ウマ娘:ギルガメッシュ叙事詩   作:やまみち

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「友達を百人作るんじゃなかったの?」

「せやかて、工藤……。」

「僕の名前はエルキドゥだよ。

 どうして、そのユーモラスさを普段から出せないかなぁ~?

 それさえ出来れば、百人は無理としても友達の一人や二人は簡単に作れると思うんだけど?」

 

 

 ふと背中に聞こえてきた親友の声。

 返事を戯けさせてみせるもそれで精一杯。背後を振り向けずにいると、声は優しく穏やかでも痛烈な言葉を浴びせられた。

 すぐさま反論をしようと口が動きかけるも口籠り、たまらず体育座りをして抱えている膝をより抱え寄せて、その膝に俯いた額を押し当てる。

 

 あの偉大なエジソンも『失敗は成功の基』と言っている。

 トレセン学園入学という目標は達成したが、ここからが本当のスタートだ。

 ここで立ち止まる訳にはいかない。この先を目指す為、何が悪かったのだろうかと先ほどの出来事を振り返る。

 

 入学記念レースをぶっちぎりの一位。

 それもキングヘイローを上回るレコードタイムを叩き出した俺を待っていたのは痛いほどの沈黙だった。

 

 数分前、キングヘイローがコースレコードを叩き出した時も静まり返ったが、すぐにどよめきで湧いた。

 だが、俺の場合、誰も言葉を発しようとしない。皺を眉間に刻んで『解せぬ』と言わんばかりに辺りをグルリと見渡してみれば、その視線を受ける度に次々と身体をビクッと震わせながら顔を背け、沈黙はますます深まりばかり。

 

 

『どうした? 王の帰還ぞ!

 さあ、遠慮は要らぬ! 存分に喝采せよ!』

 

 

 だから、こう俺は我らしく告げた。

 俺には残念ながらキングヘイローにおけるハルウララのような友人は居ない。自分自身が盛り上げるきっかけになれば良いと結論付けて。

 

 その結果、拍手は湧いたが、それ等は抑揚の無いものばかり。

 またしてものキングヘイローの時との違いに、口の中で『解せぬ』と呟き声を転がす。

 

 しかし、もっと腑に落ちないのはここからだった。

 レース後の火照った身体を冷まそうと、給水所へ向かおうと右足を出した途端、その進もうとした先に居た者達が一斉に後退ったのである。

 

 

『くっ……。くっくっくっ……。ふはっ、ふはははははははははっ!』

 

 

 そして、俺が歩みを進めれば、進路上の者達は後退り、それを繰り返して最後に一本の道が完成した。

 正しく、それはまるで『モーセの十戒』のエピソードの一幕さながらであり、もう俺はやや仰け反りながら高笑いをあげるしかなかった。

 

 だって、そうでもしないと滲んだ涙が零れ落ちそうだったからだ。

 どうして、こうも俺とキングヘイローで差が生じるのか。ちんぷんかんぷんである。

 

 その後、何処をどう歩いたのかは覚えていない。

 気づけば、俺以外は誰も居ないここに居た。学園のとある学舎の屋上、出入口からは見えない給水塔の影で体育座りをしていた。

 

 いつの間にか、体育着から制服に着替えて、シャワーも浴びたらしい。

 たまに吹く穏やかな風が髪を揺らして、嗅ぎ慣れぬ香りを漂わせていた。恐らく、シャワー室備え付けのシャンプーを使ったのだろう。

 

 ちなみに、入学記念レースはまだ続いている。

 その遠くから聞こえてくる賑わいを耳にしていると、また涙が滲んできてしまい、抱え込んだ膝の中で下唇を噛む。

 

 

「まあ、反省して今後は態度を改める事さ。

 それと『キマシタワー建設計画』はもう無理だね。諦めたら?」

「な゛っ!?」

 

 

