なんとなく、純愛ノアさん書きたかったのです。
まどろむ意識の中、俺は幼いころの光景を夢見ていた。
黒い髪色の少年。男にしては微妙に長い髪と、未だ幼さの残るその容姿から中性的な容姿が印象に残る少年が公園の砂場にうずくまり、軽い嗚咽を漏らしながら泣いているのだ。
それが誰か、俺はよく知っている。間違いなく、昔の俺だ。
「ほらほら、元気出しなって。あんな事言われたって、気にすることないよ!」
「うぅ……だって、だってぇ」
砂場の上で泣き続ける俺に、薄い金髪の同年代と思わしき少女が話しかけている。あぁ、そう言えばこんな思い出もあったな、と、どこか人ごとのように思い出す。
「泣かないでよかなた! 私はかなたのかわいい所も知ってるし、かっこいい所も知ってる!」
「ホント……?」
「ホントだよ! だから、教室の男子に言われた事なんて気にしちゃダメだって!」
少女は、泣いてる俺を元気づけるように励ましていた。今思えば、これが当時の俺の支えになっていたのだろう。少女の言葉に、俺は少しずつ伏せていた顔を上げ、涙目で少女を見つめる。
「大丈夫、私はかなたの事イジメたりしないよ!」
少女は、幼い俺の頭の上に未だ小さな手のひらを乗せ、優しく、甘い言葉を囁いてくれる。
「私は、何があってもかなたと一緒だよ!」
凍った氷山の一角を溶かすかのように、望んでいた言葉を吹き込む少女に、俺……少年は嬉しさと同時に、悔しさも込み上げてきたのだろう。少年は、悔しそうに拳を握っている。
このままじゃだめだ。このまま彼女に励まされるだけの、守られるだけの自分がどうしようもなく情けなく、惨めに思う。そう思ったのは、きっとこの時からだろう。
だからこそ、俺は少しでも強く在ろうと、少しでも少女のように強く在ろうと、決めたんだ。
(あぁ……なんで今更、こんな夢を見てんだろ……)
まどろんでいた意識は次第に、徐々に、明確に覚めてゆき、夢の景色が幻のように消え始める。
夢から覚め、現実へと意識が次第に引っ張られてゆく。
(少しは、変われたかな……)
そんな事を考えながらも、夢の内容はやがて記憶から剥がされてゆき、俺は現実の世界へと覚醒するのだった。
————————―
「ん……んぅ……」
視界に入った眩しい光に、思わず強く目を閉じて光を拒絶する。光はまるで布団のような暖かさを持っており、視界に入りさえしなければいつまでも浴びていたい程の心地よさを感じる。多分、太陽の光だ。寝ぼけた頭では、それくらいの状況判断しかできない。
だからこそ、俺は直ぐに気が付くことが出来なかった。
昨晩閉じたはずのカーテンが、何故太陽の光を通しているのか。
布団を全身に被っていたはずなのに、何故肌で太陽の光の暖かさを感じたのか。
「速く起きなさい、
「ぐおっ!?」
突如として頭に感じた衝撃に、目覚めかけの意識は一気に覚醒する。
「いってぇ……」
覚醒した意識で、必死に現状を把握しようとする。昨晩閉じたはずのカーテンは、何者かによって開かれており、なんなら昨日まで被っていた布団は乱暴に地面に捨てられている。
こんなことが出来るのは俺の母親か妹……かと思ったが、母は寝ぼけている俺など放置するだろうし、妹は俺と同じ二度寝厨だ。となると、頭を何かで殴って起こすという暴挙に出るのはアイツだけだ。
「おはよ、かなた。よく眠れた?」
「あぁ……お前がなんもしなけりゃ、今頃睡眠の彼方だったよ。ノア」
「かなただけに?」
「うっせぇ」
俺の目の前には、本来この家の住民ではない少女が立っていた。
少し薄めの金髪に、長い髪をお洒落な所謂お団子ヘアでまとめており、健康的で明るい肌色に、ぱっちりとした翡翠色の瞳をした少女。
その立ち振る舞いには高い知性を感じ、文学少女という印象を与える。
一見すると、文系の美少女だ。こんな子がまさか男を手に持った鞄で殴って強制的に起こしてきた、などと言っても誰も信じてくれないだろう。
