アレンの冒険[世界は広いなぁ~]編   作:チョモランマ斉藤

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9話

 

辺り一面が焦げ臭い。草も木も、辺りを覆う毒すらも、何もかもが焼き払われた戦いの舞台で俺は必死にフレイ姉に食い下がる。

集中しろ、目の前にいる相手は本気で俺の手足を折って連れて帰ろうとしている相手だ。

もちろん、今までの訓練なんて非じゃないくらいに容赦なく俺に襲いかかってくる。

 

初めは徒手空拳で戦っていた。フレイ姉の攻撃を避け、反撃。食らって、反撃。

魔力で強化されたフレイ姉は俺の強化した攻撃なんてものともせずにカウンター気味に俺のガードをぶち抜いて少なくないダメージを与えてくる。

 

強い。ひたすらに強い。ただただ強い。

この国の最高戦力だ。侮るなんてもっての他。しかし遠い。あまりにも、遠い。

 

 

「おお、コレを捌くか」

 

 

俺が一瞬たりとも気を抜けない状況であっても、フレイ姉にとっては所詮訓練の延長線上のお遊びなのだろう。

フレイ姉が放った攻撃を俺がなんとか捌いて見せると、嬉しそうに笑っている。

 

 

「師匠が…ハァッ……優秀…なんでね!!」

 

 

接近戦はダメだ。どうしたってフレイ姉に分がある。フレイ姉の攻撃を捌いた勢いそのままに一度大きく距離をとり、向かい合う。

息も絶え絶えに俺が軽口を叩けば、それでも変わらぬ笑顔。

 

「はは、嬉しいじゃないか。どれ、抱き締めてやろうか」

 

「くっそ!!」

 

大きく空けたはずの距離をフレイ姉はたった一歩で詰めてきた。俺を抱き抱えんと迫ってくる。

いくら美人でも笑顔のまま猛スピードで迫られればちょっと怖い。

こなくそぉ!!

 

 

「!……転移魔術か」

 

「フゥッ……正解ぃ!」

 

俺は転移魔術を使用して、今まさに抱き抱えんとしていたフレイ姉の背後に周り込み、そのままおもいっきりフレイ姉の脇腹辺りを蹴り抜いた。

よっしゃあ!クリーンヒットォ!

フレイ姉が俺の蹴りを食らってまだ青々とした森の中まで吹き飛ばされていった。

 

出来た。戦いの中で集中力が増したのか、ぶっつけ本番にも関わらず俺は転移魔術を戦闘で使用することに成功した。

よぉし!これで次のアリア姉との追いかけっこで……違う!次はない!いい加減にしろ俺!

 

覚悟を決めたはずなのに、未だにここでの明日を想像してしまう自分に嫌気がさす。

正直に言おう。それだけ心地よかったんだ。毎日が。

たとえ外に出れなくても。出れたとしても魔の森だけであったとしても。家にはべーやんや皆が居た。

本気で心配している家族を傷付けてでも俺は行くのか。

……でもさぁ。

 

憧れたんだ。まだ見ぬ広い世界に。

生きてみたいんだ。物語の中の登場人物みたいに。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「いてて、油断した」

 

フレイがむくりと身体を起こす。

蹴られた衝撃で結構飛ばされてしまった。

眼前には自分がなぎ倒したであろう木と、衝撃で抉れた地面が線を引いていた。

アレンはあの瞬間、フレイの防御を超えた攻撃を放ってきたのだ。この災害のような爪痕は、アレンの蹴りの威力をものがたっていた。

 

何度目だろうか、楽しくて楽しくて。嬉しくて嬉しくて。ついつい笑ってしまう。

あの小さかったアレンが。毎回毎回私たちに泣かされていたあのアレンが、ついに自分にダメージを与えたのだ。

 

確かにフレイは本気ではない。相手は大事な家族だ、しかも、この戦いの理由だってただの家出少年を連れ戻しに来て、駄々をこねられたからじゃれあっているにすぎない。本気などだす必要が無いのだ。

だが、それでも。それでも今までの訓練以上の力は出している。

 

(あの転移魔術は見事だったな。血と言うヤツかな?)

