アレンの冒険[世界は広いなぁ~]編   作:チョモランマ斉藤

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誰か男の人呼んでぇ!!

 

 

朝、普段よりも早い時間帯に起き、身支度を整えて部屋を出る。

今日はギルドで研修がある日だ。研修開始時間まではまだ余裕のある時間帯だが、早く着いておく事に越したことはないだろう。

 

 

部屋を出るときに隣のバケモノが住む部屋を確認する。

ドア一面に貼り付けられている封印の護符が、所々焦げた様子で剥がれかかっていた。

うーん。これってもう効力が尽きてるんじゃないのかな?大丈夫なのかな?

 

俺に封印の護符なんてものを作れる能力は無いので、剥がれた箇所を再び貼り付けなおすくらいしか出来ないのだが、やらないよりかはましだろう。

 

変に俺の魔力とか込めて護符が壊れても困るし。

壊れるのかは知らんけども。

 

ここに住み始めてもう一週間になるが、いまだにこのアパートの住人に会ったことがない。

部屋の前を通ると生活感は感じるので、住んでいることは住んでいるのだろうが……生活リズムが違うのかな?

 

特に詮索とかはしないけど、気になるっちゃあ気になるのも事実だ。

 

 

そんなことを考えながら階段を降りると、約一週間振りに会うルナさんがニコニコ笑って手を振りながら小走りで駆けてきた。

 

 

「あ!居た居た!間に合ってよかった!おはよーアレン君!」

 

「おはようルナさん!俺に用事?」

 

なんだろうか?

俺のもとに寄ってきたルナさんがあははは!と笑いながら俺の背中を叩く。

スキンシップの激しい人だなぁ。

今日はルナさんも東ギルドへ向かうと言うので、2人で歩きながら話す。

 

「今日はギルドで研修なんでしょー?」

 

「うん。あれ?なんで知ってるの?」

 

「私の担任が今日の講師なの!マルちゃん先生っていってね!面白い人だよ!」

 

「そうなんだ、偶然だね」

 

 

ルナさんが言うには、マルちゃん先生とやらに挨拶をするついでに、カイさんかジンさんにクエストに付いて来てもらいたいらしい。

なんでも、EランクからDランクに上がるための昇格試験が近々予定されており、それの予行練習を東区でやってみたいのだとか。昇格かぁ。

俺にはまだ縁の無い話だが、今日の研修で昇格とやらについて詳しく聞けるかな。

 

 

「そういえば、お札が剥げかけてたけど」

 

「本当?焦げてた?」

 

「んー。ちょっと焦げてた」

 

そっかー。と、ルナさん。

完全に焦げきったら効力が無くなってしまうらしく、すこし焦げた程度なら10日程はもつみたいなので、明日にでも知り合いに頼んで護符を用意すると言っていた。

 

家具をくれる人だったり護符を用意できる人だったり、顔が広い人だなぁ。

 

 

俺はルナさんとお喋りしながらバスに乗り込み、東ギルドへと向かう。

最近はいつも1人で東ギルドへ行っていたので、新鮮で楽しい。

 

 

 

俺とルナさんがギルドに着くと、ジンさんとカイさんが既にギルドに来ていた。

良く見るとレベッカさんも交えて3人で雑談をしていた……というよりも、主にレベッカさんがジンさんに話しかけていたみたいだ。

 

ジンさん達に気付いたルナさんが笑顔で手を振りながら3人の元へ向かう。

 

「3人とも久しぶり!」

 

「おーう。ルナちゃんか、久しぶり」

 

「おー。向こうじゃ全然会わねぇな。久しぶりー」

 

「うむ」

 

3人が三者三様にルナさんに挨拶をする。

いやジンさん、うむて。

遅れて向かった俺も挨拶をしてからジンさん達の座るテーブルに腰を下ろす。

 

「レベッカさんサボり?」

 

「ちげーよ!今日の研修の為に朝早くから会場設営に駆り出されたんだよ」

 

「ふぅん」

 

ついに堂々とサボり始めたのかと思ったが、どうやら違ったようだ。

俺が失礼なことを考えている事を察知したレベッカさんに、頭を叩かれる。痛い。

 

「ねえねえジンさんカイさん!今日暇?」

 

「んー?暇っちゃ暇だぜ、アレンも予定あるし、俺等は急ぐクエストも無いしな。なあ?」

 

「ああ、どうかしたのか?」

 

 

