アレンの冒険[世界は広いなぁ~]編   作:チョモランマ斉藤

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久々のべーやん登場(回想)

 

 

 

「我が愛刀"蒼"よ、その刀身に我が力を宿せ」

 

オウカさんが手にした愛刀の刀身全体を人差し指と中指を揃え、なぞる。

すると、刀身が薄いピンク色に染まり、魔力で出来た複数の、これまた薄ピンクの花弁の様なものがオウカさんの手に持つ刀の刀身を覆うように舞い始める

初めて見た技術だ。彼女独自の魔力纏いなのだろう。

 

「準備は良いか、アレン」

 

「うん」

 

オウカさんの問いかけに、俺も力強く頷く。

ピョンさん。少ししか戦っていないが、彼は間違いなくフレイ姉並みの相手だ。

家出をしたあの日と同等の魔力を体に纏う。出し惜しみなどしていい相手ではない。

 

「あの猫は任せるぞ二人とも。残念ながら、助太刀は……期待しないで欲しい」

 

「おう!俺達は俺達でなんとかするぜ。任せてくれ!」

 

「がんばろー!」

 

トキオも杖を握り直し、ミニレさんも拙いながらも魔力纒いをハンマーに施す。

慣れていない様子だが、きちんとハンマー全体に彼女の魔力が行き渡っている。

 

 

全員準備完了!あとは作戦通り、各々全力でやるだけだ!

 

「行くぞ!!アレン!!」

 

「おっしゃあ!!」

 

オウカさんが勇ましく吠え、魔力で強化した刀を握ってピョンさんに再び突貫する。

俺はその後ろで初級火魔法、ファイヤーボールを自分の背後に複数生み出してピョンさんに向かって真っ直ぐ走るオウカさんに当たることが無いよう、弧を描くようにピョンさんに向かって次々に発射する。

 

トキオの生み出したファイヤーボールが人の上半身くらいのサイズならば、俺のファイヤーボールは握りこぶしサイズ。

それを、50個程背後に展開した。

サイズの小さい、 数だけのファイヤーボールではない。

 

一律サイズと外見は一緒だが、それぞれ性能が違う。

スピードは有るが威力の弱いもの。

威力もスピードも無いが、当たれば弾けて炎を撒き散らすもの。

スピードも炎を撒き散らすことも無いが、純粋に威力だけを高めたもの

 

それを、次々にピョンさんに向かって打ち出す。

あらかじめオウカさんと打ち合わせをしていたので、背後から彼女を追い抜いていく俺の魔法に怯むことはない。

ただただ、真っ直ぐにピョンさんに向かっていく。

 

ピョンさんは最初にしたように火球をオウカさんもろとも吹き飛ばそうとはせずに、横方向に素早く走り出してオウカさんとの距離を空けようとしている。

 

ちっ!俺の放った魔法の特性に気付いたか!

 

 

彼もサーチを展開しているのだろう。ピョンさんは瞬時に俺の放った魔法の特性を見抜き凄まじい脚力でオウカさんを旋回して、魔法を制御している俺に向かってきた。

 

「ちぃっ!」

 

凄まじいスピードで俺に迫るピョンさん。

俺は撃ち出さずに背後に展開していたままの火球を、突っ込んでくるピョンさんに向かって発射する。

 

ピョンさんは俺が放つ3種類の火球を

スピードだけのものは腕で弾き飛ばし。

火を撒き散らすものは避け。

威力を高めたものは、なんと看板を使って俺に向かって弾き返してきた。

 

「なにぃっ!?」

 

背後に展開した火球は全て簡単に対処されて、さらには俺の火球を自分の攻撃へと転用して使って来やがった!

ピョンさんから弾き返された火球は、どうやったのか、俺が込めた魔力以上の威力を持って俺に襲いかかる。

 

「くそっ!」

 

向かってくる火球を腕で弾く。

今の俺にこの程度の火球など大したことは無いが、弾き返された事に驚いてしまう。

そのまま、肉薄したピョンさんと想定外の格闘戦を開始する。

 

凄まじい打撃音が室内に響く。

今の俺であっても、互角に打ち合う事しか出来ない。お互いに攻撃は当たること無く、何度も何度も移動しながら打撃を重ねる。

 

「私を忘れるなよ!兎!」

 

格闘戦をする俺の正面、ピョンさんの背後から追い付いたオウカさんが横凪の斬撃を放つ。

 

ギャイン!!

