「このまま行けば終わるか・・・」
アキレスが模倣ウルトラノック戦法を繰り出す前。巨人と怪獣の戦闘を地上から見上げていた契。戦況は互角といった所だが、傷の深さで見ればアキレスがやや優勢。Gホークとセイバーも援護に入る動きを見せており、イレギュラーが無ければこのままアキレスが押し勝てるだろう。
だが、こういう時ほど起こるものなのだ。
最悪のイレギュラーというのは。
『───ぃ・・・け───!』
「通信?誰だ」
『けい───、契!応答して!契!』
「真矢?」
何者かがノイズ混じりの通信を送ってきたようだ。次第にクリアになっていく音声が真矢のものだと気付く。
『やっと繋がった!契、聞いて。ムムちゃんが───』
「ムム!?───!──、────!」
「落ち着け、と言っても通じんか。すまん」
ムムの名前を聞き、契に背負われたまま騒ぎだす女性。地球と同じ意味があるかは分からないが、女性の唇に人差し指を翳して落ち着くよう促す。幸いにもその仕草は通じてくれたらしく、静かになる女性。真矢に続きを頼むと頷いて返す契。内心は、先程の通信からそこまで長時間経っていない中でムムに何かあったのか、とやや焦っていたのだが。
『ムムちゃんが・・・拐われた』
「何だと!?」
一瞬前の自分の言葉を自分で踏み倒した契。真矢も悲痛な面持ちで契と女性にとって残酷な事実を伝えていく。
『ずっとムムちゃんが抱いてた動物が居たでしょ?宇宙生物だろうとは思っていたのだけど、こっちの想定以上に凶暴で狡猾らしくて・・・』
「アレはペットか何かじゃないのか!」
『あたしにも分からないわよ!』
つい語気が荒くなる両者。
「っ、すまん」
『こっちも、ごめん。その宇宙生物が急に外に飛び出していって、ムムちゃんが追い掛けていったのよ。そうしたら、急に怪獣みたいに大きくなって・・・』
「擬態か急成長か・・・それで、ムムを拐ったというのは?」
『信じられないけど、怪獣の目に吸い込まれたように見えたわ。急に敷地内に現れたから迎撃も遅れて、そのまま何処かに跳んで行っちゃった』
何故BURK基地を破壊せずに去ったのか、何故わざわざムムを人質に取るような真似をしたのか、破壊工作や捕食が目的なら基地が混乱している間に幾らでも果たせたはずだ。
「クソッ・・・!」
『ごめんなさい・・・何処に向かったかは今調べてもらって───』
「いや、向こうから来たらしい!」
規則的な衝撃音が徐々に近付いてくるのが分かる。契が振り向いた瞬間【それ】は一際大きく跳び上がり、怪獣にトドメを刺そうとしていたアキレスに凶爪を振り下ろしたのだ。
全身が純白の体毛に包まれ、美しい毛並みとは正反対に凶悪な顔をアキレスに向け威嚇するように唸り声を発している。口腔に収まりきらない鋭い牙を剥き出し、長い尻尾をゆらゆらと振っている様はまさに【怪獣】だ。
「奴が・・・」
「───!ムム!」
女性が白い怪獣の左目を指差し叫ぶ。
「分かるのか?っ、まずい!」
視力が良いのか同族との感応か、何にせよ女性にはムムが捕らわれている事が分かっているようだ。契が目を凝らそうとした時、事情を知らないだろうアキレスが攻撃態勢に入っているのが見て取れた。万が一、怪獣の左目に直撃でもすればムムの命は無いだろう。全力でアキレスに駆け寄り、声の限り叫ぶ。
「よせアキレス!」
すんでの所で契の声が届き、スラッガーの投擲を中断するアキレス。慌てた様子で契に退がれと伝えようとしているが、続く契の言葉に更なる焦燥を募らせる事になる。
「その白い怪獣は!ムムを人質に取ってるんだ!」
『ハッ!?』
