「でさぁ、実技でジンさんにボッコボコにされて、結局Fランクスタートだったんだよね」
「ジンさんってのは、あの銀髪の男の人?」
「そっそ!ジンさんはDランクなんだけど、手も足もでなくってさぁ」
「はーん。そりゃ、Fランクスタートだわな」
マーリルの目の前では和気あいあいと言った様子で少年達が会話をしている。
自分が今教えている学生達よりも幾ばくか年は幼いが、教育者として元気な若者を見るのはやはり心地よいものだ。
「それは、刀を携えたあの御仁か?剣士としてかなりの使い手なのか?」
「うーん。どうだろう?俺と模擬戦したときはジンさん手ぶらでさ、手ぶらでボッコボコよ。刀を使う必要も無かったみたい」
「ふーむ。Dランクと新人冒険者ではそれほど差があるとは思えないが……」
「それに、団長達とどこで知り合ったんだろうな?別に有名って程でもないし、Dランクなんだしさ」
「でもー。ウチのクランの人達がー。凄く勧誘してたよー。カイさんもねー。断られたけどー」
「そうなの?まあ、あの人達は自由だからなぁ……てかさ、ミニレさんってどこかで見た気がしてたんだけど、あのお店の店員さんだったんだね」
「そうだよー。ずっと団長が相手してたけどー。私もあの日居たんだよー」
「なんだよアレン。お前フォルトゥナに行ったのか?あそこたまに柄の悪い連中が来てて美味いけど新人冒険者では敷居が高いって有名な店じゃねーか」
「あ、あの店の名前もフォルトゥナって言うんだ……字が読めてたら気づいていたのかなぁ……てか、トキオさん。店員さんの前でそんな事言っちゃダメだよ」
「そうだぞ、この嘘つきめが」
「もう許しては貰えないでしょうか……」
「あははははー」
依然として楽しそうに会話を楽しむ若者達。
マーリルは微笑ましく眺めていたが、ふとその顔が憂いを帯びた。
願わくば、この若者達が曇る事無く、ベッドの上で安らかな死を迎えられるように、と。
マーリルは教師としてドミオン学園でそれなりに長く教鞭を執っている。
故に、多くの生徒達の死も目の当たりにしてきた。
どれだけ冒険者として必要な技能と知識を教えた所で、やはり死者は出てしまう。未熟な若者は特にだ。幼さからくる慢心と、過信。それで若くして命を落とす。
我々大人であってもモンスターの被害はあるのだ。この国ではモンスターによる死者数は年に80万人を越える。その約半数が20歳以下の冒険者の若者なのだ。
だからこそ、こうして新人冒険者に向けて研修を行うのだ。
新人冒険者達の鼻っ柱をへし折る為に。
新人冒険者には簡単なクエストだと説明しているが、ダンジョンの最奥、魔石を守るガーディアン役としてドミオン学園の優秀な生徒を配置している。
Cランク以上の、だ。
Fランクの冒険者が間違っても勝てない相手。それが、最奥にて待ち構えている。
この研修で心折れ、冒険者を辞したとしても構わない。モンスターに敗れて死ぬよりかはましだ。
このクエストに失敗して、自分達の力などまだまだこの程度なのだと戒め、精進を促すのがこの新人研修の真の目的なのだ。
決して過信することなく、慢心する事無くこれからの冒険者生活を過ごしてほしい。それがこの国の良識ある大人たちの願いである。
何時だって若者の死を見るのは辛い。こんなもの、慣れたくは無い。
(だけど……)
マーリルの脳裏によぎるのは、ジークファルクとそのパーティー達。
彼らは、強い。
用意された資料に目を通して随分と驚いたものだ。
冒険者登録をして間もないというのに、実技のほうでアースラーズのCランク冒険者を撃ち破っている。全員が、だ。
あの大人しそうなルシオラという少女でさえ、回復職であるヒーラーでありながら多彩な魔法を操り中級冒険者を下している。
我々で言うところの、天才というものなのだろう。
かつての大戦の後、自分なりにもサタナキアの事を調べてみたが、その異常性たるや。
実力至上主義の、生まれながらの戦闘民族。
現に、たった一国の軍隊にこの大陸を壊滅させられかけた。
