「別件か・・・いや、こっちが黒幕か」
「儂も耄碌したものよ。ここまで気付かなんだとは」
「・・・っ」
一般人である果乃ですら感じ取れる重圧がゆっくりと、しかし確実に三人の居る教室に迫っていた。そして【それ】が扉に手を掛けた。果乃を後ろに庇い、懐のベーターSフラッシャー───ではなく拳銃のグリップを握る契。ビシュメルはどうにでもなるだろう。
扉が開かれる瞬間、冷や汗が噴き出そうな重圧が一瞬にして霧散した。その代わりに現れたのは───
「何をしているんですか?」
一人の女性だった。今にも暗闇に溶けてしまいそうな黒髪を腰まで伸ばし、目元も前髪で隠れている。相対的に目立つ白衣を着ていなければ、それこそ幽霊か何かと間違えてしまいそうだ。現に果乃は不気味な雰囲気と抑揚の無い喋り方に恐怖したのか、聞こえるかどうかというボリュームで悲鳴を上げている。
そして契は、そんな女性に見覚えがあった。
「真弓?」
「・・・鶴千さんですか。何故こんな所に?」
築与 真弓、それが女性の名前である。
契の一応の知り合いにして、BURK日本支部基地に医務官として勤めている築与 真矢の妹だ。
「俺は調査で来ている」
「あぁ、天下のBURK隊員ですものね。こんな大学に入り込むなんてお手の物ですか」
「協力してほしいんだが?」
「一市民として協力しますよ。聴取なり尋問なりお好きにどうぞ」
「真弓」
(なんじゃ、随分と仲が悪いようじゃのう?)
「み、みたいだね」
契に対して刺のある態度を取り続ける真弓。そんな二人の険悪な様子を果乃とビシュメルが眺めていた。ビシュメルはいつの間にか姿を消し、果乃にだけ聞こえる声で話しているが。
「はぁ・・・歩きながらでも良いですか。この棟、そろそろ閉められるので」
「ああ」
「えっ、あっ、ごめんなさい・・・」
慌てて荷物をまとめる果乃。元からビシュメルと話すだけが目的だったのか、それほど時間もかからず教室を出る事ができた。
「あの扉を開けて何も無かったのか?」
「扉?あぁ、帰れって声ですか。私だけじゃなくてこの棟を使う人なら大抵無視しますよ。現にそちらの方も入れているようですし」
「そ、そうなん・・・ですね・・・」
「あんなのを気にしてるようでは考古学なんて出来ないので」
(あんなのじゃとぉ!?今この場で我が真髄を見せてやろうか!)
姿を消しながら一応付いてきているビシュメル。直接姿を見たからか、目を付けられたからか声が契にも聞こえるようになった。先程までのごく短時間の付き合いながらも、この自称悪魔で大魔獣、ポンコツなんじゃないか?と思い始める契。精神誘導とやらの呪いも、メディスが居るから踏み越えれたのではなく、割と簡単に破れるモノだったりするのだろうか。
「まぁいいです。それで?何を聞きたいんですか」
「ここ最近で起きた事。不審者や危険物、人非ざる存在が出現する兆候なんでもいい」
「そうですね、まず───」
「俺が現れた事以外で頼む」
「チッ・・・」
あなたが目の前に居る事ですかね、と皮肉から入ろうとした真弓だが、それなりに付き合いのある契に先回りされてしまった。隠す気がさらさら無い舌打ちを廊下に響かせ、本題に入る。
「最近、講義に顔を出さない方が居ますね。それも複数」
「何だと?」
(おい)
「病欠や怪我、家庭事情の可能性は?」
「少なくとも失踪前日に会った時は元気でしたよ。家庭の都合も無いんじゃないですかね、教師も把握してないみたいなので」
(おい人間)
「失踪と言い切れる根拠は」
「無断欠席だろうと?中には論文の提出を控えてた人も居るんですよ?そんな大事な時期に、誰にも行き先や目的を告げずに消えると?」
(おい!無視するでない!)
「大学側は届け出たのか?」
「不審がってはいますけど、大学生なんてそんなモノだろうと本気にしてませんよ。論文を待ってる先生は焦ってますけど」
(人間!果乃が居らん!)
「っ!」
ビシュメルの切羽詰まった声で気付く契。並んで歩く契と真弓の後ろを付いてきているはずの果乃が居ない。何処かの教室に入ったのか?だが、閉めるはずの棟で、契にもビシュメルにも伝えず消える意味が分からない。急にイタズラを仕掛けるような性格とも思えない。
(誰にも伝えず・・・?)
たった今、真弓から聞いた話とほぼ同じ。周囲を警戒する契が別の何かに気付く。
「いつまで歩いて───」
「やっと気付きましたか。訓練されたBURK隊員が聞いて呆れますね」
景色が変わらなさすぎる。
ビシュメルの教室に辿り着くまでに最低でも一階層分は階段を上り、曲がり角も通った。にも関わらず真弓と歩きだしてからは延々と廊下が続いている。出口の無い一本道とでも言うのか、終わりが見えない廊下は先の見えない暗闇へと続いている。
「どういう、事だ・・・」
(やはりおかしい!)
