「いきなり怒鳴ってごめんよ。まあまあ座っておくれよ。どんどん座って座って」
ついに現れた待望の同性に向かってテンションの赴くままに大声を出してしまった俺は、申し訳なさから少しだけぎこちない笑みで、入り口でおろおろしている男性に声をかける。
無理もない、部屋に入ったらいきなり知らない奴に怒鳴られたんだ、俺だって戸惑うし、挙動不審になってしまう。
いや、本当。誠にごめんなさい。
入り口でこちらの様子を伺う男性もまた、オウカさんやミニレさん。俺と同い年くらいのエルフの男性だった。
艶のある金髪を無理矢理、強引に跳ねさせたような髪型の男性。
黒いシャツの上から派手な赤いコートに袖を通さずに肩に羽織っている。
「お……おう。なんだよ、びっくりしたなぁもう……」
「ごめんなさい、本当申し訳ない」
肩にかけた赤いコートが背中からずり落ちないように少しだけ肩をすくめながらこちらにやってくる男性は、ミニレさんの隣へと腰をおろした。
これで、用意された席の半分が埋まった。
「コホンッ……改めて、俺の名前はシャドウだ。シャドウ・フレイムリボルバー・ザ・ディザスターフレイム……よろしくな!!」
エルフの男性、シャドウさんがニヒルな笑みで俺達に自己紹介をしてくれた。
フレイムって2回言ってたけど……。うん?どうしたんだいオウカさん。俺の肩など叩いて。
「フレイムと2回言わなかったか……?」
肩を叩いてきたオウカさんの方に体を寄せれば、小声でオウカさんがコソコソと俺に聞いてくる。
いや、俺に聞かれても困るんだけど。
それに人の名前をどうこう言うのは失礼な事だし……。
「フレイムってー。2回言ったねー?」
ああっ、ミニレさんがほわほわ笑いながら俺達に確認してきた!
オウカさんが俺の後ろで何度も頷いている気配がする!それにあわせてミニレさんも頷き始めた!
やめ……やめなさいよそんな、人の名前を……。
チラリとシャドウさんの方を見ると、頬を少しだけ赤く染めたシャドウさんと目があった。
「ご、ごめんね、シャドウさん。ダメだよねぇ人の名前をそんな、ねぇ?こら!2人ともいい加減にしなさいよ!失礼でしょう!?」
「いや、良い。良いんだ。忘れてくれ。嘘。嘘だから。俺の名前はトキオ、トキオと言います。はい」
シャドウさん?トキオさん?が、顔を抑えながらそんな事を言う。
ええ?どっちなんだろう?
でも、なんだろう。目の前でとても小さくなっているトキオさんを見ていると、同情というか、同調というか……。
うん。分かる分かる。気にしなくて大丈夫だぜトキオさん。なんとなくだが、俺にも気持ちは分かる。
トキオさんが指の隙間からチラリと俺の方を見て、目があった。
俺がうんうん頷いて居るのを見てパアッと顔を明るくしてくれた。同性同士、仲良くやろうぜ?
と、トキオさんと俺とで微かな友情を感じていると背後からガタンッ!とイスを鳴らして人が立ち上がる気配。
「なんだと!?貴様、私達に偽名を名乗ったというのか!?ええいゆるせん!!」
「ゆるせんー!あははー!」
男子達が友情を感じているときに、女子達は憤りを感じていたようだ。ミニレさんは相変わらず笑顔だけど。
ちょちょちょ、オウカさん刀は不味いですよ刀は!逃げて逃げて超逃げてトキオさん!
はわわわ言ってないで立って逃げるんだよぉー!
なんて、4人でドタバタしているとまたもやドアがガチャリと開く。
刀を持ってトキオさんを追いかけるオウカさんと、椅子に座って2人の動向を見守っているミニレさんと俺が新たに登場した人物を見る。
あの人は初日の……。
俺がギルドで立ち止まっていると声をかけてきた男性だ。
錆色の髪を乱暴に撫で付けた、眼光鋭い男性。あの日と同じく新品の防具を身に纏っている。
改めて見ると防具にしてはずいぶんと軽装だ。胸元と腕しか守っていない。
彼と一緒にパーティーメンバーであろう3人もやって来た。
暗い藍色の髪を短く切り揃えた男性も似たような意匠の防具を身に纏っている。彼は槍を持っていた人か。
不敵な笑みを浮かべて俺達を見ている、動きやすさを重視した格好の、若草色の髪の女性。短い髪をサイドで1つ結んでいる。
最後に現れた、少しオドオドした様子の杖を抱えていた女性。ローブを身に纏い
暗い紫色の肩口で切り揃えられた髪は、彼女の目を前髪で完全に隠していた。
良く見たら、全員同じ意匠の防具を身に纏っていた。
「なんだ?託児所かなんかか?ここは」
「ジーク、絡むな……座ろう」
ジークと呼ばれた男性は眉をつり上げて俺達を一瞥したあと、吐き捨てるように言う。
あ、ジークさんの言葉でまたトキオさんが落ち込んでしまった……。
オウカさんは……?えっ。いつの間に俺の隣に?