 

と、魔力同士がぶつかる凄まじい音。

不意をついた筈のオウカさんの横凪の攻撃は、後ろに目でも付いているのか、ピョンさんが手にした看板で軽々とガードされてしまう。

 

だが。

 

ニヤリと笑うオウカさんが見えた。

刀での攻撃は防がれた。しかし、刀身に纏われた花弁一枚一枚が離れて飛び、ピョンさんへと襲いかかる。

すげぇ!そんな攻撃があるのか!

 

 

花弁がピョンさんを襲う。

肉薄していた所にまさかの飛び道具だ。

しかも、俺と戦いながら無理矢理ガードして体勢を崩した今ならば、当たる!

流石に対処は難しいだろうよ!

 

スパパパパ!!

 

と、花弁がピョンさんを斬りつける。

さらに駄目押しだ!

花弁に襲われて意識が俺から一瞬だけ逸れた所を見逃さず、オウカさんの花弁攻撃が終わったタイミングで前蹴りをピョンさんの腹にぶち込む。

 

ドゴッ!

 

という轟音とともに吹き飛ぶピョンさん。

よっしゃあ!手応えありだ!!

 

凄まじい勢いで壁に向かって吹き飛ぶピョンさんを見ながら俺とオウカさんが何度も頷き合う。

最初の予定とは大きく外れてしまったが、それでも連携してダメージを与えることに成功したのだ。

2人でならば、あのバケモノ相手にも十分に戦える!

 

「この調子で──」

 

「──────!!」

 

オウカさんが俺に何かを言いかけて、それに応えようとした瞬間に

 

 

俺とオウカさんの間をピンク色の影が通り過ぎた。

 

 

?……なにが……。

その瞬間、全身に凄まじい激痛。

なんだ。なにが。何が起きた。

殴られたのか。蹴られたのか。

まさか────全部か。

 

オウカさんは。オウカさんはどうした。

 

俺の目の前で膝から崩れ落ちるオウカさんが見えた。

全身を魔力で強化していてなお、凄まじいダメージ。

ピンク色の影が通り過ぎたと思ったら、気が付いたらやられていた。

 

なんとか踏ん張り、前のめりに倒れる事を拒否する。

ピンク色の影が通り過ぎた先を見る。

そこには、平然とした様子で服についたホコリを払うピョンさんがこちらを向いて立っていた。

 

 

油断。慢心。

絶対に。絶対に気を抜いてはいけない状況で、一撃入れただけで気を抜いてしまった───大馬鹿だ!!俺はァ!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

アレンとオウカが戦闘を開始した同時刻。

トキオとミニレもまた、猫の着ぐるみと戦闘を開始しようとていた。

 

(そりゃあなんつー魔法だよアレン!)

 

トキオの視界の端で、アレンが見たこともない魔法を発動していた。

先ほどの作戦会議では、アレンは火と水の初級魔法しか覚えていないと言っていた。

 

ならば、あれは火の初級魔法なのだろう。

火の初級魔法はトキオは全て覚えたが、あのような魔法は見たことがない。

形状的には、ファイヤーボールだが……。

 

(いやいや、そんなもん後で聞けば良いな。今は、こっちだ)

 

 

同じ魔法使いであろう猫の着ぐるみも、アレンの魔法が気になったのか、トキオと同じようにアレンに意識を向けていたようだが、2人とも一緒のタイミングで頭を振って意識を切り替える。

 

これから戦うのだ。集中せねば。

 

と、その時。

 

「えーい!」

 

「!!」

 

どこか気の抜けた掛け声がトキオから離れたところから聞こえる。

アレンの魔法に、ミニレだけが気をそらすこと無く冷静に猫の着ぐるみの隙を狙って攻撃を仕掛けた。

 

気をとられて接近を許した事を反省した猫の着ぐるみは、兎の着ぐるみに言われた事を思い出す。

 

ハンマー娘は接近されちゃダメ。中距離からチクチクやっちゃいな。

接近されたら、攻撃するときに隙が有るから、出来るならその隙を狙って下がりながら魔法で攻撃ね。

一撃で持っていかれるから、攻撃を食らったらダメだからね。

 

 

(だったね!ピョンさん……!)