「あぁ、そちらも姿を見せて大丈夫ですよ。隠れていても分かりますので」
(なにっ!?)
ついにはビシュメルにまで声を掛ける真弓。この異常な状況の黒幕は真弓でほぼ確定のようだ。
「真弓───」
「では鶴千さん。今度はこちらから質問しましょう」
「お前は何者だ?何故こんな事───っ!?」
(人間!)
弾かれるように吹き飛び、背後の壁に打ち付けられる契。痛みを堪えながら真弓を睨む。と、その真弓の背後に【何か】が見えた。鋭い鉤爪が生えた凶悪な腕が【窓の中に】消えていく。
「質問しているのは此方ですよ」
「くっ・・・」
「では改めて。最も人を縛り付けるのは何だと思いますか?」
「人を、縛るもの・・・?」
「BURKの隊員なら直ぐに思い付く、そしてあなたには思い付かないものですよ」
「恐怖です」
曇天の隙間から僅かに覗く月が真弓を照らす。不穏な空気を纏いつつある真弓に呼応するかの如く、空に浮かぶ月も不気味な光を発し始めたように見える。
「暴力や権力も確かに人を縛り付けます。ですが殴られて、脅されて、それで相手の言うことを聞いてしまうのは何故でしょう?簡単です。相手に恐怖したから」
物理的に傷付けられれば、その暴力を振るった相手に恐怖する。自分の立場を脅かされれば、その権力を行使した相手に恐怖する。簡単でしょう?と、まるで教師が生徒に指導するように、大人が子供を諭すように契へ語りかける真弓。
「人は恐怖に縛られながら生きてきた。それは現代も同じです。暴力は法に縛られ、権力はより先鋭化しましたが民衆には異なる形の恐怖が根付いた。失敗したらどうしよう、嫌われたらどうしよう、と」
発達した社会でのチャレンジ、SNSを初めとする人間関係の破綻。それらへの不安もまた、人を縛る恐怖であると真弓は語る。
「そんな恐れの雁字搦めでは人類は衰退してしまう。何より異種から民衆を守るべきBURKが、兵士が恐怖など抱いていたら守れる物も守れない」
「何が・・・言いたい!」
「消してあげましょう、と言ったら?」
暗い髪の奥で不気味に笑う真弓。常人のそれではない狂気と共に、ビシュメルの教室で霧散したはずの重圧が再び契を襲う。
「そんな事が!」
「出来るんですよ。かの守り神様なら」
「守り神?」
「ふんっ!偉そうに喚いて結局最後は神頼みか!胡乱な神を崇拝するしかないとは、やはり人間は愚かじゃのう!」
───!
姿を見せたビシュメルが不遜な態度で真弓に食って掛かる。それを咎めるかのように、ビシュメルへ向けて凶悪な腕が伸びてきた。
「ぬおぉっ!?」
「減らない口ですね、失敗作のくせに。それとも力で勝てないから舌戦で勝とうと?」
「ビシュメル!」
爪に切り裂かれ、衝撃で吹き飛ばされるビシュメル。裂けた黒いボロ布の下は柔肌ではなく、生々しい臓物でもない。真に実体化している訳ではないらしく、今の攻撃で【存在そのもの】がダメージを受け、損傷部位がそのまま消失したのだろうか。
「真弓!」
「私に銃を向けるんですか?BURKの隊員が、一市民に対して」
ハンドガンを抜き、真弓の胸に照準を合わせる契。拳銃に怯えるような仕草を見せた真弓だが、全く構えをブレさせない契を見て、心底つまらなそうに溜め息を吐く。どうやら怯える演技だったようだ。
「あなたなら最高の戦士になれるのに。生まれながらに恐怖とは無縁のあなたなら、ツクヨの兵士を束ねる長に相応しい。そう思っていたんですけどね」
「築与・・・?私兵部隊でも作る気か」
「違いますよ。もっと大きい、ツクヨの国の剣にして盾の・・・あぁ、ツクヨについては知らないんですか」
遥か昔、日本に実在したとされる戦で無敗を誇った強大な国【ツクヨ】。戦争は連戦連勝、政治もこれといった問題の無い理想の国とされていたが、ある日を境に歴史から姿を消した謎の多い存在とされている。
「ツクヨの兵士は守り神様に恐怖を喰らってもらって戦に勝っていたんです。なのにその恩を忘れ、守り神様を暗く冷たい水底に封じ、自分達の存在すら葬った。恐怖こそ人を停滞させる禍なのに、それを捨てる事は人である事を捨てる事などと宣って!」
次第に熱を帯び、激しくなっていく真弓の口調。その勢いが衰えないまま言葉を紡いでいく。
「あまつさえ!私の家は関係を断とうとした!国の名前を授かった由緒正しき巫女の家系だというのに!」
築与とツクヨ。国と同じ名を賜り、守り神に祈りを捧げ、恐怖を捨てた兵士達を戦場に送り出す。守り神の声を聞く奇跡の指導者にして、狂気の扇動者。ここまで聞いた契は、おぼろ気ながら真弓の目的に辿り着く。
「復讐と再現・・・ツクヨの国を甦らせ、守り神の恩恵を忘れた者達を消そうと言うのか!」
「その通り、と言いたい所ですが少し違いますね」
熱狂から我に返り、今度は底冷えする声音で契の言葉を訂正する真弓。何が違うと契も食って掛かる。
「消すのではなく役に立ってもらうんですよ。恐怖を消し去り、最前線でツクヨの為に戦ってもらう。最高の栄誉と贖罪を兼ねた素晴らしい案だと思いませんか?」
狂っている。真弓の瞳を正面から覗き込んだ契はそう断じた。いったい何が彼女をここまで狂わせたのか、何故このような思想に到ってしまったのか、それは契には分からない。今、分かっているのは絶対に真弓を、そしてその守り神とやらを止めなくてはならないという事。
「させると、思うか。そんな事を!」
「止めさせると思いますか?何の考えも無しに、あなたとの会話に興じると?」
既に仕込みは終わっているとでも言いたいのか、ついでにあなたを引き込めれば良かったんですけど、とも付け加えて真弓は背にしていた窓に寄り掛かる。そして優しげに、妖しげに、契へと微笑む。
「ねぇ鶴千さん。今日は───」
───ゥゥゥッ……!
