ウマ娘:ギルガメッシュ叙事詩   作:やまみち

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「君は駄目だね。本当に駄目駄目だね」

「せやかて、工藤……。」

「僕の名前はエルキドゥだよ。

 セイウンスカイ君が打算有りきで近づいてきたのは承知していた筈だろ?

 今更、何を尻込みしているのさ。セイウンスカイ君の部屋を今すぐにでも訪ねてきたらどうだい?」

 

 

 ふと背中に聞こえてきた親友の声。

 返事を戯けさせてみせるもそれで精一杯。背後を振り向けずにいると、声は優しく穏やかでも痛烈な言葉を浴びせられた。

 すぐさま反論をしようと口が動きかけるも口籠り、たまらず体育座りをして抱えている膝をより抱え寄せて、その膝に俯いた額を押し当てる。

 

 

「それに君はこうも知っていた筈だ。

 本来なら、今日の皐月賞はセイウンスカイ君が獲る筈だった。それが正しい歴史の流れだと……。

 だったら、それを横から掠め取った君は何者かな? 世間では君のような奴を『盗っ人』と呼ぶんじゃないのかな?」

「し、しかし、手を抜くなど……。」

「そうだね。勝利を舐めプで譲るなんて、セイウンスカイ君どころか、皐月賞を走った全員に対する侮辱だよ」

「であろう! そうであろう!」

「僕が言いたいのは、本当の歴史すら捻じ曲げておきながらの態度さ。

 皐月賞を獲って、インタビューやらで忙しくはあったけど、セイウンスカイ君と和解するチャンスは何度も有ったよね?

 だけど、君はそれを全て無視した。……いや、違うかな。もっと正確に言おう。

 君はセイウンスカイ君を恐れて逃げたんだよ。その後のチャンスも、その後の後のチャンスもだ。

 おかしいなぁ~~……。常々、君がよく口にする『王』というのは、そうやって『盗っ人』のようにコソコソと逃げ回る者の事を言うのかい?」

 

 

 しかし、そんな俺を許してくれず、親友は容赦なかった。

 とても黙っていられなくなって抵抗を試みるが、親友の厳しさは増すばかり。

 正論という名の刃が胸にグサグサと何度も突き刺さり、ぐうの音も出なくなる。

 

 皐月賞を勝利した俺を待っていたのは目が回るくらいの慌ただしさだった。

 レース後の身体検査から始まり、表彰式、勝利者インタビュー、ウィニングライブ、記者会見、トレセン学園理事長との面会、祝勝会と続き、皐月賞以上に疲れ果てた。

 

 だが、その忙しさの合間にも皐月賞後に気まずくなったセイウンスカイとの仲を修復するチャンスは有った。

 セイウンスカイがそのチャンスを作ってくれていた。身体検査後も、表彰式後も、勝利者インタビュー後も、ウィニングライブ後も、記者会見後も、トレセン学園理事長の面会後も、視界の隅にもどかし気な様子で佇んで。

 

 特に先ほどは最高のチャンスだった。

 美浦寮へ疲れ果てて帰宅した俺をセイウンスカイは玄関で待っていてくれたのである。その隣に『ニシノフラワー』に付き添って。

 

 ニシノフラワーは栗東寮住まいである。

 美浦寮と栗東寮は同じトレセン学園の敷地内に在っても、美浦寮は東、栗東寮は西と称されるほど端と端に離れている。羨ましい二人の友情の深さが実感できるし、どれほどセイウンスカイが心細かったかも良く解る。

 

 ところがところが、有ろう事か。俺は鼻を『ふんっ!』と鳴らしてしまった。

 ニシノフラワーに急き立てられて、慌てながらも何かを告げようとするセイウンスカイの口からどんな言葉が飛び出すのかが怖くて。

 

 その後、何処をどう歩いたのかは覚えていない。

 気づけば、自室に居た。電気を点けず、月明かりが差し込むベッドの上で体育座りをしていた。

 

 いつの間にか、お風呂には入ったらしい。

 髪が半乾き、汗ばんでいた筈の肌はさっぱりしており、昼間とは違う色のパンツを履いて、寝巻き代わりのTシャツも着ている。

 

 親友の忠告に従い、今すぐセイウンスカイの部屋へ行こうかと考えるが、時刻は21時半ちょい前。

 人を訪ねるには微妙な時間であり、22時には寮内の消灯時刻を迎える事もあって、迷惑ではなかろうかという迷いが俺をこのベッドに縫い付ける。

 

 

「君が応えられないなら、僕が言ってあげよう。

 王であろうとするなら、寛容な心で許してあげるのが王というものさ。

 上手く伝えられないなら、簡単に『次も負けぬ』と一言だけでも言えば良かったんだよ。

 それさえ出来ていたら、正に君が望んだ作戦通りだったんだよ?

 日々は切磋琢磨し合い、レースは競い合う。そこで生まれる熱い友情作戦がね?