 

猫の着ぐるみに向かってハンマーを横に振りかぶって攻撃を仕掛けようとするミニレ。

 

ブォン!!

 

と、凄まじい音。

手応えは無し。

猫の着ぐるみは魔法を使って一気に下がる。

 

風の初級魔法。ウィンドウォーク

足に風を纏わせて、ホバー移動で機動力を上げる風の初歩的な移動魔法。

 

一時的に距離は詰められたが、教え通りに距離を空けることに成功した。

そして、ウィンドウォークを解除して攻撃が空振りして無防備になっているミニレに向かって、エアバレットを撃ち込む。

 

「あらー」

 

冷や汗をかいて自身に迫る風の弾丸を見るミニレ。

当たったら痛いかもー。

なんて思っていると、横からミニレを守るように炎の波が広がる。

 

「ごめん!遅くなった!」

 

火の初級魔法。ファイヤーウェーブ。

炎の波が風の弾丸を吸い込み、かき消した。

 

杖を構えてトキオがミニレに並ぶ。

アレンに気をとられて遅れてしまったが、ミニレがダメージを負うことは無かったから大丈夫だ。大丈夫だよね?

と、内心冷や汗を流すトキオ。

 

自分達の隣では凄まじい攻防が繰り広げられているが、それはそれ。

今はこっちだ。俺達がこのクエストの成功の鍵なのだ。

 

 

失敗したら、あの化け物相手にたった2人で挑んでいるアレン達に申し訳が立たない。

あの化け物と比べたら目の前のニャンちゃんのなんと可愛い事か。

 

(やってやる!だから踏んばってくれよ!アレン!オウカ!)

 

(まっててねー。この人すぐに倒してー。皆で美味しいご飯を食べようねー!)

 

 

杖とハンマーを構えた3人が改めて向かい合う。

このクエストにとって大事な戦いが始まる。

 

トキオとミニレに与えられた任務はいたってシンプル。

ニャンちゃんを倒して、魔石を奪い取る。

ただそれだけだ。

トキオもミニレも、2人であの猫の着ぐるみを倒せば良いのだ。

 

自分達に与えられた任務など凄まじい打撃音と共に縦横無尽に駆け回る隣の戦場に比べたら、なんて事はない。

 

チラリと隣のミニレを見る。

油断無く相手を見つめる、ハンマーを手に持つ兎の獣人。

あの兎の着ぐるみだってミニレの攻撃は受けること無く回避していた。

この猫も言わずもがな、必死で避けていた所を見れば、ミニレの攻撃さえ当たってしまえば勝利は目前だ。

 

つまり、自分の役割はあの猫の足を止めること。

トキオは1人、後ろから目まぐるしく動く戦況を1人で見ていたのだ。ピョンさんという規格外はまずは捨て置く。

目の前のあの猫は、魔法を見た限りでは大した脅威ではない。

トキオは杖を強く握り直した。勝機は、この場所にしかない。

あとは、アレン達があの兎をうまく引きつけておいてくれれば良い。

 

 

 

ミニレもまた、ほわほわとした笑顔の奥で思考を巡らせる。

彼女はこのクエストをかつて受けたことがある。

一年ほど前だろうか。自分が初めて冒険者登録をした時の話だ。

 

今回、ミニレは嘘をついてこの研修に参加している。

彼女は新人冒険者などではなく、一年以上フォルトゥナに在籍している冒険者だ。

 

彼女の本来の目的、それはアレンを観察する事だった。

フォルトゥナの団長、レティシアのコネをフルに使って今回のこの研修に潜り込んだ。

誰にも属さないと思われていたジンとカイが初日から面倒を見ているという少年。

有用ならば、こちらのクランに引き入れたい。

そして、あわよくばジンとカイも。

それが、彼女の任務だった。

 

