「合同演習、ですか」
「あぁ、大学の件、レッドキングの件から立て続けだが」
BURK日本支部基地、ブリーフィングルームにて。鶴千 契をはじめとした実働部隊員が集められていた。隊長である弘原海は別件で外している為、代わりに副長相当の駒門が進行を務めている。
「自衛隊に合わせてって感じですかー?」
「そうだ。それぞれ即応できるよう、日程はずらすがな」
女性隊員の一人、太刀薙の質問に答える駒門。スクランブルを掛けられるとはいえ、活発化しつつある怪獣や異星人の襲撃に対応するには自衛隊かBURKのどちらかがフリーな状態である事が望ましい。
「他に質問は?・・・鶴千」
「ドイツ支部が難癖でもつけてきましたか?」
「お前は・・・聞きにくい事と言いづらい事もお構い無しか・・・」
挙手したのは空気を読めないどころか木っ端微塵にする男、鶴千 契。自衛隊に合わせたついで、というだけで防衛チームを動かすのに違和感の残る契。大学での事件でリーゼロッテ率いるドイツ支部のセイバー隊が加勢に来た事と、どこか違和感の残る演習を繋げ、日本支部に思うところのあるドイツが公的な仕事にかこつけて乗り込んで来たのでは?と推測する。
「はぁ・・・正解だ」
観念したように溜め息を吐く駒門。手元の端末を操作し、プロジェクターで映し出されている映像を切り替える。表示されたのはドラム缶のような寸胴体型に派手なカラーリングが特徴の人型に近いロボット。
「セブンガー?」
「そうだ」
「はいはーい、セブンガーとドイツ支部にどういう関係があるんですかー?」
ざわつくブリーフィングルーム。日本支部の新たな切り札として期待されているBURKセブンガーに対し、ドイツ支部が何を言ってきているのか。先ほどと同じく太刀薙が大多数を代表して質問する。
「先に挙げたレッドキング戦でその性能を遺憾無く発揮したのは、この場に居る全員が知っていると思う。ドイツ支部が騒いでいるのは、その出自とタイミングだ」
「シャーロット博士が設計した兵器を日本支部で完成させて投入したのが気に食わない、と?」
「・・・」
契の発言に首肯する事で答える駒門。その表情は心底疲れきっている顔だった。そして、駒門と契のやり取りを聞いた他の隊員達も呆れていたり僅かに怒りを滲ませたりと、各々少なからず感情が発露している。
「・・・くだらん」
「そう言うな鶴千。此方としてもセブンガーの調整が出来る良い機会だ」
「もうひとつ良いですかー?出自の方は分かりましたけど、タイミングっていうのは?」
「ドイツ、というより欧州でもセイバーに代わる新型の開発を進めていたらしくてな」
「いざ御披露目しようとした所にオーストラリアと日本の共同でセブンガーが完成し、メンツを潰されたと逆上ですか」
「・・・有り体に言えばそうなる」
「完全に逆恨みと八つ当たりじゃないですか!」
あまりにも子供じみた理由に、契をはじめとする半分は心の底から呆れて溜め息を吐き、太刀薙をはじめとするもう半分はそんな理由で公的に日本支部を叩こうとするドイツに怒り心頭といった様子だ。
そして上層部と現場に見事に挟まれた駒門は胃痛を感じ始めていた。
「もう一つ確認を」
「何だ・・・?」
「大学での事件でドイツ支部のセイバー隊が動いていましたが、演習の相手はその時の部隊ですか?」
「いや、リーゼロッテ隊は新型を運用する部隊の支援と案内の為に前乗りしてきただけだ。恐らく・・・実質的な休暇だろうな」
「本当に何をしに来たんだあの女は・・・」
契は軽い頭痛を感じて目頭を指で押さえていた。
◆◇◆
「っ、へくちっ」
『どうしたのリズ。風邪?』
「きっとこのリーゼロッテ様を誰かが褒め称えているのよ!」
『その前向き思考だけは見習いたいわね・・・』
