オウカがミニレとトキオと合流し、息も絶え絶えに座り込む2人にアレンの用意していたポーションを手渡す。
ポーションを受け取った2人が感謝と共にそれを飲むのを見守り、魔石の置いてある台座付近を見る。
側には猫の着ぐるみも見える。
じっとアレンと兎が戦っている方を向いて立っていた。
魔石を守るように立っては居るが、立っているだけ。
オウカはそのように感じた。
オウカも、アレンと兎の方を見る。
目の前で異常ともとれる激戦が繰り広げられている。
アレンのあの瞬時に消えて現れるあの技はどのような技術なのだろうか。
アレンが目にも止まらぬスピードで兎と戦っている。単独で、あの兎と渡り合っている。
しかし、兎もまた、さる者。
一度はアレンも一杯食わせたようだが、すでに兎はアレンの技術に対応したのか、消えては現れて攻撃を仕掛けてくるアレンに対して互角以上に立ち回っている。
やはり、凄まじい反応速度だ。
一見すれば必殺のタイミングで放たれたと思えるアレンの攻撃を見切って、受け流している。
なんという化け物か。
もはや今の自分にあの2人の攻防を満足に見ることなど叶わない。
それだけのスピードで、2人は戦っていた。
「……ああやって使うのかー」
オウカのすぐ近くで地面に座り込むミニレがポツリと呟く。
全ては見えなくても、攻撃の瞬間や足を止めての攻防の際にはなんとか2人の動きが確認する事が出来た。
オウカがミニレを見ると、手にしたハンマーを力無く握り、アレンと兎を見ていた。
改めて、凄まじい激戦が行われている戦場に目を向ける。
ああ、なるほど。と、オウカ。
兎は戦い方を変えたのか、手にした看板を剣としてではなく、ハンマーのようにして使っている。
看板を短く持って、石突きや頭部分を使ってコンパクトに打撃を重ね、相手を崩してから一気に攻撃を叩き込んでいる。
ミニレの一撃必殺に全てをかけた戦い方よりも随分とスマートかつ、的確に相手にダメージを負わせる戦い方。
アレンの打撃や斬撃をハンマーの柄で受け、弾き、いなす。
決して大振りなどせずに堅実に立ち回り、アレンの隙をついてから攻撃している。
どうやら、あの兎はハンマーの扱いにも精通しているようだ。
(ふん……最初から勝てる道理の無かった相手……か)
目の前では、あの兎がミニレにハンマーの扱い方を教えるような、そのような戦い方でアレンと戦っている。
相手をしているアレンもコロコロと戦闘方法が変わる兎に四苦八苦しているようだ。
必死の形相で兎に食らいつくアレン。十分に戦えている。だが、それも。戦えているだけに過ぎない。
いつまで経っても有効打は与えられずにいた。
アレンとて持てる全ての力を出して戦っているのだろう。
縦横無尽に消えて現れては格闘戦を仕掛け、隙を見つけては背後に展開した火球を的確に相手にぶつけている。
高速戦闘の最中に集中を切らすこと無く、随分と器用かつ、綿密な魔力コントロールだ。
どれ程の研鑽を積めば、あのような事が出来るようになるのか。
同い年であるというのに、今のオウカなど足元にも及ばない程の実力をアレンは持っていた。
だが、兎は、アレンのその悉くをはね除けている。
アレンの積み上げてきた修練を嘲笑うかのように。
(だが、それがなんだというのだ。諦める道理にはなるまいよな。アレン)
激闘の最中、必死の形相のアレンだが時折笑みを浮かべている姿が見える。
圧倒的強者。自分の全てを出しても尚届かぬ相手。
それでも。それだからこその笑み。
「トキオ、魔法はあとどれだけ放てる?」
「えっ?あー…そうだな。デカいの一発だけなら」