彼女ただ1人が、別の任務で動いていた。

パーティー全員を騙して。

 

だが、どうだ。

隣では必死に圧倒的強者に挑む2人の新人冒険者。

アレンとオウカの技量は新人冒険者……いや、フォルトゥナの幹部にだって勝るとも劣らぬ力を持っている。

 

それが、必死の形相であの兎の着ぐるみに食らいついている。パーティーの為に。勝利の為に。

 

ミニレは、のほほんとしたのんびり屋さんという印象を周りに与える。無論、それは正しい。

しかし、彼女は穏やかな笑みの裏に熱い血潮を持っている。

 

あの2人には出会ったばかりだ。それこそ、半日にも満たない。だが、しかし。

それがなんだというのだ。あの2人は、自分とトキオに全てを託してあの化け物を足止めしているのだ。

自分達ならばやってくれると信じて。

理屈ではない。魂で感じた。

 

 

ここで、この状況で燃えないミニレではなかった。

 

(あとで沢山謝ろうー。でもー。まずはー)

 

手にしたハンマーに力を込める。

ほわほわ笑う笑みを消し、目の前の敵を睨み付ける。相棒は少しばかり頼りないが、頼りにしている。

 

 

そして、一気に駆け出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(ピョンさんが凄い。そして────。)

 

この子達も。向こうでピョンさんと戦うあの子達も。

猫の着ぐるみの中で彼女は思う。

 

 

移動魔法を使ってハンマーを持つ少女の接近を許さず、迫りくる火球を風の障壁でかき消す。

ハンマーの少女の一撃の威力は見たし、感じた。

自分が食らえば一撃で終わりだ。

魔法使いの少年はこちらの移動する先を的確に予測し、じわりじわりと逃げ道を潰すような火球を放ってくる。

 

止まればやられる。逃げ続けても、魔力切れでやられる。どちらか片方を倒さねばならない。

今の自分には随分と荷が重い相手だ。

 

仮に、向こうにいる1人がこっちに来ていたら、自分など一瞬でやられていただろう。

 

もっとも、その場合はピョンさんがすぐに助太刀に来てこの子達のクエストは失敗に終わっているだろうが。

 

自分は今日、軽い気持ちでこの研修に参加した。

 

自分もかつては、数年前に受けたことがある授業の一環としての新人研修。

受けた区こそ違うが、同じ場所で、同じ条件。

クエスト達成条件は、魔石を獲得すること。

 

自分達の時はどうだっただろうか。

仲の良い友達と遠足感覚でダンジョンに潜って、笑いながらクエストに失敗した。

先輩がコソっと教えてくれたのだ。失敗を前提にしたクエストであると。

だから負けても、先輩達強すぎー!なんて、ろくに足掻くこともせずに皆して笑っていた気がする。

 

 

あの日の自分達は、このように必死で勝ちに行ってはいなかった。

あの日の自分達は、このように全員で協力なんてしていなかった。

 

 

自分に必死に向かってくる彼女達が凄く眩しい。

どうして、どうして───。

あの日の自分達は、何故こんなに一生懸命になって全員で圧倒的な強者に戦いを挑まなかったのだろうか。

勝てなくても、初めから達成が厳しいクエストだと分かっていても。

あの日、全員でこのようにもがきながら勝ちを拾いに行っていたら、何かが。何かが───。

 

 

(しまっ……!!)

 

 

避けたと思った火球が当たり、熱を感じて体勢を崩す。

目の前には、自分を倒さんと迫り来るハンマー。

避けられない。着ぐるみの中でいずれ訪れるであろう痛みに怯えて目を瞑る。

 

 

「そん……なぁー……」

 

「うそ……だろぉ……」

 

……?

痛みが来ない……?