BURK日本支部基地内、外部の隊員に貸し出されている部屋で可愛らしいくしゃみをする少女が一人。ブリーフィングルームで何度も話題に出されているとは知る由も無いリーゼロッテである。そして、姿は無いものの個室に響くもう一人分の声。リーゼロッテが持つ端末から発せられているのは、彼女よりも少しだけ年上の女性の声だ。
「ふふん。思考だけじゃなくて、腕前も見習って良いのよ?ま、この天才パイロットであるリーゼロッテ様の操縦を真似できるならの話だけれど!」
『あぁ、うん。とりあえず元気なのは分かった。無駄に』
「無駄とは失礼ね!?・・・んんっ、それで?そっちの到着は予定通り?」
『えぇ。隊長もリナも、機体にも問題は無いわ』
「それは良かったわ。ロートシルト隊長まで来るとは思わなかったけれど・・・」
『リズ、本当に隊長が苦手よね』
仕方ないじゃない!と赤くなるリーゼロッテ、まだまだ子供ね、と追加でリーゼロッテをからかう通信相手の女性隊員。何を隠そう、リーゼロッテをリズと愛称で呼ぶ通信相手こそ、契達が話していたBURKドイツ支部の演習相手なのだ。
「んっんんっ!それで?勝てそうかしら、新型の方は」
『当然、勝つつもりだけど。珍しいわね?あなたが勝敗を確信しないなんて』
「私と同じ外星調査に選抜されたメンバーが出てくるだろうし、仮にも怪獣被害頻発国の隊員だし・・・あっ」
『・・・良いのよ、気にしないで』
失言に気付き、普段の傲岸不遜さは鳴りを潜めて気まずそうにするリーゼロッテ。相手も一瞬だけ表情を曇らせるが、直ぐに調子を取り戻す。ちょっとやそっとの事では壊れない、確かな絆で結ばれているようだ。
「当日を楽しみにしているわ!少し見ない間に腕を鈍らせていたら承知しないから!」
『ご期待に沿えるよう頑張りますよ、お嬢様?』
冗談を交えつつ、演習当日に向けて闘志を燃やす通信相手の女性。親友同士の通信は和やかに終了したのだった。
◆◇◆
暗く、暗く。
深く、深く。
落ちる、落ちる。
伸びてきたそれが私を。
私を───
◇◆◇
「っ!はっ!」
リクライニングシートから飛び出すかのような勢いで身体が跳ねる。嫌な汗で全身が濡れ、体を預けていたシートにもいくらか染み込んでいる。リーゼロッテとの通信を終え、少し経ったくらいで寝落ちしてしまったようだ。
「また・・・いや、いつもより酷い・・・」
いつからか見るようになっていた悪夢。形容しがたい何かに捕まり、暗く底の見えない深淵に連れていかれる悪夢。評判の良い医者にかかっても、少しアングラな所で診察してもらっても、何をしても改善の兆候すら見せない厄介な悪夢。
掛けていた毛布を鬱陶しげに剥がし、僅かにブラインドを開いて外を眺める。夜の帳が下りた空では、月の光だけが光源となっている。そして、雲の下には全てを呑み込んでしまいそうな海が広がっている事だろう。
「だから、海は嫌いなのよ・・・」
輸送機の個室で、今は見えない海を忌々しげに睨みながら呟く女性の名は【ミア・ヴォルフ】。BURKドイツ支部所属のパイロットである。
◆◇◆
「何で俺なんだよ・・・」
「現状、セブンガーの性能を完璧に活かせるのがお前だから、としか言いようが無いな」
日本支部基地の格納庫で話し込む二人の男。片方は契、もう片方は分かりやすく「変人」であると伝わる着ぐるみを着ている。
「お前が乗れば良いだろ?」
「残念ながら、俺はGホークで出る。それに、人型より戦闘機の方が性に合ってるんでな」
「はぁ・・・ったく・・・」
古代怪獣ゴモラを模した着ぐるみを着込み、盛大なため息を吐いたのは「荒島 真己」。BURK日本支部の男性隊員にして、契と同じく外星調査にも選抜されたエリートの一人である。
