アレンの冒険[世界は広いなぁ~]編   作:チョモランマ斉藤

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3話

 

 

「聞いておくれよ!べーやん!」

 

自室にて、俺は人形に向かって話しかける。

かわいらしい熊のような魔獣の形をした人形に。

 

おっと、俺の正気を疑っているな?安心してほしい。俺だって他人がこんなことをしているのをはたから見ればヤベー奴じゃん!と思うだろうさ!

しかしだ。

 

「あーん?どしたい、アレンよ」

 

なんとこの人形、生きているのだ!

出会いはいつだったろうか。俺がまだガキで、訓練を始めたばかりの、泣いてばかりいる俺に声をかけてくれたのが始まりだったと思う。

いつの間にやら俺の部屋にあって、ガキの頃から俺を励まし、時には叱り、女性だらけの生活において俺の大切な相棒のような、アニキのような、そんな人形さ。

それに、ウィン姉が教えてくれない事も教えてくれる。

 

 

「今日こそアリア姉に勝てるかと思ったんだが、凄まじい精度の転移魔術を披露されてなにも出来ずに捕獲されてしまったんだが!!」

 

そう、俺は日々の鬱憤を良き理解者でもあり、頼れるアニキのべーやんにぶちまけているのだ。

シェリス姉にも泣きつくけどな!!

 

「ほほう?そりゃ、良かったじゃねぇか、成長の証だぜ」

 

「ええ?どこがさ、なにも出来なかったんだぜ?」

 

べーやんに訓練での手痛い敗北を報告すると、彼はいつもポジティブに俺を励ましてくれるのだ。

 

「今までは、格闘戦の末に捕らえられてたんだろ?それが今回はそれを回避してまでアレンを捕らえることに全力を出した…そう考えられねぇか?」

 

「うん?」

 

「つまりだ、もし今のアレンと格闘戦になったら、アリアの嬢ちゃんは負けちまうかも知れねぇと思ったのさ、だから今回は切り札を切った」

 

「!!」

 

ほほぅ…なるほど?

確かに、最近俺はフレイ姉とぶっ通しで3時間は闘える程に成長している。

最初の頃は2秒と保たなかったのに。

それにアリア姉は戦闘において格闘戦が得意な方ではない。

最近は俺もそれを見越して、最後のおいかけっこでアリア姉を倒して訓練を勝利で飾ろうとしていたくらいだ。

ははぁん?納得。

 

「つまり、俺は……あのアリア姉の本気を引き出させてしまった…?」

 

やだー!俺ってばしっかり成長してるじゃなーい!!ガハハハ!勝利は目前かぁー!?

 

「ま、次からの問題はお前に一切感知させずに接近出来る相手をどうやって対処するか、なんだがな」

 

「…………………おっふ」

 

これである。べーやんは俺を励ましてくれるが、キチンと次の問題点を容赦なく突きつけてくるのだ。

優しく受け止めてくれるシェリス姉との違いはこれだ。

 

確かに、フレイ姉みたいな真っ正面からの格闘戦ではアリア姉を倒せるかもしれない。

しかし、アリア姉との訓練はそういった訓練ではないのだ。

最高の隠密行動を取ってくる相手をいかにして出し抜き、目標を達成するか。

たとえ俺がガン待ちスタイルで待ち構えていたとしても、アリア姉ならば別の方法で俺を捕縛するだろう。

本気を出したとはいえ、底が見えたかと聞かれれば、間違いなく否だ。

既に俺の方が強いかもしれないが、それはあくまでも仮説である。

制限時間もあるしね。

 

「ぐぬぬ…」

 

「はっはっは、しかしアレンよ、お前も随分と立派になったなぁ…泣きべそばっかりかいていたあの頃とは大違いだ」

 

「俺だって成長するさ、相手が悪いだけだよ」

 

「ははは、違いない」

 

べーやんとそんな話をしながら思い返してみる。

 

物心ついた頃からずっと訓練漬けの毎日

最初は何度死ぬ目にあっただろうか。

フレイ姉との格闘訓練では決して軽くない傷を毎日負っていたし。

ウィン姉との魔術訓練では燃やされたり凍らされたり、地面に生き埋めにあったり、大空に投げ飛ばされたり。

アリア姉との索敵訓練では最初は魔の森で生存するのが精一杯で。

そんな生傷耐えない俺を癒してくれたシェリス姉でも、訓練では毒の効果を身をもって味あわされたりした。

 

何で自分はこんな辛い目にあっているのだろうと、何度も挫けそうになってべーやんに毎日泣きついていた。

しかし、そんな俺を毎日べーやんは励まし、姉達の気持ちを代弁し、俺が決して腐る事の無いようにフォローしてくれたのだ。

 

しかし、それでも、耐えきれない時もあった。

一度だけカーチャンに聞いてみたことがある

俺の事がキライなのか、と。

 

そう聞かれた時のカーチャンの悲しそうな顔が今でも忘れられない。

 

俺の周りの人達はべーやんと4人の姉と、この国の魔王であるカーチャンだけ。

魔王城での生活は訓練と勉強漬けの毎日で、友達なんてべーやんしか居なかったし、魔王城の人達も子供ながらに分かるくらいにはよそよそしさを隠しきれてはいなかった。

 

外の世界には何があるのだろう。

そう考えるのにそれ程時間はかからなかった。

カーチャンとウィン姉にねだって買ってきて貰った沢山の本を読んだ。

俺の部屋には沢山の本がある。何度もワクワクしながら読んだ、世界各地の英雄達の活躍が書かれた英雄譚。

 

世界には俺達魔族や魔獣達だけでなく、様々な種族が住んでいるというのも、本で読んで知った事だ。

そりゃそうだよな。なんたって俺自身が人間とのハーフなんだ。人間の住む大陸だってあるわな。

 

世界各地に居る冒険者なる存在も本で読んで知った。

冒険者の活躍が書かれた本には

強大な魔物を仲間と共に倒したり

ダンジョンの奥深くでお宝を発見したり

助けた人と恋に落ちたり

そんな、自由に生きている冒険者達の生活が物語には書かれていた。

今の俺とは……違うよなぁ。

 

幼い頃にフレイ姉とウィン姉に聞いてみた事がある。

ドラゴンに勝てる?と。

返答は無かったが、2人とも不敵に笑っていた。

きっと、それが答えなんだろう。

 

だからこそ、今まで以上に必死で訓練に取り組んだ。

一人前になったら、もう訓練なんて必要ないぜ!ありがとう!