「とても月が綺麗だと思いませんか?」
異形がその姿を月光のもとに晒した。
◇◆◇
数日前に確認された謎のエネルギー。それが再び発生すると同時に大学敷地内に何の前触れ無く、突如として現れた怪獣。これをエネルギー発生の原因と仮定し、対処するためBURK日本支部基地から戦闘機が発進した。未だ現役運用されているBURKセイバーだ。
「クソッ、鶴千どころか嵐真も出ねぇ」
『ホピスでもムム親子の保護でも生きていた鶴千です。そう簡単にやられる隊員ではないでしょう。それに彼も』
先頭を飛ぶセイバーに搭乗しているのは隊長の弘原海。手掛かりを掴み、夜まで張り込みを続けると連絡してきたのを最後に、部下の鶴千と交信出来なくなっている。それに加え、現地で偶然出会ったらしい暁 嵐真も同じく連絡が取れない。かたやウルトラアキレス、かたや外星探査にも選抜されたエリート隊員。駒門の言うように、そう簡単に命を落とす二人とは思えない。
「だな。とにかく怪獣の侵攻は阻止しなけりゃならん。油断すんじゃねえぞお前ら!」
『『了解!』』
「まったく・・・前乗りで来たらスクランブルだなんて。さっさと片付けて帰りますよ」
『『了解』』
現れた怪獣への対応として出撃したBURKセイバーは六機。弘原海が隊長、駒門を副長とした日本支部部隊ともう一つ。部下と共に来日していた15歳の才媛、リーゼロッテ率いるドイツ支部部隊である。
「なんだありゃ・・・気味悪い奴だな」
「ふ、ふんっ。何です?日本の隊員はあんなのでビビっちゃうんですかぁ?」
弘原海が気味悪いと表し、リーゼロッテ自身も若干ビビりながら茶化した怪獣の姿が、月明かりに照らされ明確に見えてきた。
鋭く吊り上がった大きな目。鋭い爪の生えた腕にガッシリとした足。凶悪な牙が生え揃う口が目を引き、闇夜に溶けてしまいそうな暗い体色。そして何よりその【土偶】のような体が特徴と言える。
「んだとぉ!ビビってねぇ!」
「どうだか───ひゃあっ!?」
どこまでも挑発的なリーゼロッテに弘原海が言い返し、子供じみた言い合いになりかけた瞬間。茶番はもういいかと怪獣が攻撃を行う。口から石のような物を大量に吐き出してきたのだ。
『隊長!』
「大丈夫だ!・・・野郎、問答無用かよ。全機、攻撃開始!」
「もうっ!日本のゴリラと猿に後れを取らないの!攻撃開始!」
機首部レーザー機銃での攻撃を開始したセイバー隊。どれだけいがみ合っていても、互いが干渉し合う危険なコースに入らず、矢継ぎ早に怪獣の注意を引き合うような動きを見せる。さすが叩き上げの隊長と天性の才を持つエリートといった所か。
「へっ、石を吐き出すしか出来ねぇみたいだな!」
「ふんっ!ざぁこざぁこ!見てくれだけの石吐き怪獣!そんなんじゃ私達を墜とすなんて一生無理ですよぉ?」
このまま押し切れる、と二人が部下達と共に更なる攻勢に出ようとした時。【違和感】が彼ら彼女らに牙を剥いた。
「っ!?」
「へっ・・・あっ、あぁ・・・!」
トリガーに掛けた指が動かない。それどころか機体を操作していた腕も足も、体を固められたかのように動かなくなってしまった。
『隊長!?隊長!コントロールを!早くッ!』
「っ!ぐっ、おぉぉぉぉ!!!」
駒門の声で正気を取り戻した弘原海。間一髪、怪獣への衝突コースから外れ、機体を急上昇させて離脱する。リーゼロッテの方もギリギリの所で機体制御に成功したらしい。
『大丈夫ですか!?』
「あ、あぁ。すまん、助かった」
(何だ・・・体が動かなくなった・・・)
どうやら一筋縄ではいかないようだ。
◆◇◆
「チッ・・・弾丸も通さないか!」
「空間、下手をすれば次元ごと隔離されておるのう。そのような玩具では破れまいて」
校舎の中に取り残された契とビシュメル。真弓は中庭に出ており、それを追い掛けようとして今に至る。廊下は進んでも戻っても景色が変わらず、窓や教室のドアは開かず契のハンドガンによる銃撃でも傷一つ付かない。
「だとしても諦める訳にはいかない!」
「頑張るのう。じゃが必死になった所で無理なものは無理じゃぞ~」
「契約主が危険に晒されているのに随分と余裕だな」
果乃が姿を消した際、焦っていたように見えたが、今はそんな素振りを一切見せない。脱出手段を模索する契をあくび混じりに眺めている。
「死んだら死んだ、じゃしなぁ。また別の人間を探せば良いだけじゃ」
「・・・何だと?」
欠片も果乃を案じる様子の無いビシュメルの言動に契が手を止める。怒りを滲ませながら振り向いた契の視線も意に介さずビシュメルの言葉が続く。
「そもそも悪意の無い人間なぞ腹の足しにならぬわ。あやつから取れるのは、眠いだの授業を怠けようかだの、儂の欲する感情とは程遠い物じゃ」
