命を照らす者 ~ウルトラマンメディス~   作:X2愛好家

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恐怖と絶望を糧として


招く者、拒む者【中編】

好き、とは違う感情だった。視界に映ると目で追うくらいには気になる男の子、って感じの。それを一目惚れって言うんだよ~とリナは言うけれど、正直違うと断言できる。恋愛というより同族意識に近いモノだったから。

 

「俺は契。鶴千 契、よろしくな」

 

初めて会ったのは14歳の時。私がまだ日本に住んでいた頃に偶然出会った。当時の防衛組織はお飾りも良い所で、今のようにセイバーのような安定した性能の量産機やケルベロスのような新型も無い、税金泥棒と呼ばれても仕方ない軍隊モドキだった。

 

「お前も、だよな」

 

でも、そんな事なんてお構い無しに怪獣は現れる。平和ボケした人類に自らの存在を刻み込むように、自分達だけの豊かさを享受しようとした人類を裁くように。もちろん、その頻度は今と比べ物にならないくらい少ない。

 

「その・・・何だ、辛いよな」

 

それでも被害が出ない訳じゃない。私は怪獣に父さんを殺された。私だけじゃない、他にも家を壊されて行き場を失った人や私と同じように家族を殺された人も居る。契はその中の一人だった。聞けばお姉さんを目の前で食い殺されたらしい。

 

「月並みな言葉だけど、お互いに頑張ろう。残された俺達は、前を向くしか出来ないんだ」

 

私と同い年なのに、強い子だなと思った。普通、目の前で身内を食われればトラウマになるのは確実だ。なのにケイは泣く事も怯える事もせず、ただひたすら前を向こうとしている。人によっては身内の死を無視する冷たい奴だ、と取るだろう。けどケイは違うと知っている。

 

「俺は防衛組織に入る。たとえお飾りだとしても、怪獣を見付けて殺すのに一番手っ取り早い位置に行ける」

 

涙も恐怖も、全て怒りに変えて燃やし尽くす。それが私の知るケイだ。現に復讐を原点としながら、外星調査のメンバーとして選抜されるまでに到っている。立ち塞がる全てを討つ鬼神。その過程で何を犠牲にしてでも敵を倒すのがツルセ ケイという男だと───

 

「あの場には民間の船舶がまだ居ました。それの退避を待たず、その新型の高出力武装を使用した判断についてお聞かせ願いたい」

 

思っていたのに。

 

「随分とお優しくなったみたいね?」

 

なら私が代わってあげる。

 

「・・・実愛、なのか?」

 

もう奪われるだけの【灰幸 実愛】は居ない。ここに立っているのは【ミア・ヴォルフ】なの。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

カツカツと靴音を響かせながら日本支部基地の廊下を歩く女性。パイロットスーツから制服に着替えたミアだ。日本支部と合同で当たる事になった件のブリーフィングまで僅かな休息が与えられたのだ。ロートシルトが配慮したのか、親友のリズことリーゼロッテと同室であり、今はその部屋に向かっている所らしい。

 

「・・・っと」

「むっ」

 

格納庫で契と再会し、確執を生んでしまったのを多少は気にしているミア。苛立ちが歩き方に表れ、やや早足になっている。その矢先、曲がり角で誰かにぶつかりかけてしまう。ギリギリの所で互いに気付き、衝突は避けられたが。

 

「女の子・・・?」

「?」

 

白髪に赤い瞳。服装こそ年相応の少女らしい水色のワンピースだが、纏う雰囲気は何処か人間離れした不思議なモノだった。ミアを見上げながら可愛らしく小首を傾げる少女の名はムム。現在BURK日本支部基地で保護されている異星人の子供だ。

 

「怪我は無い?」

「ん、げんき」

「そう」

 

「ムムー?」

 

「ママ!」

 