しかし、イタズラが成功した子供のようにニヤニヤと吊り上がった口角からも確信を持って言える。犯人はこの少女……福島ノアだと。
「それはそうと、私もう学校行くね。私今日は日直だから、早く行かないといけないし」
「じゃあお前何しにここに来たんだよ……ん? ってオイ! お前今6時じゃんか!」
部屋の壁に掛けられた時計を確認すると、時刻は朝の6時となっている。この上なく健康な起床時間だ。
ちなみに、俺の普段の起床時刻は6時30分である。すなわち、俺は寝坊などしていないし、本来なら寝ている時間帯である。
「かなた……早起きは三文の徳って言うでしょ? 早く起きれたことに意味がある。そうは思わない?」
「……なにが言いたいんだよ」
なぜか胸を張りながら自慢げに語るノア。何故だろう、掛けていないはずの眼鏡を幻視してしまう。
「つまり、早起きすることでかなたには良い事が起こる」
「ふむふむ」
なんとなく結果は見えているが、とりあえず耳を傾ける。
「ほら、良いことあったでしょ?」
「は?」
「アイドルの幼馴染みに起こしてもらえてる!」
「なるほど……」
確かに世間一般的に見て、ノアは美少女という枠に入るだろう。そして、ノアも口にした通り俺と彼女は幼馴染みだ。
まぁ、普通に考えれば幸運だし、幼馴染みのアイドルに起こしてもらうなどという、ギャルゲーでしかあり得ない空想の産物に等しい現象にも遭遇している。なるほど、確かに幸運なのだろう。
ノアの言葉を頭の中で反芻し、俺は返答する。
「うん、チェンジで」
「ふんっ!!」
「ぐえっ!?」
俺の言葉を聞いた瞬間、ノアは肩に掛けた鞄をハンマー投げでもするかのように振り回し、頭に直撃させて来る。
「ほんっとかわいくない!」
「だからって殴ることないだろ! てか、その鞄絶対に中に教科書入ってるだろ、マジで痛いわ!!」
「昔はあんなにかわいかったのに、どうしてこんな子に育っちゃったの!」
「知らんわ! てか、お前日直だろ、さっさと行け!」
「あ、忘れてた!」
俺の言葉に、ノアは慌てて俺の部屋から飛び出す。しかし、扉の前で突然止まると、くるりと振り返り……
「ベー!」
「ベー!」
去り際に舌を出して挑発してくる。俺も布団の上から同じように舌を出して煽る。
「それじゃあ、ちゃんと時間に余裕をもって学校に来なよ!」
それでもノアは要件を手短に伝えると、俺の部屋から出て、ドタドタと勢いよく階段を降りる。
数秒とたたない内に「おじゃましました!」と聞こえたため、かなりギリギリなのだろう。
「ほんっと、忙しいやつだな……」
起こされしまった以上仕方がない。俺は、渋々ベッドから起き上がる…………が、直ぐに外界の肌寒さに心が折れてしまい、布団の中で二度寝をするのだった。
————————―
朝の住宅街と言う名の通学路。普通の高校生が登校するには少し早い時間帯の影響もあってか、人通りが少なく、周囲を見渡しても朝のランニングをしている男性や犬の散歩をする初老の女性などの中にいる女子高生は、良くも悪くも目立っていた。
それが、美の付く少女となれば、道行く交通人が彼女に視線を奪われるのは自然な事だろう。通行人が少ない事で減った情報量の影響もあり、それが彼女の可愛さと注目度に拍車をかけている。
だが「こんにちは」と挨拶をする者はいても、積極的に声を掛けようとする者はいない。
なぜなら、彼女の足取りはまるで地面に八つ当たりでもするかのようにドンッ、ドンッと力強く地面を踏みしめて歩き、そのかわいらしい顔……主に眉間の部分にはシワが寄っており、見るからに不機嫌と分かるからだ。
「もう、なによチェンジって、かなたの奴! 久しぶりに起こしに行ったのにさ!」
不機嫌さを隠そうともせずに歩く少女、福島ノア。ちなみに、当の怒りの原因となった少年は制服姿で二度寝をしている。睡眠の誘惑に抗えなかったのだろう。
「もうっ! こうなったら……」