聞こえてくる少年達の悲痛な呻き声。

恐る恐る目を開けると。

目の前には自分に迫るハンマーを軽々と受け止めるピンク色の背中。

 

そして、彼と彼女に絶望を告げる、ピンク色の背中。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「なんでお前がっ!……アレン達は!?」

 

トキオは慌ててかつてアレン達が戦っていた場所を見る。

そこには、倒れ伏すオウカと、倒れてはいないが、痛みをこらえるアレンの姿。

 

その奥に、2つの足跡が刻まれた壁が見える。

 

「う……うあぁぁあああ!」

 

ミニレが兎の着ぐるみが掴むハンマーを振りほどこうとする。

しかし、凄まじい力で握られたハンマーが放れないと分ると、手放して雄叫びを上げて兎の着ぐるみに殴りかかる。

 

しかし、それを軽々と避ける着ぐるみ。

 

「あと少し!あと少しだったのにぃ!!このヤロぉー!!」

 

トキオもまた、着ぐるみに殴りかからんと走り出す。自身に残る魔力も心許ない。ならば、せめて。

 

アレンとオウカ。2人がかりでも勝てなかった相手だ。自分達ではどうしようもない。

だからといって、ミニレもトキオも、殴りかかるのをやめなかった。

 

ミニレから奪ったハンマーを肩に担いで、2人から放たれる打撃を軽々と避ける兎の着ぐるみ。

時にはパンパン!と片手で軽い打撃を食らわせ、体勢が崩れたところに足払いをかけて転ばす。

 

それでも歯を食いしばって立ち上がり、何度も挑む2人。

何度も、何度も、何度も。

 

 

(どうして……)

 

 

猫の着ぐるみ。彼女の目の前で何度も立ち上がっては転ばされ、それでも諦めること無く立ち向かう2人の姿。

 

(どうして、そんなに、必死で……)

 

着ぐるみの中で悲痛な表情を浮かべる。

自分を守ってくれているピンクの背中は、相対する2人にとってはどこまでも絶望的な相手だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ぐっ……」

 

「オウカさん!」

 

俺の横でオウカさんが呻き声を上げる。

魔力纒いで強化をしていて尚感じるこのダメージだ。

オウカさんからはそれ程強い強化を感じない。

受けたダメージは相当なモノだろう。

 

「オウカさん、これを」

 

「す……すまない…!」

 

俺はズボンのポケットに無造作に突っ込んでいたポーションを2本オウカさんに渡す。

あの激戦の中で良くもまあ割れずに無事だったものだ。

 

俺から受け取ったポーションを一気に飲み干すオウカさん。

カイさんと出掛けた先で拾ったヨギを使って作ったポーションだ。中級ポーション並みの回復力はある。

 

「ふう。……お前は?」

 

「俺は大丈夫。自力で回復できるんだ」

 

 

ポーション飲み干してダメージの回復したオウカさんが刀を手に立ち上がる。

俺にポーションの使用を聞いてくるが、人数分しか持っていていない。つまり、残り2本。何かあった時用に多く残しておきたい。

 

 

向こうではトキオとミニレさんがあのウサ公と戦っている。早く合流しなければ。ていうかあの2人に残りのポーションを渡さないと。

 

この技は魔力をかなり消費してしまうからあまり使いたくはないが、そうも言っていられない。

俺は体内の魔力を自身のダメージの回復にあてる。

 

込めた魔力の分だけみるみるダメージが回復していく。

ちなみに、魔力をほぼ使ってしまうが、即死でもしない限りはどんな傷でも回復出来る。もっとも、魔力の無い状態でそこまで深傷を負わせられた敵を相手に何が出来るんだって話だけどね。

 

 

「っと!のんびりしている場合じゃないな!早くアイツをあの2人から引き剥がさないと!」

 

「そうだな……だが……」

 

 

凛としたオウカさんが弱気な表情を浮かべる。

無理もない。一撃二撃は食らわせたが、アイツの反撃で2人ともこの様だ。オウカさんにいたっては何をされたのかも分かっていないだろう。

 

 

「大丈夫」

 

「え?」

 

「諦めなければ、俺達なら大丈夫さ」

 

「アレン……」

 