ちなみに年齢は25歳と契より五つも上なのだが、契はその辺りを全く気にせずいつもの調子で話す。下に見ている訳ではなく、同じ戦場を駆け抜けた同僚に敬語というのもな、と良くも悪くも存在する仲間意識から来ているのだ。それに加えて五歳差など誤差、という戦闘関連以外は割と雑な契の感性も原因だったりするが。
「それにリーゼロッテも来ているしな」
「・・・それが?」
「カッコつけるチャンスだろう」
「そういう関係じゃねぇし!」
「何にせよセブンガーは任せる。可能な限り援護してやるから一分で片付けろ、出来るだろう?お前なら」
「歳上使いが荒いんだよ・・・」
リーゼロッテと荒島のどことなく微妙な関係は契も知るところである。発破を掛ければ乗ってくるし、口では何だかんだ言いながらセブンガーに愛着があるのも知っている。そしてそういう男だからこそ、背中を預け合うのも悪くないと思えるのだ。絶対に本人には言わないが。
▲▽▲▽▲▽
「隊長が居ない?」
「あぁ、通信にも出ないんだ。その様子だと鶴千も知らないか・・・」
格納庫での語らいから三日後。前日に自衛隊と各国の軍隊との合同演習が終了し、残すはBURK日本支部と各国支部の演習となった当日。広大な演習場として確保された山間部でドイツ支部の到着を待っている契達だったが、隊長である弘原海が見当たらないらしい。
「何処に行ったんだ・・・?」
「演習に難色を示してはいたが、さすがにサボる程ではないでしょう」
「とはいえ予定時刻は迫っている・・・やむを得ん。太刀薙」
「はい?」
「代わりにType-Bに乗れ」
ギリギリまで待ってはみるが、弘原海の代わりに太刀薙隊員をコ・パイロットとして乗せる方針に切り替えるようだ。これで日本支部隊の編成は、Gホーク Type-Aに契、Gホーク Type-Bに駒門と太刀薙、セブンガーに荒島となる。後はドイツ支部隊の到着を待つのみとなった。
その瞬間───
「警報だと?」
「こんな時にか・・・!状況は?」
『神戸港沖合に水棲と思われる怪獣出現。現地で迎撃が開始されましたが、怪獣の侵攻を止めるには至っていません。BURKにも出動要請が出ました』
「了解、聞いた通りだ!演習は中止!神戸港へと向かう!鶴千、太刀薙両名は私と共にGホークで先行、荒島隊員はセブンガーのブースター装着が完了次第現地に向かえ!」
「「了解」です!」
『了解しましたー』
「出撃する!」
◇◆◇
「・・・」
『どうしましたー?鶴千センパーイ』
「過去にウルトラ警備隊が神戸港でロボットを迎え撃ったらしくてな、今回はこちらがロボットを出すという状況になったのか、と思っただけだ」
『あー、ドキュメントUGです?私も見ましたよ~。確かキングジョーでしたっけ』
「キングジョー、か・・・」
かつてウルトラセブンを追い詰め、ウルトラ警備隊との連携すら破りかけた宇宙ロボット キングジョー。契と太刀薙の言う通り、BURKが向かっている神戸港でセブンと激闘を繰り広げ、当時の科学者が完成させた新型爆弾で大破したという記録が残っている。
だが、契が若干のセンチメンタルに浸っているのは神戸港を破壊しようとしたキングジョーではない。甦った記憶の中に色濃く残る、謎の多いホピスのキングジョーだ。あの星のキングジョーが何を目的として起動したのか、何の為に駆け付けたウルトラマン達に向かってきたのか、契は憶測でしか語れない。正解を知る者は既に消え、キングジョーも自分達が倒したのだから。
『お喋りはそこまでだ。見えてきたぞ・・・!』
『了解!・・・何あれ』
「アレもどこかで・・・」
駒門の言葉で現実に引き戻される契。Gホークが捉えた怪獣の姿に契は既視感を抱いていた。
「蛸、か?」
