「ど、どうする?オウカ」
「あの魔石が私達の目的である以上、彼奴等をどうにかせねばならん。邪魔だてするならば倒すまでだ」
俺達の目の前には、看板を持った着ぐるみ2人。
書かれている看板の文字から察するに、戦闘を想定して待機していた2人だろう。
戸惑うトキオがオウカさんに聞いているが、彼女は勇ましく宣言をする。
俺も後ろでソナーを展開して、この室内に罠などが仕掛けられていないことをパーティーに伝える。
「うむ。相手は2人、こちらは4人。相手の実力が分からない以上は気を抜けないが、目的まであともう少しだ……行こう」
「作戦は?」
「急拵えのパーティーだ。ロクな連携もとれないだろう。各自、自分の力を振り絞って彼奴等を打倒しよう」
「りょうかいー」
オウカさんとトキオ。そしてミニレさんがゆっくりと、警戒しながら広場の中心へと向かう。
俺も3人の後ろを歩く。
見晴らしの良い部屋だ、サーチもそこまで広げなくても良さそうだ。
相手強さは未知数だ、体に魔力を纏わせて強化する。
敵は2人。
【はわわ、どうしましょうピョンさん】
【大丈夫大丈夫。相手は新人冒険者なんだからちょちょいのちょいだよニャンちゃん】
猫の着ぐるみ、ニャンちゃんがうさぎの着ぐるみ、ピョンさんにおろおろとした様子で、新たに用意した紙に文字を書いて見せ、それを見たピョンさんも励ましの言葉を書いてそれをニャンちゃんに見せる。
手間の掛かることを……。喋れば良いのに。
わざわざ俺達にも会話の内容を見せるようにしているところをみれば、俺達を随分と侮っているようだ。
「なめやがって!その着ぐるみを燃やし尽くして正体を拝んでやる!良いよな!?オウカ!」
トキオがピョンさんの文字に腹を立てたのか、杖を2人の着ぐるみに向ける。
このパーティーのリーダーはオウカさんだ。
トキオも確認を取る冷静さは持ち合わせている様だが、純粋にオウカさんへの恐怖心から来るものかも知れないのがトキオらしい。
「構わない。2人の能力が分からない以上、中距離から仕掛けるのも悪くない……ぶちかましてやれ」
「よーし!我が身に宿りし地獄の炎よ!我が敵を焼き尽くさんが為にその力を───」
「早くしろ!そんな詠唱などいらんだろうが!」
「ヒイッ……フ……ファイヤーボール!」
トキオが自分で考えたであろう、長い詠唱を聞いたオウカさんに叱られてシュンとしたトキオが、初級火魔法を2人めがけて放つ。
トキオの持つ杖の先からゴウッ!と音を立てて放たれた火球は、勢いよく真っ直ぐに相手に向かっていった。
その火球の背後からオウカさんとミニレさんが駆け出す。俺もその後に続く。
トキオの魔法を皮切りに戦いの火蓋が切っておとされた
迫り来る火球を見ておろおろとしていたニャンちゃんも覚悟を決めたように看板を投げ捨て、自分の武器であろう杖を構える。迎撃するつもりのようだ。
だが、その前に動いた人物。
ピョンさんだ。
平然とした様子でニャンちゃんを庇うように火球の前に立った彼は、肩に担いだ看板を両手で横に構え、そのまま勢いよく振り抜いた。
ブォン!!
と、凄まじい速度で振り抜かれた看板は恐るべき風圧を産み出して、迫り来る火球を掻き消し、その後に詰めていたオウカさんとミニレさん。そして、魔法を放ったトキオを部屋の壁まで吹き飛ばした。
「ぐわっ!」
「あー!」
「いってぇ!」
3人が壁に勢いよく叩きつけられて呻き声を上げる。
魔力で体を強化していた俺は、ピョンさんから放たれた凄まじい風圧をなんとか踏ん張る事は出来たが、壁に飛ばされた皆を心配して振り返る。
「みんな!!」
「アレン!前だ!」
!!