そういえば日本支部に異星人の親子が保護されたのだったか、とミアが記憶を探り当てたのとムムを呼ぶ声が聞こえたのは同時だった。自身を呼ぶ声に反応し、トテトテと声の主の元へと駆けていくムム。その先にはムムと同じく青と水色を基調とした地球製の衣服を纏う女性が居た。

 

「───、──?」

「──!」

 

血縁関係である事がよく分かるムムと女性。ミアが聞いた事のない言語で楽しそうに会話をしている。

 

(親子、か)

 

ほんの僅かに黒い感情が沸き上がる。自分は怪獣と異星人に家族を奪われたのに、この異星人は地球人に守られて今を生きている。目の前の親子がミアの家族を殺した訳ではないと理解は出来ている。そういう物だと受け入れる術も磨いてきた。そして、被害者だったこの親子に地球から出ていけ、さもなくば死ねと言うほど落ちぶれてもいない。あくまでミアが討ちたいのは、人にとって害となる怪獣しかり異星人なのだ。

 

「───。あの」

「っ、何か?」

「ムムがご迷惑をおかけしていないかと・・・」

 

母親らしき女性が不安げな表情で問いかける。随分と流暢に話すものだ。恐らく相当必死に学んだのだろう。

 

「いや、特には」

「そうですか」

「───!」

 

ホッと胸を撫で下ろす女性。ムムと呼ばれた少女が不満を露にしながら女性に抱き着いた辺り、ほら迷惑なんて掛けてないでしょ?とでも言ったのだろうか。

 

「では、これで」

「はい。頑張ってください」

「ばいばーい」

 

どうにかどす黒く変色しかけていた感情を抑え込み、異星人の親子と別れるミア。これ以上あの場に居れば余計な事を口走ってしまいそうだった。

 

(異星人は・・・敵、なんだ・・・)

 

ミアの胸中は曇天だった。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「日本支部とドイツ支部の合同作戦の指揮を取らせてもらうロートシルトだ。よろしく頼む」

 

ミアとムム親子の邂逅から少し経って。日本支部基地ブリーフィングルームに、日本・ドイツ両国のBURK隊員が集められていた。大型モニターの横に立ち、一応の指揮官となった事を宣言したのはドイツ支部のロートシルト。その逆側には日本支部の駒門が立っている。

 

「今回、合同演習を中止し作戦行動となった理由は一つ。日本支部のワダツミ隊長が行方不明となり、同時に重要な調査が必要となったからだ」

 

そう切り出したロートシルトの言葉に、主に日本支部の面々がざわつき出す。確かに姿が見えなかったが、明確に行方不明と認定されたのが少なからず衝撃だったのだろう。

 

「諸君も知っての通り先程ダロンが出現、ドイツ支部の協力もあってこれを撃破した」

「ダロンは最初の個体が出現して以降、今日に至るまで同種の出現は確認されていなかった。それは誕生の経緯がやや特殊な事に起因する」

 

「ギマイラですねぇ?」

 

駒門とロートシルトの言葉にカタリーナが反応する。そうだ、と返したロートシルトが続きを話し始め、駒門が補足するようにモニターへ情報を映す。

 

「ドキュメントUGMの情報によれば、このギマイラの特殊能力によって変異した蛸がダロンだ。幸い当時のUGMとウルトラマンによって殲滅され、細胞の飛散や遺伝による固有種化もしなかったが」

「そのギマイラが再び現れた可能性が出てきた」

 

今度はドイツ支部の隊員達からも驚きの声が上がる。元々は宇宙怪獣であるギマイラの同種が、いつ地球に飛来していたのだろうか、と。

 

「ワダツミ隊長は、数日前から住人の様子がおかしいという通報のあった集落を調査していた。それがここだ」

 

ロートシルトの説明に合わせて画像を切り替える駒門。映し出されたのは、ギマイラ再出現の可能性を高めるポイント。

 

「潮風島・・・」

 