 

アレンのいる場所へと歩みを進めるフレイは、落ちていた木の枝を拾う。フレイにとってはただの枝でさえ立派な武器になる。

今のアレンには先程までの魔力に任せた戦い方は通用しないだろう。

(皆、私だけ楽しんですまんな)

 

帰りを待つ他の幹部達を思い浮かべて心の中で謝罪する。

アレンとの戦闘はそれほどまでに心躍らせる一時だった。

しかし、これも強き者の特権なのかも知れない。

フレイ以外に今のアレンを止められる者が居るだろうか。

 

アリアは隠密を得意としている為、なるべく直接的な戦闘を避けなければならないことから、戦闘力自体はあまり高い方ではない。

シェリスに至っては回復専門だ。この毒の森なら誰よりも速く簡単に攻略することは可能だが、明確にアレンより戦闘力は劣ると言っても良い。

フレイに次ぐ戦闘力を持つウィンならばあるいは… といったところだ。

 

ただ、それはあくまでも4人の幹部達を比べた時の話であって、他の魔族達からすれば、アリアもシェリスも十分に高い戦闘力を有している事に変わりはないのだが。

 

単騎でアレンを止める事が出来そうな者は、ドライグ国において、わずかに数人しか居ないのだ。

それ程、アレンは力をつけていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

フレイ姉が姿を現さない今のうちに、尻ポケットにいれていた回復薬を飲み干して、空になった瓶を投げ捨てる。うーん、苦ぁい。

今飲んだのは消費した魔力の3割程を回復する薬だ。

よし、これで移動で使った分の魔力は取り戻せた。

ここが踏ん張りどころなんだ、出し惜しみなんてしてられない。

 

すると、フレイ姉が現れた。

 

「……マジかよ」

 

ほぼほぼ無傷といった姿で現れたフレイ姉に俺は戦慄する。

改心の一撃だった。今までで一番の一撃だったと自信をもって言える先程の攻撃でさえ、フレイ姉には効かないのか。

 

 

「やるじゃないかアレン。お前は酷いなぁ、こんなに愛している姉に向かって」

 

「よく言うよ!愛する弟に普段からハチャメチャやってくれる癖に!」

 

よよよ、と泣いたフリをするフレイ姉はとても楽しそうだ。ほんとやめてほしい!こっちはいっぱいいっぱいなのに!

ふと、フレイ姉の手をみると枝を持っている。

これは、つまり……。

 

「さ、アレン。第2ラウンドだ」

 

「ちくしょうバケモノめぇ…!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ほらほらどうした!気を抜けば真っ二つだぞ!」

 

フレイ姉が枝を振り下ろす。ギャイン!と魔力同士がぶつかり合う激しい音が辺りに響く。

フレア姉が武器を携えて戻ってくるや否や俺も慌てて枝を拾って応戦する。

くそっ、本気で斬るつもりだ!さっきなんて言ってたよ!愛する誰がなんだってぇ!?

 

俺は魔力を纏わせた枝を使いながらフレイ姉の斬撃をなんとか凌いでいく。

フレイ姉が横薙ぎの攻撃をしてくれば、後ろに下がって避ける。

そのまま俺から袈裟斬りを放てば、フレイ姉の構えた枝で受け流される。

どれくらい斬り結んだだろうか。俺は傷を負い、フレイ姉は無傷だ。

 

 

「違うだろう!技術で劣る相手に技術で対抗するな!お前の力はそれだけではないだろう!」

 

フレイ姉が俺を弾き飛ばしながら怒鳴り付ける

 

ならば!!