「・・・」
「愚かな人間の中でも飛び抜けた外れを引いてしもうたなぁ。まったく、本当に耄碌してしまったものじゃ」
「もう一度言ってみろ・・・!」
ビシュメルの胸倉を掴み上げる契。その表情は怒り一色に染まり、ハンドガンを握る手はほんの僅かに震えている。
「ほぅ?お主、存外感情的じゃのう?」
「ッ!」
「まぁこれだけあれば足りるかの」
この期に及んでまだ、自らの腹を満たす事しか考えていないようなビシュメルに怒りをぶつける契。仮にも契約した果乃の事も蔑ろにした発言に対し、更に凄みを増す契だがビシュメルは余裕を崩さない。
と、次の瞬間、するりと契の手をすり抜けて廊下に着地するビシュメル。驚く契を素通りし、銃弾ですら傷付かなかった窓に手を翳す。
「ふっ!ぬぅぅぅぅあぁぁぁ・・・!」
「おい!お前、何して───」
突如として奇行に走ったビシュメルを止めようとするが、目の前で発生した現象に動きを止める。ビシュメルが手を翳した場所が、ぐにゃりと捩れ始めたのだ。捩れの中心には光の膜のような物が見え、そこから外の音が僅かに漏れてきている。
「これは・・・」
「っ、ふぅっ!ハァッ!ハァッ!ゲホッ!おえっ・・・ぐぬぅ・・・これが、限界か・・・本当に・・・耄碌したわ・・・!おのれぇ・・・!」
精も根も尽き果てたように崩れ落ちるビシュメル。疲労の仕方がやたらと人間くさいのは一旦置いて。どうやら真弓と守り神が作り出した閉鎖空間に歪みが生じたようだ。完全に開いた訳ではないが、外の状況が分かりやすくなっただけでも大きな進展だ。そして、今まではポンコツとしか思えなかったビシュメルが、急に別系統の呪いに対抗できた理由は───
「お前、わざと俺を煽ったな?」
「どうだかの・・・ゲホッ!ガハッ!」
契の怒りを煽り、それを吸収して力を行使したのだろう。守り神の力が想定より強力だったのか、ビシュメルが想定より弱体化していたのか、空間を破るまでは無理だったようだが。
「もう少しあれば・・・あー、アレじゃ。お主、女を抱いた事なぞ無かろう?どーてーじゃろう!残念じゃったなぁ、儂の力が戻れば誰もが振り向かずにはおられぬ傾国の美姫なのだがなぁ!」
「急に雑になったな。そういう所が間抜けなんだ」
「もう一度言ってみろ人間ンンンッ!!!」
意趣返しとばかりに先程のやり取りを返す契。ビシュメルには分からない所で微笑を浮かべていた。
歪みの前に立ち、懐に手を伸ばす。抜き放つのは点火装置。闇を切り裂き光をもたらす巨人の力。閉じ込められてから真っ先に思い付いた手段だが、今の今まで使える様子ではなかった。ビシュメルが歪みを抉じ開けた瞬間、脈動するように僅かな光が灯ったそれを構える契。
「お主、何をしておる───まて、待て待て!それから危うい気配がするぞ!?早まるでないぞ!?」
「遅いお目覚めだな。行くぞ」
「無視するでないわ!」
左腰に構えたベーターSフラッシャーで斜め一文字を切り裂くように掲げる。溢れだした光が契を包み、閉じられた檻を壊しながら【ぐんぐん】と巨大な人の形を成していく。
「大馬鹿者がぁぁぁぁぁッ!!!」
若干一名、ならぬ一体の悪魔を巻き込みながら。
◇◆◇
『常に視線を逸らせ!こいつは!』
戦闘を続けるセイバー隊。遠くの敵には大量の石を高速で吐き出し、近付く者はその鋭い爪で引き裂く。怪獣の武器はその二つだけのようだが、弘原海は気付いていた。この怪獣の武器はもう一つあると。
『見詰められると体が強張る!相手をビビらせる力があるんだ!』
「恐怖を煽る、増幅するという事ですか!」
『面倒な真似してくれますねぇ!』
真弓の話を聞いていない弘原海達は、この異形が「恐怖を喰らう守り神」だという事を知らない。だが、自身に起きた異変と積み上げてきた経験が弘原海を答えに導いた。それが共有されてからのセイバー隊は、注意を引いては別の機体が引き継ぐという撹乱戦法を徹底している。
だが、圧倒的なタフネスを見せる怪獣に対し、徐々にジリ貧に追い込まれつつもあった。何度レーザーやミサイルを撃ち込まれても倒れる気配を見せない姿に、増幅されてなるものか、と押し殺していた恐怖が這い出ようとしていた。
『しまっ、駒門!』
「っ!」
リーゼロッテの部下が乗るセイバーを爪で狙った怪獣。間一髪の所で回避に成功するも、怪獣は大振りの勢いが衰えず回転する。体勢を整えた怪獣の視線は、偶然か狙ったのか、駒門の搭乗するセイバーを捉えていた。
その瞬間、駒門を襲う悪寒。【死の恐怖】が彼女の心に深く刻まれてしまう。前方には【口を開けている怪獣】が見え、それによって遠くない過去が呼び起こされる。
(食われて・・・死ぬ?これは、違う!シルバーブルーメはもう!)