オウカの問いかけに肩に掛けた赤いコートに手を伸ばすトキオ。
うむ。と頷くオウカ。
「3人で魔石、取りに行くか?」
トキオが猫の着ぐるみを見る。
オウカと合流した今ならば、あの猫を倒すことなど容易いだろう。
猫はこちらを見ることもなく、依然としてアレンと兎の戦いを眺めている。
しかし、トキオの提案を首を振って否定するオウカ。
「いや、あの兎、忌々しい事にアレンと戦いながらもこちらに気を回す余裕があるようだ。魔石を取るには、やはりアレを倒さねば」
「うへー……マジかぁ」
「ふ。諦めるか?」
「冗談だろ。最後までやるぜ俺は。もうジークなんてどうでも良いや。アレンに笑われちまうよ」
杖を持ち立ち上がるトキオ。
オウカの隣に並び、アレンを見守る。
冒険者となって日の浅いトキオには、2人の戦闘がどのように行われているかなんて、さっぱり見えていないが。
それでも、必死で戦っているのだろうアレンを見守る。
自分など、まだ何もやっていない。
「何か手はあるのー?オウカちゃんー?」
ミニレもまた、立ち上がってオウカと並ぶ。
アレンもオウカもトキオも、諦めるつもりなんてさらさら無さそうだ。もちろん、自分も。
ここまで来たのだ。最後までやり抜く。全員で。結果はどうであれ、ここで諦めたら、これからの人生最後まで後悔しそうだ。
そんなのは、嫌だ。
「なに。やるだけやってみるさ」
偶然集まった4人だ。
交流など、道中のワイバーン便の中でしかしていない。それも、世間話程度だ。
お互いの事など何も知らない4人。
どんな思惑があって、何の目的で冒険者になったのか何も知らない。
しかし、そんなものは後から話せば良いのだ。
このクエストを終えて、食事でもしながら。
だからこそ諦めない。だからこそ、逃げない。
アレンのように、自分達も。
ここで投げ出してしまっては一生悔いが残る。
正確に放たれていたアレンの火球が、全くの見当違いの場所へと放たれた。
アレが合図なのだろう。
さあ、今行くぞアレン。
あの忌々しい兎に、私達の力を見せてやろうじゃないか──!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(エゲつねぇ!!なんなんだコイツは!!)
最大の切り札である転移すら使ってなお、届かない相手に俺は自然と笑みをこぼす。
もちろん、諦めの笑みなんかじゃない。
新人研修で世界の広さってやつをありありと見せつけられた。
強い。この兎は、はちゃめちゃに強い。
ただひたすらに強い。何もかもが、俺の上を行く。
さっきまで看板をハンマーのようにして扱っていた。
まるでミニレさんにハンマーでの立ち回りはこうであると教えるかのように。
実際、かなりの攻撃を食らった。
そして、俺にも。
俺にとってはベストのタイミングで、必殺のタイミングで攻撃したと思っても、軽く避けられるか、迎撃されてしまう。
まだまだ甘いと。
俺のミスを指摘するかのように攻撃を放ってくる。
あの日のフレイ姉のようだ。
いや、もしかしたらコイツは本当にフレイ姉よりも強いのかもしれない。
フレイ姉に当たった攻撃がコイツには当たらない。それだけで、嬉しくなる。
世界は広いなぁ!なぁ!べーやん!
家を出て良かったよ!世界にはこんな奴が他にもゴロゴロしてんのかな!?
へっへっへ!ワクワクするぜオイ!
感覚が研ぎ澄まされていく気がする。
コイツと戦って、成長している自覚がある。
コイツとずっと戦っていたい。
だが、そりゃダメだよな。
俺達は、勝つためにここに居るんだ。
なあ!みんな!