かつてギマイラとウルトラマン80が激闘を繰り広げた場所、潮風島だった。偶然か、はたまた同種の残り香でも嗅ぎ付けたのか、場所が場所だけに上層部も弘原海のようなベテラン隊員を送り込まざるをえなかったのだろう。そして、ものの見事に蛇を出してしまった。

 

「護衛や観測チームと共に調査を進めており、少なくとも怪獣による被害は無いと判断されかけた所でワダツミ隊長の失踪だ。何かあったと考えるべきだろう」

「それに加え、潮風島の住人も何人か行方不明となっていると報告が上がってきている。ギマイラ再出現の可能性を考え、両支部による合同作戦を展開する」

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「・・・」

『ミアちゃん大丈夫?具合悪いみたいだけど』

「大丈夫よ。ありがと、リナ」

『無理はしないでね?』

 

慌ただしく出撃準備が行われているハンガー。BURKケルベロスのコ・パイロット用操縦席にて、若干顔色の悪いミアを別の操縦席からカタリーナが心配していた。

 

(なんなの、この気持ち悪さ・・・まるで───)

 

あの悪夢を見ている時のようだ。

度々見る正体も原因も不明の悪夢。その悪夢にうなされた時と同じくらいに気分が悪い。本来ならばこのようなコンディションで戦闘機動を取るべきではないのだが、居る可能性の高い宇宙怪獣への憎悪と、契への対抗心がミアをコックピットに導いていた。

 

(大丈夫・・・私ならやれる)

 

『ツェルベルス隊、先行する。遅れるなよ?リーゼロッテ』

『わっ、分かってますー!』

 

BURKケルベロスが飛び立ち、それを追うようにリーゼロッテとその部下が搭乗するBURKセイバーが発進していく。

 

『こちらも出撃する!』

『了解!ヘマしないでよー?オビー』

『そのセリフ、そっくりそのまま返してやるよ。Gホーク Type-B、出ます!』

「無事でいてくれよ・・・Gホーク Type-A、出るぞ」

 

駒門のBURKセイバーが発進し、駒門の代わりに鎚打隊員が操縦を担当する事となったType-Bが続けて出撃する。そして弘原海をはじめとした面々の無事を祈りつつ、契のType-Aが飛翔する。

 

目指すは因縁の場所。魔の怪獣島再びとなるか。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

『間も無く潮風島だ。各員、警戒を厳に』

 

BURK日本・ドイツ両支部の部隊が潮風島へと接近し、ロートシルトが警戒を促した直後。

 

『っ!散開を!』

『狙われてますよぉ!』

 

Type-Bの太刀薙とケルベロスのカタリーナからほぼ同時に警告が飛ぶ。各機が編隊を崩して回避する中、ドイツ支部の一機にしてリーゼロッテの部下が搭乗するセイバーが被弾してしまう。

 

『くっ!よくも!』

『あの怪獣は・・・!』

 

森林地帯に隠れて電撃を放ったのは、ギマイラではない別の怪獣。だが、その姿を視認した一部の隊員達はギマイラの再出現を確信していた。電撃攻撃でセイバーを撃墜した下手人の左手は、鋭い鋏のようになっている。Type-Aのコックピットから確認した契も、苦々しくその名を口にした。

 

「ラブラスか・・・!」

 

【人間怪獣】

その別名を聞けば悍ましさが伝わるだろうか。元が軟体動物だろうと推測できるダロンとは対照的に、哺乳類の面影を感じさせない姿をした怪獣。ギマイラの怪獣化光線により巨大な化物へと変異させられた「元人間」。それがラブラスである。

 

「悪趣味な事をする!」

『全機、攻撃開始』

「っ、待ってください!アレは人間の───」

『元に戻したいなら倒すしかない、あなたも知っているはずよ。ケイ』

 

無慈悲にも聞こえるロートシルトの号令。当時は打つ手が無くとも今の技術なら、と思案する契に対し、明確に冷たい声色で諌めたのはミア。怪獣化光線によって変異させられた者は、死亡する時にしか元に戻れない。その残酷な性質を知っているからこそ、今ならば、殺すしかない、と対立したのだが。