 

「違う!バカの一つ覚えみたいに背後に回るな!感覚の鋭いものなら直ぐに反応できるぞ!転移魔術の持ち味を活かせ!」

 

くそっ!こうか!?

 

「そうだ!転移魔術の使い手は空間を支配する!アリアはどうだった!?縦横無尽に攻めてこい!」

 

ダメだ!格闘戦じゃ地力に差がありすぎる!

 

「ほう?次は攻撃魔術か!だが何をしている!いたずらに魔力を込めるな!避けられたら無駄に魔力を消費するだけだ!」

 

うぐぐぐ! こうなのかぁ!?

 

「ぐっ……よおし!悪くない!魔力を研ぎ澄ませろ!ウィンはどうだった!アイツは少ない魔力消費で凄まじい攻撃を放ってくるだろう!」

 

くそっ無駄撃ちしすぎて魔力が減ってきた!

 

「ああ!アレンお前なに飲んでるんだ!?ズルいぞ!私にも一本よこせ!」

 

何言ってるんだ誰が渡すもんか!

 

「ぐっ……ぬっ!……ええい!ちょこまかと!大人しく…うわっ!」

 

よしよし!こういうことか!大分慣れてきた!

 

「おおい!他の奴の技ばかり使うなよ!妬けるじゃないか!私の教えた技はどうした!?一緒に使うぞ!せーので使うぞ!?」

 

もー!わかったよ!せーの!!!

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」

 

 

「フゥッ…フゥッ…フゥッ…」

 

2人してゼーゼーと肩で息をする。どれ程戦っていただろうか。毒の森は俺とフレイ姉との戦いの余波で酷い有り様だ。周辺に木々などは残っておらず、辺りを覆っていた毒素すら感じない。

ん?2人して…?

 

「そんなフレイ姉の姿っ…ハァッ…初めて見たっ…ハァッ…よ…!」

 

「フゥーッ……もういい…もう、十分だ」

 

くっ!もう息を整え終わったのか!クソッもう魔力がすっからかんで回復薬もないってのに!

俺が慌ててファイティングポーズを取ると

 

「私は疲れた」

 

「え…」

 

「行け、祠はもうすぐだ」

 

あー、疲れた疲れた。なんて言いながら地面に腰をおろしたフレイ姉が森の奥を指差す。

俺は呆然としてその姿をただただ眺めていた。

 

「どうした、行かんのか。私はもう一歩も動けない。それともなにか?連れて帰ってくれるのか?ならばお姫様抱っこが良いな!」

 

んっ!と俺に両手を差し出してフレイ姉がおどけて見せる。

いや、そんな…でも…

俺が戸惑っていると

冗談だよ。と手を下ろす。

 

「ははは…アレン。」

 

強くなったなぁ

 

そんな事を安堵したように、とても穏やかな表情でフレイ姉が言う。

何故だろう、胸の奥が急に締め付けられたように苦しくなった。

毒にやられたかな、毒の森だもんなここ。きっと毒だわ。

とりあえず上を向いておこう。月がとても綺麗だ。

 

「ああ、そうだった。忘れるところだった…ええと…ああ、あったあった、ほれ!アレン」

 

上を向いて歯を食いしばっている俺に構わずにフレイ姉が小さな小瓶を俺に投げて渡した。

反応が遅れてしまって受け取るのに少しもたついてしまった。

 

「これは…?」

 

「シェリスから。お前にだとさ」

 

手にした小瓶を月明かりに照らして見てみる。

これは…

 

「懐かしいな。憶えているか?お前が昔ソレを作ってシェリスに怒られたこと」

 

そうだ、思い出した…これは俺がシェリス姉に滅茶苦茶怒られて、記憶をなくすくらいびびり散らかしたあの時の

自分で初めて作った回復薬だ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

あの日、俺は教わったばかりの魔力回復薬を自分で作って、シェリス姉に褒めて貰おうと、喜んで貰おうと勝手に

道具を引っ張り出して回復薬を作り始めたんだった。

 