我々人間とそう変わらない容姿や魔力量を持ちながらも、その器用な魔力コントロールで他の種族を圧倒する戦闘力を持つ民族。それが魔人。
彼等との交流が始まり、我が国の戦闘技能も随分と向上したものだ。
この発展が多くの犠牲を払った大戦によるモノだというのは随分と皮肉なものだが。
この大陸でかつては一部の者しか、それこそ英雄と称される者達でしか習得出来なかった複合職。それを当たり前のように使いこなす魔人。
それが使えなければ、強力なモンスターの跋扈する大陸で生きることさえ出来ない魔人。
そんな彼らが、アースラーズに属し、団長であるバトゥに教えを乞うている。
バトゥ。先の大戦の、オーガ族の英雄。
魔王ゼノと共にシュラール国を、この大陸を救った英雄。
彼の目的である、魔王となる為に。
今の統治されたドーナローズ国で魔王となると宣言した瞬間から周りの全てが敵となる。その無謀とも呼べる目標をパーティー全員で達成するために。
(彼らの鼻っ柱をへし折るのは、とても難しそうですね……)
ジークファルク達の初期冒険者ランクは経験不足故にEランクだが、戦闘力の方は……。
ふと楽しげに笑うアレンに目を向ける。
彼もまた、魔人とのハーフである。
故に先程言ったサーチャーとヒーラー。彼は十二分に役割をこなせるのだろう。
戦闘力の方はいかほどか。
何の因果か全く性格の違う魔人が同じ時にこの町で冒険者となった。
願わくば、良きライバルとして己を高めあっていって欲しいものだと願うマーリルであった。
そういえばオウカもまた、かつてのサタナキアと似たような境遇の国の出身だったような……。
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「はー。やっと着いた」
「ケツがいてぇ」
それ程長い時間座っていなかったが、やはり体を伸ばすと気持ちが良い。トキオと2人で伸びをする。
隣で女子達も体を解していた。
道中にトキオからさん付けはいらないと言われたので、これからは呼び捨てにさせて貰おう!
オウカさんでは無いけど、これはもはや友達という事なのでは!?
因みに、オウカさんもミニレさんもさん付けはいらないと言っていたけど、流石に女子を呼び捨ては……ねぇ?
改めて、目の前にはギルドの管理するダンジョンの入り口が俺達を待ち構えていた。
ダンジョンかぁ。初めて潜るけど試練の祠みたいなものかな?あの祠は辿り着くのも十分に試練だったのだけども。
「はーい!それでは早速ダンジョンに潜って貰いたいのですが、どちらのパーティーから行きますか?」
「俺達だ。さっさと終わらしてやるぜ」
ジークさんが不敵に笑って宣言する。
随分と自信満々のようだ。まあ、Fランク相当のダンジョン探索らしいし、俺達も気軽にやれば良いか。怪我の心配も無さそうだ。
「オウカさん、それで大丈夫ですか?」
「構いません」
マーリル先生の問いかけにオウカさんが力強く頷く。うーん。頼もしい。
それを聞いたマーリル先生が1つ頷き、ジークさん達に合図を送る。
ジークさん達が武器を携えて、悠々とダンジョンに潜るのを見送る俺達。
マーリル先生が気をつけてー!とジークさん達に声を掛けていたが、俺達は何故か誰も声を掛けなかった。
「へっ!いけすかないヤローだぜ」
「こぉら。そんな事言うものではありませんよ?トキオ君」
鼻を鳴らすトキオを困り顔で嗜めるマーリル先生。
マーリル先生には悪いけど、トキオ程では無いが俺もジークさんにはあまり良い印象を抱いていない。
彼の俺とオウカさんを見る目は、どこか見下しているような、そんな気配を感じるからだ。
「他の者などどうでも良い。気にするなトキオ」
「オウカ……お前、初めて俺の名前を……」
「黙れ寄るな泣くな馬鹿め」
「酷い」
トキオとオウカさんがじゃれあっているのを楽しく眺めている俺とミニレさん。
そういえば、あのお店がフォルトゥナの本拠地なのだとしたら、ミニレさんは冒険者としてでなく店員として働いていたのかな?
……うーん?