 

『ツルセ隊員、君の言いたい事も分かる。最悪の可能性として、あのラブラスがワダツミ隊長かもしれない』

 

ロートシルトの言葉に駒門が息を呑む。敬愛する上官をこの手で討たなくてはならないかもしれない、という可能性。覚悟はしていたが、実際にその状況になったとしてトリガーを引けるか。

 

『まず動きを止めない事には始まらない。捕獲して試行錯誤するにも、潮風島を探し回るにしても、ラブラスが暴れていてはどちらも不可能だ。それに我々が倒れては意味が無いだろう?』

「・・・了解」

 

さすが叩き上げの隊長というべきか、目の前の状況に焦るしか出来ない自分と違い、その後にまで視野を広げられるロートシルトの冷静さに契も納得するしかない。意を決してType-Aのトリガーに指を掛ける。

 

『再度通達する。全機、攻撃開始!』

 

各機にも開かれていた通信回線で契とロートシルトのやり取りを聞いていた隊員達。悩んでいるだけでは何も始まらない、まず動け、動きながら考えろというロートシルトの言葉に従い、それぞれが行動を開始する。

 

 

◇◆◇

 

 

気分が悪い。

隊長の命令に思う所がある訳じゃない。むしろ、あのラブラスが潮風島を飛び出し、本土や他国にまで攻め入る可能性を考えれば撃破に賛成だ。

 

自分でも分からない。

今回の作戦に何ら不満は無いはずなのに。出撃準備をしている時から悪寒が止まらない。それでも、任されている火器管制は完璧にこなさなければ。もう少し、あと少しでラブラスを仕留められる。悔しいけれど、日本支部の練度とGホークというらしい新型の性能は想像以上に高かった。リズ達の部隊も居るし、このまま押し切れるはずだ。

 

っ、まただ。また背筋に冷たいモノが落ちた。これじゃ本当にあの悪夢だ。言い様の無い悪寒、覚める事のできない悪夢。下手をすれば、助けてと叫んでしまいそうだ。

 

何かが・・・来る・・・?

 

 

◆◇◆

 

 

───ギシャアァァァァァッ!!!

 

「とうとう出てきたか!」

『ギマイラ!できれば居ない方に賭けたかったんだけどな!』

 

ラブラス単独で合同部隊を相手取るのは厳しいと判断したのか、はたまた最初の不意打ちでしか敵を撃墜できていない事に苛立ったのか、遂にその姿を見せた吸血怪獣ギマイラ。一対多はこう捌く、と言わんばかりに吸血怪獣と名付けられた所以である触手状の舌を伸ばす。

 

『回避!』

「チッ!」

 

どのように操っているのか、触手状の舌は分かれた一本一本が生きているようにセイバー、Gホーク、ケルベロスを狙って動く。そこにラブラスの電撃まで加わり、日本支部とドイツ支部のセイバーが一機ずつ撃破されてしまった。

 

「連携・・・いや、統率が取れているというべきか」

 

Type-Aの機動性と自身の技量を存分に活かし、怪獣達の連携攻撃を何とか凌いだ契。同じく被弾を免れた編隊を睨む怪獣にレーザーの銃撃で応えていた矢先。

 

『なっ、なんなのこの数値・・・空間に異常!何かが来ますよぉ!』

 

ケルベロスのカタリーナから警告が飛ぶ。それとほぼ同時にGホークのシステムも、カタリーナの言う空間の異常を捉えた。

 

「何だアレは・・・!まさかヤプールか!?」

 

異次元人ヤプール。かつて地球を防衛していたTACとウルトラマンエースが激闘を繰り広げた、異なる次元からの侵略者。一度はエースによって討たれたらしいが、生き残りか怨念か、その後何度もウルトラ戦士や防衛チームの前に現れては置き土産とも言える「怪獣を超えた怪獣」である【超獣】を繰り出してくる。空間レベルで干渉してくる存在と言えば、で真っ先に思い浮かぶのがヤプールなのだ。