彼女はいつの間にか、キリッと前を向いて座っていた。
ジークさんはもう一人の男性に肩を叩かれて、フン、と鼻を鳴らして一番端の席へ乱暴に腰かける。
オドオドした様子の女性も急ぎ足でジークさんの隣に向かい、静かに腰を下ろす。
「すまん。乱暴な物言いだが、悪い奴では無いんだ」
「ごめんねぇ、ウチ等のリーダーが」
気を悪くしないでね?と、活発な印象の女性がトキオさんに笑いかける。ふふふ、分かるよトキオさん。ドギマギしちゃうよね。
最後にジークさんを嗜めた男性がトキオさんの隣に座り、8つの席が全部埋まった。
うーん。気まずい。
彼らが来てから空気が変わったというか、引き締まったというか。
誰も喋らない。
コチコチと時計の秒針だけが室内に響いていた。
「そういえば、ミニレさんは俺とどこで───」
気になっていたことをミニレさんに聞こうとしたら、またドアが開いた。
「あら!もうみんな揃ってるんだね!ちょっと早いけど始めちゃおうか!」
元気な声と共に、本日の講師がやって来た。
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「はーい!おはようございます!今日の研修の講師を担当しますドミオン学園冒険科担当教師のマーリルと申します!よろしくね!」
黒板の前に立つ長い茶髪の眼鏡姿の女性。スーツ姿が似合っている。
にこやかに俺達に挨拶をするが、挨拶は俺を含めて何人かしか上がらなかった。
その事に特に気を悪くするでもなく、手にした資料に目を通す。
「今日は新人冒険者さんたちの研修ってことで集まって貰ったんだけど、うん!この2週間で東区で冒険者になった人は皆は来てくれたみたいだね!」
ほう。つまりここにいる全員が俺の同期という事か。
8人というのが多いのか少ないのかは分からないが、見たところ全員が同世代っぽいし、仲良くできたら良いなぁ。
「わあ!すごいね!皆17歳なんだ!ってことはこの部屋に居る全員が17歳なんだねぇ。凄い偶然だねぇ!私も17歳だから、みんな気兼ねなく接してね。ね!」
すげぇ!俺と同い年なのに教師になってるだなんて……天才って奴か。凄いなあ。
「マーリル先生はどう見ても俺達と同い年では無いようなんでもないですごめんなさい」
トキオさんが挙手をして先生に質問していたが、先生の鋭い眼光に怯んで直ぐ様手を下ろして謝っていた。
パンッと手を叩いて仕切り直すマーリル先生
「戯れ言は置いておいて、早速皆さんに自己紹介をして貰おうと思います!名前と、そうだなぁ。これからの目標とか言って貰おうかな?研修と何が関係があるんだ?って質問は受け付けません!先生の趣味です!はい!じゃあ端の男の子、君からお願いしまーす」
マーリル先生がジークさんに笑いかける。
ジークさんはめんどくさそうにしていたが、隣の女性から服の袖を引っ張られて、仕方なくといった様子で口を開く。
「ジークだ。ジークファルク。長いからジークで良い。別にあんた等と仲良くする気はねーがな。……目標は、ドーナローズ国の魔王になること」
彼の言葉に思わずジークさんの方を向いてしまう。
彼は真っ直ぐと前を見て、はっきりと言った。
魔王に、なる。
サタナキア大陸に7つ有る国の王。それが魔王。
魔王とは、誰でもなる事ができる。
条件は、現魔王を倒すこと。
たったそれだけで、魔王を名乗ることが出来る。
だが、それが非常に難しい。
力有るものが上に立つシステムだ。故に、その国で一番強い者が魔王なのだ。
王として民に圧政を敷けば、反感を買って国民全員が魔王を打倒しようと敵になる。
その全てをはね除けて長く魔王として君臨していた者も過去には居たようだが……。
1時間に4回も魔王が変わった国もあるくらいだ。
魔王が我が子の能力に恐れを成して殺害したことも。
子が親である魔王に反旗を翻し殺害したことも。
腹心の部下に討たれた魔王だっている。
もちろん、それは長い歴史の、過去の話ではあるのだが。
過去を学んだ今の魔王達は、他を寄せ付けない高い戦闘力と、民や部下から支持される圧倒的なカリスマ性を持っている。
どちらかのバランスが崩れたとき。それが魔王が変わる時だ。だが、今のところどの国もそんな様子は無い。
ドーナローズ国も、だ。
彼は、ジークは、魔王を目指すというのか。
彼にも、事情があるのだろう。
サタナキアの住人が魔王を目指すと口にするのは、生半可な覚悟ではない。
「わ……私はルシオラ……私の目標は……彼を、ジークを……王にすること……」
ルシオラさんは大人しい印象の女性だったが、彼を王にする。
それだけははっきりと言いきった。
「ウチはメリッサ!ウチも、ジークを王にするよ」
メリッサさんも、不敵な笑みで。
「サイラスだ。俺も前の2人と同じだ。ジークを王にする」
