有名NTRゲームのハーレム野郎はハーレム大先生でした。   作:蒼井魚

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7:相沢明広の日記

『次の主人公は彼女達を幸せにしてくれるか』

 

 日記を書く習慣なんて無いのだが今日は喪失感から筆がよく滑る。

 そうだな、一言で表すと俺の人生は悲惨、この文字に限る。

 男を作って父さんに借金押し付けて消えていった母、あと少しで小学一年生になる時だったかな? 一番母親を必要する時期に消えてくれればいいものを顔を覚える歳で捨てていった。

 その後は本当に辛い日々だ。

 父さんが酒浸りになり学校では給食費も払えないでいじめられ、歳を重ねる事に言葉だけじゃなく暴力に切り替わっていく。

 リサイクルショップで買ってもらったランドセルは色が無くなるくらいにボロボロにされて、100円ショップで買ってもらった鉛筆は削っても文字を書けないくらいにへし折られた。

 一度だけヤケになってやり返したこともある。確か小学三年生の時だったかな? その時は本当に酷かった。いじめの主犯格の一番上の兄、それも高校も通わないで半グレやってて、それは凄い凄い。道理だとか仁義なんてない奴らが何十人も集まって俺のことを殴り潰した。アレは子供ながらに恐怖しか覚えなかった。

 学校に行きたくなければ行かなくていいとか言われてるけど、俺の父さんは毎日借金の返済の為に肉体労働、帰れば嫌な気持ちを和らげようと酒を飲む。そんな家に篭もっていたら餓死するだけ、本当に給食だけで食いつないでる状態だ。

 でも、父さんは一度も暴力を使ったことはない。依存症になっても父さんは父親であろうと必死だった。それが逆に悲しかった。俺の血には父さんを地獄に落とした女の血が入ってある。だからいじめっ子と同じように殴ってくれた方が楽だ。

 そうだな、そう、それは確か小学五年生の時だ。結衣とさくらが強姦魔に殺されたんだ。本当に嫌な事件だった。強姦殺人、女の子としての尊厳を奪われて殺される。男の俺からしても嫌悪感が沸々と湧き上がる。まあ、あの時はただのクラスメイト、あの二人はいじめられてる俺を見るだけの存在、考えたくもないが……ざまあみろなんて感情もあったかもしれない。だからかもな、はは。

 その後、いじめの主犯が結衣に恋心を持ってたらしくて殺したのは強姦魔なのに俺が殺したと角材や鉄パイプで袋叩きにされた。何歳も年上の存在に日が昇るまで殴られたから死なないとでも思ったのか普通死ぬくらい殴られた。そして俺の人生はぶっ壊れた。

 脊髄の損傷、俺はその日から体のすべてが動かなくなった。

 もちろん裁判沙汰になり主犯は小学生なのに少年院、それ以外は示談金を払って解決した。でも、俺はもう二足歩行できない存在に。

 示談金の額は借金、闇金の膨大な利子すら返済できるだけのもので、念願の借金生活からは脱却した。代償は大きいものだったが……。

 親父は泣いてたよ、その時は……俺も泣いてたかもな、悔しさでさ……。

 どうにかリハビリのおかげで手は動くようになったんだが、指は一本も動かない。人間って無くなって悔しくなるものなのかもな、その時は本当に思ったよ。

 それからは障害者年金制度で親子二人、借金も無くなって派手なことをしなければ何不自由なく生活できる。幸せというわけではないが……まともな人間らしい暮らしができて嬉しいと思ってた……。

 障害者生活は二十年目に突入、親父ももう少しで六十歳になろうとした日、互いの携帯からけたたましいくらいのJアラートが鳴り響いた。冷戦状態とか言われていたけど、まさか本当に日本がミサイルの標的にされるとは。

 父さんも俺も家から逃げることはしなかった。恥の多い人生をおくってきた。だから、死ぬ時は静かに待つことにした。

 俺は言ったんだけどさ、父さんだけでも逃げてくれって、でも、息子に救われたから一緒に行くと言われた時は三十なのに号泣したね。

 これが俺の最初の人生。

 

 核ミサイルの爆風で死んだと思ってた俺は懐かしい酒臭さで目を覚ましたんだ。驚いて体を起こすと体が自由に動いて一滴も酒を飲まなくなった父さんが酒瓶を抱きしめて泣いていた。

 俺は理解した。これは神様が与えてくれたチャンスだと。小学五年生の頃に戻ってきて正しい親孝行をしなさいってね! それからは頑張ったさ、いじめにも屈せずにひたすらに勉強して、運動もして、そして死ぬ筈だった結衣とさくらも助けて!!