まあ、良いか。カイさんも言ってたしね。
誰が何の目的でなんて、探るのは野暮ってもんか。
「アレン君はー。入るクランとか決めたー?」
「ん?いやぁ、まだ決めてないよ。今のところ特に不便でもないしね」
「そうー?ウチはいつでも大歓迎だからねー」
ほわほわと笑うミニレさん。
おお。この町で有力なクランに勧誘されてしまった。へっへっへ。
しかし、クランか……。
俺がクランに属する事になれば、ジンさん達との交流も無くなってしまうような気がする。
ミニレさんには悪いが、ジンさんやカイさんと一緒に行動した方が良い経験になりそうな、そんな気がする。
でも、他のクランとの交流を突っぱねるってのも勿体ない気もする。
チラリとミニレさんを見れば、オウカさんにも勧誘をしていた。
オウカさんは少し悩んでいるようだけど、どうするのかな?
そうだ、ちょうど良い人が居るじゃないか!
「先生、質問良いですか?」
「はーい!なんでも聞いてくださいアレン君!」
「あざす!俺みたいにクランに属してなくても、クランの人達と一緒にクエストに行ったりするのって大丈夫なんですか?」
「良い質問ですねぇ!もちろん大丈夫ですよ!例えクランに属していても、いなくても、個人間の交流を咎める事は出来ませんからね!中にはそういったクランも有りますが、少なくともこの東区のクランにはそういった決まりのクランはありませんので、新人のウチはどんどん交流していってください!」
ほうほう。大丈夫なのね!
「ただし!いずれアレン君が有名な冒険者になった時には注意してくださいね?特定のクランとばかり交流していると、他のクランとのトラブルを招きかねませんので、いずれはその辺りを配慮して貰えれば大丈夫ですよ」
「なる程ぅ……ありがとうございます!」
ふむふむ。ジンさん達が他のクランの人達とクエストに行かないのはそういった理由もあるのかな?
その割にはフォルトゥナに迷惑を掛けていたみたいだけど……まあカイさんだしな、何も考えていないのかも。
「お!じゃあよーアレン!この研修終わったら一緒にクエスト行こうぜー!魔法の真髄って奴を見せてやるよ!」
「もちろんさ!でも魔法の真髄はこのクエストで見せてほしいな」
「私も私もー」
「うむ。その時は是非私も誘ってくれ」
へっへっへ。まだクエストに行ってないのにねぇ!同期って素晴らしいねぇ!
そんな話で盛り上がる俺達を、マーリル先生が一瞬だけ複雑そうな顔で見ていたが、良いですね!なんて笑って言ってくれた。
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「あ!戻ってきましたね!」
ジークさん達がダンジョンに潜ってからまだそれ程時間はかかっていないが、入っていった時と変わらぬ様子でダンジョンから出てきた。
マーリル先生は、無傷で出てきたジークさん達を少し残念そうに見ていた。
?どうしたんだろう。簡単なクエストらしいし、喜ぶべき事じゃないのかな?
「魔石ってのコレだろ?」
ジークさんがマーリル先生にクエスト目標である魔石を投げて渡す。
先生はそれをキャッチし、ジークさんはサイラスさんに怒られていた。
「……はい!これでジークさん達はクエスト達成ですね!これで研修は終了ですが、町に戻られますか?」
魔石を見て何かを考えていたような先生だが、明るい笑顔でジークさん達に問いかける。
ワイバーンもそのまま2頭待機しているし、研修終了となればこのまま帰っても問題はなさそうだけど。
「どーする?ジーク」
「アイツ等が終わるまで待ってる」
メリッサさんがジークさんに問いかけていたが、ジークさんは少しも考える事無く即答していた。
ジークさんの視線は、俺を見ている。
「なあ、アレンっての。俺達は苦戦もなく無傷で終わったぜ?テメーはどうだ?」
挑発するようなジークさんの言葉。
不敵な笑みで俺を見ている。
リーダーはオウカさんなんだけどな。
「さあね。初めてだから分かんないな……ああ、中がどうなってるかなんて言わないでくれよ?それじゃ面白くない」
「へっ。そうかよ。テメー等がどんなザマで帰って来るか楽しみに待たせて貰うぜ」
俺も負けじと言い返す。ジークさんは相変わらずの表情で俺の言葉を聞いていた。
ジークさんの後ろで申し訳なさそうにしているサイラスさんとルシオラさんに肩を竦めて見せてから、ダンジョンへと向かう。
後ろでオウカさんが何か言いたげだったが許してほしい、喧嘩を売られたのは、俺だ。
皆も何も言わずに付いてきてくれた。
「ごめんね、オウカさん。リーダーは君なのにでしゃばっちゃって」
「なに。気にするな、あやつの物言いに私も思うところはあれど、アレンの気持ちも分かる。あれで良い」
ジークさん達から離れたところでオウカさんに謝罪をするが、彼女はカラカラと笑っていた。
その後ろで、気合い十分なトキオと、ほわほわ笑うミニレさん。
「だが、ここからは私に任せて貰うぞ?さあ、行こうか」
オウカさんが俺を追い越して、ダンジョンの前に立つ。
振り返って凛とした表情と声で俺達を見る。
ああ。行こうぜオウカさん。アイツの鼻をあかしてやろうぜ!!
