カワイイあの子とカッコいいあいつ   作:アライグマ318号

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ヒロインチェンジ回(笑)です。


第2話 ドSスイッチ、君のはどこにあるんだろう〜

 

 

「眠い……」

 

 瞳を半分近く閉じ、若干おぼつかない足取りで通学路を進む少年が一人。黒い髪はボサボサになって跳ねており、誰がみても少年の状態が寝起きだと分かる。

 彼の名は石動(いするぎ)かなた。朝方にて、幼馴染みの福島ノアによって健康的な時間に叩き起こされ、二度寝をし、今度は妹に叩き起こされた少年である。

 

(ダメだ……授業中起きてられる気がしない……)

 

 頭を使って何かを考えようとしても、少し歩けば忘れてしまうという(ニワトリ)に等しい知能の低下。故に、かなたは確信を持っていた。自分は必ず、今日の授業で眠ってしまうと。

 

「随分と眠そうじゃない、かなた」

「……んぇぁ」

 

 背後から自分の名前を呼ぶ声に反応し、かなたはゆっくりと顔を後ろに向け、声を掛けた人物へと視線を定める。

 

「えっと…………衣舞紀?」

「名前が即座に出てこないってことは、だいぶ寝ぼけてるわね」

 

 かなたの状態を見て、苦笑いを浮かべる少女の名は、新島(にいじま)衣舞紀(いぶき)。かなたやノア達と同じ学年に通う級友である。

 鮮やかな銀髪を後ろでポニーテールという形で縛っており、シュッとした体形からも、彼女がスポーツ少女であることが伺える。それでいて、凛とした立ち振る舞いや顔立ちも彼女の魅力として成り立っており、それが彼女のリーダーとしての素質として現れている。

 

「だって、ノアに無理やり……襲われたんだもん」

「へぇ、襲われ……襲われた!?」

 

 寝ぼけたかなたの言葉に、衣舞紀は驚いた声を上げる。

 一応、かなたは朝方にカバンで殴られる形でノアに起こされているので、表現的には間違いではない。

 

「寝てるときに……いきなり布団を剝ぎ取られて……そのまま乱暴に……」

「ち、ちょっとちょっと! 公衆のど真ん中でなんて話をしてるの!?」

「んぐっ……」

 

 間違ってはいない。間違ってはいないのだが、話の内容を勘違いしている衣舞紀は、顔を真っ赤にし、慌ててかなたの口を抑える。そのせいで周囲の生徒から奇異の視線を向けられるが、そんな事はお構いなしに衣舞紀はかなたの口を塞ぐ。

 

「ふ、二人がそういう関係だっていうのは分かったから、こんな人の多い場所で言っちゃだめだって!」

「…………?」

 

 かなたが「何勘違いしてんだこいつ?」といった視線を向ける。対する衣舞紀の方は、顔を真っ赤にしたまま、説教を始める。

 

「こ、高校生のお付き合いともなればそうゆう事もあるかもしれないけど、人の多い所でする話じゃ……」

「……ちょっと待て、俺が誰と付き合ってるって?」

 

 衣舞紀が何を考えているのか察したかなたは、自身の口を塞ぐ衣舞紀の手を掴んで話を始める。

 ちなみに、かなたの口元は微妙に吊り上がっており、ノアに言わせればこう言うだろう。かなたのSスイッチが入ったと。

 

「だ、だって、ノアに襲われたって……」

「言っとくけど俺、今フリーだから。誰とも付き合ってないし、誰にも告ってないから」

「……え?」

 

 かなたはニヤニヤと笑いながら衣舞紀を逃がさんと、掴んだ衣舞紀の右手首に軽く力を込める。その行動に、衣舞紀は頬を染めたまま顔を引き攣らせる。自分は逃げられないかもしれないと。

 

「確かに、俺はノアに寝起きを襲われたぞ。勝手に部屋に入り込まれて、布団を剥がれて、無防備な身体に……」

「ち、ちょっと……っ!」

「教科書が入ったカバンでぶん殴られた」

「…………」

「…………」

 