 だが、聞き捨てならない親友の忠告に、頭を膝から跳ね上げると共に勢い良く立ち上がって振り返る。

 トレセン学園入学の合格通知を受け取った時、俺は2つの計画を立てた。頭の中だけでは不安だった為、フローチャートを所有するノートパソコンで作って可視化すると、それを昨夜の昨夜まで修正に修正を重ねて、今日という日に備えていた。

 

 それが『友達百人できるかな計画』と『キマシタワー建設計画』だ。

 前者はその名前が表すように、俺がこの世界に初めて気づいた六歳の時に夢見たウマ娘達とキャッキャウフフな学園生活を送るというもの。

 後者は前者の計画を更に押し進めた友人の枠を超えた恋人を作り、そのウマ娘とアハンウフンな百合の花を咲かせようというもの。

 

 間違いなく、両親は男性と結婚する未来を望んでいるだろうが、俺には無理だ。

 年齢を重ねて、身体は女らしい成長を始め、今では同性から時に妬まれるほどで自信も有る。

 

 しかし、心は未だに男のまま。

 知っているだろうか。女は男が思っている以上に男の視線に気づいているのを。何気なさを装ったところでバレバレなのを。

 常日頃、自分の胸に注がれる男の視線に『そうだよな。男なら仕方ないよな』と苦笑を堪えながらも納得はしているし、嫌悪感は湧かない。

 

 だが、嬉しくもない。やはり男を恋愛対象に見られない。

 ならば、トレセン学園入学を果たした今、キマシタワー建設計画が人生における大事な第二の目標と必然的になる。

 

 どの重賞を目指すのか、クラシック期は三冠戦線とトリプルティアラ戦線のどちらを選ぶのか。

 そういう目標は無いのかと問いたくなるかも知れない。実際、両親や祖父母、親戚は何度もしつこく聞いてきたが、そんなモノはどうでも良いのだ。

 

 よく考えてみて欲しい。人生は長い。

 身体と才能が運良く保ち、トゥインクルシリーズを経て、ドリームシリーズに至ったとしても現役時代は二十代前半で終わる。

 

 確かに賞金額はレースのグレードと人気の高さに比例する。

 例えば、有馬記念を一回勝つだけで一般サラリーマンが稼ぐ一生分のお金が貰えるから、ちょっとした贅沢が許される生活に一生困らないだろう。

 

 しかし、去年の統計によると、ウマ娘の平均寿命は78歳。

 その長い人生を一人で過ごすのは寂しいし、色が無い。それが既婚歴無しなら、彼女いた歴無しで前の人生を終えてしまった俺が得た揺るがない教訓だ。

 

 

「当然だろ? キングヘイローだけならまだしも、あのシンボリルドルフにも喧嘩を売ったんだよ?

 それも本人が居ると知っていて、あれだけ大勢の前でだよ?

 そんな君と友達になりたい。ましてや、恋人になりたいだなんて、学園全てを敵に回せる勇者が果たしていると思っているのかい?」

「ぐっ……。だ、だが、しかし……。

 そ、そう……。そ、そうだ! シ、シリウスシンボリ!

 シ、シリウスシンボリとシンボリルドルフの不仲は有名だが、彼女は女の子達に人気だ! そ、その路線で攻めれば!」

「くふふっ……。それ、本気で言ってるのかい?

 君、アドリブがちっとも効かないじゃないか。入学式で話しかけられて舞い上がり、相槌を打つので精一杯だったのは誰だっけ?