 僕はね。スポ根漫画の王道といえる作戦だから、凄く期待していたんだよ。

 それなのに、それなのに、君ときたら……。はぁぁ~~~……。本当にもうガッカリだよ」 

 

 

 親友のこれみよがしな溜息が身に滲みた。

 涙が滲んできてしまい、抱え込んだ膝の中で下唇を噛む。

 

 実を言うと、皐月賞での油断を誘おうとするセイウンスカイに対して、打算を俺自身も持っていた。

 トレセン学園入学以来、俺は友人を作れないままに一年半が過ぎ、夏合宿は去年も一昨年も一人ぼっち。トレーナーから『お前、友達居ないの?』とか、『お前の併走相手、見つけるのに苦労するんだよなぁ~』とか、数え切れないくらい何度も何度も罵り煽られて悔しい思いをしていた俺にとって、セイウンスカイは希望の星であり、とても居心地が良い相手だった。

 

 俺が我らしく接しても、セイウンスカイはいつも飄々として機敏に長けて、パーソナルスペースへ入ってくるのが上手かった。

 例えば、食事を摂っていると気づいたら隣、或いは正面の席で一緒に食べたり、俺が何かの理由で苛ついている時は察して決して近づいては来なかった。

 

 

『王様、おはよう!』

『うむ、大義である』

『今日も天気が良いね。お昼寝日和だよ』

『はっ! お前は天気がどうあろうと寝ているではないか』

『にゃはは! 痛いところ、突かれちゃったな! それでさ。話は変わるんだけど……。』

 

 

 セイウンスカイ主導ではあるが、最近ではこんな感じに会話が長く続くようにもなっていた。

 先月に至っては風邪を患いながらも強がっていた俺を見抜き、教師に早退を訴えて取り付けると、お粥を作って見舞いにまで来てくれたのである。勿論、俺はセイウンスカイが帰った後で泣いた。

 

 

「果たして、セイウンスカイ君は『盗っ人』の君を『王様』とまた呼んでくれるかなぁ~~?

 それに知っているかい? 仲直りって、喧嘩したすぐ後が一番し易くて、時間が経てば経つほど難しくなるんだよ?」

 

 

 だからこそ、セイウンスカイとの仲を是非とも修復したい。

 セイウンスカイとの仲がここで終わってしまったら、セインスカイが間に入って広がった『知り合い』から『友人』に昇格しつつある者達との仲まで終わってしまう。

 

 しかし、親友が指摘した時間的な問題が俺には有った。

 トレーナー曰く、皐月賞を獲ったからマスコミが五月蝿くなる。皐月賞の疲れを抜く意味も兼ねて、お前はハワイで暫く遊んでろ。

 前々からマスコミ受けが失言ばかりで悪い俺はハワイへ一週間の高飛び予定になっており、その出発はまだ薄暗い明日の早朝となっていた。

 

 なるほど、俺の金髪はどう足掻いても日本では目立つ。木を隠すなら森の中という事か。

 トレーナーは俺が皐月賞を獲った時点で飛行機のチケットと宿の手配を行い、黒髪のウィグとサングラスの変装道具も、成田空港までの足にトレセン学園を出入りする業者のトラックも用意してくれていた。

 

 お膳立てをここまでされて、今更キャンセルする勇気は俺に無い。

 実際、マスコミが鬱陶しいのも有るし、またバッシングをどうせ受けるのだろうと考えたら気が滅入る。

 

 だが、自分自身の事だけに良く解ってしまうのだ。

 絶対にセイウンスカイとの仲を明日中に修復しなければならないと。ハワイからの帰国後では『難しい』レベルから『不可能』レベルに達してしまうと。

 

 しかし、神は俺を見捨てはしなかった。

 激しく迷い悩める俺の頭に天啓がふと舞い降りる。

 

 思わず跳ねるように立ち上がるが、ここはベッドの上。

 立ち上がった勢いにベッドのマットスプリングが弾み、揺れるベッドにふらついてしまう。

 喜びに荒ぶる心を鎮める為、首を左右に振って、軽く持ち上げた両手を上下させる古来より伝わる神楽舞を舞う。

 

 

「ま、まだ慌てるような時間じゃない!」

「そのセリフを言った彼のチーム、結局は負けたよね?

 あれ? ……勝ったんだっけ? う~~~ん、どっちだったかな?」

「ファ、ファン感謝祭だ! ファ、ファン感謝祭で仲直りだ!」

 

 

 ファン感謝祭、それは天皇賞春の前週末に行われるトレセン学園の祭り。

 呼んで字の通り、普段は入場制限が厳しい一般人をトレセン学園へ招き入れて、様々な催し物が実施される。

 

 その中でニシノフラワーはワッフルのお店を出店予定していた。

 俺はセイウンスカイから手伝いを何度も申し込まれて、その度に口では『暇だったらな』と気のない素振りを見せながらも、内心では応じる気が満々だった。

 

 つまり、その出店を手伝っている内に仲は自然と修復するという確定的思惑だ。

 それに皐月賞を勝利した俺が店員となるのだから、ワッフルのバカ売れは間違いなし。セイウンスカイは勿論の事、ニシノフラワーも大喜びに違いない。

 

 

「そう言えば、誘われていたね。でも、君の事だからなぁ~~……。」

 

 しかし、一週間後。ハワイの出雲大社を参拝中、俺はトレーナーから電話で絶望を告げられる。

 なんと俺が日本不在の為にマスコミの皐月賞熱が一向に下がらず、ハワイ滞在をもう二週間くらい伸ばせと命じられて、ファン感謝祭を欠席するしか無くなった。

 

 

 




お読み頂き、ありがとうございます。
感想、お気に入り登録、高評価をお待ちしています。


序盤だけとはいえ、頭の中にネタを文章に起こして、推敲も行う。
久々に物語作りを完成まで行ってみて楽しかったです。


もし好評のようでしたら続きを書くかもです。

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