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アレンが背中に展開した火球を1つ、兎とは別方向へと撃つ。
そして、転移を使って兎から離れるように一気に距離を取る。
アレンは手にした看板に魔力を込めて、力いっぱい振るうと同時に込めた魔力を解き放つ。
ドライグ国最高戦力であるフレイの必殺技。
"ドラゴニック・ブレイク"
放たれた魔力は巨大な龍を形取り、大きな顎を開けて相手を喰らわんと迫る。
フレイをして、一撃必殺といわしめた技。
フレイが全魔力を込めて撃ったならば、山すら軽々と消し飛ばす程の威力の技。
それを、看板を振り下ろして受け止める……否、切り裂こうとする兎。
凄まじい轟音と魔力のぶつかり合う音が室内に響き渡る。
アレンの放った技はフレイの技よりも幾分か威力は劣るかもしれない。だが、それでも強烈な技である事に変わりはない。
現に、ガリガリと地面を削りながら兎が技に圧されて後ずさりをする。
「オウカさん!もう一発行く!合わせて!!」
「応!!」
合図に気付き素早く駆け出したオウカがアレンと並ぶ。
アレンとてこれで決まるとは断じて思っていない。
この技はあくまでも布石。
兎への足止めと、オウカに技を見せるための。
オウカが愛刀である"蒼"に魔力を込める。
桜色に染まった刀身に無数の花弁が舞う。
「百花繚乱!!」
オウカが刀を振り抜き、込めた魔力を解放する。
オウカ唯一の遠距離技。
桜の花弁が渦巻き状に、相手に向かって地面を切り裂きながら突き進む。
「うっしゃあ!もう一発だぁ!!」
オウカも奥義を放ち、アレンも追い討ちを掛けるように再びドラゴニック・ブレイクを放とうとしたときに、先に放っていた龍が2つに別れて霧散した。
兎が、切り裂いた。
しかし、それも折り込み済みの二段攻撃だ。
アレンの技とオウカの奥義が合わさって、桜の花弁を纏う龍が再び兎を襲う。
先ほどとは比べ物にならない魔力と、威力。
アレンの技の破壊力と、オウカの斬撃が見事に融合していた。
兎は迫り来る桜を纒し龍を、返す刀で下から上へと切り上げる。
再び衝突。先程とは比べ物にならない轟音が響く。
流石の兎も、先程よりも勢い良く地面を削って龍に圧されて後ずさる。龍の勢いは、衰えない。
「行けぇ!!」
オウカが吠える。願いを込めて、これで終わってくれと。
隣ではアレンが手を膝について荒い呼吸を続けている。
あの兎と単身で戦っていたのだ、己の持てる全ての力を発揮して。
そして、ここに来ての大技2連発。もう、限界だ。
「頼む、頼むよ!!」
「終わってー!!」
トキオとミニレも願う。
あらんかぎりの力を振り絞って叫ぶ。
猫の着ぐるみですら、自然と願っていた。少年達の勝利を。
しかし──。
それでも──。
───無常。
──────ギャイン!!!!
と、兎が桜纏う龍を天井に向かって弾き飛ばした。
願いも空しく、龍は霞と消えた。
と、同時に。
パキィ!
と、兎の手にした看板が細かく切り裂かれた。
アレンとオウカの魔力が、兎の魔力を上回った証である。
まさか、斬られるとは。
兎が降り注ぐ木片を見る。その一瞬の隙を───
アレンは見逃さなかった。
3段構え。
オウカと自分ならば、必ずやあの兎の防御を突破できると信じていた。
だからこそ、手をついて集中していた。
体に纏う魔力を拳1つに全てを集めるために。
防御も捨てた。残りの魔力を全て絞り出した。
この拳1つに。
アレンの拳が赤と黒に染まる。
込めた魔力が形となって現れる。
「オォォォッ!!!ラァアッ!!!!」
一気に転移を使って距離を詰める。
兎の懐に。全てを叩き込むために。
ありったけの魔力を込めた拳を、兎の腹にブチ込んだ。
ドォウ!!!