ルナさんが朝俺に言ったことをそのまま2人に伝える。

カイさんがなるほどねぇ、と顎をさする。

そういえば2人が俺以外の人とクエストに行ってるところも、2人でクエストに行ってる姿も見たことがない。

まあ、俺が来る前にはあったかもしれないが、少なくとも俺がここに来てからは、見たことがなかった。

 

「ジン行けば?ランク近いからお前のほうが……「カイさん」…ん?」

 

「カイさんだ、ルナ」

 

カイさんの言葉に割り込みながらレベッカさんがずいっとルナさんに顔を寄せる。

 

「どったの?レベッカちゃん?」

 

「カイさんと行った方がいい。カイさんなら、大丈夫だから」

 

「そう?じゃあカイさんにお願いしよっかな!」

 

どう?とカイさんに笑いかけるルナさん。

カイさんはレベッカさんの妙な迫力に圧されていたようだが、レベッカさんが追い討ちをかけるようにカイさんを睨み付けると、戸惑いながらも了承していた。

 

ふぅーと額を拭うレベッカさん。

なにやら一仕事終えたようだが、男性3人は訳が分からず首をかしげ、ルナさんはカイさんに向かってニコニコ笑っているだけだった。

しかし、南区か…学園のある学生街だよなぁ。

 

 

「ジンさんって南区でクエスト受けたことある?」

 

「ん?あの辺りは学生や生徒達の区だからな……特に行く必要もないし、お前ならば不自然ではないが、俺やカイが行っても浮くだけだ」

 

「ふぅん……そういえば、ジンさん達って何歳なの?」

 

俺の何気ない質問に何故かレベッカさんもルナさんも興味津々といった様子でジンさんの返答を待っている。

 

「いくつに見える?」

 

ジンさんではなく、カイさんが頬杖をついてニヤニヤと俺達に聞いてくる。

ええー?質問に質問で返すのぉ?そうだなぁ……。

 

改めてジンさんとカイさんを見てみる。

2人とも20歳は超えているだろうけど、30は絶対に行ってない。

うーん……。

 

「はい!」

 

「はいルナちゃん!」

 

「23歳!」

 

「じゃあそれで!」

 

 

ええ!?そんなのってアリなの!?

俺達が驚いてブーブー文句を言っても、カイさんはヘラヘラと笑うだけで、ジンさんも特に何も言ってこない。

えぇい!ペンは!電流ペンはどこじゃ!!

 

 

レベッカさんに電流ペンを用意して貰おうと思ったが、昨日ドニーさんに叱られたことを思い出す。

くっそー……。

 

「お。アレン、そろそろ時間だぜ。会議室は3階の階段上ってすぐだ」

 

「はぁい。じゃあね、いってくるよ」

 

レベッカさんが教えてくれたとおりに時計を見れば、研修開始30分前になっていた。うん、良い時間だ。

4人に見送られて、俺は会議室へと向かっていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

会議室に入ると、正面に黒板があって、その前に机が1つずつ並べられていた。

俺が1番かな?と思っていたが、黒い髪を後ろで1つに縛った女性が先に来ていて、端っこに座っていた。

後ろ姿しか見えないが、背筋を伸ばして凛と座っている。

 

 

うーん。どこに座ろうか。

席は8つ横並びに用意されているし、これだけ空いていて隣に座るのはなんか抵抗があるから……俺も端に座ろうかな。

 

俺が女性とは反対側の席へ腰を下ろすと

 

「何故?」

 

「え?」

 

「何故私の隣に座らないのだ?あとおはよう」

 

「お……おはよう。だって隣ってのもアレだし、真ん中ってのもアレだし……」

 

「アレとは?良いじゃないか私の隣で。どうしてそんな意地悪するのだ?さあ隣に来い、来い隣に」

 

 

意地悪て……別にそんなつもりは無いんだけど、レベッカさんも俺と同世代だって言ってたしさぁ。

生まれてから今まで年上の女性としか接してこなかったから、同世代の女性との接し方なんて分かんないもん俺ぇ。

 

「さあさあ隣さあ」

 

黒髪の女性がキリッと前を向いたまま、1つ隣のイスをパシパシ叩いて俺を催促する。

あ、なんかリズムを刻みだした。

 

パシパシパシシ、パシシパシ

さあさあ隣、隣さあ

 

「わかったよぅ…行くよぅ」

 