『えーっと・・・あっ、これ!ドキュメントUGM!』
「っ、ダロンか!」
タコ怪獣ダロン。「とある理由」で普通の蛸が怪獣となり巨大化したもの。かつてウルトラマン80と戦闘を行っており、UGMのデータにその存在が残されている。複数の触手で敵を締め上げ、高圧電流を流す能力を身に付けている。他にもエイティの光線を受けても怯まないなど面倒な性質を持っているが、防衛組織の隊員としては「怪獣化した原因」の方も危険視しなければならない。
「まさか、またギマイラが現れたのか?」
『だとしたら相当ヤバいですよ!』
吸血怪獣ギマイラ。ダロンともう一体の怪獣を従える凶悪な宇宙怪獣。こちらも、かつてはウルトラマンを追い詰めた強豪として登録されており、その厄介かつ残酷な能力には最大限の警戒を払う必要がある。
それは「生物を怪獣化させる」という能力。ダロンを蛸からタコ怪獣へと変異させ、従えていた「もう一体」は何と元人間だという。
『推測は後だ!今はダロンの侵攻を阻止する!』
『了解です!』
「了解、仕掛けます!」
隊長が居ない事とギマイラの存在。二つの点が線で結ばれ、最悪の結末として脳裏を過るが、今はダロンの神戸上陸を阻止しなければならない。駒門の号令で攻撃を開始する契のGホーク Type-A。それに続いて駒門と太刀薙のType-Bも戦闘機動に移った。
「こっちを見ろ!」
Type-Aの機動性を活かしてダロンに強襲を掛ける契。セイバーの物より洗練された最新型のレーザー機銃がダロンの胴体に狙いを定める。
───シュルルルァァァッ!
陸上での活動も可能となったダロンだが、基本的には巨大な蛸であり遠距離への攻撃手段を持たない。高圧電流による攻撃もするらしいが、それも触手を巻き付けた相手にしか使えない。つまり捕まらなければ良いのだ。
「太刀薙!」
『ハイハイ!センパイばっか見すぎだよぉ!』
『発射!』
伸ばしてきた触手を掻い潜り、ダロンの背後に抜けた契のType-A。それを追ってダロンも振り向くが、がら空きになった背中をType-Bが狙っていた。連射性能を落とした代わりに一撃の火力が大幅に上昇している粒子ビーム砲が光を放ち、ダロンに大きなダメージを与えた。
───キャシャアァァァ!?
「まだ終わりじゃない!」
Type-Bに触手を伸ばした隙を逃さず、旋回から切り返してきた契のType-Aが追撃を行う。機銃からぶつ切りのレーザーを高速連射しつつ、機首部の単発式ビーム砲がダロンの頭部を狙い撃つ。
「チッ、さすがにタフだな・・・!」
『もう一度こちらのビームを命中させられれば!』
『なら俺に任せな!』
「っ、来たか」
『遅いですよ!荒島センパイ!』
[BURKセブンガー着陸します。ご注意ください]
警告アナウンスと共に着陸態勢を取ったドラム缶のお化け、もとい鋼鉄の巨人。着地と同時に長距離展開ブースターをパージし、パイロットの言葉と同じく「任せて!」とでも言いたげに両腕を振り上げる。
BURKの新たな切り札、BURKセブンガーが現着したのであった。
『っしゃあ!防水加工もバッチリ決まってるからな!行くぜタコ野郎ォッ!』
「張り切り過ぎて転ぶなよ」
『転ばねぇよ!お袋かお前は!』
「いくら防水加工済みとはいえ精密機器の塊だからな、セブンガーは」
『俺の心配じゃねぇのかよ!』
などと漫才をしながらダロン目掛けてダッシュするセブンガー。荒島の言う通り完璧に防水されているらしく、派手に水飛沫を上げながら入水しても機能不全を起こす気配が無い。ドタドタバシャバシャとGホークよりも騒がしいセブンガーに気付き、迎撃する構えを見せるダロン。先手を取ったのは触手のリーチが長いダロンだ。
『そっちから来てくれるなら!』
───キュゥアッ!?!!?