ムムという名前に覚えは無いだろうが、人質を取っているという言葉に驚愕を隠せないアキレス。契に意識を割いている隙を狙い、怪獣が破壊光線を放ってくる。
『オォッ!デヤァッ!』
下手に着弾させて契を危険に晒す訳にもいかず、スラッガーの腹を向けてガードしたアキレス。何とか防ぎきり、白い怪獣のボディに視線を向ける。
「───!──!」
「左目だ!恐らくそこに捕らわれている!」
『フッ!』
何処に捕まえているんだ、と白い怪獣のあちこちを睨んでいたアキレスだが、契の言葉と女性の指が示した先を一際強く睨む。透視能力でも使っているのだろうか。
『鶴千!こっちでも確認した!』
「隊長?」
『通信はこちらでも聞いている。Gホークのシステムで怪獣をスキャンした』
『どうやらマジみてぇだ・・・!怪獣野郎、ふざけた真似しやがって!』
移動指令室としての機能も持つGホーク Type-B。ムムの母親らしき女性を発見した時と同じく、生体反応のサーチ機能を使い怪獣を調べていたようだ。その結果、真矢の言葉や女性のリアクションが正しい事が証明されてしまったらしい。セイバーが攻撃を止めているのも情報が共有されたからだろう。
(悠長に頭以外を狙っていたらジリ貧だ。かといって二対一の不利をアキレスに押し付けるのも・・・)
大抵の生物にとって急所である頭を狙えないのは致命的だ。更に言えば白い怪獣の運動能力が高い事は、街と山を越えて来た点で実証済み。動きに合わせられず、無理に射撃を行って左目を誤射などしたら取り返しがつかない。
「どうすれば・・・!」
「ムム!ムムゥッ!」
焦る契、その背から必死に手を伸ばす女性。悲痛な叫びを耳にしたアキレスがついに動く。
『デヤァッ!』
保持したままだったスラッガーを構え、先に異星人が変異した怪獣を仕留めようと飛び出すアキレス。だが彼の行動を咎めるように、白い怪獣がその長い尾をアキレスへと向ける。
───グウッ!
白い怪獣の尾から迸る電撃。遠距離への攻撃手段も持ち、尚且つその威力も中々のようだ。
『ハッ!───ジュアッ!?』
電撃をステップして回避し、着地から仕切り直しを図るアキレス。だが、白い怪獣が見せ付けるように取った行動にアキレスも弘原海も契も、怪獣以外のその場に居る者が驚愕する。
───グルルルッ……!
『なっ!?あの野郎ッ!』
「・・・クソッ!」
白い怪獣が、自らの目に爪を突きつけたのだ。鋭い爪が狙いをつけているのは左目。ムムが人質に取られている方の瞳だ。
『クッ・・・』
アキレスの挙動に合わせるように左目へ爪を近付けていく白い怪獣。動けば人質がどうなるか分かるだろう?と言わんばかりに目と爪を見せ付ける。やむを得ずアキレスもスラッガーを投げ捨て丸腰になり、ファイティングポーズも解いて隙だらけの様を晒す。
───ギシャアァァァァァッ!!!
───グアァオォウッ!!!
アキレスの戦意喪失を見た二体の怪獣が同時に動く。異星人は頭部から破壊光線を、白い怪獣は再び尻尾から電撃を放つ。
『グアァァァ!』
まともな防御も出来ず、二体の攻撃が直撃し吹き飛ぶアキレス。倒れた先でどうにか身体を起こそうとする彼の一部が危険を報せていた。プロテクターの上で輝くカラータイマーが、生命の危機と時間経過を告げる赤になり点滅していたのだ。
『グッ・・・ウゥッ・・・』
───グルァッ!
ムムを殺傷する構えを解いた白い怪獣がアキレスに飛び掛かる。鋭い爪を突き立て、首を絞めながら強引に立たせる怪獣。アキレスを解放したと思えば、プロテクターや防御されていない部分を引き裂く。爪による攻撃の勢いで背を向けて膝をつくアキレスに対し、白い怪獣は容赦無く追撃を行う。
『ウッ!?グアァァァァ!!!』
───ヴゥゥゥゥ……!