 でも、父さんは死んだ。

 自殺。自分の父親が首を吊る姿なんて見たくなかった。

 その後は孤児院に預けらた。

 孤児院に預けられて、掃除をする時に一枚の古新聞を見つけたんだ。それには宝くじの当選番号が書いていて、もし、また自分が小学生からやり直せるなら――宝くじで父さんを救えるかもしれない。俺は必死にその番号を暗記し続けた。

 ――結衣が誘拐されて殺害されたとテレビで報道されていた。

 それからも俺の住んでいた場所では多くの事件が起きてネットでは魔の領域なんて表現されていた。

 俺は高校生になることもなく中卒で自衛隊に入った。核ミサイルが撃ち込まれるってことは戦争が起きる。戦争には兵士が必要だ。俺は陸自で起こる戦争に備えて訓練の日々を過ごした。

 でも、変わらなかった。

 そりゃそうだ。敵軍の基地に爆弾を落とすのが当たり前だ。俺は訓練をバカにされるように殺された。

 

 三回目の人生、俺は二回目の人生で必死に暗記した数字を思い出して宝くじを買った。このくじさえ当たればお金で父さんが死ぬことはない。そう思って祈り続けた。そして宝くじは一等になり、借金は消えた。

 その後はいじめっ子と戦いながらも結衣とさくらを助けて、誘拐も足を怪我したけどどうにか解決する。これで自分は幸せな人間になれる。

 でも、この人生ではこのみを助けることが出来なかった。俺が宝くじを当てたと知った母が間男を連れて金の工面を申し出たんだ。その時に義妹のこのみもいて、俺と父さんはそれを突っぱねた。すると数日後、一枚のDVDが届いて……思い出したくない……。

 その日、スウェーデンから転校生がやってきた。親の仕事の都合で転校してきたらしいが、母国の言葉しか使えなくてさ、英語もあまり理解してなくてクラスは自然と彼女をハブるようになった。

 俺は必死にスウェーデン語を覚えて日本語を教えたり、逆にスウェーデン語を教えてもらったりと夏休みまでにはなんとか日本語で挨拶くらいなら出来るようになった。

 そして夏休み、8月の中旬に彼女は殺された。

 犯人は見つからず事件は迷宮入り、友達をなくした喪失感は凄いものだったさ! 無力な自分が嫌になった……。

 その後は、

 

 誰一人として失わずすべてを解決した時、俺は西暦と同い年になっていた。

 それでわかったことは一つ、俺はどんなに死のうとしても死ねない。死ぬ時は三十歳、戦争の戦火によるものに限定される。何度か嫌気が差して飛び降り自殺とかやってみたんだが、植物状態でも生きていた。俺は途中でリタイアすることは許されないらしい。

 でも、全員が生きているのだから素晴らしい。俺は誰一人欠かすことがなかった。何度も修羅場を超えて勝利した。

 高校の入学式、何度も世界を繰り返しているが高校で事件が起きることはない。俺はバラ色のスクールライフをエンジョイできる。

 

 おかしい、俺は何一つ失敗することなく彼女達を救った。でも、まるで歪むように世界は戦争へと突き進んでいく。

 結衣が結婚して子供が出来たというのに、彼女と彼の子供が戦火に燃やされることだけは許せない。俺はいつものようにパイロットとして空に上った。

 

 今回はさくらが結婚した。幸せになってくれと思うが戦争は起こった。

 どうして、幸せになったのに世界は狂うのか、それとも、戦争は確定された未来なのか。

 

 今回はこのみが結婚した。あれだけ甘やかした妹が嫁入りすると思うと寂しさが生まれる。このみの幸せな未来を守るために俺は絶対に、

 

 今回は、

 今回は、

 今回は、

 今回は、

 今回は、

 

 俺の前から彼女達は消えていった。一人の男に骨抜きにされたらしい。確かに俺も彼女達を侍らせていたが奴の目はどこか狂気を含ませていた。

 それに、今回に限って父さんがやってるお好み焼き屋が三回目の爆破、引っかかる。

 でも、俺に出来ることはない。

 だが、今回の世界は平和だ。

 戦争が起きるとは思えない。

 俺は戦闘機のパイロットをしている。でも、戦争は起きない。

 ――妹が自殺した。

 腕には薬を何度も使われたのか多くの痣ができており、あの男は薬を使って彼女達の意思を捻じ曲げた。そう、昔からアイツは薄気味悪い顔をしていたんだ。

 また、喪失感に襲われる。

 

 三十一歳の誕生日。

 俺は死ななかった。

 誕生日を迎えたということはループは消えたのだろうか? でも、多くのものを失った。俺には何も残っていない。

 もし、またループすることができるなら……。

 そうだな、アイツに当たる存在は名前も顔も変わる。

 言うならば顔がない主人公だ。

 だから、そうだ。

 次の主人公は彼女達を幸せにしてくれるだろうか、

 俺は彼女達を救う。だから、次の主人公……彼女達を幸せにしてくれよ……。

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