俺はオウカさんに向かって力強く笑う。

そうだ。そうだとも。

この程度の苦難、乗り越えられなくてどうするよ。

序盤も序盤。まだ俺達は始まったばかりなんだ。

 

 

「そうか、そうだな……すまん!弱気になった!もう大丈夫だ!」

 

どこかで聞いたような台詞を言うオウカさんに思わず笑ってしまう。

だが、確かにこのまま行っても結果は同じだろう。策を練らなければ。

 

どうしたものかと頭を悩ませていると、不意にべーやんとの会話が頭を過る。

そうだ、あれは、家出をする少し前の事。

フレイ姉に勝ちを取りに行って惜敗した時の事だ

 

 

──アレン、良いか?お前の強みってのはな、あの嬢ちゃん達それぞれに鍛えられた事だ。

お前は嬢ちゃん達の教えを良く学び、吸収してきた。今はまだ個々の能力に劣るかもしれない。だが、それはあくまでも相手があの嬢ちゃん達だからだ。

 

今だって

フレイの嬢ちゃん以外に格闘戦で負けそうか?

ウィンの嬢ちゃん以外で魔力の扱いで負けそうか?

だろう?

相手からしたらこんなに恐ろしい事はない。

 

なんたってドライグ国の精鋭が一気に襲いかかってくるようなモンだ。

それが、今のお前なんだ。

嬢ちゃん達の教えを信じているだろう?

だったら、お前も信じろ。お前がお前を一番信じるんだ。

それが、お前の強みだ、アレン──

 

 

そして、家出した日のフレイ姉の最後の教え。

俺の持ち味をフルに生かす。

持てる魔力の全てを出し切って、勝つ。皆で勝つ。

そうだ、あれも聞いておこう。

 

「オウカさん。遠距離攻撃有る?威力の高いやつ」

 

「あ……ああ、1つだけならば」

 

「よっしゃ!やったろうぜ?俺がアイツの足を止めるからさ、やったったろうや!」

 

「ああ……ああ!そうだな!やられっぱなしは性に合わん!やってやろう!アレン!」

 

 

へっへっへと2人して笑い合う。

相手はあの日のフレイ姉よりも強いかもしれない。

だけど、こっちにだって心強い味方が3人もいるんだ。

つまり、トントンだ。

 

さあ行こう。2人がそろそろマジでヤバイ。マジでゴメン。ホントゴメン

気合い十分で歩きだした俺の前にあるものが見えた。

これは─────。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おーいこらウサ公こらぁー!俺の仲間に何やってんだこらぁー!!」

 

俺は大声であの忌々しい兎を呼ぶ。

俺の大声に反応したトキオがこれまた大声で

おせーぞアレンこのやろー!!

と、怒っていた。

どうやらだいぶコテンパンにやられたようだ。

 

ミニレさんも俺とオウカさんの姿を見て安心したように腰をおろして

おそいよー!ばかー!

なんて両手を上げて怒っている。

 

へっへっへ。マジごめん。

 

ハンマーを肩に担いだ憎きウサ公がこちらを見る。

表情は見えないけれど、やっと来たかと笑っているような気配がする。

 

 

「おいこらぁ!ウサ公こらぁ!」

 

ウサ公が投げ捨てたであろう看板を拾って、看板部分を相手に見せてトントンと指で叩いて文字をアピールする。

その文字はもちろん

 

【痛くします】

 

だ。

 

 

それを見て声こそあげないが、体を揺らして笑ったような動作をするウサ公。

楽しそうで何よりだよちくしょうめ!度肝抜かしちゃる!!