「あっ・・・あぁ、やめ・・・いや・・・!」
『駒門ぉぉぉ!!!』
駒門のセイバーを待ち構える怪獣。あわや激突かと思われたその瞬間───
『シュアッ!』
───グオォォォォッ!?
光が現れた。
◆◇◆
「アレは!?」
中庭で驚愕に目を見開く真弓。邪魔者を遠ざけ、守り神の勝利を確信した矢先にこれだ、無理もない。
「何処から・・・!」
「ぐっ・・・ぬぅ・・・わ、儂を殺める気か痴れ者めぇ!」
真弓から少し離れた場所、邪魔者一人と一体を隔離したはずの建物から、黒いボロ布が転がり出てきた。正に這う這うの体といった様子のビシュメルだ。
「出来損ない?なら、あのウルトラマンは」
隔離棟から出てきたビシュメル。そして同じ方向から飛び出してきた、ニュース等では見慣れないウルトラマン。そこから推察されるのは───
「あなただと言うのですか・・・?っ!鶴千契!何処までもあなたは!私の邪魔をしてッ!」
憎悪を滾らせ、ウルトラマンの銀十字を睨む真弓。飛び蹴りをもろに受けて倒れ込んだ守り神に向かって声の限り叫ぶ。
「我らが守り神様!それは人々を惑わす偽りの救世主!真の先導者にして守護者たる貴方様の手で裁きを!」
彼方の星から飛来した巨人と、眠りから目覚めた旧き妖獣の戦い。その幕が切って落とされた。
◇◆◇
「銀十字のウルトラマン!」
「き、来てくれた、のか・・・」
「ホピスに居たウルトラマン!?地球に何の御用でいらっしゃったの!?」
(駒門さんも無事か。あの騒がしいセイバー乗りはドイツの・・・)
───グラァァァァッ!!!
唐突な飛び蹴りに怒り心頭といった守り神。現代においては、邪魔な異教の神とも言えるメディスを排除しようとその牙を剥く。守り神に向き直ってファイティングポーズを取るメディスだが、ここで契が違和感に気付く。
(アキレスが居ない?)
外で待っていたはずの嵐真が変身していない。怪獣が現れ、セイバーまで出撃した状況なら既に戦闘開始していそうなものだが。
(まさか、果乃と同じように・・・!)
変身しないのではなく出来ない状況。それなら納得もいく。現に契もビシュメルの力が無ければ閉じ込められていたままだったかもしれないのだ。
(なら尚更、迅速に仕留める!)
『フッ!』
───グゥオァァァァ!!
互いが互いに向かって駆け出す。先手を取ったのは守り神。メディスの胸辺りを狙って爪を振り抜くが、対するメディスは体勢を低くしてそれを躱す。ダッシュの勢いを殺す事なくチャージを敢行し、守り神に組み付いた。
『ハッ!デヤァッ!』
後ろに押し戻される守り神だが、どうにかメディスを振りほどく。だが契は攻め手を緩めずボディブローからストレートパンチを繰り出した。
───グルゥ……!
堪らずよろける守り神。更に追い打ちのローキックで膝をつき、的確に腹を抉るケンカキックが突き刺さる。普通の生命体なら戦闘不能になってもおかしくない連続攻撃だ。
だが、この守り神は「普通の」存在ではない。蹴りで吹き飛ばされた先には大学校舎。そのままぶつかり、派手に建物を粉砕すると思われた守り神だが───
『ヘアッ!?』
(消えた!?何処に・・・!)
正に激突する瞬間、姿を消したのだ。まるで建物に吸い込まれるように。メディスの感覚を持ってしても捉えられない守り神を警戒する契。
守り神が消えた棟のガラスと、空に昇った月が妖しく輝いた瞬間───
───ゴヴォア!