サイラスさんも、静かに、だがしっかりと宣言した。
全員が一丸となって、彼を、ジークファルクを王にしようとしている。
目標というよりは、決意というか。
不意に、ジークさんと目があった。
俺も目をそらす事無く彼を見る。
4人に圧倒されていたトキオさんが声を上げるまで、俺達は目をそらす事はなかった。
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「お……俺は、トキオ。この国一番の魔法使いになる」
前の4人に触発されたのか、トキオさんは少し緊張しているけど、はっきりとそう言った。
「私はー。ミニレー。目標かぁー。そーだなー。みんなに美味しーご飯を食べさせてあげることー」
ミニレさんも、ほわほわ笑いながら言う。
「俺はアレン。目標か……目標は、まだ無いよ。これから見つかれば良いなって思う」
俺に目標は無い。
冒険者になりたくて、とりあえず世界ってのを見てみたくて家を飛び出した。
世界を見て回る事が目標なのかと聞かれたら、違う気がする。
物語の英雄のようになるのが目標かと聞かれたら、これも違う。
彼らに比べたらしょうもないかも知れないけれど、知ったことではない。俺は俺だ。
これから見つかれば良い。これから、見つければ良い。
「私はオウカ。目標は友達を沢山つくる事」
凛とした表情でオウカさんも言う。
なるほど、だからあんなに友達友達と言っていたのか。
俺以外みんな目標が有るんだなぁ。
「素晴らしい!皆さんとても素晴らしいですね!是非ともウチの学園に学生として来て欲しいです!」
マーリル先生がにこやかな笑顔で俺達全員を見渡す。
その顔はとても嬉しそうだ。
「ありがとうございました!それでは早速冒険者研修を始めましょう!」
~マーリル先生の優しい冒険者講座~
皆さんはこれから冒険者として活動して行く訳ですが、先生の言うことをしっかりと聞いて、これからの冒険者生活に役立てて下さいね!
冒険者にはランクというものがあるのをもう皆さんはご存知ですね?
ABCDEFの6ランクで別れてまして
EFランクは下級冒険者。
DCランクは中級冒険者。
ABランクは上級冒険者。
と呼ばれます。
ランクの昇格にはスターシステムを用いて行います。
プレートを見てもらって良いですか?ランクが書かれている下に窪みが3つ有りますね?
それが3つたまれば1つ上のランクへ上がります。
スターはクエストを複数達成すれば溜まっていきますので、皆さん頑張ってクエストを受けて行きましょう!
もちろん、クエストを失敗してしまうとスターも溜まりませんので、注意してくださいね!
依頼人と喧嘩をしたり、ギルドの備品を壊したり、ギルドから注意を受けるような事をしてしまうとスターが減ってしまうので注意です!
クエストを受けるときの注意点ですが、それぞれのランクに応じて
下級クエスト
中級クエスト
上級クエスト
に分かれているのですが、皆さんはまだ下級冒険者ですので、皆さんだけでは中級クエストを受けることは出来ませんので、気をつけて下さいね!
自分のランクに合わないクエストを受けるとギルドの職員が教えてくれますので、間違って受けてしまっても心配しないで下さいね!スターが下がるということもありません。
同じパーティー内に自分より等級が上の冒険者がいれば、1つ等級が上のクエストを受ける事が可能です。
ですが、下級冒険者のままでは上級クエストを受ける事は出来ませんので、これは覚えていておいて下さいね!
例え、自分以外全て上級冒険者であっても、下級冒険者のうちは上級クエストは受けることは出来ません。
ただし、1つだけ例外があります。
それが緊急クエストですね!
これは国からの要請で冒険者全員が参加可能なクエストになります。
国の危機に対して要請されることがありますので、危険度は高いですが、下級冒険者であっても参加は可能です。
上級、中級冒険者は強制的に、下級冒険者達は任意で参加の是非が選べますので、参加する場合は先輩冒険者の指示をキチンと聞いて、安全最優先で行動してください!
いいですね?安全最優先ですからね!決して無理はしないように!
さて、皆さんはしばらく先の話しになりますが、下級冒険者から中級冒険者に昇格する場合は、昇格試験があります。そのときはギルドから説明がありますので、キチンと説明を聞いて、是非とも等級を上げていってください!
中級冒険者であるCランクからは王都でのクエストも受注可能になりますので、こちらも等級を上げる理由にもなりますね!
中級冒険者になれば、様々な制約等もつきますが上がるに越したことはないので、皆さん頑張ってくださいね!
はい!次はパーティーやクランについて説明させてもらいますね!