 

 

「オウカさん。2人にこれを。タイミングは合図するよ」

 

「承知」

 

オウカさんにポーションを2本渡す

彼女は力強く頷いて、2人に向かって駆け出した。

 

ウサ公は肩に担いだハンマーをミニレさんに渡していた。戸惑うミニレさんだったが、ウサ公にポンポンと優しく頭を叩かれて、これまた大いに戸惑っていた。

 

オウカさんとすれ違いながら、ウサ公はニャンちゃんが投げ捨てた看板を拾い、肩に担ぐ。

ゆっくりと俺に向かって歩いてくるウサ公。

へっへっへ。なんて威圧感だよちくしょうめ。

ただただゆっくりと歩いてくるだけなのに、おかしな格好に似合わぬ圧倒的な強者の風格。

 

 

俺は目を瞑り、ふぅー。と長い息を吐き出す。

体全体に魔力を纏わせる。もちろん、看板にも。

そして、背後に火球を展開する。

全て当たったら弾ける奴だ。

アイツはこれだけは避けていた。

 

「今度の俺はちょっと違うぜ?」

 

なんて、不敵に笑って宣言すると、ウサ公が手のひらを上に向けてちょいちょいと手招きをする。

へっへっへっへ!!

やってやらぁ!

 

駆け出した衝撃で地面を壊す程の脚力で一瞬で肉薄して、看板を袈裟斬りに振るう。

そして、待ち構えていたウサ公もまた、看板で俺の攻撃を受け止める。

 

ギャイン!!

 

と魔力同士がぶつかり合う音を聞きながら、俺は背後に展開した火球を至近距離から複数ウサ公に向かって放つ。

 

ちぃっ!!なんつー反応だよくそったれ!!

 

至近距離から迫り来る火球を見て、ウサ公はなんと、俺の視界から一瞬で消えた。

拮抗していた力が抜けて前のめりになる。

目の前では、目標を失った火球が地面に当たり、爆ぜる。

 

「右ィ!」

 

ウサ公は俺の右側に体を低くして回り込み、下から看板を俺に向けて振り抜こうとしていた。

サーチを使っていた俺は瞬時に右に向き直り、下から迫る看板を足の裏で踏みつけるようにガードする。

 

「ぐぅっ!」

 

凄まじい衝撃に体が浮きそうになるが、足を押さえ込んで飛び上がるのを堪える。

しかし、ウサ公は手にした看板を手放す。

またもや踏ん張っていた力がガクンと抜ける。

 

体勢の崩れた俺に向かって低い体勢のまま器用に体を回転させて俺の鳩尾を目掛けて鋭い蹴りを放ってきた。

 

ここだ!!

 

ウサ公が放った蹴りは俺に当たること無く空を蹴る。

 

転移魔術。

この大陸では、テレポーテーション。

うーん。長いから転移で良いな。

 

転移を使い、ウサ公の真上に現れた俺は、無防備にこちらに背中を晒すウサ公に向かって魔力を込めた拳を振り下ろした。

 

「オラァァ!!」

 

ドゴン!!

 

ウサ公の背中に突き刺さった俺の拳と、ウサ公の体が地面に激突した。

衝撃音と、確かな手応え。

 

「まだだ!!」

 

この機を逃さんと倒れ伏すウサ公の背中に馬乗りになって両手の拳を使って背中に連打を叩き込む。

 

ドゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!

 

とウサ公の体が地面にめり込む程の強烈なラッシュ。

このままだ!このままここに縛り付ける!!

逃がしてはならない!ウサ公の気配が一向に弱くならない!!

 

自然と冷や汗が頬を伝う。

攻めている。間違いなく攻めている筈なのに───!!

 

 

ガン!ガン!

 

と、倒れ伏すウサ公の両手が地面を支え、背に乗る俺ごと体を起こし始める。

まるで、俺のラッシュなんて効いていないかのように。

 

そして、ウサ公は腹這いのまま腕と脚の力だけで俺ごと空へと飛び上がった。

 

 

「うおっ!」

 

予想だにしていなかったウサ公の行動に驚いてラッシュを止めてしまう。馬乗りになっていた俺も浮き上がり、密着していたウサ公の体から放れてしまう。

そのままウサ公は瞬時に体を回転させて、俺の脇腹に向かってフックを放ってきた。

 

「当たるかぁ!」

 

再び転移を使い、地面に現れる。

空にいるウサ公が体勢を整える前に攻撃をしなければ!

慌ててウサ公を見上げれば、すでに体勢を整えたウサ公と目があった。

 

やはり、着ぐるみの中でとても楽しそうに笑っている気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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