俺達は気合い十分にダンジョンへと入っていった。
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魔石の灯りが照らすダンジョン内に入り、俺は一番後ろを歩く。先頭はオウカさん。続いてトキオがいて、その後ろにミニレさん。
俺はサーチを展開して、周りに危険がないのをメンバーに伝える。
研修用のクエストとはいえ油断はしない。
俺は俺の役目を全力でこなす。一応全員分のポーションも持ってきたが、今のところ使う様子もない。
道中に簡単なトラップも仕掛けられていたが、俺のソナーの前では無意味よ無意味!
無機物だらけのダンジョン内に不自然な反応。最初にそれを見つけてしまえば、あとは似たような反応を探すだけだ。
鍵開け等のシーフ系の魔法は使えないけど、ただ進むだけなら俺のソナーでも十分だ。
特に苦戦もする事無くどんどんと階段を降りて行く。
最初は緊張していたトキオが拍子抜けといった様子で時折欠伸をしている。その声を聞いたオウカさんから怒られていたが、まあ、トキオの気持ちも分かる。
「どうやら、この先が最深部のようだな」
先頭を行くオウカさんが1つの扉の前で立ち止まる。
階段を3回ほど降りた頃に目の前に現れた、少しだけ豪華な扉。
「アイツこんな簡単なクエストで俺達に偉そうにしてたのかよ」
トキオが頭の後ろで手を組んで小馬鹿にしたように言う。
確かに、俺のソナーが無くても攻略できそうなトラップしかなかった。
トキオが間違えてトラップを踏んしまっても、飛んでくる矢じりに吸盤が付いた矢を得意の魔法で自力で焼き払っていたし。
「一応サーチしてみるね」
「頼む」
扉を開ける前に室内に向かってサーチを飛ばす。
一応、相手の体温を探知できるタイプのサーチを使用する。
ん……中に2人の反応が有るな。
2人とも気配を消す事無く、1人は自然体で、もう1人はソワソワと隣の人に話しかけているような反応。
「気をつけて、中に2人居る」
俺の言葉に全員が武器を構え直す。
オウカさんが俺達に1つ頷き、警戒しながら扉を開ける。トキオもすぐさま魔法が放てるように準備をしていた。
重いものを引きずるような音を出して扉が開く。
完全に扉を開ききる事無く数人が入れる程度の扉を開けて、オウカさんが素早く室内に飛び込む。
直ぐに続く俺達。
目の前には開けた空間と、その奥に2人の人物。
さらにその奥には台座があって、例の魔石が控えめな光を放っていた。
「?……なんだアイツら」
「あの魔石の番人……といったところか」
「あはははー。私とお揃いだねー」
トキオが2人の格好を見て首をかしげ、オウカさんは油断無く腰に差した刀に手を添えている。
ミニレさんも言葉こそ穏やかだが、手にしたハンマーを握り直している。
「あれは……着ぐるみ……?」
俺の目の前には、動きやすそうだが、不可思議な格好の2人組。
ピンク色のウサギの着ぐるみを着た、シルエット的には男性だろうか?なにやら文字が書かれている木製の柄の長い看板のような物をこちらに向けて持って、少しだらけて立っている人。
そして、こちらも同じく木製の看板をこちらに見せるように胸に抱えた……うん。あっちは女性だわ。抱えた柄が何をとは言わないが、とても強調してるもの。
黄色い猫の着ぐるみを着た女性。
「なんだぁ?なんか書いてあるな……ええと……?」
トキオが2人の持つ看板に書かれた文字を読み解こうとしている。
うーん?なになに……?俺も多少は読めるようになったもんね!
男性の方が【痛くします】
女性の方が【痛くしないでね】
と、書かれた看板を俺達に見せていた。