 二人の間に、妙な沈黙が訪れる。かなたはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら衣舞紀を見つめており、衣舞紀はようやくかなたの言っていた言葉の意味を理解する。

 

「あ、えっと、その……起きれてよかったわね!」

「まぁな」

 

 平静を装っているものの、彼には衣舞紀の動揺が手に取る様に分かった。

 彼女の視線はまるで魚のように泳いでおり、ぎこちない笑顔で対応するその姿からは、普段のクールビューティーな彼女からは想像できない程焦っていることが分かる。

 

 一方でかなた。衣舞紀の様子に完全にSスイッチが入っており、爽やかな笑顔で答えている。

 彼の容姿自体が世間一般的に見ても良い事もあり、見る者が見れば胸キュンを起こしそうなスマイル。

 だが、知る者が見れば直ぐに分かるであろう。あれは断じて爽やかスマイルなどではない。あれは、爽やかさでカモフラージュしただけの、ただの腹黒い暗黒スマイルだと。

 

「そ、それじゃあ私、そろそろ学校に……」

「ところで、衣舞紀は俺とノアが何をしたと思ったんだ? 聞かせてよ」

 

 逃げようとしたが、右手首を軽く掴まれているため、すぐに逃げることが出来ない。

 

「俺はノアに襲われたってありのままの事実を話したけど、衣舞紀は何を勘違いしたの? 俺にも教えて欲しいなぁ」

「……し、知らないわよ……」

「あー、もしかしてノアと俺が付き合ってて、俺とノアが朝からイチャラブしてたって思ってたの?」

「っ!」

 

 顔を先ほどよりも真っ赤にして視線を逸らす衣舞紀。心なしか、プルプルと震えている。

 

「いやぁ、衣舞紀って案外むっつ——————」

「ふっ!!」

「うぼっ!?」

 

 しかし、調子に乗り過ぎた代償だろう。衣舞紀はかなたの鳩尾(みぞおち)に、羞恥と怒りを込めた全力の一撃を打ち込んだのだ。

 無防備な状態に入った一撃は、かなたを一撃で沈める。

 

「あんま調子に乗らない!」

「ず、ずびばぜん……」

 

 腹をさすって地面に蹲るかなた。

 

「次煽ってきたら、今度はどこを狙われるか……覚悟しなさい」

「…………ういっす。すいやせんでした」

 

 衣舞紀の視線が自分の急所に向いていることに気が付いたのだろう。かなたは黙って謝罪をする。

 腹をさすりながら蹲るかなたに多少の溜飲が下がったのか、衣舞紀は軽くため息を吐くき、そのままかなたを置いて先へ進むのだった。

 

「はぁ……朝から頭と腹を……次は下か?」

 

 これから来るかもしれない不吉な未来に、顔を青ざめさせていたその時だった。

 

「……青色だ……落ち込んでる?」

「ん?」

 

 ふと聞こえた声にかなたは首を傾げ、声のした自身の右隣りをみる。

 そこには、先ほど先へと向かった衣舞紀よりも小柄な少女がかなたと同じように目線を合わせ、座りながらかなたの顔を見ていたのだ。

 太陽の輝きそのものを宿したかのような輝きを持つ純白の髪。そして、見た者の庇護欲を掻き立てる小柄な体躯と幼さの残る顔立ち。

 なによりも、全てを見通すその美しい瞳には、思わず息を飲んでしまう。

 

「咲姫?」

 

 彼女の名は出雲(いずも)咲姫(さき)。ノア達と同じアイドルであり、場の空気を支配し、会場を盛り上げるDJなるパートを担当している。

 

「おはようございます、かなたさん。なにか嫌な事でもあったんですか?」

「あー、まぁ大丈夫……ノアと衣舞紀に襲われただけだから」

 

 この男、まったく懲りてないのか、まったく同じ言い方で後輩である彼女に何があったかを伝える。むしろ新たに衣舞紀を巻き込んでいる分さらにたちが悪い。

 