アレンの強烈な打撃は、兎を吹き飛ばした。
凄まじい勢いで壁に激突した兎は、壁にめり込み力無く項垂れている。
「トキオ!!ミニレさん!!魔石を!!」
今だ、今しかない。
あらんかぎりの声でアレンが叫ぶ。
アレンの打撃を見て歓喜に湧くトキオとミニレが我に帰って魔石を目指して走り出す。
勝った。アレンとオウカが、ついにあの兎を倒した。
猫の着ぐるみは、動かない。
トキオの胸に熱いものが込み上げる。
やった、やってやった。ついにやってやったんだ。
トキオが魔石を、勝利を掴もうとした手を───
────ピンク色の手が阻んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……嘘……」
猫の着ぐるみは、呆然とその様子を眺めていた。
ミニレは力無く崩れ落ち、オウカが天を仰いで吠えている。
アレンは、アレンはどこに───。
ヒュッと、喉の奥で音がした。
初めて聞いた自分の声。
アレンが、猫の着ぐるみの視線の先で力無く倒れ伏していた。
なんで、なんでなんでなんで!!!
あんなに!!あんなに必死で頑張っていたのに!!!
「どうしてッ!!!」
猫が声を荒げる。
自分の味方である筈の兎の着ぐるみに向かって。
トキオが兎を無視して魔石を掴まんともがいている。だが、それを凄まじい力で阻む兎。
魔石は、勝利は、あと少しなのに。
遠い。どこまでも遠い。
ブンッ、と兎がトキオを乱雑に投げ飛ばす。
地面を滑り、ミニレの側まで転がるトキオ。
歯を食いしばって立ち上がる。
何度だって、何度だって挑んでやるぞと叫びながら。
その叫びを聞いて、ミニレもノロノロと立ち上がる。
オウカも、なけなしの魔力を刀に込めて駆けてくる。
猫の着ぐるみは、彼女は───。
オウカもミニレもトキオも、兎に軽くあしらわれる。
さしもの兎とて、アレンの攻撃のダメージは確かに効いているのだろう。
あの威圧感が成りを潜めている。
だが、それでも3人は兎には敵わない。
それ程、3人とは圧倒的な差がある。
【そんなもんか?】
不意に、紙に書いた文字を3人に見せる兎。
ただがむしゃらに、策もなく何もなく、突っ込んでくるだけ。
無駄に、魔力を消費するだけ。
その先には、勝ちも何も無く、敗北だけが口を開けて待っているだけだ。
【全員で来い全員で】
「なにをッ……俺達はッ全員で来てるじゃないかッ!!」
トキオの叫びを聞いてやれやれと肩を竦める兎。
スッと、オウカを指差す。
スッと、ミニレを指差す。
スッと、トキオを指差す。
そして───
スッと、猫の着ぐるみを指差す。
「え……わ……私?」
そして、アレンがいる方を指差す。
「バカなッ……アレンはもう……」
「お……おい、オウカ……」
「ああ……アレン君がー」
兎の指の先、そこには、アレンが立ち上がろうとしていた。
再び戦場へと舞い戻るために。
何度でも何度でも、勝ちを掴み取る為に。
歯を食いしばり、体全体に力を込めて。
「ハァッ……ハァッ……へへっ……へっへっへ……ゴメン、寝てたわ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あんにゃろうめ、あの攻撃食らってまだ立ってるのかよ。
いいぜ、何度でもブチ込んでやらぁ!
「ア……レン。お前……」
「おお……トキオ。待たせたな……あと少しだ。あと少しで、倒せるぜ、アイツを」
「そんッ……ああ、そうだな!」
へっへっへ。渾身の一撃だったのによ。
だったら、渾身の二撃だこんちくしょうめ!!
トキオが俺に駆けよって支えてくれる。
ありがてぇ。立って歩くだけでもフラフラなんだ。
おお、オウカさんもミニレさんも、なんて顔をしてるんだい。
勝利は目前だぜ?……おっとっと
「アレン君!」
「アレンッ!」
ミニレさんも反対側から支えてくれる。
オウカさんも、心配そうに俺を見ている。
パーティー全員に支えられて、なんとか真っ直ぐ立つ。
目の前には、兎。
そして、なにやら紙を持っている。
……全員で来い?
