤ん坊が大きなフルーツにまたがって川を下っているイラストが描かれていた。

 

 

 

「おはようアレン。どうやら良さそうなクエストが無かったようだな」

 

「あ、ジンさんおはよう」

 

俺がうんうん唸って絵本と格闘していると、ジンさんが現れた。

ジンさんは俺が勉強しているのを見てめぼしいクエストが無かったのを察したのか、俺の前の椅子に腰掛ける。

 

 

「ねえねえジンさん、これはなんて書いてあるんだい?」

 

「ん?……オークのケツにキスしな……だな」

 

「オークの、ケツに、キス、しな……と。このケツって?これが分からなくてさ」

 

「尻だ」

 

「尻」

 

 

なるほど、やはり子供向けでは無いようだ。

先程から血みどろの主人公と仲間達が悪者相手に随分と暴力的に戦っているシーンが描かれているし。

今開いているページは、悪者のボス相手に主人公が手招きしながらニヒルに笑っているシーンが描かれている。

なるほどね。彼は挑発していたのか。

 

俺が絵本を読んでいると、ジンさんがウェイトレスさんにコーヒーを頼んでいた。

!!コーヒーを飲みながら……勉強……?

それってとっても大人っぽい!!

 

「すみません。俺もコーヒー良いですか?」

 

「かしこまりました、コーヒー2つですね?アイスとホット、どちらにいたしますか?」

 

アイス?ホット?……はて?

 

「アイスで」

 

「えと……俺も同じで!」

 

とりあえずジンさんの真似をしておけば問題無いだろう。

ウェイトレスさんがニコリと笑ってギルド内に有る厨房へと向かう。

 

俺は広げていた本と辞書をリュックに仕舞う。

飲みながら勉強しようと思ったけど、辞書はリリィさんのだし、絵本は図書館から借りたものだ。万が一にも汚してしまうのはまずい。

 

「ふぁー……おぉ、揃ってるな」

 

「カイさんおはよう」

 

俺達がコーヒーを待っていると、カイさんが欠伸をしながら現れた。

カイさんも俺達と同じテーブルに腰を下ろし、頬杖をついてクエストボードを眺める。

 

「まだ無理そうだなぁ」

 

「そうだな」

 

カイさんの言葉につられるようにクエストボードを見る。勉強していて気付かなかったが、クエストボードの前は先程よりも多くの人で賑わっている。俺達がいつも受けているクエストは、誰も選ばないクエストばかりだから急ぐ必要もないのだ。

 

ちょうどそんな時にウェイトレスさんが俺達が注文したコーヒーを持ってこちらに向かってくるのが見えた。

 

まってました!今日こそ美味しくいただいちゃる!

 

「ああっ!お前らだけずりぃなぁ。お姉さん俺もアイスコーヒー1つくださいな!」

 

俺とジンさんの前に置かれたコーヒーを見て、カイさんがウェイトレスさんに自分の分も注文した。

……フルーツジュースでも、良いんだよカイさん?好きでしょう?……まあ、良いさ。なんて事無い。俺はやれば出来る子さ。

 

 

チラリとジンさんを見ると、涼しい顔してブラックを飲んでいる。うーん。格好いい。

なるほど、アイスとは冷たいコーヒーなのね?マグカップではなくてガラスのグラスに注がれたコーヒーの中で氷がカランと音をたてている。

 

 

どれ、一口……。うむ。苦い!!

 

 

この苦味が顔に出ないように我慢しながらコーヒーを飲んでいると、意地悪な顔をしたカイさんと目があった。

う。なんだい?ニヤニヤしてからに。

 

 

「コーヒー。美味いか?アレン」

 

「うん。美味いよ?」

 

そうかそうか。とニヤニヤ笑ったまま立ち上がってギルドの窓口へ向かうカイさん。

その先にはこちらをチラチラとこちらの様子を伺うレベッカさんがいた。隣にはにこやかな笑顔で仕事をするマリカさんも。その横には、こちらもにこやかなドニーさん。

 

相変わらず人の少ないレベッカさんの所に並ぶカイさん。

カイさんの番になってなにやら話し込んでいるカイさんとレベッカさん。

?なんだろうか。嫌な予感がする……。

あ、困り顔のレベッカさんから何か受け取った。隣のマリカさんが嗜めるような目でカイさんとレベッカさんを見ている。

 

カイさんが、ニヤニヤ笑いながら戻ってきた。

その手には……ペン?

 

 

「アレン、これ持ってみ」

 

「?……いいけど?」

 

カイさんから差し出されたペンを素直に受け取る。

なんの変哲もないペンだけど……ん!?これは!?