とか言って旅に出てみたいと思った。

 

鍛えられてきたから分かる。

姉達の実力が生半可なモノではないと。

サタナキアの歴史だって学んだんだ。

この大陸で長年魔王として君臨し、それをサポート出来る姉達。それがどれほど凄いことなのか。

 

そんな人達に鍛えられた俺だ。外の世界でも生きていく事は出来るんじゃないか?

なんて、考えてしまう。

 

 

「…………」

 

「アレン?どうした、いきなり黙りこくってからに」

 

「なあ、べーやんよ」

 

「んー?」

 

「世界って、どんなだ?」

 

「おー、世界か…」

 

────面白いぜ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ある日、俺は少しだけ決意をしてこの場に座っていた。

広いテーブルには、カーチャンや姉達も座っている。

部屋の隅ではメイドさん達が控えている。

 

 

「なぁ、カーチャン。俺、冒険者になって良いか?」

 

「いきなり何言ってんのアンタは」

 

俺がカーチャンを悲しませちまったあの日から、よっぽどの事が無い限りはこうして親子で食卓を囲んでいる。

ある程度食べ終わって、食後のお茶でも啜りながらまったりしているときに俺はカーチャンに聞いてみた。

俺の突然の言葉に周りのメイドさん達がビックリしてこちらを見ていた。

同席していた姉達もそうだ。

 

「アレン、アンタ、またあの人形に何か吹き込まれたの?」

 

カーチャンがジト目で俺に聞いてきた。

吹き込まれたとは失礼な!べーやんは何時だって俺を励ましてくれるのだ!親友をバカにするない!自分で考えた事だい!

 

「違うよ!ただ世界って奴をこの目で見てまわりたい…そう思ったのさ」

 

キラーン☆と効果音がつくようなニヒルな笑みを浮かべて俺はカーチャンに答えた。

 

「アンタにはまだ早い」

 

「そ…そうだぞ、アレン!」

 

カーチャンは即答し、フレイ姉にも否定された。

 

「あの人形は関係ないと言っていたが、どうしたのだ、いきなり」

 

「そうだよ!どうしちゃったのさアレンちゃん!」

 

「うふふ」

 

ウィン姉とアリア姉が聞いてくる、シェリス姉は穏やかに微笑んでいた。

手にしたティーカップがカチャカチャと音を立てていたが。

 

「いきなりって言われてもな、皆との訓練で俺もある程度の力はつけたし、見聞を広めるために外の世界を見てまわるのも良いんじゃないかって思ったんよ」

 

「ダメ」

 

「なんでぇ!?」

 

カーチャンは取りつく島もない。しかし、俺にはべーやんという優秀なブレインが居るのだ。

考え無しでこんなことを言うと思ったか!?

はじめから断られるのは想定済みさ!うおぉ!頑張れよ俺の舌ぁ!

 

「戦闘能力はフレイ姉に鍛えられた、今では数時間は打ち合えるし、何本か良いのも入れられるようになった。この国の最高戦力にだぜ?そんな俺が有象無象にやられるなどフレイ姉に申し訳が立たない…いつもありがとう、フレイ姉、大好き」

 

「え?あ…うむ」

 

よし

 

「戦いの魔術を初め、生きていく上で必要な魔術に、この世界の知識もウィン姉に丁寧に叩き込まれた。そんな俺が外でヘマをやらかせば、それはもはやこの国の恥だ。それくらいの自覚が持てるくらい感謝してるよウィン姉、大好き」

 

「…ふむ」

 

よぉし

 

「今の俺の探索系魔術の精度を知っているかい?様々な生物達が生息している魔の森でだって小さな石ころ1つを探し出せるくらいには研ぎ澄まされている。これも全てアリア姉の鍛練の賜物だよ、もうほんと感謝感謝、大好き」

 

「えへへ…」

 

よしよぉし

 

「自分の腕が取れたくらいの怪我なら秒で治せるレベルの治癒魔法に、様々な薬草の生息場所から、解毒薬、回復薬の精製方法が今の俺の頭の中には入っている。もうこの知識だけでも世界で食っていけるんじゃあ無いかってくらいシェリス姉に教わった。感謝感激雨あられ、大好き」

 

「あら…あらぁ」

 

よぉしよぉし!

 

 

「そして誇り高き魔王ゼノの一人息子であるこの俺が、世界に通用しないとでも?今なら分かる。全て愛ゆえに。愛ゆえに幼い頃から最高の教育を授けてくれたお母様には心より感謝しております。愛してるラビュー」

 

「…ふん」

 

よぉぉぉぉし!!

 

「だからこの俺、アレン・ニンバスは皆の恥にならぬように、皆が誇れるような冒険者として世界に羽ばたこうと思います!!良いですね!?」

 

「ダァメ」×5

 

「なぁんでさぁ!!!!」

 

俺はグレた。

 

 

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