「おお……悪いな、俺待ちだったのね…ゴメンゴメン」
「……ッ……ああ、そうだ。お前待ちだ、アレン」
何かを言い掛けてそれを飲み込んだオウカさんが凛と笑う。
うん。この人にはこの顔が一番だ。
「遅いよー。二回目だよー。アレン君ー」
へっへっへ、ごめんよミニレさん。
少しだけ強ばった顔で、それでもほわほわと笑うミニレさん。
随分とボロボロじゃあないか、あの兎め許さん。
「あの……アレン君……」
おや、ニャンちゃん?どうしたんだろうか。
どこかで聞いたことあるような声だが、着ぐるみでくぐもっていてよく分からない。
「私も……私も!一緒に戦う!戦わせて欲しい!」
「ほぇ?」
なに?なになにどしたの?
俺が寝てる間に仲間割れでもしたの?
どういうことか答えが知りたくて3人を見ても、力強く頷くだけだ。
?……どゆこと?
「文字通り、猫の手も借りたい状況だ、猫殿、よろしく頼む」
「うん!うんうん!任せてよ!」
俺をおいて話を進める4人。
あ、リーダーはオウカさんだもんね。従うよ、よく分からないけども。
「ピョンさん!タイムだよ!ターイム!!」
ニャンちゃんが兎に向かって挙手している。
いやいや、流石にそれは……。
【良いよ!( = ^ x ^ = )】
いいんかい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
トキオとミニレさんが全部飲まずに残していたポーションを貰って、全て飲み干す。
ついでに、ニャンちゃんが1つだけ自分用に持っていたらしいマナポーションも貰う。これはマジで有難い。無かったら詰んでた。
「アレン、あの魔法教えてくれ」
「私も、お願い」
「あの魔法?」
「あのほら、初級魔法だけど初級魔法じゃない奴」
「ああ、アレか。うーん、俺もまだ人に教える立場じゃないけど……わかった」
俺は魔法使い2人に自分の魔法を教える。
といっても、火魔法じゃない。トキオは覚えてるしね。
俺が教えたのは、魔力の込め方。
初級魔法は誰でも覚えられる。つまり、拡張性があるのだ。
初級魔法に自分の魔力を上乗せして、威力を上げる。
初級魔法と中級魔法、ただ発動するだけでも中級魔法の方が魔力の消費量が多い。
なので、発動するのに魔力の消費が少ない初級魔法を練り上げるのがウィン姉直伝の魔法術。
これにより、少ない魔力消費で中級魔法並みの威力を得ることが出来る。
ファイヤーボールで言えば、大きさを抑えてその分威力を上げる。そこからさらにアレンジを加える。
状況を見て使い分けるのが大事だと、教わった。
もちろん、この短期間でオリジナルの魔法を作るのは無理だから、2人には魔力の込め方だけを教えた。
「あれはー?波ー」
「はー?」
「そうー。波ー。」
「あれか、私とアレンの遠距離攻撃」
「そうそうー」
「ふ。アレはな?ギューっと魔力を込めて、バーンと放つのだ」
「いや、オウカさん、それじゃあ何も───」
「なるほどー!わかったー!」
「ええっ!?」
最後の作戦会議が終わった。
全員が立ち上がり、三度あの兎に挑む。
兎はストレッチをして、俺達を迎え撃つ気満々だ。そうでなくては。
「トキオ、そのコートは?」
「ああ、これはな!」
トキオが肩に掛けていたコートに袖を通していた。
なんとなく、魔力量が上がっている気がする。