 

そんな傍迷惑な存在が、ギマイラとラブラスに加わったら手に負えなくなる。どう捌くか、はたまたメディスへ変身するか、混沌と化していく戦場の突破口を見出だそうとしていた契だが───

 

『ひっ・・・あ、あぁ・・・いや、やめて・・・来ないでぇ!イヤァァァァ!!!』

『ミアちゃん!?』

『どうしたヴォルフ!くっ!』

 

突如としてケルベロスに異変が起きる。厳密にはパイロットの一人であるミア・ヴォルフに。

 

『ミア!?どうしたのよ!しっかりして!』

「実愛!こちらType-A!ケルベロス、どうした!何があった!」

 

ドイツ支部の戦友でもあるリーゼロッテと旧知の仲である契が状況を確認しようとするが、自分達もギマイラとラブラスの波状攻撃に曝され上手くフォローが出来ない。

 

「ロートシルト隊長!一度撤退を!」

 

『だが!』

 

『間も無くセブンガーが現着します!』

『これは・・・ウルトラアキレスの反応も検知!来てくれたのね!』

 

ツェルベルス隊を下がらせ、日本支部隊とリーゼロッテ隊での作戦続行を進言する契。「奥の手」を使ってでも戦力低下を避けようとするロートシルトだが、長距離展開ブースターの整備が完了したセブンガーが近い事を駒門が伝え、更にType-Bの太刀薙がウルトラアキレスの接近を捉えた。

 

『やむを得ないか・・・ここは任せ───』

 

ロートシルトが一時撤退を決断し、潮風島から離脱する軌道を取った瞬間。

 

【それ】は現れた。

 

「何っ!?」

『ロートシルト隊長!』

 

不気味な「空間の穴」と形容できるそれから複数の触手が伸び、ケルベロスに巻き付いたのだ。ロートシルトの意識が、穴から逸れたほんの一瞬を狙い澄ましたかのように。穴から最も近かったから、という単純な理由だけではない、明確な意思を持っているかのように伸びた触手は、その細い見た目に反した力でケルベロスを穴へと引き摺りこもうとしている。

 

『くっ・・・何て力だ!シュミット!』

『駄目です!完全にパワー負けしてます!』

『あぁ、あぁぁぁ!いやぁ!』

 

「クソッ!」

 

ケルベロスを振り回しながら穴へと戻っていく触手。下手に狙えば誤射しかねない為、援護に動けない。触手の大元を討つしかないと判断した契は、ギマイラの舌触手を強引に振り切り空間の穴へと操縦桿を切る。

 

『ちょっ、鶴千センパイ!?』

『戻れ鶴千!無茶だ!』

 

「ここは任せます!」

 

太刀薙と駒門の声を置き去りにしてワームホールへと突入する契。最後に契の視界に映ったのは、焦ったように手を伸ばすアキレスとセブンガーの姿だった。

 

(ギマイラは任せるぞ嵐真、荒島)

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「っく・・・なっ、何だこれは・・・」

 

永遠に続いているような闇を抜け、突入したワームホールと同じような穴から飛び出した契のType-A。そこで視界に映ったのは、この世の物とは思えない景色だった。無論、悪い意味で。

 

「っ、ケルベロスは!」

 

『ツルセ隊員!?何故───くうっ、すまない!援護を頼めるか!』

 

晴れ間どころか太陽の暖かな気配すら感じられない黒雲に覆われた空の下を、先にワームホールから抜け出ていたらしきケルベロスが飛んでいる。絡み付いた触手に引かれ、どうにか滞空を維持しているだけのようだが。

 

「了解!」

『これは!?巨大な生命反応!何か居ます!』

「本体か!」

 