肩と前腕をそれぞれ保護するプロテクターの間、二の腕の部分に噛み付いたのだ。
『止めろぉ!』
『隊長!下手に攻撃すれば・・・!』
『くっ・・・チクショウッ!』
GホークもBURKセイバーも迂闊に攻撃が出来ず、アキレスの援護がままならない。現状、アキレスを除いた最高火力を持っているのがGホーク Type-Bだが、万全なコンディションの怪獣を一撃で粉砕できる程ではない。よしんば白い怪獣を倒せたとしてもムムが巻き添えになってしまうのなら意味が無い。
「ムム・・・」
「・・・!」
「なっ!?おいお前───」
ムムを傷付けず救出する方法は無いか、焦りだけが募る契の背中で女性が動いた。ホルスターに収められていたBURKガンを抜き、それを向けたのだ。
「何してる!」
「───」
自分へと。
下顎に銃口を押し付ける形で自分にBURKガンを向けた女性。その表情は涙を流しながら、ぎこちなく笑っているという悲痛なものだった。
「───、ムム───。──」
「馬鹿な真似はよせ!ムムもあんたも救う!必ず!」
「───」
相変わらず言葉は通じない。だが、女性が何を言いたいのか今は分かる。分かってしまう。
狩りの標的が自害すれば、それはプライドの高い狩人にとって屈辱になる。女性は自分で自分を殺し、先に逝ってムムを待っていると言ったのだろう。そしてムムを気にしなければアキレスや弘原海達が何の気兼ねなく動く事ができ、戦えると。
───またか
───また見送るだけなのか
───また何も出来ないのか俺は
女性の悲壮な覚悟と諦めを見た契の中にどす黒い感情が沸き上がり、記憶がフラッシュバックしてくる。落ちてくるペンダント、ズタズタに裂かれた衣服、そして怪獣の鳴き声と羽ばたく音。契にとって唯一の家族だった【姉】の最期。訳も分からぬ内に殺され、手を伸ばす事すら出来ずに逝ってしまった。
その最悪の末路を、また俺に見せるのか。今度は守ると誓った二人がまとめて死ぬという結末を。
───この人が、ムムが何をした?
個人的な復讐心と敵愾心とは別の感情が契の中に芽生える。それは黒くドロドロとした悪意ではなく、命を弄び騙す畜生以下に対する怒りの赤。
───事情なんて知らない
そう、契はこの二人の事を知らない。もしかしたら二人は何かを犯した罪人で、あの異星人は刑罰の執行者なのかもしれない。
───なら許されるのか?
幼いムムが言葉が通じない中で必死に、涙を流して助けを求めた姿を契は知っている。映像越しとはいえ再会できた二人が笑い合い、心から相手を心配していた事を契は知っている。目の前の女性が契の身を案じ、これ以上巨人に怪我をさせられないと自害を選ぶ女性だと契は知っている。たとえそれが諦観から来る間違った優しさだとしても。
「・・・ッ!」
引き金を引こうとしては引けない女性。その指は強ばり、BURKガンを握る手も震えている。今は死の恐怖が勝っているが、いつ取り返しのつかないトリガーを引いてしまうか分からない。
「あんたは生きていて良い」
「!」
「俺が・・・俺達が、終わらせる!」
女性の手からBURKガンを取り上げ、三度ホルスターに収める契。そのまま怪獣に向かって走り出す。その胸の内には燃え上がる炎が渦巻いていた。
───巨人よ、お前達は何なんだ
───人間を憐れむ神なのか?
───人間を嘲笑い、代償を求める悪魔なのか?
「今はッ!どうでも、いい!」
───どちらでもいい
───踏み躙られる人々の涙が見えるなら
───悪意に弄ばれる人々の声が聞こえるなら
───力を貸せ
「あの時のようにッ!!!」
絶えない怒りが火種となり、火種はやがて燃え盛る炎となる。そして炎は暗闇の帳を焼き払い、宇宙の彼方を見据える標になる。姿を見せた宇宙から光が現れ、炎の元へと舞い降り力となる。
叫べ、その名を───
「メディスッ!!!」
▲▽▲▽▲▽
くらくて、さむい。だれもいない。ここにいるのはムムだけ。ムムはこのまましぬのかな。さいごにママにあいたかった。ギュッてしてほしかった、あたまナデナデしてほしかった。
ケイとマヤにもさよならいえない。やさしくしてくれたのに、たすけてくれたのに、ありがとうをいえてない。
いやだよ・・・こわいよ。
たすけて・・・だれか───
───シュアッ!!!
えっ?