途中で何かを思いついたのか、ノアは制服のポケットからスマホを取り出すと、画像加工アプリを開き、一枚の写真を取り出す。
「さっき起こす前に撮ったかなたの寝顔。思いっきり加工しちゃうもんね」
取り出した画像……それは、先ほどまでノアが訪れていた家の少年、石動かなたの寝顔の写真だった。ちなみに、撮れたてホヤホヤである。
「おもいっきりかわいく加工……ふっ」
加工を始めて数秒も経つと、彼女は不機嫌そうな顔から一転して、ニマニマと口元を緩める。
既にかなたの寝顔写真には、猫耳、ハート、星など、様々なエフェクトが付けられていた。1分もしないうちに彼の寝顔は、かわいく加工されてしまう。
その動きは明らかに手馴れており、このような加工が過去何度も行われていることは想像に難くない。
「おっはよー、ノア!」
「わっ!?」
突然背後から聞こえた声に、ノアは素っ頓狂な声を上げ、危うくスマホを落としそうになるが、ギリギリでキャッチする。
「ちょっと乙和! いきなり後ろから驚かさないでよ!」
ノアは背後から掛けられた声の主の名を呼び、再び不機嫌そうに眉をひそめる。
背後にはノアと同じ制服に身を包んだ少女が立っていた。小柄であり、その瞳は子供のように鮮やかな輝きを放っている。
しかし、その身体つきはしっかりと女子高生として発育しており、誰も彼女を中学生として見ることはないだろう。
まぁ、一部例外はいるのだが。ちなみに、その例外は現在二度寝をかまし、小学生の妹に起こされている頃だろう。
少女の名は
「そんな怒ることないじゃん! って、なにしてるの?」
ノアの怒りなど気にせず、乙和はノアのスマホを覗き込む。そこには、加工途中のかなたの寝顔写真があった。
「あーっ! これかなたくんの寝顔写真!? なんで!? なんでノアがそんなの持ってるの!?」
「あ、いや、これは違くて!」
スマホ画面を見られてしまった事に慌ててしまうノア。その反応から、なにかやましい事があると考えてしまった乙和は、ノアに向けて質問……もとい尋問を開始する。
「まさかノア……かなた君と付き合ってるの?」
「はぁっ!? なんで私がかなたと付き合わなきゃいけない訳!?」
乙和の質問に顔から煙が出たかと錯覚する程真っ赤にして慌てて否定する。しかし、その慌てた反応はさらに乙和をヒートアップさせる。
「いやいや、分かるよ? かなた君って背も高いし、イケメンだし、優し……くはないけど、基本良い人って感じだし!」
「……乙和、何が言いたいの?」
友人の煽るような言葉に、ノアは目を細めて問いただす。
「競争率高いから、頑張ろうね!」
「だ、か、ら! 私とかなたはそんなんじゃないって!」
再び声を荒げるノアに、乙和はニヤニヤと笑みを浮かべる。
「そもそも、アイツはただの幼馴染みだし、それに私のタイプじゃないから」
「え、あんなにかっこいいのに?」
乙和が目を丸くしている。ノアの言葉が信じられないのだろう。
「私、付き合うならもっとカワイイ男の子が良いから! ……まぁ、それで言ったら、昔のかなたとかは大分ストライクだったかもしれないけど……」
「むかしのかなた君?」
「うん! そりゃもうほんっとかわいくてね! 背も低くて、髪もちょっと長かったから、なんていうか小動物みたいな印象があって、ちょっとした事で直ぐに泣きそうになるから、これがまた庇護欲をそそられて……」
「あー、うん。そうなんだ……」
乙和はしまった、と内心後悔をする。すなわち、またノアの癖に刺さる事を口走ってしまったと。
(ノアってば……昔のかなたくん愛が強すぎるよ……まさかノア、ショタコンの気質でもあるの?)
通学しながらも、昔のかなたがどれだけかわいかったか、今のかなたはかっこいいけど生意気だ、など、とにかく
しかし、乙和としても昔のかなたの情報が得られるのは決して
ひっさしぶりの投稿、文章力アップの為にわたくし、修行に出ておりました。
次回、かなたの発言通りヒロインチェンジです(笑)