触手にレーザー機銃の照準を合わせた瞬間、ケルベロスのカタリーナが「生命反応」を捉えた。触手が伸びている先、仄暗い海から顔を出している大きな岩礁の陰。まるでメインディッシュが運ばれてくるのを待っていたかのように、異形がその姿を現した。

 

「なん、だ・・・アレは。怪獣、なのか?」

『何と醜悪な・・・』

 

『ひっ、あぁぁ・・・く、来るなぁ!来ないで!』

 

契とロートシルトが驚愕したのはそのグロテスクな見た目。珊瑚と岩塊に貝類を掛け合わせ、蛸か烏賊のような触腕が生えるように備わり、恐怖に歪んだ人面が叫んでいる顔を複数張り付けたような姿。その人面からケルベロスを拘束している触手を伸ばす怪獣は、醜悪かつ異形としか形容しようがない。

 

そしてその怪獣から少しでも距離を取るように、操縦桿からも手を離し、シートに身体を食い込ませて泣き叫ぶミア。彼女の不調の原因は間違いなく異形の怪獣だろう。

 

『本体を狙え!その方が早い!』

「それでは!」

『ケルちゃんのパワーならまだ抵抗できますよぉ!』

 

戦意喪失してしまったミアの分まで機体制御に奮闘しているカタリーナ。ロートシルトもメインの操縦者として触手に抵抗しつつ、照準が合う一瞬を狙っている。最悪に近しい状況でも諦めない二人を助ける為、契もGホークを異形の怪獣へと向ける。

 

「まずはケルベロスを放してもらう!」

 

レーザー機銃と単発式ビーム砲を一斉射しながら怪獣へ突撃する契。真正面から向かってくるGホークを絡め捕らんと、ケルベロスを捕縛している触手とは別の触手を叫び顔の口から新たに伸ばす怪獣。

 

「っ、おぉぉっ!」

 

───キシェアァァァ!!!

 

ほぼ相討ちの形。触手の大元である口のような部位にレーザーが吸い込まれ、衝撃と痛みでケルベロスの拘束が弛む怪獣。契もGホークを狙った触手は全て回避するも、Gホークの軌道を読み、置くように噴出した黒い霧は躱しきれず被弾してしまう。

 

『ツルセ隊員!』

 

「くっ!まだ、だぁっ!」

 

一見して黒いだけの霧にどんな破壊力があるのか、Gホークの左翼が半ば大破している。岩礁への不時着コースを辿るGホークのコックピットで、契はジョーカーを切った。

 

 

◇◆◇

 

 

「っうぅ・・・ひっ・・・」

 

ようやく自由を取り戻したケルベロスのコックピットで、未だ恐怖に囚われ踞るミア。そんな彼女の耳にロートシルトとカタリーナの驚いたような声が僅かに届く。

 

『ウルトラマン・・・?』

『えっ、えぇっ!?ツルセ隊員のGホークから・・・どういう事ですかぁ!』

 

「・・・け、い?」

 

闇に覆われた異形の海に、一筋の光が差す。

 

 

◆◇◆

 

 

『・・・ハッ』

 

ケルベロスを一瞥し、正面の怪獣に視線を向けるメディス。睨み合いは一瞬、ファイティングポーズを取り駆け出すメディスと悍ましい叫び声を上げながらそれを追う怪獣。

 

『シュアッ!ダアッ!』

 

先手を取ったのはメディス。触手に捕まる訳にはいかないと、怪獣を中心として円を描きながら走り、光弾を左手右手と連射する。

 

───ギアァァァッ!

 

(硬いな・・・!)

 

放った光弾は全て命中するも、ダメージが命に届いている様子が全く無い。触手は比較的軟らかいようだが、死んだ珊瑚礁と岩塊のような本体の硬度は高く、光弾程度では怯ませるのがせいぜいらしい。

 

(なら至近距離で!)