トキオが言うには、このコートはネメシスの団長であるリナリーさんがかつて愛用していたコートらしい。
特殊な繊維で出来ており、魔力を保管しておくことが出来るマジックアイテムなのだとか。
故に、このコートにはリナリーさんの魔力が保管されているのだと言う。
トキオの切り札と言うことか。
中途半端な所で使わなくて良かったと珍しくオウカさんが誉めていた。
ミニレさんもニャンちゃんも、教えたことをすぐに覚えていた。
ミニレさんに至っては、魔力纏いですら今日覚えたのだとか。
俺が言うのもなんだけど、ぶっつけ本番でよくもまあ出来たものだ。
全員が、残りの全てを一撃にかける。
「準備は良いな?」
「おうよ!」
「ああ!」
「うんー!」
「うん!」
オウカさんの問いかけに俺、トキオ、ミニレさん、ニャンちゃんが力強く頷く。
全員で兎に挑む。
これが、正真正銘最後の戦いだ。
【よぉし!来いや!】
兎が俺達の攻撃を受けて立つとばかりにどっしりと構えて待っている。
先手は、トキオとニャンちゃんの魔法使いコンビだ
「魔力を、込める!ありったけを!」
「団長!俺に力を貸してくれぇ!!」
ニャンちゃんが風の中級魔法であるガスタハリケーンを放つ。
ありったけの魔力が込められた竜巻は、上級魔法にも勝るとも劣らない程の勢いで回りの全てを吹き飛ばさんとうねりを上げる。
そこに、トキオの中級魔法、フレイムウォールが巻き上げられる。
リナリーさんの魔力と、トキオの全ての魔力が注ぎ込まれた炎の壁は、ニャンさんの魔法と融合して、炎の竜巻となって兎に襲いかかる。
離れていても凄まじい熱量と、風量だ。
それが、兎一人に襲いかかる。
炎の竜巻に飲み込まれる兎。
おいおい!この技だけでも勝っちゃうんじゃ無いのこれぇ!!
なんて、楽観視はしない。
何故ならば。
ギャリギャリギャリ!!!
と、魔力同士がぶつかり合う音が竜巻の中で響く。
凄まじい風の音の中にあって響くこの音。
中でなにが起きているのだろうか、見ることは叶わないが、その音があの兎が健在だとありありと表している。
「さあ!行こう2人とも!」
「応!!」
「おー!!」
徐々に炎の竜巻の威力が弱まる。
うっすらとだが、両腕をクロスしているような兎の影が、竜巻の中に見える。
ドグァ!!
あの兎が竜巻の中で両腕を勢い良く開いた瞬間に
凄まじい音とともに、竜巻がかき消えた。
相変わらず馬鹿げた奴だ。自分の魔力だけで耐えきって、魔力をぶつけてかき消しやがった。
だが、それがどうしたよ!!
兎が姿を現した時には、桜を纏う巨大な龍が大きな顎を開けて兎を喰らわんと凄まじい突進力で迫っている。
タイミングはバッチリだ。
オウカさんとミニレさんと俺の3人の合体技。
花弁は刃。そして、ミニレさんの魔力を吸収した俺のドラゴニック・ブレイクは文字通り、相手を破壊するべく何度もぶつかる。相手が倒れるか、自分が消滅するか、それまで止まらない。
それを、自身の拳のみで迎え撃つ兎。
うわははははは!!と、心底楽しそうな兎の笑い声が響く。
魔力の塊VS規格外の化け物。
ガンガンガンガンガンガン!!!!
と、強烈な打撃音が響く。
徐々に、徐々にだが、俺達の技があの兎を圧し始めた。
「行け……!」
「行けぇ……!!」
「行けぇぇぇぇー!!!!」
全員が声を上げて叫ぶ。
これで!これで終わりだぁー!!!