魔力回復薬は、文字通り消費した魔力を回復する薬だ。

製法は回復術師によって様々だが、高い魔力を持つ魔獣やら魔物やら、植物やらの素材を材料として、精製魔術を使用して作る。

 

もちろん、俺もそのつもりで魔の森で拾ってきた薬草を素材に魔力回復薬を作ろうとしていた。

だが、俺は精製魔術を使うつもりが、ただひたすらに魔力を込めただけだったのだ。

 

出来上がったのは確かに魔力回復薬だった。

ただ、回復量がとてつもなく、異常なまでに多い。

シェリス姉をして劇毒と言わしめたモノだ。

 

出来上がった回復薬を自慢気にシェリス姉に見せたらそりゃもう怒られた。勝手に道具を使った事よりも。

 

「あの日お前は私とウィンに泣きついてきたな。シェリス姉が凄く怒っている、と。理由を聞いてもお前はすっかり忘れてしまっていて、アリアを探す暇なくお前に引っ張られていった」

 

 

肝が冷えたよ、あんなシェリスをみたのは久しぶりだったなあ。

と、フレイ姉が月を見上げながら言う。

 

 

「お前が作ったのは、ゼノ様や私達を一気に回復出来るほどの魔力を秘めた回復薬だったんだな……成る程、シェリスが怒るわけだ。当時のお前が飲めば一瞬で廃人になっていたのだからな」

 

 

ああ、俺は回復薬を自分で使うつもりで精製したのだった…なるほど、そりゃ怒るわなぁ……。

身に過ぎた魔力など毒でしかない。しかもカーチャンや姉達が一気に回復するレベルの魔力など、劇毒だなぁ。

 

 

「でも、なんで今さらこんなもの…」

 

「今のお前ならば使える。魔力の総量は私達とそう変わらんよ」

 

座ったまま、空を見上げたフレイ姉が言う。

 

「ほら、もう行けアレン。お前はもう、大丈夫だよ」

 

「……………………いってきます」

 

 

俺は手にした薬を一気に飲み干した。

いつまでもここに居てはダメになる。

先へ進むために俺はここにきたんだ。

フレア姉が指差した方へ。フレイ姉を通りすぎて。

振り返らずに走り出す。

 

「いってらっしゃい、アレン」

 

 

そんな俺を師匠兼姉代わりであるフレイ姉が楽しそうに笑って見送るのを当然俺は見ていない訳で。

走りながら「ありがとう」なんて思っているのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「無粋な奴らだ」

 

アレンが去り、一人座るフレイの周りを魔物が囲う。

もう怯える必要など無いというように。逃げる必要など無いというように。

魔物達が一斉にフレイに飛びかかろうとしたその瞬間

 

 

キィン

 

と、周囲が魔物ごと凍った。

 

 

「おや、ゼノ様。申し訳ありません、失敗しました」

 

「そのようだな…ここには私とお前だけだ。普段通りでいい」

 

「そう?…アレンにしてやられたよ、見事だった」

 

「そうか」

 

 

現れたゼノに砕けた物言いをするフレイ。

2人の関係は魔王と部下というよりも、友人のように気安い関係であった。

魔王ゼノに討たれた先代魔王の娘。それがフレイだった。

 

 

「どうする、使いを寄越すか」

 

「いいや、もう少しここにいるよ」

 

「そうか」

 

ゼノがアレンを目指して森へ入って行く。

フレイは一人、座って月を眺めているのだった。

アレンとの在りし日の思い出を思い返しながら。

酒でも持ってくれば良かったな。なんて考えながら。

今日は、とても良い日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 




仕事中に「あれ?俺フレイの名前間違えて書いてね?」と思って確認したら案の定でした。
自分で書いてて見事に頭がコンガラガッチュレーションでした。
誠にごめんなさい!


その他誤字脱字等ありましたら、教えていただければ幸いです。
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