『シェアァァッ!』

 

ならば接近戦だと怪獣へ向かっていくメディス。その左手からやや小型のバリアを発生させ、右手にはウルトラスラッシュをアイドリングさせるように留めている。怪獣も、そう易々と接近させるつもりは無いのか触手を伸ばしてメディスを迎撃する構えだ。

 

(今だ!)

『ハッ!』

 

上半身はバリアによって守られており、触手は伸びた先から弾かれ逸れていく。となると狙えるのは下半身、足元なのだが、それこそ契が狙っていた行動。新たに伸びてきた触手と、弾かれてなお背後から迫る触手が一ヶ所に集中した瞬間、メディスが飛ぶ。

 

『デェヤァァァァッ!!!』

 

────ギェアァッ!?

 

足元に集中した触手を跳躍によって回避し、右手に留めていたウルトラスラッシュを放つ。さすがに切断特化の光刃は無力化できず、悲鳴のような声を上げながらよろめく怪獣。初めてまともなダメージが通ったようだ。

 

(仕留めるには程遠いか)

 

続く攻め手をどうするか着地しながら思案する契だが、メディスの物ではない光弾が怪獣に着弾しその発射元を振り返る。

 

『援護する!』

『何とかやってみますよぉ』

 

コントロールを取り戻したケルベロスからの援護射撃だ。それを確認したメディスは、即座に怪獣へと視線を戻し再び跳躍。今度は怪獣に向かって跳び、渾身の膝蹴りを見舞う。

 

───グブァッ

 

奇っ怪かつグロテスクな見た目も手伝って内臓器官がどこにあるのか、そもそも内臓が存在するのか不明な怪獣だが、ウルトラスラッシュからケルベロスのビーム、飛び膝蹴りと立て続けに強烈な攻撃を貰い苦悶に呻く。

 

(まだ終わりじゃない!)

『ダァッ!ドゥラァ!』

 

更に追い打ちのボディブローを入れ、コンボ締めとばかりに契お得意のケンカキックを叩き込む。崩れた体勢ではキックの衝撃を殺し切れず、後方に吹き飛びながら転がる怪獣。引き戻す途中だった触手が側を通り過ぎる瞬間それを勢いよく掴み、怪獣を強引に振り回し始めるメディス。

 

(このまま───っ!?)

 

二回、三回と大きく回しもう一度と力を込めようとした時、今まで気付かなかった異変が牙を剥いた。




【灰幸 実愛】
読みは「かいざき みあ」。
元々ドイツ人である母親の血が濃かったミアが、日本に在住していた頃の名前。怪獣被害によって父親が死亡し母親の生まれ故郷に帰化した際、ミアという名はそのままに母親の旧姓である「ヴォルフ」へと改められた。

【ギマイラ】(原作:ウルトラマン80 他)
吸血怪獣。
宇宙から飛来した外来種。吸い込んだ人間の思考能力を低下させる霧を発生させ、自らの支配下におくという能力を持つ。また、最も目を引く特徴的な部位として長く鋭い鼻角が生えている。この角から生物を怪獣化させる光線を放ち、その怪獣化させた個体を操る事ができる。
そしてギマイラを吸血怪獣たらしめているのが、口腔から伸びる触手のような舌。複数に枝分かれした舌を対象に巻き付けて血を啜る他、電流を流す事も可能。
かつてウルトラマン80と激闘を繰り広げ、他の世界・地球でもウルトラマンタイガやトリガーと戦った。

【ラブラス】(原作:ウルトラマン80)
人間怪獣。
その恐ろしい別名の通り、ギマイラによって怪獣化させられてしまった元人間。同じく怪獣化させられたタコが元になっていると分かるダロンとは異なり、人間の面影はほぼ窺えない。片腕が巨大な鋏になっており、これを使った切断攻撃と鋏から放つ電撃を武器として戦う。
かつてエイティと戦闘した個体は、間一髪の所で人の心を取り戻し、ギマイラの攻撃からエイティを庇った事がある。

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