瞬間、閃光。そして、爆発。
俺達は猛烈な魔力の奔流に飲み込まれた。
結果は─────。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カーちゃんと姉達へ
早いものでこの地に来てもう4回目の手紙になります。
俺は今、病院のベッドでこの手紙を書いています。
心配しないでください。ただの魔力切れでぶっ倒れただけです。
隣にはオウカさんとミニレさんとトキオも居ます。
病室はとても賑やかで、楽しいです。はしゃぎすぎて看護師さんに怒られるくらいです。
全てはカイさんが悪いんです。
知ってるでしょう?カイさん。
3回目の手紙で書きましたよね。
あのクソ強兎の正体の、カイさん。
ルナさんと一緒に研修に参加したカイさんと戦って、ボッコボコにされました。
全員で挑んでも、カイさんにぐうの音もでないほどにボコられてしまいました。
あと少しで行けるかな、と思ったけど、魔力を解放したカイさんが俺達の技を殴り飛ばしてしまいました。
本人は、テンション上がっちゃった☆テヘッ☆
なんて、言ってました。
パンツ一丁で。
俺達の技は、カイさんの衣服を破壊し尽くすだけしか出来なかったみたいです。パンツ以外を。
3回目の手紙を見たカーちゃんとフレイ姉がこのシュライグにやってきてカイさんをぶっ飛ばす、なんて息巻いていたみたいですね。
後でベーやんとウィン姉、シェリス姉、アリア姉には贈り物を送ろうと思います。
この町が地図から消えなくて良かったと心から思います。
さて、そんなカイさんですが、ダンジョンをボロボロにした責任を取って、ダンジョンの修復をしているようです。
かなり頑丈に作られている訓練用のダンジョンをどうしてこんなにボロボロにしたんだとマリカさんにしこたま怒られていました。
俺達ですか?俺達は、知らんぷりしました。
カイさんが変なことしなければ俺達は普通にクエストをクリアして終わりだったのですから、当たり前ですよね。
何故かレティシアさんとルナさんがカイさんを手伝って、それを知ったフォルトゥナの面々が手伝いに来ているらしく、予定より早く修復は終わりそうなんですって。
でも、終わったら終わったで今度はギルドの仕事を任されるらしいです。
詳しくは聞きませんでしたが、カイさんはなんとか逃げる方法を探してみるわと笑っていました。
冒険者って、大変ですね。
さて、話しは変わりまして、何故俺達が病院に居るかと言うと、それはジンさんに鍛えられているからです。
兎の正体が俺の知り合いのカイさんだと知ったオウカさんが何度も再戦を挑んではボコられて、半泣きで近くにいたジンさんに頼ったのがきっかけです。
ついでに、俺達も鍛えようか?なんて、優しく言ってくれたジンさん。
やはりというか、なんというか。とてつもなく強いジンさん。
カイさんとタメを張るレベルで強いジンさん。
お前達は魔力が切れてからが本番らしいな?なんて、涼しい顔して追い込んでくるジンさん。
その結果が、今のこの現状です。
でも、日々強くなっている実感を得ています。
そういえば、ジークさんの話をしていなかったですね。
あの研修の日、ボロボロになってダンジョンから出てきた俺達を見て、馬鹿にしたような顔をしていたジークさん。
ジンさんとの鍛練を見て俺達を馬鹿にしてきたジークさん。
トキオが、ならパーティー全員でジンさんに挑んでみろよ、なんて言われて上等だ、とジンさんに挑んだ彼ら。
見事にボコられていました。瞬殺でした。カイさんと違ってジンさんは容赦が無いです。いや、似たようなもんか。
うっそだろ……なんて顔をしている彼らを見て、少しだけ仲良くなれそうな気がします。少しだけ。
明日には退院出来るそうなので、退院したらカイさんがクエストに連れていってくれるそうです。
ドラゴンが近隣で目撃されたみたいだと看護士さん達が噂をしていましたが……。
なにはともあれ、俺は元気でやっています。友達もたくさん出来ました。
近々シュラールのお姫様もやってくるみたいで、町がさらに活気づいていて、祭りとかもあるらしくてとても楽しみです。
また、手紙を書きます。
体に気を付けてね、アレンより
アレンの冒険 完
これにて、アレンの冒険は終了です。
約一ヶ月の間、ありがとうございました。
しばらくは一話から順次加筆、修正などをしていきたいと考えております。
それが終われば、キャラ紹介なんかを書いた後に
冒険者アレンの華麗なる日常とタイトルを変えまして、第二部の方をぼちぼち書いていこうかなと考えております。
拙い文かつ、分かりにくい所も多々あったかと思いますが、さらに精進して行きたいと思いますので、二部の方も宜しくお願い致します。m(_ _)m