『ッ!グアァァッ!?』
メディスの背後に現れ、石を吐き出す守り神。さすがに防御が間に合わず、もろに石の連射を食らって倒れるメディス。
(くっ、コイツ!)
起き上がるのと同時に光弾を放とうとする契だが、狙いを付けようとした時には守り神の姿は無かった。光弾として使うつもりだったエネルギーを散らし、先程よりも頻繁に背後を警戒しながら守り神を探す契。セイバー隊も守り神を見失い、大学の上を旋回している。
と、次の瞬間。
『ウッ!?』
(なっ!?)
メディスの左足に違和感。視線を足元に向けた契が見たのは、守り神の異形の手がメディスの足を掴んでいる光景だった。本棟の入り口に設置されている噴水とその受け皿である水場。そこから守り神の手が伸び、メディスを拘束していたのだった。
(クソッ!)
手を踏みつけ、光弾を再び放とうとするが、守り神の方が一手早かった。手に続いて這い出てきた頭部、その口から石弾が連射され、至近距離での直撃で甚大なダメージを受けてしまう。
(くっ・・・コイツ、水を・・・いや違う。最初はガラスで次は水・・・鏡面か!)
傷付きながらも思考は止めない契。やや背の高い棟から現れた一回目と、水の溜まっている噴水から出てきた二回目。それらから【鏡面から鏡面へと移動できる】という守り神の能力を見抜いた。
(推測が立った所でどうする!無闇に破壊する訳にもいかん。それに砕けたガラスからも現れかねん!)
メディスの、ウルトラマンとしての力を振るえば付近一帯の鏡面物を破壊し尽くす事は可能だろう。だが、住人が眠っている民家を攻撃する訳にいかず、鏡面物そのものを消滅させなければ出てくる可能性がある。
(次に出てきた瞬間、全力で叩くしかない。結局強引なやり方しか出来ないらしいな、俺は)
結論は脳筋式。自分へ皮肉を送り、メディスの力も借りて限界を超える集中を見せる。
───…………!
(っ!)
『シュウアッ!』
不意を突こうとしたのか、最初に姿を消したビルから現れた守り神。吐き出された石弾と入れ違う形で、守り神へとメディスの放ったエネルギー波が飛ぶ。
(つか・・・まえ、たぁッ!)
───グギュルルルッ!?
守り神の石弾が肩を掠め、相討ちのような形で命中させたリング状のエネルギー波。最初のウルトラマンが使用したキャッチ・リングのような拘束光輪を、素早いモーションで撃ち出す我流技アタックキャッチャーだ。
───グオォォォッ!
『デェヤァッ!』
着弾までの速度を優先した技の為、拘束時間はそう長くない。現に守り神を縛る光の輪は今にも壊れそうになっている。だが、逃げる隙を与えなければそれで充分と契は一気に距離を詰めている。鋭いチョップを二度、三度と叩き込み、鏡面から引き離した所で切り札を一つ切る。
(少し借りるぞ!)
『ヌゥッ!シュアァァッ!!!』
思い描くのはホピスでの戦い。自身と同じBURK隊員の士道 剣と一体化していたウルトラマン、シュラの宇宙剣術。超高速の光刃斬撃六連【スペシウムブレード・ヘクス】、それの一太刀に持ち得る技量の全てを注ぎ模倣する。名付けて【シフリウムエッジアイン】。
───ギャアァァァァ!!!
人間で言う所の、肩から脇腹までを袈裟斬りにされた守り神。手応えを感じる契だが───
───グギャァァァァッ!!!
(何っ!?)
切り裂かれたお返しとばかりに、メディスの胸部へ爪を突き立てる守り神。そのまま投げ飛ばすように腕を振り抜き、メディスに裂傷を与えつつ距離を取る。
(チッ・・・!)
飛ばされた先で体勢を整えたメディス。一体化したメディスの身体の一部を忌々しげに睨み、直ぐさま守り神へと視線を戻す。度重なるダメージと能力・技の使用により、カラータイマーが赤く点滅しているのだ。
『隊長!ウルトラマンが!』
『ちょっ、ちょっと!?アレが点滅したらピンチの合図じゃありませんでした!?』
『あのハニワ野郎、タフすぎるだろうが!』
メディスの危機と守り神の圧倒的なタフネスに動揺するセイバー隊。そんな中でも守り神をメディスに接近させまいと、フォーメーションを組んで攻撃に移ったのはBURK隊員の面目躍如か。
───グヴッ……
『ハッ?』
(何だ?)