▽▲▽▲▽▲
『ヌウッ!デヤァッ!!』
突如現れ、荒地と森林地帯を照らした光。それは瞬く間に巨大化し、人の形をなした。巨人の纏う光が霧散するより早く、怪獣達が気付くよりも速く繰り出された強烈な一撃は、白い怪獣の左目を精確に貫いていた。
『フウッ・・・!』
「───、ムム!」
怪獣の目を貫き、何かを引き抜いた巨人はそれを地上の女性の近くに降ろす。一瞬見えた生々しい瞳に嫌悪感を露にする女性だが、次の瞬間には怪獣の瞳が光の粒子へと解け、女性が探し求めていた少女が現れた。
「・・・ママ?」
「ムムっ!」
状況が飲み込めないムムに駆け寄り抱きしめる女性。大切な家族の温もりを感じ、次第に涙が溢れてくるムム。悪質な狩人と狡猾な獣に引き裂かれた家族が、ようやく再会できた瞬間だった。
『・・・』
その様子を見届けた巨人から光が消え、その全貌が明らかになってきた。
引き締まった深紅の肉体を幾つかの銀のラインが彩り、左肩には十字のような文様が存在している。後頭部から一本角が伸び、胸には本来青色の光が灯るカラータイマー。
ムム達に向けるどこか優しげな視線から一転、空気を張り詰めさせる鋭利な視線となった瞳を怪獣共へと向け、片膝をついた体勢から立ち上がる。
(覚悟は出来ているんだろうな・・・!)
怒号の炎をクールな仮面で隠した地球人、鶴千 契。
またの名を───
【ウルトラマンメディス】
◆◇◆
───グアゥッ!?ギャァァァッ!?
目を引き抜かれるという中々にえげつない攻撃をされたのにも関わらず、衝撃でアキレスから離れただけだった白い怪獣。まるで感覚が無いようにポカンとしていたが、急に左目を掻きむしるように苦しみだす。
(何だ・・・?何がどうなって───いっだぁ!?)
急展開に理解が追い付かないアキレスこと嵐真。噛み付かれた左腕を押さえ、異形の怪獣の方を警戒していたがその左腕を叩かれメディスの存在に気付く。
(いきなり何すんだよ!)
(それで動くだろう。あまり時間は掛けられん、さっさと片付けるぞ)
大怪我をしている部位を悪化させる一撃に文句を言う嵐真だが、それを行ったメディス───契は平然としている。更に契の言う通り、僅かに動かすだけでも激痛が走っていた左腕が楽になっている。全快ではないものの、戦闘に使う分には問題無い程度に回復しているのだ。
(後で説明してもらうからな!)
(良いだろう。行くぞ!)
『ジュワッ!』
『ハッ!』
二人の巨人がほぼ同時にファイティングポーズを取り、怪獣に向かっていく。アキレスは白い怪獣へ、メディスは異形の怪獣へと。
───グルゥ……!ガアッ!
───シャアァァァッ!
『ディヤァッ!』
時間は掛けられない、その言葉通りメディスのカラータイマーは既に赤く点滅している。白い怪獣の目を引き抜く際にエネルギーを大量に消費したのだ。それでも疲労を感じさせない動きで怪獣に殴り掛かっていけるのは、契の闘志と憤怒が尽きないからだろう。
───グジュウ!?
(そう回避したいだろうな。だが、読めている!)
異形の怪獣の急所はやはり頭だろう。岩石のように硬いボディにいくら打ち込んでも撃破には遠い。かといって右へ左へと不規則に動く頭部は狙いづらく、先程アキレスがスラッガーによる斬撃を外したのがその証拠だ。だが契は訓練を積んだBURKの隊員。絶対的に優位な立場でしか獲物を狩った事の無い狩人の動きを誘導するなど容易い。狩人で怪獣ではあっても戦士ではないのだ。
突起部から放たれた破壊光線を避け、返しの光弾を放って頭に回避を強要させる。頭が動いた先に飛び蹴りを「置いて」おけば、後は向こうから当たりに来てくれる。
(む、合わせるか)
◇◆◇
(おぉりゃあっ!)
『ダアッ!』
───グギャアァオゥッ!
一方、連続して放たれる白い怪獣の電撃を掻い潜り本体に組み付いたアキレス。膝蹴りを数発入れた所で、先程のように噛み付いてくる怪獣を何とか躱す。
(今、コイツは左の視野が無い・・・なら!)
後ろに下がりつつ、ジリジリと位置を調整する。アキレスが狙っているのは、ちょうど白い怪獣の背後に落ちている得物。敵との距離が離れ、これ幸いと姿勢を低くし尻尾からの電撃を発射しようとする白い怪獣。アキレスが、嵐真が狙っていたのはこの瞬間。
(今だ!)
『デュアッ!』
───ギュルァァァッ!?!!?