心配で振り返った俺にオウカさんの鋭い声が飛ぶ。
オウカさんの言葉を聞いて慌てて前を向けば、凄まじい痛みを腹に感じた。
いつの間に詰めていたのだろうか。
ピョンさんが俺の腹に跳び蹴りを放っていた。
「ぐあっ!」
魔力で強化されていた筈の俺のガードをぶち抜いたピョンさんの凄まじい蹴りを食らって、俺も壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられる。
全員が片ひざをついて目の前で悠然と佇むピョンさんを睨み付ける。
彼の手には、看板が。
ピョンさんは俺達に書かれていた文字に意識を向けさせるように、看板部分をコンコンと指で叩く。
そこに書かれていた文字は
【痛くします】
にゃろう……!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「舐めるな!」
いち早くダメージから回復したオウカさんが刀を抜きピョンさんに突貫する。
彼女も魔力纏いを使えるのだろう、凄まじいスピードでピョンさんに肉薄する。
オウカさんは上段に構えた刀を、ピョンさんを真っ二つにせんと振り下ろす。しかし、ピョンさんは手にした看板でいとも容易く受け止める。
そのまま勢いよく切り結び始める2人。
刀と木材がぶつかり合う音が室内に響く。
彼が手に持つ看板は自身の魔力で強化されているのだろう。両手で刀を握るオウカさんの刀を受け止めても傷一つ付くこと無く、ピョンさんは片手で器用に看板を操りオウカさんと切り結んでいた。
「くっ!」
ピョンさんがオウカさんの放った上段切りを、自身に当たるよりも早く看板で斜め上に弾く。
刀を弾かれて体勢を崩されてしまったオウカさんの腹に、ピョンさんの掌底が突き刺さる。
ドッ!と鈍い音とともに、掌底を食らったオウカさんが俺達の踞る壁まで飛んできた。
腹を抑えて呻くオウカさんの向こう側、ミニレさんと目があった俺は頷きあって2人でピョンさんに向かって駆け出す。
トキオは後ろでおろおろしていたが、近接戦闘では俺達を巻き込みかねない。
トキオもそれが分かっているのだろう、呻くオウカさんに駆け寄って介抱をしている。
「ミニレさん!俺が合わせる!自由に戦って!」
「わかったー!」
複数で戦った経験など無い俺だけど、仕方がない。
目の前に居る相手は単独で挑んでも勝ち筋が見えない相手だ、ならば、俺がミニレさんの動きに合わせれば良い。
先を走る俺はピョンさんを追い抜いて、少し距離を空けて彼の背後に回る。
さあどうだ!挟み撃ちだぜウサ公め!
俺とミニレさんが前後から攻める。
走った勢いそのままに飛び上がったミニレさんが手にしたハンマーを大きく振りかぶって、ピョンさん目掛けて振り下ろす。
背後に回った俺はピョンさんが受けても避けてもどちらでも大丈夫なようにその様子を伺う。
「えーい!」
ドゴン!!と凄まじい衝撃音が室内に響くが、ミニレさんの攻撃はピョンさんに当たること無く彼が立っていた地面にハンマーだけが突き刺さる。
凄まじい威力だ、どこか気の抜けた掛け声とは裏腹に、地面にはクレーターが出来ている。しかし、当たらなければ意味がない。
ミニレさんの攻撃を軽々と横方向に飛び退いて避けるピョンさん。俺が彼が着地する前に攻撃を仕掛けようと駆け出したとき、申し訳程度に展開していたサーチに反応が。
「!?なぬっ!?」
俺の側面から複数の風の弾丸。
エアバレットが俺を襲う。
突如現れた攻撃を無視して突っ込む事もできず、魔力で強化した腕で風の弾丸を弾く。
攻撃が飛んできた方を見れば、杖をこちらに向けたニャンちゃん。
馬鹿だ俺は!!敵は2人いたのにピョンさんに気をとられ過ぎた!!
「わー!……うげぇっ」
ドン!ゴッ!
という音と、ミニレさんの悲鳴。
慌ててミニレさんを見れば、オウカさんと同じくピョンさんに掌底を食らって壁に吹き飛ばされていた。
ピョンさんの片足の下には、ミニレさんの武器であるハンマーが地面に深くめり込んでいる。
俺がニャンちゃんに気を取られていたさっきの一瞬でミニレさんに肉薄したピョンさんが、ミニレさんが武器を構え直す前に彼女のハンマーを上から踏みつけて、地面にめり込ませたのだろうか。
そして、そのまま掌底。
「マジかよ……うおおっ!?」
合図も無くピョンさんをフォローしたニャンさんとの2人の見事な連携に呆気に取られている俺に素早く距離を詰めるピョンさん。
手にした看板を小脇に抱えて目にも止まらぬ蹴りの連打を放ってくる。
今の強化した体でも避けるので精一杯だ。
当たればただでは済まない威力の蹴りをなんとかかわし、ピョンさんの放った回し蹴りを体を屈めてなんとか避けた時に、バチン!!という音とともに体の側面に凄まじい痛みを感じて吹き飛ばされる。
何が起きた!?
と、吹き飛ばされながらピョンさんを見れば、こちらに背を向ける彼の小脇に抱えられた看板が目に写る。
回し蹴りは避けたと思ったが、俺から見えないように彼の体の背後に隠されてた看板部分で回転した勢いそのままに思いっきり体の側面を叩かれたようだ。
なんとか壁に激突する前に体勢を整えて相手を睨む。
目の前では、楽しげにハイタッチを交わす2人の着ぐるみ。
と……とんでもねぇ!!なんちゅう相手だ……!!