恐らく石弾を吐き出そうとしたのだろう守り神が、突如として動きを止める。セイバーのレーザー機銃やミサイルに怯んだ訳でもなく、メディスが新たに技を繰り出した訳でもない。
「ぬぅっ、おぉぉあっ!!!」
「こっのぉ・・・出来損ない風情がぁ!」
その原因は、少し離れてしまった大学敷地内にあった。
◆◇◆
メディスと守り神が激闘を繰り広げている時、大学の中庭でもう一つの戦いが始まっていた。
「隙ありぃぃぃぃぃっ!!!」
「なっ!?」
陶酔する守り神に視線を向けた矢先、脅威にならないと判断したビシュメルが飛び掛かってきた。真弓に組み付くやいなや、その華奢な肢体をまさぐるビシュメル。幼い子供に襲われる女子大生という、特定の人間の何かしらを刺激しかねない絵面になっているが、ビシュメルが真弓に対して急に欲情した訳ではない。
「人間には、食い物の恨みは恐ろしいという格言があるそうじゃのう!」
「どこを、さわっ・・・んんっ!」
「儂に力が流れてこんかったのは!貴様が独占しておったからじゃろう!寄越せ!」
「誰が・・・渡す、とっ!」
「ええい!何処じゃ!何処に隠しおった!」
いちゃついているか、いかがわしい何かにしか見えないが本人達は至って真面目にやっている。これでも。
「ぬ?これは・・・ふぐっ!?」
真弓の奥底、肉体的ではなく精神的な部分に【何か】があると気付いたビシュメル。深く探ろうと動きを止めた瞬間、脇腹に激痛が走る。
「はぁ・・・はぁ・・・手こずらせて・・・」
古めかしい装飾の施された短剣がビシュメルの体に突き刺さっていた。無論、真弓が刺したのだ。徐々に真弓からずり落ちていくビシュメル。そのまま力尽きて消えると思われたが───
「ぐっ、ぬぅっ!」
「っ、まだ!」
ちょうど真弓の下腹部辺りで息を吹き返し、再び真弓の服を掴む。
「みつ・・・け、たぁっ!いり、ぐ、ちぃ!」
忌々しい出来損ないにトドメを刺そうと短剣を振り上げる真弓。その首筋に狙いを定めた瞬間、ドクンッ、と自分の心臓が跳ねたのを感じ取った。急速に辺りが冷えていくような錯覚に襲われ、ガタガタと震えも止まらなくなる。
そして理解する。自分が門として使われていると。
あぁ・・・これは駄目だ、と。
「ぬぅっ!おぉぉあっ!!!」
「こっのぉ・・・出来損ない風情が!」
◇◆◇
───グウゥゥゥ……オォォォォ……!
(弱っている?)
先程よりも明らかにプレッシャーが弱くなった。苦しむように呻き声を上げ、胸を掻きむしりながら月に手を伸ばし始めたのだ。
(月・・・?雲に隠れたのか?)
ほんの少し前から、妖しげに輝いていた月は雲に隠れてしまっている。守り神はそんな事お構い無しに暴れ回っていたはずだが。
(何はともあれ、この好機は逃さん!)
『ハァァァァ・・・デュアッ!』
今度こそ仕留める、とエネルギーを右手に集中させ、回転するシフリウムエッジを作り出す。ウルトラ戦士の十八番である光線技の応用、八つ裂き光輪とも呼ばれるエネルギーカッター。ウルトラスラッシュだ。メディスの腕から放たれたそれは、契の狙いから寸分違わず守り神を切り裂いた。
───ギャアァァァァ!!!
悲鳴のような声を上げ、仰け反る守り神。倒れはしなかったものの、フラフラと弱々しい足取りで逃走を開始した辺り効いているようだ。逃げる先には一際大きなガラス張りのビル。また鏡面世界に逃げ込もうとしているらしい。
(逃がさん!)
『ハッ!シュアァァァッ!!!』
セイバー隊の攻撃すら無視して逃げる守り神の背に狙いを定め、右拳を突き出すメディス。それを腕ごと回し、再び前方に持ってきて左手と合流させスパークを起こす。放たれるのは光の奔流。治癒の力と対をなす破壊の光、シフリウム光線だ。
───アァァァァ……!