「……ノアさんに頭を、衣舞紀さんにはお腹を?」

「あれ、お前心読めたっけか?」

 

 かなたは呆気にとられた様子で咲姫を見つめる。

 

「私が見るのは、人の音から出る色だから……心は読めないです」

「ふ~ん、()()()に関しては俺はさっぱりだからなぁ」

 

 共感覚。使用している五感に対し、まったく別の感覚が作用する特有の感覚である。視覚に対して甘味や辛味、酸味などの味覚が作用したり、嗅覚に対して、音を感じる。あるいは……聴覚に色を見る等の視覚が作用したり。持つ人によってその効果は違うが、その感覚を持つのは一部の者だけである。

 

「衣舞紀はさっき思いっきり勘違いしてたのに、お前は勘違いしないんだな」

「勘違い? そういえばさっき遠目に衣舞紀さんを見たとき、色がピンクだったような……」

「うわマジか。やっぱり衣舞紀の奴むっつ」

「それ以上言ったら首を折るわよ——————かなた?」

 

 突然背後から手が伸び、まるで抱き着くかのように腕を回して首締めの体勢を取った人物……先ほど、かなたを置いて先に学区に向かったはずの衣舞紀である。

 そして、その腕はまるで恋人を逃がさないかのようにしっかりとかなたの首へと狙いを定めており、かなたは一気に背筋が凍ってしまう。

 

「あ、あの……衣舞紀さん? あなた先に学校に行ったはずじゃ……」

「流石に殴ったまま学校に行くのはどうかと思って、戻って来たけれど……正解だったみたいね」

 

 顔がかなたの顔に隠れて見えないため、衣舞紀の表情はよく見えない。だが、それが返ってかなたの恐怖心をあおっており、心なしか少し震えている。

 

「俺、フリーなんですけど? この恋人みたいな態勢は一体……?」

「あら、奇遇ね。私もフリーよ。ちょっと、()()に甘えてみたいと思ったのよね」

「…………怒ってらっしゃいますか?」

「怒る? 何のことかちょっと分からないわね。それより私、このまま首をきゅっ……ってしたらどうなるのか、知りたいのだけれど、やってもいいかしら?」

 

 まるで恋人に甘える彼女のように、衣舞紀は腕に力を込め、耳元で囁く。

 

「ご、御冗談を……」

「最期に……言い残すことはあるかしら?」

 

 かなたは理解した。衣舞紀は、完全に自分を殺る気だと。

 そして同時に覚悟を決めた。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 深呼吸をし、首に回された手を掴みながら言う。

 

「悲報。衣舞紀さんはやっぱりむっつ——————」

「…………ふぅ」

 

 満足そうに小さく息を溢す衣舞紀。ぐったりとするかなた。この二人の様子から、何があったかはお察しである。

 

「さ、速く学校に行きましょう、咲姫」

「あ、あの……かなたさんは……?」

 

 衣舞紀にぐったりとしたまま抱きかかえられるかなたを見て、どうすればいいのか分からずおどおどとしてしまう咲姫。

 

「ま、気絶させたのは私だし、ちゃんと責任もって教室に捨てるわよ」

「え? す、捨てちゃうんですか?」

「まぁ、後はノアがどうにかしてくれるでしょ」

 

 そう言うと、衣舞紀はかなたを担ぐ。

 

「それじゃあ、学校に行くわよ。あ、悪いけど咲姫、かなたの鞄を運んでくれないかしら?」

 

 道端に落ちているかなたのカバンを指さし、先ほどまでの一連のやり取りを見ていた咲姫に運んでほしいと頼む。

 

「分かりました…………あれ?」

 

 衣舞紀の指示通り、床に落ちたカバンを拾う咲姫。

 そこでふと、衣舞紀を注視した咲姫は、あることに気が付く。

 

「衣舞紀さん、色がピンクのまま……?」

 

 咲姫はかなたのカバンを持ち、首をかしげながらその後を追うのだった。

 

 






 次回、メインヒロイン(笑)回です。なんかこの小説、衣舞紀さんヒロイン説出てきたぞ
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