「たーいむ!!!」
恐ろしい相手を前に戦慄している俺の後ろで凛とした声が響く。あ、ニャンちゃんがビクリとしている。
目の前の2人から意識をそらすこと無くチラリと後ろを見れば、真っ直ぐに挙手したオウカさんが凛々しい表情で立っていた。
隣に居るトキオは勿論、あのミニレさんも少し驚いていた。
「そこな2人組、少しの間、たいむ、よろしいか?」
オウカさんの突然の宣言に戸惑う俺達と、ニャンちゃん。
ピョンさんはオウカさんの問いかけを聞いて、どこからか取り出したペンでこれまたどこからか取り出した紙にさらさらと何かを書き始めた。
その様子をドキドキとした様子で見守る俺達と、何故かニャンちゃん。
ピョンさんは文字を書き終え、律儀に紙を看板に貼り、俺達に見えるように看板部分を向ける。
そこに書かれていたのは───。
【良いよ!( =^ x ^= )】
あ、良いんだ………。
「かたじけない。……集合。パーティー全員集合!」
ピョンさんにペコリと頭を下げるオウカさん。
顔を上げて、俺達全員に向けて手招きをする。
全員が立ち上がりオウカさんの元へと集まる。
オウカさんが俺とミニレさんの肩に腕を回し、引き寄せる。
なるほど。そういうことね。
1人戸惑うトキオを俺とミニレさんが呼び、近づいてきたトキオの肩を2人で組む。
4人で肩を組んで、今更ながらヒソヒソと作戦会議を始めた。本当に、今更だけど。
女子と密着しているが、そんな事気にしちゃいられねぇ。一大事だ。
「あの兎、とてつもなく強いんだが」
「うん」
「武器とられたー」
「ジーク達はあんな奴相手に無傷で勝ったのか……?」
「それは分からん。だが、私達はこのままでは敗走必至だ。それは避けねばならん……しかし、あの兎が魔石を守っている以上突破は困難だ」
「そうだね……全員で行っても結果は同じだろうね」
「ていうか、あんだけ接近して動きまわられたら俺は何も出来ないぜ、攻撃したら皆を巻き込んじまう」
「武器ー」
「それに、もし魔法を放ったとしても無駄だろうな。平然と対処されて終わりだ」
「だろうね。格闘術もさることながらあのスピードだ、無駄に消耗するのは避けたい」
「ハンマーー」
「ミニレ、後であの兎に返してもらえないか聞いてみような」
「ありがとー……どうしよっかー」
「トキオ、お前はどれくらい攻撃魔法を使える?」
「一番威力が高いのは火の中級魔法だ。撃てて3発」
「アレンはどうだ?戦ってみて」
「ニャンちゃんなら俺が抑えられそうだけど、ピョンさんが許してくれないだろうし」
「ふむ……。ミニレ、トキオ。お前達はどうだ?あの猫を抑えられそうか?」
「ああ!と、言いたいところだが……わかんね」
「私もー。でもー。頑張るよー」
「お、俺もだ!頑張るぜ?」
「よし、アレン。お前の動きを見せてもらった。私と2人であの兎を抑える役目、頼んでも良いか?」
「もちろんさ。でも、それ程長くは持たないかも」
「だろうな。このクエストの成功はミニレとトキオ、お前達2人に懸かっている」
「へっ?」
「えー?」
「そうだね」
「アレンは分かっているようだな。良いか、お前達の役目は────。」
キョトンとするトキオとミニレさんに作戦を説明するオウカさん。
作戦を聞いたトキオは少しだけ強張った顔をしていたが、覚悟を決めたのか頷いて見せた。
ミニレさんも、ほわほわと笑って頷いている。
オウカさんと目があって、2人で頷き合う。
最後に、オウカさんが全員の顔を改めて見渡して、頷く。
俺達3人もオウカさんに力強く頷いて見せた。
さあ!反撃開始だ!ジークさんの鼻をあかさないといけないしね!
ここで躓くわけにもいかないさ!
作戦会議も終わり、俺達は4人揃って目の前の強敵と向かい合う。
俺達が作戦会議をしているのを律儀に待っていた2人は、どこから持ってきたのか、2人して座ってストローを使って飲み物を飲んでのんびりとしていた。どうやって飲んでるんだ。
「すまない。その足元のハンマーを返してもらってよろしいか?」
オウカさんもオウカさんでミニレさんと約束した事を律儀に2人に聞いているが……。
いや、流石にそれはどうだろうか……。普通、返す訳もないしなぁ。
【良いよ!( =^ x ^= )】
看板を見せて、足元のハンマーをズボッと軽々と引き抜くピョンさん。
それをミニレさんに向かって投げて寄越すと、ミニレさんはありがとー!とお辞儀をしていた。
それを見て手を振る2人の着ぐるみ達。
……いや、良いんかい。返すんかい。
なんとも毒気を抜かれる2人だが、ピョンさんの実力は本物だ。
さぁて……やってやろうか!俺達の底力を見せてやるよ!!