魔王達が部屋に訪れる前、アレンの部屋にて。
「よぉし!準備は出来たか!?アレン!」
「完璧ぃ!」
必要なものや大切なものを詰め込んだリュックサックを背負い
べーやんにサムズアップして応えた俺は、改めてべーやんと共に考えた家出計画を振りかえる。
① べーやんに俺の魔力を移す。で、まだ部屋に居ると思わせる
② 最初は短距離での連続転移魔術を使う(100m刻み)
③ 5㎞程距離を稼いだら、そこからは魔力を解放して全力疾走で北にある祠を目指す
④ 毒の沼に囲まれた祠の前にある台座に掌を乗せれば扉が開くので、そこに入る
⑤ 世界が俺を待っている!
ビューティホー…完璧すぎるな、この作戦!
さて、この作戦を解説しよう!
まず①だが、これは武器を魔力で強化を施すのを応用する。
魔力纏いを使ってべーやんに俺の魔力を纏わせる。
他人に魔力を直接付与することは今の俺にはまだ出来ないが、ベーやんはぬいぐるみだから、可能だ。
フレイ姉に魔力纒いの基礎から教わった。
次に②、一気に長距離の転移魔術を使うと、大量の魔力放出により俺の居場所がバレる、つまり①のカムフラージュが無駄になる。
探知されてすぐにアリア姉あたりに捕縛されてしまう為、魔力を抑えて距離を稼ぐ。
俺だってアリア姉程ではないが転移魔術を使用できる。
カーチャンから必要な時以外は使うなと言われていたが、今がその時だろう?
こっそりとアリア姉の技を見て練習していた。
そして③、距離を稼いだら目的地に向けて一直線!
余計に魔力を消費する事なく体を強化して俺の最大速度で走り抜ける。
魔力コントロールはウィン姉に教わった。
んで、④。
目的地である祠の周りには多種多様な強烈な毒を放つ植物や、沼があるらしい。
なので、俺はこれらの毒を解毒しながら進まねばならない。
べーやんが言うには、複数の毒性生物達が共生しているため、必ずそれぞれに適応した解毒薬が作れる、との事。
俺は瞬時にそれを見極め、解毒薬を作らねばならい。
シェリス姉との授業の腕の見せ所だ。
最後の⑤
べーやんから教わった、俺が世界へ羽ばたく為のスタート地点、らしい
中に入れば後はこっちのもので、なりふり構わず台座にタッチしろとの事だった。
まあ、正直?しょーじき、穴だらけの作戦だと思う。
もし、カーチャンが俺の家出に気が付いて連れ戻そうと放った追っ手が、姉達だったなら、それだけで失敗だ。
気付かないかもしれない。
そしたらのんびり時間をかけて解毒薬を作り、祠へ入れば良い。
だが、気付く。間違いなくカーチャンは気付く。
そして、間違いなく追っ手は姉達の誰か。
もしくは、全員。
つまり俺は最初の試練として、姉達を越えなければならない。
今まで一度も勝てたことのない相手に対して
俺は今日、勝利しなければならないのだ。
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「よっしゃ、最終確認だ!祠へのルートは覚えたな?アレン!………アレン?」
「…………」
べーやんが俺に問いかけてくるが、応えることが出来ない。
怖い。
正直、怖い。
このまま行動せずに、もしも、カーチャン達が俺が居るか確認しに来た時に
お?どしたん、皆そろって。遊びに来たのか?よっしゃ!なにする?
なんて惚けてみたら、明日もきっと変わらない日々がやってくるはずだ。
フレイ姉に鍛えてもらって
ウィン姉にたくさん教わって
アリア姉と追いかけっこして
シェリス姉に癒されて
そして、カーチャンに今日一日の出来事を話すのだ。
んで、部屋に帰ってべーやんと次こそ勝つぞと作戦会議をするんだ。
そんな変わらぬ毎日が、やってくるのだ。
そんな、幸せな時を、俺は今から手放そうとしている。
「……やめるか?何せ急に練った作戦だ。いやぁ…作戦ですらない。ただの、たらればの繋ぎ合わせだ」
べーやんが俺に聞いてくる。
俺は、俺は、俺は………。
俺は自分の頬を思いっきり叩いた。
「ごめん!弱気になった!でももう大丈夫!!」
力加減を間違えて、少し涙が出てしまったが、俺はべーやんに笑いかけた。
そう、大丈夫だ。
自分を信じろ!姉達との訓練を信じろ!俺は出来る!…違った!
俺はやるんだ!!
やり遂げてみせるんだ!!
ナニかを変える時が来た!
それが今日!!
今なんだ!!
「はっはっは、えらく男前になったな!アレンよ!」
「ガッハッハ!そうだろう!?」
べーやんと馬鹿みたいに笑いあう。
これで良い、俺達はこれで良いのだ。
よっしゃ、始めよう!
俺はべーやんの手を握る。
「知将べーやんが立てた作戦を、実行するのはこの俺アレンだぜ?成功する未来しか見えねぇ!」
俺がそんな事を言えば
「よしよし、なら行けすぐ行け早く行け!なぁに、時間稼ぎは任せろ、魔王位は引き留めておいてやるよ!」
何も変わらぬ、いつものべーやん
「ヒュー!頼もしいぜぇ!………いってきます!!」
最後まで笑いあって、俺は荷物と共に部屋の窓から飛び出した。
16年過ごしたこの部屋から、振り返らずに。
振り返る、なんて行程は作戦に無いもんな!!
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「行ってこい、アレン」
振り返らずに旅立っていった少年を、クマが見送る。
共に過ごした10数年、永い寿命を持つ魔族にとっては短い時間だ。
それは、ハーフのアレンであっても。
だが、色々な思い出が刻まれた、かけがえのない10数年であった。
まあ、別に今生の別れでも無いのだ、いずれまた会える。さて、俺は俺でひと仕事しようかね。
んー……お、気付いたなぁ。
ふふふ、アレンは今頃どのあたりかな、もうすぐ街を出る頃かな。
おうおう、律儀にノックなんてしちゃって
残念、アレンは行ったぜ~
遠慮がちにドアが開く。
歓迎しよう!盛大ではないけどなぁ!はっはっは
「よう、遅かったな」