『オラァッ!』
セブンガーの腕に触手を絡ませるダロンだが、セブンガーのパワーを甘く見ていたようだ。締め上げて潰そうとしたのが災いし、逆に引っ張られてしまうダロン。電流で攻撃しようとするも遅く、強烈な左ストレートを顔面に受け、もんどり打って海面に叩き付けられた。
『見たか!セブンガーのパワー!』
「Type-Bの攻撃で撃破する手筈だと言ったろうが・・・水中に逃がしてどうする」
『あっ』
「こちらの射撃で追い立てる。今度は放すなよ」
『タコの掴み取り、ファイトですよ荒島センパイ!』
『おうよ!』
『待て!これは───』
このまま仕留められそうな雰囲気だったが、駒門の声が弛緩した空気を霧散させた。Type-Bの索敵システムが、BURK機とダロン以外の何かを捉えたのだ。共有された情報を確認した契は驚愕に目を見開く。
「周辺は封鎖したんじゃないのか!」
『公的な船舶と航空機は止めてますよ!多分、個人所有の船です!』
「どこの馬鹿だ!クソッ!」
空域・海域は封鎖しているにも関わらず、危険域に入り込んでいる船が一艘。直ぐにでも退避させるべきだが、あろうことかダロンがその船の方向に移動を始めてしまった。
『飛べ荒島!ダロンはこちらが全力で止める!』
『わーってるよ!』
『鶴千!』
「了解!」
船を守るべく全力でブースターを噴かすセブンガー。少しでもダロンの注意を逸らすべく集中砲火を掛けるGホーク。だがダロンは止まらず船舶への突撃を止めない。たかが個人用ボート一艘の何がダロンの琴線に触れたというのだろうか。
『こうした方が早いってなァ!』
ボートを庇える位置ではなく、ダロンの進路に先回りする形でセブンガーを着水、もとい急降下させる荒島。強烈なストンプによって先を塞がれ、さすがに排除せざるを得ないと判断したのだろう。ダロンが再び身体を起こし、セブンガーに向き合って威嚇する。
「無茶をする・・・!活動限界は!」
『改良して伸ばしたってのに!あと25秒だ!』
「チッ・・・!何としても───」
【射線上から退避されたし】
「ッ!荒島!船を守れ!」
『あぁ?』
セブンガーの活動限界が来る前に仕留めようとした契だが、次の瞬間Gホークに警告が届く。それと同時に高エネルギーを感知し、アラートを鳴らすGホークのシステム。咄嗟に荒島へ伝えられたのが幸いか。
彼方が瞬き、光の奔流がダロンを呑み込んだ。
「くっ・・・!」
『うおぉあぁ!?』
Type-Bの方にも警告は届いていたらしく、ほぼ同時に退避行動を取ったGホーク両機。荒島も危険を感じ取ったのか、セブンガーを障壁として船を余波と熱から守っている。
『ちょっ、今の何ですか!?私達が居るのに!』
『どうやらアレが撃ったようだな・・・』
Gホークのシステムで大型の機影を捉えた駒門。その姿を見せつけるように、徐々に近付いてきた機体を目視した契。
「ドイツの新型か・・・」
神戸港を騒がせた事件は、異国の翼が終結させたのだった。
▽▲▽▲▽▲
「BURKドイツ支部、ツェルベルス隊隊長のアルベルタ・フォン・ロートシルトだ。私の部隊が演習の相手を務めさせてもらう」
「同じくツェルベルス隊所属のカタリーナ・シュミットです~。よろしくお願いしますねぇ」
ダロン撃破から一時間。BURK日本支部基地の格納庫に、普段は見かけない女性隊員と大型戦闘機の姿があった。
漆黒のロングストレートヘアを今は適当なポニーテールにまとめ、スラリとした体型と痛々しい顔の傷跡を堂々と晒している「アルベルタ・フォン・ロートシルト」。