 無理だよ、無理、無理、カタツムリ。君がシリウスシンボリのハンサムさを真似るなんて絶対に無理さ。

 それよりももっと大事な事があるだろ? 君があの場で見下したのはキングヘイローとシンボリルドルフの二人だけじゃないんだよ?」

「ぐぐっ……。」

「今日明日にでも耳に届くだろうね。

 トウカイテイオーやエアグルーヴ、サクラバクシンオーといった名前に『王』が持つ人達に先ほどの一件がさ。

 特にだ。君も知っての通り、トウカイテイオーはシンボリルドルフの熱狂的信者だから凄い噛み付いてくるんじゃないかな?」

「ぐぐぐっ……。」

 

 

 だからこそ、反論材料を必死に探して見つけるが、親友はあっさりと論破した上に厳しい近未来を突き付けてきた。

 筋違いとは承知しながらもキングヘイローとキングヘイローを俺以前に出走させたトレセン学園を恨んでしまう。

 あのキングヘイローのレコードタイムさえ無かったら、俺はアドリブを用いる必要が無かった。入念に計画されたフローチャートに沿い、今頃は友人達と健闘を称え合って、その中の一人と恋人の第一歩を進めていた筈だと。

 

 

「つまり、君はまた繰り返してしまったんだよ。

 高校、大学、就職、再就職の時もそうだったように、学園入学デビューに失敗したのさ」

「ぐふぅぅぅぅぅっ!?」

 

 

 挙句の果て、親友は容赦ない現実も突き付け、それが胸にズブリと深く突き刺さる。

 たまらず身体をビクッと震わせると共に背を勢い良く反らせると、膝から力が抜けた。そのまま体勢が後ろに倒れてゆく。

 

 視界一杯に広がる澄み切った青空。

 とうとう涙がホロリと零れ落ち、諦めが心を支配しようとしかけるが、後頭部を屋上のコンクリートにぶつける寸前、力を腹筋に思いっきり入れて、倒れきるのを一歩手前で堪えると同時に上半身を跳ね起こす。

 

 

「ま、まだだ! ま、まだ終わんよ!」

「そのセリフを言った彼も初恋を拗らせて独身で終わったっけ?

 まあ、君とは違い、恋人は何人か居たようだけどさ。……ロリコンだったけどね」

「ル、ルームメイトだ! ぜ、絶対に一週間もしたら友達になっている筈だ!」

 

 

 こうなったら『ルームメイト』を最後の頼みの綱とするしかない。

 トレセン学園は全寮制。学園敷地内に美浦寮と栗東寮の二棟が存在するが、どちらも全室二人部屋である。

 俺は美浦寮所属が既に解っており、それを通知するトレセン学園の合格通知の書類の一枚には相部屋となるウマ娘の名前が『コパノリッキー』と書いてあった。

 

 前の俺は残念ながら彼女をピックアップガチャで引けなかった為、そのキャラクター性を詳しく知らない。

 だが、垢抜けた容姿や派手な色合いの勝負服からリア充感をひしひしと感じたし、ネットの評判でも賑やかな性格とあった。

 

 つまり、そんな彼女と寝起きを共にするのだから、仲は自然と深まるに違いないという確定的思惑だ。

 もしかしたら、今夜のおやすみ前にはもう友達という可能性も否定は出来ない。落ち込んでいた気分が期待に膨らむ。

 

 

「普通はそうだろうね。でも、君の事だからなぁ~~……。」

 

 

 しかし、夕方。俺は美浦寮の寮長『ヒシアマゾン』から絶望を告げられる。

 なんと相部屋予定だったコパノリッキーが突然の故障発生を理由に入学を三日前に辞退。

 突然の事だった為に部屋割りの調整が間に合わず、俺は来年度の部屋替えまで二人部屋を一人で使う特例の贅沢が許された。

 

 

 




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気になるあの娘の第一話時年齢設定という名の覚え書き。

12歳前      :アグネスデジタル
13歳 入学    :主人公と黄金世代、コパノリッキー
14歳 ジュニア期 :サイレンススズカ、トウカイテイオー
15歳 クラシック期:エアグルーブ
16歳 シニア期  :シンボリルドルフ、ヒシアマゾン、フジキセキ、サクラバクシンオー
17歳 シニア期  :
18歳 シニア期  :マルゼンスキー(未定)
19歳 ドリーム期 :

三話目にして既に違和感が……。(´・ω・`)
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