 

「アレン、もう一度聞くぜ?コーヒー。美味いか?」

 

「………。…………う……美味いよ?」

 

 

俺が答えた瞬間

バリバリィ!!!

という音と共に俺の身体に強烈な電流が指先から流れる。あまりの衝撃に手にしたペンを投げ捨てる。

 

「いってぇ!!」

 

「あーっはっはっはっは!!!」

 

ペンを持っていた手を振りながら痛みを誤魔化していると、俺の様子を見て大爆笑しているカイさん。

俺とカイさんの騒がしさに周りの冒険者達がなんだなんだとこちらを向く。

 

「なぁにするのさ!カイさん!」

 

「あっはっはっはっは!」

 

「あっはっはじゃないよ!身体の芯から痺れたんだけど!?ダンッ!って!ダンッ!てなったんだけど!?超いてぇ!なにこれ!!」

 

「ひゃーっはっはっはっは!!」

 

 

俺の言葉についに腹まで抱えて笑い始めたカイさん。

ギルドの全員がこちらに注目している中、怒りの収まらない俺。なんとかこの男を見返さなければならない。やらねばならない。

 

 

「ギルドの備品で遊ばないでくださーい」

 

 

ドニーさんの苦笑混じりの声が俺達にかけられる。まったくその通りだ。

 

 

未だに爆笑しているカイさん。

カイさんの知り合いである冒険者達は、まったくアイツは……。と言いたげに呆れた様子でカイさんを。

カイさんを知らない冒険者達はなんだなんだと、俺達を見ている。

ジンさんも呆れた様子でため息をついていた。

 

 

ふと、呆れた表情のマリカさんと目があった。

………そうだ。

俺は無言で立ち上がり、放り投げてしまったペンを拾う。

そのままマリカさんの担当する窓口へ向かう。

 

無言で近づく俺に黙って道を空けてくれる冒険者達。ありがてぇ。

マリカさんの前にたどり着き、戸惑っている様子のマリカさんに耳打ちをする。

 

 

「いいでしょう」

 

俺の耳打ちにニコリと笑ってくれたマリカさんを連れて、未だに笑っているカイさんの元へ向かう。

 

 

「はー…腹いてぇ…」

 

「まったくお前は……」

 

お腹をさすりながらようやく落ち着いたカイさんに呆れるジンさん。

俺がマリカさんを連れてきたことに気が付いていない。

 

 

「カイさん」

 

「げっ!マリカ……」

 

 

カイさんがマリカさんに声をかけられて顔をしかめる。

 

 

「ねえ、カイさん」

 

「な……なんだよ」

 

 

静かに微笑むマリカさんに、何を言われるんだと構えるカイさん。

 

 

「いつもありがとうございます」

 

「……へっ?」

 

とても穏やかに微笑むマリカさんの言葉に、予想をしていなかったのか呆けた声を出すカイさん。

 

 

「いつもカイさんが村を救っているのは私の耳にも届いております。確かにカイさんはクレームも多いですが、それ以上に感謝の言葉の方が多くギルドには届いているのですよ。いつもありがとうございます、カイさん」

 

「えっ…ちょ…えっ?」

 

「普段好き勝手しているように見えて、貴方はとても周りに気を配ってくれていますね?私だけじゃなく、他のギルドの職員も非常に感謝しているのですよ?クレーマー気質な依頼人のクエストを貴方が受けた次の日から、とても素直な依頼人へと変わったのは数えきれないほどです。おや?どうされました?お顔が真っ赤ですけど?暑いのですか?ギルドはとても涼しいですよ?」

 

カイさんが顔を覆った!!

今だ……!!

 

 

「カーイさん。カーイさん」

 

俺がマリカさんの後ろで手拍子と共にカイさんの名前を呼ぶ。

1人で何度か繰り返していると、周りの冒険者達も呼応するように俺のリズムにあわせてカイさんの名前を手拍子しながら呼び始めた。

 

「カーイさん!カーイさん!カーイさん!カーイさん!」

 

職員すらも巻き込んでギルド内にカイさんコールの大合唱が響き渡る。

あ、カイさんがブルブル震えだした。

 

 

「う……うるせー!!!バーカバーカ!お前らバーカ!!」

 

と、立ち上がったカイさんが捨て台詞を吐いてギルドから飛び出していった。

ふっ……勝った。

 

俺は静かに握りこぶしを天に向かって突き上げる。

勝利のガッツポーズというやつだ。

 

 

静かに勝利の余韻に浸っていると、カイさんの知り合いの冒険者達が集まってきて笑いながら背中を叩かれる。

やるじゃねえか若いの!あのカイをいわしたるとはなぁ!はっはっは!