クリーム色のくせ毛をショートボブのように揃え、アルベルタとは対照的に若干ふっくらとしている眼鏡を掛けた女性「カタリーナ・シュミット」。
そして、そんな二人がたった今降りてきた黒にダークレッドが映える大型戦闘機。それらに遅れて輸送機で到着した整備士ら等を加えたのが、日本支部との演習に臨むドイツ支部の部隊である。
「日本支部の駒門です。今回はよろしくお願いします」
「うむ。確か君は副官だったか?ワダツミ隊長はどこだろうか」
「それが・・・行方不明、でして」
「何?」
これから戦う相手にこんな事を言って良いのだろうか、と悩む駒門だが事実は事実。本来ロートシルトに挨拶するのは弘原海であり、駒門はポジションこそ副官に近いものの実働部隊の一隊員でしかない。そして行き先や目的も告げられていない為に行方不明としか説明できないのが現実だ。
「ふむ・・・こちらも上層部に確認してみるとしよう。演習を前に姿をくらます人物とも思えんしな」
「あ、ありがとうございます・・・」
「何だ?意外か?」
「え、えぇ・・・その」
「ふふっ、そう畏まるな。今回の演習は、完全にドイツ支部のお偉方がポーズの為に始めた事だ。私個人としては君達日本支部の隊員に思う所は無い。むしろ、この演習で学ばせてもらいたいと思っているよ。幾度と無くウルトラマンと共闘した日本の防衛チームの力を、ね」
「ロートシルト隊長・・・」
「それに、こちらの隊員も日本支部には興味があるらしくてな?なぁシュミット・・・シュミット?」
少なくとも現場レベルでのイザコザは回避できそうだ、とロートシルトの人となりに感心している駒門。そして日本支部に興味津々だという部下を呼ぶロートシルトだが、当のカタリーナは控えていたロートシルトの後ろから姿を消している。視界に捉えていたはずの駒門も、いつの間にか居なくなっていたカタリーナを探す。
「このセイバー!一見は通常仕様ですが改良していますねぇ!詳細を教えていただけたりは!」
「い、いや・・・あのぉ・・・」
「あれは・・・」
「まったく・・・」
ドイツの新型近くから、いつの間にやら日本支部の隊員が搭乗するセイバーの前に移動していたカタリーナ。そのセイバーを整備していたスタッフに詰め寄り、個人の癖に合わせたカスタマイズの詳細を聞こうと鼻息を荒くしている。そしてその整備士はカタリーナの荒ぶる熱意を間近で受け、ドン引きしていた。
「すまんな・・・シュミットは見ての通り機械好きなんだ。度を越した」
「そのようですね・・・」
「駒門さん」
そこに加わったのは契。Type-Aの帰還とセブンガーの回収を終わらせ、機体搭乗時の装備から着替えずにそのまま来たようだ。ロートシルトと新型に向ける視線が厳しい所からするに、先程ダロンを撃破した兵器についての文句だろうか。駒門はまた胃痛を感じていた。
「君は?」
「日本支部の鶴千です。ちょうど良かった、一つ確認したい事があります。ドイツ支部ツェルベルス隊隊長」
十中八九そうだ、と察した駒門。胃痛に加えて頭痛まで併発したような気がする。
「あの場には民間の船舶がまだ居ました。それの退避を待たず、その新型の高出力武装を使用した判断についてお聞かせ願いたい」
「直撃誤射しなければ被害は無いと判断した。それに、防御力に優れた例のセブンガーも居たしな」
「性急過ぎたのでは、と聞いているのですが」
「守りながらでは逆に被害が出るからだよ。あの場合では一刻も早い撃破が求められる」
「ですから!」