逃げる姿勢そのままに倒れ込む守り神。一拍置いて大爆発し、勝者がどちらか示すのだった。
▽▲▽▲▽▲
数日後、再び大学にやってきた契。事務的な処理はほぼ済み、守り神とメディスが踏み荒らしてしまった中庭や道路の補修も始まっている。事後処理と称してわざわざ再来訪した理由は───
「よぉ!契!」
「お前じゃないんだがな」
講義終わりなのか、何処か元気な嵐真が出てくる。挨拶に対して割と辛辣な返しをする契だが、嵐真の後ろを歩いてきた女性を見て、安堵したように息を吐く。
「あっ・・・えっ、と・・・お久しぶり?です」
「数日だが・・・まぁ、久しぶり」
月城 果乃、今回の事件に決して小さくない貢献をした女子大生。彼女がビシュメルを召喚していなければ、契も嵐真もかなり危険だっただろう。
「今回は不覚を取ったけどよ、次はバッチリ俺が活躍してやるからな!」
「期待せずに待ってるよ」
「んだとぉ!」
「あのっ、け、喧嘩は・・・ダメ、ですっ、よっ!」
アキレスである事は隠しつつも、事件の関係者から友人になったらしい果乃と嵐真。そこに契も含めて新たな交友の輪が出来たらしい。
その輪の中には、最大の貢献をした悪魔の姿は無かった。
「本気じゃねぇって」
「なら良いです・・・あっ、契さん」
「ん?」
「そ、その・・・真弓さん、は」
「あいつなら───」
◆◇◆
「どうぞー、っと。いらっしゃい」
「・・・」
BURK日本支部基地。その医務室にて。髪の長さだけが違う、瓜二つの女性二人が向き合っていた。
「契から聞いたわ」
「・・・」
「今日は他に仕事無いから、たっぷり話しましょう?ね?真弓」
「・・・何を、私の処分についてですか」
「違うわ。私達の今までと、これからについて」
もう何年も顔を合わせていない、避けてすらいた姉の顔。自分と同じ顔。見たくもなかった顔。それが真っ直ぐに自分を見ている。
やっと、見てくれた。
「っ!貴女の事がっ!嫌いだった!」
「うん」
「何でも上手くやって!私を置いて!」
「うん」
「契とつるんで!散々私を振り回して!自分と同じ顔をした人間が持て囃されて!私はどんどん惨めになっていった!」
「・・・うん」
「貴女とは違う道を選んで!その中で家の事を、ツクヨの事を知った!貴女に出来なかった巫女を私がやれば!新たなツクヨの伝説を打ち立てれば!私は貴女を超えられる!そう・・・そう、思って、いた・・・のに」
怒りと憎悪はやがて悲哀に。溜め込んでいた感情を吐き出し、目からは大粒の涙が溢れ出す。
「何で・・・私の邪魔をするの・・・」
「ごめんね」
真弓を優しく抱きしめる真矢。
「私もね?真弓に負けたくなかったの」
「え?」
「真弓、昔から本が大好きでしょ?勉強も私より出来たし、テストの点で勝てた事無かったのよ?だから私は運動で勝ってやろうって、はしゃいでたのよ。契も昔から体動かすの得意だったしね」
「そ、そんなこと・・・」
「それでね?自分も契も遊び回って怪我する事多かったから、それを手当てしてまた遊ぶんだ!ってくだらない理由で医者目指すようになったのよ。あとは、勉強でも真弓に負けたくない!ってね」
「・・・」
「根っこは同じ、負けず嫌いなのよ。私達」
「言って、くれなきゃ・・・分かんない、よ・・・」
「そうだね。でも、それもお互い様でしょ?」
「うっ・・・うぅっ・・・っぐ、ひっく・・・」
「ごめんね・・・真弓。気付いて、あげられなくて」
◇◆◇
「仲直り、できるといいですね」
「出来るさ。姉妹なら、家族なら、言葉を交わせば分かりあえる」
「だな!」
「おーい、嵐真ー!」
少しズレて講義が終わったらしい水人が校舎から出てくる。じゃあまたな!と手を軽く振り、二人と別れて水人に合流する嵐真。憑き物が落ちたように元気で騒々しい嵐に苦笑するしかない二人。
「とても暗黒空間に閉じ込められてたとは思えんな」
「ですねぇ。あっ、ごめんなさい契さん。わたしもこれで」
「あぁ、気を付けろよ」
着信かメッセージアプリか、携帯端末を取り出して慌てる果乃。ビシュメルの事は残念だったが、と続けようとして言えなかった契だが、果乃の携帯の画面がひび割れている事に気付く。と、その瞬間───
(勝手に殺すでないわ、馬鹿者め)
「なっ」
「契さん」
しーっ、と可愛らしく人差し指を唇に当てる果乃。そのまま大通りに駆けて行き、雑踏に紛れて見えなくなってしまった。
「・・・まったく」
またしても苦笑するしかない契。あの程度の悪霊なら放置でも問題無いな、と大学敷地内に向かって歩き出した矢先、何も無い所で躓いてしまう。
それは偶然か、はたまた悪魔の悪戯か。
何にせよ、この事件はこうして幕を閉じた。
【築与 真弓】
BURK日本支部に所属する医務官 築与 真矢の妹。
溌剌とした姉とは正反対に排他的で暗い性格。
「優秀な姉と同じ顔をした無能な自分」がコンプレックスであり、真矢が出来なかった・気付かなかった家のルーツであるツクヨの巫女になろうとした。
守り神が撃破され、契の計らいで日本支部基地に赴く事となり、そこで溜め込んでいた物を吐き出して真矢と自分自身に向き合う事ができた。
【モズイ】(原作:ウルトラマンダイナ)
妖獣。日本に実在したとされる「ツクヨの国」の守り神として崇められていた存在。
「恐れ」を食らう化物であり、ツクヨの兵士達は自らの恐れを込めた石をモズイの泉に落とし、戦に赴く事で圧倒的な戦果を挙げていた。だが、恐れとは人を人たらしめる感情であり、それを捨てる事は即ち人である事を止めるという事だと気付いたツクヨの兵士によって封じられ、現代に至るまで眠り続けていた。
ツクヨの巫女は今作オリジナル。
【リーゼロッテ】(出典:オリーブドラブ 様)
BURKドイツ支部のエース。15歳という若さでありながら、他の追随を許さないテクニックでパイロットのトップに登り詰めた天才肌。実家は名家らしい。
相手をメスガキ的な発言で煽るのが常だが、想定外の事態に弱く、それで慌てふためくまでがお約束。