ウマ娘:ギルガメッシュ叙事詩   作:やまみち

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第二話 英雄王、三年目の挑戦
2-1


 

 

 

『最も速いウマ娘が勝つ! そう言われる皐月賞!

 大外からスペシャルウィークが上がってくる! 一気に仕掛けるか? 

 先頭、セイウンスカイとキングヘイローが競り合って、第4コーナーを……。今、通過っ!』

 

 

 本日の中山競バ場、天候は晴れ。URAより発表された芝状態は良。

 クラシック三冠の一つに数えられ、十五歳のうら若きウマ娘達十六人が2000メートルの彼方を目指す皐月賞。

 長いようで短かった約二分のドラマの終幕がいよいよ迫り、超満員で埋め尽くされたスタンドが爆発的に湧き始める。

 

 

「にゃはっ!」

 

 

 この瞬間、セイウンスカイは歯を食いしばらせる口の端に笑みを描いた。

 そう、全てはこの瞬間の為。レース道中も、レース前も、今日に至る日常の中も、前走の二着に終わった弥生賞さえも、皐月賞という栄光を掴む為に重ねた策であり、確かな手応えがセイウンスカイの手中にあった。

 

 そして、セイウンスカイはその目に幻想を見る。

 突如、皐月賞激戦の直中が一変。波が静かな水平線が広がる晴天の大海原の中、筏に乗って、釣り竿を両手に持ち、その糸を垂れているのを。

 

 

「えっ!? ……そう、これが!」

 

 

 刹那、セイウンスカイは戸惑いを見せるがすぐに理解する。

 これこそが心技体を鍛え抜いた末に『本格化』を迎えた一流のウマ娘が持つスキル『領域』であると。

 

 また、その一方で思った。

 今、私達は一生に一度しか許されない舞台『皐月賞』でしのぎを削り合っているにも関わらず、のどかが過ぎる『領域』ではないかと。

 

 だが、こうも思った。

 私というウマ娘をこれ以上なく表現しており、とても私らしい『領域』だと。

 

 

「だったら、名付けて……。アングリング×スキーミングだああああ!」

 

 

 釣り糸が強い引きを主張。竿を反射的に上げる。

 真っ赤な鯛が水面を跳ねて舞い、その水飛沫が陽の光に乱反射してキラキラと輝く。

 

 次の瞬間、景色は中山競バ場へと戻った。

 目前には難関で名高い中山競バ場の上り坂が迫っており、セイウンスカイはいつにない足の軽さを感じた。

 それはここまでの約1600メートルを走ったとは思えない軽さであり、まるでレースをこれから始める前のような軽さだった。

 

 セイウンスカイは奥歯をギリリと噛み締めて、全身全霊のラストパートを仕掛ける。

 すぐ右隣で競り合っていたキングヘイローとセイウンスカイを射程に捉えたスペシャルウィークが息を呑む。

 

 

『おおっと! セイウンスカイが一気に抜け出した!

 一バ身、二バ身! 速い、速い、速いぞ! 果たして、中山の坂を登り切れるのか!』

 

 

 過去、数多のウマ娘がふるい落とされて絶望を噛み締めた中山競バ場の上り坂をなんてその。

 実況アナウンサーの心配を他所にして、セイウンスカイが上り坂を平地の如く登り、あとはゴールに飛び込むだけのほぼ平坦な残り約100メートルを踏んだその時だった。

 

 

「ふははっ! ふははははははははははははははははははははっ!」

 

 

 後方から高笑いが響き、それがコンマゼロゼロ秒単位で加速的に近づいてきた。

 セイウンスカイはまさかまさかと目をギョッと見開き、スピードロスを承知しながらも振り向かずにはいられず、高笑いが聞こえてくる左後方を振り向く。

 

 

『来た、来た、来た! やはり、ここで来た!

 気づいたら来ていた! いつの間にか、来ていた! まるでテレポーテーション!