ほっとくとずっと続けそうだし、別に絶対に隣が嫌だって訳でもないし。俺は腰を上げて、黒髪の女性の隣に座り直す。

 

「来たな、隣に」

 

来たよ隣に。

黒髪の女性は俺と同い年くらいで、青い着物……だったかな?を着ている。とても似合っていた。

近くにはこれまた青い刀を立て掛けていた。

 

 

「……………」

 

「……………」

 

隣に座る女性は相変わらずキリッと前を向いているし。同い年くらいの女性との接し方などわからない俺も特に話しかける事もなく、爪を弄る。うーん。そろそろ切るかな。

 

今日は何人くらい来るのかな。男の人は居るのかな。居て欲しいな。早く来すぎたな。早く来ないかな。「ぃ」今日は何食べようかな。魚かな。魚にしようかな。「ぉぃ」魚が良いな。爪伸びてるな。カイさん美味しい魚料理出す所知ってるかな。知ってるだろな。カイさんと海産。ふふっ。

 

「おい!!」

 

「うわぁ!!」

 

俺が爪を弄っていると、女性が突然大きな声をだす。びくりと体を震わせて女性を見る。

なになになんなの!?びっくりしたぁ!

 

驚いて女性の方を向けば、意思の強そうな目をした女性がこちらを見ていた。

 

「な……なんでしょうか……?」

 

「自己紹介」

 

「ぬ?」

 

「自己紹介は男児からするものと私の読んだ書物に書いてあったが?」

 

捨てちまえそんな書物。聞いたこと無いよそんな事。え?そうなの?そうなのかな?……だとしたら失礼なことをしてしまった。

 

「アレンです」

 

「オウカです」

 

俺がオウカさんにお辞儀をすると、向こうもペコリとお辞儀をしてくれた。

そして再びキリッと前を向くオウカさん。

……誰か、助けて。カイさぁぁぁん!!!

 

 

この地獄のような2人きりの時間がいつまで続くのかと戦慄していると、ガチャリとドアが開く音がした。

やった!誰か来た!男の人!?男の人だよねぇ!?

 

 

「わー。私3番目だー。やったー」

 

妙に間延びした可愛らしい声が聞こえてきた。

振り返らなくてもわかる。サーチなど使わなくても分かる。また女性だよ!!

俺はガンッ!と机に頭を打ち付ける。

俺の突然の机への攻撃に、隣でオウカさんがビクゥッ!と体を強張らせるのを感じた。へっ、かまうもんか。

 

「あー。君ってさー。あの時の人だよねー。久しぶりだねー」

 

?オウカさんの知り合いかな?俺にこのような喋り方をする知人は居ないし……。

なんだよぅー。知り合い居るなら俺隣でなくて良かったじゃんよぉー。オウカさんよぅー。

 

「アレン君だよねー。カイさんの友達のー」

 

「え?俺?オウカさんでなく?」

 

名前を呼ばれて体を起こして振り返る。

?……君は……誰だい?

目の前には、ほわほわと笑う兎の耳を生やした獣人の少女。童話に出てきそうな可愛らしいドレスを着た茶髪の女性など、見たことも会ったことも無い気が……ん?なんか、何処かで見たような気もしてきたぞ?

 

 

「えと……君は?」

 

「私ミニレー。よろしくねー。隣の人は友達ー?」

 

何故隣に座るんだい?ミニレさんとやら。ミニレさんだよね?ミニレーさんじゃあないよね?

 

「ああ。私はオウカだ。よろしくミニレー」

 

ああじゃないが。

ミニレさんだと思うよオウカさん。

 

「いや、友達では……ミニレさん?ごめん。俺達どこかで会ったかな?え?なんで落ち込んでるのオウカさん?」

 

「私達の店に来てくれたよねー」

 

「自己紹介を交わしたらもう友達だと書物に……書物に……」

 

ちょちょちょ、ごめん。一緒に喋った俺が悪かった。完全に俺が悪かった。

だから俺を挟んでほわほわ笑ったり落ち込んだりしないでおくれよ!

 

 

俺があわあわしていると、再びドアがガチャリと開く。

 

「颯爽登場!!ふはは!!よろしく諸君!!俺の名前は」

 

「やぁーっと来たか男ォ!!おっせーよ!!もっとはよ来いよな!!もう!!」

 

「ええっ!?ご……ごめんなさい!!」

 

 

 

研修開始まであと20分─────。

 

 

 

 

 

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