有名NTRゲームのハーレム野郎はハーレム大先生でした。   作:蒼井魚

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12:視点変更

 俺が個……いや、相沢明広(自分)という名前、体、存在を彼に譲渡して2000年。今の年齢と合わせたら西暦とほぼ同い年。その前の自分のそれを足し算したら途方も無い数字が叩き出されるだろう。よくもまあ報われない人生(無駄)を何度も繰り返したものだ。

 だが、ようやく自分が名無し(観測者)になった本当の理由を思い出した。いや? 再確認した。俺が相沢明広を捨てた理由、それは新しい彼に『主人公(プレイヤー)』という化物に屈しない理由を。

 どこにでもいて、どこにもいない。

 第三者(観測者)であり第一人者(行動者)

 次に彼と会えるのは……何百年後になることやら……。

 ――必要なのは情報だ……!

 

 

「っ!? なんだ、これ……」

 

 体が軽くなるような感覚、風邪が治ったような感覚。だけど、後ろに居てくれた本物の相沢大先生()が消えた。それが俺の感情をどの人生よりもかき混ぜてくる。混乱、圧倒的な混乱、俺のことを絶対に捨てないと決めつけていた大先生が……。

 

「……俺と相沢大先生は二人ぼっちだった。俺という存在を唯一理解して、語り合うことは無かったが、それでも」

 

 行かないでほしかった。

 枕を壁に向かって投げつける。心は荒むがこの世界を放棄する理由にはならない。

 まだまだ原作にすら到達できていない。進むんだ。進み続けろ……!

 

「お兄ちゃん? お寝坊になるよ」

 

 心配そうな顔をした妹が入ってくる。投げつけられた枕と冷や汗が流れる顔、それを見て父に報告を入れようとした。

 

「大丈夫だよ、怖い夢を見ただけさ……」

 

 違う、怖い現実を考えた。夢なんかじゃない。

 ――現実。

 

「何時だ……こりゃ、朝ごはん作れないな……」

 

 壁掛け時計を見る。

 いつも朝の五時に起きて朝食の準備をしていたが、自分の体内時計に絶対的な信頼を持ち過ぎたらしい。帰りに目覚まし時計を買う理由が出来てしまった。

 トテトテと小さな足音を響かせて俺の顔を見つめてくるこのみ、覗き込まないでくれ……強がりがバレそうだ……。

 

「お兄ちゃん……わたしは味方だよ……」

「ふふ、可愛い妹め……こうしてやる!」

「えへへ」

 

 心優しい妹を抱きかかえて頭を撫でる。何度も繰り返して愛した妹、最初の世界で救うことは出来なかった。俺は大先生のことを知っている。でも、宝くじを当てるには一回目を犠牲にしなければならなかった。

 二回目は宝くじを当選させ、相沢大先生と同じように彼女を救った。でも、彼女の純潔を救うことは出来なかった……。

 反則だろうが、金も奪って小汚いおっさんに売り渡してはした金すら手に入れようなんて! ……相沢大先生もこの感情に苦しんだ。助言も無し、本当は教えていたのかもしれない。でも、俺に彼の声は聞こえなかった。

 

「パジャマで学校には行けない、着替えるから少しまっててくれ。朝ごはんは……父さんの秘蔵カップ麺だな」

「え!? お父さんが500円なのにいっぱい買ったあの!!」

「しー! 父さんには内緒だぞ」

 

 俺はこの世界の行く末を見届けなければならない。そして、相沢大先生の意思を継ぐ。

 そうだな、俺は相沢明広だが……相沢「()」先生だ……。

 戻ってくるのを待つしかない。どうせ死ねば戻ってくる。彼も俺という存在とワンセット、だから……。

 

「……逃げられると思うなよ、相沢明広(本物)

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