「随分とお優しくなったみたいね?」
突如、別の声が響く。契でなければロートシルトでもなく、駒門やカタリーナでもない。ましてやセブンガーが巻き込まれかけたと文句を言いにきた荒島でもない。その声の主は、新型のコックピットから降りてきた。
「腑抜けた、とも言えるかしら」
「ヴォルフ。ツルセ隊員は人命救助の重要性について話している。彼の考えも間違いではない」
「・・・実愛、なのか?」
「久しぶりね、ケイ。あなたなら隊長の判断に賛同してくれると思ったんだけど。残念だわ」
ロートシルトと二人の部下が搭乗し、三名で運用されるドイツ支部開発の新型。「BURKケルベロス」から降りてきた最後のパイロット、「ミア・ヴォルフ」。その顔に見覚えのあった契。この二人の因縁は五年前に途絶え、そして今再び交わりつつあった。
【ミア・ヴォルフ】
BURKドイツ支部の女性隊員。20歳。
契と何かしらの因縁を持つパイロット。
うなじを隠す程度の長さの銀髪を靡かせるクールビューティー。同じドイツ支部の隊員であるリーゼロッテとは親友であり、リズと愛称で呼ぶ仲。
【カタリーナ・シュミット】
ドイツ支部の女性隊員。19歳。ミアと同じくケルベロスのパイロット。元は開発局に勤めていた技術者であり、現場に出たい!という素直な欲望から整備班に転向。更にロートシルトによって引き抜かれ、パイロットに転向したという経歴を持つ。
その熱量で周囲をドン引きさせるメカ好き。日本支部との演習には「噂のセブンガーを見れる」という理由で乗り気だった。
【アルベルタ・フォン・ロートシルト】
ドイツ支部実働部隊隊長。28歳。新型を運用するツェルベルス隊の隊長も兼任。日本支部の弘原海と似たようなポジションに就いており、パイロットとしての腕前もトップクラス。だが弘原海と違って熱くなりづらく、周囲からは冷徹な女と見られる事も多いが、平時は気さくな方。
周囲からの印象と実際に話した際の掴み所の無さ、そして同じ良家の出身という事もあってか、リーゼロッテは苦手意識を抱いている模様。
【BURKケルベロス】
ドイツ支部が開発を主導した新型戦闘機。
試作機のテストパイロットを務めていたロートシルト隊に制式型一号機が配備され、そのカラーリングは黒にダークレッド。日本支部隊の攻撃で弱っていたとはいえ、ダロンを一撃で粉砕する高火力装備を持つ。
メインパイロット一名とサブパイロット二名の計三名で運用されるが、一応一人乗りも可能。
【荒島 真己】
(原作:オリーブドラブ様
原案:平均以下のクソザコ野郎様)
BURK日本支部所属の男性隊員。駒門をはじめとする一部女性の色気や芳香が苦手、という理由で怪獣をモデルにした着ぐるみで基地内を移動するという奇人。
オーストラリア支部のシャーロット博士が発案したセブンガーを恩師である叶隊員と共に製作し、製作期間半年の予定から2ヶ月に短縮して作り上げた天才でもある。
【BURKセブンガー】(原作:オリーブドラブ様)
BURK日本支部とオーストラリア支部が共同で開発した新型兵器。ドラム缶のような寸胴体型にタレ目のようなメインカメラが特徴。カラーリングは、かつてウルトラアキレスの前に活躍したウルトラマンカイナを模した赤と白。活動時間は1分だが、今回のダロン戦の前に改良されており1分30秒にまで延長されている。
ストレイジのセブンガーが装備している硬芯鉄拳弾をはじめとした武装は持たず、そのパワーとタフネスで肉弾戦を行うレオ版に近い仕様となっている。