左目を失い、視覚が狭まった怪獣の斜め後ろから飛んできたのはアキレスラッガー。ムムの為に武装解除して手放した物をウルトラ念力で呼び戻したのだ。ついでにお返しと尻尾を切断しながら。
『ヤァァッ!』
またも身体の部位を失ってのたうち回る白い怪獣。その隙を逃さず背後へ回り込み、短くなった尻尾を力強く掴む。そのまま全力で怪獣を振り回し始めた。
『オオッ!デヤァッ!』
五回ほどスイングした所で思い切り放り投げる。派手に転がり、土煙を巻き上げて止まる白い怪獣の上に異形の怪獣が飛んできて重なった。
『フッ』
どうやらメディスが投げ飛ばしたらしい。もみくちゃになって起き上がれない二体に対し、二人の巨人は頷きタイミングを合わせる。
(イーリアァッ!ショットォッ!)
『ジュワッ!』
(シフリウム光線!)
『シュアッ!』
アキレスとメディスの必殺光線がそれぞれの腕から放たれ、立ち上がろうともがいていた二体の怪獣に直撃する。光線が消え、一拍おいて大爆発を起こす怪獣。悪質なハンターと狡猾な獣のゲームは、ここで幕引きとなったのだった。
◆◇◆
此処は・・・?何だ?俺はいったい・・・
ムムは?あの人は?アキレスはどうなった。あの異星人と怪獣は!
───…………
っ、誰だ!
───ツルセ、ケイ……
お前は・・・メディス?
───記憶……戻ってしまった……
ホピスでの事か。
一応、感謝はしておく。ホピスでは隊長達を、今回はムム達を助ける事が出来た。
───危機は去っていない
何?
───新たな闇は……そう遠くない未来に現れる
新たな、闇・・・?
───ツルセケイ。裁定の時が、いずれ来る
なっ、おい待て!新たな闇とは何だ!裁定の時とは!
───それまでは共に在ろう
◇◆◇
「ケイ!───?ケイッ!」
「ん・・・ムム、か?」
「───」
いつの間にか岩に背を預けて気を失っていたらしい契。意識を取り戻すのとほぼ同時に、不安げな少女の顔が目に映る。目を覚ました契を確かめると安堵して胸を撫で下ろす少女。メディスの力を借りて助け出したムムだ。
「今回は届いた、か」
「?」
「ムム!」
駆け寄って来るのはムムの母親らしき女性。そういえば未だに名前も聞いていないな、等とぼんやり考える契。
「ママ、ケイ───。──」
「───、──!」
やはり名前以外は分からんな、と苦笑する契の手を取り慈しむように自分の手で包む女性。驚く契だが、言葉の代わりに精一杯の感謝を伝えようとしている姿を見て悪い気はしない。そこに自分も居るよ、と手を重ねてくるムム。この二人の笑顔を守れたなら命懸けで神頼みした甲斐があったというものだ。或いは全力で悪魔に魂を売ったか。
『おい鶴千!無事か!』
「隊長?・・・こちら鶴千、何とか生きてはいますよ」
『ったくヒヤヒヤさせやがって!迎えに行くから待ってろよ?良いな!』
「了解、Type-Aの所で待ってます」
今回は始末書何枚になるか、等と反省する気が全くない問題児。立ち上がり、合流ポイント兼Gホーク Type-Aの着陸地点に向かおうとする契。ムムを抱え、女性の手を引く姿はまるで父親のようだった。
「───?」
「悪いようにはしない、俺がさせない。君達の安全は俺個人が保障する」
「───、──。ディディ」
「ん?」
聞き覚えの無い言語の中に混じっていた【ディディ】という単語。それが意味するところは分からないが、女性の表情からして悪い意味ではないのだろう。
「少なくとも猿じゃない事を祈るよ」
「?」
昔のゲームになりつつあるキャラクターを思い出しながら歩く契。ちょうど弘原海と駒門のType-Bも着陸態勢に入った所のようだ。
「二人を案内して・・・の前に隊長と真矢の説教か」
メディスと一体化しての戦闘による疲れと、この後待っているだろう二体の強敵を思いげんなりする契だった。
▲▽▲▽▲▽
ムムとのファーストコンタクトから始まった一件。新たに姿を見せた謎のウルトラマンの調査や、異星人である二人の受け入れ等、慌ただしくなった日本支部。当事者である契と、二人のメンタルケアも兼ねる事になった真矢は特に忙しくしている。
「・・・」
ようやく確保できた休息の時。自室という事もあり、人目を憚らずベッドに身を投げ出して物思いに耽る契。
(メディスの言っていた新たな闇。それが地球に目を付けた場合アキレスとメディスで守り切れるのか?)