なんて、次々に俺を讃えてくれた。

この場に居る周りの冒険者達と仲良くなれた気がした。

 

 

ふっ……アレン・ニンバスを舐めるんじゃないぜカイさん!

俺はやる時はやる男さ!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「研修?」

 

「はい、まだ冒険者登録をして間もない方達を集めた研修が明日このギルドであるのですが、アレン君も参加されますか?」

 

 

走り去るカイさんを見送り、妙な一体感に包まれたギルドが平常運転に戻った頃に、マリカさんが俺に聞いてくる。

そういえば初日に研修がどうのこうのとジンさんとレベッカさんが言っていた。

 

 

「良い機会だ、参加すると良い」

 

1人だけマイペースに椅子に座っていたジンさんが俺に研修を薦める。

良く見たらカイさんが注文したコーヒーにまで口をつけていた。

カイさんめ。飲まずに逃げ出すとは……。

 

 

しかし、ふむ。研修か。

特に断る理由も無いし、参加するとしようかな。

俺が参加する旨をマリカさんに伝えると、分かりました。と、ニコリと笑ってマリカさんは窓口へと戻っていった。

 

 

「まったく、カイさんめ……」

 

「アイツは子供みたいな奴だからな」

 

テーブルに戻り、カイさんの悪戯にあらためて文句を言う俺にジンさんが同意してくれる。

カイさんコールで喉の渇きを覚えた俺は、氷が溶けて薄くなったであろうコーヒーを飲んでみる。

お?なんだ、なんか飲めるぞ!勝利のコーヒーって奴か!?ガハハハ!

 

 

「すまねぇな、アレン」

 

「レベッカさん?」

 

1人でテンションを上げてコーヒーを飲んでいると、申し訳なさそうにしたレベッカさんがこちらにやってきた。

電流ペンの事かな?あのペンを貸したのはレベッカさんだけど、事の発端はカイさんなんだ。レベッカさんが気にする事ではない。

 

「あれはカイさんが悪いよ」

 

「そうだ。お前が謝る必要などない」

 

「2人とも……あんがとね」

 

俺とジンさんの言葉に申し訳なさそうに笑うレベッカさん。

そうだ、ついでに研修についてレベッカさんに聞いてみよう。

 

 

「明日の研修ってなにをするの?」

 

「ああ、明日は上の会議室でドミオン学園のセンコーを呼んで座学と、昼からは実際にパーティーを組んでクエストを受けて貰うんよ。軽い討伐系のクエストな」

 

「パーティーかぁ……」

 

「動ける格好で来いよな。町を出てのクエストになるからな」

 

「何人くらい集まるの?」

 

「そうだなぁ……今んとこそんなに人数は集まって無いな、アレンを入れて10人も居ないんじゃねーかな?全員お前と似たような歳だよ」

 

「ふぅん……ありがとうレベッカさん」

 

 

明日の説明を聞いてお礼を言うと、良いって事よ。と、笑って窓口へ戻っていくレベッカさん。

そっか。パーティーを組んで討伐クエストか……。

いつもジンさんかカイさんとしかクエストを受けてないから、複数人でのクエストは始めてだ。足を引っ張らないようにしないと。

 

 

「なに。お前はお前の役割をこなせば良いだけだ。あまり考え過ぎなくても良い」

 

「俺の役割……」

 

「お前はどの役割もこなせる力を持っている。明日の座学とやらを聞いていれば、自ずと分かるはずだ」

 

不安が顔に出ていたのだろうか、ジンさんが優しい言葉をかけてくれる。

なるほど。つまりあまり気負うこと無く俺は俺の仕事をすれば良いのか。

周りは同世代だと言っていたし、全員が新人冒険者なんだ。皆と一緒に学んでいけば良いのか。

 

そう考えると少し気が楽になった。

 

結局、その日はバツが悪そうにコソコソと帰って来たカイさんとジンさんとで、町の清掃クエストを日が暮れるまで行い、カイさんの奢りで3人で飯を食って解散となった。

 

ちなみに、戻ってきたカイさんは俺の反抗に気を悪くするでもなく、寧ろ嬉しそうに

「してやられたぜ、やってくれたなこんにゃろめー」

と笑いながら頭をガシガシと撫でてきた。

事の発端はカイさんなんだけど、まあ、この人はいつもこんな感じだ。

カイさんのお陰と言うのは変だけど、皆と仲良くなれた気がするしね。

 

 

でも、まあ。

へっへっへ。俺を甘くみないでおくれよ!

 

なんて胸を張ってカイさんにアピールすると、

カイさんとジンさんが顔を見合わせて、楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

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