 一番人気、ギルガメッシュ! 独特の走法! 驚異という表現では生温い末脚で超大外から差してきた!』

 

 

 クラシック期の緒戦、G1という大舞台ながら単勝オッズは1.1倍。

 伝説と讃えられるウマ娘『トキノミノル』以来の圧倒的な一番人気を記録したギルガメッシュが今正にセイウンスカイへ迫りつつあった。

 

 涼しい顔をしながら腕を組み、上半身を微動だにさせない前傾姿勢の走り。

 何故、そのふざけているとしか思えない走法でそれほどの速さが可能なのか。入学記念レースで初めて目撃して以来、何度も感じた理不尽さを改めて噛み締めて、セイウンスカイは歯茎から血が滲むほどに奥歯も噛み締める。

 

 去年末、セイウンスカイがクラシック期を三冠路線で行くと決めた時、最も警戒したのはギルガメッシュである。

 無論、警戒するライバルは他にもいる。今、皐月賞を競い合っているキングヘイローやスペシャルウィークが正にそれだ。

 

 しかし、彼女達には弱点、不安があった。

 例えば、キングヘイローには2000メートル以上の中長距離適正が、スペシャルウィークには過食気味な普段の食生活が。

 

 だが、ギルガメッシュには死角が無かった。

 入学以来、人付き合いが極めて悪くて、ギルガメッシュを担当するトレーナーも口が固い為、ギルガメッシュに関する情報がそもそも皆無に等しかった。

 

 だから、セイウンスカイはギルガメッシュに近づいた。

 最初は美浦寮同士というか細い糸を利用して、近づけば噛み付いてくるギルガメッシュの懐にゆっくりと入っていった。

 

 要するに囁き作戦だ。

 ギルガメッシュが望む通りに『王様』と呼んで褒め称える一方、自分の実力の無さを嘆き、時に九割の真実の中に一割の嘘を混ぜ、ギルガメッシュの油断を誘い続けてきた。

 

 ところが、セイウンスカイは最後の最後で逆に油断した。

 ギルガメッシュの恐ろしい末脚を知っていたにも関わらず、自分が第四コーナーを通過した時点でギルガメッシュはまだ第三コーナーに差し掛かったところだった為、完全に警戒から外してしまった。

 

 その上、セイウンスカイは失敗を重ねる。

 双方の速度とゴールまで残された距離。その二つを考えたら、自分が頭差か、ハナ差で間違いなく勝てると油断した。

 

 

「大義であった! 見事な道化っぷりだったぞ!

 この我すらも騙すとは褒めて遣わそう! これは褒美だ! 受け取れぃっ!」

 

 

 再びセイウンスカイはその目に幻想を見る。

 突如、ひび割れる音が聞こえたと思ったら、視界全てがガラスを割ったように崩れ落ちて、空も大地もない星々が輝く宇宙に居た。

 音がジャラジャラと幾多も聞こえ、思わず何事かと顔を左右に素早く振り向けてみれば、セイウンスカイを中心にして、鎖達が輝きをキラキラと放ちながら渦を巻き、美しい銀河を造っているではないか。

 

 しかし、荒唐無稽な幻想を続けざまに見たセイウンスカイは、これがギルガメッシュの『領域』によるものだと即座に認識する。

 だったら、ここはやはり中山競バ場だと、自分は皐月賞の真っ只中にいるのだと、芝の上を走っているのだと奮い立ち、現実を取り戻す為に大地の感覚を捉えようと足の裏に意識を集中させようとした次の瞬間。

 

 

「天の鎖よ!」

「にゃにゃっ!?」

 

 

 渦を巻いていた鎖達が四方八方よりセイウンスカイへと襲いかかった。

 それまで軽かった手や足、身体が巻き取られて、急激に重くなり、セイウンスカイが顎を苦しそうに上げる。

 

 

『セイウンスカイ、何が起きた! スタミナ切れか!

 突然の失速! ズルズルと後退! ギルガメッシュが差し切る!』

 

 

 その結果、セイウンスカイはあと一歩のところまで迫りながらも皐月賞の栄光を取り零してしまう。

 ギルガメッシュは当然として、キングヘイローとスペシャルウィークにも追い抜かれた四着惨敗の成績で。

 

 

「ふはははははははははっ!

 王冠とは王の頭にあってこそ、光り輝くもの! まずは一つ目! 我の財を返して貰うぞ!」

 

 

 その敗因は油断の一言に尽きた。

 事実、セイウンスカイはレース後の取材で『自分が持っていたのだから、彼女が持っていない筈が無かった』という言葉を残している。

 

 

 






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ギルガメッシュ固有スキル『天の鎖』
追い比べをした時、王の威光を見せつけて、相手の速度とスナミナをすごく奪う

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