制服の内側に隠された【それ】に視線を送る契。メディスとの一体化の際に出現し、いつの間にか内ポケットに入り込んでいた機械。ホピスで一度だけ手にした【ベーターSフラッシャー】に酷似した点火装置。メディスをイメージしたような、深紅に銀の十字の意匠が施されている。
(あの時以来メディスの声は聞こえない・・・)
どう呼び掛けても返事をしないメディス。新たな闇や裁定の時とやらについて聞きたいが、向こうは話すつもりが無いらしい。荒島隊員と叶隊員の二人が地下に籠って何かを作っている話は聞いているが、それも間に合うかどうか。そして間に合ったとして、新たな闇とやらに対抗できるかどうか。
「いざとなれば、俺が・・・!」
気まぐれな巨人のルールなど知った事か。アキレス=嵐真が戦えなくなったとしても、その代わりを務める事に躊躇いは無い。自らBURK隊員の道を選んだ契とは違い嵐真はごく普通の大学生だった。ムムとその母親も日常を壊された被害者だ。彼ら彼女らが普通に暮らせる日々を守るのが自分の使命だ、と決意を新たにした所で呼び出しが掛かる。
『契、ちょっと良い?』
「真矢?」
◆◇◆
「どうした・・・ムム?」
「ケイ」
真矢に呼び出され、向かった先はムムとママが保護されている二人部屋。よくよく考えればムムが居るのは当然なのだが、真矢からの呼び出しという事でその可能性が抜け落ちていたようだ。
「用件は?」
「あたしじゃなくて、ほらムムちゃん」
「ケイ・・・ア、アー」
「ん?」
「ア、アリィ・・・ガト」
「!」
【ありがとう】と伝えたかったのだろう。
覚えたてどころか本来の常用言語ではない為に発音はかなり怪しいが、契にはしっかりと聞き取れた。
「俺からも礼を言わせてくれ。ムム、頑張ってくれて、生きていてくれて・・・ありがとう」
「ン!ケイ!アリィガトォ!」
古くからの知り合いである真矢すら見た事のない契の笑顔。
一人の戦士は囚われの姫を救い出し、これ以上無い褒美を授かったようだ。
【ウルトラマンメディス】
契と一体化したウルトラマン。銀十字軍に所属するコスモ医療の使い手。別時空の地球を守護していたウルトラマンドクテラの後輩であり、ドクテラや他の先達から技術を叩き込まれた戦う医師。
ムム救出の際に繰り出したのは、かつてウルトラマンエースが使用したエースバリヤーから着想を得た「ウルトラオペラチオン」。ウルトラ念力で指定した空間を一時的に次元ごと切除・封印し、中心部を安全に摘出するという技。エースバリヤーと同じく使用するとエネルギーを急激に消耗してしまう。その為、登場直後からカラータイマーが点滅状態だった。
アキレスの傷を癒したのは「ウルトラヒールコンバット」と呼ばれる荒療治。治癒の力を手足に込めて対象に打ち込むという本当に治療か?と首を傾げるような技。一応打撃の為、まぁまぁ痛いが傷の治りは早い。
怪獣にトドメを刺したのは破壊・殲滅用の「シフリウム光線」。右拳を正拳で突き出してから大きく回して左手に合流、十字に組んで発射というシーケンスを取る。
【ギャビッシュ】(原作:ウルトラマンダイナ)
別名 凶悪怪獣。
小型の時は愛くるしい姿をしているが、本来の姿に戻るにつれて醜悪かつ凶暴な面を見せる。知能が高く狡猾。目の中に生物を捕える能力を持ち、「人質を取るのはギャビッシュの常套手段」。
原作では青い体毛の個体が登場しているが、今作においてはオリジナルのアルビノ個体が登場。同種からも見捨てられた迫害個体らしく、弱っていた所を今作のムザン星人に拾われ、ターゲットを追い詰める猟犬として、そしてムザン星人単独でのハンティングが失敗した時の保険として調教されている。
ムムの隕石型ポッドに隠れており、自分と同じ被害者だと勘違いしたムムと行動を共にしていた。アキレスに追い詰められたムザン星人の危機に呼応して巨大化、ムムを人質に取った上で救援に駆け付けた。